天衣無縫の巫女 レイム 作:神降ろし
今回も話も何も進まない日常会です。
ケンイチの本編って戦いがないとストーリー進まないんですよね。
でも戦いだけだと物語として成り立ちませんし、個人的にケンイチってかなり小説として書くのが難しいです。
という愚痴でした。
それでは本編どうぞ。
「ちぇすッ!!!」
「ほい」
威勢のいい掛け声とともに胴付近に放たれた兼一の正拳突きは、その突きが当たる位置に置いてあった彼女の右手によって完全に勢いを殺されると同時に、兼一の拳に擦り付ける様に
「ご…ご…ご………」
「思ったより吹っ飛んだわね………まあ、これで分かったでしょ」
「そうだね。だが霊夢が折角今回ばかりとは言え、立ち合いを申し出たというのに、兼一君は力み過ぎだ。やれやれ………勿体ない」
霊夢が思っていた以上に、投げ跳んでしまった兼一に驚き、その様を見て秋雨は呆れたように、これ見よがしに溜息を一つついた。そして件の兼一は目を点にしながら真っ白になって未だ「ご……ご……」と奇怪な鳴き声で固まっていた。
───何故、兼一が霊夢に投げ飛ばされるようなことになったのかというと、数十分前に遡る。
初めて霊夢が梁山泊に訪れて以来、暇さえあれば手土産を持って梁山泊と神社を行ったり来たりするようになって暫く経った。霊夢が訪れていたその日のその時間帯は丁度、秋雨が兼一を四方八方に投げ飛ばしているところであった。
いつものように美羽に土産を渡し、受け身の修行をしている兼一を境内で逆鬼と同じように胡坐をかきながら見ていると───
「ねえ、それって受け身になってんの?」
「む?」
「え?」
───と、今投げられた兼一ともうすでに極めに掛かろうとしていた秋雨へ向けて、疑問を零した。
「今兼一さんのやってる受け身ってなんか………うん、
「ガーーーーーンッ!!!」
霊夢のいきなりの不細工発言に兼一はショックのあまり口からもショックの効果音が流れた。秋雨は霊夢の発言をよく吟味し、その上でもう言いたいことが分かったのか納得したように頷く。
「ああ……そういうことか。確かに、合気の視点からしてみれば不細工極まりないだろうね」
「ブサイク………ブサイク……ボクはブサイク───」
失意のまま兼一は体育座りで「の」という字を畳に書いていた。ショックが大きすぎたらしい。あちゃーっと、いじけている兼一の肩に手を置いて慰めようとする秋雨。
「霊夢が言いたいことは違うよ、兼一君」
「ウゥゥゥゥゥ~師匠~」
「君の受け身の取り方が、合気の視点では不格好だったということだよ」
「合気の、視点???」
「そう、らしいわね。まあ、他の武術の受け身の取り方なんて知らないけど、少なくとも私には不細工にしか見えなかったわ」
霊夢は説明する。今まで視た兼一の受け身の取り方は
それに兼一は疑問に思いながら反論する。師匠たちから教わったのはこの受け身の取り方しかなかったと。秋雨と寝転がっている逆鬼は何も言わず、けれど何故かニィと笑みを浮かべていた。
それを見た兼一は不気味に思い、霊夢はちょっとイラっとする。だが、それ以上に見てられないという感情が強かったため、面倒臭いながら動き出す。
「型は何でもいいのよ。ただ、そこに受け身を取るにあたって大事なモノが抜けてるってこと」
「大事なモノ?」
「ま、兼一さんのこれまでを見た限り、言葉よりも実際にやってみた方が早いでしょ」
そう告げると霊夢は立ち上がり、兼一たちの方へと歩いてくる。そして───
「秋雨さん、ちょっと変わってくれる?今回だけ、兼一さんと立ち合いたいから」
「ゑ」
「いいよ」
「ゑ」
「おう、やっちまえやっちまえ」
「ゑ」
「じゃ、やりましょうか」
「ゑ」
こうして、何時も見ることに徹していた(在住ではないが一応)梁山泊唯一の〝武道家〟博麗霊夢が、梁山泊一番弟子・白浜兼一に稽古を求めたのである。
───その結果が先程のものであった。
暫くして復帰した兼一は、正座して真正面に同じく正座している秋雨と、その隣に胡坐をかいている霊夢と一緒に先程の一戦を振り返った。逆鬼は酒が切れたと言って何処かへ出かけて行った。
「さて、兼一君。今の一戦で受け身はとれたかな?」
「いえ、全く取れませんでした。それどころか、投げられた勢いそのものさえ軽減できませんでした………」
「そりゃ、あんな力んでたら出来るものも出来ないわよ」
呆れたような声音で告げる霊夢の言葉は正しい。先程の兼一は誰がどう見たって力み過ぎであったのだから。だが、それだけとも言い切れない。霊夢の投げに対応できなかったのはもっと根本的な部分が出来ていなかったためである。
「まあ、兼一さんが今やっているのは土台作りであって、技の修行じゃないから仕方ないかもね」
「合気では最も最初に覚えるべきものだからね───〝脱力〟と〝呼吸〟は。今はそれ以上に兼一君の基礎を上げる為にどんどん投げ落として痛みに慣れさせるのが目的だったんだよ」
「あ~そういうこと。っていうかそこまでしないと駄目なのね、兼一さんって」
「うん、才能ないからね」
「ぐふぅ───ッ」
「傷ついてるわよ?」
「いいのいいの、事実だし」
「……ッ(この鬼師匠~)」
歯を食いしばって悔し気に涙を流す兼一とあまりにもあんまりな物言いをする秋雨に霊夢はちょっと引いた。が、残念ながら霊夢は
「さっき秋雨さんが言った通り、兼一さんが受け身を取る上でやんなきゃいけないこと。それは脱力───それも、〝全身の脱力〟よ」
「全身の脱力………」
合気道は無駄な力を使わず効率良く相手を制する合気道独特の力の使い方や感覚を『呼吸力』や『合気』などと表現し、これを会得することにより、また同時に合理的な体の運用・体捌きを用いて、
そんな合気道の技の基本形態は全部で五つある。
1.合気道の技は一般的に、相手の攻撃に対する防御技・返し技の形をとる
2.相手の攻撃線をかわすと同時に、相手の死角に直線的に踏み込んで行く「入身」や、相手の攻撃を円く捌き同方向へ導き流し無力化する「転換」など、合気道独特の体捌きによって、自分有利の位置と体勢を確保する
3.主に手刀を用いた接触点を通して、相手に呼吸を合わせて接触点が離れぬよう保ちつつ、「円の動き・らせんの動き」など「円転の理」をもって、相手の重心・体勢を崩れる方向に導いて行く
4.相手の側背面などの死角から相手に正対し、かつ自分の正中線上に相手を捕捉することにより、最小の力で相手の重心・体勢を容易にコントロールし導き崩す
5.体勢の崩れた相手に対し投げ技や固め技を掛ける
現代の合気道の形態は主にこの五つのプロセスを踏んで技を繰り出す。
合気道の基本的な投げ技は一教・四方投げ・入身投げ・小手返しといったモノ。
それらは受ける相手がいて成り立つ技である。だが技をかけられる者がいたとしても、合気道の知識や基礎足る呼吸法・脱力を体得していない者に対して振るうのは絶対にダメだ。
それら二つを体得していない者に投げ技以外をかけた場合、良くて大怪我、悪くて即死だ。尤も即死というのは打ち所が悪かった場合だが、それでも危険なことに変わりはない。
重心を瞬時に読み取ることが出来る者ならば、素人に技をかけたとしても、受け身を取らせることが出来るのだろうが、だからと言って素人にかけていい技は基本的な投げ以外は禁止されている。
「だから、合気道の稽古は脱力と呼吸が出来ない奴には投げ以外禁止なのよ。まあ、兼一さんは呼吸は別の武術でこれから覚えるとして……脱力は今から覚えるのは無理にしても、知ってはいた方が良いと思うわよ。受け身以外にも至る所で転用できるから」
「例えば身体が疲れ切っている時に全身の脱力をすればその疲れを一時的にだが誤魔化すことが出来る。若しくは、技の威力を上げる時にも脱力は使われるね」
「後、脱力と呼吸を組み合わせれば軽い打撲とか切り傷とかに対しての回復速度が上がるわ。より極めれば深手を負っても自力で出血を止めたりも出来るようになるわね」
「なんでそれを最初に教えてくれなかったんですか………」
「だって君、才能なかったんだもん」
「チクショーーーーーーッ!!!!!」
「また泣かせた………」
秋雨の言葉にはもっと別の意味が隠れていたのを霊夢は見逃さなかった。
彼が言いたいのは、その基礎を行うための土台すら出来ていなかったのだということ。そしてそれを素材から作り出すのが予想以上に時間がかかったということ。
それを要約してしまうと結局は兼一の才能がないということになるため、身も蓋もないなと霊夢はため息を零した。
「でもまあ、もう少し基礎を積めば全身の脱力は兎も角、部分的な脱力は教えてもいいんじゃない?」
「シクシク………え?」
「そうだね。もう少し積んで脱力を覚えれば、
「だ、そうだけど?」
霊夢はそう
「(修行が、格段に楽になる………楽になる………)───何してるんですか、岬越寺師匠」
兼一の目が変わったことに気付いた秋雨はフッと笑みを浮かべて兼一を見る。霊夢は一瞬哀れなものを見る目で兼一を見た後、立ち上がって境内へと向かう。
「修行を再開しましょう!!」
「よく言ったッ!!」
そして両者は立ち上がって修行を再開した。──────見事、秋雨の言葉に乗せられて。
秋雨は確かに言った。───“今の修行”は格段に楽になると。
だが、決して
寧ろ、秋雨はこう考えている。
・脱力と呼吸を習得すれば、兼一君の回復力が向上する
・回復力が向上すれば土台作りの効率が上がる
・つまりは修行の時間が増える
・或いは、よりきつい修業が行える
・兼一君は楽になるためにより深く呼吸し、より脱力に力を入れる
・よって修行の純度がさらに上げられる
「くッ──まだまだぁッ!!!」
嗚呼、哀れ───白浜兼一。彼は自ら地獄の深度を深めていることに気付いていなかった。
気付いた頃にはもう遅い。地獄は下ることは出来ても、這い上がることは地獄に住む鬼神たちですら出来ない。
いずれこうなる事は解っていた。何せ、白浜兼一は自ら地獄の窯の蓋を開けたのだから。
霊夢は神道の巫女である。
仏教徒でもなければ唯一神を崇める信徒でさえない。
だから、兼一少年の死後を祈ることはない。
死んでも仏になれるなどと言わないし、最後の審判なんてあるとも言わない。
ただ言えるのは────死体の処理は任せなさいという、厳しい現実だけだった。
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