夏休み前、ギャグ回。
カシャ。
重なる。
カシャ。
覆い被さる。
カシャ。
服で隠れる。
カシャ。
口元拭うって何?
カシャ。
顔を撫でるな。
カシャ。
だから顔を撫でるなって!(part2)
カシャ。
なんで覆い被さるの!?(part2)
カシャ。
ハグするとかってレベルじゃねーよな!?(part3)
カシャ。
もうええ! 頬を擦り合わせるってなんだよ! これがほんとの頬擦りってか! もういいよ!(part∞)
カシャ。
髪にキスって何!? おどれらはラブロマンスでもしとるんか!? 別世界線で生きとるんか!?(part∞)
カシャ。
カシャ。
カシャ。
カシャ……
カシャ…………
───今日の成果をチームで話し合い、お互いの死んだ目を見合ってぼやく。
「……俺も早く彼女欲しいなぁ……」
「わかるわぁ……」
Cクラスの
途中までは順調だった任務は、しかし今は暗雲が立ち込めている。
「あのバカップルの写真だけがうまく撮れねぇ〜……ッ!」
「男邪魔すぎる……ッ!」
全員がそれぞれに頭を抱えて唸る。苦渋に満ちた、あるいは辛酸を舐めさせられた顔は、日に日に凄味を増して今は怨嗟も滲みつつある。
1人の男子生徒(ここからは便宜上Wとする)は、同じく盗撮担当として集められたメンバーである3人の男子生徒(X、Y、Zとする)に、某ゲンドウポーズで語り始めた。
「
図らずもコードネームと被っていたらしい。
名指しされたXが某ポーズのまま答える。
「Dクラスで目立つ存在の偵察および盗撮……」
「その通りだ。Y」
「クラスの代表的存在はほぼほぼ公になった。
「そうだな。そしてZ」
全員の視線がZに集まる。視線を受け、Zは厳かに目を閉じた。そのまま殊更ゆっくりと口を開く。
「……正直、バカップルは要らないんじゃないかと思った」
ゆっくり、Zの両手が自身の顔を覆う。途端急激に空気が湿ってジメジメし始め、彼の体からキノコが噴出し始める。それは周囲をも巻き込み、部屋丸ごとまるでキノコ培養室にでもなったのではないかと疑うほどだった。
ちなみに集団幻覚である。
「だってアレさぁ……目立ってるけどなんか……趣旨が違うじゃん……目立つってさぁ、そういうことじゃないじゃん……」
「「「…………」」」
無言の意見の一致であった。
「……今や惰性の意地……」
Yによりトドメの一言も追加される。全員にダメージが1000入った。赤ゲージの上さらに追加のダメージをくらって、瀕死の者が4名いる。
つまり全員である。
……1人が鞄の中を探り出せば、全員がそれに倣って鞄やら懐やらを探り始める。
そうしてそれぞれが手に取ったモノを、机の上に重ならないよう並べていった。
全員がブツを並べ終わると同時、上から覗き込んで品評会が始まる。
「うわっ……見事なまでに隠れてる……」
「写真撮る奴同一人物……?」
「お前らどこで撮ってんだ!? 同じ画角だぞコレ!?」
「えっでもコレ日付も時間も違うぞ……」
「えっ……なんでぇ……?」
「どうなってんだコレ!?」
「シンプルに怖い」
彼らが好き勝手に声を上げている先。
そこに広がる光景とは、バカップルとして高校入学直後から一躍名を馳せ、そのあまりのバカっぷりに見てる方がバカらしくなりいつしか背景として馴染んでもはや誰もが発見しても見てるこっちがバカを見るとして素通りするようになったという伝説のバカ2人の姿。
……を、撮った写真集であった。
Yがおもむろに一枚の写真を指先で摘み、全員に見えるようにする。
彼は笑っていたが、目は死んでいた。
「見てくれ……本来なら2人は並んで公園のベンチに座っていたんだ。そして俺はちょうど正面から見える位置で隠れていた。チャンスだと思ってこの日何度目かのカメラを向けた……ら、結果はコレだ」
「キスしてる」
「してない。わかる。俺もおんなじの撮った。こいつらは見つめ合ってるだけだ」
「いやキスしてない方がおかしいだろ」
「なんで手のひらで相手の顔を包む必要があるんですか?」
「疑問点ズレてるぞ」
「キスしてる」
「お前はいい加減認めろZ」
今度はXが一枚の写真を摘み上げた。
彼の半笑いの表情が哀愁を誘ってくるも、部屋全体に漂う負の気配の方がよっぽど濃密である。相対的にXがマシに見えるという謎現象が起こっていた。
「俺はこっちだ……見てくれよ、このハグ……ただ抱きしめ合うだけならまだしも、こんな体の凹凸ピッタリ埋めるみたいな……正気で見てられねぇだろ……」
「ああ……」
「はい……」
「あるあるやん」
「俺もおんなじの撮ってる」
「これもう」
「おいそれ以上口走るなやめろ。やめろ」
「てかなんで抱きしめ合ってんの?」
「疑問点ズレて……いや、ズレてないか……?」
写真を変えながら、似たような会話のラリーが続く。その回数が両手の指の本数を超えたところで、場に自然と沈黙が落ちた。
全員無言で椅子に座り直す。
再び某ポーズを取りながら、Zが口火を切る。
「……とりあえず……男の方はもう十分だろ。どの写真にするかは……」
「これでいんじゃね?」
「そこら中あるしな」
投げやりだがその通りである。代表してXが適当に手を伸ばして一番手元の近くにあった写真を一枚拾い上げ、
その様子を最後まで見守り、Wが言いにくそうに口を開いた。
「提出期限も迫っている。深追いして、これ以上俺たちがダメージ……
「Wも大概投げやりなってるよな」
と言いながら、全員がそそくさと帰る準備を始めている時点で結論は決まっているも同然だった。
鞄を肩にかけて完全に帰るスタイルのWが、なんなら自分より先に玄関に向かっているXとY含めて一応この場にいる3人に対しておざなりな締めの言葉を自身も帰りながら言う。
「はい、それじゃあ解散ということで」
「うん」
「おけ」
「じゃあまた明日ー」
おそらく「じゃあまた明日」は1人部屋に残されたZは聞こえていない。が、Zも全く気にした様子はなく真っ先に某ヤムチャポーズで床に伸びていた。
最初は
───俺も彼女欲しい。
全員の目の端には等しく光るものがあった。
§
「───で? 言い訳はそれだけか」
『すみませんでした』
放課後、教室が夕暮れ色に染め上げられた頃。
盗撮班4人全員はCクラスの
「土下座しろ」
『はい』
全員強い者には積極的に巻かれろ主義なので、判断も返事も早い。
統制された動きで即行土下座の姿勢へと移る彼らに、若干気圧された様子を見せた龍園だったが、やはり彼には
一瞬動揺があったことなど微塵も感じさせない、堂々たる睥睨した眼差しで盗撮班4人を見下した。
「こんな簡単な俺の命令も熟せない奴隷はいらねぇなぁ……?」
『仰るとおりです』
「返事だけはいいなぁ、オイ。だが犬ならワンだろ、そんなのもわかんねぇのか?」
『ワン』
「ハッ、よくやるぜ。ついでに犬らしく裸で校庭駆け回ってくるか? あ?」
『ワン(いってきます)』
「……おい、いちいち声揃えるのやめろ。気持ち悪ィな」
『ワン(すみませんでした)』
「………」
気持ち悪さが勝って嗜虐心が削がれたようで、どデカいため息をこぼしながらも、龍園は提出されたばかりの写真をジロジロ見聞する。
一枚指先で摘み上げて目前にかざすと、隅々まで見やってからゲェとばかりに舌を出した。
「ベタベタベタベタ、発情期のケモノかよコイツら」
摘み方と相まって完全に写真をばっちぃもの扱いしている。
───わかる。
盗撮班4人はここでも心を一つにして、内心で深く頷き同意を示していた。なんならちょっと外に漏れて普通に頷いていた。
「お前らもよくこんな写真ばっか集められんな。欲求不満ばっかかよ」
『!?!』
すかさずこっちも刺すのを忘れない
ついに耐えきれず同時に4人死んだ。
以降どんな理不尽なことを言われても(死んでいるため)無言の盗撮班4人を見下し、龍園はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
反抗でもすれば龍園得意のお話し合い()が始まるというのに、そんな素振りも兆候も見せない。
悦い鳴き声も聞こえなければ、時間の無駄だなと冷たく切り捨てる。
とはいえ面白くない時間を過ごしているという腹いせも兼ねて、綺麗に纏められていたはずのカップル写真集を乱雑に床へと放り捨てた。
「オイ、コイツらの写真は全部片付けとけ。もういらねぇよ」
死んでいても命令には従うようプログラムされている、すでに社畜の鑑・盗撮班4人は、命じられるがまませっせと床を片付け始める。
なお下を向いているため龍園からは見えなかったが、4人の目からは涙が溢れていた。
4人係で綺麗に片付けされていく教室を、荒らした
捧げられたカップル写真集には、どこもかしこも1人の男の面ばかりが写っている。
緩んで弛んで、まるで見ていられないカオだ。
腑抜け切った面は夢現つもわかっていないみたいで、無性にイラァ……とする。
ただ一言。
その男を称して述べるならば、『凡夫』。そう例えるに他に相応しい表現はない。
あまりに取るに足りない。目の前の現実さえ真実見えていないようなそのカオは、おそらく己が何をしなくともいつか崩れるだろうと予測した。
「チッ……」
つまらねぇ。思わず舌打ちがこぼれる。
拾い集めた写真を手に、『次どうすれば?』と指示待ちで忠犬よろしく突っ立っている盗撮班4人の尻を蹴り出して雑に教室から追い出すと、龍園はこれからについて思案に耽る。
カップル写真集以外は案外まともに撮れているのは確認しているので、まずはこれの精査だ。あとは情報班からDクラスに該当する話を全部絞り出して、のちに潰すのに役立てる。
……と、そこで視界の端に夕陽を反射してキラリと目に映るものがある。
龍園は顔を顰め、気乗りしないまま近寄って見るに、どうやら一枚の写真らしい。
「アイツら、一枚拾い忘れてんじゃねぇか」
写真も碌に集められねぇとは、盗撮班はありゃダメだな。編成し直すか。
常人とは思えない理不尽思考を振り翳しながら写真を見下ろして、無意識に眉を寄せている。
「……気持ち悪ィ」
───目が合う。
確かに互いの焦点は合っていないはずなのに、そう思わされる何か不気味な感覚があった。
ぬぼーっとした男の顔が一瞬得体の知れないモノに塗り替わる。
……が、見れば見るほど錯覚だと思い直した。もとい警戒するにはやはり、見た目も雰囲気も凡夫すぎるのだ。こいつは勝手に自滅する。
どうせ男に遮られて詳細の知り得ない女も、この男と似たり寄ったりなシロモノだろう。凡夫には凡夫。レベルの釣り合う同士が乳繰り合うと相場が決まっている。
冴えねぇ同士でお似合いだ、と嘲るように鼻を鳴らした。
こちらを静かに見つめる男の顔写真を上から踏みつけ、踏み躙ると、龍園は教室を後にする。
思考はとっくに切り替わり、次のターゲットにすると決めているクラスを虎視眈々と狙っている。
どっちも気づいてる深淵カップル
番外編
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茶柱センセ
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一之瀬
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堀北
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櫛田
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伊吹
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平田
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龍園