鶏が先か、卵が先か   作:楊枝

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前話の後書きで一巻内容ごと云々抜かしていましたが、志半ばで力尽きたので先に一話更新することにしました。
二章自体外形はできてるので、後は整えて出すだけです。気長にお待ちください。



第二章
お小遣い支給日


 

 

 

 Dクラスの朝は……いや、Dクラスは時刻関係なく騒がしい。それは事実だ。なぜならDクラスの生徒は、基本的に元来真面目な性分の生徒が少ないからである。

 

 しかし今朝、いつも以上に騒がしいのには理由があった。

 

「おはよう諸君。今日はいつにも増して落ち着かない様子だな」

 

 ホームルームの開始を告げる鐘の音とほぼ同時に、茶柱先生が教室に入ってくる。

 池はさっそく非難がましい声を上げた。もちろん他の生徒たちも同意のことで、茶柱先生を見る目は厳しい。

 

「佐枝ちゃん先生! 俺たち今月もポイント0だったんですか!? 朝チェックしたら1円も振り込まれてなかったんだけど!」

 

 

 ───今日は5月の頭からゼロポイント、お小遣いゼロだったDクラスに、もしかしたらポイントが振り込まれるかもしれない運命の日。……だったりする。

 

 

 池が憤懣やるかたない様子で、鼻息荒く続け様に文句を重ねる。

 

「俺たちこの1か月、死ぬほど頑張りましたよ。中間テストだって乗り切ったし……なのに0のままなんてあんまりじゃないですかね! 遅刻や欠席、私語だって全然だし!」

「勝手に結論を出すな。まずは話を聞け」

 

 茶柱先生が一度ため息をつく。

 

「池、確かにおまえの言うように今までとは見違えるほど頑張ったようだな。それは認めよう。お前たちが実感を持っているように学校側も当然それを理解している」

 

 珍しく諭すような口調だ。茶柱先生が生徒に見せた表情といえば、無表情だとか、嘲笑だとか、碌なものじゃないのは確かなので、意外なその様子に池も渋々矛を収めたようだった。クラスメイトも同様だ。

 一旦の落ち着きを見せた教室をぐるりと見やり、茶柱先生は改めて口火を切った。

 

「ではさっそく今月のポイントを発表する」

 

 黒板に広げられた紙を見る。Dクラスの横にある数字は───87……か。

 

 池が飛び跳ねて喜んでいる姿を横目に、ぼーっと考える。思案に耽るほどではない。

 クラスメイトたちが4月以来初めてプラスとなったポイントに、池ほどではないが喜びを示している。茶柱先生は明るい雰囲気が漂う教室を見渡し、一瞬覚えのある嫌味な顔をしたが、すぐに表情を消し去った。

 

「あれ? でもじゃあ、どうしてポイントが振り込まれてないんだ?」

 

 まあ、当然の疑問だ。茶柱先生はその疑問を聞き、軽く肩をすくめてみせた。

 

「今回、少しトラブルがあってな。1年生のポイント支給が遅れている。おまえたちには悪いがもう少し待ってくれ」

「えーマジすかあ。学校側の不備なんだから、なんかオマケとかないんですかあ?」

 

 再度教室からは不平不満の声が噴出する。そりゃあそうだ、せっかく87ポイント、金銭で言い換えれば8700ものプライベートポイントをもらえることがわかったのだ。Dクラスからしてみれば二ヶ月ぶりのお小遣い、それが学校側の不備で支給が遅れているなどこっちからしたらふざけた理由にしかならない。私もそう思います。

 私も、お金、欲しい。清隆くんと遊びに行きたい。有料スポットにはまだまだ全然行けていないのだ。

 

 ブーブー文句を垂れている生徒たち(私含む)をいつも通り淡々とした目つきで見つつ、茶柱先生が言う。

 

「そう責めるな。学校側の判断だ、私にはどうすることもできん。トラブルが解消次第ポイントは支給されるはずだ」

 

 なお言葉の割に悪びれた様子が一切ないのは茶柱先生様々である。ちょっとは悪びれろよ! これだから茶柱先生は!

 

 

「……ポイントが残っていれば、だがな」

 

 

 ───そして最後に意味深な言葉を残すのも、彼女様々といえる、か。

 

 

 これから来るであろう一波乱にじんわり頭が痛くなってくる。平穏に過ごしたいだけだというのに、なんともまあ前途多難だ。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 今日のお弁当は私作だ。最近だし巻きたまごの作り方と言うものを覚えたため、私作のときはだいたい渾身の出来たるだし巻きたまごがメインに入るという形になっている。

 ちなみに清隆くん作お弁当は卵を扱った料理なら卵焼きが基本だが、味はその日の気分で甘口だったり辛口だったりと、適当にやっているようだ。

 だし巻きたまごと、甘口と、それから辛口。みんな違ってみんないい。

 

 

 いつものベストプレイスで、ベンチに座って清隆くんと二人で昼食を取る。

 お互いのんびりと食べ進めていると、水を飲んで口の中をすっきりさせた清隆くんが言う。

 

「87ポイントあれば、どこかに行ってもいいんじゃないか?」

 

 清隆くんもそろそろ遊びに行きたい欲が高まっていたのであろう。そういえばポイントが支給されるのがわかっていたここ最近、ずっとソワソワしていた気がする。言わずもがな私もなので、二人でずっとソワソワしていた。

 無料処を回って遊んでいても、私たちは健全な高校生なのだ。やはりお金を使って遊びたい。どうせならお金を使って遊びたい。お金を使って遊ぶことほど楽しいものはないというのは、この世の真理なのである。

 

「87ポイント、つまり8700だから……一回……いや二回! 二回くらいならパーッと行ってもいいかも?」

「いや、三回はいける」

「ガバガバすぎないか? だめだよ、ここで我慢してこその解放されたときの楽しみなんだから!」

 

 でも三回はいけそうだな。

 

 ポイントが支給された後のことを考えると俄然楽しみになってきて、指折りこれからしたいことを数えていく。清隆くんも私に続く。

 

「まずは映画でしょー、それから〜」

「オレはパフェっていうのを食べてみたい」

「パフェ! いいね! そうだ、甘味処巡りとかいいかもしれない」

「それなら実質一回だしな」

「やっぱりガバガバすぎない?」

 

 映画、甘味処巡りでカウントは二回。残り後一回か。

 うーんと頭を悩ませる。私も清隆くんも楽しめる場所……こうやって改めて考えてみたら一瞬では思い浮かばないものだ。別にどこでも楽しめそうだからかな……。

 

 と、一つ名案が思い浮かんだ。そういえばまだ清隆くんと行っていない場所がある。

 明るい顔をし、早速提案した。

 

「カラオケ! カラオケ行ってみない?」

「カラオケ……か? 歌うところだよな?」

「そうそう。歌って踊るところだよ」

「踊るのか……?」

 

 踊る人もいるんだよ。入学当初、陽キャ軍団に紛れ込んで行ったカラオケでは、アイドルの振り付けで歌って踊るクラスメイトもいたのだ。嘘は言っていない。

 清隆くんとしてもカラオケという未知の場所、気にならないわけではないのだろう。踊るという言葉に少し面食らった様子ではあったが、興味深そうに首肯する。

 

「いいな。カラオケも行くか」

「ちゃんと踊るんだよ、清隆くん」

「本当に踊らなきゃいけないのか……」

 

 なんか騙してないか? という疑いの目を向けてくる清隆くんに元気よくサムズアップしてみせた。嘘は吐いていないから万事オーケーである。

 

「葵から先に言ったんだ。手本はよろしく頼む」

「任せて。私も学習してきたから」

「本気でオレに踊らせる気なんだな……」

 

 やはりカラオケで踊るのは嘘説を推していたらしい。先に私が踊るよう話を持っていき、嫌だと断られればオレも嫌だとか言う算段だったのであろう。この私がそんなこと許すわけなかろう。踊るのが嘘だと思っているなら、私自ら真実にするまでである。

 だって歌って踊る清隆くんとか普通に気にならないか? 私は見たいもののためなら出し惜しみする気はない。

 

 巷で有名らしいアイドルの振り付けを頭に思い起こして、自由な上半身だけで再現してみせる。清隆くんは、お〜と私を、ひいては私がしている即興ダンスを見ていた。

 

「なるほど。じゃあオレも何か覚えていくか」

「もしかして歌指定したら、それ覚えてくれる感じ?」

「あんまり動き回るようなものじゃなければ、別にいいぞ」

「やった!? マジで!?」

 

 これからのことを考えると楽しみになってきた。まさかの三番目の案、カラオケというダークホースが楽しみでたまらなくなるとは予想外だ。言質は取ったし、清隆くんが踊ってくれるのは確定である。

 まだ少し考えるのが早いが、清隆くんには何の歌で踊ってもらおうかな〜とワクワクしながら頭を悩ませる。

 今日帰って、さっそく調べるのもいいかもしれない。カッコよさに全振りしたダンスとか踊ってるの見てみたい。……いや、でも……可愛い振り付けが多いものを踊らせるのもいいな。普通に見たい。見たくない?

 

 一人で唸ってはいろんなパターンの踊りをしている清隆くんを想像し、目を爛々と輝かせる。口元にはニタァとした笑みが浮かんでいたと思う。

 

 清隆くんはそんな私を見て、先の軽率な発言をちょっと後悔していたようだった。

 でもまあ、なんやかんや楽しそうではあった。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 放課後になり、部活に行くため早々に席を立つ。清隆くんはバッグを持って私のもとに向かってきていた。いつもと同じで、武道館までは一緒に帰るつもりなんだろう。

 二人で並んで教室を出ようとして、茶柱先生の声が耳に届いた。私たちに続いて、同じく教室を出ようとしていた須藤に呼びかけたようだ。

 

「須藤。お前に少し話がある、職員室まで来てもらおうか」

「は? 何で俺が。これからバスケの練習なんすけど」

「顧問には話をつけた。来るも来ないもお前の自由だが、後で責任は取らんぞ」

 

 茶柱先生の脅迫とも取れる言葉に、終始気怠そうにしていた須藤も態度を改める。警戒するような目つきで茶柱先生を見た。

 

「なんなんだよ……すぐ終わるんだろうな?」

「それはお前の心がけ次第だ。こうしてる間にも時間は過ぎていくぞ」

 

 それ以上押し問答をするのはやめたらしい。派手な舌打ちをかまし、須藤が茶柱先生の後に続く。

 私たちの後を追い越して、須藤と茶柱先生が廊下の向こうに消えていくのを、清隆くんと二人で見送った。

 

 

「あなたたちはどう思う?」

 

 

 背後から声が届く。今度は茶柱先生ではない。それに加えて私たちにかけられた声だとも気づく。

 

 清隆くんと二人で振り向く。

 すぐ近くには堀北さんがいて、ツンと澄ました顔をして立っていた。

 

「どう思うって、須藤のことか? なら、オレは別になんとも」

「水元さんは?」

 

 さらっとフェードアウトしようとしたが普通に許されなかった。目敏い。

 中途半端に去ろうとしていた姿勢から直り、振り向いてぽりぽりと頰を掻く。堀北さんが見逃さなかったため、清隆くんは手を繋いでくる。

 

「私も、特には何も思っていないよ。それより堀北さんはどうなの? 須藤に手を貸した一人として、さ」

 

 堀北さんの眉がピクリと持ち上がる。しかしそれも一瞬のことで、すぐに元通りになり淡々とした表情で言う。

 

「そうね……。クラスにとってプラスとなるかどうか、それがまだ未知数なのは確かね」

 

 須藤を助けるために自ら点数を下げたり、ポイントを消費してテストの点数を購入したりとあんなに献身的だったのに、まるでそんなことをしたとは思えない態度だ。さすが堀北さんというかなんというか……。

 堀北さんが思案げに視線を下げる。

 

「少し気になっているの。今朝先生が言っていたこと」

「ポイントの振り込みが保留になったことか?」

「ええ。トラブルがあったらしいけれど、それが学校側の問題なのかそれとも私たち生徒側の問題なのか。もし後者なら……」

「考え過ぎだ。最近は特に問題なんかもなかった。それに担任が言ってただろ。Dクラスだけがポイントの支給を止められてるわけじゃないと。単純に学校側の問題だって」

 

 清隆くんの言葉を聞いてもなお、堀北さんの視線は上がらない。

 

「そうあってほしいものね。トラブルは必ずポイントにも直結するから」

「私早くポイント欲しい……」

「オレも欲しい……」

「それだけ聞くとポイント乞食みたいね、あなたたち」

 

 仕方なくない? 此処はポイント=お金の世界なんだよ。世はポイント時代だよ。

 

 ここまで大人しく話を聞いていたが、チラと時計を見てバッグを持ち直した。至極申し訳なさそうな顔を作る。

 

「私この後部活あるから……すご〜く残念だけど、先に行くね」

「親指を立てないでくれるかしら? 知ってる? サムズアップは他所の国では侮蔑表現になったり、猥褻表現になったりするのよ」

「ココは日本です!」

 

 俊敏にその場を後にする。面倒くさいお小言は聞き流すに限る。もはや聞き流す前に離脱しているが、どちらにせよ些細な問題だ。

 離脱する直前繋いでいた手を振ればあっさり離れたので、清隆くんを置いていく形になってしまったが、まあ大丈夫であろう。きっとこの後堀北さんと寮に向かって帰りながら、話の続きをするんじゃないだろうか。

 

 いや〜残念だな〜。私も本当はもうちょっと話していたかったんだけど、まあ部活があるからな〜仕方ないよな〜。

 

 

 

 今日も今日とて弓道場で練習だ。

 

 やっぱり弓を引いているときは楽しい。なんというか、世界と自分が切り離されて、研ぎ澄まされて、頭が真っ白になるような……そんな感覚が好きなのだ。

 

 的の真ん中を突き抜けた矢を引き抜きながら、もう少し練習して帰ろうかなと考える。時計を見ればまだまだ練習できそうだった。

 夏には大会もあるみたいだし、もう少し練習して帰ってもいいだろう。夕飯……は少し遅れてしまうかもしれない。先に連絡入れとこう。

 

 

 

 

 そして清隆くんの寮に帰って玄関にある二足の靴を見て、一瞬で踵を返した私である。あばよ、清隆くん……達者でな……!

 夕飯は……今日のところは諦めるしかない。よってかくなる上は、朝早く清隆くんの部屋に突撃して昨日の夕食ならぬ朝食を取るのみだ。これで万事解決である。ついでに清隆くんとお弁当作って学校行こう。

 

 清隆くんの寮の玄関にはドアチェーンがかけられている。なお私の寮にもだ。理由は入学初日、私が無防備かつ無警戒にドアを開けて清隆くんを中に招き入れたことにある。

 最初こそそこのところを気にする余裕はなかったようだが、落ち着いてよく考えれば今度は私の無警戒さに不安が出てきたのであろう。いや別に私は無警戒じゃないが?

 

 その後しつこくドアチェーンをかけるべきだと言い募られたため、「別に清隆くん以外なら対応できるから」とは言った。言った瞬間その場で足を引っ掛けられ組み敷かれた。怖い。自分より上位の力って恐ろしい。金的でもすれば逃れられただろうが、普通に足も抑えられていた。怖い。ホワイトルーム生怖くない?

 さらにその後その姿勢を維持したまま上から淡々と言葉を落とされ、説得されて、それがあまりにしつこかったので渋々承諾した。

 からの、論点ならぬ話のすり替えである。

 

 

『じゃあ清隆くんもドアチェーンしてよ』

『は? いや、今は葵の無警戒さの話を』

『嫌だ。清隆くんがしないなら私もしない。なによりその考えは時代錯誤だ! 女子だけじゃない、男子も不審者には警戒するべきだ』

『いや、だから今は葵の』

『清隆くんがドアチェーンしないならこの話は無し! 言っとくけど清隆くんも私と似たような考えしてるでしょ! 説得力ない!』

『………それもそうだな』

 

 

 ……という経緯を辿って、お互い玄関にドアチェーンをつけることになったという。道連れにするためなら駄々なんていくらでも捏ねられるのだ。私は理不尽に抗う女なのである。

 

 清隆くんからすればさっそくドアチェーンが活躍するときが来たのだろうが、果たして本当に役に立ったんだろうか。結局中に招き入れているなら、ドアチェーンをつけた意味がないような気がする。

 いや、でも一応勝手に入られることはないから、それならドアチェーンをつけて良かったと言えるだろうか……?

 

 

 まあ、なんにせよ、やっぱり私の部屋にドアチェーンは必要なかったなと思う。だから言ったのだ、私より清隆くんの方が必要だろうと。……言ったっけ?

 

 自分の寮に帰りながら、軽くため息をついた私だった。

 

 

 

 

 

 

 




感想欄で葵ちゃんの容姿言及されてる方が挙げていたおそらくキャラ名「ザビー」をずっと考えていたんですが、Fateじゃね? という天啓を受け調べてみたところ、なるほど作者もイメージ近いなと思いました。ザビ子って検索したら出てきます。
作者的にはこんなにゆるふわ髪ではないですが、毛先の方はちょっとふわっているイメージはありますね。概ねストレート髪って感じです。前髪はもっと軽めで、髪の長さは胸下辺りなので本当にこんな感じ。あと綾小路同様垂れ目です。あと横髪? 触角? はこの量の半分くらいでもっと自然な感じです。いやもう作者もわからん助けてくれ(ドツボ)

でも各々好き勝手想像してくれたらいいです(上記の発言をすべてひっくり返す言葉)



あと他にも調べてる過程で思ったんですが、堀北ちゃんCカップじゃないんですね。失礼ながらB寄りのCかと思ってました。主人公勘違いしてますね。つまりそういうことです。
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