覚えてる人いるのか思いつつ出来たので投稿します。
あとニ話ほどで終わります。
翌日。清隆くんとはお互い優待者ではないことを確認し合ったのち。
まずは最初の午後一時。
それぞれ指示された部屋に集まり試合開始の合図であるゴング───簡潔で短いアナウンスが部屋に流れたことにより、ついに船上試験が始まった。
『ではこれより、1回目のグループディスカッションを開始します』
実は私も高円寺くんのように観察力だけで優待者を見つけてみようと、前提知識を捨てて挑戦してみることにしたのだが。まあこれが撃沈……とまではいかないが、自信満々に答えられるほどでもない。改めて高円寺くんは規格外だと思う結果となった。
おそらく己に自信があるか否かも関係しているのだろう、と予測をつける。そうなると、確固たる事実・証拠でもない限り次の行動に出られない、ある意味難儀なタチをしている私と清隆くんは、感覚タイプの高円寺くんとはとことん相性が悪いのだろうなと思う。
裏を返せば、凸凹を補う形で合致すればめちゃくちゃ相性が良くなることもあるのだろうが、かなり狭き門であることに違いはない。本人たちの性格とかもあるし。
うんうん頭を悩ませているうちに、最低限話し合うようにと指示されていた1時間が経っていたらしい。
高円寺くんがいの一番に立ち上がり、いつもの挨拶「アデュー」と言うや否や颯爽と部屋から去って行った。
その後ろ姿を残されたグループメンバーで無言のまま見送り、なんか気まずい空気のまま一人、また一人と高円寺くんに続いて解散していく。私もその流れで部屋を出た。
集中力を途切れさせないために入室前に切っていた携帯の電源を入れる。電源がついてすぐ、画面にはチャットの通知が現れた。名前を見れば佐倉さんだ。
一体どうしたのかと内容を見れば、時間があれば会いたいですとのことだった。昨日に続いて連日佐倉さんからの連絡が来るなんて、ちょっと珍しいというか、感動するものがある。
もちろん断る理由はない。せっかく佐倉さんが勇気を出して連絡してくれたのだ、期待に応えようとすぐに返信をする。
昨日と同じ場所でいいか確認すれば、佐倉さんも待っていたのかすぐに返信が来た。場所もあっさり決まり、目的地に向けて歩き出す。
……と、また新しくチャットが入った。佐倉さんかと思いきや、清隆くんだ。
見れば船を回ろうと、試験そっちのけのマイペースすぎる内容が書かれてある。もちろん試験についても多少意見交換するだろうが、メインは船内巡りなんだろう。
少し悩んで、『今から佐倉さんと会うんだ。清隆くんは私ばっかりといないで、須藤たちと遊んだりとか気晴らしで良いと思うよ』と返事をした。
携帯をスカートのポケットにしまい、佐倉さんを探して辺りを見回す。休憩所の隅で、佐倉さんらしき人影が見える。船内の隅にあるこじんまりとした休憩所だから、他に人はいない。なのに部屋の隅にいるところに、佐倉さんの性格が滲み出ているようだった。
昨日は驚かせないようにと遠くから声をかけたのだが、結局佐倉さんは驚いて飛び上がっていた。ならば今日は近くまで行って、そっと声をかけようか。
特に足音を消しているわけでもなく佐倉さんに歩み寄っていくが、彼女が私の気配に気づく様子はない。というより、何かボソボソと呟いている。
「……冗談っぽく……そ、そしたら……」
他に生徒はいないため佐倉さんの声しか聞こえないわけだが、元々佐倉さんの声は小さく、それに加えてどこかから聞こえてくる船の稼働音に負けてうまく彼女の声だけを聞き取ることができない。
距離を縮めていけば、少しずつではあるが佐倉さんの声が聞き取れるようになってきく。
「わ、私と、その……で、でで、デー……」
…………デート?
「佐倉さん?」
「トぅをおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」
「えごめん!?!」
心なしか昨日よりも飛び上がっている佐倉さんに、私もつられて飛び上がる。目を白黒させて佐倉さんを見れば、佐倉さんも目を白黒させている。
あわあわ口を開閉し、佐倉さんが真っ赤な顔で私に尋ねてくる。
「い、いい、いつ、いつの間にそこにぃ!?」
吃り具合も過去最高だ。
驚いた余韻を引きずりつつも、彼女の問いに答えた。
「一応今来たばっかりだよ」
佐倉さんはすっかり焦っている様子で、手をバタバタさせている。
「き、聞いた!? 私の話、聞いちゃった!?」
「えー……」
どうしよう。聞いてないといえば聞いてないし、正直に答えるべきか。
だがしかし、なぁ……。
悩んだのは一瞬だ。一度一人で頷いて、悪戯っぽい仕草でこてんと首を傾げて佐倉さんを見た。
「……デート、する?」
「とぅああああああああああ!!!」
「佐倉さん!?!」
その場で崩れ落ちるように蹲った佐倉さんに、慌てて駆け寄る。小柄な背中に優しく手を乗せ、落ち着かせるように撫でた。
「ち、ちが、ちがうんです私冗談っぽく言ってその水元さんの負担にならないように断られても大丈夫なよう平気なようにって考えててだから決して変な意味があるとかそういうわけじゃなくてだから水元さんは安心してあのそのあの」
「一回息して! 怖い! 怖い!」
人ってノンブレスでここまで喋ることってできるんだ。直近で自身にも似たようなことがあった気がしたが、すっかり忘れてそんなことを思う。
ずっと背中を撫でているうちに、佐倉さんもようやく落ち着いたらしい。顔は赤いし体も羞恥からか異常に熱いのだが、落ち着いて呼吸をしながら話せるまでになった。
顔を俯けた上で手のひらで覆うという徹底ぶりを見せつつ、佐倉さんがくぐもった声でボソボソと言う。
「ご、ごめんなさい……つい、その、取り乱しました……」
とりあえずわかったのは佐倉さんは面白いということだな。
「私こそごめんね、つい」
そう、つい。
だが別に、嘘にするつもりはなかった。幸いこの後の予定はないし。私は嘘をつかない。
「佐倉さん、この後暇?」
「えっ」
物凄い勢いで上げられた顔に多少面食らいつつも、私は笑ってもう一度提案した。
「もしよかったら、私とどこか遊びに行かない?」
首が取れそうなほど上下に振られる頭に、今度こそ我慢しきれずに声を上げて笑った。
§
佐倉さんと船内のカフェ巡りや佐倉さん的おすすめフォトスポットを回ったりしてのびのび過ごしているうちに、いつのまにか2回目のグループディスカッションの時間がやってきていたようだ。時間が経つのは本当に早い。
別れる際寂しそうにしている佐倉さんに、また一緒に回ろうと声をかければ、パッと顔を明るくして何度も頷いてくれる。
しっかり癒された後で、第二回グループディスカッションに挑むこととなった。
あ〜なるほど。優待者だと確信してから観察すれば、案外わかりやすいかもしれない。
二回目は観察力だけでは限界があると思い、記憶を存分に利用して優待者に当たりをつけてから試験に挑んだ。自己紹介で明かされた名前を脳内で五十音順で並べ、干支の順番で猿に当たる人物に注目したのだ。
結果、その人物の不審な様子が目についた。不自然な目配せ、必要以上な感情の発露。それと何か発言する際に顔を触る癖も妙に目についた。普段からの癖と言われるとそれまでだが、どうもそんな気がしない。
もともと確信を持って観察しているのもそうだし、心理学的に考えても彼が優待者であることは間違いないだろう。
優待者がわかりスッキリした気持ちで2回目のグループディスカッションを終え、1回目同様高円寺くんを筆頭に、続々と部屋から生徒が抜け出ていく。
最後まで残っていた数人の生徒も何もすることがないと部屋を出ていくのを見送った上で、私も最後尾として部屋を後にした。
さて、これからどうするか。他のグループではまだ話し合いが行われているかもしれないし、邪魔をするわけにはいかない。
携帯の電源を入れるも、チャット等の連絡は入っていない。また試験が終われば連絡が来るだろうと、特に何もせず携帯をスカートのポケットにしまった。
とりあえず夜ご飯の時間というものあり、今日はどこで食事をするか先にお店でも確認しに行こうと思い、一階に向かおうとする。
階段に差し掛かる時だ。頭上に影が射す。
「簡単なゲームだ。君もそうは思わないかい?」
「……高円寺くん?」
階段の曲がり角から高円寺くんが姿を現した。手すりに手をついて、いつもの不遜な様子で私を見下ろしている。
困惑に顔を染めて、小首を傾げて高円寺くんを見上げた。
「んん……? どういうこと?」
「君も誰が嘘つきか、確信を持っているんだろう? そうじゃなければ、あれほど熱心に特定の人物を観察するわけがない」
「あちゃ」
やはり高円寺くんにはバレていたか。本当に潜在能力が計り知れない人物だ。高円寺くんを意識して、彼にバレないよう観察していたつもりだったのだが。
階段を上がる。高円寺くんと距離が近づいていく。
「高円寺くんは他人に興味ないから言いふらすつもりはないんだろうけど、それでもあまり口外しないでほしいな。こんな序盤で嘘つきがわかってるなんて、異端だ。優待者当ては高円寺くんがしていいからさ」
「そうだね、君に先を越されてはプライベートポイントが手に入らない。もともと私の貴重な時間がつまらないゲームに浪費されるのは気に食わなかったからねぇ」
私の目の前で高円寺くんが携帯を操作し、程なくして操作を終えた直後のことだ。ポケットにしまっていた私の携帯に通知が届く。
慌てることなくスカートから携帯を取り出して、通知を確認する。
『猿グループの試験が終了いたしました。猿グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』
「これで私たちは晴れて自由の身になったってことだ。お互い船上生活を満喫しようね」
「このレベルの船、私ならばこの先いくらでも機会はあるがね。まあ、精々こんな船でも私の肉体を喜ばせるために利用させてもらうさ」
「今から屋上行く感じ?」
「夜の大海に浮かぶ船、月光が射すプールで優雅に泳ぐのも悪くないからねぇ」
そのまま屋上に向かうかと思われた高円寺くんだが、動く様子はない。
今度こそ本心から首を傾げた私に、少し身を屈めた高円寺くんが正面から私を見つめてくる。
「私も大概そうだが、水元ガールも随分つまらなさそうだ」
一瞬、息が止まった。
「……どういうこと?」
「思考を放棄した人間は、得てして無気力だ。君の目には、それに通ずるものが映っているように見えたのさ」
「………」
……はて。
「おや。否定しないのかい?」
「……いや……私も、言われるまでは自覚がなかったかな」
ぱちくりと瞬きする。幼げともいえる無防備な様子を見せれば、高円寺くんも揃って目をぱちくりとした。
かと思えば、急に大声を上げて可笑しそうに笑った。
「はははは、実に愉快だ! 水元ガールは天然なのかな? 退屈を自覚しない人間がいるなんて、初めて知ったよ!」
「私なりに楽しんでるつもりだったんだけどな……」
「はははははは!」
私の返事を聞いて、高円寺くんの高笑いがますます大きくなる。何がそんなに高円寺くんのツボにハマったのか。
しばらく笑い倒して、ようやく高円寺くんが落ち着いてくれる。さすがにもう帰ろうかと思っていたので助かった。
高円寺くんが笑いすぎて滲んだ涙をキザな態度で拭って、今度は姿勢をピンと正して私を見下ろしてくる。いつもの高円寺くんだ。
「綾小路ボーイとはまた違う異質さだ。なに、私も君のそんな目は初めて見たんだ。いつもとは全く異なる───極端で、だからこそ興味を惹かれるねぇ」
これで話すことは終えたとばかりに、高円寺くんが踵を返す。相変わらずのゴーイングマイウェイぶりに感服する。
遠ざかっていく背中に向かって、最後に声をかけた。
「高円寺くん。高円寺くんは、滅多にサインを人にあげないよね?」
「私は私の基準で人に施しを与えるよ。それがどうかしたかな?」
「ううん、ならいいんだ。貰ったサイン、大事にするね」
「ああ、ぜひそうしたまえ。君の目はなかなか気に入っているんだ」
階段を上がる彼を見送る。私も高円寺くんに確認したいことを終えたので、予定通り夜ご飯を見に行こうと階段を下った。
気になる単語は多々あるが、何にしても感覚派な高円寺くんだ。私には見えないものが見えているんだろうと無理やりに納得した。
船内を練り歩いて、ついに今日の夕食を食べるお店を決めてしばらく経った頃だ。ポケットに仕舞った携帯が震えて、取り出せば清隆くんからの電話とわかる。随分遅かったなと思いながら、電話に出た。
……どうやら猿グループの試験が初日にして終わったことにより、あっちこっちで阿鼻叫喚が上がっていたらしい。兎グループも同じクラスメイト同士の話し合いが延びて大変だったとのこと。
事情は食事の時にでもちゃんと話しておこう、うん。高円寺くんはさすがでした、と。