古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
斬撃破を知って、苦し紛れにも極夜に放ってから数日が経過した頃。
鍛錬をして朝飯を喰ってから、大和は昼間ずっと一人で何かを考えていた。
「ん~ん」
ひたすら悩み続けていた。まるで勉強とか研究でもしてるかのように。ただひたすら考えていた。
すると昼間の鍛錬を終えた妖夢が襖を開けて入ってきた。どうやら大和の様子を見に来たようだった。
「大和さん。調子はいかがですか?」
妖夢の声に反応して大和は妖夢の方向を見る。
「妖夢さんか。いや、ちょっとな」
「どうしました?ずっと悩んでるようですが」
そう、妖夢の言う通りずっと悩んでいた。
しかし、妖夢に言ったところで何も変わらない。これは自分自身の問題なのだ。一人で考えるしかない。
「別に大したことじゃない。大丈夫だから」
「そうですか……では失礼しますね」
そう言うと妖夢は頭を下げたあとに、襖を締めてその場を立ち去った。
妖夢がいなくなったあとも大和は頭を悩ませる。一体どうしたら良いのか。
「どうすれば良いかな……?」
「あら、悩み事なんて珍しいわね」
また突然だった。
背後にスキマを作り、その中から八雲紫が上半身だけ出して現れる。
もう日常茶飯事のことだったから驚きもしないし、神出鬼没の人だから何時来るのかもわからないので、普通に大和は取り繕っていた。
「紫さんか」
「なぁに?なんか良からぬことでも考えてたの?」
「別に大したことじゃない」
そう、これは人に話してどうにかなることじゃなかった。これは俺自身が考えて解決するしかない。
だが、俺より遥かに優れた知能を持ってる八雲紫だ。もしかしたら解決する可能性がある。
冷たい態度で、しかも一人で悩んでる同族をほっとけなかったのだろう。八雲紫は軽いスキンシップのつもりで大和の頭をツンと人指し指で突っついた。
「なんなのよ。冷たいじゃない。私に話せないことでもあるの?もしかして幽々子のことで如何わしいことでも考えてた?」
大和は顔を真っ赤にする。
幽々子のことは好きだが、如何わしいことなんて考えてなかったからだ。
「いや、違うって。ちょっと武術のことでな」
「武術?なんでまた?」
「半妖になってから思ったんだ。もしかして人間にはできない体術ができるんじゃないかって、それでずっと考えてたんだ。
でもどんな技ができるかイメージ湧かないうえ、まったく思いつかなくて」
そう。半妖になってから色々と変わった。
人知を超えた怪力。異常な敏捷性。あらゆる身体能力。どれを取っても人間の枠を遥かに超えていた。
そして何より、幻想郷ではそんな規格外の能力を持っていても負けた。死にかけたことが何度もある。
幽々子にこれ以上心配させないように。そして何よりも誰にも負けないために。自分だけの体術、武術を作り上げようと思ったのだ。
八雲紫はふーんと物珍しそうな目で大和を見ていた。大和の話を聞いてまるでなるほどねと言わんばかりに。
確かに大和は強い。元々血統としても強い上、過酷なトレーニングで鍛えてるので十分強かった。身体能力だけなら人間の中でも最上位に入るだろう。
人間が半妖もしくは妖怪になる時、人間時の能力の比例して身体能力などが強化される。
無論、半妖になった大和は並の妖怪以上に強い。単純な身体能力だけで言うなら最上位に入る可能性もある。
しかし、そんな能力を持っていても強くなろうと言うのは、最近二度も闘った相手、極夜が原因だろう。
極夜は純粋な大妖怪、自分もその存在には手を焼いている問題児。そんな相手と初見に加えて二度も闘うなんて不運としか言いようがない。良く生きていたものだ。
「仕方ないわね」
そう言うと八雲紫は新たにスキマを開く。
するとスキマの中から雑誌のようなものが何十冊も床に落ちた。
「なんだよ。いきなり。」
よく見てみると、コミックだった。
外の世界で俺が持ってるメジャーなコミックから、マイナーなもの、挙句の果てにエロゲから発展したコミックまである。
一体これを読んで何をしてくれと言うんだ?大和には八雲紫の考えがわからなかった。
「これ読んでみたらどうかしら? 意外とためになるかもよ」
「漫画の技を盗めってか。でも漫画の技ってほとんど非現実的だからな……」
「あら、貴方の存在も非現実的よ。それに貴方の身体能力なら案外簡単にできるかもしれないわよ」
大和は納得したような表情をする。
そういえば妖夢の縮地走法も出来たっけ?あれも人間の時なら習得困難だったけど、半妖になってからすぐに習得出来たな。
もしかして、人間には出来ないコミックの技も今の俺なら習得できるかもしれない。
あとはコミックの技の中に理に適った技を厳選して使えるかどうかを見極めるだけか。
「ありがとう紫さん。」
「別に良いのよ。それじゃあ幽々子によろしくね。」
そう言うと上半身はスキマの中に沈み、スキマが消える。
もう何も言うことも、アドバイスすることもなくなったから去ったのだろう。言わずとも行動で現わしてくれるのはとても素直なところがある。
八雲紫がいなくなると、大和はコミックに視線を向ける。
「さて、探索するか」
大和はコミックを手にとって読み始める。
《〜少年読書中〜》
コミックを読み始めてから数時間は経過したであろう。大和はひたすら本を読んでいた。
それから、会得したものが沢山あった。
確かに人間では出来ない技はあったが、今の半妖の身体なら習得が可能な技術はあり、それに加えて理に適った技も複数あった。
ただ、そのまま習得しても面白くはない。自分なりのアレンジを加えてちゃんとした技にするのもありだ。
紅虎から様々な技を教えられ、自分でもあらゆる流派の技や奥義を習得、経験してきた大和にとって、技を我流に変化させることなんて造作もなかった。
大和の知能指数、IQは平均程度だが、武術や格闘技、戦闘のことになると天才的な知能を誇る。戦闘IQが極めて高いのだ。
「なるほどな。」
正直、面白かった。自分で技を、しかも誰も習得することが不可能な流派を作るのが楽しくて仕方がない。心が高ぶってしまう。
数時間掛けて複数の技を作った。どれも完成度が高く、理に適った技の数々だった。
あとはこの技達を纏めてなんて言うかだ。
いくつか技があり、それを全てまとめ上げて作ったものは流派という。
つまり、創始者である俺が流派の名前を決める。
「さて、なんて言う流派にしよう?紅虎さんみたいに自分の苗字使おうかな?」
考えてる中、襖を開けて誰かが入ってきた。
襖を開けて入ってきたのは、大和の嫁の幽々子だった。
大和が考え事をしているのを見て、どこか興味津々な表情でコミックや大和に視線を向ける。
「あら大和、なんか楽しいことしてるわね」
「幽々子、どうした?」
「お昼ご飯食べてからずっと会ってないじゃない。寂しかったから部屋に来たのよ」
そっか、確かに昼飯食べてから、ずっと部屋に籠りっぱなしで幽々子の相手をしてなかったからな。新たな武術や技を作ることで頭が一杯で周りのことを全然気にしてなかった。
幽々子には悪いことをしたな。
「ごめんな幽々子。ちょっと考え事してて、でも大体纏ってきたから」
「なぁに?考え事って?」
「新しい流派を作ってたんだ。もう幽々子に心配かけないように、寧ろ幽々子を護るために。もっと強くなろうと思ったんだよ。」
自分のために強くなろうとしたことが余程嬉しかったのか、幽々子はパァと明るい笑顔になる。まるで新鮮な言葉を聞いたと言わんばかりに
自分は『死を操る程度の能力』を持っている。蓬莱人や不老不死でない限りはどんな生物でも即死させる極めて凶悪で恐ろしい能力を持っている。この能力があるが故に誰かに護られなくても問題はなかった。
しかし、幽々子も純情で男を知らなかったか弱い乙女、誰かに護れられる、況してやお互いに愛し合ってる夫に護ってあげると言われれば、ときめいてしまう。
「そっ、そんなぁ〜護ってくれるなんて……」
「護ってやる。どんな敵でも幽々子を護る。俺は幽々子の盾になる。」
そうだ。もう負けられない。誰にも負けたくはない。幽々子を護るためにも、そしてどんな敵が幽々子に降り掛かっても、俺は幽々子の味方であり盾になる。
こうして、大和は新たな体術を会得したと同時に、幽々子を護ることを改めて決意した。
この先どんな敵が相手になるのか、それはわからない。だが、どんな相手だろうと向かってくる敵は幽々子から払いのける。ただそれだけだ。