詳しく見る方は第三話のあとがきの設定見ておくと多少は読みやす……別にそんなことはなかった。
無残にも崩れ落ち、廃墟同然と化したビル群を、僕は上から見下ろしていた。
ここはミッドチルダの都市の内の1つ。
首都から離れているとはいえ、緑も人の流れも多く、活気に満ち溢れた場所だと記憶している。
しかし、今現在流れる空気は決して穏やかなものではない。
ひりつく緊張感の中、僕はただタイミングを見計らっていた。
──来る。
浮遊していた場所から垂直に上方向へと飛ぶ。
直後、僕が今その瞬間までいた場所へ巨大な光線が走り抜け、空へと消えていった。
僕は光が放たれた根本を睨む。
そこには直径10mはあるであろう巨大な球体が3本の足を使って佇んでいた。
生き物では決して無い。
体の構造が全て機械で構成されており、更に点字のように密集したカメラアイがその存在をより不気味に彩っている。
ガジェットドローン。
それが目の前の物体――兵器の呼称だ。
観測されたのはつい最近のことで、開発者も、開発元も、その行動目的でさえ現在のところ全くの不明とされている。
分かっていることはただ1つ。ミッドチルダの市民の敵であるということ。
市街地を中心に突如として現れて街を踏み潰していく為、当然時空管理局の魔導師が出動することとなるのだが、かなり苦戦している。
その原因はガジェットの特性であるアンチ・マギリンク・フィールド、通称AMFのせいだ。
これを展開されると、一般的な魔導師は魔法の減衰、または使用不可の状態に陥ってしまう為、ガジェットへの対抗手段を失ってしまう。
そのため高ランクの魔導師ですら対抗手段が限られてくるというのに、突出した能力を持たない人間では尚更ジリ貧になるのだ。
僕もそれほど大それたことができる訳ではないが、その限られた手段はこの『手』に持っている。
しかしこの距離では届かない。僕は大型ガジェットへの突進を敢行した。
それに反応してか、敵は触手のようにうごめいている砲台をこちらに数本向けると同時に、先程と同じ閃光が放たれ、こちらを襲ってきた。
バリアジャケットを纏っていなければ簡単に蒸発してしまう程の威力だが、僕は迷わず真っ直ぐに右手を伸ばした。
そこには僕の腕より二回り巨大なかぎ爪が前腕部を覆っている。
手のひらの中心で光が走ると、瞬間的に膨大な熱量を発した。
それは僕の全身をカバーできる程の壁となり、敵の攻撃を防いでくれる。
光線を掻い潜った僕は、目の前に迫った砲台をかぎ爪で掴んだ。
「くらえ!」
右手に魔力を込めれば高熱を帯びた衝撃波が砲台へと伝わっていき、ブサイクな風船のように内側から膨れ上がっていく。
そのまま握りつぶすと爆発して先のちぎれたただのホースになる。
ゼロ距離で魔力を放出するのならAMFは関係ない。
ガジェットからしてみれば、僕の能力は正に天敵と言ってもいいだろう。
あとは本体を叩くだけだ、と意気込んで体を起こした。が、残った砲塔の1つがこちらを向いている。
あっやべ――などと考えていると金髪の少女がそれに剣を突き立てた。そのおかげで狙いがズレ、砲撃が僕の横を通り過ぎていく。
「ノアッ!」
「ありがとう、フェイト!」
体を翻すして空中へ飛び出す。
狙うのはガジェットのカメラアイの部分で、そこへ到着した僕は目の中心に抜き手の要領で右手を突き刺した。
ヒビの入った箇所を無理やりこじ開けるように右手を広げると、より内部へと手を突っ込んでいく。
限界まで腕を伸ばしたところで、魔力を照射する。
すると、熱の発生源から一気にブクブクと腫れ上がっていき、それが内部へ伝達していった。
やがてその現象は全体まで届き、それを見届けた後、僕はその場から離脱する。
その瞬間、人よりも遥かに巨大なその物体は爆散し、跡形もなく消え去った。
燃え上がった機械の部品が若干降り注いでいるが、さしたる被害は出ないことだろう。
これでミッション完了。あとは戻るだけだ。
そう思い振り返ると、そこには金髪の少女――フェイトの姿。
彼女は笑って僕の左手を掴む。
一仕事を終えてだいぶ疲れたが、彼女の手は温かく、なんだかホッとした気持ちで作戦本部へ帰ることができた。
僕とフェイトは
目標はもちろん先のガジェット。1週間程前に突然山岳地帯に現れて、足止めを行っていたものの魔導師の被害が増すばかりで、アースラの部隊に応援を頼んだらしい。
結局都市部の入り口まで入られてしまったが、それ以上の被害を出すことなくこうして戻ってこられた。
リンディさんと面識があるという作戦責任者の方は、僕達が帰ってくるのを見て、大層喜んでくれた。
これで今回の任務は終了。
あとは地球に戻るだけなので外を目指して廊下を歩く。
「いやーそれにしてもさっきのは肝を冷やしたよ。フェイトがいなかったら危なかったよね……」
「もう、油断大敵だよ? 私が間に合ったらから良かったけど、一歩間違ったら大怪我したかもしれないんだし」
「うん、そうだね……。もうちょっと気をつけなきゃな」
「本当だよ。ノアの体はもう1人のものじゃないんだからね」
その言い方だとフェイトが妊娠してるように聞こえるから
……え、大丈夫だよね? 流石にこの年で刑務所のお世話にはなりたくないよ?
「それで、私はノアのこと助けたよね?」
「え、ああ、そうだね。ホントありがとう」
「……助けた、よね?」
「え、あの、フェイトさん?」
フェイトが僕の顔を「じー」と見つめてくる。
正直、彼女の求めている答えが分からない。というかフェイトの瞳が僕を捉えて離さないので全く落ち着かず、考えに集中できない。
とりあえず顎に手を当ててうんうん唸っていたら、彼女は自分の胸元に僕の手を引き寄せた。
急に何!? と驚いていると、彼女はちょっと怒ったような顔を作る。
「も~、私にノアからご褒美がほしいってこと。最近全然私のこと構ってくれなかったから寂しいんだよ?」
ああそういうことか、と納得した。
確かに管理局の任務やらなのは達の誰かかしらに引っ張られて、ここ2週間程フェイトと二人っきりでいるということは無かった。
「う、うん、ごめんよ。フェイトの言うこと何でも聞くからさ、それよりも……」
「どうかした?」
「いや、この手を離してほしいなって」
未だに僕の腕はフェイトの両手に掴まれ彼女の胸の中。こんなことを他所様の廊下でやってるとかちょー気まずいのである。
「こうしてるとノアに気持ちが伝わるかなって思ったんだけど、駄目?」
「駄目。こういうことを外でしないって約束したでしょ」
1ヶ月前、僕はなのはとデートに出た訳なのだが、そこでの軽はずみな行動が原因でなのはを暴走させてしまった。
あれは本当に参った。何せ公の場でキスするところを見られてしまったのだから。
これが1人と付き合っている時なら良い。いや全然良くないのだが、中学生のカップルがなんかすごいことをしてるなーくらいで済むだろう。
だが今の僕は5人の女の子と付き合っている訳で――よくよく考えなくても最低だなこれ――あんなことがこれからも続くのであれば、いつか確実に周りにバレてしまうことになる。
ただでさえ薄氷を
そこで僕は5人に1つだけ約束をした。
それが「外、あるいはひと目につくような場所でのボディタッチを禁止する」というもの。
不満は出たが、こうしなくては僕の命がいくつあっても足りない。だから粘り強く説得して何とか約束を取り付けることに成功した。
だからこのような場でフェイトに密着されると困るのだ。
……それに、やたらと視線を感じる。
海――次元航行部隊に属する人間は僕とフェイトしか今この場にはいない。
なので当然陸の人達のものなのだろうが、それらはあまり歓迎されていないということが読み取れる。
それは当然で、基本的に海と陸の仲は悪い。
まあ海が優秀な人材を掻っ攫ってしまうということもあるのだが、縄張りに入ってきた者を快く思わないのは人間の
今回に至っては自分達の手柄を取られた、という思いもあってか尚更不機嫌なように思える。
それに、今の僕達は廊下の真ん中に陣取ってイチャついているようにも見えるだろう。
自分達の敷地内でそんなことされたら激怒する気持ちはよーく分かる。
何が言いたいかというとめちゃめちゃお腹痛い。
味方と呼べる人がいない中で負の感情に晒されていたら逃げ出したくなるのが必然。
なので早急にこの場を離脱したいのだが、その前にフェイトを説得しなければならない。
「分かった、分かったから手を離してほしいな。僕はいつでもフェイトの欲しいものあげるからさ」
「ホント? 約束だよ?」
「うん約束は守るよ。だから早くここを出よう」
「分かった。……何してもらおうかな~」
フェイトはすぐさま僕から離れて歩き出した。
一体何をされるんだろうかと若干怖いが、今はとにかくこの場を離れたかった。
それにしてもこの状況下で、スキップでもするかのような笑顔でいられるフェイトは一体どうなっているのだろう。
執務官になるにはそれくらいのメンタルが必要ということなのか……。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ―
任務を終えた週の終わり、フェイトは僕の家まで来ていた。
「いらっしゃい、フェイト」
「こんにちは、ノア」
私服を着てやって来た彼女の手には大きな紙袋と肩にはバッグを引っさげている。
紙袋の中身が何なのかは不明だが、教えてくれと頼んでも断られそうなので、それについては何も言及せず家に上げた。
「じゃあ私ちょっと着替えてくるから、覗いてもいいよ?」
「うん覗かないでおくね」
居間に着くとフェイトはバッグを下ろし、紙袋だけ持って僕の部屋へと上がっていたが、客間があるんだから普通そっちを使うんじゃないかな?
私室へ当たり前のように侵入してくると僕のプライベートも何も無くなるわけで出来れば自重してほしいのだが……。
最近どんどん遠慮がなくなってきてる気がする。
いつかここが自分達の家とか言い出したらやだなあとか考えることもあるが、流石にそんなことはないと思いたい。ないよね?
しばらく待っているとフェイトがリビングへ降りてくる。
だがっている衣服は彼女が今まで着ていたことなど無いものであった。
黒のワンピースは肩の部分が膨らんでおり、一体化したスカートはくるぶしまで届いている。
その上に纏っているエプロンは普通のものとは違い、裾や肩に掛けてフリルがふんだんに取り付けられている。
頭にはリボンの付いたカチューシャが乗せられており、これでもかと言うくらいメイドであった。
「え、なんで……?」
まさかそんなものを持ってきているとは思わず、素で聞いてしまった。
あんぐりと口を開けていると、フェイトはしてやったりという顔で笑った。
「すずかの家から借りてきたんだ。『何に使うの?』って聞かれたからノアのためにって答えたらすぐ渡してくれたよ」
あのお嬢様、自分の家の使用人の服を勝手に貸し付けて良いのだろうか……。
しかしそれよりも気になることがある。
「僕がフェイトにご褒美を上げるって話だよね? それ着てたらおかしくない?」
それは人にお世話する時に着る服であって、お世話される側が着てたら頓珍漢なことにならないだろうか。
「おかしくないよ。今日はノアにご奉仕する為に来たんだから」
「……うん? フェイトが、僕に?」
「そうだよ。私ね、メイドのお仕事にすごく憧れてたんだ~。だからご褒美を使ってノアのお世話をするの」
「いや、それで良いの?」
「良いよ? だって私が好きでやることなんだもん。だから遠慮なく命令してね?」
命令してね、と言われましても急には思いつかない。別に一緒にテレビ見るとかじゃ駄目なのだろうか。
そんなことを考えていたら、フェイトが「めっ」と人差し指を唇にくっつけた。
「何もしなくて良いとかじゃ駄目。これが私にとってのご褒美なんだからちゃんと命令してくれなきゃ嫌だよ」
しっかり釘を刺されてしまった為、要望を出さざるを得なくなってしまった。
しかし複雑なものは思いつかないので、一先ず簡単なものにしてみようか。
「……じゃあ、家の掃除でもしてもらおう、かな」
「はい、かしこまりました、ご主人様」
あ、もう役に入り込んでいる。
フェイトはペコリとお辞儀すると、早速清掃用具を手にリビングから順番にはじめていった。
まず掃除機を使って全体のホコリを取り終わったら、水を絞った雑巾で床を二度拭きしている。その後はハンドモップで高いところまで掃除したり、台所まで綺麗にしていた。
正直今の所文句の付けようがない程の完璧な仕事ぶりだ。
彼女の働く姿を見て、ふと思ったことがあった。
――メイドさんっていうのも、良いなあ。
決してフェイトに欲情してる訳ではないのだけど、メイドという職業は月村家で毎日のように見てきたから、その存在に慣れてしまっていたのだ。
しかし、今ここにいるのは同世代の、しかも完璧すぎるくらい顔の整った美少女であり、なんかこう、胸にくるものがあった。
これが『萌え』というものなのだろうか。
ジーッと思わず見とれてしまっていたのがフェイトにバレたのか、彼女は窓拭き掃除を止めて振り返る。
「どうされましたかご主人様」
コテンと首を傾げた彼女に対して慌てて言い訳を考える。
「い、いや、自分で言ったことなんだけどこんなことさせて悪いな~って……」
「も~、そういうこと言うの禁止。今日の私はご主人様の命令があれば何でもするから」
そう言って再び掃除に戻るフェイト。
何とか誤魔化せたが、少し怒らせてしまっただろうかと思った。
けどすぐに鼻歌が聞こえてきたのでその心配はなさそうだ。
2時間程でフェイトは家全体の掃除を終わらせ、もうご飯時となっていた。
お礼として僕が作ろうかと思ったのだが、それもフェイトが自分でやる、と言って自ら綺麗にした台所に立っている。
今日の昼ごはんはオムライスのようで、彼女はちゃちゃっと作ってしまっていた。
一口掬って食べてみれば、黄身の滑らかさとケチャップライスのしっとり加減もバッチリで、思わず「美味い」と声に出していた。
すると向かい側に座って頬杖をついていたフェイトがニコリと笑う。
僕はずっと見られていることが気恥ずかしくなって、なるべく視線を下に落として食べ続けた。
食事が終わるとフェイトが次の指示を仰いできたけれど、本当にやってほしいことがない。
今の彼女の状態からすると、多少無茶なお願いでもすぐに実行するのだろう。
しかし、僕の方がそれを望んでいないので、ここらで普通に着替えてほしいというのが僕の要望である。
金髪のメイドさんが家の中にいるっていうのも落ち着かないしね。
なのでそれを伝えたのだが、彼女は頬を膨らませて「じゃあ私が勝手に決めちゃう」と宣言した。
フェイトは耳かきを持ってソファに座ると、膝をポンポンと叩いている。
言わんとしてることが分かる。しかし後が怖いのでおとなしく従うことにした。
僕が横になって彼女の柔らかい太ももに頭を乗せると、耳掃除が始まった。
触り方は優しいし、カリカリと気持ちの良い場所を的確に突いてくる。正直すごく心地良い。
このまま眠ってしまいそうになるが、側頭部の感触と意識を総動員させることで何とか起き続けている。
右側が終わると今度は左。
あまりの気持ちよさに頭がとろけてしまいそうだった。危ない危ない。
これでフェイトのメイドもおしまいになってくれれば良いなと思っていたのが、やはり甘い考えだったようだ。
耳掃除が終わると、今度はマッサージをすると言ってきた。
ソファにうつ伏せになるとフェイトが馬乗りになって僕の体を触り始める。
ほんとどこで覚えてきたのかは知らないが、力の入れ具合とか揉む箇所とか的確で、さっきの眠気も加算されて段々瞼が重くなり、自然と意識を手放してしまった。
……起きた時にはすでに夕方で、僕が覚醒する時間を読んだのか、すでにお風呂にお湯が張っていた。
起きて早々お風呂に入れるなんてサイコーだなあ、とかぼんやり考えていたのだが、ふと自分のことを鑑みると顔を青くする。
――あれ、これ駄目人間にされてるのでは?
と。
マジで今日何もしていない。
自分でやったことと言えば着替えと歯磨きとご飯を食べることくらい。
両親は先週から県外に行っていて今は僕だけ。それなのにこんな快適さを覚えてしまったら、1人で生きていけなくなってしまう。
まあ両親がいない時は5人が代わる代わる来るのだが、こんな自堕落な自分を見られるのは、流石にやだなあと思ってしまう。
「どうしたのノア。お風呂に入っても良いんだよ?」
「え、あ、ああそうだね。今入るよ」
ヤバイヤバイと考えていたらフェイトの言葉で我に返る。
まあ今は考えても仕方がない。とりあえず風呂に入ろう。
フェイトには乱入してこないように言っておいた。一応命令に入るだろうから今の彼女だったら従う、はず。
服を脱いで湯船に浸かると、大変良い湯加減であった。
また駄目になりそうになるが、気をしっかりと持つ。ここで力を抜いたら僕は二度と立ち直れないだろう。
さすがのフェイトだって夜には帰るだろうし、そうすればこの時間もおしまい。明日からはまた元通りの生活に戻れる。
若干名残惜しい気もするが駄目人間になるよりはマシだ。
これから何も無いことを祈りつつ、決意新たに僕は風呂から上がった。
……が、まさか朝までフェイトに永遠甘やかされることになるとは、この時の僕は考えもしてなかった。
途中全然話の終わりの着地地点が見えずだいぶぐちゃぐちゃになってしまったように思えます。お見苦しいものをお見せして申し訳ありません。
※さて、次話を書くネタが完全に尽きました。
そのため皆様にリクエストでもさせていただこうかなと考えております。
残り3人のヒロインでこうしてほしいというシチュエーションをメッセージか、活動報告欄に募集概要を書きますのでそちらに何卒意見をお願いいたしますm(_ _)m