古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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七話 留守にする両親

 ショッピングをしたあと、二人は特に何事もなく家に帰り、みんなで夕御飯を食べ、風呂に入り、各自の部屋で朝まで眠りに就いて一日を終えた。

 

 そして翌日の早朝。

 

 空には朝日が昇りつつあるものの、外の空気は澄んでいて冷たく、身体を動かさないと芯まで冷え込んでしまいそうなほどの寒さだった。

 

 玄関の前で車に乗り海外に旅立とうする両親を見送る草薙三兄弟、昨日はどうでもよさそうに話してたのに意外と情に厚い人達だったようだ。

 

「もう行くのかよ、海外に行くって言ったの昨日だったろ」

 

「言ったろ大和、突然決まった出張なんだ。」

 

「まぁ、たまには連絡とかしてくれよ、多分でないと思うけどな」

 

「こんの親不孝者がぁ~」

 

 武尊の冗談に、笑顔を浮かべながら拳で武尊の頭をグリグリとする父親、その光景は仲睦まじい親子の姿だった。

 

「じゃあ三人共、元気でやれよ」

 

「身体に気を付けなさいね」

 

 車に乗って出発する両親、その後ろから手を振って見送る草薙三兄弟、笑顔を浮かべてる者もいれば、どこか寂しそうな顔を浮かべてる者もいる。

 

 そして車の姿が見えなくなると、草薙三兄弟は手を振るのをやめて、深く深呼吸をした。

 

「さてと、両親がいなくなったことだ。 二人ともさっさと茶の間に来い」

 

 両親がいなくなった途端、次は別件で会議をすると言わんばかりに武尊は弟二人をリビングに誘導しようとする。

 

「なんだよ急に茶の間に来いなんて」

 

 このとき大和は武尊に逆らう気はなく、単に何故リビングに来いと言ったのか気になったからだ。仮に逆らっても返り討ちに合うだけだしな。

 

「これからのゆゆちゃんの事で話し合うんだよ、わかったらさっさと来いよ」

 

 そう言われると、仕方なそうに大和は武尊の言うことを聞く。呼び方はさておき、流石に幽々子のことになると素直になるようだ。

 

 そして三人は話し合いをするために屋敷の中に入り、茶の間へと向かっていった。

 

 

 

 《草薙家・茶の間》

 

 茶の間に到着するや否や、三人はちゃぶ台を囲むように座り、会議が始まる。

 

 最初に口を開いたのは、武尊に対して疑問を抱いていた大和だった。 理由はもちろん、武尊がなぜ幽々子のことに関して説明をしていなかったのに知っているのかだ。

 

「大体何で兄貴がそんなことに首を突っ込むんだよ、俺は兄貴に幽々子さんのことを何も話してないよな?」

 

「安心しろ、昨日和生から全部聞いているからな、機械の操作を教えて貰った次いでに」

 

「和生てめぇ」

 

「俺は他言するなとは言われてなかったからな、それに大兄貴が女のことに関して教えろと言ったから教えただけだ。」

 

 確かに幽々子さんの事に関しては他言するなとは一言も言っていなかった。 それは俺の方に非があると認めざるを得ないであろう。

 

 だが、その説明を聞いた上で幻想郷やら冥界やらを信じたのであろう武尊も武尊だ。 夢想や非現実的なことを信じるなんて、俺も含めてどうかしているとしか言いようがない。

 

「それで? これからどうするよ、幻想郷とやらに行く方法なんて多分誰も知らねぇと思うぞ。」

 

「紅虎さんとか知らないかな?」

 

「まぁ確かに、そもそもあの人の存在自体が神秘的だからな、でも知ってる可能性は無いに等しいかもな。」

 

「そうだとすると探索はかなり困難になるな」

 

 知っている可能性は低いとはいえ、もし頼みの綱である紅虎さんと言う人が幻想郷や冥界の行き方を知らないと言ったら、探索は困難を極まることになる。 

 

 そもそも武尊の言った通り幻想郷と言う場所や冥界の行き来の仕方を知っている者なんて、この世の何処を探してもいないのではないか。 少なくとも大和はそう思っていた。

 

「まぁ急ぎを要する訳でもないんだろ? なら俺達も地道に探索してみてやるよ」

 

「俺達って、俺も入ってるのかよ大兄貴」

 

「何か文句あるか?」

 

「しゃーねぇな、わかったよ、気は乗らんけど」

 

 珍しく自ら助けてくれると言ってくれる武尊と和生、こんなことは滅多にないことだ。しかし大和が出した答えは。

 

「いや、気持ちだけで良いよ兄貴、手伝わなくても構わない」

 

 その言葉にカチンと来たのか、武尊の表情が険しくなり、威圧的な態度へと変貌する。 近くにいた和生や大和もそれを感じ取って、額から冷や汗が流れ出した。

 

「ほう、と言うと?」

 

「俺だけで探して見せる、だから首を突っ込まないでくれ」

 

「随分とでかい口を叩くようになったな、まさか自分一人で解決できるとでも言うのか?」

 

「そもそも俺が持ってきた問題だ。俺に全部任せてくれよ」

 

 そう幽々子さんと約束したのだ。幻想郷、冥界に帰る方法を俺が見つけ出してみせると。

 

 一度した約束を破ることなんて、そんなことはしない。 いや、そんなことは俺のプライドが絶対に許さないと言った方が正しいのか。

 

「わーかったよ、そこまで言うなら俺も和生も何も言わん。 ちょっとばかり手を貸してはやるが、あまり深くは入り込まねぇよ」 

 

 大和の発言と真剣な表情を見て納得したのか、ため息をつきながらも武尊は素直に大和の意見を認めてくれた。 兄弟仲は悪いと思っていたが、武尊が意外と物分かりの良い奴だってことが、今日改めてわかった。

 

「俺も同意件で構わない。 そもそも面倒事に巻き込まれるのはごめんだからな。」

 

 相変わらず率直な返事をしてくる和生、どうやら本当に幽々子のことはもちろん、幻想郷や冥界のことに関して興味がないようだ。

 

 武尊はその場から立ち上がると、何を思ったのかちゃぶ台の前に座っている大和の横に何気なく立ったのだ。

 

「まぁ困難な探索になりそうだけどがんばりな、少なくとも俺は応援してやるからよ」

 

 武尊は笑顔を浮かべながら髪がくしゃくしゃになるよう大雑把に大和の頭を撫で回してくる。こんなことをしてくれた兄貴は初めてだった。

 

 とても珍しい武尊の行動に動揺したのであろう。大和は怒るような気配は見せず、寧ろ戸惑いの色を見せた。

 

「あっ、あぁ……ありがとう。」

 

「それじゃあ話はこれで終わりだ。 お前ら各自好きにして良いぞ。 特に大和、お前はそろそろ稽古の時間だろ?」

 

 時計を見てみると、武尊の言った通り時計の針はもうすぐ午前5時を指そうとしていた。 もうそろそろの話ではなく、完全に稽古の時間だった。

 

 稽古の時間とわかった途端、大和はその場から立ち上がると急いで茶の間から出ていき、ランニングのために外へと出ていった。

 

 大和が慌てる一部始終を見てて可笑しかったのであろう、武尊は急いで茶の間を出ていった大和を見て笑っていた。

 

「はっはっは、あいつもまだまだ未熟だな」

 

「それよりも大兄貴、朝食はどうするんだよ?」

 

 笑っているのも束の間、和生の言葉を聞いてようやく朝食のことを思い出したのであろう。 武尊は思わず真顔になってこう答えた。

 

「やっべ、忘れてた。」

 

 稽古する前に朝食を作ってくれと言っとけば良かったと言わんばかりに、武尊は少し後悔したような表情で悩んでいた。 が、しかし………

 

「まぁ大丈夫だ、俺が作ってやる。 米炊いて、肉とか野菜炒めとけば朝食なんてできるって」

 

「なんと言うか、相変わらずポジティブと言うか、前向きだよな大兄貴は」

 

 あまりにも前向きなうえに、何よりも気持ちの切り替えの早さに、和生は驚くと同時に、呆れたような表情を浮かべる。

 

「それじゃあ作ってくるわ、和生は部屋に戻ってて良いぞ。 作り終えたら呼んでやるから」

 

「何なら朝食作り俺も手伝うよ大兄貴、一人でやるには大変だろうし」

 

「良いよ良いよ、そんな気を使わないで、多分すぐに終わるからさ」

 

 そう言うと武尊は冷や汗を額にかきながら逃げるように茶の間から出ていった。どうやら最悪の事態は免れたようだ。

 

 何故手伝わなくても良いのかと疑問に思っていると言わんばかりに、和生は不思議そうな表情を浮かべながらも素直に自分の部屋に戻る。

 

「ふぅ~ さてと、始めるか」

 

 一息つくと茶の間を出ていき、そして朝食を作るために台所へと向かう武尊であった。

 

 

 

 

《……一方別室では……》

 

 

 草薙兄弟の会議が終わってから二時間後のこと、窓から差し込む光と空腹により幽々子は目を覚ました。

 

「……ん、うぅ……」

 

 昨日、バイキングであれだけ食べ物を食べたのに足りなかったのか、お腹が空いたと言わんばかりに幽々子は自分のお腹を撫でるように手で押さえる。

 

「……お腹空いたわね」

 

 やはり昨日の食べ物だけでは足りなかったのか、お腹が空いたと言わんばかりに幽々子は自分のお腹を撫でるように手で押さえる。

 

 自分が寝ていた布団を綺麗に畳んだ後、寝室として使っていた空き部屋から出ていく。

 

「さてと、大和のところに行きましょ」

 

 昨日のように庭で大和が稽古をしているのだろうと思い、幽々子は中庭へ歩いて向かった。

 

 

《……少女移動中……》

 

 

 

 案の定、中庭に行ってみると大和が木刀を振るって鍛錬をしていた。

 

 鍛錬も終盤に入って身体は十二分に温まっているのだろう、大和は上半身裸になって全身から汗を大量に流している。

 

「朝から精が出るわね」

 

「おはよう幽々子さん、この通り元気いっぱいだよ」

 

 素振りを止めて大和は木刀を片手に身体の汗も拭かず上半身裸で幽々子に近づいていく。

 

 しかし汗から漂う性ホルモンにも似た匂いを嗅ぎ、鍛え込まれた大和の肉体に好意を持ったのだろう、幽々子は顔を赤らめながら大和から目を背け、話を逸してくる。

 

「きっ、気になったんだけど、具体的にどうゆう鍛錬を毎日してるのかしら?」

 

「そうだな、まず念入りに柔軟体操してからマラソン10キロを30分で終わらせて、それから残った時間は木刀で永遠と素振りをするぐらいかな」

 

 近代のトレーニング方があるので幽々子からしてみれば大和が日々行っている鍛錬の凄さがわからないであろう。 しかし、常人からしてみれば一流のアスリートでも無い限りできる日課では無いことは一目瞭然だった。

 

「そんなに身体を鍛えて、大和は武士なのかしら?」

 

「いや、ただの高校生………って言ってもわからないか、学び舎に通うただの小僧だよ」

 

 主のために闘う訳でもなく、況してや武士でも無い大和が誰に言われるわけでもなく日々厳しい鍛錬に励むことに関心を覚えたのだろう。このとき幽々子は素晴らしいと思うと同時に、大和を自分の側近に置いても良いと考えていた。

 

「武士でもないのに毎朝大変ね」

 

「そうだな今日は特に早かった。 何て言ったて両親が海外に出掛けたからな………」

 

 話している最中、大和は何かに気づいた。

 

 両親がいない、と言うことは母親はいない。つまり朝食は作られていない。 料理作れるのは俺だけ、でも俺は鍛練をしていた。

 

「やべぇ、朝食作り忘れた」

 

「どうするのよ!?」

 

 今日の朝御飯を楽しみにしていたのだろう。幽々子は血相を変えて大和に怒った。

 

 今から作るなんて言っても、家には俺と武尊、そして申し訳ないが幽々子さん、三人もの大飯食らいがいるのだ。 

 

 そんな三人を満足させるような大量の料理など、そんな短時間で作ることはできない。

 

 兄弟である兄貴や和生に今日の朝食は無いと言っても別に問題はないが、しかし客人である幽々子さんにそんな失礼なことはできない。

 

 どうにかして颯爽に朝食を作れる方法はないかと大和は必死に考える。 

 

 すると。

 

「おいお前ら、朝飯できたぞー!」

 

 朝食のことを考え、話していると茶の間の方から、朝食ができたと武尊の声が聞こえてきた。

 

 それに対して武尊の呼び声を聞いた大和は驚いたのだろう。 信じられないと言わんばかりの驚愕した表情を浮かべる。

 

「マジかよ、兄貴朝食作れたのか?」

 

 一体どうゆう風の吹き回しなのか、今まで武尊は俺に任せっきりで朝食なんて作ったことなんてなかったのに。

 

 武尊が料理を作ったことに驚いていた大和が気になったのだろう。 幽々子は大和に対して話しかけてくる。

 

「どうしたの大和、驚いた顔をして? 早く行きましょ」

 

「そうだな、取り合えず行ってみようか」

 

 そう言うと大和は上着を着て、木刀を縁側に置いた。

 

 大和は疑心暗鬼になりながらも、二人は朝食を取るために茶の間へと歩いて向かった。

 

 

 

《……移動後……》

 

 

 

 二人は茶の間にやってきた。

 

 茶の間には既に和生や武尊が座っており、早く飯を食べたいと言わんばかりの表情をしていた。

 

 ちゃぶ台の上を見てみると、山盛りの白米、山盛りのキャベツの千切り、味噌汁、焼きサンマ、目玉焼き、塩コショウのみをまぶした肉などの朝食が置かれていた。

 

 その量はともかく、至って普通の朝食だった。

 

「なんだよ、兄貴が作ったのか?」

 

「まぁな、本当はお前に作らせるつもりだったけど稽古してたからな、俺自ら作ってやった。」

 

「普通に旨そうじゃねぇかよ」

 

 昨日と比べてみるとシンプルな献立だが、美味しそうなことに変わりはない。 武尊も武尊だ。 和生とは違って、普通に簡単な料理を作れるのなら俺だけ任せきりにしないで欲しい。

 

 どんな味か知るために、大和はまずは味噌汁を飲んだあと、ご飯やおかずを順々に食べていく。

 

「どうよ味の方は?」

 

「普通にうめぇよ」

 

「まぁ味付けはシンプルだし、特別なこともしてないから当然だよな」

 

 自分の作った料理を旨いと言ってくれたことが余程嬉しかったのか、大和の言葉を聞いて武尊が心底喜んでいるような気がした。

 

「ところで気になったんだけどよ、そのどんぶり飯は一体どうゆうことだ?」

 

 大和や和生、そして幽々子は普通の茶碗を使っているのに対して、武尊だけはラーメンどんぶりに白米を山盛りに盛っている。 その量は尋常ではなく、まるで力士が食べるような量だった。

 

「あぁ、今日は武芸十八種の稽古をやるからな、食える分だけ食わねぇと」

 

「それで足りんのかよ? 稽古するならその三倍は食うだろうが」

 

「もう体重は増やさなくても良いんだよ、必要最低限の食事で十分だ。」

 

 そうは言っても、武尊が摂取する一日の必要最低限の食事はおよそ一万五千キロカロリー以上、それを下回ると筋肉が衰え体重が減ってしまうらしい。

 

 大和も恵まれた体格と異常に発達させた筋肉の持ち主だが、武尊は大和以上に体格が恵まれており、筋肉どころか身体機能そのものが別次元の物だといえる。

 

 大和や和生のことなんて気にもせずに、山盛りのご飯やおかずを頬張る武尊、その食べる速さは凄まじく、数分程度で山盛りに盛ったご飯が無くなる勢いだった。

 

「ねぇ大和、お兄さんって武士なの?」

 

 武芸や鍛錬という言葉が気になったのだろう。幽々子は大和に問い掛けてくる。

 

「うーん?」

 

 それに対して質問に答えることを悩んだのだろう、大和は人差し指で頬をカリカリと掻きながら困った表情を浮かべる。

 

 確かに武尊は武士に必要な武芸を十八種類身に付けてはいる、しかし現代に武士という職業はないので本物の武士ではない。

 

「まぁ、そうだな……兄貴は武士みたいなものだよ」

 

「そうだよゆゆちゃん、俺は武士なのさ。 なんなら従う領主もいないし、ゆゆちゃんの側近になってもいいぞ。

俺は大和よりも強いからさ」

 

 その言葉を聞いて大和は険しい表情を浮かべながら手に持っていた箸を圧し折り、持っていた茶碗を握り割った。

 

「あぁ〜あ、何やってんだよ大和、その食器は誰が片付けると思ってんだ?」

 

「ごめん兄貴、俺が片付けるから許してくれ」

 

 このときの大和の怒りとも呼べる威圧感と覇気は凄まじく、側にいた和生や幽々子は冷や汗を流し、恐怖にも似た感情を抱いていた。

 

 それに対し、大和を怒らせた張本人である武尊は平然としており、大和を恐れている様子は微塵たりとも無かった。 かなりの強心臓の持ち主と見える。

 

「そっか、それなら別に良いんだ。」

 

 何故、武尊は大和を余裕と見下したり、大和が怒っていても恐れない訳、それは大和が自分に歯向かったり、喧嘩を吹っ掛けて来ないことを知っているからだ。

 

 理由は単純なこと、大和よりも武尊の方が圧倒的に強いからだ。 そうでもなければ武尊が大和のことを煽ったり挑発するような発言などできる筈がない

 

 それから喧嘩が始まることもなく、みんな朝食を無事に食べ終える。食器は割れたのも含んで大和が全て片付け、台所へと持って行った。

 

 後片付けをする際、鬼の形相を浮かべて怒りの気迫を放っていた大和が気になったのだろう、幽々子は何も恐れずに大和に着いていく。

 

「お兄さんの言葉、根に持ってるの?」

 

 台所で食器を洗う大和に対してそう問い掛ける。

 

「いや、別に怒ってなんかないさ。それに兄貴の言っていることは本当のことだから」

 

 痩せ我慢でそうは言っているものの正直、武尊に対して悔しさと怒りを覚えている。

 

 しかし例え歯向かっても返り討ちに会うのは目に見えている、だがそれでもあんなボロクソに言われたら腹が立つ。 だが怒りの矛先を向ける相手がいないのだ。

 

 沸々と込み上げて来る怒りを発散出来ず、痩せ我慢をする大和が可愛そうに見えたか、幽々子は真剣な眼差しで大和を見つめながらこう言った。

 

「強い弱いなんて関係ないわ。 私は大和の傍にいたいし、なにより離れたくないもの」

 

「そうか、それを聞いて安心したよ」

 

 その言葉を聞いたおかげか、大和の表情から自然と怒りや悔しさなどの感情が薄れていき、表情が次第に柔らかくなっていく。

 

「これ片付け終わったら何処か連れて行ってやるから、茶の間とかで休んでな」

 

「うん、わかったわ」

 

 大和の落ち込みも解消し、更に食器を片付け終えたら何処かに連れて行ってくれるとわかると、幽々子はルンルン気分で茶の間へと向かった。

 

 しかし台所を出た直後のこと、廊下で幽々子の目の前に着物を着た巨体が立ちはだかる。その巨体の正体は何の紛れもない草薙武尊だった。

 

 武尊がいたことにビックリしたのだろう、思わず声を出そうとした幽々子の口を咄嗟に武尊は手の平で塞いだ。

 

 そして人指し指を自分の口元に立てながらウインクする武尊、どえやら自分がいることを大和にはバレたくないらしい。

 

 それから幽々子が声を出さないことがわかると、武尊は軽く頷き、そのまま行って良いぞ言わんばかりに親指を後ろに向かって立てた。

 

 武尊の合図を理解できなかったが、取り敢えずこの場から去って良いことがわかると、幽々子は颯爽にその場が速歩きで去っていった。

 

 そんな立ち去る幽々子を武尊は腕を組みながら清々しい表情で見送る。

 

(大和の奴、良い女と巡り合ったな)

 

 大和が精神的に安定してる様子を見て納得したのか、武尊も足音を立てないようにその場から立ち去った。

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