天衣無縫の巫女 レイム   作:神降ろし

10 / 21
更新です。


今話は繋ぎです。
今回もちょっと博麗のことに触れます。
後、邪神様の霊夢に対するスタンスが決まりましたことを報告させていただきます。
二択の内、やっぱりこっちの方が上手く書けそうだなという判断です。


それではどうぞ。


玖の段

「あ、アリが一生懸命餌を運んでら……大変そうだなー」

 

 

 空を溶かし込んだような淡い水色の髪を後ろで結った髪形。頬にある鳥の翼を模したタトゥー。そして赤と青のオッドアイ。そんな只ならぬ空気を身に纏うその青年は、思わず出てしまったと言いたげな、けれど欠片も「大変そうだ」とは思っていない声音で足元のアリを見下ろしていた。

 

 

「何をしている?さっさと来い、(しょう)

 

 

「あ、ハイ先生」

 

 

 翔───と呼ばれた青年は声のする方向へと振り向き返事をすると、足元にいるアリを踏み潰して己が先生と呼んだ男の乗るボートへと飛び乗った。

 

 

「ハハ!翼のない、地を這う虫なんて……いっそ踏み潰してやった方が幸せですよね!!」

 

 

 先ほどとは違い、今度は本気でそう思って言葉にした青年は、踏み潰したアリを嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆──────────────◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 梁山泊……それは武術を極めてしまったが故に、表側のスポーツ武道に馴染むことが出来なかった者たちが集う場所!!

 

 

「ええ─────ッ!?梁山泊をやめろ!?」

 

 

 其処に、ごく普通の高校一年生がいた。名を───白浜兼一!!

 

 

「つまりボクには才能がないから、もう梁山泊には置いておけないってことですか!?」

 

 

 そんな白浜少年は今、梁山泊をやめるよう師匠たちに迫られていた!!

 

 

 なぜそうなってしまったのかと言えば近頃、兼一の周辺に明らかにそこらの不良とは一線を画す武術家たちが顔を合わす度に襲い掛かってきたためである。

 その襲ってきた武術家たちは皆、兼一の持つ肩書きである『史上最強の弟子』の称号を求めて勝負を挑んできたのだ。それも、尋常なものではない───殺し合いとして。

 梁山泊の師匠一同は、その襲撃を“闇”によるものだと確信している。故に、これ以上一般人である兼一を巻き込むべきではないと思い、こうして梁山泊をやめるよう迫っていたのだ。

 尚、そのために打ったサル芝居は兼一にあっさり見破られてしまった為、正直なところを渋々……(一部だけ)告げた。しかし──────

 

 

「あはは。みんないやだなぁ。ボクがその程度のことで───「はい、わかりました」と素直にやめるとでも思ったんですか!?たとえ破門されたってボクは梁山泊(ここ)を動きませんよ!!

 

 

 兼一の覚悟はもうすでに決まっていた。

 闇の襲撃として遣わされた一人の少女───そのあまりにも悲痛な覚悟で以て自身を殺しに来た彼女を思えば、もう二度とそんなことを覚悟させてしまうような連中に対して屈することは出来ない。そう……兼一は決意していた。

 元々、彼は誰もが見て見ぬふりをする悪を片っ端から倒すために武術家の道へと入ったのだから、この返答は決まっていたようなものである。そう、縁側に腰掛けながらその様子を黙って窺っていた霊夢は思った。その隣で立ち聞きしている美羽もやはりと確信していた様子だ。

 その言葉に、秋雨は「流石は我等の弟子!」と得意げになり、続いて逆鬼も嬉しそうにし、そして長老はこれで何の憂いもないと安心して兼一へ告げた。

 

 

「うむ、兼ちゃんはもう……自分の死に場所は自分で決められる男になったということじゃな!!」

 

 

「え?死?」

 

 

「一時はどうなるかと思ったが、本人に死の覚悟があると聞いて安心しました」

 

 

「そうね。まあ人間十六年も生きれば十分ね♪」

 

 

「え?……死?」

 

 

 兼一は目が点になった。この師匠たちは何を言っているのだろうと。自分が覚悟したのは闇と戦い抜く覚悟であって、死ぬ覚悟ではなかった筈だが…………。そんな風に混乱している兼一へ、長老が闇の現在の狙いを告げる。

 

 

「闇は己たちの弟子に史上最強の称号を与える為ならば殺人も厭わぬ。恐らく……奴らの()()()()()の目標は兼ちゃん、そなたの首じゃ!!

 

 

 ドドンッ!!!───という文字が見えてきそうな程の迫力を見せる長老を含む師匠たちの姿に、兼一は今度こそ真っ白に染まった。まさか……まさかまさか、敵の狙いが自分だとは思っていなかったのだ。

 何だ、何がいけなかった。兼一の脳内がこれまでの死闘の日々を振り返った。ただ自分は見て見ぬふりをせずに、振り掛かる火の粉を払っていき、嘗ての因縁に決着をつけただけの筈。凡そ生き死にを繰り返しながらの修行の日々以外、兼一にとって記憶を保っていられたものはこれくらいしかない。ないのだ。

 

 

「因みに、このままのペースで修行をしても兼一君の実力では最長でも四か月で死亡することが判明している」

 

 

 何やら不吉なことを言われているが、兼一の耳はその言葉を右から左へと聞き流すのみ。ソレが脳内へと到達することはなかった。

 

 

「秋雨のカオス統計学はよく当たるからのう……。で、どのくらい修行の量を増やせば闇の精鋭相手に生き延びられるのじゃ?」

 

 

「如何せん、相手は質がいいのでね………霊夢の見せた全身の脱力と呼吸を不完全ながらにも使って見せたのを加味すると、ざっとこれくらいは理論上可能かと」

 

 

 そう告げて弾き出された結果を用紙にまとめ長老に手渡す秋雨。

 その時になって漸く正気に戻ってしまった兼一は果たして運が良いのか悪いのか。ちらっと長老が見つめる用紙を脇から覗こうとするも─────その結果に絶望した。

 

 

「ほう……!三倍がいいところじゃと思っておったが……喜べ兼ちゃん、()()()()()()()()()()()()()()()そうじゃ!!」

 

 

「いやぁぁぁぁあ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ッ !!!!!!

 

 

 ─────こうして、『梁山泊一番弟子改造計画・第一弾』が当人の覚悟足らずに始まったのである。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆──────────────◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太平洋を航行する、タイタニック号を思わせる豪華客船。

 船内ではさぞや各国を代表する富豪や著名人が楽しくやっているのだろうと、庶民ならば嫉妬心を灯すような船だが、この船が客船ではなく個人の所有物であることを知れば腰が抜けてしまうかもしれない。

 この船の持ち主は今、拳聖を名乗っている緒方一神斎。若輩とはいえ押しも押されぬ闇の特A級の達人であれば、この程度の船を一隻や二隻所有するのも大したことではないのだろう。梁山泊とはえらい違いである。

 緒方は最後に来た同朋を用意した席に座らせると円の中央に立ち、自身を囲うようにして並ぶ八つのモニターに目を通す。

 そして緒方が手をあげて部下に合図すると、八つの内七つのモニターがパッと起動し、七つのモニターに世界各国に散らばる“彼等”を映し出した。

 

 

「便利なものですな。こうして世界各国に散らばる闇の同志たちとこうも簡単に会うことが出来るのですから」

 

 

『前置きはいい。急に要請を出し、我等を集めたのだ。何かあるのだろう、拳聖』

 

 

 『月』のエンブレムが映し出されたモニターから、突き放すような鋭い声が緒方に届く。緒方はその言葉に肩をすくめるが、「まあまあ、もうちょっと付き合ってくださいよ。私とて本当なら独り占めしたい内容なんですから」と笑ってその催促を拒否する。それに納得はしていないが、一応聞き届けることにしたのか『月』のエンブレムの声の主は押し黙った。それを見届けた緒方は、本当ならば言いたくないと勿体ぶる仕草を見せるも、それはそれで危険だと少しの葛藤を覚えつつ、自身を落ち着けるため息を一つ吐くと、先程まで浮かべていた笑みを消して告げる。

 

 

「今代の博麗が見つかりました」

 

 

 瞬間───発言した緒方を除く全員の息を呑む音が響いた。一瞬の空白。その後に満ちるは、ドス黒いまでの気の奔流。モニター越しからでさえ目に見えて分かる気の圧に、付き添いとして来ていた───あの翔と呼ばれた青年は冷や汗が頬を伝うのを感じた。

 

 

「(こっわ……先生方がここまで闘気をむき出しにするとか、その博麗ってのはそんなに凄いのか?)」

 

 

「翔」

 

 

「!はい、先生」

 

 

「博麗について気になるか」

 

 

「はい……先生方がここまでやる気になるってどんな奴なのかなって…」

 

 

 翔の疑問は尤もであると、彼が先生と呼び慕う九人の闇の達人の誰もが口を開かぬ中、『水』のエンブレムのモニターに映る人物が口火を切った。

 

 

『博麗………或いは活人にして殺人、或いは兇拳にして正拳、或いはその何れにも属さず、自らのみを行動指針とする業深き者共のことじゃ』

 

 

「だが、その実力は本物だと聞いている」

 

 

 唯一モニター越しではなく、直接翔へと語る『空』のエンブレムを持つ男が続く。

 

 

『その歴史は無敵超人と同じく、戦国の世にまで遡るのでしたかな』

 

 

 『無』のエンブレムを持つ達人が確かめるように呟く。

 

 

『カカカッ!!博麗は武器組頭領のじっさまと死合うて行方を晦ましたと聞いておるわいのう。アレは間違いであったか?』

 

 

 闇の達人たちの中でも一際強大な気を持つ『王』のエンブレムの達人が緒方へ向けてギョロリと視線を向ける。緒方はそれに淀みなく答えた。

 

 

「いえいえ、それは間違いないですよ。()()()()()は間違いなく消息を絶ちましたから。私が会ったのは()()()()()です」

 

 

『ほう、()()()()()()かわいのう……』

 

 

『当代の博麗に会っただと?』

 

 

「ええ、彼女は間違いなく博麗と名乗りましたから。年の頃は我等の弟子と同程度であると思われます」

 

 

『なんと!!我々の弟子と同じ年齢の子供だと!?それも女!!』

 

 

『それならば何故連れて来なかったのじゃ。未熟な女子と言えど、その者は博麗であったのじゃろう?ならば()()()()に引き込むのもたやすかろうに』

 

 

 モニターに映る誰もが口々に驚愕の声を上げる中、ただ一人冷静に何故連れてこなかったのかを問いただす『水』のエンブレムを持つ達人。一方、翔は口々に告げられる博麗という存在に興味を持ち、そして当代の博麗が自身と同じ年齢であるという情報に更に惹かれた。あと、女の子だという情報にも。 

 緒方はそう聞かれると思っていたと笑みを浮かべるも、すぐにそれは悔し気な歯軋りへと変わった。

 

 

「要因は二つあります。一つは、もうすでにあの子を梁山泊が囲っていたこと。そしてもう一つは、あの子───当代の博麗の底を計り切れなかったことにあります」

 

 

『計り切れなかった、じゃと?』

 

 

『それは本当なのか、拳聖』

 

 

『………』

 

 

 困惑の言葉を口にしたのは、『水』と『月』の達人。そしてそれを聞いた瞬間から時が止まってしまったかのように『王』は不気味に黙し、それ以外の五人も言葉にせずとも困惑を露わにしていた。

 翔もまた、緒方の発言に戦慄を隠せない。己が敬愛している先生方の内、最も弟子を多く取り、その弟子たちの可能性を見出してきた緒方をして、その弟子級であろう少女の才能の底を計り切ることが出来なかったと言っているのだから。同朋たちも、緒方の素質を見抜く眼力を信用しているが故に、その驚きは大きなものとなった。

 

 

「現時点の実力は、達人級には未だ到達してはいないでしょう。しかしあの立ち振る舞い、技の練度、一挙手一投足の全てに至るまで隙が無い。私の本気の気当たりにもまるで気にした様子がない、完璧な自然体でしたしね。なによりも………彼女自身の気の総量は既に特A級の達人にさえ匹敵……いや、或いは凌ぐ程にまで高まっていましたよ」

 

 

 緒方自身、無意識であるのであろう。当代の博麗である少女のことを言葉にする度に、彼自身の気が高まり溢れ出ようとしていた。そして緒方のその様を見れば、どれほど信じ難くともそれが嘘偽りのない真実なのだと理解させられる。

 今度という今度こそ、闇の達人たちは黙してしまった。

 

 

『蓋世之才……やっと現れおったわいのう……』

 

 

 たった一人───『王』のエンブレムを持つ男を除いて。

 その言葉に反応したのは三人。『水』と『無』と、そして未だ達人に至らない翔である。その言葉を疑問に思う翔だったが、それを問うことはしなかった。いや、出来なかった。

 『王』のエンブレムを持つ男の纏う気の神々しさに、誰もが言葉を出すことが出来なかったのだ。『王』という人間を少しでも知っている者であれば、この神々しい気を纏う者が『王』本人であるとはとても信じられないだろう。現に、『王』ともう一人を除く全員が、彼の見せたことのない雰囲気に呑まれてしまっていた。───まるで、そこに“神”が降臨したかのように。

 辛うじて、普段と様子の違う『王』に呑まれなかったのは、彼と同じく“兇気”をその身に宿す緒方のみ。されど緒方も困惑はしていたのか、驚いた表情をしながらも問いを投げかけた。

 

 

「蓋世之才とは………どういう意味で?」

 

 

『ん?なんじゃ、知らんのか。……まあ良いわいのう。蓋世之才───字の通り、“一つの世を覆う程の才覚を持つ者”を指す言葉だわいのう。中国由来の言葉じゃが、まあ妥当な評価よな』

 

 

『神童では、ないのだな?』

 

 

『カカカッ!!その程度の者なんぞ、比較にもならんわいのう。たかが()()()()()()()()()()()しか持たない者が、()()()()()()を持つ者と比べること自体愚かしいわ』

 

 

 その存在を知っているかのように話す『王』に、他の者は二の句を継げない。その様を嗤いながら『王』は言葉を続ける。

 

 

『そういった者達の中で、貴様らも知っている存在がいるわいのう。風林寺のじっさまやら、武器組頭領のじっさまやら───』

 

 

 ──────この、我とかのう

 

 

 そう言われ、彼らは漸く実感する。この場にも一人、彼自身が言い放った蓋世之才を持ち、幾多の戦乱を越え、今もなお闇の頂点に君臨する武の神がいるということを。

 神に選ばれし才能の持ち主が、数多の戦乱を乗り越える事でのみ至る事ができる、究極の存在───超人がいることを。

 そして改めて戦慄する。この傲岸不遜な『王』に、自身と同じ才を持つと言わしめた当代の博麗の器に。

 

 

『それよりもだ………若造、今代の博麗の名は何と言う。姓だけがわかっとるわけでもあるまい』

 

 

「っはは、そうでした。すっかり忘れてましたよ。………彼女の名は───博麗霊夢。未だ活人にも殺人にも道を定めていない、未完の大器ですよ」

 

 

 闇の達人一同は、その言葉に目を光らせる。道が定まっていないと、確かに緒方はそう言った。

 今は梁山泊に囲われているとは言え、それでも未だあちらに染まっていないとなれば、考えることは皆同じであった。

 翔もまた、今の己自身を完全に上回ると断言された博麗の少女に思いを馳せた。一体どんな子なのだろうと。

 

 

 そして、『王』のエンブレムを持つ仮面の男は、同朋であろう闇の達人たちを()()()()()()()眺めていた。

 

 

 

 

 

 




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