古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
ようやく投稿できたのでご笑覧ください。
斬撃破によって大和が極夜を消し飛ばした後のこと
自らの手で生まれて初めて妖怪、況してや大妖怪に勝った瞬間だった。
「やったのか?」
極夜の姿は見えない、まるで最初からいなかったかのように完全に消し飛んだような状態だった。
極夜がいなくなったことがわかると極度の緊張から解放されて安心したのか、大和の身体が膝から崩れ落ちるように倒れた。
「ちょっと大和!?大丈夫!?」
急に倒れ込んだ大和を見るや否や、幽々子は急いで大和の元へと駆けつける。
幽々子は大和を仰向けにして安否を確認する。
「幽々子か……大丈夫だよ。少し安心しただけだから」
「良かった……」
気を失ってる訳でも無ければちゃんと心臓も動いてる、普通に会話ができるほどには元気だった。
どうやら極夜を倒したことで安心し、極度の緊張状態から途切れたことで倒れただけのようだった。
しかし、大和は極夜に勝利したはずなのに歯を噛み締めて拳を握っていた。
それを幽々子は気づいた。
「どうしたの?」
「ちくしょう……極夜の野郎……あっさり死にやがって」
自分が殺されそうになって必死になっていたとはいえ、正直、殺すつもりは無かった。何故、思いっきり刀を振るってしまったのか。
極夜も極夜だ。こんなあっさり死んでしまうなんて、あいつはその程度の器だったのか。
考えれば考えるほど気に病んでしまう。
そんなことを他所にして、刀匠の兼丸が前に立ってきた。
「草薙の小僧、刀を渡せ。それと小屋に戻って休みな。刀を手入れしてやるから」
「あぁ……」
幽々子の力を借りながらも、満身創痍の身体でありながら立ち上がり、自らの足で小屋へと歩く。
《〜小屋で休憩中〜》
大和は斬を兼丸に手渡したあと小屋の中で休み、兼丸は言った通りに斬の手入れをしていた。
小屋の中で休憩中、幽々子は思ったのだろう。斬の凄まじく恐ろしい真の剣圧を改めて実感した。
「凄いわね、あれが斬の真の剣圧なのかしら?」
「斬撃破とか言ってたよな、使い方間違えたらエラいことになるな……」
「何が真の剣圧だよ。目が霞んで苦し紛れに偶然放っただけじゃねぇのか」
「……なんだと?」
「まぁ良い。取り敢えず斬の奥義は一応出来たんだ。褒めてはやるよ」
苦し紛れとはいえ、取り敢えずは斬を創った刀匠の兼丸に認められはした。つまり半分は使い手として認められたことも同然だろう。
あとは自分の思うがままに操ることができれば、本物の使い手になることができる。今のままでは危険極まりないからな。
しかし、それにしても、幽々子も大和も少しだけ気に病むことが一つだけあった。
「でも、極夜は死んじゃったのね」
「あいつは死なねぇよ、刀の能力で不死身になってるからな、回復するまで地獄の苦しみを味合うことになるけどな。」
「何で死なないの?」
「御霊天月を持ってるからさ。あれは持ち手に不死身の力を与える破格の代物さ」
まさか、あの斬撃を喰らっても、消し飛ぶどころか死なないというのか。普通なら肉片一つ残らない一撃だぞ。
良かったのか悪かったのか訳が分からないが、取り敢えずあの野郎が生きてて良かった。
「それにしても参ったなあの青二才。三界刀の一本である御霊天月をなまくら呼ばわりするなんて頭が痛くなるぜ」
「兼丸さん、三界刀ってなんなのかしら?」
「お嬢ちゃん三界刀を知らないのか?結構昔からある最上大業物の名刀の中の名刀なんだけど」
そんな刀は知らない。有名なものであれば友人の紫から聞いた。名工が作った最上大業物ぐらいだけだった。
三界はわかる。しかし、それが何を示すのかはわからない。
「初めて聞いたわ、そんな代物があるなんて」
「てか三界ってなんだよ?」
「まず三界とはな、天、地、人の三つの世界を指す言葉だ。」
「天界はつまり仏や神が住まう場所、人界は俺達が住む世界、地界とは黄泉、あの世のことだ。三界刀はその世界に適した破格の能力を持っている。」
なんだよそれ?つまりそれぞれの世界に適用した刀ってことか?それが本当ならとんでもない代物じゃないか
「それじゃあ、極夜が持ってた刀は……」
「御霊天月か、あれは一振りで百の命を救う。つまり生き返らせられるのさ、更に持ち手に不死身の力を与える破格の妖刀
問題は生者を斬れないってことだな」
「生者を斬れない?」
「つまり私みたいな亡霊とか以外は斬れないってことかしら?」
「そうだな。あくまでも人を生き返らせる刀だ。だが、真の慈悲の心がなければ使えないけどな」
段々と話が読めてきた。極夜が何故そんな破格な刀をなまくら呼ばわりしていたのか。そして刀匠に対して物凄い怒りを感じぶつけていたのか。
「だから極夜は」
「あいつからしてみれば逆立ちしてもいらねぇ代物だな」
「でも妙なのは何であの青二才が御霊天月を持ってるかだ。確か俺が天界に献上した代物なのにな」
「確かにな。あの野郎が使えもしない刀を奪うなんてありえないよな」
「それもだが、なぜあの青二才が大切に持っているのかも不思議だ。いらねぇならさっさと捨てちまえば良いのに」
考えれば考えるほどわからない。なぜ極夜が使えもしない御霊天月を持っているのか、しかも意地でも捨てない意味が理解できない。あの刀になんか思い入れでもあるのかと思ってしまうほどではある。
確かに不死身の肉体になるのは厄介だし、死なないことに越したことはない。しかし、不死身になるだけで苦痛は取り払うことはできないだろう。
メリットも有るが、デメリットも大きい。
それに対して幽々子は何か直感で気づいたのか、こんな仮説を立ててくる。
「もしかして、お父さんとかお母さんの形見じゃないのかしらね?」
「まさかな?」
そう、まさかとしか思えない。あの冷酷非道で極夜が父親や母親の形見を大切に持っているようなやつなんて思いもしない。
しかし、妙に気になることがある。
それはさっき闘ってた時、極夜が取り乱していたことだ。
その時にだ。感情がほとんど無いと思っていた極夜が仲間、家族のことを救えなかったことがやけに悔やんでいたことだった。それによって怒りを見せたりしていた。
もしかしたら極夜は意外と家族や仲間思いだったりするのか?
「ちなみにな、お前が腰に差してあるその斬、それも三界刀の一本だ。斬ることに特化させた破格の武器だ。」
「まじかよ!?これそんな凄い代物なのか!?」
「まぁな、少なからず現世でも御目にはかかれない名刀の中の名刀だからな。それに賢者の娘に渡したのも、あの娘がその刀の相応しい使い手を選んでくれると思ってくれてな」
つまり、いつ選んだかはわからないが、八雲紫は俺が斬を持っのに相応しい半妖だと思ったのか。
しかし、斬ることに特化させたとはいえ、持ち手の妖気を根こそぎ奪う刀なんてとんでもない代物だ。
生半可な妖怪はもちろんだが、下手すれば極夜などの大妖怪のような器でも持つことすら危うい代物。
そんなヤバい刀が俺を選んだのは何故なのか?
そんなことを考えてる間に、幽々子は一つの疑問を持った。そして兼丸に話しかけた。
「それじゃあ地の刀は?」
「地界の刀? あぁ、黄泉國のことか。あれは地獄の刀でな。一振りで百の亡者を蘇らせる。さらに確か地獄に関する能力とかも持ってたな?」
「その黄泉國は今どこにあるのかしら?」
「それが知らん。危ない上に俺が酷い目にあったからな。どこかに捨てちまった。」
捨てた?危険な刀なのに?そんな投げやりな。
つまり現状は行方がわからないということなのか?
「黄泉國は俺が創った刀の中でも随一の問題児で危険な刀でな。とにかく所有に困ってたんだよ。それに邪な妖怪や人間が持ったらエラいことになる」
「どうなるのかしら?」
「文字通り現世が地獄と化する。この世の終わりと言ってもいい。それと余裕で天下を取れるな」
そんな世界を揺るがすようなとてつもなく危ない刀を捨てたなんて……正直狂ってるとしか言いようがない。
あまりにもバカげてる。
「そんな危険な刀捨てるなんて……あんたどうにかしてるぞ」
「しょうがねぇだろ!!俺だって処分に困ってたんだよ。持ってるだけで毎日毎日俺の周りで殺し合いされて血なまぐさい争いを見てみろ。こっちがおかしくなるわ」
兼丸にも同情はしたいが、流石に天下を容易く取れて、この世を地獄と化させる武器を捨てるのはどうかとは思う。
「まぁあれだ。天の御霊天月は一振りで百の命を救い。人の斬は一振りで百の敵を薙ぎ倒す。地の黄泉國は一振りで百の亡者を蘇らせることだな」
「それを兼丸さんが全部?」
「お嬢ちゃん頭いいな。そうだよ。全部俺が創ったのさ」
死者を甦らせる刀に、一振りで百の敵を葬る刀、さらに天下を取れる刀を作れるなんて、この刀匠は一体何者なんだ?
少からず、普通の人間でもなければ妖怪でもない。ましてやそんな力があるとなると刀鍛冶の神様かその子孫の可能性があるかもしれない。
それはさておき、俺はちゃんと兼丸を極夜から助けた。本題に入るとしよう。
「それで? この刀のことだけど。この刀は一体何なんなのか?それとどうすれば斬撃破やら出せるんだ?」
「斬撃破ならさっき出したろ? お前も見たとは思うが、妖気の裂け目を見極めることだ。それに今のお前は初心者の初心者だ。まだ極めることはできない。」
妖気の裂け目?あの軌道のことを言ってるのか?だがあれは目が霞んで見えただけで、偶然としか言いようがない。
だが、練習する価値はある。努力すれば実ることだってあるのだ。それは紅虎さんが言ってた。
まぁ、教えることがないのなら仕方ない。今日はこれで退散するとするか。
「わかった。ありがとよ。」
「困ったら何時でも訪ねてこい。俺は暇してるから」
「それじゃあ行こっか幽々子」
「うん。」
そう言って二人は小屋から出ていった。
二人がいなくなった瞬間、兼丸の表情が険しくなり、何かを考えてるような表情をしていた。
「さて、あの小僧。随分と見所があるな。もしかしたらあの名刀の本領を発揮できる逸材かもな」
それがどう云う意味なのか、兼丸は全て知っていた。その斬の使い手がどんな結末を迎えるのかまで
それが楽しみで仕方がなかった。自分の最高傑作を完璧に扱える逸材が現れたのかも知れない。そう思うと心が昂ぶって滾る。
斬の奥義をある意味では会得した大和。この先に待つのは一体何なのか、それはまだだれにもわからない。