古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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二十七話 氷の妖精の無も無き妖精

 ルーミアとの闘い後のこと。

 

 大和と射命丸の二人は紅い屋敷に向かっていた。

 

 出血は止まっているものの、さっきの闘いで食い千切られた腕が痛む。肉体の一部を喰われたのだ無理もない。

 

 しかし、驚くことに驚異的な再生能力で失った肉がみるみると戻っていく、まるでトカゲの尻尾のようだ。正直、自分でも気持ち悪いと思うほどに。

 

 妖気が濃いからなのか?それとも本来の再生能力なのか?それはわからない。だが治ることに越したことはない。

 

 それにしても、初っ端から妖怪と闘うことに羽目になるとは、紅い霧の影響で妖怪達が活発に行動しているのか?さっきのルーミアも黒い球体で現れたし。

 

「射命丸、紅い屋敷はまだか?」

 

「もうすぐです。霧の湖の近くなので」

 

 かれこれ数十分以上は天駆で移動している。幻想郷は意外と広いんだな。

 

 それから更に数十分後のこと。大和と射命丸は霧の湖に到着することになる。

 

 

          《〜霧の湖〜》

 

 

 霧が立ち込める湖の近くまでやってきた。

 

 湖は文字通り広く、船が無いと渡れないほど。

 

 妖怪の山の麓にあり、湖近くには紅い屋敷と、その反対側に廃洋館がある。普段は人が寄り付かない場所にある。

 

 この湖の周りは昼間になると霧で包まれており、視界は悪い。湖には妖精や妖怪が集まりやすく、特に夏は水場を求めて多くの妖怪が集まる。

 

 紅い屋敷の付近までやってきた大和と射命丸、射命丸はともかく大和はやっとの思いで辿り着いた。

 

 そして、何よりも屋敷から漂う異様で強大な妖気、近くにいるだけで息苦しいが、その反面で身体が絹のように軽く調子が良くなる。これも妖気のせいなのか。

 

 それよりもあの紅い屋敷、射命丸の言った通り西洋の館だがあまりにも大きすぎる。不気味だが、どこか品性があって人を魅了する感じがする。外の世界にあったら重要文化遺産になっているレベルだ。

 

「あれが紅い屋敷」

 

「はい。私も独占取材を試みましたが入れなくて、謎の多い館なんですよ。」

 

 入れない?何故?なんか仕掛けでもあるのか?人間の技術ではない、魔法やオカルトのようなもので。

 

 取り敢えずだ。行けばわかる。真正面から殴り込んでいけば入ることができるだろう。

 

 大和は脳筋だった。

 

「行こうぜ」

 

 その瞬間だった。

 

 大和の右肩に何かで貫かれたような鋭い痛みが走った。

 

 痛みだけではない。冷たかった。

 

「畜生……なんだよ?」

 

 痛みの正体を知るために右肩を見てみると、右肩には鋭い槍のような氷が刺さっていた。

 

 だれだよ、こんなことするのは?不意打ちにも程があるぞ。心眼を使わなかったうえに、気配を察知できなかった俺にも否があるとはいえ。

 

 ようやく人間でも妖怪でもない気配を感じ取り、後ろを見てみるとそこには少女がいた。

 

 髪は水色で、ふわふわのウェーヴがかかったセミショートヘアーに青い瞳。背中には氷の結晶に似た大きな羽を六枚持ち、頭の後ろに青い大きなリボンを付けている。 服装は白のシャツの上から青いワンピースを着用し、首元には赤いリボンが巻かれている。

 

 そして、まるで勝ち誇ったかのような態度で笑い、大和を指さしながらこう言った。

 

「どうだ赤髪!!アタイの縄張りに入るからこうなるのよ!」

 

 それに対して大和は肩に突き刺さった氷を抜く。

 

「てめぇ誰だよ?いきなり不意打ちなんて」

 

「あんた馬鹿なの?縄張りに入るからこうなるって言ってんじゃん」

 

「そんなの知るかよ、いきなり攻撃するなんて野蛮にも程があるだろ。一歩間違えれば死んでたぞ」

 

 まだ肩に刺さっただけで良かった。褒めたくないが、この氷は武器としてはかなり良く作られている。これが心臓や喉に突き刺さったら間違いなく致命傷だった。

 

 だが、あまりにも野蛮過ぎる。縄張りに入ったとはいえ、普通は威嚇したりして追い返すはずだ。それをいきなり凶器を投擲するなんて。

 

「あんたが悪いんじゃない!アタイは縄張りに入ってきたやつを氷漬けにするか痛めつけるって決めてるの」

 

「どんな了見でそんなことしてんだよ?それじゃあ何だ?お前自分の縄張りに入っきたら殺しても良いと思ってるわけ?」

 

「そんなこと考えたことないわ!だって死んでも復活するんでしょ?」

 

 これは驚いた。

 

 こいつ人や人妖が死んでも甦ると思ってやがる。完全に常識外れ、いや単に馬鹿なだけか。かなり質が悪い。

 

「お前馬鹿だろ?人や妖怪は生き返らない。悪いけど常識だぞ?」

 

「……はっ!?あんた今アタイのことバカって言ったね?言ったよね!?」

 

「だって本当のことだろ?」

 

「ムッキー!!アタイはバカって言われることが嫌いなの!!あんた絶対に許さない!!」

 

 もしかしてだけど俺地雷踏んだ?

 

 これってやっぱり戦闘になるパターン?

 

 紅い屋敷に到達する前にまた闘う羽目になるの?

 

「チルノちゃーん」

 

 そんなことを思っているとまたしても少女がチルノと名前を呼びながら氷を使う少女に向かって飛んでくる。

 

髪の色は緑、左側頭部をサイドテールにまとめて黄色いリボンをつけている、服は白のシャツに青いワンピースを着用しており首からは黄色いネクタイを付けて、背中には虫とも鳥ともつかない縁のついた一対の羽が生えている。

 

「チルノちゃん駄目だよ。いきなり攻撃したら危ないでしょ?」

 

 おてんば過ぎるチルノとは違って、現れたこの少女には礼儀と常識が多少あるらしい。

 

「だって大ちゃん。こいつアタイの縄張りに入ってきたんだよ?」

 

「それでも駄目だよ。チルノちゃん力強いんだから、もし間違えれば相手死んじゃうんだよ?」

 

 どうやら、この大ちゃんと呼ばれてる少女はチルノと違って知識もちゃんとあるらしい。

 

 チルノと大ちゃんが話している間に、大和は射命丸に話しかけてくる。

 

「射命丸、なんだあいつら?妖怪でも人間でもないようだが?」

 

「あれは妖精です。特にチルノ、氷を使う妖精は妖精の中でもかなり強い力を持っています。」

 

「なるほどな。でも頭は悪いようだが」

 

「それは確かにそうですね。」

 

 だが、頭が悪くて良かった。これで知能が高かったら、かなり面倒で厄介な敵になるところだった。

 

 それはさておき、大ちゃんと呼ばれる妖精が引き止めている間に紅い館に行こう。無駄な戦闘は正直な所避けたいから。

 

「行こぜ射命丸」

 

「はい。」

 

 大和と射命丸がその場から退散しようとしたことだった。

 

「待ちなさい!!」

 

 チルノが呼び止めてきた。まだ何かあるのか。

 

 ため息をついて呆れた表情を浮かべながら大和は返答する。

 

「なんだよ?」

 

「ここを通りたかったら、アタイを倒してから行きなさい!」

 

「それじゃあ何だ?お前あの紅い館となんか関係あるのか?」

 

「そんなの知らないわ。ただアンタが素通りしていくのが気に食わないだけよ!」

 

 このチルノ、氷を使う癖に血気盛んと言うべきなのか、それとも単にバカなのか、正直相手をするのが面倒極まりなかった。

 

 これなら、ルーミアを相手にしていたほうが何倍もマシだと思うほどには。

 

 だがしかし、その戦闘意欲と縄張りへのプライドに免じて相手をしてやろう。そして思い知らせてやる。圧倒的な力の差を。

 

 油断はできない。チルノはバカらしいが、さっきの氷の槍を見て察した。知能は底辺だが戦闘IQは普通に高い。

 

「わーかったよ。倒せば良いんだろ?」

 

「いい心がけね!氷漬けにして飾ってやる!」

 

 戦闘が始まった瞬間、心眼を使った。

 

 それは驚くべき光景だった。

 

 大和は咄嗟に天駆と共に瞬歩を使った。その場から消えたのだ。

 

 それは正解だった。

 

 チルノは無数の氷の槍を生成して放った。

 

 数十の問題ではない。数百以上の氷の槍だった。まるで槍の雨のように降り注ぐ。

 

 幸いなことに大和は回避することができた。

 

 覚えがあった。下位互換とはいえ、まるで八雲紫が使っていた。スキマから放つ無数の宝具を投射するコミックに出て来る技。チルノも使えたのか。

 

「こいつ、厄介だな……」

 

「逃げるなぁ!!」

 

 大和に向かって氷の槍を発射する。

 

 あれだけの攻撃を一気に放って体力は大丈夫なのか?底なしなのか?それとも単に後先考えずにただバカみたいに放っているだけなのか?それはわからない。

 

 しかし、あれだけの攻撃、永遠に続くわけがない。

 

 それに対して大和は爪を立てる。斬撃拳の体勢を取った。

 

 そして、自分に向かって飛んでくる氷の槍を素手で打ち払う。

 

 数百以上飛んでくる無数の氷の槍、いくら弾丸のスピードを避けれる程の動体視力がある大和でさえ、数の暴力には敵わなかった。

 

 粉々に砕いても砕いても氷の槍は降り注ぐことを止めない。自分が力尽きるまで収まることはないだろう。

 

 氷の槍を対処して数秒後、大和は凄まじいスピードで飛んでくる氷の槍に加えて数の暴力に圧倒される。

 

 そして、砕きながらも対処出来なかった氷の槍が身体中に突き刺さった。

 

「……ちっ!」

 

 身体中から鮮血がほどばしる。まるでトゲが生えてるかのように腹、肩、腕など身体中には氷の槍が突き刺さっている。あまりにも痛々しい。

 

 このまま受けの防御に回っていても対処はできない。そう大和は判断したのだろう。

 

 大和はその場から消える。瞬歩を使ったのだ。

 

「あっー!また逃げたー!」

 

 大和が消えると、チルノは頭に血が上り、あちらこちらを探す。

 

 何処を見ても見当たらない。まるで消えたかのよう。

 

 しかし、次にチルノが大和の姿を目にしたのは。

 

「バーカ、上だよ。」

 

「えっ?」

 

 チルノに向かって大和は拳を空振りした。

 

 だが、拳から強烈な破裂音と共に竜巻のような強力な風圧が発生した。超体術の音速拳である。

 

 チルノは回避できず。風圧をまともに受けて湖に向かって飛ばされる。

 

 そのまま何の抵抗もできずにチルノは湖に叩きつけられ、盛大に水飛沫が飛び散る。まるでクジラの潮吹きのようだった。

 

「手こずらせやがって」

 

 身体中に突き刺さった氷の槍を引き抜くと、ドクドクと血が垂れ流れる。

 

 これは治癒するのに時間が掛かるのか?でも鋭利な刃物で刺されようなものだからな、ワンチャン治るの早いのかも

 

「行こうぜ射命丸。長居は無用だ。」

 

「さて、それはどうでしょう?」

 

「どうゆう意味だ?」

 

 その場を立ち去ろうと思ったその時だった。

 

 背後から無数の氷の槍が飛んできた。

 

 殺気を感じ取った大和は全て避ける。

 

「あの野郎!まだやるってのか?」

 

 湖からチルノが飛んでくる。しかもさっきと違って殺気と冷気を纏っており、明らかに怒っているようだった。

 

 周囲の湖が凍りつき、まるで北極か南極のようだった。

 

「赤髪のくせに……アタイをコケにして……絶対に許さない。」

 

 チルノは背後に無数の氷の槍を生成すると同時に両手に氷で作った剣を持った。

 

 戦闘スタイルが変わった。今までは無数の数の暴力で投擲して敵を圧殺するしか能がなかった単純な戦闘だった。

 

 しかし、今のところ剣を持っているところを見ると、遠距離型+接近戦になった。つまりオールランダー、万能型の戦闘スタイル。

 

 完全に失敗した。音速拳の風圧だけで制圧しようと思っていたが逆効果だった。チルノの逆鱗に触れてしまった。これならまともに拳を喰らわせて戦闘不能にしたほうが良かった。

 

「もう氷漬けにして飾ってあげない!!バラバラして湖に捨ててやる!!」

 

 猪突猛進の如くチルノは大和に向かって突っ込んでくる。

 

 接近した瞬間、チルノは大和の胴体に向かって剣を振るった。

 

「ちっ!」

 

 大和は余裕を持って回避する。

 

 しかし避けられても尚、次々へとチルノは剣を振るう。

 

 その度の大和は剣を回避する。

 

 上下左右へと、まるでパフォーマンスのような動きで回避する大和、素手はもちろんのこと武器相手に幾戦の戦闘を潜り抜けきた大和に取っては心眼を使わなくても避けるのは造作もない。

 

 数百は繰り出してきたであろうチルノの剣戟、流石に疲れたのか動きが。

 

「はぁ……はあ……はぁ……」

 

 この野郎。ただ剣を作って闇雲に振るっていると思ったが、それは間違いだった。

 

 お世辞にも剣術とは言えないが筋は良い。もし剣術の師匠がいれば化ける逸材だった。それにどこから飛んでくるのかわからない不規則な剣筋、武器に対する戦闘経験が無ければやばかった。

 

 正直、厄介だった。

 

「もうやめにしようぜ。」

 

「何言ってるのよ?はぁ……あんたを倒すまでやめないわ」

 

 再びチルノは突っ込んでくる。

 

 それに対して大和は爪を立てる。再び斬撃拳の体勢だった。

 

 二本の氷の剣を大和は素手で受け止める。

 

 鍔迫り合いが始まった。

 

 いくら相手が力のある妖精とはいえど、力は圧倒的に大和がうえだった。それもそのはず、大和の腕力は一トンある大岩を軽々と持ち上げるほど。

 

 大和が押している最中のことだった。己の腕力に慢心して心眼を使っていなかったことが仇となった。

 

 大和の背中に鋭い痛みが走った。

 

「……ぐっ!?」

 

 大和の背中には氷の槍が刺さっていた。

 

 チルノは接近戦を行うと同時に飛び道具も使っていたのだ。

 

 大和の力が抜けて、氷の剣が解かれるとチルノは容赦なく大和の身体を袈裟懸けで斬りつけた。

 

 しかし、幸いなことに氷の剣は日本刀のような鋭利な物ではない。精々一週間研いでない鈍ら包丁程度の物だった。

 

 斬られたのも肉のみ、内臓や骨までは到達してはいない。

 

 だが、それ故に鈍い痛みが身体に走る。

 

「どうだー!?」

 

 完全に勝ち誇ったチルノ。もはや大和は全身血だらけの満身創痍のように見える。

 

 しかし、次にそれが大和の逆鱗に触れることになるとはチルノは知らない。

 

「図に乗りやがって……」

 

 殺気は感じないものの、怒涛の表情で大和は怒る。

 

 見た目が少女だということで手加減して勝とうと思ったが、このままでは埒が明かない。

 

 大和はその場から消える。

 

 そしてチルノを軸に円を描くように天駆と瞬歩で走り回る。

 

 あまりにも突然の出来事にチルノは困惑した。何が起こっているのかわからなかったのだ。

 

「えっ?なにこれ?」

 

 その瞬間、チルノに向かって空気砲が四方八方から飛んできた。音速拳だった。

 

 風圧で飛ばされると思いきや、右から受けては左から飛んできて飛ばされず、前から飛んできたと思えば後ろからも飛んでくる。ハメ技だった。

 

 容赦のない大和の攻撃にチルノは何の成す術もなかった。

 

 直接的なダメージが無いとはいえ、徐々に弱っていくチルノ、避けることも反撃することも不可能。

 

 そして、チルノがついに意識を失う瞬間だった。

 

 大和は円を描くことをやめて、天高く飛んだ。

 

「風神脚」

 

 チルノに向かって足から放たれる飛ぶ斬撃『風神脚』を放った。

 

 無論、チルノがこれを避けられるはずもなく、まともに喰らってしまう。

 

 そのままチルノは斬撃と共に湖へと再び落ちる。

 

 チルノ、戦闘不能。

 

 それから数秒後、チルノが意識朦朧としながら湖から浮かんでくる。

 

 それを見た大和はチルノに近づいていき。こう喋った。

 

 もう大和は怒っていなかった。寧ろどこか満足そうに安心した表情だった。

 

「チルノ、お前は強かった。」

 

「へっ……へへ……」

 

 チルノも負けたはず、しかも意識朦朧なのにも関わらず笑っていた。

 

 そう言うと大和は大妖精の元へと天駆で接近する。

 

「おい。お前チルノの友達だろ?看病してやれ。」

 

「えっ!?はっ、はい。」

 

 そう言うと大妖精は湖でのびているチルノに向かって行った。

 

 これで終わりだ。随分と厄介な敵に会って闘った。

 

 大和も射命丸の元へと行く。

 

「行こうぜ。」

 

「はい。いい写真取らせて頂きました。」

 

 いい写真って……あれ結構苦戦してカッコイイところなかったんじゃ。恥ずかしいもの撮られたな。

 

 そんなことはさておき、ようやく大和は紅い館に行くことが出来る。

 

 いくら妖精の中でも強い部類に入る力のある妖精とはいえ、苦戦してしまった大和。それにかなりのダメージも負っている。果たしてこの先に待ち受ける敵達に勝つことができるのか?

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