古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜 作:黒い小説家
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幽々子を置いて白玉楼から大和が出ていった後のこと。
スキマから飛び出し幻想郷に到着するのに数分も掛からなかった。もはや特急列車や飛行機など必要は無いほどに移動手段が早すぎた。
大和が幻想郷に辿り着くと、そこには異様な光景が広がっていた。
「なんだこれ?」
大和は思わず息を呑んだ。
空が真っ赤に染まっていた。太陽の光は一切差さず、しかし妙に薄明るい。実に不気味だった。
それにこの異様で息苦しい空気、空気中に妖気が含まれているのか、居心地が悪いが身体の調子が妙に良い。まるで羆に遭遇したような生きた心地がしない。
この世の終わりのような光景だった。こんな世界が外の世界にあれば間違いなく超常現象でテレビ局や自衛隊が殺到するだろう。
「これが……紅霧異変?」
「そうよ。びっくりした?」
驚くも何も、初めての光景だから唖然としていた。この世にこんな恐ろしくも超常的な現象があるなんて。
しかし、楽しみだった。どんなやつがこんな異変を起こすなんて、会って戦うのが楽しみで楽しみで仕方なかった。
恐怖よりも闘争心が湧く。
「それじゃあ私はこれで、異変解決よろしくね〜」
「ありがとな紫さん。期待に応えれるように頑張るよ。」
そう言うと八雲紫は手を振りながらスキマの中に入っていく、そしてスキマはすぐに閉じた。
しかし八雲紫がいなくなった瞬間、咄嗟に大和は気づいたことがあった。
それは紅霧異変を起こしている主犯格がどこにいるのか、何処にいけば良いのか教えて貰っていない。かなり致命的なことだった。
どうしたら良いのか?このまま闇雲に探しても疲れるだけ、俺は万全の状態で戦いたいというのに。
だが唯一の救いがあった。
それは妖気探知能力があったからだ。大和本人はまだ知らないしわかっていないが確かにその能力があった。
妖気探知能力、それは妖気を察知する妖怪や霊感の強い者が誰でも持っている特有の能力、相手の妖気の強さや妖気の気配を察知することができる意外と優れた能力。
大和は無意識に強い妖気の発している場所がある程度分かっていた。しかもそれは紅い霧の濃度が極めて濃い場所にある。
恐らくは霧の濃度が極めて濃い場所に主犯格の妖怪がいるのだろう。そう大和は推測した。
大和は自分の勘と強い妖気を目印に天駆で空を駆け巡り。空中浮遊しながら走った。
《〜一方、妖怪の山の奥〜》
妖怪の山の奥、人も妖怪も誰も寄り付かない場所。
そんな山奥で小さな山小屋から金属が叩かれる音が何度もしていた。
その音の正体とは、刀匠兼丸、伝説の刀匠と呼ばれた青年が刀を作っていたのだ。
紅霧異変が起きているのにも関わらず、自分の仕事に全うしている。まるで自分には関係ないと言わんばかりに。
しかし、流石に気になったのだろう。刀作成を一旦辞めて、外に出る。
そして空を見上げながら一言呟く。
「紅霧異変か……草薙の小僧……斬を使いこなせるのか心配だな」
まるで大和が紅霧異変に参加していることを分かっていると言わんばかりに兼丸は呟く。
まだまだ未知数の能力を持っている『斬』、使いこなせれば一騎当千、無敵の戦闘能力を得ることができるのだが、果たして大和はそれを習得するまで生きていられるのか?
それは大和本人次第、強くなるのも死ぬのも。
そう思いながら兼丸は仕事場に戻る。
《〜時は戻って大和がいる森の空〜》
天駆で数分は天を駆け巡ったであろうか、大和は強い妖気を感じる場所に行こうとしていた。
近づいていく度に妖気が強まり息苦しくなる。しかしそれと同時に身体の調子が良くなる。
本来、天駆を使うには爆発的な脚力と体力を使うので長期間使うには向いていないが、妖気を浴びているせいなのか身体の調子が良く、これなら無限に使えそうな感じだった。
天駆で移動していると奇妙な人影に遭遇する。
人ではない。飛行していた。それに黒い翼のような物が生えている。明らかに人間ではなく妖怪の類だった。
遠くからだと敵意も殺気も感じない。しかしこちらを認識しているようだった。
「なんだあれ?」
俺が向かっている方向に立ち塞がっている。まるで自分が来るのを待っているかのように。
早速の闘いなのか、それとも何か別の要件なのか、それはわからない。
どちらにしても俺が行きたい方向に立ち塞がっているのだ。話し合うなり闘うなりしてやる。
大和が人影の方向に近づいていくと、人影の正体は意外なものだった。
服装はシンプルに黒いフリルの付いたミニスカートと白いフォーマルな半袖シャツ、赤い靴は底が天狗のゲタのように高くなっている。黒のボブの髪型、その頭の上には赤い山伏風の帽子を被っている。
背中には猛禽類の黒く大きな翼が生えており、首にはカメラを掛けている。
もしかしてとは思ったが、この少女は烏天狗の類なのか?
大和は少女の前でホバリングしてその場に留まる。
「誰だお前?」
「どうも初めまして!私清く正しい幻想ブン屋の射命丸文と言います。どうぞお見知りおきよ!」
この烏天狗と思わしき少女は射命丸文と言うらしい。
戦闘が始まると思ったが、どうやら勘違いらしい。この天狗からは敵意も殺意も感じない。
しかしどうだろうか?何か違和感を感じる。この烏天狗は一見下手に出ているが妙だった。何かを隠している。いや、何か思惑があるような感じがした。俺の勘がざわついている。
射命丸に疑心暗鬼になる大和はひとまず会話する。
「俺は草薙大和。射命丸さんが俺になんか用でもあるのか?」
「いえいえ、特別なことではありません。幻想郷で見ない初めて見る半妖でしたからお声掛けしただけです。
それにしても凄いですね。その天を駆ける移動法。長年幻想郷に私もいますが初めて見る技ですよ」
まぁ確かに、妖怪なら森や山奥にいるし、人間なら人里に沢山いるとは思うが、半妖は見ないな。
それに今使ってる天駆に興味を示したのもお目が高いな。これは俺が独自で開発した技なうえに最近完成した出来立てほやほやの技だ。
しかし、俺が珍しい半妖、しかも初めて見るような移動法など、そんなことで俺を待っていた訳がないだろう。何か他に企みがあるはずだ。
「それはどうも。それで要件は何だ?そんなことのために俺を待っていた訳じゃないだろう?」
「あやや〜、話がお早いですね。実は私達この紅い霧に悩まされていて、誰かこの異変を解決してくれる英雄を探してたんですよ。そしたら大和を見かけまして」
人間が困るのは百も承知でわかっていたが、妖怪もこの紅い霧に悩んでいたのか。
しかし妙だ。
確か八雲紫の話によると異変は博麗の巫女が解決するものだと言っていた。別に英雄を探さなくても、既に英雄である博麗の巫女に頼めば良いのではないのか?
考えれば、この射命丸は別の思惑があると感じる。他人のためではなく、承認欲求や自分のためのようなものが。
いや、まてよ。もしかして。
「そんな大層なものじゃねぇ。異変解決なら博麗の巫女がやってくれるはずだ。それに射命丸、あんた新聞記者か何かだろ?英雄探しとか言って新聞のネタを探してる。とかだろ?」
すぐに理解した。この射命丸文は新聞記者、その証拠にカメラやペンを持っている。烏天狗の新聞記者とはハイカラで初めて見る妖怪だった。恐らく相当知能が高いと見える。
大和に見抜かれても、射命丸は態度を崩さずに下手に出る。
「あやや〜お見通しですか〜そうなんです。実はネタに困ってまして、大和が異変解決してくれれば幻想郷に新たな英雄が誕生とすると思いまして。」
なるどそういうことか。
確かにこの異変を解決して新たな英雄が誕生すれば新聞は飛ぶように売れる。しかも何の損も無しに得できる。俺はいわゆる金の成る木というわけか。
この射命丸という烏天狗、相当頭が切れて狡猾というべきか、自分のためなら下手に出ることも苦ではないと見える。
まぁ、射命丸の思惑にハマるわけじゃないが、俺もこの異変を解決するのに幻想郷に来たわけだし、新聞のネタにされようが関係ない。
英雄にも興味ないしな。
「まぁどちらにせよ、俺が異変は解決する。邪魔するなら受けて立つが?」
「頼もしいですねぇ〜貴方の邪魔なんてしませんよ〜
それよりも密着取材させてくれませんか?新たな英雄誕生をこのカメラに焼き付けたいので」
「それで?それをやって俺にどう得がある?」
「私実はこの異変を起こした主犯格の場所知ってるんですよ。大和さんも知りたいでしょ?私が道案内して大和さんが異変解決すれば利害は一致してると思いますけど」
まぁ、確かにそう言われれば。
俺も異変の主犯格を探していたわけだし。知っているというのなら教えてもらう必要がある。しかも新聞のネタにされるだけなら他愛もない。
断る必要がなかった。
「わかったよ。密着取材でも何でもしてくれ」
「ありがとうございます。ではまず大和の事を教えて頂けませんか?」
「俺のこと?」
「はい。だってこの先の未来で異変を解決して英雄になる人物のことを知らなければネタになりませんし。」
まだ異変も解決もしていないのに英雄になってるよ俺、別に英雄だの反英霊だのにも興味ないのに。よっぽどこの烏天狗は俺を英霊に駆り立てたいんだな。
まぁ良いや。取り敢えず適当に自己紹介して、適当に今までの経歴を話せばなんとかなるだろう。
「わーかったよ。聞きたいことあれば好きなだけ聞いてくれ。ある程度は話すから」
「ありがとうございます。ではまずですね。」
そして、射命丸文の密着取材が始まった。
だがホバリングしながらの取材は正直キツかった。
色々なことを吐かされた。自己紹介はもちろんのこと、身長、体重、どうゆうきっかけで半妖になったのか、何処に住んでいるのか、挙句の果てには好きな女性のタイプまで。
面倒だったが、これも異変の主犯格に辿り着くため、我慢するしかなかった。
質問に答え終えると取り敢えず取材が終わる。
「ありがとうございます。ではこれから本当の密着取材に取り掛かるので、かっこいいところちゃんと撮らせていただきますよ。
では異変の主犯格のいる場所に案内しますのでついてきてください」
「好きにしてくれ」
射命丸が飛行すると大和もそれのついて行く。
この烏天狗と異変解決するまでずっと一緒にいるのか?
足止めを喰らい。取材までさせられた大和。しかし異変の主犯格の場所を突き止めた。
そしてこの射命丸文との合同行動に振り回されるのか、それとも本当に新聞のネタにされるだけなのか?