最近彼女達の様子がおかしい   作:ガラン・ドゥ

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 区切りが良さそうなのと、後半がどれくらいの文章量になるか分からないので、この話を前編としたいと思います。
 ま、なのはの描写が少なかったから多少はね?


恋人以上✕✕未満編
07:花の少女に笑顔を(前)


 部屋に差し込んでくる太陽の光によって、僕は目覚まし時計を使うこともなく自然と目を覚ました。

 ゆっくりと頭を持ち上げようと思ったのだが、腕に掛かった重みで再び後頭部から枕にダイブする。

 ああそうだったと思いながら左側を見るとそこには──。

 

「スウ、スウ……」

 

 なのはがおとなしい寝息を立てながら眠っている。

 僕の実家に彼女は昨晩、泊まりに来たと言いながら押し掛けてきて、当然のように同衾(どうきん)することになった。

 今日は休日なので問題ないが、もしこれを学校に男子達に知られたら殺されかねない。

 だが最早そのようなことでは怯まない。何せあの彼女達との恐ろしい出来事を乗り越えた僕だ。こんなことでリアクションを取っていたら心臓が保たないのだ。

 

「ん、んう」

 

 僕が体を動かしてしまったからか、なのはの寝息がパタリと止まり、ゆっくりと目を開けた。

 

「……おはよー、ノア君」

「うん、おはよう」

 

 虚ろだった彼女の瞳が僕を捉えるとすぐに意識が覚醒したようで、お互いに挨拶をする。

 彼女は僕の左腕に絡めていた自分の体を解き、ベッドの横に立つと体をグッと上に伸ばした。

 ひとしきりストレッチした後、「よし」と言って僕の方を見る。

 

「今朝ご飯作るから待っててね」

「あ、いや、そんなに急がなくても良いんじゃないかな。なのはもゆっくりしたいでしょ?」

「そんなことないよ? ノア君の喜ぶ姿見たくてたまらないもん。すぐに美味しいもの作るからね。あ、でもその前に……」

 

 なのははモジモジと体を揺らしながら目を閉じた。それだけで彼女が求めているものが分かってしまう。

 ひたすら心の中で「無心無心」と唱えながら意を決して立ち上がる。

 彼女の肩を掴み、そっと顔の距離を詰めた僕は自分の唇を相手の唇に押し付けた。

 触れていた時間は数秒も無いだろう。

 少ししてから離れて彼女の顔を見れば、それはもう世界一幸せだと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。

 

「えへ、えへへ……よーし、ノア君の為に頑張っちゃうからね!」

 

 そう言うとなのははスキップするかのような軽い足取りで部屋を出ていった。

 1人残された僕は、唇から伝播(でんぱ)して体を伝っていく痺れに苛まれ、後方に下がりながらドカッとベッドに腰を降ろすと、大きなため息をついた。

 

「はあ~~~~……」

 

 未だにこの行為には慣れない。

 こういうことをするようになった原因を思い返すと、またため息が出そうだ。

 

 

 1ヶ月前、僕はなのは達から衝撃的な告白を受けた。

 それは拉致同然の行為で密かに用意されていた借家に連れ込まれ、5人に囲まれながら好きだと宣言されてしまったこと。

 もはや了承する以外の選択肢は用意されておらず、全員と付き合うハメに……。

 当然大いに苦しんだ。

 5股する男とか前代未聞である。

 もしこれが外に知られれば、僕は日本で最も誠意のない男として晒し者になりかねない。

 なのは達には何を言っても聞きはしない。皆がこの関係にノリノリだし、反論してもどんどん論破されていくものだから、やがて僕も気力を失ってしまった。

 本人達への説得が無理な以上、一番身近な存在である両親に真っ先に相談しようと思ったが、いざ2人を目の前にしたところで、()めた。

 相談するのは良いが、一体何をどうやって伝えると言うのだろうか。

 

「実は、なのは達全員と関係を持っちゃったんだ……へへ!」

 

 とか?

 ……うん、絶対軽蔑した目で見られる上に最悪家から勘当されかねない。

 それからは? 彼女達のうちのどこかに匿ってもらえば良い?

 ……うん、飼い殺しにされる未来しか見えないね。

 と、このように親に相談したところで決して明るい未来はやってこないのである。

 他のご家庭にしても同じことが言える。

 むしろ「うちの娘に何してくれたんだ?」と激怒して再起不能にされてしまいそうだ

 同じ年代の友達は他にはいないし、頼りになりそうなクロノとユーノも白旗を上げている。

 つまるところ僕は完全に詰みの状態に陥っていた。

 

 もう援軍は期待できない状況の中で――僕はもはや腹をくくることを決めた。

 だって5人に勝てるビジョンは見えないし、もとより彼女達とはずっと仲良しのままでいたいという想いもあったのは事実だ。

 突拍子もないことさえしなければ、彼女達を嫌いにはならない、と思う。

 それだったら開き直って、彼女達との関係を受け入れることが最善の手に思えたのだ。

 

 とはいえ疚しいことをしているという気持ちは持ち続けている。

 せめて彼女達だけでも幸せにするという覚悟は持っているが、やはり周りにバレてしまった時の反響は計り知れない。

 なのは達は「わたし達なら大丈夫だよ」とお気楽モードであるのが、僕の腹痛になおさら拍車を掛けている。

 

 今後どうなっていくのかと、解決しない問に苛まれながら不意に時計を見れば、だいぶ時間が経っていた。そろそろ朝食ができているかもしれないと思い、階段を降りていく。

 リビングに着くと、なのはが鼻歌混じりにテーブルへ皿を持っていっている最中であった。

 

「あっノア君。ちょうどごはん出来てるよ」

「うん、ありがとう」

 

 休みの日ということで本来いるはずの僕の両親は、二人とも仕事に行っている。絵画とかそっち方面の仕事をしていると、基本的に平日休日の境があいまいになるらしい。

 だから僕達がまだ寝ている時間にはすでに出勤しており、今実家には僕となのはしかいない。

 まあ彼女はそれを狙って泊まりに来たのだろうけど、一体どこでその情報を仕入れてきたのやら……。

 それはともかくとして、今のなのはは髪を下ろして服の上からエプロンを着けており、妙な若妻感満載である。

 いやこんな若すぎる奥さんがいたら犯罪なのだが、彼女の場合似合っていて結婚したら良い妻になるんだろうなあと想像する。

 相手? そこらへんのことはちょっと考えたくないですね……。

 僕も料理の皿を運び、テーブルに並んだところでお互い椅子に座って「いただきます」と両手を合わせ、箸に手を掛けた。

 目の前に並んであるのは出し巻き卵と焼き魚、それとみそ汁に白米。僕がいつも食べてる朝食と同じメニューである。

 ……ん?

 初めに味噌汁からいただいてみる。

 一口、二口と飲み進めると白菜や人参、ほうれん草など沢山の野菜の甘みが味噌の塩気と混ざり合って非常に食欲を煽ってくる。

 ……いやこれ完全にうちの母親が作る味噌汁だ。

 

「あの、なのは? この味噌汁随分と食べ慣れた味がするんだけど……」

「ふふっ驚いた? それはノア君のお義母様に教えてもらったんだよ。他のも食べてみて?」

 

 彼女の言うとおりに一先ず出汁巻き卵を食べる。

 ふんわりとした卵の焼け具合に出汁の風味が合わさって食べやすい。

 ……これも母親が作るものと同じ味だ。

 

「え、なんで? いつの間にうちの味を?」

「もー、夏休みの間にノア君の家で教えてもらってたでしょー?」

 

 確かにそんなこともあったなあ。

 え、じゃあ何? なのは達は夏休みの一ヶ月の間にうちの味を完コピしたの? 凄すぎない?

 だとしたら全員天才的な料理の腕があるということになる訳だが。

 驚いた顔でなのはを見ると、彼女はイタズラに成功したような笑みを浮かべた。

 

「本当は夏休み終わってからも練習してたの。何回か失敗したこともあったけどノア君の舌に合ったかな?」

「いや合ったというか、あまりにも馴染みがあり過ぎて……」

「良かったあ。この日の為に練習してきたからね。これで毎日ノア君にお味噌汁を作ってあげられるね!」

 

 それはそのまんまの意味で捉えてもよろしいんでしょうか? 絶対違うよね?

 今から大人になった時のことまで考えているということか。

 そこまで思われているのは怖いと思う反面嬉しいという気持ちもある。

 こんな顔も性格も良い子達と仲良くできるなんて、下手すればこの先一生無いわけで、多分僕は今が一番幸せなんだろうなあと感じている。

 

「……なんか、ありがとうね」

「え、何が?」

「いや、なのは達はこうやって朝食作ってくれたりとか色んなことしてくれるのに、僕だけ何もしてないっていうか……」

 

 そう話すとなのははキョトンと首を傾げた。

 

「何かする必要あるかな? ノア君がいてくれるだけでわたし達は幸せなんだけど」

「いや、それだったら僕じゃなくても良いんじゃ……」

「そんなことないよ? カッコいいし優しいし困ってる人を見かけたらすぐに手を貸してあげるしそれについて見返りも求めないし誰にでも平等に接しようとしてるしちゃんと話を聞いてくれるしわたしが嬉しいことがあれば共感してくれるしいつだってわたし達の前に立って守ってくれるし、あとねあとね――」

「ちょちょちょ、分かったよ、分かったからもうそれくらいにしてくれ……」

 

 軽い気持ちで僕じゃなくても彼女達の彼氏にはなれる、と言ってしまったら、なのはからマシンガンのような反撃を受けてしまった。

 当の本人は「まだ話し足りないのに」と呟いている。これ以上褒め殺しにして僕をどうするつもりなのか。

 

「つまりね、わたしはノア君じゃなきゃ駄目だよってこと。だからそんなこと言われるとわたしは悲しいな」

「……僕はそんな出来た人間じゃないと思うんだけどなあ」

「人って自分のことは案外しっかりと見えてないものなんだよ? ノア君は自分の評価が低いのが欠点かな? そんなところも好きだけど」

 

 駄目だ。何を言っても彼女からは肯定しか出てこない。駄目なところを指摘してくれれば僕も楽なんだけど。

 いっそのこと自堕落な生活をして彼女達の好感度を下げてみるというのはどうだろうか。

 ……いや、そのまま何もかもお世話されることとなって一生彼女達の作った監獄から出られない気がする。

 それだけは辞めろと、僕の第六感が囁いている。

 やっぱり今のままでは彼女達には勝てないようだ。

 何とか彼女達に頼られる人間になりたいと思うのだが、全然良い案が出てこない。

 そりゃあ、最近まで彼女達との距離感を小学校の頃のそれまで戻したいと考えていた人間だ。そうかんたんに気持ちの切り替えはできない。

 彼女達に何かしてほしいことはないか? と聞いてもおそらく「ノア君はいてくれるだけで良いの」という同じ答えしか返ってこないのだろう。

 どうすれば良いか頭の片隅で模索をしながら、僕はなのはの作ったうちの母の完全コピーの朝食を食べ終えた。

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