私はアニメを見直して驚きました
「ノア君、私の唐揚げどうかな?」
「う、うん、肉厚ですごい美味しいよ」
「あたしの春巻きはどう?」
「わ、わあ、外はサクサク、中はジューシーだね」
「私の焼きうどんも美味しそうやない?」
「──待って。多い、多いよ。食べるから。食べるから自分のペースで食べさせて……」
陽の光が心地良い初夏の季節、僕達は最近出入りが解禁された屋上へと出ていた。
雲一つない晴れ晴れとした青空の下で食べるご飯は最高に美味しいなあ。まあ僕の気持ちはずっと曇天なんだけど。
僕はこの一ヶ月間、彼女達との関係を戻そうと色々なことを模索し、それを実行に移していた。
唯一自由時間の作れる休日は出かけると言って1人で行動してみたり、部活に入ることで彼女達との時間を減らそうとしてみたり。
でその結果……彼女達との仲が更に悪化した。
いや、悪化という言葉は正しくないのだろう。別に仲が悪くなったわけではないのだから。
かといって好転したかと言われればそれもおかしい。
距離が縮まって
休日外に出れば自分だけの時間が作れると思ったのだが、何故か必ず彼女達の内の1人と出くわしてしまう。
あっちからは「奇遇だね」なんて言われるんだけど流石に4週連続で誰かと鉢合わせになれば、それが偶然でないことくらい僕にも分かる。
一体どうやって僕の行動を先読みしていると言うのだろうか……。
結局はその子と一緒に遊ぶことになって、彼女からは「デートみたいだね!」と頬を赤らめながら言われる始末。
その仕草がかわいいことは認めるが、何か背筋に寒気が走る訳で、正直できれば早く帰りたいな―と思ってしまった。帰っても誰かしら待ってるのにね。
部活にも参加することができなかった。
元々時空管理局の嘱託魔導師として働いているもんだから、もちろん本当に入部する訳ではないのだが、せめて体験入部期間だけでも彼女達と離れて、これを機に落ち着いてくれれば良いなあと期待していた。
しかし、行くとこ行くとこ門前払いをされて体験入部すらさせてもらえなかったのだ。
同じ時期に部活動に参加する者もいて、僕だけのけ者にされて思わず「何故!?」と疑問を口にしたこともあった。
それなのに行くとこ行くとこ顧問も主将も汗をかくばかりで決して答えようとはしなかった。
更には土下座までされて「なんとか見逃してはもらえないか」と懇願までされて、これではこっちが悪者みたいじゃないかと、渋々承諾しなければいけない程である。
結局どこの部活もそんな感じで、僕は周りにそこまで嫌われてたのかと思いつめてしまった。
それで軽く不登校にもなったのだが、彼女達が僕を一生懸命慰めてくれたおかげで、今は何とか持ち直している。
やっぱり持つものは
それが昼食の時によく表れている。
以前までは手渡しでお弁当を作ってくれていたのだが、今は誰も渡しに来なくなった。
じゃあ自分で作ったり購買で買ってきても良いんですか!? と最初は淡い期待を込めていたのだが、そんなことはなかった。
購買に昼食を買いに行こうとしたところを5人に屋上まで連行されて、強制的に彼女達が持ち寄った弁当を食べさせられた。
もちろん自分の箸なんて持ってない。
じゃあどうするのかというと、彼女達が自分の箸を使って僕の口元へ食材を運んでくるのだ。
所謂『あーん』という奴である。
これがカップルだったら仲睦まじかったり微笑ましかったり爆発しろと思ったりするところなのだろうが、こっちは女の子5人が男1人にそれをやってくる。
つまるところ異常な関係性に見えるのは確定的に明らかだ。
そのおかげか何なのか、本来人気の休憩場である屋上には僕達6人しかおらず、この場は至って閑散としている。
それが良いことなのか、悪いことなのかは、僕の心理状況からしても明白ではあるのだが。
しかももう一つの問題は、5人に囲まれているせいで急に用事ができたとか言って逃げられないことであった。
トイレに行きたいと言えば許してはもらえるのだが、その時は必ず誰かしら1人が僕の後を付いてくる。これでは気を休めるどころの話ではない。
とはいえ一番辛いのは、1人になれないことでも、何故か密着させられて食べさせられることでも、また僕のぼっち度が加速していくことでもない。それは彼女達のお弁当の大きさだ。
5人から食べ物を分けてもらうのだが、その量が多すぎるのだ。
1人当たり1.5人前を作ってきたとして、彼女達が1人前を食べるとする。そして残りの0.5人前を僕が食べるとして5人を合わせれば、女性の食べる量という換算でも2.5人前だ。
いくら僕が食べ盛りの男だからといって、毎日そんな量食べるのはしんどいわけである。
じゃあゆっくり食べて残せば良いじゃないかと、他人から言われるかもしれないが、それはそれで折角彼女達が作ってきた物を持ち帰らせるというのも良心が痛んでしまいできなかった。
なので悲しいことではあるが、僕には自分のペースを保ちながら完食する以外道は残されていなかった。
おかげでここ毎日お腹が苦しい。
ここまで来ると体重も気になってくる……。
更なる問題が発生したことに僕は頭を痛めるが、「もうちょっと減らしてくれないかな?」なんて言おうものなら──。
「わたし達、変なもの入れちゃった!?」
とか。
「もしかして具合悪いの……? 気付かなくてごめんね! すぐお医者さん呼ぶから!」
とか言いかねない。
この一ヶ月間で彼女達が何をするのか多少読めるようになった。こんなことで彼女達のことを理解するようになるとは思わなかったが。
だからどうしたものかと今日も考えていのだが、結局放課後まで思い浮かばなかった。
「ノア、一緒に帰ろ」
机に座って待っているとフェイトがやってきた。同年代の同性の中では高い身長に、落ち着いた性格も相まって女子からの人気も高いのが彼女の特徴だ。
まるで王子様みたいとチヤホヤされているのをよく目にするが、僕からしてみればお姫様のように見えるのだが、それは普段の彼女を知っているからこそなのだろう。
そんなフェイトと雑談を交えながら下校する。
今現在もお弁当の件どうしようかと若干上の空になっていたら、どうやらフェイトに感づかれてしまったらしい。
「何か悩み事でもあるの?」
「え? あー、うーん……」
どうしてこういう時、フェイトを含め彼女達は鋭いのだろう。
確かに悩んでいるには悩んでいる。
でもそれを彼女に告げてしまって良いのかと考えると、良くないことの方が多そうだ。
しかし、良いあぐねたことが逆に彼女の疑問を確信に変えてしまったらしい。
「やっぱりそうなんだ。学校の人に何かされた? それとも職場で? ノアに危害を加えるならちょっと叩き……じゃなくてお話しないといけないことがあるね」
「違う違う! そういうのじゃないよ!」
「え、そうなの? じゃあ何を悩んでるの?」
何やら物騒なことを言い始めたフェイトを慌てて止める。しかしおかげで更に追求されてしまった。
ここまで来たら言わない選択肢はない。死人が出るよりはマシだろう。
「い、いやあ、ちょっと……体重がね」
嘘は言っていない。それよりも体重が増えた要因の方に苦慮しているのだが。
そうすると彼女は目をパチクリさせた後、納得したように頷いた。
「ああ、そっか。最近任務なかったもんね。でも男の人でもそういうの気にするんだ?」
彼女としては仕事をしていなかったのが原因だと思ってくれたらしい。
「そりゃあね。女の子ほどじゃないにしろ太ったら誰でも嫌なもんだよ。フェイトだって僕がそうなるのは見たくないでしょ?」
「私はそんなことないけど。どんなノアでもそれはノアでしょ? だから私達の関係は絶対に変わらないよ」
なんてカッコいいこと言ってくれるんだ。やはり学校での王子様という異名は正しかった……?
それはともかくこれはチャンスでもある。何とか僕の本心が露呈する前に、彼女にもこの現状を解決する答えを聞いておきたい。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、僕が個人的に嫌でさ。手っ取り早く痩せる方法ってあるかな?」
「手っ取り早く……。うーん、そう言われても思いつかないなあ。私がやってるのは食事制限とか、かな?」
それができないから今悩んでるんだよ! という言葉が口から出かけたが何とか飲み込む。
「それはできなくてさ……。やっぱり運動しないと始まらないかなあ」
「運動、うん運動良いよね。一番効率的じゃないかな?」
「フェイトもそう思う? でもここら辺で体動かせる場所って言われても――」
「あっお兄ちゃん? うん、ちょっと今から山の頂上で魔法使った模擬戦するつもりなんだけど。――大丈夫だよ、結界はちゃんと張っておくから。うん、それじゃあね」
「待って待って待って。急にどうしたの!?」
僕が中々ないよねえ、と言いかけた時にはすでにフェイトは通話を終えていた。
「どうしたのって……ノアは運動したいんだよね? だからクロノに連絡取ったんだけど」
「だからの意味が分からないよ! なぜそれが模擬戦の話に!?」
「空戦機動するのが一番カロリーの消費が激しいから。ノアだって知ってるでしょ?」
フェイトはキョトンとした顔で答える。そんな無垢な顔で見つめられても困る。
「いや、それは知ってるけどさ……。もしかしてフェイトが相手してくれるの?」
「そうだよ? なのはもはやても今日はミッドチルダに行ってていないから私しかいないでしょ?」
「いやそうなんだけど、僕の魔法知ってるよね。人に使ったら危ないんだ。それをフェイトに向けることはできないよ」
僕の言葉に彼女は笑顔を作った。
「平気だよ。ノアの期待に応えられないほど弱くないって分かってるつもりだから」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、フェイトは自分の体を
ただでさえ彼女には僕にご飯を作ってくれているんだ。わざわざ危険な目に合わせることが正しい手段だとは到底思えない。
「どうして?」
「え?」
しかしフェイトから帰ってきたのは短い疑問の声。いつの間にか彼女の顔から笑みは消えている。
「ノアのやりたいことが私のやりたいことだもん。ノアの要望に応えるのが私の義務なの。それなのにどうしてノアは私の心配をするの?」
僕は正直絶句していた。
確かにフェイトは僕に対してイエスマンなきらいがある。
どんなことを言っても決して断ったりはしないし、例え冗談で言ったことでも無茶を押し通そうとする。
その度に何とか彼女を止めるわけだが、何故拒まれるのか理解できていないようだった。
しかしまさかここまでとは思わなかった。
彼女の本音を聞いてハッキリした。僕は彼女をこのままにはしておけない。
「……いや、やっぱりよそう。今日は模擬戦も運動もなし。すぐに家に帰ろう」
「えっ、急にどうしたの? 私、また何かやっちゃった? ごめんね……、ノアのこと全然理解できてないよね」
「そういうことじゃないんだよ。僕はフェイトのことが大切なんだ。フェイトが僕なんかの為に怪我でもしたら悲しいよ。もっと自分を大切にしてくれないかな?」
「でも……」
尚も引き下がらないために、僕は彼女の手を強引に握った。
「良いから! 僕フェイトの手料理すっごく楽しみにしてるんだ。僕の好きな食べ物も作ってほしーなー! 待ちきれないし、早く行こうよ! ね?」
「……ノアがそういうのなら」
どうにか彼女の気を紛らわすことに成功した、ように思える。
もちろんこれで終わりとは考えていない。
彼女の自罰的な性格は今後のためにも変えていかなければ。じゃないと何か僕の知らないところでいつか大きなことをやらかしてしまいそうだ。
とりあえず運動の話はその後だ。今は彼女を無事に自分の家に帰らせることの方が先決だろう。
……1つの問題を解決しようとする度にまた1つ大きな問題が出てきているように思えるが、気の所為だろうか? 絶対気の所為じゃないね。
僕はただ、フェイト達との関係を戻したいだけなのに……。事態はどんどん悪い方向に向かっている。
僕1人の力ではなんかもう流れを制御し切れる気がしない。
じゃあどうしようか。――うん、明日になってから考えようと半ば現実逃避しつつ僕は帰路についていた。
・
・
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誤魔化された。
彼の望みを叶えてあげたかったのに、彼から逆に気を遣われてしまい、私は内心自分を罰していた。
こんなのじゃ駄目だ。
私は彼の思い通りに動く世界を作りたいのに、これじゃあずっと彼の『理想』には程遠い。
彼は正しいのだ。そう、いつだって。
私が初めて彼とお話した時がそうだった。
9歳の頃、彼となのはは私とジュエルシードを巡って対立していた。
その時も私は黒い私服を着て海鳴市の街中の散策していて、信号待ちをしていた彼とバッタリと出会ってしまったのだった。
それに気を取られてしまってか、信号が青になった時に足を止めていた私は人混みに押しつぶされそうになった。
周りには人でできた壁ばかり。とても怖かった。
でもそんな時、彼が私の手を取ってくれたのだ。
慣れたようにスルスルと大通りを抜けていくものだから、魔法でも使ったのかと当時は本気で思った。
軽く握られたその手をやろうと思えばいつでも振りほどけたのに、私にそれができなかったのは、彼の手から伝わる温もりに、少し絆されてしまったからなのだろうか。
彼は私を路地に設置してあるベンチに座らせると、「ちょっと待ってて」と言って離れていった。
訝しげに待っていた私に彼が手渡してきたのは温かい鯛焼きだった。
『……なんですか、これ』
『えっとねタイヤキって言うんだけど、知らない?』
『そういうこと聞いてるんじゃありません。なんで私にこんなもの渡したのか聞いてるんです』
意図を読めなかった私は、彼にキツい言葉で質問を返してしまう。今思えば助けてくれた人にひどいことをしてしまったと後悔している。
でも彼はそんなこと気にせず、私から視線を反らして前を見据えるとこう言った。
『さっき、手握った時冷たかったからさ。それだけ』
あとはただ自分の鯛焼きを頬張るだけだった。私も自分の手の中にあるものを口に運んでみる。
柔らかい生地の中から出てくる甘い香りに、ふとその当時いつかから母さんからお菓子をもらったことがないことを思い出してしまった。
美味しい筈の鯛焼きが急に苦く感じ、私は顔を歪める。
『それ、僕の母さんも好きなんだ。今はちょっと離れ離れになってるけど、また一緒に食べたいなって思うんだよね。君のお母さんはどうなのかな?』
今思えば、それは彼なりの世間話のネタだったと分かるのだけれど、当時の私にはなんでそんなこと聞くのか理解できなかった。
それでもまあ良いかとそれに答えようとした。
『私の、私の母さんは……』
そこまで口にしてあれっと思った。
私は、母さんの好きな食べ物を知らない。嫌いな食べ物も知らない。何が趣味で、どういった服装で外に出ていたのかも知らない。
――私は、母さんのことを何も知らない。
それを理解した時、私の心臓はドクンと跳ねた。
動悸が止まらない。呼吸もおかしい。
しかし私は当時敵対していた彼に弱みを見せたくはなかったから、何とか辛うじて声を絞り出していた。
『……君には、関係ないことだよ』
その時の彼の悲しそうな表情を今でも覚えている。
『……そっか。まあ余所の家だから色々な事情もあるよね』
ただね、と彼は付け加えた。
『親だから言いにくいことってあると思う。でも自分の本音を曝け出さなきゃ、知りたいことも分からないことも、自分がしてほしいことも伝わらないよ』
まるで見透かすかのような彼の言葉に、私は逃げるようにその場を立ち去った。どうせ敵の言葉だ、気にしても仕方ないと自分に嘘を吐きながら。
でも、彼の言うことを実行していれば、結末は同じでも私は少しは母さんに愛されたのかもしれない。
私は彼の言葉を聞かなかったことにして、自分の本心を隠したまま、彼となのはと戦い続けた。そうすれば昔の優しい母さんに戻ってくれると信じて。
でもそうはならなかった。私は母さんにとって偽物でしかなくて、その口から愛情の1つももらえないまま、永遠に別れることとなった。
失意の底にいた私を、言いつけを守らなかった私を、彼は優しく慰めてくれた。
『辛いよね。でも僕もなのはもいるから1人で抱え込まないで。
これからは悲しいことだけじゃなく、楽しいこともたくさん待ってると思うんだ。だから必ず帰ってきてね』
嬉しかった。その気遣いだけで私の心配は吹き飛んでしまった。
もうこの頃から私は彼に恋をしていたんだと思う。
それから3ヶ月程でまた海鳴市に戻ってきて、彼やなのはだけじゃなく新しい友達にも巡り会えた。皆といる時間は確かに幸福で、彼の言うとおりになっていた。
だから彼はいつだって正しいんだ。彼の言うことなら何でも信じられる。
彼のやりたいことを全力でサポートするのが私の役目。
彼には温もりを与えてくれた恩がある。一生掛けて返してあげたい。
でも彼はどうやら私からのそれを受け取る気がないようだ。
それはとても悲しいことだが、彼が悪いはずがない。悪いのはいつだって私なのだ。
せめて彼がようやく吐露した体重を減らしたいという願いは叶えてあげたい。
悩みに悩んで、その時ふと、じゃあなのは達にも協力してもらえば良いんじゃないか、と思いついた。
皆でお願いすればきっと彼も折れてくれるに違いない。
今はミッドチルダにいるなのはとはやても急いで戻ってくることだろう。
それくらい私達は彼のことが好きなのだ。
私は私の体を使う以外に彼に役立つ手段を知らない。
だから私が彼の役に立つんだということを身を以て教えてあげなくちゃ。そうしたらいつかは彼にも私の存在意義を理解してもらえることだろう。
――それまではずっと待ってるよ。
だから私を受け入れてね、ノア?
フェイトちゃんにお兄ちゃんって呼ばれたいだけの人生だった。