「すごく良い曲じゃん。PV格好いい」
何度もリピートする硝子。
「それは否定しないけど、記憶がないんだよね……」
「とりあえず、動画が入ってないか見てみようぜ」
健康診断が終わり、早速携帯を調べる事となった。
「あ、動画入ってる……気づかなかった」
「見る見る」
3人で顔を寄せ合ってみる。
注意喚起動画があった。
『勇者様。異能者を追う組織がいるから、異能をリアルで使っちゃダメだよ。もしも守れなかった場合、残念だけど命の保証はできない。まとめて捕まるのを避ける為に、私達に会っても、知らないふりをしてね』
「傑……これ、いつ撮った?」
「全然覚えがない……」
流石に夏油はゾッとする。まさかこの短い間に?
「撮った時間は……一昨日か。傑が寝てるはずの時間だな」
その言葉に、夏油は少しほっとする。
「とりあえず、寝てる間に観察してみるか」
「面倒を掛けてごめん」
「全然面倒じゃねーし」
「この曲好きだからよし」
そして、PVを色々見た。
「この狐獣人、この前禪院家で見た。甚爾いるし」
「はあ?」
そこに写っているのは、ロボットと踊る直哉だった。
甚爾に撫でられて、やはりトロ顔を晒していた。
獣人即堕ち撫で方講座なんて歌もある。
色々な獣人が蕩けていた。そこに夏油はいなかったが、それらをわらってもいられない。
夏油が歌って踊りながら人間から獣人に変身する動画もあったのだ。
そんなふうに、色々動画を繰り返し見たり記録するだけで時間は過ぎていった。
「このゲーム俺もしたい」
「なんか楽しそうだな」
「あっちょっとごめん時間だ」
携帯にアプリが唐突に出現し、夏油はそれをタップ……しようとする手を悟に止められる。
アプリの名はモンパレ。
アウトォォォォォ!
「傑、このアプリに覚えは?」
「モンパレだろ。遅れちゃう。早く始めないと」
「始めないと?」
「イベントに乗り遅れる」
「どんなイベント?」
「邪魔をしないでくれないか、悟」
「いいから答えろ。これはどんなゲーム?」
「異世界を救いに行くゲームだよ」
「それ、俺も出来る?」
「悟と硝子を巻き込めない!!!」
叫んで、叫んだことに自分でびっくりしているようだった。
「ごめん、私」
「私は巻き込まれたいんだよ」
アプリを硝子がタップした。硝子が消える。
「「硝子!!」」
そうして、2人もアプリを次々とタップしていった。
「うー……おはよ」
「なんで、悟と傑が……あー。思い出した。アプリタップしたんだ」
「それから何も覚えてない……。携帯見てみよ」
「アプリ?」
夏油が首を傾げる。
「覚えてない、か……。昨日、思いっきり操られてたぜ、お前」
「記憶にない……」
肩を下げる夏油。
携帯には3人の写真が沢山入っていた。
硝子はエルフのようだった。
人間なのは悟だけだ。
PVもしこたま撮っていた。なんだかとても楽しそうである。
なんと天内と黒井との写真もある。彼らもプレイヤーで、魂を本人の同意のもと回収したらしい。
メールで報告書も書かれていた。
「異世界の神による勇者召喚計画……?」
どうやら、異界の魂を世界シミュレーション装置に突っ込み、代わりに問題解決の方法を探してもらい、見つかった有益な情報は本物の異世界にフィードバック、というようなことをするらしい。
シミュレーション装置での死は現実への帰還。記憶は奪われるのと、携帯に保存する情報も検閲が入るので情報漏洩による混乱もない。唯一異能の問題があるが、異能を使うことへの忌避感を運営が埋め込んでくれるとのこと。
悟から自分への手紙があった。1人で読めとのことだが、当然3人で読む。
書かれていたのは注意点が三つ。
『携帯でその人のテーマの音楽を流しつつ歌って踊るとゲーム内の姿になれちゃうから絶対にしないように。
戻る時は寝るだけでオーケーだから絶対にしないように。絶対だぞ。
後、獣人を撫でるとマジでメロメロになるから、夏油を撫でてはいけません。絶対だぞ。絶対だぞ。
夏油、天内のことを気に病み過ぎて、闇堕ちしかけてるから、ぎゅうっと抱きしめたり、一緒に食事したり、しっかり食べさせて睡眠取らせたり、気にかけてやってくれ。間違ってもハイパーなでなでタイムはしてはダメだぞ! 絶対だぞ。絶対だぞ。ゲーム内でやり過ぎた時は怒る通り越して泣かれちゃったから殴られる程度に留めておけ』
夏油はジリっと距離を取った。
「ごめん!!」
「? な、何がだい?」
「何って、傑が泣くってよっぽどだろ。記憶にないけど、そこまでひどい事したなら謝らないとって。しかも、天内の件で弱ってる時にそんな酷いことしたんだろ。ごめん」
「そ、そう、だね。覚えてないけど、『許す』よ。でも、謝ったってことは、もうそんな酷い真似しないよな?」
「傑が嫌だって言ったらやめる。でもちょっと撫でてみたい。ちょっとだけ」
「……本当にちょっとだけだよ? それと、私は大丈夫だから、抱きしめたりとかはいいよ。理子ちゃん達も、向こうで元気みたいだしね」
「傑……」
「傑、記録の準備はばっちりだ。早速歌って踊ってくれ」
「は?」
「傑、がんばれ!」
悟と硝子は完全に見学モード。写メをかまえている。
「「ほら、歌って踊って」音楽データコレだと思う。夏油傑のテーマって題名だし」
「まず、携帯を構えるのをやめようか」
「報告しないとだし」
「上手くできるかわからないよ?」
そう言いながらも、音楽を流す。
夏油の中の何かのスイッチが入った。
手をかざして声を発する。
その度に、光がふわりと浮かんだ。
「「おおー!」」
踊る。歌う。その度に、狐火のような色とりどりの火が浮かぶ。
そしてセクシーポーズ!!ちょっとズボンを下げる。
耳と尻尾がぴょこんと生える。
魔法陣が浮かんだり、光ったり、風が吹いたり、光の蝶が出たり、見応えたっぷりの踊りだった。
踊り終わると同時、2人は拍手する。
「う、うわ。うわあああああああ」
夏油は真っ赤な顔を隠して震える。体が半分勝手に動いたらしい。
「じゃあ、次俺の番な。五条 悟のテーマ!! ……あれ? 体、勝手に動かないじゃん」
「傑の体に染み付いてんじゃね。ゲーム歴違うんだし」
「染みつくほど踊ってんのかよww」
「そんなわけないだろ!」
「じゃあ、他の歌と踊りができるかできないかやってみろよ」
踊れました。
「傑ダンス好きなの? アイドルになりたかった?」
「目立ちたがりだしな」
「濡れ衣だよ!!」
「後は抱きしめたり、食事をしたり、撫でたりか……」
「尻尾を抱きしめるのは私な」
硝子がモフッと抱きつく。
「ヒャアっ!?」
「ウケる感覚あるの? じゃあ俺は耳な」
サワサワ。
「ちょ、やだってば!」
2人はパッと手を離す。すると、夏油は一瞬好物を奪われたような表情を浮かべてしまう。
「え……」
「なんで残念そうなんだよ」
「モフってやろうか?」
手をわきわきとさせて夏油に近づく2人。
ちゃんと殴られる程度で済ませました。
お風呂の後には硝子に尻尾をドライヤーとブラッシングしてもらい、天国を見た夏油だった。