貞操逆転世界に転生した人妻男子高校生は、TS魔法少女 作:てんとーし
その世界特有の文化である配信者とアイドルとアスリートの間の子みたいなTS魔法少女になってラブコメする話です、よろしくおねがいします。
この世界がおかしいと感じたのは、勇気を出して女の子に告白したときだったと思う。
前世からの引っ込み思案のせいで、告白には随分と勇気が必要だったのだけど、転生者として二度目の生を送る機会を得たボクは、なんとか勇気を振り絞ったんだ。
「好きです、付き合ってください!」
相手はボクの隣の家に住んでいた幼馴染の女の子、しっかりものでカッコイイ、前世なんてものがあるボクですら憧れてしまうような、素敵な女の子だと思う。
結果として、その告白は無事に成功するわけだけど、その時にボクは信じられない言葉を聞いたんだ。告白の成功という、前世を含めてもこれ以上の幸せはないっていう、幸福に舞い上がりそうに鳴っていたボクを、
混乱の極みへと叩き込む言葉だった。
「じゃ、じゃあ……アンタ……」
顔を真赤にしながら、その子はボクに言う。
「アタシの、ひとづまだんしこーこーせーになってくれるの!?」
――と。
ボクの前世で、「貞操逆転世界」という概念がある。男性と女性の貞操観念が逆転し、女性がスケベに、男性がなよなよする概念だ。
どうやら、ボクはそういう世界に転生したらしい。
それに気がついたのは、ボクが小学生に上がるころだったと思うけど、気が付かなかったのは幼い頃は性別の概念が希薄だったからだと思う。
男の子と女の子が混じって遊ぶことが普通だった頃。前世でも、男の子に混じってサッカーをしたりする女の子は、このくらいなら珍しくなかったわけで。
それでも、流石に「人妻男子高校生」なんて言葉を聞いてしまえば気が付かないわけにはいかない。というか、そもそもそんな単語、普通の貞操逆転世界でも聞かないよ。
男子高校生を人妻と呼ぶのは、単純に妻と夫の関係が逆転したっていうことなんだろうけども。
曰く、人妻男子高校生というのは、ボクの前世でいう女子高生という単語に近い意味らしい。
花の女子高生、人生の中で三年しか名乗ることを許されない称号。なるほど、確かに人妻で男子高校生でいられるのは三年だけだ。って何言ってるんだボクは?
とまれ、ボクは幼い頃に好きだった幼馴染に告白して、恋人同士になった。そして、その関係は――
ボクが、人妻男子高校生になっても、続いているんだ。
―
「もう、どうして起こしてくれないのよ、“ナギサ”!」
「起こしたよ! 起きなかったのは君じゃないか、“ヒメノ”!」
空には太陽、過ごしやすい朝の気温はボクたちに心地よい空気を運んでくれる。今、ボクたちは自分たちが通う学校へ登校していた。
本来ならそれは、清々しい穏やかな時間のはずなのだけど、残念ながらボクらは追われていたんだ。なにかといえば、まぁ時間なんだけど。
今の時刻は八時十分前、学校の門が閉まるのが八時で、ボクたちがそこにたどり着くまでには、歩いていたら十五分かかる。
走れば十分もかからないから、決して遅刻が危ぶまれるわけではないんだけど、それでもそもそも走らなきゃいけない時点で遅れているものは遅れていると思う。
原因は、ボクの隣を走る、ボクより少しだけ背の高い女の子のせいだった。
「それに、起こそうとしたらボクにキスなんかして、寝ぼけてるにしてももうちょっと時間を選んでよっ!」
「えー? 可愛かったけどなぁ、ナギサ。それに、モーニングキスは旦那の義務でしょ」
「ドキドキするからやめてって言ってるんだよ!」
――彼女の名前は、立花ヒメノ。人妻男子高校生であるボクの旦那様だ。ちなみに、ボクの名前は立花ナギサ、人妻男子高校生になってしまったので、名字はヒメノと同じ名字だ。
ヒメノは快活を絵に書いたような女の子だ、燃えるような赤髪と、平均と比べると小柄な――ボクは更に小柄だ――体躯に、それと相反するように豊かなプロポーション。意志の強い切れ長の眼と、笑みを浮かべるたびに浮かぶ八重歯は彼女のトレードマークだ。
ひと目を引く、という意味で、彼女ほど明確な美少女というのも珍しいだろう。そんな女の子の人妻男子高校生なんて――その単語の頭の悪さを除けば――光栄極まりないことなんだ。
ボクみたいな、前世から内向的だったオタク男子にしてみれば……
――そういえば、これまで何度か話には出ているけれど、ボクは転生者だ。元は普通の貞操観念の世界に住んでいて、陰キャなオタクをしていた普通の男だった。
ハッキリ言って、ぼっちだったから周りからは孤立していたし、人付き合いも仲のいい相手ならともかく、初対面となると全然うまくいかないような、典型的なコミュ障だったんだけど。
どうにも、この世界じゃ少し様子が違うようだった。
「時間、あと何分!?」
「あと五分、このまま行けば歩いても大丈夫そう!」
手元の時計を確認して、ヒメノに答える。それに、ホッとした様子でヒメノが走りを緩める。軽快に駆けていた足が、ジョギング程度の軽いものへと変化する。
周りを見れば、周囲の学生たちも落ち着いた様子で歩いていた。中にはボクたちみたいに走ってきたのか、息の上がっている子もそこそこいるけれど。
――なんにせよ、このまま遅刻寸前とは言わないまでも、ギリギリくらいのタイミングで学校に辿り着けそうだ。
そして、そうなってくると同じく登校している周囲の学生たちの視線は自然とボクら……というかヒメノに集中してくる。
「みろよ……女帝様だ。今日も人妻男子高校生のナギサくんと一緒に登校しているぞ」
「憧れるな……俺も人妻男子高校生になりたいよ。そんな勇気、全然ないけど」
わいわい。
「そういえば機能のGPB見た? ヒメノさん凄かったよね。またトータルトップ、これで一週間連続よ?」
「私も参加してるけど、全然だったわ……ヒメノさんや、ナギちゃんには敵わないね」
がやがや。
なんてことを、周りが噂しているのが解る。GPBに関しては、今は関係ないので省略。
とにかく言えることとして、ヒメノは有名人で人気者だ。歩いているだけで自然と周囲の視線を集める。彼女が何か行動を起こせば、その一挙手一投足は即座に学校内に広まってしまうんじゃないだろうか。
女帝、というのは彼女の相性。この世界の女子高生は誰もが気の強い性格をしているけれど、ヒメノはその中でも別格。ある種暴君とも言える立ち振舞から、学校中で畏れられてもいた。
「そういえば」
と、そこでふと思い出す。
「ヒメノ。古文の課題って、今日が提出期限だったと思うけど、提出した?」
何気ない雑談のつもりで、話を振った。なにせ課題事態は、だされてすぐに二人で終わらせたから、後は提出するだけのことだったからだ。
出してすぐにやらないと、ヒメノはサボるからね。でも、これなら安心――
「――――あ」
「……ヒメノ?」
…………ヒメノ?
「ナギサ! 遅刻の理由は昨日のGPBで疲れたから、ってことにしといて!!」
「ヒメノ!?」
踵を返すヒメノに、ボクは愕然とする。もしかして忘れたのか? やったのに忘れたのか!? ズボラなところがあるのはヒメノの悪いところでもあり、カワイイところでもあるけど、それはそれとしてせっかく課題そのものは終わらせたのに、提出できなくて怒られるとか、バカみたいじゃないか!?
と、怒りたくてもヒメノは一瞬で家の方へと走っていってしまった。
まさしくそれは疾風怒濤。鮮やかな逃走劇だった。うーん、こんなところでそんな勢いで飛び出していったら、遅刻した理由なんてすぐに校内で噂になっちゃうと思うんだけどなぁ。
まぁ、言ってもしょうがないので、ボクは一人教室に向かおうとしたところで――
「お――はようございますわぁ!!!」
すっごい大声で挨拶をされた。
ぶおん、と風が威圧感と共に飛んでくる。なんという勢い、経っているだけで人を萎縮させてしまう。これがこの世界の一般的な男子高校生だったら、びっくりしてしまって声も出ないだろう。
「お、おはよう……マキノさん」
――真木牧マキノ。ボクとヒメノの同級生で、彼女もこの学校では有名人。自慢の金髪をドリル、とは行かないまでもくるくるさせたツインテールと、ヒメノと比べてもそこそこ高身長、男子高校生くらいはある。プロポーションはにたりよったり。
どうやら風紀委員として遅刻者や風紀が乱れているモノを取り締まっているようだ。
いつのまにか、ボクは校門前までたどり着いていたらしい。
「まったく、ヒメノはいつもああですね。ナギサくんの品行方正っぷりを見習ってほしいくらいです」
「言っても聞くタイプじゃないからね……」
あはは、と苦笑する。
「それにしても――」
と、何やらマキノさんが近づいてくる。その眼は、爛々と輝いていて、ああこれは――いつものやつだ、と思ったときには遅かった。
「ナギサくんは今日も美少年ですわね!」
そういいながら、ボクを抱きしめてきた。く、苦しい。
――貞操逆転世界といっても、ここまで積極的に女子が男子をハグするのは珍しい光景だ。マキノさんは風紀委員なんだけど、結構こういうあけすけなことをしてくる。
といっても、やってるのはボク相手だけみたいだけど。
それと、美少年といっても、ベースになっている容姿は中の下、よくて中の中、いたって凡庸だ。ヒメノの隣を歩くにあたって、それでは行けないと努力しているに過ぎない。だから、美少年というのは過大評価ではなかろうか。
「あ、ありがとう……マキノさんは今日も髪型のセットが完璧だね」
と、いつものことなので、いつものように返す。マキノさんはくるくるのツインテを作ることに毎日執念を燃やしていて、その日のテンションによって、くるくる具合が代わってくる。
今日は完璧なので、機嫌がいいということだろう。
「もう、ナギサくんったら。そういう女らしい物言いは、女の子を勘違いさせちゃいますよ?」
――ボクの発言は、この世界だったら相手との関係によるけど、相手を口説いているのとそんなに変わらない。特に女子が男子にそう言えば、それは一種のナンパ以外のなにものでもないだろう。
まぁ、そういう場合、褒めるのは髪型じゃなくて胸板とかお尻だけど。
あ、ちょっとマキノさんどこ触ろうとしてるの!?
「ああん」
手が妖しいマキノさんを引き剥がす。油断も隙もない!
「そういう、貞淑なところが素敵ですわ、ナギサくん」
「貞淑って……ボクは人妻男子高校生なんだから当然だろ!?」
これでどうして風紀委員なんてやってるんだろう。男子にセクハラをするためっていうなら、ボク以外にセクハラをしないのがおかしいし、同性に厳しいんだろうか。
――ともあれ、どういうわけかマキノさんのボクに対する評価は高い。ヒメノの人妻男子高校生じゃなかったら、どこかでパクってされててもおかしくないくらい。
「……む、何だか不埒な考えをいだいておりませんの? ナギサくん。人をプレイガールみたいに」
「い、いや、そういうわけじゃないけどっ」
「言っておきますけど、ワタクシがこうしていやらしい視線を向けるのはナギサくんだけですわ! ナギサくんだから、こうして情欲を向けているんですのよ!?」
「それはそれで困るんだけど!?」
えへへ、といやらしい笑みを浮かべるマキノさんは猛獣だった。
「――第一、ナギサくんは魅力的過ぎます」
そして、まるでボクが悪いかのように言ってくる。さすがに、公衆の面前でそんなことを言われると、ボクだって恥ずかしいんだけど!?
と、言っても聞く耳はもってもらえないだろうなぁ。
「一般的に、男子たるもの、女子の三歩後ろを歩けとは言われますが、ナギサくんはそんな清純で模範的な男子高校生そのものです。おとなしくて、誠実で」
内気で、人付き合いが苦手だからウソを付くのも苦手、というだけだ。
「それでいて、容姿端麗。男子は着飾るものとはいいますが、ヒメノさんが選ぶのも解る美麗さでしてよ?」
それこそ、ヒメノに相応しい男になりたくて、髪型とかを整えた結果だ。本来のボクは、どこまでいっても平凡な男子高校生でしかない。
「何より――ナギサくんは人妻男子高校生です」
「それは……」
「こんなにも清純なのに、人妻男子高校生になるくらい情愛が深い。ああ、貴方に愛されるヒメノが羨ましくて仕方がありません!」
この世界は、完全な女性優位の世界だ。愛の告白も、一般的には女性が行うもの。男の方から愛をささやくなんて、淫乱にも程があるというのが普通の考え。
一つだけ違うのは、
そうすると、その男子は高校生になった段階で告白した女子と結婚し、人妻男子高校生になる。
前世の価値観で言えば、美少女が一生自分に仕えると幼い頃から宣言して、それを実行するようなものだ。男性冥利に尽きるというものだけど、それと同じことがこの世界で言える。
でもってボクは、前世の感覚で好きな子に告白したボクは、その子に人妻男子高校生になるかといわれ、よくわからないがそれで女の子と付き合えるなら、と了承した。
結果、今のボクはヒメノの人妻男子高校生という立場に収まっているわけで。後悔は全く無いけれど、どうしてこうなったんだろうとは今でも思っている。
――だからまとめると、ボクは前世だと内気でコミュ障な、モテないオタク男子だった。それがこの世界だと、清楚で思いやりの深い。それでいて一人の人間に対して惜しみのない情愛を向ける、完璧男子高校生に生まれ変わってしまったらしい。
うん、これが前世で自分を慕ってくれる女の子だったら、そりゃ素晴らしいよね。この世界の女子は皆力こそパワーみたいな人ばっかりだけど。
「それに……ワタクシとしては貴方のこの積極性も、好ましいですわよ?」
「ちょ、顔が近い、近いってば!」
いいながら、ボクはボクの顎を持ち上げてくるマキノさんを遠ざける。今、マキノさんは乙女ゲーのヒーロームーブをナチュラルに行っていた。
「ふふ、そうやってワタクシを拒絶できる男子なんて、やっぱりナギサくんくらいですわね」
――と、そういう事情もあったりなかったりする。
ボクは前世の感覚があるから、女子に迫られたらそれを拒否できるけど、この世界の男子はそうも行かないらしい。
「身持ちが固くて、それでいてワタクシにもズバズバとモノを言える男子……ねぇ、そういう男子をどう呼ぶか、ナギサくんは知っていますか?」
「……いや」
知ってるけど、口に出したくないです。
「――おもしれー男、っていうんですのよ?」
どうやら。貞操逆転世界に、引きこもりコミュ障オタク男子が転生すると、清楚で一途なおもしれー男になるらしい。意外な発見だった。
「それにくらべて、ヒメノはダメですわね。ナギサくんも見ました? 昨日もGPBでナギちゃんにデレデレしていましてよ?」
「うっ……」
――そこで、ヒメノの方へ話題がソレた。
よくない傾向だ。
「あんな浮気症の女より、ワタクシのモノになったほうが、貴方は幸せになれると思いますの。――絶対に幸せにしてみせますわ?」
「……ヒメノを悪く言うのはやめてよ、マキノさん」
話題を打ち切ろう、あんまりヒメノを悪くいわれると、少し辛い。
「ま、ワタクシはいつでも待っていますから、その気になったら言ってくださいまし」
そして、マキノさんもそれをよく解っているので、すぐに話題を切り替えてボクから離れる。流石に長話が過ぎた、そろそろ門限だから、本格的に遅刻者を取り締まらなければならないというのもあるだろう。
ともあれ、ほっとする。
GPB……というのは後で説明するけれど、ヒメノはこの学校以外でも有名人だ。それは、学校以外でもヒメノが活動しているからで……で、その活動場所でヒメノは一人の“女の子”にご執心だ。
それを浮気者、なんていわれることもよくあるし、ヒメノは否定できていない。
実際、彼女に対するヒメノの熱意は本気で、傍から見ていてボクは浮気されているカワイそうな人妻男子高校生というふうに見られているかもしれない。
人妻なのに、浮気するんじゃなくてされるのか……とか思わなくもないけど。
けれども、しかし。
ボクとしてはその事にたいして、色々と言いたいけれど、言えないことがある。そして、それをいわないために我慢するのが、辛いのだ。
だって、ボクがそれを誰かに伝えられればヒメノの浮気性なんてウソだってすぐに解るのに。
そう、なぜなら――
ヒメノがご執心な女の子とは、ボク自身のことなんだから。
ああ、言えない。言えるわけがない。
貞操が逆転してしまったこの世界で――
人妻男子高校生であるボクが、TS魔法少女をしているなんて――――
性癖が過積載すぎるとは思いますが、人妻男子高校生って語感だけで戦えるところはあると思います。