最近彼女達の様子がおかしい   作:ガラン・ドゥ

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 アリサってツンデレなようで実はそんなにツンデレな描写無いっていう


04:太陽の少女の様子がおかしい

 帰りたい……。

 

 今の僕のテンションは、過去一で大幅に下降している。ブラックマンデーもびっくりの暴落っぷりだ。

 ここは一般市民が到底足を踏み入れることのできないホテルのパーティ会場。

 周辺を見渡せば背広を着た紳士や、ドレスを身にまとった淑女達が闊歩している。

 そんな中で借りたチェック柄のスーツを着た僕は、とてつもなく場違い感丸出しで非常に心細かった。

 ほんと無理、ちょーお腹痛い。

 何でこんな絶体絶命の状況に晒されているのかというと、それは目の前で大人の女性と話している、夕日に照らされた小麦畑のように綺麗な金髪が特徴の女の子──アリサ・バニングスが関係していた。

 

 

 

 夏休みも終盤に近付いた頃、僕はアリサから一本の電話をもらっていた。

 

「食事会?」

『そ、パパの会社で新しいビルを建てたから、竣工式の後にパーティをやることになってるの』

「へーそれは喜ばしいことだね」

『そうそう、おめでたいことでしょ? それでノアもあたしと一緒にそのパーティに出てほしいのよ』

「え、僕が? なんでまた」

 

 僕はそんなお祝いの場に行ったことのない人間だ。どんなものなのか想像もつかないし、正直気が引ける。

 まあ頭ごなしに否定するのもどうかと思い、とりあえず事情だけ聞こうかと思ったら、アリサが電話越しにため息をついた。

 

『んー、この前うちの息子とお見合いしないかーって話が来てね』

「はい? お見合い?」

 

 誰が? アリサが? まだ13歳なのに?

 

『そうなのよ。それはパパが断ってくれたみたいなんだけど、段々とそういう連絡が増えてきてもうウンザリなの』

「はあーそれはまた、大変というか……何というか……」

 

 僕には想像もつかない話であった。この歳でもう結婚のことまで考えなくちゃいけないとは、お互い嬉しくも何ともないであろうに。

 いや会社の繋がりができれば良いのだから、愛とか関係ないのだろうか。

 

『それでね、ノアにはあたしに付いて来てもらってそういう人達を牽制してもらいたいの』

 

 その時になって僕はアリサの言いたいことが分かってきた。

 

「つまり端的に換言すると?」

『あたしの彼氏役になってほしいってこと』

 

 まあそうなるよね。漫画とかでもありがちな奴だ。

 とか言って、それにOKを出すかと言われればそれとこれとは別の話ではあるのだが。

 アリサは複合企業の社長の娘で僕は一般的な家庭の息子。

 正直釣り合いが取れていないし、それ相応の立ち振舞ができるかどうかなんて全く自信がない。

 かといってアリサのお願いを無碍にすることも、僕にはできなかった。

 僕には想像できない話ではあるのだが、彼女は彼女なりに苦しんでいる。それを見ない振りするのは『友達』としてはありえないことであろう。

 でもやっぱり粗相をしてしまったらと思うと怖くなる。彼女はそんな僕の思考を読んだのかフフッと笑った。

 

『別にノアが何かする必要はないわよ。あたしの隣にいてくれるだけで良いし、こっちで着るものも用意するから。あんたはタダでご飯が食べられてラッキーとでも思っておけば良いの』

「それなら、まあ。アリサに下心を持って近付いてくる人を遠ざければ良いだけだもんね」

 

 アリサは「そういうこと」と言って、あとの細かい約束なんかを伝えた後電話を切った。

 ともかく初めて尽くしのことで緊張はするが、アリサの言う通りにしていたら平気だろう、と若干軽い気持ちで構えていた。

 ……パーティ会場に入った瞬間そんな気持ちは吹き飛んだけどね。

 

 もう何というか僕が今まで味わってきたものとは別な空気がここには漂っている。

 全員所作が貴族のそれであり、彼らの会話の端々に聞き慣れない言葉が混ざって何を喋っているのかわからない。少なくとも日本語ではないのだろう。

 そんな中に取り残されている僕を、何度かチラ見してくる視線は感じていた。

 こんな大企業開催のパーティに場違いな子供がいればそうなるのも当然だ。

 気分はまるで蛇に睨まれた蛙、あるいは井の中の蛙。……井の中の蛙はちょっと違うか。

 そんな風に僕が胃痛で苦しんでいる時も、アリサは次々となされる挨拶の対応をしていた。

 

「アリサさんも随分と立派になられて。以前お見えした時はまだ小学生でしたわよね?」

「ええ、今年から私も中学生ですから。そちらも会社が今年中に海外へ移転されると聞きましたよ」

「まあ、さすがバニングスさんのところのご子女ね。情報が耳に入るのも早いわあ」

 

 彼女は芸能人に見違うばかりのスタイルの良い女性に気後れすることもなく、平然と会話を成立させている。

 あまりに距離が近過ぎて忘れていたが、彼女は生粋のお嬢様なのだ。

 こういうところには幼い頃から来ているのだろう。すごく場馴れした印象を受ける。

 素直にカッコいいと思ってしまった。

 そんなことを思っていたら、相手の女性が僕の存在に気が付いたようだ。

 

「貴方アリサさんのお知り合い?」

「え、ええ」

「そうですよ」

 

 女性と僕の間にアリサが割り込むと、僕の腕に指を絡める。

 そうか、ここで彼氏とでも紹介するのだろう。真っ赤な口紅を引いた女性の圧のある微笑みに何とか耐えながらも、せめて役割だけはこなそうと心の中で準備をしておく。

 アリサとのアイコンタクトもバッチリだ。

 

「彼は千代田乃亜(ちよだのあ)。──私のフィアンセです」

「はい……え?」

 

 どうぞよろしくお願いします、と言いかけた口が宙を泳ぐ。さながら空気を求める金魚のようだ。

 相手の女性は「あらまあ、そうなのね」と上品に驚いている。驚きたいのはこっちの方なんだけど。

 

「それでは楽しんでいってくださいね、千代田さん」

「え、あ、はい……」

 

 女性はそう言い残して去っていった。

 2人になれたので僕はさっきの発言を抗議しようと思ったのだが、またアリサに挨拶に来た人が現れて、彼女はそちらに掛り切りになってしまったのだった。

 

 結局、アリサは来る人来る人全員に僕を婚約者だと説明して回った。

 おかげでこの場にいる人達は、僕がアリサの許嫁だと勘違いしてしまっている。

 周りからの視線が針のように刺さっている、気がする。

 帰りたい。というか逃げたい。

 今すぐこの高層ビルのガラスを破って『アイキャンフライ』してしまいたい。

 勿論そんなことは許されないため、僕はただ無表情でアリサに付いていくことしかできなかった。

 パーティが終わったのはそれから数刻経ってからのこと。

 その間、僕は食べ物が一切喉を通らなかった。一体自分は何をしにここに来たというのだ。

 当初の目的も思い出せないまま、すっかり廃人と化した僕はアリサに引きずられるようにその場を立ち去った。

 

「やっぱりこういう場所って肩が凝って大変だわ」

「いや、うん、それはホントお疲れ様って感じなんだけどね? どうして僕はアリサのフィアンセだってことになってるの? 最初は彼氏役だけだって言ったよね?」

 

 現在僕達は人気のない廊下に逃げ込んでいた。いや、逃げてる認識なのは多分自分だけなのだろうが。

 二人っきりになったところで僕は息を潜めながらアリサに詰め寄っていったが、当の本人はトボけたような顔をしている。

 

「そうだったっけ? 別に恋人でも婚約者でも同じようなものじゃない」

「全然違うよ!?」

 

 確かに相思相愛というのは共通しているのかもしれないが、社会的責任とか一緒の家に住むとか、その他諸々の部分で大きな違いがある。

 それにアリサの発言には、彼女が思うよりも大きな力があるのだ。安易に結婚まで考えてます、なんて言おうもんなら僕がどんな目に合うか分からない。

 しかしアリサは顎に手を当てて考える素振りを見せた。

 

「んー、でもフィアンセって言った方が周りの牽制にはなるわけじゃない? より効果の高い方を選んだら良いかなって思ったんだけど、もしかして嫌だった?」

「嫌というか、その、周りの視線が痛くってさ……。僕の心が持つか不安なんだよ」

 

 正直に話すと、アリサは憂いを帯びた表情になった。

 

「……ごめんなさい。あたし、自分のことばかり考えててノアがどう思ってるのか気にしてなかったわね。どうしよう、また間違えちゃった。ノアを困らせたい訳じゃないの。本当にごめんなさい」

 

 そう言ってアリサは頭を下げた。僕は慌てて彼女を慰める。

 

「いや、謝ってほしいとかじゃないんだよ! ただ僕にも相談してから発言してほしかったなーって。確かに困りはしたけど元々僕も協力するって言ったんだし、アリサだけ悪いわけじゃないからね」

「……ほんと? あたしのこと嫌いにならない?」

「嫌いになるわけないじゃないか」

「じゃあ、あたしのこと好き?」

 

 思考が止まった。

 アリサは潤んだ瞳で僕を見上げてくる。

 今の彼女は緋色のルビーを編んだような、目に鮮やかな真っ赤なドレスを着ている。アリサの魅力をより一層引き立たせるものであるのだが、今の僕には破壊力抜群だ。

 何故今このタイミングでそんなことを聞いてくるのかも全く分からない。

 

「あたしのこと、好き?」

「す、好きだよ……」

 

 彼女のからの圧に耐えられずつい答えてしまった。

 ……ただし友達としてだけどね! と心の中で誤魔化しはしたが顔が熱いからきっと真っ赤になっていることだろう。

 しかしアリサは笑顔を取り戻してくれたようだ。

 

「えへへ、良かったあ。ノアに嫌われたらあたし生きていけないわ。これからノアの嫌なことはしないって約束するからね」

「う、うん。それは有り難いんだけど、今の質問ってどういう――」

 

 どういう意味なの、と聞こうとしたところで廊下の角から1人の男性が出てくるのが視界に写った。

 

「ああ、アリサに乃亜(のあ)君、ここにいたのか。ちょうど探していたところだよ。こっちに来てくれないかい?」

「あっパパ」

 

 彼の名前はデビット・バニングス。アリサの父親であり、中々家には戻っていないようだが、今日は主催者ということもあって、パーティに参加していたようだ。

 爽やかな笑顔を浮かべながらこっちに手招きしており、アリサは僕の疑問に返答することなく彼の元へと向かった。つられて僕もそちらへ近付く。

 

「どうかしたの?」

「うん、パーティはお開きなんだけど、折角乃亜君がこの催しに参加してくれたんだ。もしよければこれから(うち)に来てもらえないかなと思ってね」

「え!?」

 

 つい声を出してしまった。ようやくこの地獄から開放されると思っていたところなのにまだ続くんですか?

 いや、別にアリサの家には数え切れないくらい行ってるし、デビットさんのことも嫌いとかそういう訳ではない。

 しかし相手は世界を股にかける大企業の社長様である。そんな人と正面に座って話し合うとかめちゃくちゃ緊張するに決まっているだろう。

 なので折角の誘いなのだが、ここは断ろうと思った。

 

「いえ、僕は――」

「良い案ね、パパ。ノアも全然食事に手を付けてなかったみたいだし、ちょうど良いじゃない」

 

 そういうことは言わなくても良いんですよアリサさん?

 デビットさんはアリサの言葉に驚いた様子だった。

 

「それは本当かい? ここのシェフは腕が良いから味わってもらえていると思ったんだけどね」

「す、すいません。ちょっと緊張してて……」

 

 本当は『ちょっと』どころではないんだけどね。こんなところで平然と食事できるのは場馴れした人達だけだと思う。主に目の前の2人とか。

 そんな僕の思いも露知らず、彼は心配そうな目を向けてくる。

 

「それはよくないね。君は成長期なんだ。もっと力を付けてアリサを養ってくれないかい?」

 

 ……ん?

 

「あの、僕達そもそも付き合ってすらいないんですが……」

 

 なんか勘違いしてそうなので今のうちに訂正しておく。しかしデビットさんは豪快に笑った。

 

「ハッハッハ。いやあ私に挨拶してくる方々全員がアリサと乃亜君がフィアンセだという話をしてくるんだ。皆さん大変驚かれていたよ」

「いやそれは、おたくの娘さんから頼まれてですね……」

「もちろん分かっているよ。ちゃんと私の娘を守ってくれていたんだろ? 本当に感謝しかないよ。でももしよければこれからも娘のボディガードを務めてはくれないだろうか」

 

 なんてことを言ってくれるんだこの人は。この一回だけでも胃に穴が開きそうだったというのに、それを継続するとかどんな死刑宣告かと思った。

 

「いや、僕にはちょっとそんな大役……」

「もちろん無理にとは言わないよ。ただ、アリサが歳を重ねるごとに結婚の誘いは増えていくだろう。そんな時に君のような男性がずっと守ってくれるのなら私も安心なんだ」

 

 無理に言わないとか口にしといてめちゃくちゃ圧かけてきてない?

 まるで本当のフィアンセになってくれと言われてる気がするんだけど……。

 大体アリサの意思が無視されている。彼女だって今からそんなことは考えていない筈だ。

 そう思って彼女にアイコンタクトを送ろうとしたのだが……。

 

「もうパパったら……!」

 

 と顔をイヤンイヤンと振って全然僕の方を向いていなかった。

 あれ、アリサと僕はただの友人の筈でしょ? その頬を赤らめた顔はどうしたの?

 

「おっとすまない。この話は家に着いてから続きをしよう。乃亜君もお腹が空いただろう」

「い、いえ、僕はですね……」

「ん?」

 

 これ以上は逃げられなくなると悟って、断固たる決意を持って断ろうとしたのだが、デビットさんは純粋な目でこちらを見てくる。

 そんな顔をされたら断るに断れないじゃないか!

 

「……いえ、何でもないです」

「そうかい? じゃあ出発しようか」

 

 僕は彼らに連れられてバニングス邸へと連れて行かれることとなった。

 その間デビットさんはひっきりなしに僕へ話しかけてくる。

 「最近の男子は~」とか「その点君なら~」とか、やたら僕をべた褒めしてくるのだ。こちとら一般家庭のどこにでもいる普通の男子なんだけど。

 それでアリサはというと、ニコニコと笑顔を作っているだけで()()()全然会話に入ろうとしてこない。

 一応君の将来の話をしているというのに、何故そんな余裕なのかと甚だ疑問ではあったが、デビットさんのことで手一杯な僕は彼女と会話するタイミングを失っていた。

 なんだか身の回りを固められている気がするのは気の所為なのだろうか。

 

 逃げ出す暇もなく、僕が帰ったのは夜の8時を過ぎた頃であったとさ。

 

       ・

 

       ・

 

       ・

 

 今回の目的は完全に達成できてあたしはとても気分が良かった。

 その分彼にはとてつもない苦労を掛けてしまったようだけれど、あとでいっぱい慰めてあげようと思う。

 これだけ彼をフィアンセだと言い回れば、しばらくは男から言い寄ってくることもないだろう。

 もしそれでもむりやり口説きにくる奴がいれば、二度と再起できないように叩き潰すだけだ。

 あたしの横に立って良いのは彼だけなのだから。

 

 なのはやすずか、それと彼に出会う前、あたしは絵に描いたようなわがままなお嬢様だった。

 そのくせ人一倍寂しがり屋なものだから、余計にこじれた性格をしており、困らせるようなことをしないと他人と関われないような人間だった。

 それを目覚めさせてくれたのが彼となのは。

 なのはとはそれで大喧嘩したけれど、後から考えれば良い経験だったと思う。

 彼は静かに、それでいてハッキリとあたしに怒気を当てていた。それでも会話の端々に優しさが垣間見え、あたしは彼の腕の中で泣いてしまった。

 寂しさを取り除いてくれたから。

 父も母も、忙しさからあたしに構えない罪悪感があったのか怒るという行為はせず、いつも優しくしてくれていた。まあそれがあたしを増長させる要因の1つにもなったのだけれど。

 だから怒られた時にはすごく嬉しかった。こんなあたしとも本気でぶつかってくれる人を見つけることができたから。

 それからあたし達は大の親友となった。

 嬉しいことや楽しいことだけじゃない、辛いことや悲しいことも一緒に共有できる関係だ。

 

 自分で言うのもなんだけど、あたしにはリーダーシップがあった。幼い頃から家族に連れられて色んなパーティに参加していたから、人前でも怖気づくことなく話すことができたおかげである。

 それを活かしてあたしは教室内のバランス取りをすることにした。

 いじめがあったら速攻で辞めさせるし、発言できない子がいたらちゃんと意見を聞いてあげる。なんでそんなことをしていたかというと自分が今までやってきたことへの償いをしたいと思っていた為である。

 初めはただ他人のためであったけれど、やってて本当に良かったと思う。彼があたしの傍にいてくれたから。

 彼は決して真っ向から自分の意見を言うタイプでは無かったけれど、あたしの目の届かないところではちゃんとフォローを入れてくれて、そのおかげか、あたし達のクラスは問題らしい問題は無くなっていた。

 あたしが表で動いて彼が裏で動く。

 とっても相性の良い2人じゃないかとその時は1人で舞い上がっていた。

 まるで仕事に向かう妻とそれを補佐する夫の関係みたいだと毎日妄想したものだ。

 その妄想を現実にしたい。その目標を達成するだけの環境があたしにはあった。

 我ながら顔は良いし、スタイルも悪くない。彼との相性はバッチリだし、それに家はお金持ちだ。

 できることは割と何でも思い通りに動いてくれる。

 あとは彼の心を掴むだけだった。もちろんなのは達も一緒。こんな心地の良い空間を台無しにはしたくないから、彼も分かってくれることだろう。

 

 ただそこに1つ誤算があったとすれば……彼がこちらに全く恋心を抱いていなかったということ。

 中学生になって段々と彼の心境が変わってきたことを踏まえて、もう一歩踏み込んだアプローチを掛けているというのに、全然こちらに手を出そうとしてこなかった。

 彼がとても義理堅い人であることは知っているけども、まさかここまで効果がないとは思わず、流石にへこんでしまった。

 それで、この4ヶ月で分かったのは彼がどうもあたし達を仲の良い友達としてしか認識していないということだった。

 だったら他の女に盗られないようにあたし達で彼を囲っても意味がない。

 もう襲っちゃえば良いんじゃないかな、という意見も出た。もちろんそれも大変魅力的な提案であったが、そんなことをして万が一彼に嫌われることがあったら、あたしは生きる気力を失ってしまう。

 だから5人とも悩みに悩んだ。流石に慎ましく接していくのにも限界がある。

 そこで1つ思い付いたことがあった。それはもっと大きな枠組みで彼を囲ってしまうこと。

 すなわち当事者以外の周りがあたし達と彼の関係を勘違いすれば、彼はもう逃げ場を失くすことになる。

 それを今日実行してみたら、ものの見事に成功した。父に彼のあることないこと吹き込んだ甲斐もあるというもの。

 周りの評価がどうだろうと知ったことではない。彼があたしの隣にいること、それが一番重要なことなのだ。

 本当は彼の意思で選んでほしかったけれど、彼が他の女に口説き落とされる前に手を打っておきたかった。

 

 彼が周りの異変に気付いた頃にはもう遅いだろう。あとは自然とあたしの元へと来るしかなくなる。

 それまでは――

 

「絶対に逃がしてあげないから」


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