貞操逆転世界に転生した人妻男子高校生は、TS魔法少女   作:てんとーし

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3 こんな可愛い子が、女の子のはずがない!

 ――少女は、GPBにあこがれて足を踏み入れたばかりの新人プレイヤーだった。

 右も左も解らず、本人の気質故に突撃を繰り返し、その度に死亡して、結果成長できないどこにでもいるプレイヤーの一人だ。

 全国、全世界に凄まじいプレイ人口を誇るというGPBにおいて、トッププレイヤー、女帝と呼ばれるほどのプレイヤーになれる人間はほんのごく一握り。

 

 少女は、そんな一握りからこぼれ落ちてしまった、そんなプレイヤーだったんだろう。

 

 それでも、諦めるにはまだ早いと、今日もダンジョンアタックに挑戦していたのだが。

 そこで少女は、運命に出会う。

 

「やああああああああ!」

 

 果敢な突撃によって、アリ型のスペリアンに剣を突き立てる。それまでにも何度かそうしていたが、今の一撃には手応えがあった。討伐経験の少ない少女でもその手応えは余りにも明白なのだ。

 やがてスペリアンが倒れ伏し、消滅する。スペリアンから入手できるマテリアルは自動でGPBによって回収されるため、グロテスクな絵柄にならないのは、男女問わずGPBが好評な理由だろう。

 

「やた、勝った!」

 

 ――久しぶりの勝利である。ここ最近は最初のスペリアンにすら勝てない日が続いていた。前にスペリアンを倒したのは一週間ぶりだっただろうか。

 それも手負いのスペリアンで、ほとんどハイエナのような状況だった。

 

 新人ならそういうスペリアンを倒して経験値を貯めることで、スキルを開放するのが大事だという意見もある。でも、少女は騎士タイプのプレイヤーなのだ。特に彼女の憧れる騎士は、プレイ開始初日から、この手のスペリアン相手に無双したという。

 逃げるわけには行かないのだ。

 その後に待っているのが、スペリアンに囲まれることによる鏖殺であったとしても。

 

 ――気がつけば、辺りには無数のスペリアン、見慣れた光景だった。一体相手に集中していると周りをみる余裕なんてない。だから、毎回少女は一体のスペリアンを討伐した後、囲まれて敗北する。

 今回もそれで終わり――の、はずだった。

 

 けれど、そうはならなかった。

 

 少女の周囲を光が覆う。気がつけばスペリアンは全て退治されていた。自分が一匹倒すのに数分はかかる相手を一瞬で。

 純粋な実力差のある相手が、自分を助けてくれたのだ。

 

 ――一体誰が?

 

 普通なことではなかった。ダンジョンアタックは個人競技、他人を助けるメリットなんてなにもないのだから。

 後から考えてみれば、自分がスペリアンを引き寄せていたから、それを横からかっさらってポイントを稼いだというのが正しい事実だったのだろう。

 

 こっちは命が助かって、向こうはポイントを稼げた。実に合理的でウィンウィンな行為といえる。少女を活かす意味は薄いが、どうせ相手からしてみれば少女は木っ端だろう。見逃したって、自分の不利益にはならないんだ。

 でも、その時はそう思えなかった。

 

 ――だって、目の前にいたのが、

 

 どこまでも可憐で、あどけない。

 

 

 魔法少女ナギという、天使のような少女だったのだから――

 

 

 ―

 

 

 魔法少女ナギ。

 関東ダンジョンのトッププレイヤーで、女帝ヒメノに並ぶと称されるGPBプレイヤー。ただし、世界的に絶大な人気を誇るヒメノと比べると、その人気はトッププレイヤーの中でも特殊だ。

 一部からは極端に嫌われ、一部からは極端に好かれている。それがナギという少女である。

 

 少女は、ナギに対して特に偏見も好意もなかった。理由としてはナギがあまり表に出てくるタイプのプレイヤーではなかったということが大きい。

 GPBプレイヤーは人気商売だ。GPBプレイヤーの中には、プレイヤーとしてよりも、アイドルとして活動しライブやら何やらで評価され、収益を得ているプレイヤーもいる。

 アイドル人気もそうだが、プレイヤー本人による実況配信も人気コンテンツの一つだ。よりプレイヤーに近い立場でGPBを観戦できるとあって、多くの人々に人気がある。

 

 アイドルと配信者――この二つは大分共通している部分もあるが、そこらへんをひっくるめてGPBはアイドルと配信者のハイブリットのような存在と言えた。

 そんな中で、ナギはアイドル活動もしていなければ配信もしていない。稀有なプレイヤーだ。

 

 女帝ヒメノだって配信くらいはする。大抵の場合は公式のプロモーションや、大会での本人視点による配信で、頻度はそこまでではないものの。決して稀というわけではない。対してナギの配信は非常に稀有だ。誰かの配信にコラボという形で顔を出したり、公式のプロモーションに他のプレイヤーと参加することはあるが、単体での配信は年に一度あればいい方である。

 だから、そもそもナギは人気以前に知名度が低い。

 

 これでプレイヤーとしての実力がエリア不動のトップだったなら、実力に人気が伴っただろうが、関東ダンジョンには五年以上トップの座を守り続ける不動の女帝、ヒメノがいる。

 残念ながらそちらでも、人気になる要素はなかった。

 

 どちらかというと本人が人気になることを避けているかのようで。まぁ、実際彼女が知名度を得たら彼女に対するアンチとファンは今よりも更に二極化することが明白であるから、彼女の判断は正しかったのだ。

 ただでさえ、ヒメノの浮気相手なんていう、不名誉極まりない噂が立っているというのに――

 

 ――ともあれ、そんな魔法少女ナギが目の前にいた。

 

 今の少女にとって、ナギに対する感情は二つ、一つは助けられたことへの感謝。そしてもう一つは――

 

「――大丈夫ですか?」

 

 幼気な少女の声だった。

 若干ハスキーな、特徴のある声音でもある。彼女のファンの中ではピクシーボイス、なんて呼ばれる中性的な性質。

 

 降り立ったナギを、少女は改めて観察する。

 目の前に有名プレイヤーが生身で立っているなんて、そうそう起こりうることではない。だから、ミーハー半分、女性としては珍しい性格の少女を観察半分。ナギのこと少女は見ていた。

 

 華奢な体だ。

 女性は屈強であるべし。背が高く、胸や尻の大きい女性が女性にも男性にも好まれる世界で、彼女の 体躯は異端も異端。幼女性愛はこの世界においても異常性癖だった。

 逆に少年性愛は、この世界だと奨励される性癖だったりもするが。

 

 みんな、か弱くてあざとい男子が大好きなのだ。

 

 逆に言えば、ナギは一見、“か弱くてあざとい女子”である。そういった女性は、男子の間ではむしろ好かれない。女子にも好かれないが、男子の間ではより一層“ない”といわれるタイプである。

 この世界の価値観は、どちらかといえば見た目の美醜より内面の美醜が優先される傾向にあり、中でもあざとい系女子とは、醜に分類される内面なのだ。

 

 これには、理由があるのだが。ともかく。

 

「果敢な突撃は騎士の花ですが、無謀と作戦を履き違えてはいけませんよ。今の貴方の実力なら、倒せる相手をきちんと見極めるところがスタートです」

 

 ――降り立った少女が駆けてきた言葉は、少女からしてみると以外なものだった。

 言っていることは、教科書どおりの内容であり、少女も耳にタコができるほど聞いてきた、そんな言葉である。ただ、余りにも目の前の少女と乖離した内容であったために、

 

 一般的にか弱くてあざとい少女は、こんなに凛としていないし、もっと口下手なはずだ。完全な偏見であるが、この世界ではそれが常識である、とも言える。

 そりゃあ仮にもGPBのトッププレイヤーなのだから、頭の回転は早いだろうけども。それでもここまでナギがまっとうなことを言うとは思わなかった。

 

 もう一度言うが、少女にはナギに対する偏見も好意もない。ナギのような少女に対して、世間のイメージ事態がそういうものなのだ。こればかりは、世界の価値観が逆転した弊害としか言いようがないだろう。

 

 少女がお礼を言うと、更にナギは驚くべきことを言ってきた。

 

「じゃあ、ここにはもうスペリアンが一体もいませんからね、獲物を横取りしたお詫びに、スペリアンがいるところまでは送っていきましょう」

 

 ――思ってもないことだった。

 冷静になれば、ナギは自分の利益のために少女を囲んでいた敵を消滅させたのだと解る。別に向こうは善意で少女を助けたわけではない。

 

 でも、これ以上は単なる善意、お人好しの行動だ。

 別にそれ自体が悪というわけではない。お人好しは美徳であるし、少女が否定するわけでもない。

 

 ただ女らしくないな、と思った。どういうことかと言えば、この世界において女性同士は、互いに切磋琢磨しあうのが常識だ。

 相手に対して情けはかけても、施しはしない。

 善意でもって相手に相対するのではなく、敬意で持って相対する。

 

 つまり、こういうときに立派な女性なら、少女にアドバイスを送った後、送迎ではなく“激励”を選ぶはずなのだ。きっと貴方も、私と同じ場所まで来れる。

 だから、負けるな――と。

 

 ナギは特異な少女だ。あざとさと、生真面目さ。そして女性らしくないお人好しさ。優しくこちらを導いてくれる様は、なんというか――

 

 そこまで考えたときだった。

 ふと、ナギが手を差し伸べてきたのだ。思わぬことに、少女の思考が停止し、自然とナギと目が合う。それが、良くなかったのだろう。

 

 

 その日、少女は運命に出会ってしまった。

 

 

 ニ、と微笑むナギに、気がつけば少女は魅入られていた。

 その笑みは、決して“あざとい”といわれる笑みではない。あどけなさこそあるものの、優しさと慈愛に満ちで、何よりも――

 

 ()()()()()()()()だった。

 

 思わず、見惚れていた。

 目の前にいる少女が、少女に見えなくなってしまっていた。だってそうだろう? こんな素敵な笑みを浮かべる女性が、この世界にどれだけいる?

 ナギはきっと天使だったのだ。天使は性別を超越していると少女は聞いたことがある。つまり、つまり、つまり――

 

 

 ナギは、少女ではなかったのだ――――

 

 

 ――そう、少女は勝手に決めつけた。

 故に、こう口にする。伸ばされた手を手にとって。

 

 ナギに聞かれないくらいの小声で。

 

 

「――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――と。

 

 

 ―

 

 

 ナギサの前世において、こんな言葉がある。

 こんな可愛い子が、男の子のはずがない。

 

 いわゆる、男の娘というやつだ。

 見た目や所作がまるで女性のようで、けれども実際には男。

 

 この世界において、魔法少女ナギもまた、そういう風に見られていっるのである。見た目は華奢で性別を感じさせる凹凸が一切ない。髪こそ長いが、この世界では長髪の男性だってナギサの前世よりは多いわけで。

 

 とにかく、ナギは貞操逆転世界基準で、男性とも女性とも言えない容姿をしていた。

 

 加えて実際に、ナギサは男である。

 男であるナギサは、周囲に清楚で男らしい、けれども芯の強いおもしれー男として見られていた。理想的な男性像というのは男女ともに異なるが、ナギサのそれは男女共通の、素晴らしい男子そのものであった。

 ヒメノは女帝と呼ばれ、絶大の人気を誇る美少女であるが、その人妻男子高校生であるナギサもまた、決して見劣りのしない魅力を保つ美少年なのである。

 

 この世界基準では。

 

 ではそれが、性格そのままに女性となったらどうだろう。

 一見、女らしくない、むしろ男らしいといえる所作や見た目はマイナス評価だ。ナギを嫌う女性には、そういったところがどうしても鼻に付いてしまう人間が多い。

 これに関しては男性に関してもそこまで違うものではない。ナギのような少女を嗜好する男性は――女性もそうなので、男性に限らないが――「ロリコン」のそしりを受けることは免れない。

 

 しかし、実際に話してみるとどうだろう。

 ナギは確かに男らしい部分があってなよなよしている印象を受けるが、話し方はむしろ理知的で、意志が強い印象を受ける。

 更には男性らしさというのも決してマイナス要素だけではない。彼女のお人好しさは、その中性的な笑みも相まって、一部の女性へ非常に大きな魅力となるのだ。

 

 女性らしくない女性。むしろ男性のようにも見える。それこそが魔法少女ナギの本質。男性でありながら女性となってGPBのプレイヤーとなった、立花ナギサのあり方なのだ。

 

 こんな可愛い子が女の子のはずがない。

 

 それこそが、ナギを愛でる者の合言葉。

 貞操逆転世界に転生したことで、前世では評価されない性格だったナギサは、この世界では名実ともに美少年と呼ばれるに相応しい性格となった。

 それは、理想の男性とも言うべき、誰からも評価されるようなものだった。

 

 それが女性になると、一点。一部の人間からは極端に嫌われ、一部の人間からは極端に好かれる存在となる。

 言ってしまえば、魔性の女。

 男も女も関係ない。深い深い沼へといざなう、“魔女”としか言いようのない少女が、そこに居た――

 

 

 ―

 

 

「ここらへんなら、スペリアンと遭遇することができると思います」

 

「……うん」

 

 頬を赤らめる少女と、振り向いて話しかけたことでそれに気がつくナギ。

 両者の間に気まずい沈黙が流れた。ナギに完全に落とされてしまった少女と、それに気がついてしまったナギ。なぜ、ほわい、どうして? 自分はただ少女を助けてここまで連れてきただけだというのに。

 普通なら、それは単なるお節介なだけのはずなのに。

 

 自分の魔性に気が付かないナギは、ただただクビを傾げるばかりだ。

 

 そんなときである。

 

 遠くから、何かの音が聞こえてきた。

 不自然なほどに、それは遠くから聞こえてくる。少女は何事かと辺りを見渡して、ナギは慌てたように杖を構えた。

 

 

 直後、それは音よりも早く現れた。

 

 

 少女は認識できなかった。

 余りにも早すぎたのだ。対してナギは、それを当たり前のように対処していた。気がつけば、少女の目の前で二人のプレイヤーが相対している。

 

 片や、ナギは杖を構えて、“極小”の障壁を生み出していた。

 

 そして、もう片方――騎士の少女は、巨大極まりない大剣を、その障壁に振り下ろしていたのだ。

 

「危ないじゃないですか――ヒメノ!」

 

「――あら、ナギだったんだ。ごめんなさいね、ここからボスの反応がしたから、てっきりボスがいるのかと思って先制攻撃しちゃった」

 

 騎士の名は、ヒメノ。

 女帝ヒメノが、そこにいた。

 

「いくらボクでも、最速で飛んできた貴方の斬撃を防ぐってなると、このサイズの障壁じゃないとダメなんですよ、もし少しでも位置がずれてたら、ボクと彼女がズンバラリだったんですからね」

 

「……あら、また女の子に好かれたんだ。貴方も人のこと言えないじゃない、浮気者」

 

「言っている場合ですか――ボス、いるんでしょう? だとしたら……」

 

 ナギは呆れたように、ヒメノは笑みを浮かべながら空を見上げる。なお、そうしながらもヒメノは少女に促して、彼女をこの場から避難させていた。

 

「――まぁ、上よね」

 

「ですね」

 

 

 そして見上げた先に、巨大な巨大な、クモがいた。

 

 

「んじゃ、競争と行きましょ?」

 

「今日は勝ち越しますから」

 

 剣と、杖。

 それぞれ自身の身長ほどもある得物を振り上げて、

 

 落ちてくるクモと、相対した――!




貞操逆転世界でTSすると同性をたぶらかす魔性の女になる。
これって新しい学説にならないでしょうか?
なりませんね。
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