天衣無縫の巫女 レイム   作:神降ろし

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更新です。

今回は会話文の多めで構成してます。
後、本作における叶翔に対する霊夢の扱いも書いてあります。
本作の霊夢さんならこうするかな~と想像しながら書いてました。


それではどうぞ。





拾漆の段

 堂々と自身が闇の弟子集団であるYOMIのリーダーであり、そして一なる継承者なる存在だと明かした、叶翔と名乗る青年。そんな彼のことを霊夢は特に警戒する様子もなく、極々自然体で受け入れた。その理由としては今の霊夢が戦う気分ではなかったというのもあるが、彼がどことなく自身の幼馴染に雰囲気が似ており、その上で戦意が全く感じ取れなかったからというのが大きい。

 

 

「YOMIのリーダーね………私の名前は知ってるようだから名乗らなくてもいいわよね」

 

 

「え~~直接、貴女自身から聞いたわけじゃないし………俺もやったんだからさ、名乗ってくれない?」

 

 

「って言われてもねぇ………今更紹介するようなことあったかしら? ……あ、好きなものとか言った方がいい?」

 

 

「いや、お見合いとかじゃないし………名前だけでいいよ別に。それに俺好きな人いるし……

 

 

「あらそう。んじゃ────職業巫女、現在梁山泊居候の博麗霊夢よ」

 

 

 叶翔が居住まいを正して丁寧な自己紹介をしたのに対し、霊夢の名乗りは何とも淡白なものだ。若干眠気が混じっている辺り、叶翔が告げた内容に対して本当に興味がないというのが窺える。そのことに彼は地味にショックを受けていた。本題に入る前から聞く耳さえ持ってないんじゃないかと思わせる霊夢に、彼は早くも会話が続くだろうかと不安を覗かせていた。

 

 

「………ま、いっか。それじゃ、単刀直入に言うけど────俺たちと一緒に来ないか、博麗さん」

 

 

 そう、闇人(やみうど)の青年は霊夢へ告げる。その表情は何処までも真剣で、曖昧な返答など許さないと言わんばかりに霊夢へ刃の切っ先を向けていた。されど、それですら霊夢の心魂を奮わすには至らない。その眼差しだけで人を殺せそうなほどの気迫を感じながらも、それを向けられている霊夢に変化は見られない。

 ─────当然だとも。“一なる継承者”にして美しき翼を持つ者(スパルナ)の異名を持つこの男が、いかに天に与えられた武才を持ち、常に死と隣り合わせの修行を潜り抜けてきた()()()屈指の実力者で、今の美羽でさえ凌ぐ程の実力を持っていたとしても、それは()()()()()()()()()()()のものでしかない。

 最早、弟子級では相手にならない領域─────即ち、“妙手”の域に達した今の霊夢にとっては、格下の気当たりなど態々意識して感じる必要もないのだから。

 

 

「前にも言ったと思うけど………私がそっちに行っても得るものは何もないわ。だから行かない」

 

 

 故に、霊夢が叶翔の勧誘に頷くわけがないのだ。叶翔もそれが分かっていたのか驚く様子はなく、苦笑いを浮かべて差し出していた手を引っ込めて溜息を吐いた。

 

 

「やっぱりそうだよなぁ………」

 

 

「割と残念そうね」

 

 

「割とっていうか………かなりショックを受けてるよ、俺は」

 

 

「そんなに私に来てほしかったの、アンタは」

 

 

「まあね……会う前はそれほどでもなかったんだけど………会ってみたらかなりの美人さんだし。話してみたら割と気が合いそうだって感じてさ、かなり真剣にこちら側に来て欲しいって思ったよ」

 

 

 そう語る叶翔は、本当に残念そうに落ち込んでいた。そしてそんな彼に、霊夢も珍しく同意するような言葉を告げた。

 

 

「確かにそうね。私も初めて話すってのに、それほど抵抗を感じなかったわ。美羽と話しているみたいで気が楽よ」

 

 

「え、博麗さんって美羽と結構仲が良いの?」

 

 

 霊夢が告げた美羽という名前に反応する叶翔。彼は目を丸くして興味津々と言った様子で霊夢へ尋ねる。

 

 

「霊夢でいいし、呼び捨てでいいわよ。それ程、歳も離れてないっぽいし。美羽のことは、そうね………まあ、幼い頃からの付き合いだし、仲はまあまあ良いんじゃない?」

 

 

 何でもないように告げる霊夢の言葉を聞いて、叶翔は益々残念そうに顔を歪めた。そして夜空を見上げて唸り声をあげた後、再び霊夢へと顔を向けて同じことを問う。

 

 

「うぅ………なあ、本当にこっち側に来る気ない?」

 

 

「美羽と仲良いって聞いてから露骨ね。得るものがないから行かないって言ってるでしょ」

 

 

「でもさぁ………美羽と仲良いなら、やっぱりついて来てほしいんだよね。美羽は今夜、俺が連れていく予定だし……仲が良い貴女が一緒に来てくれれば、あの人も安心してくれるだろ?」

 

 

 そんな必死な叶翔の様子に、霊夢は面白いものを見たと言いたげにニィと口元を釣り上げた。叶翔は霊夢のその笑みに嫌な予感がしたのか、ほんの少しだけ後退る。

 

 

「ふぅん……アンタ、美羽のこと好きなんだ?」

 

 

「な………ッ!?」

 

 

 霊夢の訳知り顔での発言に衝撃を受けたのか────叶翔は口をはくはくと動かすのみで声も出せず、段々と頬が赤く染まっていった。そのことに彼自身も気づいたのか、ぶんぶんと首を振って胸に手を当てて、「落ち着け……落ち着けッ!!」と自己暗示をかけていた。

 それを眺めていた霊夢は、くつくつと笑う。

 やがて彼も落ち着いたのか、腰に手を当て真剣な様子で返答する。

 

 

「ま、まぁ……初めて見た時に、この人が俺の運命の人だって確信したしね。この人となら俺は闇の空を共に飛べるって」

 

 

「一目惚れだったんだ?」

 

 

「そう、なんだろうな………とにかく、この人を守りたいって思ったんだ。あの儚げで寂しそうにする美羽を────」

 

 

「…………」

 

 

 夜空を見上げて手を伸ばしながら語る叶翔の言葉に、霊夢は茶化すような笑みを止めて真面目に聞き入った。その言葉はどこかの誰かさんが口にしていたものと、まるっきり同じだったからだ。叶翔とは正反対に武術の才能はまったく無く、一人では何も出来ないと言うのに大勢の仲間に恵まれた誰かさんに。けれど、根っこの部分は同じなのだろうなと霊夢は感じ取った。それだけ真剣に美羽のことを思っているのだと感じた霊夢は茶化すのをやめることにした。そして霊夢は、自身の考えを纏めるとすぐさま実行に移した。

 

 

「そうね………私への勧誘は拒否するけど、美羽への勧誘は止めないわ」

 

 

「え─────?」

 

 

 唐突に、霊夢の立場上あり得ない発言が飛び出てきたことに、叶翔は呆然としてしまった。そんな彼を置き去りにしたまま、霊夢は話を続ける。

 

 

「ただし────ちゃんと同意を得た方が良いわよ。あの子のことが本当に好きなら」

 

 

「……………」

 

 

 それは純粋に、善意からの忠告だった。美羽のことが本当に好きなのであれば、彼女のためを思っての行動だろうと彼女本人の同意は絶対に必要であると霊夢は告げる。霊夢は幼い頃からの付き合いであり、親族である長老以上に美羽のことをよく理解していた。

 

 

「あの子は力に物を言わせる連中はあんまり好かないわ。だから、あの子を射止めるつもりなら、まずは真剣に美羽と対等の立場になる事。そして自分の力を示すのではなく、自分の思いをちゃんと言葉にすることよ」

 

 

「………なんで────」

 

 

 叶翔には、霊夢のことが分からなかった。今、立場上では敵同士でしかない人物に対して、己が燻らせている想いを好いた相手に告げるよう勧めているのだから。だが、霊夢はどこまでも本気だった。本気で叶翔の恋路を後押ししようとしていた。

 その理由を問う叶翔に、霊夢は自分でも頭を悩ませながら告げる。

 

 

「何となくよ、特に理由はないわ。でも強いて言うなら、不公平だと思ったから───かしらね」

 

 

「不公平?」

 

 

「美羽のことが好きって思っているのが、アンタだけじゃないからさ。なのにその気持ちを伝える機会すらないのって、ちょっと不公平じゃない?って思ったのよ」

 

 

「な───ッ!?」

 

 

 霊夢の発言に叶翔は狼狽え、自身の思考を急加速させた。自分以外にも美羽に惚れている人物がいるという発言。そして霊夢の発言から考えるに、その人物は既に己の気持ちを美羽に伝えていると推察される。しかも最悪なことに、彼にはその人物に心当たりがあった。  

 

 ───それは初めて美羽に出会った時、衝動のまま連れて行こうとした自分を邪魔した、空も飛べない蟻のような奴。身の程知らずにも美羽のことを守ると告げた、不快極まりない雑草のような男。

 

 

「(アイツか───ッ!!!)」 

 

 

「立場だのなんだの関係なく、誰かを好きになるってのは何時だって唐突らしいからね。あと、恋は戦争って話も聞いたことあるし。私はまだ経験したことないけど………争うなら同じ条件での方が後腐れないじゃない?」

 

 

 「よくわかんないけど……」と言いながらも、霊夢が本心から己の恋路を後押ししていると理解した叶翔は、困惑半分嬉しさ半分に微かに笑みを浮かべた。暫くして、叶翔はポケットに手を入れ、何かを掴むとそれを霊夢の方へと差し出した。霊夢は首を傾げるが、貰えるものなら貰っておこうと左腕を伸ばして手のひらを上に向ける。それを確認した彼は、霊夢の手のひらに何かを落とした。

 それは髪留めだった。しかもただの髪留めではなく、小型のナイフが仕込まれている特別製の髪留め。

 

 

「それ、美羽の物なんだ。貴女の方から返しておいてくれ」

 

 

「自分で返さないの?」

 

 

 霊夢の疑問に彼は困ったように笑うと、「ちょっと良い感じの貰い方じゃなかったからさ、今からだとちょっと俺の考えも纏まってないし」と言って首を振った。霊夢は「ふ~ん」と呟くだけで深くは聞こうとはしなかった。霊夢がそのまま受け取ったのを確認した叶翔は、霊夢に背を向けて遠ざかる。

 

 

「じゃあ、今日はここまでかな。助言と後押しありがとう、霊夢()()

 

 

「別にいいわよ。あと、呼び捨てでも構わないってば」

 

 

「ハハハ!! それはちょっとまだ出来ないかな………でも、貴女とはこれからも仲良くしたいと思ったよ」

 

 

 叶翔は背を向けたまま、別れを告げるように右腕を振った。それを見届けた霊夢も、彼に背を向けて屋根の上から飛び降りようとする。が、その直前─────

 

 

「あ、それと!! 勧誘の件は俺まだ諦めたわけじゃないから!! そこんとこよろしく───ッ!!!」

 

 

 背後から彼の叫ぶ声が聞こえてきた。それも、霊夢にとっては嬉しくない内容のものが。霊夢は素早く後ろを振り向くも既に叶翔の姿は無く、屋根の上には霊夢ただ一人がぽつんと取り残されていた。

 

 

「まったく………面倒臭いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆──────────────◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、新白連合の武田、フレイヤ、トールの三人は、明日の試合のため調整を兼ねた特訓をしていた。

 それは明日以降の試合が熾烈極まるものになると確信するが故。彼らがその考えに至ったのは、間違いなく霊夢の存在が大きいだろう。

 今日の試合において彼女が瞬く間に為した所作のいずれもが、彼ら弟子級の武術家たちを超越する領域のものだった。彼女と相対した中国三大武術チームの誰もが、一対一であったとしても自分たちでは勝てたかどうかも分からない強者たち。それを三人同時に、しかも無傷で倒していた霊夢の姿は彼らにとって悪夢に斉しい光景だった。そして、仮に自分たちが試合を勝ち進めたとしても、霊夢と当たると意識した瞬間、体の震えが止まらなくなってしまった。

 だからこそ、そんな不甲斐ない自分たちを変える────は言い過ぎにしても、それを誤魔化す程度には意識を逸らそうと、こうして特訓に身を入れていたのだが──────────

 

 

「今夜は折角気分が良かったのに、どうしてこうなるんだか………」

 

 

 武田、フレイヤ、トールの三人の眼前に佇むは、空の青さを映す髪色をした青年───叶翔が呆れたように溜息を吐く姿があった。

 散歩をする、ただの観光客ならばいい。たった一人で散歩する姿を不審には思うものの、別段絡む理由などないのだから。

 大会参加者だとしても、別にいい。自分たち以外は世の中の裏側に属した人間ばかりだと理解しているため、どれほど暗い気を纏っていようと納得出来るのだから。

 だが─────この男は違う。何もかもが違う。ポケットに手を入れながらただ突っ立っているだけだと言うのに、武田たち三人全員に全く隙が無いと思わせるほどのものがあった。相手は極々自然体での立ち振る舞いしかしていない。それなのに、その姿を見ただけで彼らは息をすることさえ躊躇われた。まるで、あの時の霊夢に感じた寒気と同じ─────いや、それよりもはるかに深い水底のような闇を。

 

 

「何処の誰だか知らないけど………これだけは言える。アンタ、闇の者だね」

 

 

「へぇ……闇を知ってるんだ。まあ、この大会に出てるんだから裏側もある程度は知っていてもおかしくないか………それで、ただ散歩をしてるだけの闇人に、なんで戦闘態勢なんて取ってるわけ?」

 

 

「今君が言っただろ、闇人だからさ。それも新島の言っていた情報が正しければ、YOMIのリーダーの特徴にそっくりなんだ。そんな相手を警戒しない方がどうかしてるんじゃなーい?」 

 

 

 そう告げて、ファイティングポーズを取った武田は自身の気を練り上げる。フレイヤも同様に、己の得物である杖を構えながらじりじりと間合いを詰めようとしていた。トールは今までに感じたことのないほどドス黒い闘気を放っている男への集中力を高めるためか、黙したまま構えを取っている。三者三様に警戒する彼らを見ても、叶翔は一切態度を変えない。むしろ極限まで警戒しているであろう彼らを哀れみを籠めた目で眺めていた。“その程度で警戒しているつもりなのか”と言わんばかりに。

 

 

「俺、今夜はもう誰かとやり合う気なかったんだけどなぁ………でもま、しょうがないから構ってやるか。そっちからちょっかい掛けてきたわけだし─────」

 

 

 そう呟き終えるのと同時に─────叶翔の纏う気が消失した。瞬間、武田たちは周囲の気温が一瞬で氷点下まで突き抜けたように感じ取った。そして脳内で鳴り響くアラーム音。それは極限状態に追い込まれた生物が感じる第六感。自身の危機を知らせる最終警告。武田たち三人はその第六感に身を任せ、反射的に体を動かしたが──────────

 

 

「加減はしたから、こんなもんで死ぬなよ? 殺意も何も乗せてない拳なんだから」

 

 

 ─────それでも尚、哀れになるほど遅かった。叶翔が放った拳が直撃し、自分たちが地面に倒れ伏した後になってようやく己が殴られたことを認識するほどに。ただ一人────武田を除いて。

 

 

「ぐ………ッ!!!!」

 

 

「ひゅー……勘の良い奴もいたんだ? でもま、今日はこれでおしまい♪ そのままだと風邪ひくぞ~じゃあね~」

 

 

 そう告げて口笛を吹きながら、叶翔はポケットに両手を入れて歩き去る。その後ろ姿を武田はただ見上げることしか出来なかった。

 そうして叶翔が去った後、倒れ伏したフレイヤとトールを見つめ、自らも立ち上がることができない事実を受け止めて、武田は涙を流した。その程度のことしか、今の彼にはできなかった。

 

 

 




美羽が攫われても攫われなくても倒される武田さんたちでした。
でも今回叶翔くんはかなりご機嫌だったので殺意は乗ってませんので命に係わる程の重体ではないです。尚心はポッキリ逝った模様。

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