影の功労者   作:A。

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第二話

 

「白雪……」

キンジが急にリビングに白雪を座らせたかと思えば真剣な顔を寄せてくる。両の手は左右の肩に乗っていて逃げ場はない。ついにその時がきたらしい。

 

「き、キンちゃん……ぁ、あのね、覚悟は決まってるから大丈夫。いつなっても良い様に……キンちゃんに会う時には準備してるから! ちゃんと普段用とは違って、しょ……勝負用のキンちゃんが好みの黒いのを付けて来たよっ」

「じゅ、準備しなくていい。っつーか、そもそも何で俺の好みを知ってるんだよ!」

「あうう……」

 

……そんな時が来てたまるか。

そんな意思を含めての突っ込みだったのだが、白雪には大ダメージだったらしい。物凄く、残念で切なそうな顔をされてしまった。見るな、見たら駄目だ。

 

決してその表情が和風美少女の憂いを含んだ、物足りないとばかりに強請っている霰も無い姿に見えて艶っぽくてドキドキしてしまうから、申し訳ないですけども自重してくれないでしょうか? などと、キンジは決して思ってないんだからね。……誰キャラだよ、オイ。

 

うっかり白雪の雰囲気につられてしまったのか『そういうこと』を想像しかけてしまったキンジは、必死に我を取り戻そうとする。軌道修正だ、軌道修正。余計な事は一顧だにせず、本題に入るべきだろう。

 

「そうじゃない。その、コウちゃん……だったっけか?そいつの事なんだが」

「………キンちゃんはコウちゃんの事が気になるの?」

「え」

「………白雪よりもコウちゃんの方が良いの?」

「ち、ちちちち違う。白雪が珍しく仲が良さそうだったから気になっただけなんだ!」

「きゃっ。私の事が知りたいだなんてっ……キンちゃんったら大胆」

 

あ、危なかった。幼馴染故に慣れがあるものの、何がうっかりブラック白雪の引き金を引いてしまうかは分からない。迂闊な言葉は控えておくべきだろう。今は逆に照れ状態なので、行けるかもしれない。

 

「それで白雪はコウちゃんと仲が良いのか?」

「うん、結構仲は良いと思う」

「ふーん、白雪に仲が良い奴が出来て良かった。どこで知り合ったんだよ」

「コウちゃんとは…―」

 

――この時キンジは単に白雪が楽しそうにしていたので、話を膨らませようと聞いただけなのだが、詳細を聞いて驚き慄く事になるとは知る由も無かったのだった。

 

 

 

 

この日、白雪は学園内にあるコンビニに来ていた。ちなみに只のコンビニと一緒にしてはいけない。確かに通常の商品もあるのだが『東京武偵高に相応しい』逸品が偶に紛れていたりしている。

その他にも学用品の数が充実していたり、自炊する学生用に食材なども通常のコンビニよりかは豊富に取り揃えられているのだ。

 

現在の時刻は日暮れ近く。合宿が終えたばかりの足で寮にすら戻らず白雪はここに直行していた。標的は、食材達である。キンちゃんの御世話を全然出来なかったお詫びに明日の朝食位は絶対に絶対に作っていかねばならない!白雪の目は燃えていた。

 

立ち並ぶ野菜や肉、魚などを前にして鮮度を見比べる。久しぶりにキンちゃんに食べて貰うのだ。まずは一番良い鮮度の物を選ばなくてはならない。産地は勿論の事、パックされていて隠れている傷一つですらも、透視して見分けて見せると全神経を集中させていた。

 

学園の生徒が白雪の姿を見つけて駆け寄るも、思わずオーラに圧倒されコンビニから逃走する程の真剣さだ。店員も余りに同じ場所に長時間陣取られると営業妨害に当たるため、本来なら注意するべきなのだろうが……雉も鳴かねば打たれまい。君子危うきに近寄らずの精神である。実に賢明だ。

 

そして通常、集中している人間に対し掛けられた声をスルーしても仕方がないと思うのだが――有力な情報となれば話は別だったりする。食材は粗方篩(ふるい)にかけ、厳選に厳選を重ね、その中から献立を検討している白雪に近づく一人の影。

 

「遠山キンジ君は最近、ずっとここの醤油ダレのトンカツ弁当と特製唐揚げ弁当にハマってたみたいだから、今はしょっぱい味付けにハマっているんじゃないかな?それも、コンビニ弁当ばっかりだからさ、控えめで優しい手作りならではの味には弱いと思うよ。的確な作戦だ。ただ、コンビニならではのクドイ味付けに暫く舌が慣れているだろうから逆に和食系統のヘルシーな野菜とか豆腐を使ったオカズも一緒に入れるのも手だと思う。しょっぱい品との対比効果に、箸やすめにもなるからね」

 

「な、成程!」

 

不意に響いた声や、気配云々よりも先に白雪はその内容の的確さに反応した。続いて先ほど述べた内容を踏まえて、カゴの中の食材を使って作れる品目が告げられたので、一言一句逃さぬ様にメモを取る。その後も、更にその中から無理なく白雪が作れるであろうレシピと照合しつつ、色合い、栄養バランス、好みを兼ね備えた完全弁当の構造を練った。

 

「ふーっ。か、完璧です。これなら、きっときっと……キンちゃんはっ」

 

お弁当の中身が漸く満足の行く内容に決まった瞬間、キンジの美味しいと言ってくれる姿が浮かび上がり、白雪の顔が幸せの余りに崩れる。最もこの際のキンジの顔は白雪ビジョンで8割増しで美形化され、オプションで鳥肌が立つあまーーーーいセリフもついていたりした。

 

「そうだね、きっと美味しいって喜んでくれる事間違いないよ。で、これで一応悩みは解決したのだから、避けて貰えるよね?」

 

「ふえっ?」

 

急に現実に呼びもどされて我に帰る白雪。脳は完全に通常モードへと移行は果たしていなかったが、取りあえずもう食材の棚には用はないので素直に横へとずれた。

 

すっと、物音すら立てず空いたスペースへと滑り込んで来た人物はトマトを取ると、レジへと向かう。

 

「あっ、ちょっと待って下さい」

「何?」

「あ、ありがとうございますっ」

「別にただ、決まるまで避けてくれないだろうからってだけ」

「それでも助かりました。何かお礼を…―」

「だから、単に自分の都合良く事を運ぶために必要なだけだっただけ」

「失礼しましたっ。……私ったら、名前を名乗っていなくって」

「いやだから聞けよ」

「遠慮は良くないと思うの」

 

向かいたいのだが、正面から白雪が立ちはだかる。話しながらも適当に振り切ろうとするも、何かスイッチが入ったのか鉄壁のディフェンスでレジへ到達する事が出来ない。

 

「…………」

「…………」

 

 

 

「こうして、コウちゃんは私が困っている時にアドバイスをしてくれたの。え、遠慮がちでね、お礼を辞退するって言ってたんだけど、そんなの良くないよね。……だから、その……キンちゃんの好みの味付けにかえるのに失敗した料理があったら提供するっていうお話で取引を成立させて…――」

 

大いに戦慄いた。今朝の激うま弁当にそんなカラクリがあったとは。普段もうまかったが、劇的に変化があるとすれば何か裏があるのは必然なのだろう。こいつは知りたくなかったが、知っておくべき情報だったのかもしれない。

 

って、何の話だっ!出会い……いや、確かに出会いのきっかけなんだろうが、何が違う。いや、絶対におかしいだろう。こう……もっと普通の"女の子同士"の和気あいあいとした出会いとか交流とかじゃねぇのかよ!!

 

キンジの突っ込みはどこまでも届かない。

 

そして、この時に話から目を背けず、しっかりと白雪に詳細を聞かなかった事を後悔することになるのはまだ少し先の話である。

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