天衣無縫の巫女 レイム 作:神降ろし
新白連合の緒戦は原作と代り映えしないのでバッサリカットしております。
今回はダイジェストみたいな感じですのでご了承ください。
次回にようやく霊夢を含む梁山泊チームの戦闘が始まります。
それではどうぞ。
DオブD───大会当日。
兼一は用意された部屋で、鎖帷子、バンテージ、カンフーパンツ、道着を羽織って帯を締め、支度を終えると気合を入れるために両手で自身の頬を叩いた。
本当はすごく怖い。今からでも日本に戻れるのならば戻りたいくらいだ。けれど、その恐怖を感じる度に、“闇”の魔の手が自分以外の誰かに迫るのだということを思い起こさせる。それだけは駄目だ。
自分にとってかけがえのない人たちに危険が迫るのだけは何を置いても許せない。だから、兼一は拳を握るのだ。
誰もが見て見ぬふりをする悪を片っ端から倒し、大切な誰かを守り抜くために─────。
「よしッ!! 行こう!!」
兼一は信念を抱き、戦いの場へと自らの足で踏み入るのであった。
「おせぇぞ!! 兼一!!」
心強い仲間たちと共に─────。
古代ローマのコロッセオを模した闘技場─────その内部の廊下を歩く新白連合の者たちと、その更に後方にいる梁山泊の達人たち。ただ歩いているだけであるにもかかわらず、彼等が纏う気の強大さには警備をしている衛兵らも思わず冷や汗をかいた。勿論、圧巻のオーラを纏っているのは新白連合の方ではなく、梁山泊の方である。だが、連合の最前方─────中央にいる三人の内、左側にいる少女も後方の達人たちと似たような雰囲気を纏っていた。ただ一人異質な気を纏うその少女こそ、言うまでもなく博麗霊夢である。霊夢は極々自然に歩いているだけ─────だと言うのに、連合の者たちでさえ思わず距離を置いてしまう程、その雰囲気は別格だった。
「ただ歩いているだけなのに空気が重いじゃなーい………兼一君、どうにかできないの、アレ」
そう苦笑いしながら、兼一にひそひそと話しかける武田。目を合わせないようにしながらもさりげなく視線を向け、兼一にどうにかする方法は無いかと尋ねたが、兼一は「あれは何も考えず、ボーっとしているだけなので一番無害な状態なんですよ。梁山泊では日常的に見る霊夢さんです」と、自信満々に大丈夫と答えるのみ。兼一の発言に同意するように美羽も笑って頷いたのを見て、武田を含む連合の全員は「
気怠げな瞳に真っ白な肌。風に揺れて靡く長い濡羽色の髪。純正の日本人特有である顔立ちは非常に整っており、十人中十人が断言するほどの紛うことなき美少女である。─────ではなく、こうしてぶしつけな視線が複数向けられているにもかかわらず、霊夢はまったくの無反応。兼一の言ったことが正しいのならば、今の霊夢は確かに無害だろう。港の時の彼女と比べれば、だが……。あの時の霊夢であれば、新島に不愉快な視線を向けられたという理由だけで、相手をへし折ってしまう程の何かをこちらに向けてくるはずだ。ソレと比べて今の彼女のなんと大人しいことか。博麗霊夢という少女を改めて冷静に見てみれば、とても武術をやっているようには見えないほど可憐な美少女だった。
「あ、そろそろリングがある場所に着きますよ」
兼一の声に連合の者たちはハッとなって身を引き締める。そして屋内からコロッセオの中央部に向けて歩き出し、視界が晴れた彼等が目にしたのは─────視界360度、全方位をぐるっと囲む、視界が切れることのない程の観客で埋め尽くされた闘技場であった。闘技場は四方八方から木霊する大歓声によって包まれている。そんな、テレビ中継でしか見たことのないような場所に自分たちがいると認識した瞬間─────武田を筆頭に連合の殆どの人間が空気に呑まれた。
「す、すこ~し、普通の格闘技場よりも規模が大きいね………」
「ううむ……うむ~~~うおお───ッ!! 呑まれねぇ……呑まれねぇぞ!!」
「大丈夫ですか? 武田さん、宇喜田さん」
「あれぇ~~~!? 何で兼一君大丈夫なのッ!? 一番呑まれてると思ったのに!!」
「えーーっと………なんていうか、今ここで死ぬわけじゃないから大丈夫かなって。緊張が三周くらいしたら落ち着いちゃいました。てへ」
「ただの開き直りじゃねえか!!」
結果、連合の誰もがリングへの一歩を踏み出せず、半ば混乱状態に陥っていた。そんな彼らを尻目に、霊夢と美羽は兼一の側を横切ると、いつもの雰囲気のままリングへ続く階段を下りて行く。
それを見た兼一が慌てて二人に続いたのを皮切りに、四番手に武田、五番手にフレイヤ、キサラと続々と足を進めて行った。その様子を注意深く観察する全チーム。その視線の意味は形だけの軽視か、或いは用心深さ故の警戒か。どちらにせよ、良くも悪くも注目の的であるのは間違いない。無論─────とある一人に関しては、完全なる警戒故の観察だろうが。
「あれが今代の博麗…………一人では荷が重いか……」
大会に参加する二つの中国拳法チームの内の一つにして、かつて剣星が取り仕切っていた鳳凰武侠連盟とは不倶戴天の組織、黒虎白龍門会の先兵の一人─────太極拳の使い手、
『新白連合と梁山泊チーム、少々手間取ったようだが、ようやく入場だ!! これで、DオブD参加16チーム全てが揃ったぁ!!』
司会の言う通り、コロッセオの中央には十六の列が並び揃っている。梁山泊チームの列の先頭は兼一、続いて美羽、最後に霊夢の順で並んでいた。
そんな大舞台にもかかわらず、霊夢は大きな欠伸を一つして明後日の方向を見ながら早く終わらないかなと面倒臭がっていた。美羽が後ろを振り向いて霊夢に注意を促すも、まったく聞く耳を持っていない。兼一はと言えば、いやに落ち着き払っている自分自身に不気味がっており、美羽と霊夢のいつものじゃれ合いを見るどころではなかった。この大会で最も連携の取れてないチームは間違いなく彼らだろう。
『さあ、ここで今回のエグゼクティブ・プロデューサー、一影九拳が一人、ディエゴ・カーロ様からの開会宣言だ―――ッ!!』
VIP室から姿を現したディエゴはマイクを手に持ち、選手たちを見下ろす形でDオブDの開始を宣言する。
「これよりデスパレート・ファイト・オブ・ディサイプル………“DオブD”を開催する!!!」
ディエゴの宣言を以て、裏の強者たちがその力を振るう異種格闘技大会─────“DオブD”が始まったのであった。
大会開始における対戦カードは、幸運か
闇の一影九拳が取り仕切る大会に乱入してきた意気込みは天晴れなれど、所詮は日本の学生の集まり。殺しのプロである特殊部隊チームに勝てるはずがない。会場を血で沸かせるための生け贄、ただの殺戮劇になるだろう─────という観客の予想は見事に外れ、蓋を開けてみれば新白連合の快勝と言っていい結果に終わった。
J隊員は武田に一発場外KOされ、三人の下っ端隊員も場外乱闘であっさりトールに薙ぎ倒され、リーダー格のK隊長はフレイヤに敗れ、新白連合の損害は下っ端の水沼少年のみ。
兼一は自身の知らぬ間に急激に成長していた武田たちに衝撃を受け、同時にやはり彼らは凄い人たちだったのだと改めて尊敬の念を抱いた。
新白連合の全員が一皮剥けた姿を見せた第一回戦が終わり、五分の休憩を挟んだ後に第二回戦が始まる。─────が、その対戦相手は梁山泊一行の度肝を抜く存在だった。霊夢はデスパー島を訪れるより前、梁山泊で荷造りをしていた時に感じた嫌な予感はこれだったのかと納得すると同時に、呆れを含んだ溜息を零した。
一方のチームである『キックボクシング・ハリケーンズ』の方は別にいいのだ。一人、矢鱈と強大な気を隠している反則者がいるが、そんなものは彼らの対戦相手を見てしまえば些細なことでしかない。
そう、問題はもう一方のチーム─────いや、個人だ。
『キックボクシング・ハリケーンズ、カイエン大杉選手対………謎の青年、我流X!!!』
「ほっほっ。お手柔らかに頼むわい」
申し訳程度に縁日で売っているような仮面のライダー的なお面を着けてはいるが、その下から覗く立派に蓄えた髭は隠しようがない。何より金髪ロングで筋肉隆々の巨漢の男なんぞ、兼一たちが知る限り一人しかいない。我流Xなどとふざけた名前を名乗ってはいるが、どこからどう見ても『無敵超人』風林寺 隼人その人だった。
それに対して断固抗議する姿勢を見せる兼一だったが、ディエゴはこれを完全スルー。非常にうるさい笑い声で兼一の言葉をシャットアウトし、強引に第二回戦を始めたのである。
尚、カイエン選手は試合開始後、何もすることができず約十一秒で降参してしまった。観客には何があったのか分からなかったため、ハイパースロー再生の動画を流すことで、長老………我流Xが超高速足払いにより相手を転ばせ続けていたという出鱈目な強さが、彼らにもようやく理解できた。
これで一勝となった我流Xは、突如相手チームに下らん芝居はよせと告げる。何のことかと困惑を見せる相手チームだったが、梁山泊の達人たちはその内の一人へと鋭い視線を向けていた。それに目ざとく気づいていた霊夢も無言で美羽と兼一の肩を掴んで意識を向けさせ、自身が違和感を覚えた人物へと二人にも分かるよう指を向ける。
我流Xもまた、真っ直ぐに指を差してその人物へと告げる。
「さっさとリングに上がるのじゃ!! キックの魔獣………呂塞 五郎兵衛!!」
彼が指し示した人物は、キックボクシングチームの一人であるスキンヘッドの優男であった。ともすればチームの中でも最も影が薄く、最も弱そうに見えるその男。だが、大衆は騙せても真の達人の目は騙せない。
男は五十代のキックの魔獣と呼ばれる“達人級”の武人だったのだ。兼一と美羽はそんな格上がこの大会に紛れ込んでいたことに驚愕する。霊夢は冷静に男の気の流れを読み取るが、数秒後の男の結末が見えてしまった為か、すぐに我流Xを名乗る長老の方へと視点を戻した。
大方、DオブDの優勝賞金である1000万ドルに目が眩んで紛れ込んだのだろう。だが、無敵超人の首を取れるのならばそれの百倍の価値があると無謀にも宣い、弟子級程度では数回殺されて余りある連続跳び膝蹴りを我流Xに向けて繰り出した。
─────が、今回ばかりは相手が悪かった。彼に挑むのならば、“只の達人級”程度では赤子も同然。せめて“特A級の達人”くらいの実力でなければ、戦いの舞台にすら上がれないだろう。
「違う!! 百万倍じゃ!!」
このように─────デコピン一発でリングを大きく越えて吹き飛ばされたことが、その証左だ。
男はホームランさながらフォルトナ達のいる主催者席まで吹き飛ばされ、それを立ち上がったディエゴがあっさりキャッチする。
「ほれ見ろ! やはり達人級であったではないか、マスクマン!」
「フフ、失礼失礼。お陰で良いものが見れましたよ♪」
その会話で兼一たちは長老が参戦した理由を察する。出場受付の時点で達人級が紛れ込んでいたと気づいた長老は、それを排除するためにあえて自分も参加したのだと。
納得した様子の美羽と兼一に対し、霊夢はどこまでも用心深かった。だからこそ彼女は
そして、続く第三回戦──────────とうとう兼一たち梁山泊チームの出番が来てしまった。
相手となるのは、剣星関連で一方的な因縁を持たれている黒虎白龍門会の先兵たち─────中国三大武術チーム。
彼等が身に纏う気は、兼一がこれまで対峙した“闇”の武術家たちと似た、暗く鋭い殺意が乗ったもの。
兼一は警戒しながらも闘気を漲らせ、それを見て安心した美羽もグローブを両手に装着しつつ自身の体内武術レベルを引き上げた。
「ふぁあ~~ぅ………」
そんなやる気満々な二人とは対照的に、霊夢は大きな欠伸をしながら、とてもこれから戦いの場に赴くとは思えないほどにリラックスしていた。
霊夢のそんな態度に、武田は心配の声を上げた。
「おいおい………そんな闘志の無さで大丈夫なのか~い……?」
「心配ないよ、武田君」
その心配の声に答えたのは秋雨であった。武田は秋雨の方へと振り返り、そして彼ら梁山泊の達人たちの堂々とした姿に圧倒される。なにせ彼らの内の誰一人として、霊夢を心配する様子を一切見せていなかったからである。
「兼一君はともかく、霊夢に関しては何も心配はいらない。少なくとも、
「そうね、霊ちゃんの方
武田を含め、梁山泊の強さを知っている面々は、彼らほどの達人が全く心配はいらないと断言したことの重みを理解し、沈黙することしかできなかった。
それが意味することは、即ち─────心配することすら烏滸がましいほど、霊夢が“強い”ということなのだから。
「んじゃあ………行きましょうか」
伸びをして身体を十分ほぐし終えたのだろう霊夢は、極々自然体でまるで買い物にでも行くかのような気分のまま、リングへと歩き出したのだった。
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