ハリーポッターと不死身の預言者【改正中】   作:或売奴千刺

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2021/10/11 21:46脱字部分、加筆


目覚め

イギリスの一角のなんもない平凡なハロウィンの日だった。

つい4年前まで闇の魔法使いが大暴れし、英雄の両親を惨殺したとは思えない程に、何にもない平和なハロウィンだ。

 

ウェインライト氏が住まう一軒家の一室で、風邪にうなされていた男の子は目覚めた。

男の子はハロウィン前に風邪にかかり、楽しみにしていた友人とのパーティにも出れず、熱にうなされる中拗ねていたが、ようやく熱が引いてきたところだった。

 

熱にうなされていた時は、両親のどちらかが面倒を見ていたが、共働きであったため、今は一人息子のリンネを残して二人とも働きに出てしまっていた。

 

父のジェイク・ウェインライトは家庭型パーソナルコンピュータを販売する会社に務めているエリートで、ウェインライト家自体が裕福なだけあって本来なら共働きである必要はなかった。

母ベルナデット・ウェインライト、旧姓ベルナデット・ルーセルは父がフランス旅行に行った際に出会った女性で彼女もなかなかの資産家の家であり、プロポーズしたジェイクに彼女の両親は一度反対したものの同じく裕福で資産狙いではないことが分かると交際を許した。

二人は結婚し子供を授かるも、子育てよりも仕事に夢中になり半ば育児放棄状態だった。

ただ家は裕福であるため、育児や家事のほとんどはハウスキーパーに任せ、リンネ自身もほとんど両親に可愛がってもらった記憶がなかった。

 

パソコンを販売している会社の従業員だけあり、家にはまだ珍しいパソコンが何台も置かれ、子供のリンネでも触ることができたが、正直面白くなくてもっぱら外で友達と遊んでいた。

 

初めて目が覚めたとき、リンネ・ウェインライトは見慣れたはずの部屋におや?と疑問を感じていた。

 

この世界には魔法使いという者たちと魔法の使えないマグルと呼ばれる人種が存在する。

 

魔法使いは人に乗り移ったり、人の記憶を入れ替えたり消したり、思うがままに操ったり出来る。

 

とはいえマグルの一家に生まれ、両親ともにマグルで、近くに魔法使いもおらず魔法の危害を加えられる要素がないウェインライト氏の息子が、見慣れたものを見て初めて見たかのような顔をするのは異常だ。

 

マグル的に言えば記憶が混乱しているとか記憶喪失かもしれないと考えるだろうが、リンネには自分がリンネ・ウェインライトという名前であることや両親の名前、この部屋が自分の部屋であること、昨日何があったか、2年前におねしょをしたことまで克明に覚えていた。

 

魔法の魔の字も関係のないリンネにとって本来、どこの変哲もない見慣れた自分の部屋に疑問を感じることなどないはずだ。

 

稀にマグル生まれの親から魔法の力を持つ子供も生まれるが、それとも違う。

彼には魔法どころではない秘密があった。

それは彼が今目覚めるまでなかった秘密であり、今まさにただの少年だったリンネ・ウェインライトが特別な存在になった瞬間だった。

 

彼には、日本という国で生まれ死んだ記憶があった。遠く離れた島国で、1985年現在から40年近く未来の2023年の記憶を持っていた。

タイムトラベルかタイムリープか。

少なくとも日本に住んでいた頃の彼がイギリス人だった事実もなければ、40歳近くだったこともない。

20を過ぎてそろそろ就職先を探していた大学生のはずだった。

血を吸い、同じ人間を食べものや飲み物のように見ていたことや少し度を過ぎた嗜虐心を除けば好青年であったことは間違いない。

そして人肉中毒になって死亡し、その死の直前のことを無意識に思いだした彼は現在、風邪は治ったはずなのに、汗でぐっしょりとしていた。

 

脱水症状を起こして体が重いのを無理矢理起こして、ぴったりと肌に張り付いたシャツとか蒸れたトランクス(パンツ)など、そんなことが気にならないかのように、凄く不思議そうな顔で周りを見回した。

 

酷く喉が渇いていたリンネは、当然の机の上に置かれていた花瓶から花を引き抜くと床に捨てて、花瓶の中に入った濁った水をごくごくと喉を鳴らして美味しそうに飲んでいた。

そも、この行動が人間離れしているわけで彼を知る人物が今のリンネ・ウェインライトを見れば腰を抜かすほど驚くだろう。

リンネは花を大切にしていたし、少なくとも人間の大半は花瓶の中で腐食した水を飲もうとしない。

 

やがて薄くしか開いていなかった目を見開くと、頭の先から伸びる絹のように細く艶やかなで輝くブロンドの髪の毛を乱雑に引っ張ったり、可愛らしい小さくて高い鼻をよじれるくらい摘んだり、ヨーロッパでは整えられている方がステータスである、犬歯を触って酷く落胆したり、子供用の机の上に立てかけられた写真を床に叩きつけてニヤニヤと子供あるまじき不気味な笑みを浮かべた。

 

今までのリンネ・ウェインライトにその写真はとても価値のあるものであった。

リンネを中心に母と父。父の祖父と大好きなハウスキーパーのソフィア。

最後にみんなで遊びに行った遊園地での写真だった。

 

人生の中でもっとも幸せな体験だった。

かえってこない父がくれた沢山のお金が入ったクレジットカードや、母が作り置きしてくれた好物のでっかいチキン。

クリスマスには山のように置いてあるおもちゃ。どれもこれもみんながうらやむものを貰いながらも、一番リンネが欲しかったのは両親からの愛だった。

 

両親が最後に連れて行ってくれた、みんなで行ったあの1日がリンネの宝物であったはずなのだ。

 

大切だった写真は床に叩きつけられ写真たての額はひしゃけ、ガラスは飛び散った。

リンネ・ウェインライトはその時の幸せな気持ちを思い出しながら、おもむろに引き出しから取り出したインクで真っ黒に塗りつぶして手が汚れるのも構わずぐしゃぐしゃに丸めて机の上に置いた。

 

終始、不気味な笑みを絶やさなかったリンネは、まるで火に吸い寄せられる虫のように、靡くカーテンの向こうに広がる芝生をみると、窓枠を乗り越え裸足のまま、外へ飛び出した。

インクが手についた状態でカーテンを払い、窓枠を乗り越えたがために白く高級感のあったカーテンは薄汚れ、窓枠にはくっきりとした手形がついた。

 

家の外に広がった芝生を踏み、庭の草花を蹴り、生垣の中を抜け、全身を草だらけ足を土だらけに汚してぶかぶかの寝巻きをきたまま走り出した。

 

 

『ははは、僕ってば凄いや!』

 

昨日まで、濁った目をして表情がなかったはずのリンネには今まさに感情が渦巻いていた。

それは少なくとも子供の無邪気なものではなく、大人が浮かべる欲に塗れた邪悪な笑みだった。

嗜虐に震える瞳と、吊り上がって痙攣したように笑う口、何よりその体から発する狂気のオーラからはリンネ・ウェインライトがよからぬものに憑かれたことを理解させられる。

 

突然、ネイティブな発音で異国の言葉を叫びながら裸足に寝巻き姿で走るリンネを、隣の家に住まうエリナ・ヒューズという偏屈なお婆さんがおかしなものを見たというような驚いた顔で固まっていたが、今、リンネにとって自分がどんな姿かだなんてどうでもよかった。

 

そんなことよりも、自分が見ず知らずの誰かになりかわっているという事実に驚愕し乱舞していたのだから。

 




そんなことよりおうどん食べたい






アンケートの結果次第で内容が変わります。【分岐 序-2】

魔法族ではじめての友達は?

  • アーサー・ウィーズリー(歳の離れた友達
  • ロン・ウィーズリー(同い年の親友
  • ピーター・ペティグリュー(都合の良い友達

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