まー突然の方針転換でしたのでこうなるのは必然なんですけどね~
「う、ううん、……ん?」
じんわりと自分の意識が覚醒していくのが分かった。スッキリとした目覚めかと言われれば、全くそんなことはなく、体全体が重い。
目を開ければ視線の先は白い天井。
頭を持ち上げて辺りを見回してみれば、そこは四角い部屋であった。
しかし何もない。家具も机も椅子も、生活に必要そうなあらゆる物がここには欠如していた。
唯一あるものと言えば僕が今まで眠っていたであろう明らかに1人用ではない大きなベッド。
「……なんだここ?」
僕の記憶の中にこんな部屋ない。
何故僕はこんなところにいるのだろう。そもそも僕は今まで何をしていたんだっけ?
ボンヤリとした頭で少し考え込んでみる。
確か、休日にすずかと出かける約束をしたから電車に乗って大変な目に遭って、それから水族館に行って、それから……。
それから?
なんだか記憶にモヤが掛かっている。必死に頭を捻ってみるも、中々思い出せなかったが。
「ああ、そうだ。確かすずかに告白まがいのことされて……」
それで、その直後に彼女に針のようなものを刺されたのだった。
そこまで思い出したところで顔がサーッと青くなる。
──え、じゃあ何? 僕は彼女に眠らされて知らない部屋に運び込まれたってこと?
完全に今の状況を理解してしまい、自分がいかに危険なところにいるのかを悟ってしまった。
とにかくここにはいられない。いち早く脱出して誰かに僕の居場所を突き止めてもらわなければ。
僕は自分の体に鞭を打って起き上がると真っ直ぐ出口へと向かった。
ガチャリと扉の開く音がする。が、僕はドアノブに手を掛けていない。向こう側から勝手に開いてしまったのだ。
扉が開ききると、そこには今最も会いたくない人物がいた。
「す、すずか……」
「あっ、ノア君もう起きたんだ。体の具合はどう?」
彼女の言葉に反射的に後ろへ距離を取る。しかし、僕の行動を見ても彼女は困ったような笑顔を浮かべるだけであった。
「そんなに怖がらないで? ノア君に危害を加えるとかそんなことはしないから」
信用できない……。
「じゃあ、僕に注射したものは何なの?」
「あれはただの麻酔薬だよ。ちょっと強力だけど体に害は無いから安心して?」
「いや、そういう問題じゃなくて、なんでそんなことを……」
すずかは「んー」と人差し指を下唇に当てて考える素振りを見せる。
普段だったら可愛らしい仕草だな、と思うのかもしれないが、今はビビってる為何かあるのかと身構えてしまう。
少し間を置いて彼女は口を開いた。
「ノア君に愛して欲しいから、かな」
「はい?」
彼女はまたニコリと笑った。
「私ね、ノア君のことがずっとずっとずーっと前から好きだったの。それなのにノア君全然気付いてくれないんだもん」
「え、ええ!?」
すずかからのダイレクトな告白に、そんなことを言われるとは思ってなくて素っ頓狂な声を上げてしまった。
今思えば中学校に入ってから妙に彼女達との距離が近かったように思えたが、まさかこれが一因であったのだろうか……。
確かに好きでもない人に弁当作ったり、『あーん』なんかしたりはしないだろう。でも僕はそれを「友達としての好き」の延長上にあるものだと考えていた。
すずかは首を振る。
「私、友達でもお弁当は作らないかな。なのはちゃん達には作ってないよね?」
「あ、いや、確かに……? てか何で僕の考えてること分かるの……?」
「ノア君って素直だから分かりやすいもん。それにノア君のことずっと見てきたから」
だからね、とすずかは付け加える。
「ノア君が私の気持ちに応えてはくれないって分かっちゃうの。ノア君は皆と友達のままでいたいんだよね?」
「それは……」
僕はすぐには答えられなかった。それが図星であったから。
恋人を作りたいという気持ちはない訳ではないけど、だからといって仲の良いグループから離れるというものちょっと躊躇いがあった。
誰かを優先すれば誰かを疎かにしなければいけない。
すずかにとってもそれは同じだ。僕を優先することになれば他の4人のことを多少であっても蔑ろにしてしまうことになる。
折角仲の良い、心から信頼し合ってる5人の間に亀裂が入るのを、僕は見たくなかった。
「私もなのはちゃん達と疎遠になるのはちょっと嫌かな。皆といられるから自分は幸せなんだって思えるから」
「だったら――」
すずかの気持ちにはやっぱり応えられないよ、とそう発言する筈だったのだが、先にすずかの口が動いた。
「うんそうだね。皆が同じ気持ちを持ってたら良いんだよね」
「……はい?」
すずかの言葉の意味が分からず止まってしまった隙に、彼女はドアの方を向いて「皆入ってきていいよ」と言った。
そうしたら複数人の足音と共にドアが開く。
次々入ってくる人達を見て僕は驚く。
なのは、フェイト、はやて、アリサ、そしてすずかと僕が仲良しな女の子達が全員集合していた。
「皆……?」
ここにはすずかだけではなかったのか、という思いを込めてまずなのはの顔を見た。すると彼女は笑顔をこちらに向けてくる。
「ごめんね? 話聞くつもりじゃなかったんだけど、皆気になっちゃって」
「いやそういうこと聞きたい訳じゃ……なんで皆ここにいるの?」
「そもそもノアはここがどこか分かってる?」
こちらの問いには答えず、フェイトが代わりにこちらに質問を投げかけてきた。
「どこって……すずかの家じゃないの?」
僕の答えにフェイトは首を横に振った。
「ここはね、ミッドチルダの郊外の一軒家だよ」
「……ミッドチルダ? え、どういうこと?」
自分は地球にいた筈なのだが。
「順番に説明するから待ってな? まずノア君がすずかちゃんとデートしてたのはもう昨日のことなんよ」
つまり、僕は丸一日寝ていたと……。
「それで私達は合流した後、ノア君の体をここまで運んだんや。んで今に至ると」
「なんでそんなこと……そもそもここ誰の家なの?」
「わたし達の家だよ?」
「…………『わたし達の家』?」
僕の疑問になのはが答える。彼女はそのまま説明を続けた。
「そう。6人皆で住むためのおうち。借家だからわたしとフェイトちゃんとはやてちゃんの3人で分割して支払いしてるの。見ての通りまだ家具は準備してないから、ノア君に見せるのは本当はもっと先になる筈だったんだけどね?」
「いやそんなことよりも、今6人で住むって言った? ひょっとして僕も入ってる?」
「そんなの当然でしょ?」
僕は目を見開きながらアリサの方を向いた。
「あたしとすずかはこっちには中々来られないから地球の方でも新しい家建てる予定だけど、それまではこっちがあたし達の家ってことになるの。そこにノアがいなかったら意味ないのよ」
「意味ないって、どういうこと……? そもそも何で僕はここに連れてこられて……」
分からない。彼女達が何を言っているのかさっぱり分からない。
……いや、脳が理解するのを拒否してると言った方が正しいのかもしれない。
頭痛がする程頭を抱えている僕に、すずかが止めを刺した。
「つまりね、皆ノア君のこと愛してるってことだよ」
「え……?」
顔を上げれば皆が笑顔で頷いている。
「うん、わたし達はノア君のこと異性として好きなの」
「皆でノアの力になりたい」
「ノア君の家族になりたい」
「ずっとあたし達の傍にいてほしい」
だからね、と間を置いた後、5人で一斉に声を揃えた。
──わたし達皆と付き合ってください、と。
……。
…………。
………………。
……ハッ、あまりの衝撃に脳が数秒フリーズしてしまっていた。
「いや、無理無理。絶対に無理でしょ!」
「どうして?」
「どうしてって、5人の女の子と付き合うことはおかしいことだからね!?」
「わたし達は気にしないけど」
全員が「ねー」と頷きあっている。
5対1だとやはり不利すぎる。しかしここで僕が認めてしまったら一体どんな絶望の未来が待っているのか分からない。
「いや、世間体のこと考えてくれ……。皆のこと侍らせてるなんて勘違いされたら一生袋叩きにされちゃうよ」
「その時はあたし達が守ってあげる。うちもそうだけどすずかの家だって周りの意見封殺するくらいの力あるんだから。なのは達だって今ここだとすごく有名なんでしょ? 3人が言うならあんたのこととやかく言う輩なんて出てこないわよ」
「そういう問題じゃなくてね!? 僕が外に出る度に周りの視線を気にしなくちゃいけないんだよ。その心労も考えてほしいというか……」
「じゃあ外に出なきゃ良いんじゃないかな」
フェイトの言葉に僕の思考が一瞬止まる。
「私達5人ならそれ相応のお金も貯まるだろうし、ノアの為なら私達喜んで働くよ?」
「皆に働かせて僕だけ引きこもってるとか最低すぎるじゃん! それだったら貧乏でも働いてた方がマシだよ!」
「私達はそんなノアでもずっと好きなんだけどね」
いくら反論しても次々と意見が飛び出てきて収まる気配がない。このままだとゴリ押しされる危険性がある。
どうにか完全に皆を納得させられる言葉が出てくれば良いのだが、まるで思いつかず、うんうん悩む羽目になった。
その時はやてが不安そうな声を出す。
「もしかしてノア君、私達のこと嫌いなん?」
「え?」
「だってノア君が嫌やから私達と付き合えないってことなんやろ? 私達がいくらノア君のこと好きでもノア君がそれやったら意味ないやん」
「いや、そういう訳じゃないんだよ……」
それを言われれば否定するしかない。でも何か言わなければ彼女達を傷付けてしまう。
こういう時すらすらと言葉が出てくる人間だったら彼女達が暴走することもなかった、ような気がする。
意を決して話すしかない。
「僕は、皆と友達のままでいたいだけなんだ。全員で辛いことも悲しいこととも乗り越えて、楽しい時は一緒に盛り上がって、自分のことを理解してくれる人がいる、って分かっただけで僕は前向きに生きられる。皆とはそういう関係になりたいってずっと思ってた。
だから決して皆のこと嫌いになったりはしないよ」
「それがノア君の考える友達ってこと?」
「うん、そうだね。僕は友達ってすごい貴重なものだと思ってる。だからそういう関係を大事にしたいんだ」
すごく恥ずかしいことを言ってる自覚はある。でもここまでしないと皆の心情は動いてはくれないだろう。
あとは5人の反応次第だが、はやては頷いている。
「なるほどなあ。そういうのもとっても大切やなあ」
「分かってくれた? じゃあ――」
「でもそれって恋人でも同じやない?」
「うん?」
はやての顔を見れば嬉しい、という感情が顕になっていた。
「苦しいことも悲しいことも一緒に乗り越えて、楽しいって感情はちゃんと共有して、お互いがお互いをちゃんと理解するって、『恋人』でも同じことができると思うんやけど」
「わたしも同じ気持ちかな」
なのはもはやてに同調している。他の3人にしてもそうだ。皆頷いて「悦ばしい」と顔に書いてある。
「ずっとノア君と同じ気持ちを共有したかった。わたしはノア君に助けられっぱなしだけど、わたしもノア君を助けてあげたいの。ノア君のことをもっと知って、もっと好きになりたい。これってノア君を理解したいってことに繋がらない?」
「それは……でも、友達と恋人って……」
あれ?
確かに僕は皆のことが好きだ。でもそれは友人として好きなのだと思っていた。
でも皆は僕の言ったことは恋人同士の関係でも同じだと言っていて、つまり僕はなのは達のことを異性として見ていた……?
そこまで考えて、いやいやさすがに動揺しすぎだ、と内心首を振る。
確かに同じことができるとはいえ流石に――でもやっぱり僕の考える友達という関係は付き合っていても同じことができるなと考えてしまった。
いや、僕は彼女達のことを決して変な目で見たことは無いと断固誓いたい。
苦しんでいる間にフェイトが僕の手をがっしりと掴んでいた。
「フェ、フェイト……?」
「もう、ノアは強情だね。ノアの思いは大事だし一番に考えるけど、それは恋人同士になってからでも遅くはないよ? ちょっと体験してみれば良いんじゃないかな」
「体験……?」
「そう。1回付き合っちゃえば良いんだよ。私達は誰もノアのこと拒まないし、ノアの好きにしても良いよ。そしたらノアも私達のこともっと好きになるかもしれないから」
「それは、そうかもしれないけど……」
ヤバイ。このままだとなし崩し的に恋人にさせられる。
何か反論しないと、と思うが言葉が出てこない。
その間に「あ、でも」とすずかが口を開いた。
「恋人同士じゃないとできないこともあるよね」
「え」
「あ、そうだね。恋人なんだもん。お互いの愛を深める為に絶対にやらなくちゃいけないもんね」
「え」
「ノアも体験すればきっとあたし達と同じ気持ちになれるわよ」
そう言いながらジリジリと後ろの4人も距離を詰めてくる。
嫌な予感しかしない。
逃げなければいけないと僕の本能が訴えかけている。
驚く程早い速度で彼女達の間を抜けようと思ったのだが……。
「うぇっ! バ、バインド!?」
「ごめんね、予め設置してたの。ノア君逃げちゃうかなって思ってて」
「逃げられるようなことしないでほしいんだけど!? あ、ちょっとまって、引きずらないでくれー!」
結局、いくら女の子とはいえ5人の力には勝てず、僕はベッドに押し倒されてしまった。
この無駄に広かったベッドの意味ってそういう……。
などと考えている暇はない。
倒れている僕を見下ろす5人の瞳に、色欲の炎が灯っているのが分かってしまったから。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ―
「そういえばすずかも随分と強引な手を使ったわよね。あたしが周りから攻略してけばもっと穏便に済んだかもししれないのに」
「うふふ、だってモタモタしてたら誰かにノア君のこと奪われてたかもしれないよ? そんなことになったらもう遅いし、こうやって直接話聞いちゃうのが一番だと思うもん」
「ま、それはそうかもしれないけど。あーあ、ノアが追い詰められてあたしに頼ってくるのも見てみたかったなあ~」
「今からでも遅くないよ? だってノア君は今アリサちゃんの婚約者ってことになってるんだもの。社交界に出ればいくらでも困ってるノア君の姿見れるんじゃないかな」
……遠くから2人の女の子が会話している声が聞こえる。
だが天井のシミを数えていた僕はもはや意識も朦朧として碌に動けないため、誰が何を話してるのかは分からなかった。
だが、今回の件でハッキリと分かったことがある。
女のコってコワイ。
終わり風ですがまだ続きます。
あともう一週くらいヒロイン毎の話し書ければいいかなーって感じですね
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