天衣無縫の巫女 レイム   作:神降ろし

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取り合えず手早く更新です。
独自設定および独自解釈の部分が出てきますのでご注意ください。
後、今回霊夢は出てきません。
ですが、霊夢が主に扱っている武(作者のイメージ)の説明を軽くしております。


それではどうぞ。





弐の段

「ころ……され…る…」

 

 

 霊夢が梁山泊を去り、兼一は今日の修行を終え、離れでクタクタになって倒れ伏していた。シクシクと涙を流しながら。

 この修行のプランを考えた秋雨によると、今日のあれでさえ───〝今の兼一の下限を知るためのモノ〟でしかないのだそうだ。

 つまり、明日からが本当の地獄めぐりが始まるという。兼一はそれに涙した。自身で決めたことながら、覚悟したことでありながら、それでさえ尚足りないということを先に思い知らされたのだから。

 そして、追い打ちのように自身の決意の下に隠したほんのちょっぴりの欲は、今の現状が砕かれたことを物語っていた。

 

 

「一つ屋根の下……美羽さんとのラブラブ……儚い夢だった……ッ!」

 

 

 そう、この涙は悲しみではなかった。自身の細やかな欲を逆手に取られたことの悔し涙だった。

 

 

「………やれやれ、少し元気づけてやろうかね」

 

 

 その悔しなく声を聴きながら、ちょっと大人げなかったかなという反省と、今後のためにも希望を持たせようという手心が剣星を動かした。…………その裏に割とマジの下心を隠しながら。

 

 

 

 その後、梁山泊の者だけが知る掘り当てた温泉を覗きに行こうと剣星が兼一を誘い、しぐれが仕掛けた無数の罠を死に物狂いで掻い潜り、到頭温泉に到達した───と、思ったらそこにいたのは美羽やしぐれではなく、長老だったというオチになる。

 

 

 

 こうして、兼一の内弟子としての一日目が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆──────────────◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(そういえば……あの赤いリボンが特徴的な人───博麗霊夢さんだったか………。一体どういった人なんだろう?)」

 

 

「よそ見してんじゃねえッ!!」

 

 

 「ぎぃやぁぁぁあああああ───」という悲鳴を叫びながら、兼一は前に梁山泊を訪れた見知らぬ人───霊夢のことを思い出していた。そこに容赦をしないのが逆鬼である。一瞬だけであっても修行のことから外れた思考をした兼一の隙を見逃さず、自身の剛腕で兼一を吹き飛ばした。

 

 

「痛ててててッ………」

 

 

「ったく……何考えてやがんだ、まだ休憩じゃねえぞ兼一ッ!!」

 

 

「す、すみましぇん………」

 

 

 しゅんと小さくなってしまった兼一に逆鬼は頭を掻きながら、兼一に問う。このままでは修行の再開が出来ないと考えたらしい。

 

 

「で──何が頭に過ぎったんだ?」

 

 

「ええっと……前に此処を訪ねて来た僕と同い年くらいの女の子がいたじゃないですか」

 

 

「ああ?……ああ、霊夢のことか」

 

 

「はい、その霊夢さんと師匠たちって何か関係があるのかなって、ふと思い出したんです」 

 

 

 それを聞いて逆鬼をはじめとした、兼一の修行を見ていたアパチャイとしぐれを除く三人も言いづらそうにしていた。アパチャイとしぐれは縁側でオセロをしていた。それに対して兼一は首をひねる。

 何か深い関係でもあるんだろうかと疑問に思い、聞こうとしたとき長老がヌルッと姿を現した。

 

 

「わしの古い知り合いの娘であり、今現在わしらがあの子の後見人でもあると、そんなところじゃ」

 

 

「うおッ!!?長老!!って後見人………?」

 

 

「そうじゃ。あの子の親がわしを頼ってきてな。初めは断ったんじゃが……理由を聞いてしまえば断るわけにもいかなくてのう」

 

 

「理由って………」

 

 

「バカヤロウッ…少しは察しろ。じじいも、霊夢がいねぇとこであんま()()は話すなよ」

 

 

 兼一は理由を聞こうとしたが、逆鬼はそれを止め、長老が話そうとする部分を変えるよう注意した。それは秋雨も同じようで、無言で長老に訴えている。

 長老もこれはうっかりと反省した様子でこの話題を進ませないように区切りをつけた。

 

 

「と言うわけで、ざっくりと言ってしまえばわりと深い関係じゃ。もうこの話題は言えんが……ほかに気になる事でもあるのかの?」

 

 

 兼一は逆鬼が言った()()の話題は、これ以上聞かない方がいいことなんだと理解し、それならと頭をひねって思い出そうとして、剣星が投げられた時のことが頭に浮かんだ。

 

 

「じゃあ……あの子も武術をやってるんですかね。あんな凄い技を持てるみたいだし」

 

 

「それは違うね、ケンちゃん」

 

 

 武術をやっているかどうか、それを否定したのは剣星だった。

 

 

「え?でもそれなら馬師父を投げ飛ばしたあれは………」

 

 

「違うと言っても、〝凄い技〟という部分が違うという意味ね」

 

 

「???」

 

 

 チッチッチと指を振って告げる剣星にますます意味が分からない兼一。それを今から説明するらしい。

 

 

「説明はおいちゃんより相応しい人がいるね。選手交代ね、秋雨どん」

 

 

「承知したよ」

 

 

 そう言って今度は秋雨が前に出てきた。

 

 

「霊夢がやった剣星を投げた技、あれはただの投げだよ。技として何ら珍しいものでもない」

 

 

「えッ───」

 

 

「学校で習う柔道の基本的な投げと同一のものだよ、原理はね」

 

 

 兼一は嘘だぁ~と言いたげに、眉間にしわを寄せるが、秋雨は嘘じゃない嘘じゃないと首を振って否定する。

 

 

「いいかね、先の場面で注目するべきなのは霊夢の投げ()()じゃない。その投げに入る前の霊夢自身の状態と動きにも注目するべきだ」

 

 

「状態と動き?」

 

 

「そう、君は気づいていなかったが……霊夢は剣星を投げる以前、半身になってその手を躱した瞬間から〝全身の脱力〟に入っていた。その後、相手の手に触れる寸前からかなり深めの〝呼吸〟を行ってもいたね。これが投げに入る前の霊夢の状態。そして動きに関してだが、君の目に分からなかった範囲だと、剣星は一度投げられるのを耐え、霊夢が瞬時に入り身から崩しに入り投げていたのは見えてたかい?」

 

 

「あの一瞬で……いえ、ただ手首を返したらいつの間にか馬師父が投げられていたことしかわかりませんでした」

 

 

「うん、素直でよろしい。といっても、あの流れるような入りは私としても実に見事と言いたいね。実に綺麗な投げだった」

 

 

「───と、此処までがあの子がどう動いていたかの説明だ。此処からはどうやって手首の返しで投げが出来るのかの説明だ」

 

 

 そう秋雨は言うといつの間に用意したのか、二メートル半の大きさの投げられ地蔵が置いてあった。

 秋雨は投げられ地蔵の手を軽く握ると兼一の方へと視線を向ける。

 

 

「取り敢えずは見てみるといい」

 

 

 そう秋雨が軽く告げると、兼一は地蔵の握った手を凝視する。どう見ても力をそれ程込めているようには見えない。

 

 

「今私はこの握っている方の手に握手程度の力しか込めていない。そして此処からが口だけで説明するのが難しい」

 

 

 告げた瞬間、秋雨はその握った方の腕を軽く()()()()()()()。そして回り切る瞬間、秋雨は地蔵を握っている手を放し、放された地蔵は勢いを止められずに兼一の目の前まで投げ飛ばされた。

 

 

「うわぁあああッ!!?」

 

 

 悲鳴を上げて逃げようとしたところ、間一髪のところで地蔵に当たらずに済んだ兼一。その足元には頭が地面に突き刺さっている地蔵の姿があった。

 

 

「これが、『合気道』の投げさ」

 

 

「合気道………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆──────────────◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─── 合気道 ───

 

 

 『天地の“気”に合する道』の意を持つ―――表の()()である。

 

 

 合理的な体の運用により体格体力によらず相手を制することが可能であるとしている点が特徴的なこの武道は、女・子供の身であったとしても何の問題もない。

 近代以降、戦闘としての武術より見せる技を持つ武道の多くが「剣道」「柔道」「空手」とスポーツ分野としての技術的に特化していったのに対し、「合気道」では投・極・打・当身・剣・杖・座技を修し、攻撃の形態を問わず自在に対応し、たとえ多数の敵に対した場合でも、技が自然に次々と湧き出る段階まで達することを求める武本来の求道的要素が今でも強く残っている珍しい武道である。この武道は、その道の中で最もあらゆる環境下での適応を可能としているオールマイティーなのも特徴の一つである。

 

 「精神的な境地が技に現れる」と精神性が重視され、武術に近しい術理をベースにしながらも、理念としては、武力によって勝ち負けを争うことを否定し、合気道の技を通して敵との対立を解消し、自然宇宙との『和合』『万有愛護』を実現するような境地に至ることを理想としている。『和の武道』『争わない武道』『愛の武道』などとも形容され、欧米では『動く禅』とも評される。

 

 そして近代の表側───稽古式の修行で数少ない達人級(マスタークラス)が生まれた武道でもあった。

 表側である武道を修める者において、よほど才能がある者であったとしても最終到達できる階位は精々が『妙手』であり、決して達人級の域にまで上ることは出来ないとされていた。

 理由は多様に考えられるが一番の要因としては生死を別つ尋常でない実戦経験のなさが挙げられる。

 稽古式の武道はその全てが、相手に後遺症を残す技を禁止している。それは武道の根本が、敵を倒すためではなく、自身の心を高める為のモノだからだろう。

 如何に相手を打ち倒すか──ではなく、如何に自身を高めるかに重きを置いている武道では、死線を越えた先にある境地まで到達することが至難だったのだ。

 

 しかし、その限界を壊したのが合気を術としてではなく、道として歩み生み出した開祖である。

 その凄まじさは開祖が亡くなった後にでも未だ消え去ることのない偉業であった。活人に生きる者達に希望を見出させてしまう程に。

 されど、その開祖以降に達人級に到達し得たものは未だいない。故に、その域に達せたのは開祖当人が尋常ではない才覚を持っていたからではないかとまで言われ、表に生きる者達にさえ、『嘘くさい』『やらせなのではないか』という疑念が浮かんでしまうのも多い。

 

 けれど確かにいたのだ。武を術としてではなく、道として歩み続け、遥かなる高みへと達した人が。

 

 

「とまあ、これが我々───梁山泊の知る合気道の成り立ちだ」

 

 

「凄いんですね………武道で達人に至るってことは」

 

 

「ホッホッホ、そうじゃのう。あれは正に天稟の才覚と海千山千を越える研鑽の果ての賜物じゃよ。かと言って、武術で達人の域に至るのもまた至難のモノじゃがな」

 

 

 長老の言葉に圧倒される兼一。その合気道という武道が如何に奥が深いものなのかを知った。

 

 

「となると……霊夢さんのあの投げは、技がすごいんじゃなくて───手首のひねりだけで投げられるくらい功夫が凄いって事なんですよね」

 

 

「お、気づいたか。そう、武道は武術に比べると…禁止された技やそもそも動きに取り入れてない技が多く、決まった型でしか技を撃てないというものが多い」

 

 

「ま、だからこそその決まった技の練度をどれだけ高めることが出来るのかっつうのが武道の本筋だ」

 

 

「その観点から見ると、霊ちゃんの功夫はおいちゃんたちから見てもかなりのモノね。師となる人物がいないという点を加味すると、今ケンちゃんがやってる修行の一段上の事を毎日やっても追いつくのは難しいね」

 

 

「げッうそぉ!!?」

 

 

 ただでさえ死にかけているこの修行以上の事をやっても追いつけないかもしれないと、この師匠たちに言わせる彼女の実力に、兼一は戦慄した。

 

 

「もしかして……美羽さんよりも強い?」

 

 

「私がどうかしましたの?」

 

 

「どひゃぁうううッ!!!?」

 

 

 突如自身が話題に出していた人物の声が聴こえ、兼一は情けない声を上げ、美羽のいる方へと顔を向けた。其処には空になっている洗濯籠を持った美羽がいた。

 

 

「み、美羽さん。洗濯干すの終わったの」

 

 

「ええ、これから私も自主的に始めようかと……ケンイチさんは休憩ですか?」

 

 

「いいや、少し修行に身が入っていなかったから何か気になる事でもあるのかと聞いてみると」

 

 

「コイツが霊夢が使ったただの投げが凄い技なんじゃねぇかって言いだしてな」

 

 

「そこから更に霊ちゃんが使っていた武道の話をちょっとしていたのが今終わったところね」

 

 

「まあ、レイムさんの武についてですか、それなら確かに……」

 

 

 口に手を当てて兼一が疑問に思ったという点について理解を示した。そこで兼一は聞きづらそうにしながらも、自身の興味が勝り、あることを聞いてみた。

 

 

「美羽さんと霊夢さんってどっちが強いんですかね?まあ、今の僕にはどっちも強いとしか分かんないけど………」

 

 

 その言葉を口にした瞬間───一瞬、美羽の雰囲気が鋭いものへと変わったように思えた兼一。しかし、すぐさまそれは鳴りを潜めてしまった為、気のせいだったのかなと首を傾げていると──

 

 

「二十五戦二十五敗」

 

 

「え?」

 

 

「私が、霊夢さんと勝負して完敗した回数ですわ………」

 

 

「なッ───」

 

 

 

 美羽のその言葉と、彼女の悔し気な表情に兼一は言葉を失ったのだった。

 自身の目標としていた憧れの彼女でさえ、あの赤いリボンが特徴的な少女に一度も勝ててはいないという事実は、兼一には到底信じることが出来なかった。

 

 

 

「あの人に、私は一度として勝ち星を上げたことがありません」

 

 

 

 その時の美羽の顔は、どこか獰猛な獣のようで、無邪気な子供のような、綺麗で怖い、そんな顔をしていた。  

 

 

 

 

 




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