天衣無縫の巫女 レイム 作:神降ろし
今回も導入です。
次回からようやくDオブDの緒戦スタートになると思われますのでご了承ください。
それではどうぞ。
「やれやれ………困った友情じゃのう」
そう溜息と共に呆れを零す長老の眼前に佇むは、兼一の悪友にして今まで特に出番らしい出番もなかった新島率いる新白連合の者たちであった。
どうやら梁山泊の師匠たちの会話を盗み聞き、それを組織内部で拡散したようだ。
盗み聞きした内容は今ここに集まっている面子から察するに、まず間違いなく“DオブD”のことだろう。
そんな船の出航を止める彼等に対し、既に赤兎馬二号に乗り込み景色を眺めていた霊夢は面倒臭がりながらも振り返り、一人一人確かめるように直視する。そしてそれを終えた霊夢は、つまらないと言いたげに溜息を零した。
「駄目ね。時間の無駄だからさっさと行きましょ」
「なにぃ!?」
霊夢の発言に怪訝な顔を見せる新島。そう言えば存在だけは兼一から聞いてはいたが、今までついぞ出会うことのなかった梁山泊所属の少女がいたことを思い出した。今さっき、自分たちに再び背を向けた少女が件の少女かと思い至った新島は、自慢の観察眼を発揮しながら先の発言の真意を問い質す。
「おいおい、時間の無駄だぁ? それは一体どういう意味だ?(何だ? ……
「あーー? 堂々と
『…………ッ!!?』
その言葉を言い放つと共に、霊夢は再度視線を新島に向ける。瞬間─────視線を向けられた新島は、時間が止まってしまったかのように硬直した。それは新島だけではなく、新白連合の全員が漏れなくそうであった。
霊夢の視線の先にいない兼一はそんな彼等に困惑してしまう。霊夢に視線を向けられた連合の皆が、まるでその場に縫い留められたかのように急に静止してしまったからだ。
霊夢の視線の先─────新白連合の全員が陥った感覚。それは先に寄越された、確かめるような視線とは違う─────そこら辺の石ころでも見るかのような、どうでも良さげな彼女の視線に身体が凍りついてしまったのだ。
武田はそれが気当たりではないことを瞬時に理解した。だが、同時に困惑もしていた。
気当たりであれば、兼一の師匠たちと同じ“特A級の達人”である自身の師から毎日のように浴びせられているおかげで、ある程度の耐性が付いている。
だが、これは違う。どうしようもない程大きく、重く、そして極めて異様な感覚であった。今までの経験で最も近しい感覚で言うならば、これはそう、自身が一度折れてしまった時の絶望と似たような─────
「秋雨君、船を出せッ!!」
瞬間─────長老の叫び声に新島たちは正気に戻るも、一足遅かった。そして長老がそんな彼らの一瞬の隙を見逃すはずもない。
長老は彼らが静止している内に兼一の服を掴み、舵を握っている秋雨へ投げ飛ばす。兼一を受け取った秋雨はレバーを引き、動力部にいるアパチャイと逆鬼へと指令を送った。
「突撃速度!!!」
そして静止していた赤兎馬二号は急加速で発進する。新島たちが駆け出すも時すでに遅く、船はもう沖へと離れてしまっていた。
届かぬ領域に行ってしまった船に手を伸ばしながらも掴む場を失ってしまった新島たちは、自身の掌や体を見下ろしながら、先程までの感覚を振り返っていた。
一体あれは何だったのか───────────────
DオブDの会場であるデスパー島─────その島にある、要塞のような出で立ちの巨大な建築物。その更に内部にある、教会のような荘厳な雰囲気を漂わせた玉座の間。
その玉座に座るは、この島の支配者であるフォルトナであろう人物。更にはDオブDを仕切るために招かれた、闇の無手組の頂点たる“一影九拳”が一人─────ディエゴ・カーロと闇の弟子集団“YOMI”の二人もいた。
「しかしまさか、闇の九拳の一人である貴方が態々取り仕切ってくださるとは思わんかったよ。お陰で今からワクワクして夜も眠れない始末………何せこれで今回の“DオブD”は最高の出来になること間違いなしじゃからのう……」
「ハハ───ッハッハッ!! トーゼンだ、デスパー島の主、フォルトナ殿!! 私こそが真のエンターテイナー!! 明日、観客は一人残らずワクワクさせられる………この“笑う鋼拳”ディエゴ・カーロによって!!」
異名通り、『笑顔』のマスクを被った覆面レスラー、ディエゴ・カーロが愉快げに言い放つ。
闇の大義や武術家の主義など二の次で、何よりも“エンターテイメント”を重視する彼は、一影九拳屈指のトラブルメイカーである。尤も、九拳全員が一癖どころか最低でも三癖以上持っている者しかいないため、それはお互い様であるのだが。
「それは上々………それはそうと、わしを驚かせるゲストを招待したそうじゃないか。一体誰かね?」
満足げに頷いたフォルトナは、今思い出したのかディエゴが招待状を送ったという人物への興味を口にする。その問いにディエゴはピタッと動きを止め、そしてニィと口元を釣り上げて、クックックと歯を軋ませて笑う。
「闇を差し置いて最強を名乗る愚かな者共………その名は梁山泊!! そして、闇が今最も注目を向けている時の人───博麗!!」
会場であるデスパー島に着いて早々、梁山泊一行を出迎えたのは大きな正門だった。その出で立ちは、長老が地獄の門と表現するほど悪趣味極まりない装飾をしていた。
兼一は敵の本拠地だということを重く受け止め、もうこの時点で戦いは始まっているモノだと捉えていた。その為、緊張感と警戒心は普段の五割増し。敵地にしては割と低いと受け止めるべきか、それとも五割程度になってしまう程、普段の緊張感が高いのか………兼一に限って言えば後者だろう。
正門を潜り抜けると、兼一たちを迎えたのは美女たちが寛ぐ巨大なプールだった。剣星がその光景を目にした瞬間、すぐさま暴走───興奮状態になり、制止した門番を巻き込みながら門の内部へと飛び込んで行ってしまう。
そんな剣星を放って長老は招待状を全員分差し出し、一行は特別ルームにまで案内されることとなった。
それからも終始警戒心を露わにする兼一だったが、それを余所に豪勢なサービスを満喫する師匠たち。あのデタラメな師匠たちはともかく、普段通りマイペースな霊夢と美羽を見て、兼一はもしやおかしいのは自分の方なのではと疑い始めていた。
部屋に着いて正装に着替えた後、皆で集まった場所はDオブDの前夜祭が行われるという大きなパーティー会場であった。
裏社会でも最も有名な大会の一つだけあって、その前夜祭もまた華やかなものだ。
選手である参加者を除けば、列席者には男女共に仮面で顔を隠した者が多く、さながら仮面舞踏会といった体を成している。
まるで中世の貴族社会にタイムスリップしたかのようなパーティー会場にて、仮面をつけず極普通の格好をした極普通の少年が一人。言うまでもなく兼一である。
DオブDへ招待してきたのは闇。となれば、DオブDそのものが確実に罠。パーティーの食事に毒でも混入されているかもしれない。
兼一は悪く言えば小市民根性、良く言えばまともな危機感に従い、警戒心を五割から九割に増加させていた。だと言うのに師匠たちはまるで普段と変わりなく、むしろ普段より悪乗りさえしているようにも見えた。
「まったく………少しは警戒心を持ってくださいよ。仮面舞踏会なんて……人様に顔向け出来ない人でも紛れ込んでるかもしれないじゃないですか」
「お、兼ちゃんも勘が鋭くなってきとるのう。感心感心」
「ゑ?」
「いやまったく。各国の大富豪が集まったと言えば聞こえはいいが、その実ルール無視の惨い戦いが見たくて集まった………マフィアや武器商人、麻薬カルテルのボスと言った碌でもない連中ばかりだよ」
秋雨の言葉をしっかり最後まで聞き届けた兼一は、自身の体が頭から真っ白に染まっていくことを感じながら、目を点にしたまま硬直していた。(イメージではあるが)その後、サラサラと自身の体が砂のように崩れていくのも感じた。兼一の小市民的精神は極限の緊張感に置かれすぎたせいで、もう限界に達していた。
美羽が自分が側にいると必死に慰めるも、兼一はあちら側に行ったまま戻ってこない。そんな二人を眺めながら、兼一が普段目にしている姿とは違い、巫女服にスリットが入った袴をはいた霊夢は一人、壁の柱に腕を組んで寄り掛かっていた。その近くでは、しぐれが刀を持ちながら待機している。
「相変わらずねぇ………」
「まったく……だ。兼一は度胸が足りな…い」
「それもだけど、警戒心の割に判断が遅すぎるのもねぇ。ま、そこが飼いならされた小動物みたいで気に入ってるんでしょ、美羽もしぐれも」
「むむむ……それほどでもある…なぁ」
マイペースなしぐれと霊夢は普段あまり会話をしない。が、梁山泊の師匠達の中で霊夢と最も相性が良いのがしぐれであった。その為、普段は会話をせずとも側にいることは何かと多い。双方ともに互いに何か頼み事があれば迷わず引き受けるという………二人の性質を知る者であれば、随分と仲が良いのだなと断定するくらいには相性が良いのである。それは霊夢が梁山泊を訪れる前、秋雨を筆頭として神社に訪れていた頃から判明していたことだ。因みにそれに関して、参拝数に比例して霊夢との交流が最も多かった剣星がちょっとショックを受けていたのは全くの余談である。
そんなことをしている間に、今回のDオブDのエグゼクティブ・プロデューサーであるディエゴの紹介があったのだが、二人ともまるで興味なし。完全に無視をしながら小皿に料理を取って食べていた。
そんな時──────────
『し~~~~~~んぱ~~~~~~~くッ!!!』
突如、不快な声と共に巨大スクリーンが切り替わり、これまた不快な顔のマークが現れた。霊夢は目を鋭くさせてそのスクリーンを見つめる。そして兼一の方に一瞬目線を送ってその様子を窺うも、彼もまたこの事態に困惑している様子だったこともあり、すぐにスクリーンへと目線を戻した。どうやら彼らは自力でここに辿り着いたらしい。
秋雨らも、あまりに無謀な行動をした彼等に呆れ混じりの苦言を呟いていた。目的は既に分かっている。だからこそ無謀なのだ。
『我々新白連合は『DオブD』参加を要求する!!!』
兼一の悪友である新島率いる新白連合が、裏の闘技大会であるDオブDに殴り込んできた。
その後の顛末はある意味では予想外であり、またある意味では予想通り─────新白連合のDオブD参戦が認められることとなった。そして、そんな無茶をした代償がどんなものになるのかを当人たちは分かっていない。だが、命懸けのものになるのは間違いないだろう。結局、霊夢の制止も無駄に終わったわけであるが、霊夢は最早どうでもいいことだと彼らに対する興味を失っていた。その為、霊夢の口から彼等を非難する言葉が出るどころか、一目会いに行くことすらなかった。
──────────彼らと再び会ったところで、霊夢が言うべき言葉は何一つ変わらないだろうから。
こうしてDオブDの前夜祭は終わり、そして朝日と共に大会の始まりが告げられたのであった─────。
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