古今西行寺恋奇譚〜恋愛と闘いの幻想物語〜   作:黒い小説家

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二十⑨話 博麗の巫女と紅魔館のメイド長

 美鈴との闘いが終わったあとのこと。

 

 突如現れた巫女服を着た少女との遭遇、一体この少女は何なのか?

 

 少女は衣服は変わった紅白の巫女装束、袖が着いておらず肩や腋を露出しているが代わりに白色の別途袖を腕に着けており、下に履いているのは袴ではなく何故か赤色のスカート。

 

 少女は大和を見るやいなや、倒れている美鈴を見ながら口を開いた。

 

「半妖、あんたがやったの?」

 

 大和が半妖だとすぐに気づいた少女、明らかに普通の少女ではない。

 

 それに、この異様な妖気とも人間の気とも違う、強大で避けたくなるような気配、恐らくこれが霊力ってやつなのか。

 

 だが、大和は一歩も引かなかった。

 

「そうだよ。俺がやった。それはともかくアンタは誰だ?」

 

「私は博麗霊夢、この異変を解決しに来た巫女よ。半妖貴方名前は?普通の半妖ではなさそうね。」

 

 博麗の巫女、妖怪達の楽園である幻想郷の秩序を保つために妖怪達と闘う巫女。

 

 それに、大和を普通の半妖とは違うことを理解している。恐らく並の妖怪よりも遥かに強い能力や力を持っていることを察したのだろう。明らかに勘が良い。

 

 射命丸や八雲紫が言っていたのはこの娘だったのか。

 

「俺は草薙大和だよ。確かに半妖だけど、何度も言われるとちょっとな」

 

 半妖という自覚はある。だが、半妖半妖と何度も言われると自分が人間を辞めてしまったことを突きつけられてメンタルに来る。

 

 それにしても、この巫女が妖怪と闘うとでも言うのか?ちょっと負けん気で癖のありそうな子だが、こんな幼い、しかも非力そうな娘が。

 

「大和ね。見ない顔だけど、どっから来たの?異変が起きたらポンッて現れて、最近こっちに来たと思うけど、幻想郷を寝床にしてる訳じゃないでしょ?」

 

「冥界だよ。確かに俺は外の世界の元住人だ。」

 

 それを聞いた霊夢は険しい顔になる。なにかふと思ったのだろう。

 

 外の世界の住人、それはつまり元から半妖で幻想郷に来たのか?それとも本来は人間で何かしらの事故や出来事によって人間を辞めて半妖になったのか、どちらかの存在だった。 

 

 前者なら問題無い。元から半妖であれば幻想郷は全てを受け入れるのだから。だが、後者なら少々問題がある。

 

 何故なら、最近幻想入りしてきた人間とはいえ、里の人間が妖怪になることは禁止条約、幻想郷の違反行為だからだ。

 

 しかし、冥界に住んでるということは里の人間ではない。だが幻想郷の人間に違いはなかった。この草薙大和という青年はかなりグレーゾーンの存在だったのだ。

 

 霊夢は深堀りするかのように大和に対して質問を問い投げてくる。

 

「あんた。まさか元人間?」

 

「確かに元人間だよ。だけど妖怪に殺されかけてな、心臓を破壊されたんだ。死ぬところを紫さんっていう妖怪に助けてられてこの有様だよ」

 

「……紫が!?」

 

 霊夢は思わず驚きを隠しきれず、驚愕してしまった。

 

 何故あのスキマ妖怪がこの青年を助けたのか理解できなかった。何か特別な理由があったのか?

 

 それも無理もない。両親のいなかった博麗霊夢に取って八雲紫は育て親も同然、良いところも悪いところも色々と知っているのだから。

 

 だからこそわからなかった。あの胡散臭いスキマ妖怪が無償で人間を助けるなんて、何か絶対にどんな手を使っても助けなければならない理由があったのか?

 

 続いて霊夢は大和に質問を問い掛ける。

 

「あんた一体何者なのよ?あの紫が普通の人間を助けるなんてありえないんだけど。何か弱みでも握ってるの?」

 

 どうやら霊夢は八雲紫のことを知ってるらしかった。まぁ、あの妖怪は霊夢のことを知っていたのだから、お互いに面識はあったのだろう。

 

「別に弱みなんか握ってねぇよ、ただ何だ?確か友人である嫁の婿だから生かしてくれたらしいよ」

 

「あんたその歳で結婚してるの!?しかも冥界ということは人間じゃないでしょ!?」

 

 冥界に人間はいない。いるのは一握りの亡霊と魂などなど。

 

 この大和という青年、自分よりかは少し年上で顔は幼いが肉体も成熟している。しかし、それでも明らかに年齢は十代半ばに見える。それなのに結婚してるというのか。

 

 確かに幻想郷は外の世界の常識は通用しない。成人しなくてもお酒は飲むし十代で結婚するなんてザラだった。

 

 しかし、それは人間ならの話だ。この大和、十代半ばで、しかも人外と結婚してるなんて、生まれた時から幻想郷にいる霊夢でも聞いたことのない話だった。

 

 それを平然と言ってる大和も大和だった。誰でも何でも受け入れる幻想郷とはいえ、明らかに常識破れのことをやっている。それもこれも八雲紫の仕業だが。

 

「まぁ、そんなこと良いだろ?俺が誰といつ結婚しようたって。それよりも異変解決が優先じゃねぇか?」

 

「まって……あんたの情報量が多くて頭痛くなってきた。つまり簡単に言えばあんたは紫の友人の婿で、それで妖怪に殺されかけられたところを紫に助けてもらって半妖として今は生きてるってことよね?」

 

「まぁ、そうだな。」

 

「変な奴が幻想郷に来たものね……それでなんで異変が起きて現れたの?」

 

「単純だよ。力比べだ。俺の力や業がどれだけ通用するか、それを試しに来たんだよ。」

 

 そう、戦うために人生の半分以上を費やしてきた日々、戦うために訓練され磨いてきた肉体と技術。

 

 戦うことを宿命とする俺に取って、幻想郷全体を脅かすほどの強大な力を持つ妖怪が起こす異変、それを辿れば自然と強者に出会い戦うことを余儀無くされる。冥界では味わえないスリルを楽しめる。

 

 己の業を磨き、実力を理解し、戦いを楽しむ、ただし殺しはしない。殺し合いがしたい訳じゃないからだ。あくまでも命を取らない相手を制圧する戦いがしたいだけ。

 

 それ聞いた瞬間、霊夢は思わず呆れたような表情をする。

 

「あんた……相当な戦闘狂ね……」

 

 半妖なのだから半分人間の本能はないのか?普通こんな異変が起きたら震え上がり怯えるか、逃げ惑うかする筈。

 

 それをこの半妖大和は逃げて怯えるどころか、寧ろ異変を起こした主犯格の根城に単独で突っ込んで力比べをしてやろうと言う始末。どこかの妖精のように相当な馬鹿なのか、それとも逃走本能を失った恐れを知らないバーサーカーなのか。どちらにしても普通の人間や妖怪とは明らかに違う。

 

「そんなことはどうでもいい、さっさと中に入ろうぜ。霊夢も館に用があるんだろ?」

 

「それもそうね。さっさと異変解決して帰りたいから」

 

「やっと話し終わりましたか〜それじゃあ行きましょう」

 

 待ってましたと言わんばかりに射命丸が二人の話に入り込んでくる。やっと取材ができることがよっぽど嬉しかったんだろう。

 

 三人は巨大な門を開けて中に入っていく。

 

 門を潜った途端、鈍く響く轟音と共に門が閉じてしまった。そして目の前には、見事な造形美と隅々まで手入れが整っている庭が出現した。

 

 吐息の漏れるほどに美しく整備された花壇や刈られた芝、敷地内の中央には彫刻が施された噴水まである。

 

 そして何よりも気になるのが紅魔館、敷地に見合った西洋風の造りで、門の外から見るよりも遥かに大きく広がって見える。

 

 驚いた。これが妖怪が住んでいる館の庭なのか。人間の貴族が好みそうな造形美に整った庭。

 

 妖怪に美学や美術の良さがわかるのか、いや、これを見ると館の主はかなり品性があって芸術の良さがわかる普通の妖怪とは比べ物にならないくらいの育ちの良い妖怪なのだろう。

 

 そして問題の紅魔館は四階建て、敷地によく映える西洋風の造りで、門の外から見るよりも遥かに大きく広がって見える。

 

 赤い、深紅と言えずとも紅い。この先に広がっているのは、一体何なのか。観音扉は不気味な音を立てて勝手に開き始めた。

 

 

        ❮〜紅魔館〜❯

 

 

 

 紅魔館の中へと足を踏み入れた大和達を待っていたのは星と思しき図形が描かれたエントランス。そこからは百人の子供が走り回っても、まだ十分な面積を維持出来るほどの広大な床が広がっている。

 

 全面が紅一色の絨毯で覆われていた。同じく真っ赤な壁にはタペストリー、壮年の男性や若い女性の肖像画、数十メートルはある高い天井には豪華なシャンデリアが吊り下げられている。それに気のせいか、館の外観に比べて内部がかなり広く見えた。

 

 前方には上の階へと続く、手すりに羽らしき小さな装飾や球体が付けられた大きな階段。行き止まりには大きな絵が飾ってあり、そこから絨毯ごと階段が左右二手に分かれていて、どちらも二階へ通じているようだ。

 

 目の前を見てみると、三人を待っていたはメイド服を着た少女が二階で腕を組んで立っていた。

 

 髪型は銀髪のボブカットで、もみあげ辺りから三つ編みに結って髪の先端に緑色のリボンを付けている。

 服装は青と白を基準色としたメイド服であり、頭には白いカチューシャを装備している。

 

「お待ちしてましたよ博麗の巫女、それに……」

 

「……あっ?」

 

「誰でしょう貴方は?」

 

 このメイド、博麗の巫女である霊夢は知っていたようだが、大和の存在は知らなかったらしい。この紅魔館も射命丸によると突如最近幻想郷に来たらしいので、事前に幻想郷に関しての情報収集はしていたのだろう。

 

 だが大和の情報になかったのか、大和のことを知らないとなると、どうやら想定外の存在だったらしい。

 

「草薙大和だよ。それにお前は人間か?妖気とか霊気がねぇから。」

 

 本来、妖怪なら妖気、妖精にも何か特殊な気、普通の人間とは異なる者なら霊気など気配で大体どんな奴なのか分かるはずだ。しかし、このメイドから妖気も霊気も感じなかった。つまり普通の人間なのか。

 

 だが、気配が何か違う。何か特殊な能力を持っている感じがする。八雲紫のような何か特殊能力を持っている。違和感があるのだ。どこか時の流れが違う。そう感じた。

 

 霊夢もメイドが人間なのをわかっていた。それも大和と同様に普通の人間じゃないことも理解していた。

 

「あんたの主人に会わせなさい!あの霧、迷惑なんだから」

 

「それはできません。」

 

 次の瞬間、観音扉が突然音もなく閉じた。

 

 そして二階にはメイドはおらず、大和達の背後にいた。

 

「お嬢様から私がおもてなしするように命じられたので、貴方方はお嬢様には会えません。」

 

 何か危険を察知したのか、霊夢は咄嗟にお祓い棒をメイドに向かって振るう。

 

 しかし、メイドは意図も簡単に、まるで猫のような身体能力で軽やかに飛ぶように後退して避けた。

 

 大和は一目でわかった。このメイドはどうやら並の人間の身体能力ではない。一見美しいラインの女体をしているが身体能力がとてつもなく高い。

 

 人間だが、それも狩りやハンターのような動物を仕留めるようなことを生業としている。しかも、どう見ても恐ろしいのが狩りの対象が動物や人間ではない。何か化物や一般の人間ではどうしようもない生物を対象としてたと推測できる。

 

 恐らく人間期の俺よりも身軽なうえにスピードや回転力に特化してる。ただパワーやタフネスはどうだろうか?

 

 霊夢が尽かさず、戦闘を繰り広げようとしたその時だった。

 

 大和が背を向けて目の前に現れ、開始しようとされるであろう戦闘を阻止しようとする。

 

 その行動に霊夢はまるで何を考えてるのかと言わんばかりに険しい顔で大和を睨みつける。

 

「あんた、どうゆうつもり?」

 

「ここは俺に任せてくれ、俺があいつを倒す。」

 

「あんたなに言ってるの?身体もボロボロだし、さっき戦ったばかりでしょ?」

 

 初めて大和と対面した時から霊夢は気付いていた。

 

 推測だったが、大和の身体はかなりダメージを負っていた。肉を食い千切らた跡、槍のような物で刺された跡や袈裟懸けで斬られた跡、更に打撲など打撃による跡など、ここまで来るのに少なくとも数回以上は戦闘を繰り広げている。

 

 それに体力もかなり消費しているはずだ。人間なら即応急処置するはずのダメージに加えて休憩も無く体力回復をせずに戦うのは自殺行為も同然だった。

 

 しかし、霊夢が思うよりも大和は普通の半妖とはかなり違う。

 

 人間の頃、フルマラソンを全力疾走できる異常な体力と肺活力、鍛錬に鍛錬を重ねて極限まで鍛え上げた肉体、筋力、敏捷性。それに加えて半妖という人外の力を得て更に強くなった人の枠を超えた極地の身体能力と圧倒的耐久力。身体能力だけで言うなら人間も妖怪も右に出る者はいないだろう。

 

 正にそれは肉体の到達点。

 

 いくらダメージを負っても、体力を消耗していても大和なら平気で戦うことは可能。霊夢の心配など余計なお世話のようなものなのだ。

 

「悪いな、このくらいの傷や消耗で戦えないって言ったら俺は戦士にはなれないんだ。それに師匠がそれを許さない。」

 

 あまりにも強情過ぎる。と霊夢は思った。

 

 この半妖、自分のことを戦士と言っていた。まさかとは思うが外の世界で戦うことを生業とした職業に就いていたのか?この若さで。

 

 死ぬことが怖くないのか、戦うことによって負う痛みや傷に躊躇いはないのか、やはり恐れを知らない、明らかに人間の本能が消えている。

 

 これは元からではない。恐らく、長い年月を掛けて訓練され、どんな相手でも戦うため、恐怖という本能を抱かないように調教されている。

 

 半妖大和が自ら選んだ道なのか、それとも師匠と呼ばれる者に無理やり組み込まれたのか、それはわからない。だが、どちらにしても戦うために生まれてきた戦闘マシーンには違いない。

 

 どうしても大和は戦うことを諦めないと思ったのだろう。霊夢は呆れたような表情を浮かべながら自分が折れること選択し、大和が戦うことを許す。

 

「わかったわよ。好きにしなさい。」

 

 そう言うと大和は笑みを浮かべて歩いて行き、メイドの前に立ちはだかる。

 

 相手が博麗の巫女ではなく、情報の無い大和が相手だと察したメイドの少女、意外なのにも関わらず冷静ながら口角を上げる。

 

 メイドなだけあって品性と嗜みがある。これから戦うというのに相手に不快な思いをさせないように表情には笑みがあるのだ。メイドとしてのマナーが洗練されていることがよく分かる。

 

「貴方が相手ですか。」

 

 傷だらけの大和だと力不足だと言うのか、それとも先に博麗の巫女を倒したかったのか、表情は崩さないもののメイドは不満そうな言葉を漏らす。

 

「そうだよ。精々死なないようにな」

 

 不満そうなメイドに対して、大和は皮肉交じりなことを言う。

 

 どんな相手かは知らない。先ほど戦った美鈴のように武術や身体能力を駆使した戦闘をしてくるのか、それとも八雲紫のように異能力を扱う戦法なのか。

 

 どちらにしても立ちはだかるなら相手になる。お嬢様と呼ぶ相手が主犯格なのはわかった。後はそこまで命がけで突っ走るだけのこと。

 

「そう言えばあんたの名前聞いてなかったな。俺は名乗ったんだ。名前くらい聞かせろよ」

 

「お嬢様の邪魔者になる者に名乗る名前はありません。ですが名乗るのも一つの礼法」

 

 とても回りくどい言い方。名乗るのか名乗らないのかどっちなんだよ?

 

「私は十六夜咲夜、紅魔館のメイド長を務める者」

 

「改めて、俺は草薙大和、お前を倒す半妖の名だ。」

 

 妖怪の門番紅美鈴に人間でありメイド長の十六夜咲夜、お嬢様と呼ばれる妖怪は一体何者なのか?

 

 そんなことは束の間、お互いに名乗ったことで戦いの火蓋が切られた。

 

 咲夜が太腿に装備していた三本のナイフを片手に取る。

 

 そして軽やかにそして優雅にジャンプする。軽く五メートルは飛んでいるのか。

 

 空中で時計回りに身体をゆっくりと回転させるながら三本のナイフを大和に向かって飛ばすと突如妙な異変が起きた。

 

 回転途中のこと、十一の方角から突然四時の方角まで回転していると同時に無数のナイフが増殖して飛んできた。

 

 あまりにも突然のことの大和は驚きを隠せなかったが、そんな悠長なことはしてられない。ナイフが真っ先に飛んできてるのだから。

 

 大和は相手が武器を使ってくることがわかると、自分も腰に差してある刀を引き抜く。

 

 横に移動して回避しながら飛んでくるナイフが肉体に当たらないように刀を弧を描いて打ち払い、それと同時に打ち払えなかったナイフを数本素手で掴み取った。

 

 そしてカウンター、大和は早速掴み取ったナイフを咲夜に向かって二本アンダスローで投擲する。

 

 通常、野球のピッチャーが投げるアンダースローはそこまで球速のあるスピードは出せないが、大和が投げたナイフのスピードは時速200km/h以上、人間の反射神経では反応はできても回避することは不可能。

 

 数秒も掛からずにナイフが咲夜の目の前まで接近してきて、ナイフが当たる直前まで至る。

 

 しかし、ナイフが当たる直前、突然のこと、咲夜の姿が消えて大和の投擲した豪速のナイフは空振りに終わる。

 

「……消えた!?」

 

 あまりにも突然のことだった。避ける訳でも高速で移動するのでも無く、突然目の前から消えた。

 

 まさか咲夜は超体術の一つ瞬歩を使えるとでも言うのか?

 

 だがありえない。人間の肉体には限界がある。人間が妖夢の縮地走法を完全に使えないように、妖怪や半妖だからこそ使えるように設計された瞬歩も使えるはずがない。

 

 それじゃあ何をしたのだ?

 

 大和が心眼を使うと未來が視えた。

 

 それと同時に咄嗟に瞬歩を使ってその場から離れる。

 

 すると、先ほど大和がいた場所に無数のナイフが雨のように突き刺さった。

 

 もし心眼を使っていなければ、今頃大和の背中はナイフの針山になっていたところだ。

 

 背後には咲夜がいた。しかも仕留め損ねたと言わんばかりに冷酷な表情をしている。

 

「避けましたか。勘が良いですね」

 

「……あっぶねぇ」

 

 気になったことが幾つかある。

 

 なんで咲夜は一瞬に無数のナイフを出せるのか。

 

 瞬歩や縮地走法を使えないはずなのに何故その場から消えることができるのか。

 

 何故心眼を使っても何をしているのかわからないのか。

 

 やはり咲夜から感じる妙な気配と違和感は気の所為ではなかったのだ。何かがある。

 

 まるで手品師だ。しかも極めて高い技術を持っている。

 

 咲夜は無数のナイフを一瞬にして空中に用意し大和に向かって飛ばしてくる。

 

 大和は心眼を使って回避したり、刀で何度も打ち払う。

 

 だが、どんなに攻撃を防いでも無限に湧いてくると思えるほどの咲夜のナイフは何度も何度も瞬間的に飛ばしてくる。

 

「キリがねぇ!」

 

 幾ら打ち払っても、止まない雨のように降り注いでくる。まるでナイフの雨だ。

 

 防ぐだけでは駄目だと思い、大和は苦し紛れに瞬歩を使って咲夜に接近する。

 

 姿を消して、背後から攻撃を喰らわせてやろうと刀を振り被った瞬間だった。

 

 またしても咲夜がその場から消える。

 

 次に咲夜が現れたのは大和から遠く離れた階段の上。

 

 瞬間移動でも使ってるのか?しかし、攻撃の数々と移動の仕方にあまりにも不自然過ぎる。

 

 一体どんな能力なのか理解できない。

 

「真正面からの攻撃は無駄ですか……それなら」

 

 心眼を使うと驚くべき光景だった。

 

 これから咲夜が打つ手段は自然の摂理や常識を覆すものだ。

 

 一瞬にして大和は百はあるであろう無数のナイフに取り囲まれた。しかも避ける場所が存在せず回避不可能の状態。袋のネズミだ。

 

 大和は頑張って四方八方から飛んでくるナイフを打ち払うが、あまりにも数の暴力には勝てず、身体中に何本もナイフが突き刺さってしまう。

 

 身体から鮮血が吹き出し、突き刺さったナイフの中には内蔵まで到達したものもある。故に耐えることはできるものの身体中に鋭い痛みが走る。

 

「ちくしょう!デタラメ過ぎる」

 

 八雲紫のスキマから放たれる宝具やチルノの氷の槍よりもヤバい。寧ろあれらが可愛く見えるほど、咲夜のナイフの雨は明らかにオーバースキル。

 

 それでも大和はナイフを打ち払う。

 

 止まらない四方八方から飛んでくるナイフの雨、永遠に思えるほど長く続き、終わりが見えない。大和が力尽きるまで止まることは無いとでも言うのか。

 

 あまりにも理不尽過ぎる攻撃に対して、そして今の自分の力では不足していることに対して大和の怒りは最高潮に達していた。ボルテージがMAX寸前まで至っている。

 

「図に乗りやがって……」

 

 大和の気配が豹変した。

 

 それと同時に大和の身体に奇妙な変化が起きていた。

 

 館全体に鳴り響くほどに心臓の鼓動が大きくなり更に早くなる。まるでスポーツカーのエンジンのような音が鳴り響く。

 

 そして肌全体が赤くなる。まるで赤鬼のように真っ赤に。

 

 傷口から大量の血液が吹き出す。その影響で突き刺さっていたナイフが抜けてしまう。

 

 脈も異常に早くなっていた。恐らく脈拍は150以上は下らないだろう。

 

 明らかに身体が異常なことになっている。大和の身体の中で一体何が起きているのか?

 

「……『前借り』」

 

 そう呟くと大和が動く。

 

 瞬歩を使い。咲夜のいる場所へと真っ直ぐ突っ込んでいく。

 

 普通の瞬歩とは異なり今使った瞬歩は明らかにスピードが桁違いだった。それはまるでミサイルやロケットランチャー。

 

 その空間に無数のナイフがあったが関係なかった。防ぐことなくナイフの雨の中を命懸けで駆け抜ける。

 

 あまりにも速すぎる異常な瞬歩の移動速度にナイフは全て押し負けてしまい。大和に突き刺さることなくそのまま全て弾かれてしまう。

 

 そして数秒もせず、再び大和は咲夜に接近する。

 

 しかし、その場から咲夜が消えてしまう。

 

 次に咲夜が別の場所に移動した時だった。

 

 咲夜の背後に刀を振り被ろうとしている大和がいたのだ。

 

「……っ!?」

 

 大和が攻撃を繰り出そうとした瞬間、咲夜はまたその場から消えて移動していた。

 

 大和の行動が予想外だったのか、咲夜は冷や汗をかいていた。

 

 そんなことをお構いなしに大和の動きは止まらない。

 

 再び瞬歩を使って瞬間移動にも類似したスピードで咲夜に接近する。

 

 接近した瞬間、咲夜は懲りずにその場から消えて別の場所に移動する。

 

 が、大和もまるで咲夜の行動パターンを完全に読んでいるかのように咲夜のいる場所に移動していた。

 

「……っまた!?」

 

 攻撃をしようとすると咲夜がまたしてもその場からいなくなり別の場所に移動するが大和もその場にいる。

 

 その場からいなくなっては追い掛け、その場から消えては追い返すの繰り返し、隙があれば追撃するように攻撃を仕掛けてこようとする。

 

「はぁ……はあ……はぁ……」

 

 瞬間移動合戦の末にして咲夜は息切れをしていた。

 

 それに対して大和は消費カロリーが尋常ではない瞬歩を使っているのにも関わらず、息切れどころか息一つ乱れていない。

 

 追撃を繰り返して、そしてこの息切れようでようやくわかった。

 

「お前、それ瞬間移動じゃねぇだろ?時間を止めるとかそう言う類の能力持ってるんだろ?」

 

 一瞬にしてナイフを飛ばす手品染みた戦法、それに加えて瞬間移動にも類似した移動法。

 

 心眼を使ってようやくわかった。幾ら心眼を使っても移動してる姿が視えないうえに、自分の行動を見てから明らかに動いている。

 

「バレましたか。そうです。私は時を操る能力を持っています。それにしても貴方は何故私の動きが見えるんですか?」

 

「心眼って能力だよ。未来を見通す能力だ。本来は攻撃を避ける防御のために使うんだが、相手の行動を視て攻撃を繰り出す戦法に出た。意外と攻撃にも使えるんだな」

 

 まさか、咄嗟の発想でやったとでも言うのか。しかも命懸けの戦いの中で。

 

 あまりにも戦闘に関しての成長速度が桁外れ過ぎる。戦いの中で成長するとでも言うのか。潜在能力が見えない。

 

「もう一つ、貴方の身体で何が起こってるんですか?明らかに変異が起きてるように見えますが」

 

「これは超体術の一つ『前借り』、命を削って技や攻撃の回転力、スピードを上げる強化術。」

 

 『前借り』、意識的に心拍数を高めることで血流を加速させ、発生した熱量を運動能力に変換し、攻撃の速度や手数といった「回転力」を急上昇させる技。

 

 心拍が高まることで心音がエンジン音のように周囲に鳴り響き、体表の血管が腫脹するためか体色も赤く変化する。

 

 寿命と引き換えに攻撃の回転力を最大限引き上げ、更に移動スピードを格段に上げる肉体強化術。筋肉を強化する『人為変化』とは対を為す技。

 

 強さと引き換えに命を削る。故に『前借り』

 

 超体術はこれが全て、攻撃が『音速拳』『斬撃拳』『風神脚』の3つ、防御が『鎧装』、移動術の『瞬歩』『天駆』の2つ、強化術が『人為変化』『前借り』の2つ。合計8つの体術。

 

 見たことのない業なうえに、高度な体術を使う半妖は今まで見たことが無かったのだろう。咲夜は思わず笑みを浮かべてしまう。

 

「面白いですね。こんな戦いは初めてよ」

 

「それは俺もだ。美鈴と良いお前と良い。俺を楽しませてくれる奴らが沢山いて嬉しいからな。」

 

「貴方が美鈴を?博麗の巫女ではなく?」

 

 大和が門番の美鈴を倒したことが予想外だったのだろう。

 

 美鈴は弱いわけではない。並の妖怪よりも遥かに強い能力を持っている。いざとなれば心強い紅魔館の守りの要なのだから。

 

 そんな美鈴を半妖の大和が打ち破ったと言うのか。やはりただの半妖ではない。

 

「美鈴は強かった。俺が引き出せる業をほとんど使ってようやく勝てたんだからな」

 

 先ほどに戦った美鈴は本当に強かった。『前借り』以外の超体術を使い。心眼を酷使してようやく勝てたのだから。しかも凄いのが異能を使わず、己の五体と業のみで圧倒してきたのだから、もしかしたら紅虎さんと同等に強いと思う。

 

 咲夜も強い。時間を止められると言うチート染みた、どこかのコミックのような能力。それに加えて極めて高い身体能力に反射神経、ナイフを手品のように無限に出して無数に投げ飛ばし、しかも正確に対象に投げるコントロール技術。

 

 それは正に異能力と技術の融合体、今まで見たことのなければ戦ったことのない初めて遭遇した相手。

 

「さて……前借りも長くは続かない。さっさと終わらせるぜ」

 

「良いですよ。その前に仕留めてあげましょう。」

 

 二人はその場から消える。

 

 それからは大和の追撃合戦。

 

 咲夜が移動しては大和が追い掛けるの繰り返し。

 

 だが、唯一先ほど違うのは追撃してくる大和が攻撃を繰り出す前に咲夜は消えると同時に無数のナイフで攻撃を仕掛けてくる。

 

 しかし、その攻撃も虚しく無意味。

 

 大和は音速を超えたスピードで移動して、更に超体術の一つの鎧装を使っていた。これではナイフのカウンターは通用しないのもの同然。

 

 チート能力である時間を止めれる能力を持つ咲夜とはいえ、瞬間移動にも類似した瞬歩に加えて移動速度にターボをかける前借り、更にはナイフを無効化する鎧装を使ってる大和とは明らかに分が悪かった。

 

 そして、ようやく戦いに終止符が打たれる。

 

 咲夜が時間を止めた瞬間、右の足の甲に痛みが走った。

 

「……っ!?」

 

 一体何が起きたのいうのか?

 

 痛みの根源である右足の甲を見てみると、自分のナイフが根元まで深く刺さっていた。

 

 恐らく大和がどこかで自分のナイフを調達し、ありえないスピードでナイフを投擲したのだ。

 

 時間を止めてる中、痛みには耐えるもののナイフが深く刺さって抜けない。恐らく引き抜いてみせようとも抜ける気がしない。その場から移動できないのだ。

 

 もはや回避不可能と思ったのだろう。咲夜は苦し紛れに手に持つナイフで迎撃しようとする。

 

 そして、時は動き出す。

 

 案の定、咲夜がその場から動けずにナイフで迎撃しようとしている未来は心眼で視えていた。

 

 大和は未来の通り振りかざしてきたナイフを余裕で回避して、そのままカウンターで刀を振り被った。

 

 咲夜を袈裟懸けに斬ると、臓物は飛び出さなかったものの、傷口から生暖かい鮮血が迸る。

 

「お嬢様……」

 

 大量の血を出して貧血を起こしたのだろう、そのまま咲夜は自分の主人を言葉にしながら仰向けになって倒れ込み、戦闘不能に陥る。

 

 勝者、草薙大和

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