古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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第二十話 刀匠兼丸

 あれから一ヶ月が経過したことのこと。

 

 身体や脚の傷も完全に完治した。

 

 極夜に切り落とされた腕も八雲紫にくっつけてもらい普通に動くようになった。特に後遺症とかはない。

 

 いつものように大和と妖夢は枯山水の真ん中で鍛錬をしていた。

 

 妖夢は主人の護衛として護る力を付けるため、大和は嫁である幽々子を護るため。それぞれの意思で鍛錬をしていた。

 

 しかし、師匠である妖夢は大和に教えることはほとんど無い。全て習得してしまったからだ。

 

 スポンジのような吸収力と異常な飲み込みの早さによって、大和は妖夢と同等、いや、身体能力だけで言えば妖夢を遥かに超えているだろう。

 

 そのぐらいに強くなってしまったのだ。

 

 だが、それでも尚、兄の武尊には勝てなかった。人知を越えた力を手にしたと言うのに、人間であるはずの武尊には勝てなかったのだ。

 

 それが頭の中に小鰭付いてる。一体どれだけ強くなれば兄の武尊に勝てるのか、想像もつかない。

 

 

 

 

 

       《〜少年少女修行中〜》

 

 

 

 

 それから数時間後のこと、鍛錬が終わり二人は一息付いた。

 

 人間からしてみればハードな鍛錬だが、大和と妖夢に取っては別に疲れてもなければ苦でも無い。寧ろ足りないくらいだ。

 

 もっともっと鍛錬して強くならないと、そうしなければ兄貴を超えられない。

 

 それに対して、たった一ヶ月半で自分と同等かそれ以上になってしまった大和を見て妖夢は大和に対して喋りかける。

 

「凄い成長ぶりですね。」

 

「そうでもねぇよ。まだまだこれからだ。」

 

 妖夢は大和の言葉に思わず劣等感を感じてしまった。

 

 自分と同等かそれ以上なのに、まだまだ成長の余地がある。それに何時自分の技術を全て取り込まれるのかも時間の問題だったからだ。

 

 流石の妖夢も焦りを感じていた。

 

 更に、妖夢は大和に対して一つ疑問を感じていた。

 

 何故、そこまで強さを求めているのか。主人の幽々子を守るために強くなる、それも一つの理由だ。しかし、何故かそれ以外にも何か理由があるような感じがした。

 

「それ以上強くなって、なにするつもりですか?」

 

「兄貴を超えるためだよ。半妖になっても勝てなかったからな。更に強くなって絶対に勝ってやる。」

 

 そう、大和は昔から負けず嫌いだった。特に喧嘩や戦闘の負けず嫌いは誰にも負けないと言うほど強かった。

 

 しかし、兄貴には勝てなかった。一度も、手加減されても、どう足掻いても掠り傷すら負わせることが出来ないほどに強かった。

 

 だから、大和に取って兄貴は目標でありライバルでもある。

 

「まぁ、良いや。それよりも」

 

「どうしました?」

 

「いやさぁ、この刀おかしいんだよ」

 

「何がおかしいんですか?」

 

「一振りで村を半壊させたり、ほら、頑丈さも切れ味も尋常じゃないだろ?普通の刀とは思えないんだ。」

 

 身幅が42mm、元重が1.5cm、豪壮刀である同田貫よりも遥かにでかく分厚い。

 

 刀というよりも、まるで鉄塊。いや、『東洋の鉄塊』とでも言うべきか。

 

 それに加えて異常な強度に大岩を豆腐のように斬り裂く異常なまでの切れ味。

 

 更に極夜が見せた一振りで村を半壊させる斬撃というのか衝撃波というのか、あれも人知を越えた力、発生させるのはともかく、刀を振ることで発生させるのは現代の技術では到底のことながらできない。

 

 普通の日本刀とは思えない。

 

「まぁ、紫様が持ってきた宝具ですからね。」

 

「そのせいで俺は極夜って奴に半殺しにされたんだけど」

 

 一度は斬を取られたものの、幸いなことに何を思ったのか、極夜は斬を手放してその場を去ったが。

 

 幽々子がいたとしても、あのまま戦っていたら間違いなく殺されていた。

 

「私もそんな刀聞いたこと無いのでわかりませんが、紫様なら知ってるんじゃないですかね?」

 

「紫のやつ来ないかな?」

 

「その刀の秘密、知りたい?」

 

 大和達の背後からスキマを開いて、その中から突然姿を現した八雲紫が現れた。

 

 相変わらず神出鬼没の妖怪だ。以前だったら突然現れるから心臓に悪かったが、今はもう慣れて驚くことも少なくなった。

 

「紫様」

 

「知ってるのかよ、この刀のことを」

 

「いえ、私は知らないわ。でもその刀のことを知ってる者を知ってる。はっきり言えばその刀を創った刀匠ね」

 

 刀匠?まさかこの幻想郷にこの斬を創った奴がいるとでも言うのか?

 

 しかし気になる。そいつがどんな奴なのか、妖怪なのか人間なのか、それとも俺と同じ半妖なのか。

 

 少なくともこんな神器、宝具を創れる奴が人間とは思えない。もし人間だったら人間国宝以上の偉人としてその名が知れ渡ってると思ったからだ。

 

「誰だよそいつ?」

 

「幻想郷では知ってる者は知ってる。知らない者は知らない伝説の刀匠よ」

 

「それってつまり……」

 

「あまり有名じゃないんじゃねぇか?」

 

「まぁ、聞きなさい。その刀匠の名前は兼丸」

 

 すると妖夢は驚き目の色が変わった。

 

 何か知っていたのか、少なくとも名前を聞いて驚くということはその刀匠の兼丸とやらのことを知ってるということだ。

 

「兼丸様ですか!?」

 

「何だよ妖夢。知ってるのか?」

 

「はい。祖父の祖父から生きてる伝説の刀匠です。あらゆる名刀や妖刀を創った刀鍛冶の神様です。」

 

 まさかとは思っていたが、やっぱり人間じゃなかったのか、それに刀鍛冶の神様とは。それならこの世に名が知れ渡ってもおかしくはないんじゃないのか?

 

 それに妖夢の種族は長寿だ。祖父の祖父から生きているということは千年以上生きてんじゃねぇのか?もしかしたら幽々子よりも歳上だったりして。

 

「そいつ一体いくつだよ?」

 

「私も会ったことないのでわかりませんが、とにかく昔から存在する伝説の刀匠ですよ。」

 

 伝説なら誰でも知っててもおかしくはないと思うがな、もしかして存在を隠していたとか?

 

「どうする?会いに行くのかしら?」

 

「勿論だよ。」

 

「私も是非」

 

 まぁ、妖夢が行きたい気持ちはわかる。自分の刀を鍛えてもらったり、何かアドバイスとかしてもらいたいのだろう。それに伝説と呼ばれている刀匠だ。こんな機会滅多に無いことだから会いたいのだろう。

 

 しかし

 

「駄目よ」

 

「幽々子様」

 

 屋敷の中から幽々子が襖を開けて刀匠の元へ行こうとする妖夢を止める。

 

 一体何故なのか?

 

「妖夢は今日お留守番、貴女じゃ荷が重すぎるから」

 

「そんなぁ〜」

 

 大和も妖夢も幽々子の考えがわからなかった。

 

 荷が重すぎる?一体何のことを示しているのか、それがわからない。刀匠の元へ行くと何か起きるとでも言うのか。

 

 それに対して八雲紫は何かを悟っていたのだろう。幽々子と八雲紫は古い友人の仲なのだから、八雲紫は幽々子の考えが何か少しでもわかっていたのだろう。

 

 何も言わず、妖夢が留守番することを止めはしなかった。

 

「それじゃあ二人とも、スキマの中に入りなさい。」

 

 そう言われると幽々子は履物を履く。

 

 そして大和と幽々子の前にスキマが開く。これが刀匠のいる場所に繋がるスキマなのか。

 

 しかし、恐れることは無い。だってただ単に刀匠に会って斬の能力を教えてもらうだけの事だから。

 

 二人はスキマの中に入っていくと、スキマはすぐに閉じる。

 

 取り残された妖夢は少し落ち込んだような表情をしながらも、これから鍛錬や二人が帰って来るまでに掃除や料理を作るなどの家事全般をやろうとしていた。

 

 

         

 

          《〜妖怪の山〜》

 

 

 妖怪の山、人里からかなり離れた場所にある純度100%の自然、ここに住む妖怪達は、人間や麓の妖怪とは別の社会を築いており、幻想郷のパワーバランスの一角を担っている。特に天狗や河童は外の世界を模倣した高度な技術力を持っており、天狗は写真・印刷・出版の技術、河童は鉄鋼や建築・道具の作成などの技術を持つ。その為、この山に攻め入る妖怪は居ない。

 

山の妖怪の一部を除き幻想郷のどの種族よりも陽気で仲間意識も高く、高度な技術と相まって近未来的で豊かな生活を送っているという。ただ、その仲間意識の高さから、余所者に対する風当たりは強く、山の侵入者に対しては、相手が何であれ全力で追い返されてしまう。特に天狗は、味方がやられると確実に敵対姿勢を取る。他の妖怪に無い特徴である。

 

 そして妖怪の山の中でも更に山奥、人も妖怪もいなければ誰も引き付けない場所。

 

 そんな場所に古びた小さな平屋があった。

 

 そんな平屋の前にスキマが開くと大和と幽々子が歩いて出てきた。

 

「……此処ね」

 

「刀匠がいる家は」

 

 二人が平屋を見てると、二人の間にスキマを開いて上半身だけ姿を現した八雲紫が出てきた。

 

「それじゃあお二人さん、刀匠によろしく言っといてね」

 

「……あぁ」

 

「それじゃあねぇ〜」

 

 そう言うと、八雲紫は上半身がスキマの中に入っていき、ニつのスキマは閉じた。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「うん。」

 

 そう言って二人は平屋の中に入っていく。

 

 

 

 

 

        《〜刀匠・兼丸の家〜》

 

 

 平屋の中に入ってみる。

 

 そこは刀鍛冶をするための場所と寝床だけの平屋だった。

 

 無論、電気や水道、ガスなどは通っていない。

 

 家にある光は一本の蝋燭のみ。

 

 刀身を焼入れするための竈、雑に見えるが並べてある金槌や刀鍛冶のための道具、焼入れした刀身を冷やすための水の入った長さが一メートル以上ある桶。

 

 更に砥石、鍔や鞘、ハバキなどを作るための道具も置いてある。

 

 刀鍛冶とは聞いていたが、まさか刀身を作る最初から鞘や鍔などの仕上げの完成まで一人でやってるとでも言うのか。

 

 現代ではそれぞれの分野で分かれている。

 

 刀身職人、鞘職人、鍔職人等など、一つを極めた熟練者が慎重に丁寧に仕上げるのが普通だ。

 

 だが、この刀匠は全て全部やってると考えられる。

 

 そして寝床である畳が敷かれた場所。

 

 畳の広さは三畳と広いのか狭いのかわからないが、寝るのには困らないだろう

 

 壁には食料が吊るされていたり、自分が作ったのであろう刀が飾られている。

 

 畳の上にも仕上げ用の砥石、一個の木箪笥や布団が置かれている。

 

 平屋に入ってみると、畳の上に一人の青年が座っていた。

 

 そして、平屋に入ってきた二人の方向を見る。

 

「………誰だ?」

 

 青年は一部だけ後ろ髪を縛っている。髪色は青黒い。

 見た目は二十代後半ぐらいだろう。千年以上生きているとは思えないほど肌に色艶があるうえに容姿端麗。

 服装は黒緑の着物を着崩れた状態で着ており、その中に白い服を着ている。

 

 薄暗くて良く見えなかったのか、目を凝らして幽々子の方向を見ると刀匠の目の色が変わった。

 

「おぉ~上玉のお嬢ちゃんがやってきたもんだ」

 

 久しぶりの来客が嬉しかったのか、それとも単純に若い少女がやってきたのが嬉しかったのか、それは刀匠にしかわからない。しかし後者であることは確かだろう。

 

「お嬢ちゃん独身?俺と付き合う気無い?」

 

 可愛く美しい幽々子を一目見て狙っていたのか。刀匠が告白してくる。まるでどこかの兄貴のようだった

 

「ごめんなさい。私結婚してるのよ」

 

「何だよ、既婚者かよ。ついてねぇな」

 

 既婚者だとわかると思わず溜息をつく刀匠、余程幽々子がお気に召したのか、かなり落ち込んでいた。

 

 まぁ、無理もない。幽々子は容姿端麗で更に胸とお尻が大きい。普通の男性なら心を奪われるのも無理はないだろう。

 

 そして、更に刀匠に追い打ちを掛けるかのように大和が口を開いた。

 

「俺がこの子の旦那だよ。」

 

 すると、刀匠の目の色がまた変わった。

 

 何か見覚えがあったのか、それとも何か知ってる気配を感じたのか、それは刀匠にしかわからない。

 

 しかし、何かを直感で感じたのであろう。

 

「お前、名前なんて言うんだ?」

 

「草薙大和だけど、それがどうした?」

 

 草薙と聞いた瞬間、刀匠の表情が変わる。

 

 一体、俺の苗字のことを知ってたのか、とにかく何か知っている様子だった。

 

「なるほど、お前も草薙か」

 

「どういうことだ?」

 

「いや、最近お前と同じ苗字の人間が来てな、武器を創って欲しいってな」

 

「同じ苗字?」

 

 俺と同じ苗字だと?そんなやつが幻想郷にいるのか。俺が知ってる限り幻想郷に存在する草薙の苗字は一人しかいない。

 

「いやぁ~凄かったよ、強者の気配って言うのか?とにかく凄いやつでさ。その強さに心を打たれてな、武器を創ってやった。創らない理由がないからな」

 

 二人の会話を聞いていた幽々子は大和に対して話しかけてくる。どうやら幽々子も心当りがあるらしい。

 

「大和、貴方と同じ苗字ってまさか」

 

「強者で同じ苗字なんて一人しかいねぇだろ」

 

 夫婦の短い会話を聞いていた刀匠は会話の内容が気になったのだろう。大和に対して話しかけてくる。

 

「なんだ?そいつとなんか関わりあるのか?」

 

「なぁ刀匠、その草薙のやつ、名前とか言ってなかったか?武人の武に尊敬の尊で武尊とか」

 

「確かそんな名前だったな」

 

 それを聞くと、大和は呆れたような表情をしながら右手の平で顔を覆い被す。

 

 やっぱりか、幻想郷に来ていたのは知っていたが、まさか刀匠のところにやってきていたとは、しかも幻想郷に最近来たばっかのうえに、こんな人気のない場所に刀匠がいることを知っていたとは。

 

 驚きの連続だった。

 

 それに対して大和の行動を見た刀匠は何か疑問を抱いたような表情をしながらも大和に対して話しかけてくる。

 

「なんだ?どうした?」

 

「悪い刀匠、多分それ俺の兄貴だわ。」

 

「マジかよ?あの強者の弟か!?……でも強さがまったく異なるな」

 

 当たり前だ。人間の身でありながらも半妖になった俺と同等かそれ以上の力を持っているのだから。

 

 正直、兄貴があまりにも強すぎてどちらが化け物なのかわからなくなる。

 

「兄貴とは良く比べられるのでもう慣れてます」

 

 いつもそうだ。兄貴は生まれた時から次期当主になることが約束されていて、生まれ持っての天才で更に文武両道、学力でも武術や喧嘩でも一度も勝てない程に完璧な人間だった。

 

 更に極度の下戸である俺に対して、兄貴は酒に滅法強く大酒豪。

 

 強いて弱点を言うのなら、まるで鬼のように酒に目がないというところか、それ以外はない。

 

 だから、俺は一言で表すと兄貴の劣化版、何もかも劣っている。何かの分野で勝てるものが無い。

 

「でも、兄貴と違うところはあるな、選ばれているだけはある」

 

「どこかだ?俺は兄貴の劣化版って言われてるほど劣ってるのに」

 

「お前は腰に差してる斬に認められてる。普通なら妖気を根こそぎ奪われてるはずなのに」

 

「そんな代物をあの野郎は俺に渡したのか……でもなんであいつが持ってたんだ?」

 

「使い手が見つかるまで預かっておいてくれって俺が渡したんだ。それで今はお前の手にある。」

 

「それで?俺のところに来たのは刀を創って欲しいからじゃないだろ?その斬のことを聞きに来た。そうだろ?」

 

「話が早いな、そうだよ。教えてくれ。この危ない刀のことをな」

 

「良いだろう。ただし条件がある。」

 

「条件?」

 

「俺は今、ある大妖怪に命を狙われててな」

 

「どうしてまた?」

 

「お前の腰に差してある斬、それに匹敵する強い刀を創れ、さもなければ殺す。そう言われてな」 

 

 大妖怪?何だそいつは?まだ幻想郷に来てから一ヶ月半しか経ってないからどんな妖怪、大妖怪がいるのはしらない。俺が知ってるとしたら極夜もしくは八雲紫しかいない。

 

 だが、八雲紫がそんなことをするわけでもないし、ましてや刀匠と友好的な関係を結んでいる。

 

 もしかしたら極夜なのか。だがこの場に刀匠がいることを知っているのか?

 

 それに対して幽々子は何かを知っているかのように口を開いた。

 

「大妖怪………やっぱり?」

 

「どうした幽々子?何か心当りがあるのか?」

 

「まぁね、すぐにわかるわ」

 

「さぁ、どうする?」

 

「どうする大和?」

 

「助けるしかねぇだろ、人の命掛かってるんだから」

 

「良し、交渉成立だな。」

 

 その瞬間、まるで交渉成立したことが分かってやって来たと言わんばかりに外から妖気を感じた。

 

 この妖気と気配は知っている。肺が押し潰されそうな、身の毛もよだつような妖気、そして圧倒的強者の気配。

 

 間違いない。この存在とは。

 

 三人は平屋を出て、外に脚を運んでみるとそこには。

 

 空から飛んできたのであろう。丁度両足を地面に付けて軽やかに大地に立ち平屋を見つめる者がやって来た。

 

 その存在とは。

 

「……妖毒の極夜」

 

「やっぱり来たのね」

 

 そう、一ヶ月前に戦った極夜だった。

 

 斬よりもより強い刀を作れ、大妖怪、そして自分に従わなければ殺す、そんな奴は幻想郷では一人しかいない。

 

 優れた勘と頭脳を持つ幽々子はそれを先読みして、わかっていたからこそ妖夢を連れてこなかったのだ。

 

 それに対して、ようやく刀匠の居場所を突き止めて刀を作って貰おうと思ったのだろう。平屋から出てきた刀匠に対して話しかけてくる。

 

「会いたかったぞ刀匠兼丸。早速だが私に刀を作れ」

 

 そう言うと極夜は周りをキョロキョロと見渡す、そして大和と幽々子の存在に気づいた。

 

 どうやら刀匠以外眼中に無かったのだろう。

 

 そして、まるで睨みつけるかのように毛嫌いしてるであろう半妖である大和を見つめる。

 

「半妖……何故貴様が刀匠とつるんでる?」

 

「極夜てめぇ、そんなの俺の勝手だろ」

 

「案の定と言ったところかしら」

 

「来たな大妖怪! てめぇに創る刀なんてねぇよ!」

 

「そうか、ならば無理矢理でも作らせるまでだ」

 

 刀匠に襲い掛かろうとする極夜に対して、大和は刀匠の眼の前に背を向けて立ち塞がり、斬を引き抜いて戦闘態勢に入る。

 

 戦闘態勢に入っている以外で大和の行動が理解できなかったのだろう。極夜は表情を変えないものの、眉を顰めて大和に対して質問をする。

 

「どうした半妖?」

 

「悪いな、訳あって刀匠を助けることになってな、てめぇをここから追い出す」

 

「できんことを言う奴だ。私に勝てるとでも?」

 

「今度は前とは違うことを教えてやるよ」

 

「減らず口が」

 

 極夜から体液から生成したであろう猛毒。地面に半径5メートルの毒の陣を張る。

 

 何の毒かはわからないが、触れれば一溜まりもない猛毒であることは確かだ。これで足場は完全に占領されて近づくことすら許されない状態にいる。

 

 毒の陣で身動きが取れないまま時間が経過する。両者一歩も引かない。

 

 しかし、一つだけわかったことがあった。

 

 それは極夜も身動きが取れないこと、毒陣を張ったうえにあの敏捷性なら間違いなく俺を仕留めれるはず。

 

 だが、おそらく極夜も毒陣から出られないうえに立っていることしかできないと推測する。

 

 しかし、それでもお互い臨戦態勢に入ってるだけで何の身動きも取れないのは事実だ。

 

 誰もがただ身動きも取れず。時間が流れていくと思っていた。しかし、その考えは極夜の行動によって大き覆される。

 

「どうした?毒陣に入ってこないのか?まぁ無理もない。それなら私から攻撃を仕掛けるとしよう。」

 

 極夜は右手を前に出し、人差し指と中指から光の鞭を生成する。

 

 その瞬間だった。

 

 大和の危険を察する直感が無意識に働いたのだろう。大和は無意識に心眼を使って少し先の未来を見通した。

 

 それは驚くべき光景だった。

 

 丸い紐状の鞭と思っていたが、まるで日本刀のような切れ味を帯びているのであろう。光の鞭が大和の首を綺麗に両断する未来が視えた。

 

 極夜が大和の首に向かって光の鞭を振るう。

 

 それに対して大和は刀で光の鞭を防いだ。

 

 すると大和が立っていた地面が抉れ、後ろへと後退する。

 

 大和が押し負けたのだ。

 

 幸いだった。遠距離でこの威力、もし近距離で喰らった一溜まりもない。

 

 押し負けている大和のことなんてお構いなく、極夜は何度も何度も光の鞭を振るう。

 

 現状、大和には防ぐ以外に手段は無い。

 

 いくら斬が頑丈でも、このままでは一方的にやられて折らて首を撥ねられることは目に見えている。正直死ぬかもしれない。

 

 何か策を考えなければ無い。

 

 まてよ、できるかできないかはともかく策ならあるじゃないか。

 

 このまま何も出来ずに死ぬよりかは、それを試してあの野郎に一泡吹かせてみよう。

 

 大和は全力で刀を振るった。

 

 すると。

 

 風を斬り、刀を振るった軌道上に真空が発生して極夜に向かって飛んでいく。

 

 半妖になった大和の全力の剛腕から振るった刀、真空が発生して斬撃が飛んでもおかしくはない。

 

 そしてそのまま極夜に向かって斬撃が放たれる。

 

 いわゆる飛ぶ斬撃だった。

 

 すると、極夜は目を見開く。

 

(こいつ……まさかな……)

 

 動かないまま、斬撃は極夜の鎧に直撃する。

 

 まともに喰らった。

 

 しかし。

 

 極夜は無傷だった。

 

 鎧があまりにも硬すぎるのか、それとも遠距離のせいで斬撃の威力が弱かったのか、それはわからない。

 

 しかし、極夜にダメージを受けさせていないことは確かなことだ。

 

 だが、これで近づかずに遠距離から使える攻撃方法は見つかった。それでも儲けものだ。

 

 それに対して極夜は大和の攻撃にまるでがっかりしたかのように溜息をつく。

 

「やはり……ただの斬撃だったか……」

 

 そう言うと極夜は再び大和に対して光の鞭を振るう。

 

 大和は光の鞭を防ぎながらも、隙があれば持ち前の剛腕で刀を振るい飛ぶ斬撃を放つ。

 

 両者一歩も引かない攻防戦。

 

 しかし一見互角に見えるが、押されているのは大和の方だった。

 

 あまりにも威力の高い光の鞭に押されている上に、自分の飛ぶ斬撃が効かない。完全に勝敗の分かれ目は極夜の方にあった。

 

 このままでは大和が負ける。

 

 お互いが攻撃を仕掛けていた最中、すると何を思ったのか極夜が光の鞭を振るうの止めて刀匠の方を見つめた。

 

「刀匠よ、この名刀が憐れだと思わんか?この半妖はただ振り回すだけしか能がない。これでは丸太も同然ではないか?」

 

「う〜ん、確かにその通りだな」

 

「納得しないでよ!」

 

 一体どこから持ってきたのか、幽々子がハリセンで刀匠の頭を全力で叩いた。

 

「いてっ!」

 

「どうする?この半妖を殺して刀を無理やり作らせるか、それともわたしの言う通りに刀を作るか」

 

 極夜は刀匠に向かって選択肢を与える。大和を殺して無理やりにでも刀を作って貰うか、それとも極夜の言う通りに素直に刀を作るか、選択肢は2つに1つ。

 

 しかし。

 

「嫌なこった。」

 

 懐から金槌を出すと地面を思い切り叩く。

 

 すると何が起こったのか、地面からマグマが発生して極夜の生成した毒陣を破壊する。

 

 ついでに極夜も燃やし尽くそうと思ったのだろう。マグマが極夜を襲う。

 

 しかし、その前に極夜は軽やかに5メートル以上飛んで毒陣から離れる。

 

「刀匠、あくまでもこの私に刀を作ることを拒むのか?」

 

「やかましいな青二才ッ!!てめぇにはもう既に立派な一振りの刀を腰に差してるだろうが!」

 

 キレながらも刀匠は極夜の腰に差してある刀に対して指を差す。

 

 怒りっぽいのか、それとも自分が創った刀が気に入らないことにブチギレてるのか、それはわからない。しかし怒っているのは確かだ。

 

「あの刀……そんな凄い代物なの?」

 

「でも、一度も抜いたところを見たことはねぇ」

 

 確かに、以前戦ったときも刀を一度も使っておらず、素手で戦っていた。何か理由でもあるのか。

 

 大和は何も知らなかったが、それは刀匠にも極夜にもわかっていたことだった。

 

「青二才、てめぇが腰に差してあるその刀、名刀の中の名刀であり、三界刀の一振り。その名は御霊天月(ごりょうてんげつ)だ。斬に勝るとも劣らない名刀」

 

 まさか、斬に勝るとも劣らない名刀だったのか。そんな名刀を極夜が腰に差していることに大和も幽々子も驚きを隠しきれなかった。

 

 しかし、疑問点がある。

 

 それは何故、斬に匹敵するほどの刀を作るように要求しているかだ。斬に勝るとも劣らない名刀を持っているのに、それ以上の刀を欲しがるなんて強欲にも程がある。

 

 だが、極夜が何故故に斬に匹敵する刀を欲しがるのか、それには理由があったのだ。

 

「ほざけ刀匠、こんななまくら刀のどこが名刀だ?私には必要のないものだ」

 

「なら何でそんな大事そうに持ってる?いらねぇなら捨てちまえば良いのによ」

 

「腐れ縁と言うやつだ。大した理由は無い。それに………」

 

 再び大和は危機察知能力が反応して無意識に心眼を使う。

 

 すると、そこには有りえないスピードで刀匠の前にやってきて、持ち前の日本刀のように鋭利な爪で刀匠を引き裂く極夜の光景が視えた。

 

 それを見た瞬間、大和は縮地走法を使って刀匠の前に立ちはだかり、案の定刀匠の前にやってきた極夜の右手を掴む。

 

 すると。

 

「こんな仲間も救えぬこの刀………何が名刀だッ!!駄作以下のなまくらが何の役に立つ!?」

 

 極夜の様子が可怪しかった。

 

 いつもは冷酷沈着で動揺すらしない極夜が感情的になり、冷静さを完全に失い、怒りに任せて言葉を発する。

 

 更に極夜の妖気が高まり、まるで巨大な石でも乗せられたような重厚なプレッシャーと息が苦しくなるほどに重苦しい空気が周囲に広がり、肺が押し潰されそうで呼吸が苦しくなる。

 

「落ち着け極夜!!」

 

「黙れ半妖ッ!!貴様に何がわかる!?」

 

「知るかよ!何があったかわからねぇからな!」

 

「貴様は騙されて親を殺された苦しみがわかるか!?次々と仲間が殺されていく光景を目にしたことがあるか!?それを救えない気持ちがわかるとでも言うのか!?そんなことも知らない薄汚い半妖如きに私の気持ちがわかるか!?」

 

 極夜の怒りのボルテージが最高潮に達し、もはや冷静さの欠片も無い。ただ怒りと密かに感じる悲しみのような感情だけが極夜を動かしている。

 

 そして、妖気は更に高まり。肺が押し潰されて、もはや呼吸すら困難な状態に陥る。

 

(やべぇ!妖気で押し潰されそうだ。)

 

 大和が危機に立たされているのに対して、刀匠がまるで極夜を慰めるように、何かを察したかのような表情で口を開く。

 

「お前、御霊天月を使えなかったんだな。それで親や仲間を救えなかったんだな?あれは真の慈しみの心が無ければ人妖を生き返らせられないんだよ」

 

 そう。御霊天月とは人妖を生き返らせる刀。しかし問題点は真の慈しみの心がなければ生き返らせれないことだ。

 それに加えて生者を傷付けらない。言わば戦う刀ではなく癒しの刀なのだ。

 

 だから、極夜は名刀である御霊天月をなまくら以下の駄作と言ったり、斬に匹敵するほどの刀を欲しがっていたのだ。

 

「何故、そのような……作りにした? 使えなければ意味が無いというのに」

 

「刀自身が選んだ能力だ。俺にはどうにもできなかった。」

 

「そのような作りで……一体どれだけの仲間が死んでいったことか!?全部貴様の未熟な腕で創った刀のせいだ!!」

 

 大和が妖気で押し潰され、膝を付いた瞬間のことだった。

 

 改めて極夜は刀匠を鋭い爪で引き裂こうとする。

 

 しかし。

 

 妖気に耐性があったのか、それとも純粋に強かっただけなのか、それはわからない。だが極夜の妖気に怯えることもなければ屈することない人物が一人極夜の前に立ちはだかった。

 

 それは幽々子だった。

 

 すると、極夜の顔色が変わった。そして。

 

「退け女ッ!!」

 

「退かないわ。だって退いたら旦那と刀匠を殺すのでしょ?」

 

「退かぬと殺すぞ」

 

「私を殺せるのかしら?」

 

「私の邪魔をするなぁッ!!!」

 

 誰もいない森林に向かって持ち前の鋭利な爪を振るう。

 

 そして、その鋭利な爪から巨大な三本の斬撃が発生して、森林の木を次々と引き裂いて薙ぎ倒す。

 

 まるで斬撃破のようだった。

 

 鋭利な爪から放たれた斬撃が数百本に及ぶ木を薙ぎ倒し終わると斬撃は収まる。

 

 そして、極夜も苦痛に満ち、疲れたような表情をする。

 

「はぁ………はぁ………はぁ………」

 

「やっぱり。貴方は私を殺せないようね」

 

「ほざけ女、貴様を殺すことなんて何時でも………」

 

「それは無理なことね。だって………貴方は私だけに優しい妖怪さんだから」

 

 確かにそうだ。極夜は幽々子に優しい。攻撃どころか一切手をださないのだ。

 

「そうか……そう見えるのか……ふっ…ふふふ」

 

「何がおかしいの?」

 

「はっきりと理解した。どうやら女、お前は記憶を無くしてるらしいな」

 

「記憶?どうゆうこと?」

 

「何故に私がお前を殺せないか、聞きたいのなら教えてやろう。元々私達は………」

 

「待ちなさい。」

 

 極夜が話している最中、突然現れた八雲紫。まるで二人の関係を止めようと言わんばかりだった。

 

「紫」

 

「八雲紫、なんで?」

 

「おぉ~八雲の小娘、この前は情報ありがとな〜」

 

 どうやら大妖怪が自分を殺しに来るという情報は八雲紫から貰ったらしい。知り合いのようだった。

 

「妖怪の賢者か………また厄介な奴が来たもんだ。」

 

「妖毒の極夜、これ以上口を開くと貴方を殺すわよ」

 

「ふん、ほざけ。この私を殺せるとでも?」

 

 八雲紫は御霊天月を見つめる。

 

 能力を知っていたのだろう。故に自分が極夜を殺せないことを完全に理解していた。

 

「なるほどね。御霊天月、前々から思ってたけど、随分と厄介な刀を相変わらず持ってるのね」

 

「それでも私を殺せるか?」

 

「はぁ………それは無理ね。流石に三界刀の一振りを持ってる妖怪を倒せるほど、私は強くないわ」

 

「分かれば良い。」

 

 八雲紫との話を終えると、2メートルはあるであろう巨体の極夜は幽々子を見下ろして話しかけてくる。

 

「おい女、この賢者は私達の関係を知って欲しくないらしいな。」

 

「それどうゆうこと?」

 

「いずれわかる。まだ私達の関係を知るのには早い。それだけのことだ。」

 

 そう言うと極夜は幽々子に背を向けて何処かへ行こうとする。まるで戦う気が失せたかのように。

 

「興ざめだ。私は弟のところへ戻る。」

 

「おい待てよ。」

 

 大和に留められた極夜は大和の方向へと振り向いて、その場に立ち止まる。

 

「なんだ半妖?」

 

「まだ決着が着いてねぇぞ。このまま逃げる気か?」

 

「何を言う?貴様如き半妖から逃げるなど有り得ん」

 

「だったら……」

 

「よく聞け半妖。人間よりも長寿で人知を超えた力を持ってるとは言え、所詮は半妖、つまり半分人間なのだ。

 特にお前のわからないことは何故そこまでして死に急ぐ?長く生きたいとは考えたことは無いのか?」

 

「……へっ!悪いな、俺は根っからの戦士だ。俺が死ぬのは寿命とかじゃない。幽々子を守り抜くか、それとも戦士として戦場で死ぬかのどちらかだ。」

 

「そうか……ならば」

 

 右手をポキポキと鳴らし、戦闘態勢に入る。

 

「貴様と刀匠、共に葬ってやろう。」

 

「殺れるもんならやってみろ。」

 

「大口を叩いたこと………後悔するぞ。」

 

 しかし、今回は違った。

 

 さっきまでなら毒陣を周囲に張って、光の鞭で攻撃する。

 

 それが極夜のテンプレとも言える攻撃の手法だった。

 

 だが、今は毒陣を周囲に張らなければ、光の鞭で攻撃するような素振りも無い。

 

 ただ立っているだけで何もしてこなかったのだ。

 

 あまりにも不自然な戦闘態勢に疑問と何か不満を感じる大和、一体極夜が何をしてくるのか検討もつかない。

 

「どうした?ご自慢の心眼使って避けなくて良いのかよ?」

 

「使うまでも避けることも必要ない。何故なら……」

 

「貴様は斬撃破を使えないようだからな」

 

 ご自慢の右手の爪で真っ向から飛びかかっってくる極夜、そして狙いを定めたのは斬だった。

 

「………えっ!!??」

 

 思わず刀匠兼丸は驚いた。まるでその『斬撃破』を知ってることがあり得ないと言わんばかりに。

 

 極夜は斬に対して爪を振るう。

 

「斬撃破を使えぬ貴様など、恐れるに足らん」

 

 まるで斬を折ってしまおうと言わんばかりに極夜は斬を爪で殴り掛かる。

 

 一方的に斬に対して殴り掛かる極夜、まるで恨みでもあるかのように攻撃を止めることはない。

 

 あまりにも強い力で振るわれる剛腕、いくら頑強な斬でも圧し折られてしまいそうなほどの衝撃が大和の両手に負担が掛かる。

 

 しかし、大和も黙っているわけではない。

 

 大振りに振るわれる極夜の爪の一瞬の隙を突いて、斬を全力で振るう。

 

 すると、極夜は後退し、まるで休憩しようと言わんばかりに手を止める。

 

 そして背負っていた大きな瓢箪の蓋を開けて水を飲んだ。

 

 そんなことをしていると、刀匠兼丸が極夜に対してあることを問い詰めてくる。

 

「青二才お前……斬撃破が視えるのか?」

 

「…………………」

 

「どうなんだ!?答えろ!」

 

「当たり前だ。斬撃破を見抜くことなど造作もない。」

 

 刀匠兼丸にとってはありえないことだった。

 

 何故なら斬撃破を使えるのは使い手となる者だけが許される技だったからだ。それを簡単に読めるというのは武具の扱い方を完全に理解できる天才か天賦の才能を持つ者しかいない。

 

 それを何も知らなかった幽々子は刀匠兼丸に尋ねる。

 

 なぜそこまで驚くのか、それがどれだけ凄いことなのか気になったのだ。

 

「ねぇ、刀匠………斬撃破って?」

 

「斬撃破、いわば斬の極意みたいなものさ。軌道を斬る事によって発生する斬撃。それを操ることによって斬の真の使い手となる」

 

「ならそれを大和に」

 

「それは無理だ。あの半妖が悟らなければ扱えない。教えて出来る事じゃないからな」

 

 その間にも極夜と大和の攻防は激しくなる一方だった。

 

 しかし素手にもかかわらず極夜の攻撃は凄まじく、嵐のような攻撃速度と怪力で大和は押し負けていた。

 

(斬撃破だと、まさかあの村を半壊させた技のことを言ってるのか?)

 

(でも、なにも視えねぇ、どうやったら斬撃破を出せる?)

 

「そうだ。念の為に斬を破壊しとこうか。新たな使い手が出る前に」

 

 もはや斬は必要ない。況してや存在する価値もないと思ったのだろうか、極夜は斬を破壊することを断言した。

 

 しかし、破壊したところで何がある?放っておけば良いはずなのに何故破壊することにこだわる?

 

「てめぇ………この野郎」

 

「どうする?このままでは斬と共に葬られるぞ。」

 

「ならお望み通り斬り殺してやるよ。」

 

「無駄だと言うのに………」

 

 等々、大和の斬が極夜の身体を切り裂こうとした。

 

 その瞬間だった。

 

(なんだ!?この異様な感触、まるで空気を斬ったような)

 

 袈裟懸けに切り裂いた。普通なら両断されるはずが、極夜の身体は無傷。傷一つ負ってない。

 

 身体を斬った瞬間、違和感があった。

 

 肉を斬ったと言うよりも、まるで空気や水を斬ったような通り抜けるような感覚。

 

 思わず大和は後退する。

 

「てめぇ……一体どんな身体してんだよ?」

 

「どうだわかったか?ただの斬撃では私は殺せん。」

 

「お前、ダメージ受けてないんだろ?人間の形してるけど身体が水とか空気のように攻撃を受け流す。まるで流動体のような身体をしてる。」

 

「ほう……一撃でそこまで見抜いたか。褒めてやろう。故に私には物理攻撃は効かない。」

 

 つまり、何か特殊な攻撃ではない限り、普通の攻撃では傷一与えられないということ。

 

 ワンピースで言うところのロギア系の能力、つまり物理攻撃は全て無効化される。

 

「まるでどこかのコミックみたいな能力だな。」

 

「さて……」

 

 大和が困惑してる中、極夜は容赦なく襲いかかる。

 

 爪を立て、まるで日本刀でも振るうか如く、斬を何度も何度も殴りつける。

 

 どうして良いのかわからない。普通の攻撃でダメージを与えられないのならどうすればいいのか。

 

 一方的に攻撃されるだけ、しかしもし攻撃をカウンターで当てられたとしてもダメージは与えられない。

 

 今の状態では大和はほぼ詰み。ただ斬を壊され殺されるのを待つしか無かった。

 

「どうした?貴様を殺す前に斬が壊れるぞ」

 

 斬ももう限界だった。怪力の極夜の腕力で何度も殴られたのだ。このままでは完全に破壊されてしまう。

 

 極夜がトドメの一撃と言わんばかりに、爪から猛毒のような液体を放出し垂れ流す。

 

 完全に斬を破壊するつもりだった。

 

 極夜が斬を殴り破壊しようとした。その瞬間だった。

 

 極夜の拳を斬が受ける前に大和は自分の額を盾にして極夜の拳を受け止める。

 

「………大和!!」

 

「あの半妖、斬を壊れるのを恐れて斬を庇いやがった。」

 

 極夜の拳を食らった瞬間、じゅわっと音をたてて毒が大和の額を少しだけ溶かす。

 

 すると毒の効果なのか、大和の目が霞み、眼の前が酒を飲んで酔っ払ったかのようにドロドロに歪んで見える。

 

(クソ、毒で目が霞んだ。)

 

「それで命拾いしたつもりか?」

 

 極夜が次こそはと言わんばかりに、斬に向かって次の攻撃を繰り出そうとする。

 

 それに対して。

 

 大和に異変が起きた。

 

 目が霞んでなのか、それとも窮地に立ったことで潜在能力が発揮されたのか、それはわからない。

 

 しかし、大和の眼の前に視えていたのは極夜だけではなく、何かの軌道だった。

 

(何だこの軌道!?)

 

 まるで風と風がぶつかり合って出来た三日月の形をした謎の軌道、これが一体何なのかわからない。

 

(この妖気の軌道、まさかこれが斬撃破の………)

 

 考えてる暇は無い。このまま渋っていたら殺されるのは明白、一か八かやってみる価値はある。

 

 大和は斬を軌道に沿って振るい。渾身の一撃を放とうとした。

 

「………この軌道かぁ!!!」

 

 軌道に沿って振るった瞬間、斬から妖気が発せられ、飛ぶ斬撃が繰り出された。

 

 斬撃は巨大化して数百メートルとなり大和の眼の前を覆い尽くすと、心眼を使っていなかった極夜に容赦なく直撃した。

 

「まさか半妖、貴様!!」

 

 斬撃は極夜を覆い尽くして逃げる隙も場所もなく、そのまま斬撃に極夜は飲み込まれてしまう。

 

 数秒後、斬撃は森を蹂躙するが如く、巻き込まれた極夜と共に薙ぎ倒しながら地面に傷跡を残し前へと進んでいく。

 

 そして、数百メートル先で斬撃が収まると、待っていたのは台風が通ったような傷跡、地面は大きく抉られ、樹木が折れている。

 

 そして、巻き込まれた極夜はその場にはおらず、消し飛んだかのようにいなくかった。

 

 勝者 草薙大和 幻想郷で大妖怪に初めて勝利

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