古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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二十八話 紅い館の門番

 チルノとの戦闘後のことだった。

 

 大和は傷だらけ、しかも人間ならかなり致命傷な手傷を負いながらも移動していた。

 

 正直、慢心していたとはいえチルノは強かった。妖精の中でも上位に入る力を持っているだけあって戦闘能力は高かった。捕食しか能が無かったルーミアとは明らかに異なる。

 

 かなりの傷は負ったものの、既に尋常ではない回復能力で傷が再生しており、これだとすぐに治るだろう。

 

 しかし、大和が手こずったうえにかなりのダメージを負ったことが気になったのだろう。射命丸は心配そうな表情で大和を見ながら移動している。

 

「大丈夫ですか?かなり痛そうですけど」

 

「問題ないよ。戦いに傷は付き物だ。この程度で根を上げていたら戦士にはなれない。」

 

 俺が人間の時にも、武器相手に戦って手傷を負ったことは何度もあった。しかし、痛みやダメージ如きで動きが鈍ってしまえば死を意味する。紅虎さんの教育で苦痛に耐える修行をしてきた。その程度で根を上げていたら俺は強き戦士にはなれなかった。

 

 それに鬼との戦いでも腕を失おうが、日本刀で斬られたような痛みにも耐えることができた。況してや半妖になってからも痛覚が鈍くなっており、どんなダメージにも耐えることができる忍耐能力を得た。

 

 痛みに対する耐性があまりにも高い大和、それを射命丸は思わず感服するしかなかった。

 

「凄いですね。私はあんな攻撃受けたら痛くて泣いちゃいますよ。」

 

「泣くだけで済むのかよ?」

 

 やはり妖怪はおかしい。人間とは別次元の存在である。普通ならあんな攻撃をまともに受けていたら泣くどころか失神する可能生がかなり高い。

 

 痛覚に関しては妖怪は人間というより昆虫に近いのではないのか?昆虫は腕などの身体の一部を損失しても平気で動いて逃げることができる。その理由は痛みで嘆いていては獲物として狩られるからだ。

 

 そういえば俺もそうだったな。一応半妖だし。半分妖怪だから痛覚が妖怪に似通っているのか。

 

「さて、もうすぐ到着しますよ。」

 

「おう。」

 

 どんな敵が待っているのか楽しみだった。戦闘意欲が高鳴り闘争心が湧き上がる。それと同時にアドレナリンが分泌されて傷口がみるみると治っていく。

 

 

         《〜紅い館にて〜》

 

 

 

 紅色を基調としており、屋敷には時計台がある。館には窓が少なく日光が入らないようにしていると思われる。周りの景色に対して明らかに酷く浮いている。

 

 明らかに館は大きく圧巻の一言、もはや城と言うべきか、不気味な反面、どこか上品な品性を感じる。もし外の世界にあったら重要文化遺産に登録されていただろう。

 

「なんだこれ?」

 

 日本の和風の屋敷とは違う。西洋特有の建築物に圧倒された。

 

 こんな立派な館に妖怪が住んでいるとでも言うのか?一体どんな貴族のような妖怪がいるのか?理性を持っているとかどうこうの問題ではない。明らかに人間並み、もしくはそれ以上の品性と知能を持っているはずだ。

 

 取り敢えず、取り敢えずだ。中に入ってみれば分かる。

 

 館に入るためには赤い壁と鉄格子の門がある。まるで城壁のようだった。

 

 門の前には筋肉質には見えないほっそりとした女性が立っていた。

 

 髪の色は赤く腰まで伸ばしたストレートヘアー、頭には「龍」と一文字書かれている星型の飾りが付いた緑色の帽子を被っており、側頭部の髪を編み上げてリボンを付けて垂らしている。

 

 服装は華人服とチャイナドレスを足して二で割ったような淡い緑色を主体とした衣装を着ている。目の色は青がかった灰色をしている。

 

 恐らく門番なのだろう。門の前に立ちはだかるということはそういうことだ。

 

 大和と射命丸が門の近くにやってくると、門番と思わしき人物は二人の気配に気づいて話しかけてくる。

 

「おや、また侵入者ですか?それに顔に覚えのある人妖もいるようで」

 

 顔に覚えのある人物とは射命丸を指していた。どうやら侵入を試みてみたらしい。

 

 妖怪にしては一見礼儀正しい。門番として礼儀作法や侵入者に対しての対応が行き届いている。恐らく主人の顔に泥を塗らないように洗練された作法を身体に覚えさせているのだろう。

 

「射命丸、こいつに覚えが?」

 

「はい。この館の門番です。ですが、どうしても館には入れてもらえなくて。」

 

 門番としての役割を徹底してる。つまり相当実力派の人妖なのか。

 

 それにしても、門番から感じるこの人妖とも妖精とも異なる異様な気配、それに隠せない強大な闘気、間違いなく戦闘能力は高く強い。

 

「この紅魔館に何か用ですか?侵入を試みるなら容赦はしませんよ。」

 

 どうやらこの館は紅魔館というらしい。確かに紅い魔物が住む館としてはシンプルで品性のある名前だ。

 

 容赦はしない。それは戦闘が始まることを意味する。だが、それは大和に取って好都合、またしてもない強者との戦闘ができる絶好のチャンスだった。

 

「そいつは好都合だ。真正面から正面突破してその紅魔館とやらに侵入してやるよ」

 

 そう言うと門番の気配が豹変する。穏やかそうな気配からまるで闘争心に火が付いたかのように、侵入を試みる者を排除するために闘う決意を決めたかのように。

 

 門番の気配はまるで覇気と龍を彷彿させるような強大で威厳のあるもの。半妖の大和とは明らかに違う。

 

「私は紅美鈴、紅魔館の門番を務める者。赤髪の半妖、その名を聞きましょう。」

 

「俺は草薙大和」

 

「大和ですか……日本が誇る大和魂を持つ少年ですね。」

 

 正直、紅美鈴は出会ったときから気付いていた。本能で大和の強さを。

 

 この少年は明らかに普通とは異なる。気配も肉体も精神力も、大げさに言えば英雄の素質がある。幾戦の戦いを潜り抜けて、悠久の時を生きてきた自分が想像もできない過酷な試練や難行、訓練を乗り越えてきた戦闘をするために生きてきた究極の戦士の結晶。

 

 この大和は強い。美鈴はそう感じた。

 

 手加減は一切無用、自分の出せる力技を出して挑んでみせよう。美鈴はそう決意した。

 

 それに対して大和もこう思った。

 

 この美鈴は強い。一見礼儀正しく穏やかそうに見えるが、どこか紅虎さんに似ている。

 

 恐らく長い日々を生きて鍛錬を繰り返したのだろう。自分と同等かそれ以上の修行を積んでいると推測できる。

 

 油断はできない。傷はまだ完治していないが戦えない訳ではない。自分が出せる能力をありったけ引き出そう。

 

「行くぞ」

 

「来なさい!」

 

 その瞬間、大和は美鈴に接近する。

 

 百メートルを五秒で走り抜ける神速の足、普通の人間なら目にも止まらない異常な速さ。

 

 半妖の大和だからこそできる力技。

 

 しかし美鈴は大和を完全に捉えていた。優れた洞察力を持っている。

 

 そして大和は美鈴に接近して射程距離内に入った瞬間だった。

 

 大和は牽制で左ジャブを放つ。

 

 半妖になったことで強化された。音速の一歩手前の速さを誇る左ジャブ。普通ならまともに喰らうことになる究極の先制攻撃。

 

 だが、そんな究極の一手にも関わらず大和が心眼を使うと予想外の出来事が起きた。

 

 美鈴は大和の究極とも呼べる左ジャブを難なく受け止める。

 

 そして、反撃と言わんばかりに手を捻ると、大和の腕は捻れて身体が宙に浮かび回転する。

 

 しかし、それは想定内。大和は心眼を使っていたからだ。

 

 身体が回転していた大和は一切の抵抗をせずに捻れる力に任せて回転する。

 

 回転が収まると、大和は地面に着地する。

 

 それと同時に美鈴から手を振り払った瞬間、大和は左ジャブからの右ストレートを放つ。ボクシングで言うワンツー、オーソドックスの技だ。

 

 閃光のジャブに加えて、腰、肩、腕などの関節を連動させて重みとスピードを活かした右ストレート。

 

 まともに受ければKO間違い無しの渾身の攻撃。

 

 しかし美鈴は難なく避ける。

 

 そして、反撃と言わんばかりに大和の顔面に向かって右拳を放った。

 

 その瞬間、大和は異様な違和感を感じた。

 

 この右拳、ただの攻撃ではなかった。自分よりも明らかな小さな拳だが、何か巨大なものを感じる。まるで自分の身の丈を超えるような巨大な鉄球を彷彿とした。

 

 大和は尽かさず回避する。

 

 しかし、それだけでは止まらない。

 

 美鈴は大和の顔面、胴、腕、腹部に至るまでありとあらゆる箇所を攻撃する。それも、あの違和感を感じさせたまま。

 

 まともに受ければ、間違いなく何かある。それも回避しなければならない。そう感じた。

 

 大和は心眼を使って攻撃を難なく避ける。何度も何度も。

 

 それと同時に、攻撃を繰り出す。打拳、手刀、蹴りなどありとあらゆる攻撃法で。

 

 激しい攻防戦が繰り広げられる。両者一歩も引かずに攻撃と防御や回避を何度も扱う。

 

 もはや喧嘩ではない。武術の演舞や総合格闘技の延長線、高度な武と武のぶつけ合い。それは見るものを魅了するものだった。

 

 しかし。そんな攻防戦も長くは続かない。

 

 神経を削り、更には前の戦いで負った痛みが襲ってきた大和が一瞬だけ動きが鈍くなる。

 

 その隙を見逃さずに突いて美鈴は腹部に向かって右拳を放った。

 

 大和は心眼を使うと、咄嗟に超体術の一つ『鎧装』の体勢に入った。

 

「ッ鎧装!!」

 

 その時だった。

 

 刀剣の攻撃を防ぐほどの鎧の防御力を誇る鎧装を使ったのにも関わらず、大和の身体は宙に浮かんだ。攻撃を防ぎきれなかったのだ。

 

 そして、五メートル程は宙に浮いて後退したのか、美鈴との距離がかなり遠くなる。

 

「ゔっ。あがっ!!」

 

 あまりにも強烈で強力な威力の美鈴の右拳をまともに受けた大和、その代償に腹部に激しい痛みが走り、挙句の果てに吐血する始末。

 

 鉄壁の防御力を誇る鎧装が打ち破られたのだ。

 

 そうか、そういうことか、あの妙な違和感はそういうことなのか。

 

 美鈴のやろう。脱力が尋常ではない。

 

 打撃、バッティング、投擲など、ありとあらゆる行動、瞬発力を発揮するには「脱力と緊張の振り幅が要」という原理とされる。その度合いを高め続ける脱力は爆発的な瞬発力を生み出す事が出来る。

 

 その打撃を何度も何度も、しかも緊張感が走る攻防戦の中でまるで息をするかのように撃ち続けるのは至難の技、俺でも出来るかどうか怪しい。

 

 化物過ぎる。

 

「あの打拳を喰らってもまだ立ってるなんて凄いですね。鎧装と言いましたか?初めて見る技ですね」

 

「ふざけんな。こっちのセリフだ。鎧装は刀剣を防ぎ、ある程度の攻撃を無力化させる防御術だ。生半可な攻撃じゃ破れない。それを簡単に打ち破って、しかも内蔵までダメージを与えるなんて、明らかに普通の打拳じゃない。」

 

「分かってるでしょ?打拳とは脱力と緊張の振り幅、それを限界まで高めた結果が私の攻撃です。」

 

「それも納得いかねぇ。あの攻防戦の中で一切緊張せず、脱力に徹しながらあの打拳を放ち続けるなんて」

 

「単純ですよ。長生きしてるので、いろんな敵と戦って身につけたものです。」

 

 明らかに自分との精神力の次元が違う。

 

 もしかしたら紅虎さんと同等レベルの精神力を持っている。あの人も戦闘で緊張している様子が一切無かった。寧ろいつも余裕そうにしていたからな。

 

 それにしても、心眼を使っていたのにも関わらずまともに攻撃を喰らってしまった。紅虎さんに見られたら間違いなく説教案件だ。

 

 それに対して、美鈴も先ほどの打撃をまともに喰らっても尚立っている大和に感心したのだろう。今の技だけでは大和は倒せない。本気を出さなければいけないと思いこう言った。

 

「それでは見せてあげましょうか。私の本気。」

 

 大和は再び美鈴に向かって突っ込んでいく。

 

 そして、接近して射程距離範囲内に入った瞬間、今度は前蹴りを放った。

 

 単調で真っ直ぐの蹴り、閃光の左ジャブを意図も簡単に避けることができる美鈴に取っては避けることなど造作もなかっただろう。

 

 しかし、美鈴は避けなかった。

 

「……っ!?」

 

 自分の前蹴りをまともに受けた美鈴に驚愕する。一体なにを血迷ったのか?

 

 だが、それも美鈴の想定範囲内のことだと知らされるのは数秒のことだった。

 

 前蹴りを受ける瞬間、美鈴の身体は宙に浮いていた。自分で宙に浮かせていたのだ。

 

 そして、美鈴の身体は回転する。大和の渾身の蹴りの威力を吸収していたのだ。

 

 それと同時に、大和に顎に向かって回転しながら蹴りを放った。

 

 大和はまともに蹴りを受けると、アッパーをされたかのように顎が跳ね上がり身体が宙に浮かぶ。

 

「あがっ!!」

 

 自分の攻撃+美鈴の威力を重ね揃えた一撃をまともに受けた大和。鎧装を使わなかったそのダメージは計り知れない。

 

 大和は受け身を取ると同時に倒れずに体勢を整える。

 

 それに対して美鈴は大和の攻撃を完全に殺して、回転が収まると軽やかに地面に着地する。

 

 大和は尽かさず美鈴の横顔に向かってフックを全身全霊で振り被る。

 

 美鈴は懲りずに大和の攻撃をまともに受ける。

 

 そして再び攻撃を喰らう前に身体を宙に浮かせる。

 

 美鈴の身体は大和の攻撃を吸収するかのように、まるで車輪の如く高速で横回転する。

 

 それと同時に横蹴りを大和の顔面に向かって放った。

 

 だが、その攻撃も二度も受ける訳じゃない。それは三流がやることだ。

 

 大和は横蹴りを腕で防御する。

 

 しかし、あまりにも威力が強すぎたのか、大和の身体は横に向かって飛んでいった。破壊力が強すぎる。

 

 地面を抉りながらも大和は美鈴の攻撃の威力を殺して、なんとか持ち堪える。

 

 そして、大和はあることに気づく。

 

「……まさかな?」

 

 見たことがある技だった。美鈴の技。まるで宙に浮かぶティッシュペーパーに剃刀を当てるような感覚。相手を無力化させる技術。

 

 現世にいた時、紅虎さんが使っていた技だった。確か高級技と呼んでいた技だ。

 

 まさか幻想郷でもあの技を見る。しかも使い手がいるなんて夢にも思わなかった。

 

「お前も使えるのか、その技」

 

「おや、知っていましたか?」

 

「あぁ、俺の師匠が使ってた技だ。だが、名前は教えてもらえなかった。」

 

「凄いですね貴方の師匠。これは消力という技です。」

 

 消力(シャオリー)、力の極意である脱力、それを極限まで高める事で実現する中国の防禦術。

 

 通常人間は攻撃が迫れば反射的に体を強張らせてしまうが、それ故にまともに衝撃を受けてダメージを負ってしまう。

 

 しかし、その本能的な反射をも克服し、極限まで脱力する事で攻撃が直撃しても身体を攻撃に合わせて動かし、衝撃を発生させる事無く受け流し、吸収してしまう。

 

 美鈴は妖怪の身ゆえ、長い時を経て、己の体重を消すほどの脱力を誇る消力を得て習得した。

 

 だが、驚くべきはそれではない。

 

 普通、消力は人間であればほとんどの人生を修行に費やせばならない。しかし御巫紅虎は三十歳という若さで習得している。本来なら有り得ないことだ。紅虎は天才とも呼べる才能と努力した結果だろう。

 

「消力……」

 

「良い技ですよ。ただ習得にはかなりの修行を積まないといけませんが。」

 

 それもそのはず、消力とは本能的な反射を克服するようなもの、生半可な修行や訓練では習得することはできない。

 

 ボクサーは長い経験と幾千も殴られることで、パンチをまともに受けても瞬きしないと言われている。

 

 だが、それでも尚、大和はこの消力をいずれは習得したいと思った。

 

 そして、その消力を前に思った。もう生半可な技術では対抗できない。自分が出せる能力と体術を披露しようと。

 

「それじゃあ見せてやるよ。俺だけの体術を」

 

「ほう。貴方だけの体術ですか」

 

 大和は構えを取る。

 

 そして、大和はその場から姿を消した。超体術の一つ『瞬歩』を使ったのだ。

 

「……消えた!?」

 

 次に現れたのは美鈴の背後だった。

 

 気配を察知していた美鈴は背後から闘気を感じており。回避する体勢を取った。

 

 それから案の定、大和は美鈴の頭部に向かって高速の横蹴りを放った。

 

 しかし、美鈴は背後からの攻撃なのにも関わらず、まるで後頭部に目があるかのように大和の横蹴りを回避する。

 

 回避した瞬間、大和の足から鎌鼬が発生した。そして湖に向かって鎌鼬は飛んでいく。超体術の一つ『風神脚』だった。

 

「……鎌鼬!?」

 

 美鈴は大和の方向を見て構える。

 

 次に大和は己の爪をまるで獣のように立てる。

 

 そして、まるで猛獣が如く斬り裂かんと言わんばかりに、大和は美鈴を爪で攻撃する。超体術の一つ『斬撃拳』である。

 

 幸いなことに動きが単調でシンプルだった斬撃拳、美鈴は何度も避ける。

 

 だが、大和の爪が美鈴の服に掠ると、まるで日本刀に切られたかのように綺麗に切れる。

 

「……刃物!?」

 

 服を切られてわかった。

 

 普通の日本刀や中華剣ならともかく、これは消力では防げない。獣の爪、しかも日本刀のような切れ味を帯びてる斬撃に対して対応してないからだ。

 

 大和から攻撃を繰り出される最中、美鈴は大和の両手首を握る。斬撃拳を防いだのだ。

 

 それと同時に大和の腹部に向かって膝蹴りを放った。

 

 しかし。

 

「鎧装」

 

 大和は美鈴の膝蹴りをまともに喰らうがびくともしなかった。それもそのはず、超体術の一つである防御術『鎧装』を使ったのだから。

 

 美鈴は大和の腹部に膝蹴りを食らわせた瞬間、脳裏に浮かんだのだ鉄の壁だった。

 

「……鉄!?」

 

 ありえない。生身の肉体が鋼鉄になるはずがないのだから。だとしたら一体どんな仕組みの技を使ったのだ?

 

 大和は握られた両手首を振り払うと同時に正拳突きの構えを取る。

 

 その瞬間、美鈴は勘が働くと妙な違和感を感じる。

 

 この正拳突きをまともに受けてはいけない。受ければやばい気がする。そう妖怪の本能が脳に信号として送られた。

 

 美鈴は拳を避けるために後退する。それと同時に消力も使用する。

 

 大和の正拳突きが放たれた瞬間、拳から強烈な破裂音が鳴り響くと同時に強力な空気砲が放たれた。

 

 回避したはずの美鈴の身体は更に後退していく。幸いなこと消力を使っていたのでダメージはなかった。

 

 足が地面に着地するときには十メートルほどは後退したであろう。あまりにも威力が強すぎた。

 

「はぁ……はあ……」

 

 危なかった。正拳突きから放たれた空気砲であの威力、もしまともに拳を喰らっていたら消力で受け流すことができたのかも怪しい。

 

 永年生きてきたが、どれもこれも初めて見る体術に美鈴も固唾を呑んだ。

 

 どれもこれも、一つ一つが奥義とも呼べる体術、しかも完成度が極めて高い。

 

「凄いですね……貴方の体術」

 

「そりゃあどうも。」

 

「一体どこで教わったんですか?どれもこれも見たことのない体術でしたが」

 

「いや、そりゃあ無理もねぇよ。だって俺が創った俺だけの体術だからな」

 

 それを聞いた瞬間、美鈴は驚きを隠しきれなかった。

 

 この少年、まさかとは思うが、その若さで自分で独自で考えた我流の体術を創ったとでもいうのか?あの極めて完成度の高い技の数々を。

 

 天才過ぎる。自分も色んな中国拳法を習得しているが、自分が作り出した我流の流派は創ったことはない。

 

「貴方の体術、その流派の名前を聞いても良いですか?」

 

「俺は超体術と呼んでる。超人的な身体能力で成す術だ。」

 

「どうやってその技を?」

 

「いや、単純だよ。コミック見てできるかな〜ってな」

 

「……へっ?」

 

 意外な回答だった。

 

 まさか、独自で考えた技の数々がコミックから引用されているなんて思いもしなかった。

 

 あまりにも間抜けな大和の返答に対して、思わず美鈴も腑抜けたような顔をする。

 

 そしてクスクスと笑う。

 

「大和さん。貴方面白い方ですね。」

 

「そうか?」

 

「えぇ、もしかしたらお嬢様に気に入られるかもしれませんよ。」

 

 お嬢様、それが、この異変の主犯格なのか。この美鈴を統べる強大な力を持つ者。

 

 美鈴は強い。単純な身体能力に加えて高級技を使う技術、接近戦や異能力無しなら間違いなく兄や紅虎を除いて一番強い。

 

 初めて見るはずの超体術を一見で受け流し対応している。それなら俺も技を出し惜しみせずに戦うしかない。

 

 だったら、見せてやる。もう一つ上の段階を。

 

「もう出し惜しみは無しだ。身体も温まってきたことだし、こっちもそろそろ本気で行くぜ。」

 

「良いですね。私も手加減しませんよ。」

 

「やろうか。」

 

 すると大和は妙なことを始める。

 

 大和の全身から妖気が発生し、更に妖気が高まる。

 

 身体にも変異があった。

 

 大和の右目がまるで充血したように真っ赤に染まる。口から犬歯のような牙が生え、身体も肌が赤く染まり筋肉が一回り大きくなる。

 

「なんでしょう?これは?」

 

 美鈴は不気味さを感じると同時に恐れを感じた。

 

 明らかに大和は変異をしていた。どこか不気味で恐れを感じる気配、それに高まる妖気。

 

 これこそが、半妖だからこそできる超体術の一つ。

 

「人為変化!!」

 

 『人為変化』、妖怪の血を意識的に高めることで妖怪に近づき、身体能力を大幅に強化する肉体強化術。

 

 半妖の大和だからこそできる技。これは人間である紅虎や武尊は絶対に習得できない。大和だけのオリジナルの強化術。

 

 人為変化によってパワーアップした大和、その実力は如何に?

 

 早速、大和は中段の構えを取る。

 

 その瞬間、その場から爆発音と共に姿を消した。

 

 先程の瞬歩とは格段に違う。音速を遥かに超えた移動、まるで瞬間移動のようだった。

 

「……ッ速い!?」

 

 目では追えなかった。それはつまりどこにいるのかわからないということ。

 

 そして次に大和が現れたのは眼の前だった。余程自信があったのか、今度は真正面から突っ込んできたのだ。

 

 眼の前に現れた瞬間。大和はボディーブローをかました。

 

 尽かさず瞬歩を使い、強烈な爆発音と共に姿を消す。

 

 次に現れたのは美鈴の頭部の天辺、上空である。

 

 まるで地面に叩きつけるかのように大和は美鈴の後頭部に向かって拳を振りかざし、容赦なく下に向かって殴りつけた。

 

 消力を使うかどうこうの問題ではない。動きがあまりにも速すぎて身体が追いつかない。反応が出来ないのだ。

 

 美鈴はまともに攻撃を受ける。立ち上がりはするものの、そのダメージは計り知れない。

 

 しかし、大和は止めない。

 

 爆発音を鳴り響かせるほどの異常なスピードを誇る瞬歩を酷使して、何度も移動しながら攻撃を繰り出し続ける。

 

 全くもって反応ができない。防御するのがやっと、まるで神速と呼ばれるアキレウスを彷彿させるような神速の脚。

 

 別次元の存在だった。

 

 どこから攻撃が飛んでくるのかわからない攻撃の嵐。明らかに不規則な行動に予知できない攻撃のリズム、まるであらゆる石や瓦礫などを取り込んだ台風のようだった。

 

 たった数秒の出来事にもう美鈴はボロボロだった。満身創痍と言っても良いほど。もう体力も闘う気力も残っていなかった。無論ガードする体勢も出来ない。

 

 そして、相手が満身創痍になり闘う意志も体力も残っていないことを察した大和はトドメの一撃を繰り出す。

 

「風神脚!」

 

 超体術の一つ『風神脚』を使う。美鈴の腹部に向かって蹴りを空振りすると強烈な破裂音と共に爆風にも似た鎌鼬が発生する。

 

 もはや美鈴に避ける気力も防御する体力も残っていなかった。

 

 美鈴は風神脚をまともに受けると、そのまま壁へと飛んでいく。

 

 そして、そのまま美鈴の身体が何の抵抗もなく壁にぶつかると、肉と石がぶち当たる鈍い音が鳴り響き、一部の城壁が崩れ落ちる。

 

 美鈴は戦闘不能、もはや闘気も気力も何も感じない。恐らく指の一本も動かすことができないのだろう。

 

 戦闘が終わると大和は人為変化を解除し、元の状態に戻る。

 

 そして、倒れている美鈴の元へと歩いていく。

 

「美鈴、お前は強かった。奥の手を使わないと勝てなかったからな。」

 

「あはは……嬉しいことを言ってくれるじゃないですか………私も貴方と本気で闘えて満足です。」

 

 まだ美鈴の意識はあるが、どうやら一歩も歩くどころか動けない状態なのだろう。それほどの激しいダメージだったようだ。

 

 それも無理はない。人為変化は本来なら自分よりも強い妖怪に対抗するための肉体強化術、パワーもスピードも桁外れで爆発的な火力がまるで違う。

 

 だが、美鈴に使わざる得なかった。もし使っていなければぶっ倒れて戦闘不能になっていたのは俺の方だ。

 

 正直なところ美鈴には悪いが、門番に対して人為変化を使うとは思わなかった。

 

「それじゃあ通らせて貰うぜ。行こうぜ射命丸」

 

「はい。でもその前に……」

 

 射命丸と一緒に門を潜ろうとしたその時だった。

 

 背後から人の気配を感じる。

 

 後ろを振り向いてみると、そこには自分よりも小柄な独特な巫女服を着ている少女が立っていた。

 

 果たして、この巫女服を着た少女は敵なのか味方なのか?

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