最近彼女達の様子がおかしい   作:ガラン・ドゥ

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 とりあえず完成。相変わらずラストの書き方が分からないのでアドバイスくれると有り難いです。
 亜蘭作務村さんのリクエストより


10:夜天の少女からのサプライズ

「家族旅行?」

「うん、もう秋も終わりやん。せっかくやからシグナム達も連れてゆっくりできる場所に行きたいな思うてなー。んで定番なんは温泉やろ? 良いとこ探してもう予約も取ってあるんよ」

 

 僕達が今いるのはミッドチルダの郊外に建てられた一軒家。なのはとフェイト、そしてはやての3人が共同で借りているという借家だ。

 ここは、そう、5人から一斉に告白された場所であり、僕のトラウマ……もとい思い出の場所となっていた。

 ここにいるのには理由があって、はやてと共にこなす管理局の任務があり、一緒にミッドチルダにまで来ていたのだが、地球に帰ろうとしたところで戻る為の船が欠航しているのだ。

 ホテルとかでも良かったんだろうけど、折角金を払って借りている場所を空き家にしておくのは勿体ないということで借家に泊まることが決まった。

 まだ使う予定では無かったとの話なので家具はほとんど置かれていないが、最低限の食器類と備え付けのキッチン、そして無駄に広いベッドが置かれているため一泊する分には問題ない。

 そこで朝食を取っていたところ、はやてが先の話題を出した。

 

「へー、まあ確かに最近ははやて達も働きづめだったもんね。どういう旅館なの?」

「ちょっと待ってな。……ほらここ」

 

 テーブルを挟んで座っているはやては身を乗り出すと、こちらに通信端末の画面を見せてくる。

 そこに写っていたのは大豪邸のような見栄えの外観で、写真をスライドさせると趣のある内装が確認できた。

 非常に上品な建物であり、はやてが心惹かれたのもうなずける。

 

「すごいね。こんなところもあるんだ。よく見つけられたね」

「えーとな、幸恵(さちえ)さんって覚えてる?」

「ああ、9歳までのはやての主治医だよね」

 

 本名は石田(いしだ)幸恵(さちえ)さん。海鳴大学病院の医師であり、まだ車椅子に乗っていた時期のはやてに真摯に接しくれた人だ。

 

「そうそう。その人がな、この前連絡した時に温泉旅館に行ったって話してて、それがここだったんよ。ペットも大丈夫だから安心だって言ってくれて」

 

 ペットとはどう考えてもザフィーラのことだろうが、幸恵さんはあの体格でペットという言葉が通用すると思ったのだろうか。

 どう低く見積もっても大型犬以上だし、ぶっちゃけオオカミとかそっちの類にしか見えないが、他のお客さんが驚かないか心配である。

 ……あまり深く考えない方が良いな。はやては喜んでいるようだし。

 

「ま、まあ何はともあれ楽しんできなよ。八神家全員で予定が合う日なんて中々無いだろうからね」

 

 見送りに行くくらいはするつもりだけど、僕もその日は何も無いし、珍しく誰も家に来る予定も入ってないのでゆっくり休める。

 が、はやてはキョトンした顔で僕に一言告げた。

 

「何言っとるん? ノア君も行くんよ?」

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ―

 

 1週間後、僕は八神家の面々と共に温泉旅館まで移動していた。

 目的地は高速バスで2時間半の時間を要する場所にある。

 自然に囲まれた場所に位置するため民家などは近くにあまりないものの、温泉街は大勢の人で賑わっているらしい。

 それだけ名の知れたところなのだろう。

 今から楽しみだという気持ちはもっているけれど、同時に自分が場違いな人間なのではないかと不安になってくる。

 それについて1週間前にはやてに「家族で行くものなんだから僕がついて行っちゃ駄目でしょ」と抗議したのだが、彼女からは何ともなしに。

 

『え、ノア君は未来の旦那様やない。そんなんもう家族と一緒や。何も問題あらへんやろ』

 

 と素で返された。

 まあ彼女も9歳までは1人で生きてきたから、家族に対しては並々ならぬ感情を抱いているというのは知っているので、未来の旦那様発言は置いといて強く出ることもできなかった。

 しかし彼女は僕の分の宿泊費まで負担しようとしていたので、流石にそこまで面倒見てもらうことはできないという思いから自己負担分のお金は出しておいた。

 それはもういい。双方協議した末に納得したものだから。

 それでも悩みのごとは消えない。なぜなら僕の不安ははやてでは無くシグナム達についてのことだからだ。

 ぶっちゃけてしまうと彼女らに、未だにはやて達とお付き合いしているということを伝えてない。

 自分達の主を含めて5股してるとか、その場で斬首されてもおかしくない所業である。それを考えると夜も眠れない状態が続いていた。しかし。

 

「なんだよノア。死んだような(ツラ)しやがって。あたしのお菓子食うか?」

「あ、うん、ありがとう。いただくよ」

「もうヴィータちゃん、今から食べてるとお夕飯がお腹に入らないわよ。ノア君も間食は控えた方が良いんじゃないかしら」

「そ、そうだねシャマル」

 

 ヴィータやシャマルのこちらへの接し方を見るにまだバレてはいないらしい。バレてたらこんなに親しく接してくることはないだろうから。なのではやてがシグナム達に話したという線はなさそうである。

 こちらが話さない限りは問題なさそうだが、絶対にいつかはバレだろう。

 だったら今の内に伝えておいた方が傷は浅そうだとは思う。しかし僕もまだ死にたくはないのだ。

 結局先延ばしにしそうだし、彼女らに本当のことを伝えていないという不義理が、今回の旅行を心から楽しみにできていない理由である。

 そうは言っても時間は流れていくもので、山ばかりだった景色に民宿や食堂が見え始め、ああ近付いてるんだなあ、と思ってしまった。

 数分後にはパンフレットに載っていたものと同じ景色が広がってきて、バスが徐行し始める。

 やがて国道から1つの横道に入っていくと、目的地はもう目の前であった。

 

 バスから降りると、長時間座りっぱなしで凝り固まった筋肉をほぐすように背伸びしてから、目の前の建物を見上げた。

 旅館は僕が思っていたよりも何倍も風雅な館であった。

 

「何というか、我々も色んな時代の建築物を見てきたが、ここまで綺麗だと思えたのは初めてかもしれないな」

 

 シグナムの言葉にヴィータ達も頷いている。

 

「すっげーよなー。あたしテンション上がってきたぜ!」

「こらこらヴィータ、あまりはしゃがんといてな。早く入って受付せな後ろがつっかえてまうやろ」

 

 ヴィータは今にも走り出しそうだったが、はやてにたしなめられながら旅館の入り口をくぐり、僕達もそれに続いていく。

 中も随分丁寧な作りがされており、まるで伝統的な日本建築をこれでもかとつぎ込んだような美しさがあった。

 その眺めにうっとりとしている内に、はやてはチェックインを済ませており、従業員に部屋を案内してもらうことに。

 その眺めはというと――。

 

「いや広いな、これは」

 

 5人プラス1匹だと手狭に感じるかと思ったが、全然そんなことはない。

 八神家のリビングよりも広いと言えばその規模が分かるだろうか。

 大きなテーブルが2つ続けて並んでおり、8つの座椅子、それにテレビや冷蔵庫まで完備されている。

 

「へえ~、くつろぐ場所と寝室が分かれてるんやねえ」

 

 はやても驚きながら部屋を散策している。やっぱりネットの中のサイトやパンフレットだけじゃ伝わらないところも多いのだろう。実際に来て良かったと思えるくらいには雰囲気は良かった。

 ヴィータと共に部屋を歩き回っていたはやてが押入れを開けたところで、宝物を発見したような声を上げる。

 

「あっ浴衣あるやん。折角やから皆で着替えようよ」

「ふむ、旅館に泊まる時は必ず着るのでしたか」

「おーなんか良いなあ。はやて~着替えさせて~」

「しょうがあらへんな~。はいヴィータばんざーい」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってね!?」

 

 早速ヴィータの服を脱がせようとするはやてを慌てて止めた。ここで着替えられたら非常に困る。

 

「どうしたん、ノア君」

「いや、僕とザフィーラもいるんだから急に服脱がせないでよ!」

「あーそうやった。私は気にせんけどなあ~。どうせもう、はだkわぷっ――」

 

 とんでもない爆弾発言をしようしたはやての口を瞬時に抑える。ここで暴露して畳を血の海にしたいのだろうか。

 はやてを慕う守護騎士達にもう行くとこまで行ったことを知られれば、きっと冷静ではいられない筈だ。

 

「と、とにかく、僕達は隣の部屋にいるから、準備できたら声を掛けてよ」

 

 ザフィーラを小脇に抱えると、僕はそそくさと移動してふすまを閉める。

 何とか逃げ出せたことでふうっと息を吐く。

 最近はやてを含めた5人の男女の距離感がおかしい気がする。このくらいの歳だったらもっと羞恥心とかあっても良い筈なのに……。

 

「……はやてってザフィーラの前でも平気で着替えたりするの?」

 

 今この場にいる唯一の同性であるザフィーラを抱えたまま聞いてみた。

 別に大型犬サイズの彼を持ち上げてる訳ではない。

 今のザフィーラは小型犬サイズまで縮小している。

 何でもアルフに『こいぬモード』の方法を伝授され、それを元に獣化形態を再構成してみたらしい。

 おかげでペットケースにも入り、道中何の問題も起こらずにここまで来ることができた。魔法ってたまにすごいことできるよなあ、と関心してしまう。

 

「いや、家では脱衣所かご自分の部屋でしか着替えたりすることはない」

「そっかー、そうだよね。なんで皆僕の前だとあんな無防備になるんだか……」

 

 一度しっかり言っておいた方が良いんだろうな―とか考えていると、ザフィーラがこちらを見上げていた。

 

「……ノアよ」

「うん? どうかした?」

 

 少し顔を下げて思考しているように思えるが、子犬姿の彼は首を横に振る。

 

「……いや、なんでもない」

 

 明らかに何か言いたそうにしていたから身構えていたのに、そこで止められてガクッとしてしまう。

 その言葉の先に何があるのかすごい気になり、問いただそうとしたのだが、準備できたでー、と扉の向こうからはやての声が聞こえてきて断念せざるを得なかった。

 

「じゃーん。ノア君どうやろか?」

 

 ふすまを開けると、女子達はみな色とりどりの浴衣に身を包んでいた。

 はやては白色に花の模様を重ねた浴衣に、青紫色の羽織を重ねている。濃い色をしているが、それでも彼女の整った顔立ちと落ち着いた雰囲気が相まってとても似合っていた。

 

「うん、すごく可愛いと思うよ」

「えへへ、良かったぁ。それじゃあ外に出よか」

 

 はやてはにっこり笑うと僕達に外出を促す。それにヴィータも「おー!」と拳を掲げてそれに習った。

 

 秋風に(あお)られて空を舞う紅葉が温泉街をより鮮やかに彩っている。

 そこかしこから下駄の鳴らすカロンコロンという音が聞こえ、なんとも耳心地が良い。

 周りを見渡せば大通りで客を集める店が目立っている。そこに吸い寄せられるかのように、ヴィータは笑顔を浮かべながら走っていった。

 現在、僕はヴィータとシグナムの3人で温泉街を歩いている。

 最初は全員で見回るのつもりだったけれど、はやての「大勢で歩けば通行の邪魔になるから」という意見もあり、3:3で分かれて歩くこととなった。

 てっきりはやては僕と一緒に行くと言うのかと思ったが、今日は家族旅行であり、守護騎士達のことを優先するのかと思って特に気にしていない。

 今は目の前のことを楽しむとしよう。

 こっちにはやたらテンションの高いヴィータがいるから退屈するということもなさそうだ。

 ……やたらとこちらをチラ見してくるシグナムが非常に気になって、目の前の景色に集中できないが。

 旅館を出て数十分程したところで一旦休憩を取ろうと、近くにあった和菓子屋の前の椅子に3人で座ることにする。ヴィータは別の屋台を見つけてまた飛び出して行ったが。

 注文した団子も届き、一口食べる。しその葉の風味も良く、甘すぎない上品な味に舌鼓を打つ。

 この後夕食も待っているので食べすぎてはいけないのだが、これならいくらでも食べられそうだ。

 ちょっと夢中になっていたことから、隣のシグナムが何かの覚悟を完了させていたことに気が付かなった。

 

「なあ、ノアよ」

「うん?」

 

 湯呑をすすりながら、シグナムに返事をする。すると彼女は意を決したように口を開いた。

 

「その――主はやてとはどこまで行ったのだ?」

「ぶふッッ!」

 

 突然の強襲をくらい、僕はお茶を吹き出してしまった。

 

「ゲホッゲホッ……え、あの、どこまでとは?」

「付き合っているのだろう? それは主はやてから聞いている。……なのはやテスタロッサ達とも関係を持っていることも」

 

 あ、これ終わったなと思いましたよ。

 シグナムは目線を下げているから、その瞳にどのような感情が込められているのか読み取ることはできなかったが、殺意にまみれていることは想像できる

 もはや弁明の余地なし。僕は潔く彼女に首を捧げることを決めた。

 ベンチから立って、シグナムの前に立つとそのまま頭を下げる。

 

「どうした?」

「……せめてはやて達に遺言を残した後で殺してください」

 

 思えば短い人生だったなあ。

 はやて達と出会い、皆で仲良く過ごして、最後には全員に無理やり襲われて……一体僕はどこで道を間違ったのだろう。僕はただ、皆が幸せになれることを願って行動してきたのに。

 軽い走馬灯が見えていた僕に、シグナムは慌てた様子で手を振る。

 

「ま、待て! 何か勘違いしているな!? 私はお前を責めようとは思っていない!」

「……え?」

 

 頭を上げると彼女はとりあえず座れ、と自らの隣を手で叩いた。

 一先ず腰を掛けることにする。

 

「いやでもさ、僕1人に対して女の子5人だよ? そこにはやても混じってる訳で……。普通怒るなりするところでしょ?」

「う、うむ。しかし私達が存在していた時代では一夫多妻というのも珍しいものでは無かったからな。それについては特に言及しないでおく。まあ困惑しなかったと言えば嘘になるが、ノアが主達を誑かしたでのはないというのは聞いている。全て主達が仕組んだことだと」

 

 シグナムの話を聞くに、はやては事の顛末を全て話したのだろう。普通だったら僕から距離を取ろうとするだろうに、確認しようしてくるのはシグナムの真面目すぎる性格故か。

 

「お前は我らの罪を軽くしようと手助けまでしてくれた。そのことについては深い恩義がある。だから主はやてのことは任せられると思っている。が、本当に良いのか? お前は5人の女をしっかり養っていく覚悟はあるのか?」

 

 シグナムの目がしっかりとこちらを見据えてくる。

 威圧されそうになるが、ここで引いては彼女達に面目が立たない。

 

「できるかどうかは分からないけど、自分がやったことの責任は取るつもりだよ。今は頼りないかもしれないけど、はやて達に見合う男にはなりたい」

「……そうか。それだけ聞ければ十分だ。試すようなことを言ってすまない。私はお前を人格者だと思っているし、変な間違いは起こさないだろう」

 

 いや今の状況自体が間違いだというツッコミを入れたかったが、折角シグナムが真面目な話をしているのに腰を折るような真似はしない。

 しかし良かった。まさかシグナムに認められることになるとは。

 守護騎士達のリーダーがその通りなら他のメンツも問題ないと思っているということか。

 一先ずのところ不安は取り払われたが、はやてが不幸な目に合った時はその限りではないだろう。そうなれば今度こそ僕の頭と体がお別れすることになりかねない。

 これからより一層はやて達の行動を注視しなければならなくなったが、今日のところは一件落着だ。

 そろそろ旅館の方へ戻る頃合いだろうから、あとはヴィータを待つだけだ。

 もう問題も起こらないだろう、と思っていたのだが……。

 

「それで? 主はやてとはどこまで行ったか聞きたいんだが」

「……え」

「いやなに、主はやてからノアに対する惚気(のろけ)話は毎日聞かされるが、それ以上のことは直接お前から聞けと言われてな、今日という日を待っていたんだ」

「いや、それは、その……」

 

 シグナムがめっちゃグイグイ来るもんだから気圧されてしまう。

 ……性格変わってない?

 今まで戦いの中生きてきたから逆にそういうこと興味があるのだろうか。

 結局、ヴィータが戻ってくるまでに散々念話で質問責めされ、あれやこれやと根掘り葉掘り聞かれることとなった。

 

 

 

 

 旅館へ戻ってきて数分。

 僕達は部屋まで到着したが、はやて達の方はまだ帰ってきていないようだった。

 さてどうしようかと思ったのだが、旅館に来たからにはやはり温泉に入らなければならないだろう。

 ここにいてはまたシグナムから話を蒸し返されそうだしね。

 シグナムとヴィータはどうするのかと聞いたら、はやて達を待つとのことだった。

 それなら貸切風呂を使わせてもらおう。

 はやてはここに来る前に予め予約を入れておいてくれたらしい。

 そのおかげで誰の目も気にすることなく、ゆっくり自分のペースで温泉に入ることができる。これを使わない手は無い。

 早速タオルなどの一式を持って風呂場まで向かう。

 

 脱衣場はこじんまりとしていて、1人でも落ち着かない気持ちになるということ無さそうだ。

 そこを抜ければ、日が暮れかかっている空が見える露天風呂が設置されている。

 体を洗い、全身を湯船に浸すと自然とため息が漏れ出る。ここには僕しかいないのだから誰かにそれを聞かれる心配も無い。

 お湯の上に浮かぶ檜桶(ひのきおけ)にタオルに置いて夕焼け空を見上げる。

 やばい。湯加減も開放感も最高だし永遠と入ってられそうだ。

 時間に囚われない入浴というのはこんなにも気持ちの良いものだったのか。

 小学生の時も、なのはやアリサ達と温泉に行ったことはあったが、その時は士郎さんや恭也さんと一緒だったからこんな気分にはなれなかった。あとは幼すぎていまいち温泉の良さに気付けなかったというのもある。

 今はしっかり実感できていて、年を取って良かったなあと思う。

 

 それからしばらくボーッと浸かっていたところで、不意に後ろの扉がカラカラと開く音が聞こえた。

 あー誰か入って来たんだなあ、とか呑気に考えていたのだが、いや待てそんな筈はないと我に帰る。

 あまりの気持ちよさに気が抜けていたが、ここは貸切風呂だ。

 シグナム達にもちゃんと言っておいたし誰も入ってくる筈ないのだが、ここで構わず来る人間は1人しかいない。

 

「おー、すごい開放感やねえ~」

「は、はやて……!」

 

 もう既に声で分かる。僕は反射的に振り向きそうになるのを必死で堪えた。

 そうは言ってもはやてはペタペタと岩のタイルを歩いて近付いてくる。そうして僕のすぐ真横のお湯に手を突っ込んでるのが見えた。

 

「うん、いい湯加減や」

「えっと、なんでここにいるんでしょうか……?」

 

 緊張からか思わず敬語になっていた。斜め後ろからフフッという笑いが漏れる。

 

「だって、部屋に帰ってきたらノア君の姿ないんやもん。ヴィータに聞いてみたら貸切風呂の方にいるって聞いて、そのまま来たんや」

 

 おのれヴィータ、裏切ったな。

 まあ僕とはやてじゃ好感度の差は月とスッポンだろうから致し方ないとも言えるのだが。

 はやては僕のそばから一旦遠ざかると備え付けの洗い場に向かったようだった。若干遠いところから声が届く。

 

「折角の貸切なんやから最初はノア君と2人でって思っとったのに~。ノア君先に入りよるんやもん」

「言われてなかったからね! それにしたって男が入ってるのに、そこに乗り込むっていうのもどうかと思うよ!」

「駄目かな~。ノア君だってもう立派な家族なんやし私は全然構わへんのやけど」

「僕が構うんだよ!」

「む~ノア君のいけずぅ」

 

 はやてが構うことなく体を洗っている。

 もう音だけで何をしているのか分かってしまうもので、今髪を洗っているんだなとか腕の辺りを洗っているんだなあとか筒抜けである。

 しかも彼女と僕を遮る壁はないので、より一層彼女の存在を間近で感じてしまう。

 僕は目を瞑って身構えることを選択した。

 はやてに対して出てけなんて言えない。そんなことをしたらこの涼しい気候では確実に風邪を引いてしまうことだろう。

 悲しいが、こんな状況では男が我慢するしかないのだ。

 しばらくすると、はやては全身洗い終わったようで、足音を響かせながら僕の隣に座った。

 

「な、なんで隣に来るのさ」

「離れて座るのも何か違うんちゃうかな」

「これだけ広いんだから好きなところに行っても別におかしくないと思うよ」

 

 自分で言ったものの、これは違うなって思った。赤の他人ならいざ知らず知人や、それこそ家族であったなら近くに座るものなのかもしれない。

 しかし僕の発言に対して、はやては何故かスススと僕に体を寄せてくる。

 

「私の好きなところはノア君の隣やもん」

「うっ……」

 

 はやての甘い声につられて、つい彼女の方を振り向いてしまった。

 形の良い胸やこぶりなお尻が目に入ってきて速攻で反らす。

 

「そんな反応されたら傷付くなあ」

「あ、ごめん。そんなつもりじゃないんだけどね、つい……」

「皆の裸見てるんやから平気やと思うんやけどなあ」

「見慣れるなんてことないでしょ。その、はやて達は綺麗なんだし……」

 

 自分で言ってて恥ずかしい。それにはやても喋らなくなって非常にいたたまれない。自分の顔は見なくても真っ赤になってることだろう。

 すると、突然柔らかい感触が背中に当たった。

 

「は、はやて!?」

 

 今、僕ははやてに抱きつかれていた。胸元に手を回されて逃げることもできない。

 

「も~、ノア君は可愛いなあ。そんなところが好きなんやけど」

「は、離してもらえない……? この状態だとちょっとヤバイんだけど……」

「私はかまへんよ。ノア君だったらなんでも受け入れられるで」

「いやいや、場所を考えてね!? 部屋でヴィータ達も待ってるんだから」

「む、確かに」

 

 僕の言葉にはやては渋々といった感じで離してくれた。

 まだ油断することはできないが、これでちょっと落ち着ける。あのまま理性を削り取られたらはやてを襲いかねないからね。

 これで安心かな、と思っていたらはやての上げた声に僕は顔を青ざめた。

 

「これじゃあヴィータ達も入ってこれんもんな」

「……うん?」

「みんなー準備できてるー?」

 

 はやてが振り向いて大声を出すと、脱衣所のドアが開く音が聞こえた。

 今度は咄嗟に振り返ってしまったが、女性が次々と出てくるのが見える。

 

「わー思ったよりも広いわねー」

「随分と開放的だな。にわかには信じがたかったがこんなところで風呂に入れるものなのだな」

「おーい、はやてー!」

 

 シグナム、ヴィータ、シャマルの3人がそこには立っていた。

 

「? ???」

 

 ……ハッ、あまりの事態に思考がフリーズしてしまった。

 驚いた顔をそのままはやてに向ける。

 

「え、何、どういうこと!? なんで3人ともここにいる訳!?」

「なんでって、ここは家族専用の貸切風呂なんやで? 家族言うたら皆で温泉入るのが常識やないの?」

「その価値観については後でしっかり話し合おう! それにしたって3人とも僕がいるのに平気なの!?」

 

 シグナム達が洗い場で顔を見合わせている。

 

「平気といえば平気かしらね。ノア君のことは信頼してるから」

「ノアがあたし達をそういう目で見ないって分かってるし」

「主はやてのことを愛してるというのはしっかり伝わってきたからな。私としてはノアは家族としては大歓迎だ」

「えぇ……。そ、そうだ、ザフィーラは? 家族ならザフィーラだって……」

 

 同性の仲間に助けを求めようとしたのだが、シャマルは首を横に振った。

 

「ザフィーラはあとで人型になってからここを使うって言ってたわ。裸を見られるのが恥ずかしいからって」

 

 咄嗟に「うらぎりものー!」と叫びたくなったがグッと堪えることに。

 それよりもはやてに肩を掴まれたことで、強制的にそっちの方を向く羽目になった。

 

「さ、ノア君の逃げ場はあらへんで。おとなしく家族で団らんを過ごそうやないか」

 

 はやての目は獲物を狩る時のそれで、これからみっちり「家族」を仕込まれることになりそうだった。

 未だ時刻は5時を過ぎたばかり。はたして僕はこのさき生き残れるのだろうか……。

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