天衣無縫の巫女 レイム   作:神降ろし

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更新です。
今回、兼一君が原作より強くなった理由をさらに細かく説明しています。
例に溺れず独自設定です。
後は、ちょっとだけ兼一君強くなっているため原作とは異なった展開でもあります。
それでも良い方はご覧ください。







拾玖の段

 

 

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

 迫る剛腕。それを躱すも、次いで来る余波で吹き飛ばされる。だが、そんなことに構っている余裕はない。すぐに受け身を取って、立ち上がる間もなく振るわれる追撃を辛うじて避ける。それでもやはり拳圧は兼一の身体をたやすく吹き飛ばす。しかしそれは彼の狙い通り。

 まともにあの剛拳を喰らうよりも、まだその余波で吹き飛ぶ方がダメージが少なくていい。それに我流Xの意識は僅かながらではあるが此方に向いたままだ。ほんの僅かでも此方に意識が向けられているのなら、後は美羽が攻撃してくれる。

 兼一は信じていた。例え、自分が打ちのめされようと、美羽ならば必ずその攻撃を届かせてみせるだろうと。だから、自分がやるべきことは少しでも我流Xの猛攻を耐え凌ぐことだ。

 悔しいが、どうあがいてもこの超人を攻略する術が兼一には浮かばない。寧ろ下手なことをすれば美羽まで危険にさらしてしまう。それは何よりも嫌だった。

 

 

「だから──ッ………意地でもボクは耐え抜くッ!!!」

 

 

 そんな、覚悟を決めた兼一を見て、長老は心底驚いていた。

 普段はうじうじとしていて、いざという時以外全く真価を発揮出来ない兼一。そのいざという時にも自身の力を引き出すのにかなりの時間を有する身でもあった。だが、何がかみ合ったのかは知らないが、今の兼一は完全に自身がやるべき役割というモノを完璧に果たしていた。それも、誰に何かを言われるでもなく自分の意志で。

 

 これもまた、霊夢という特異な存在を知ったが故か。

 霊夢に出会い、触れ合ってからの兼一の成長速度ははっきり言って異常だった。彼女が梁山泊に初めて訪れる前までは、本当に蝸牛の如き遅さでしか成長出来ていなかったのに、彼女が来て、そして彼女が得意とする「脱力」と「呼吸」を会得してからというもの────今までの修行速度は二倍ほど上がっているのだから恐ろしい。

 

 美羽ほど頻繁に触れ合ったわけではない。霊夢に手解きを受けたわけでもない。ただ、たった一度組手をして投げ飛ばされただけ。たったそれだけで、兼一は精神的にも技術的にも大きな飛躍を果たしていた。

 

 なぜこんなことが起きたのか────長老には心当たりがあった。

 霊夢の技は、見る者を釘付けにしてしまう程の、それはもう美しい流れで行われる。その組み立て方は同系統の柔術を扱う秋雨からしてみても文句のつけようがない程だ。故にこそ、その技を掛けられた者も、その流れに沿わされるのだ。間違った形を正常な形に戻すように。結論から言えば、兼一の間違った動きを調()()()()()のではないかというのが長老の推察だ。それもたった一回の組手だけで。

 

 しかし、それでも疑問は残る。たった一回の稽古で兼一の動きが調律されたというのならば、何故霊夢と何度も組み手をしている美羽はその恩恵を受けるのに時間が掛かったのか。恐らくそれは、美羽と兼一の気質の違いによるものだろう。

 

 兼一が静の気質であるのに対し、美羽は動の気質を持つ者。そして、霊夢は兼一と同じく静の気質の持ち主だった。

 

 霊夢と組手をした時点の兼一はまだ自身の気質を理解していない段階であったが、それでも何となくそちらの適性を持っていたことは師匠達は見抜いていた。それに、兼一は物覚えが悪い反面、言われた事は素直に実行する性格だ。反面、美羽は動の気質を持つ者である通り、対峙した相手を超えんとする性格であった。加えて、美羽は兼一とは逆に物覚えがいい反面、言われたことを独自に解釈してしまう癖がある。恐らくこれこそが霊夢の技を対処するのに時間が掛かった要因だろう。

 素直に水の流れに乗った兼一と、流れを自分なりの方法で超えようとした美羽。彼らのこの差異が、呼吸や脱力の習得難易度の差になったのだろう。

 

 それを踏まえて見れば、ほら──────── 

 

 

「我流ゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウ!!!!!」

 

「クゥ──ッ!!!」

 

 

 我流Xの攻撃を防御しようとして、また吹き飛ばされた。

 

 なんと、未だ格上である美羽と辛うじて回避し続けている兼一の食らったダメージの比率は殆ど差がないのである。尤も、兼一が全力で制空圏を築き、意識の全てを防御と回避に振っているのに対して、美羽は攻撃と防御の両方を均等に振っている上に、我流Xの攻撃は範囲が途轍もなく広いため、一概には同じと言えないが………。

  

 

「二人とも予想以上の成長じゃ。じゃが、()()()()ではワシを満足させることは出来んぞ!!

 

((来るッ!!!))

 

 

 矢張りと言うべきか、いよいよと言うべきか、我流Xも兼一以上の範囲を誇る制空圏を発動してきた。

 我流Xと兼一の背丈、腕の長さからして凡そ三倍の広さを持つ制空圏。その領域へ、美羽は飛び込んだ。

 

 

「ちえりゃあああ────ッ!!!」

 

 

 当然領域を侵した美羽を我流Xが見逃すはずもなく、無数の拳打が包み込むように美羽に迫る。だが、美羽は額から汗を垂らしながらもニヤリと笑う。

 これで、我流Xの意識が美羽に割かれた。そんなチャンスとも言える場面を、今の兼一が見逃すはずがない。

 

 

(制空圏ッ──からの無拍子でッ!!!)

 

「セイアアア────ッ!!!」

 

 

 我流Xと兼一の制空圏が重なり合い、息を付く間もなく懐に飛び込んだ兼一は、自身が誇る最強の一撃を繰り出す!!

 

 

「ハァァァ────ッ!!!」

 

 

 美羽もまた自身へ迫る拳打の壁に怯むことなく、我流Xの意識が兼一に注がれた瞬間を見逃さず、これまた自身の決め技とも言える一撃を放つ!!!

 

 

 

── 無拍子ッ!! ──

 

 

── 鏡飆(きょうひょう)風切り羽ッ!! ──

 

 

 天地上下別々から繰り出される決死の技へ、我流Xは今出せる全霊で応えることにした。

 

 

 

── 流水制空圏 ──

 

 

 

流れる水が、一切の無駄を洗い流し、敵と己の境を断ち切った

 

 

 

 

「ゥゥゥゥァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

 

 

 

 ふと、霊夢は閉ざした瞳をぱっちりと見開き、刮目した眼でその光景を静かに見つめる。

 完全に地面から足を離したまま、流水に流されても尚転がり形変わらぬ()のように、少年の拳が超人の胸を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆──────────────◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────」

 

「ッ!!?ハァァッ!!!!」

 

 

 動きを、いや呼吸さえ止めた我流Xへ、少女の二撃目が放たれる。その一撃は我流Xの仮面を揺らした感触のみ。クリーンヒットとはいかなかった。跳び蹴りの状態のまま空中を無防備に浮く美羽は遅れてくる脱力感に支配され、そのまま墜落する。

 

 

「グ………ッ!!」

 

 

 仰向けに倒れた美羽は、そのまま起き上がることが出来ず、顔のみを我流Xへ向ける。彼は、兼一の頭に手を置いていた。そして、先ほどまでの敵意が嘘のように彼の頭を優しく撫でていた。

 兼一は何が起こったのか分からなかった。我流Xに何をされたのか、その時自分が何をしたのか、何故自身の拳が届いたのか、何故、自分は今長老に頭を撫でられているのか。

 

 

「兼ちゃん」

 

「────────」

 

「見事じゃ」

 

 

 我流X………長老は、そう優しく言葉を掛けると兼一の頭を掴み、リングの外へ投げ飛ばした。

 

 

「──────ぅぇぇぇぇええええええええええええええええ!!!?

 

 

 それに続くように美羽の首袖を掴むと、秋雨達のいる場所まで放り投げた。

 

 

「きゃあああああああああ!!!!」

 

 

 瞬時に動いたアパチャイに受け止められる兼一に、着地の衝撃も与えず軽やかに美羽を受け止める秋雨。場外の更に外側まで投げ飛ばされた二人は完全に力が抜けており、これ以上動くことさえ困難だった。それを見た審判は当然場外に出た二人を失格とする。会場は一瞬の空白の後、竹を割るような大歓声が巻き起こった。

 

 

「何が……何が起きたんだ?」

 

「兼一さん、覚えていませんの………?」

 

 

 梁山泊・新白連合のホーム席で腰掛けることが出来る程度まで回復した美羽は、未だ回復していない故に仰向けに寝かされている兼一へと恐る恐る尋ねる。

 兼一はまったく自覚していなかった。自分が何を為したのかを。

 秋雨は顎に手を当てて思考を巡らし、ある程度予想を立てた上で未だリングの端で正座している霊夢の方を見た。霊夢と絡み合った視線に、秋雨は漸く自身の仮説が正しいと認識する。

 

 

「成程……全ては脱力と呼吸か」

 

「秋雨どん、何か分かったのかね?」

 

「ああ、結論から言えば兼一君の最後の一撃────アレは完全にまぐれだ」

 

「まぐれだと?そんなのにあのジジイが当たったってのか!?」

 

「単なるまぐれではない。長老の技と()()()()()()()()ことによる奇跡と言っていい」

 

 

 驚きどよめく梁山泊一行と新白連合の面々。

 それはそうだろう。あれだけ手も足も出ていなかった兼一と美羽が、奇蹟に等しいまぐれだとしても長老に一撃当てるなんてことは不可能だからだ。それも、あの風林寺隼人が編み出した百八の奥義の内一つを出させた上でまぐれが起こりうるなど、到底現実的とは思えない。

 

  

「長老の奥義の一つ、流水制空圏は私も見たことはある。

 あれは究極的に言えば“観の目”と“合一”の合わせ技だ。

 相手の動き・意識・心の全てを合一し、自身の流れに相手を巻き込む。

 だからこそ、相手はまるで鏡と対峙しているかのような錯覚に陥る。

 そして、完成形ともなれば相手の攻撃は当たらず、自身の攻撃は一方的に当たるという現象が起こる技だ」

 

「だから、その技にどうやって破ったってんだよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

  

「噛み合った……だと?」

 

 

 困惑する逆鬼に、秋雨は言葉なく頷く。そして最初の結論に戻る。

 

 

「先の長老は、流水制空圏を二人への攻撃ではなく、無力化にのみ意識を向けていた。

 無駄な動きを優しく変え、不自然な態勢を力を抜いてもいいようなリラックス出来る形にする方法でね。

 しかし、途中から兼一君に無駄な形は()()()()()()()

 よって、形を正す流水は兼一君を通り抜け、兼一君の拳が長老に届いたというわけだ」

 

「そうか!!それで脱力と呼吸なのね!!」

 

 

 秋雨の説明によって、剣星もまた答えにたどり着く。

 あの時兼一は、流水制空圏に乗せられた時、無我夢中で拳を叩き込むことにのみ意識の全てを注いでいた。故に、其処に思考が絡むことはなく、身体が力み過ぎるということがなかった。そこから兼一は無意識に脱力と呼吸を行っていたのだ。偶然にも最小・最短・最速のカタチで動いた兼一は、流水制空圏の波に攫われることなくその拳を長老へと届けることができたのだ。

 

 

「例え、同じ状況に百万回陥ろうと今の兼一君では再現不可能の奇跡が起きた。それが先の一撃だよ」

 

「………しっかし、奇跡が起きたっていうが、そんなら運よく合格したってのか?それじゃあ………」

 

「いや、合格は間違いないよ。なにせ、兼一君はあの戦いで自分の役割を自力で理解し、それに徹することが出来ていたからね。

 成長という形を見せたのだから、それが無くとも合格と言えるだろう。だから、流水制空圏の方はあくまでもおまけだ。

 あの技を直に体験させることで次の修行の際の到達点を明確にするためのご褒美だろう」

 

「美羽の方もね。

 多少時間はかかったものの、初めから“動の気”の『発動』を行い、修行中にコントロールも出来ていた時点で長老は合格と見做していたね。霊ちゃんとの組手をしてた甲斐があったね」

 

 

 その秋雨と剣星の言葉にどこか照れ臭く、それでいて嬉しい気持ちになった二人。美羽も兼一も、己が確実に成長出来ているのだと漸く実感した。もしかしたら、長老はそのために二人に修行をつけたのかもしれない。今の自分達の実力を自覚させた上で、更なる高みへ昇らせるために。

 

 

「さて、メインイベントだ」

 

「やれやれ……やっとか」

 

「ワクワク…!」

 

「霊ちゃんが何処まで至っているのかが注目ね」

 

「アパチャイ、レイムが本気で闘うの初めて見るよ!!楽しみだよ!!!」

 

 

 解説も終わったことで、秋雨達の意識もリングへと戻った。当然、観客も血走った目でリングに立つ二人に注目していた。

 兼一は首だけを動かしてリングを見る。未だ力が入らないが、それでも何とかといった形で。

 美羽も先の戦いの余波で大木も何も無くなった、まっさらなリングを凝視している。

 

 

『ククク……他の九拳達には悪いが、一足先に拝見させてもらうとしよう。今代博麗の武を………ッ!!!』

 

 

 誰も彼もが二人の男女に視線を注ぐ。比重としては彼女の方がやや多いだろうか。その理由があるとすれば、やはり未だ本気を見せていない彼女の力を見たいという願望故か。それを可能とするのは今大会に於いて、我流Xしかいないというのはこの場にいる全員が確信している。

 

 

「待たせたのう……霊夢」

 

「別に。最後に面白いのが見れたからいいわ」

 

 

 霊夢は既に右足を上げ、左足でステップを踏んでいた。当然、前回の試合でそこに込められた意味を知っている梁山泊・新白連合の面々は無意識に唾を飲み込む。

 我流Xもまた溢れ出る闘気を更に高ぶらせ、最初から制空圏を形成する。これは誰がどう見ても0.0002%どころではなかった。

 

 

「なあ、秋雨。因みに今ジジイの奴が何%か聞いていいか………?」

 

「聞かない方が良い。それよりも、準備しておいた方が良いよ」

 

「………だろうな」

 

 

 梁山泊師匠等は席を立ち、一人一人が等間隔で子供達の前に出た。

 兼一の両サイドには秋雨と逆鬼が。美羽の前には剣星。連合の前にはアパチャイとしぐれがそれぞれ立つ。

 今更なんでそんなことを、なんて思う者はもういない。彼等が前に立つということは、それだけのことが起きるという事だと子供達は察している。故に、改めて思う。

 

 ─────博麗霊夢とは何者なのかと。

 

 

「さて、兼ちゃんや美羽程に甘くはせんぞ」

 

「あら、丁度お茶が欲しかったところよ。()()緑茶がね」

 

「ほっほっほ、それはお主次第じゃ。苦いを通り越して辛いになるやもしれんぞ?」

 

「生憎辛い物は嫌いなのよ。だからお茶を飲んだら帰るわ」

 

「では熱々の茶をしばくとするかの」

 

 

 売り言葉に買い言葉。

 これから闘うにしては暢気な、されどその裏に隠された刃のなんと鋭きことか。

 互いに神に斉しき才覚を持つ二人。しかし、経験値に於いては長老が勝る。よって、この闘い、霊夢が何処まで()()()()()というのが本題になる。

 先の熱狂が夢かと思う程静まり返ったスタジアム。その中央で我流Xと霊夢は見つめ合う。

 ステップを踏む霊夢が一際大きく飛ぶ。まるで翼でも生えてるかのように空を舞う霊夢。彼女の視線は既に彼には注がれておらず、唯々虚空を眺めている。やがて空から舞い降りる天使のように地に足を着けた瞬間────────────────

 

 

 

「シ────────ッ」

 

 

 

 

────────赤と白の二色の閃光が我流Xへと奔り抜けた

 

 

 







次回はやっと霊夢と長老の激突です。

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