天衣無縫の巫女 レイム 作:神降ろし
今回は長めです。
取り合えず、ラグナレク編終了です。
ケンイチ世界での博麗のこともちょこっと触れます。
次回からやる闇編の伏線ですね。
オリキャラこと先代博麗もちゃんと絡みます。
闇編に入れば。
それではどうぞ。
兼一が長老と共に一週間の山籠もり修行中、何時の間にやら出来ていたグループ・新白連合は喧嘩チーム・ラグナレクの総攻撃を受けて、『総督』
しかし、ラグナレク第四拳豪・ロキはその場を利用し、第二拳豪・バーサーカーをリーダーとする新体制を宣言し、反乱を起こした。………が、バーサーカーは現ラグナレクのリーダーにして第一拳豪・オーディーンを裏切ってなどいなかった。そしてバーサーカーは新生ラグナレクを名乗ったロキを含む九名を一瞬にして打ち倒し、ロキの野望は潰えたのだった。
ロキを倒したバーサーカーはオーディーンの側で待機し、オーディーンはその直後にラグナレクの下級兵たちに円陣を組ませ、新白連合を取り囲んだ。
再び絶体絶命の窮地へと追い込まれた彼等の真上───大きな衝撃音と共に落下してきたのは、今もなお修行の途中であるはずの白浜 兼一であった。
「あの廃工場で戦っているのかね?」
「ええ……………」
「ピク…ニック♪」
「煙が上がってるね」
丁度その頃、怪我人を引き連れて梁山泊一行が見物に来ていた。…………重箱と大きな風呂敷を持ちピクニック気分で。尚、ピクニック気分でいるのは怪我人と美羽、そして霊夢を除く全員である。尤も、霊夢は霊夢で意図は別として、お昼の弁当は持参してきているのだが。
「どれどれ……大勢いるね~~~」
「あぱ。本当よ」
「えっ?どこ、どこですか!?」
怪我人の内、最も重傷であった男ジークフリートは自身の痛みに耐えながら、秋雨たちが見つめる方向を凝視するも、工場群が見えるだけで人一人見つけることも出来なかった。
そこへどこから持ち出したのか、剣星がかなり高性能な望遠鏡を取り出して、ジークフリートへ貸し与える。
ジークが望遠鏡を覗いた直後、目を光らせながら此方へ急接近してくる巨漢の老人が見えたため、思わず飛び上がってしまった。そしてその件の老人は何時の間にやら最も後方にある大木に寄り掛かっていた。ジークは「風神様!?」と、今しがた目の前で起きたことが信じられない様子で呆然としている。
「皆の者、久しいの。今戻った」
「予定より早かったわね、長老」
「ん?まあの。兼ちゃんがどうしても友人の元へ駆け付けたいと言ったのでな。ワシも本気で走ったわ」
「あれ?兼一さんは?肝心の兼一さんは何処ですの?」
きょろきょろと辺りを見回す美羽をよそに、霊夢は廃工場の中央付近───大勢が少数を囲っている所に立つ兼一が
「あそこよあそこ、敵陣のど真ん中。落ち着いてよく視なさい」
「むむむ………」
霊夢にそう言われたことで美羽は荒んでいた心を落ち着かせ、つい最近やっと習得した全身の脱力を用いて心を深く鎮め、ゆっくりと瞳を閉じ、そして再度瞳を開いた。
「あっ、
ピョンピョンとはねて視えたことを喜ぶ美羽を横目で見ていた長老はそのことに驚き、目線を霊夢や秋雨に移して全てを察すると、納得と同時に感心した。自分たちが山籠もり修行している間に、美羽もまた自身の目標へ向かう修行を再開したと感じ取ったのだ。
「ホッホッホ、美羽の方も順調に修行を再開したようじゃの。そら、更によく視てみよ。修行明けというのに、やる気に満ち溢れておる兼ちゃんの姿を!!」
そのことを嬉しく思い、長老は笑みを浮かべて兼一の方へとまた視点を戻したのだった。
修行を中断し戻ってきた兼一が早速バーサーカーと争うのかと思いきや、修行によって疲れがたまっている兼一を抑え、先ずは剣星の兄・槍月の弟子にして第六拳豪・ハーミットがバーサーカーと対峙することとなった。相反する努力と才能という主張と共に激突する二人、結果としては「努力は才能を凌駕する」と断言したハーミットがその勝負を征した。
その発言が聴こえていた美羽は、ちらりと横目で霊夢を見る。何か反応があるかと気になって見てみたが、霊夢は普段通りの様子だった。普段通り───何にも興味がないと言いたげな静かな目をしている。
数秒彼女の横顔を眺めていた美羽だったが、すぐに廃工場へと視線を戻した。
「よしよし、メインイベントだぜ」
逆鬼が笑みを浮かべて見つめる先で、兼一とオーディーンが真っ向から対峙していた。
「それで、どうよ。兼一の修行の成果は」
「ほっほっ、その辺りの不良程度ならば楽にあしらえる程度にはしといたわい」
自信満々に答える長老が最後に残した「その辺りの…不良レベルなら…のう」という呟きを梁山泊の全員が拾っていた。美羽はそのことに一抹の不安を覚えるも、兼一の
とうとう───二人の“制空圏”が触れ合い、全力の突きの応酬が始まった。一週間前とは別人のように実力が増していた兼一に、霊夢も美羽も少なくない驚きを表情に浮かべていた。
一体何をすればこの短期間で、あれほど完成度の高い“制空圏”を才能のない兼一に習得させることが出来たのだろうと。
「「先に開展を求め、後に緊湊に至る」……、緊湊に至った一つ上のレベルの者同士の戦いは、殴り合うと言うよりむしろ陣取り合戦に近くなるね!」
「如何にも。将棋や碁と同じ」
「付け焼き刃にしちゃ、よく仕込んだじゃねえか」
「ほっほっ」
感嘆の言葉を告げる逆鬼だったが、兼一ではなくオーディーンを名乗っている少年の方へと目線を向けた途端、普段以上にその視線の鋭さが増した。
「しかしあの眼鏡……ただの不良じゃねえな。実戦用の武術を誰かに学んでやがる…」
「ふむ……如何にもそのようじゃ。ワシのよく知っておる男の流れが良く見え隠れしちょる………ほれ、噂をすれば師匠のお出ましじゃよ」
「「───ッ!!」」
師匠達全員が向ける視線の先、より廃工場に近い屋根の上に誰かがいた。霊夢も其方へ視線を向けるも、すぐさま“今はどうでもいい相手”と判断し、対決中の兼一らへと視線を戻す。
師匠達が極めて殺気に近い視線を向けた相手───名を、
果たして本名なのか、偽名なのかは分からないが、極めて危険な男であるという認識は間違っていない。
「ほーーー梁山泊御一行も見物か~~~~」
緒方は遠目から此方を睨みつける数名からの気当たりに笑みを返す。だが、そこに見慣れない気が
あまりにぼやけていて、けれど大きな、其処にいるのかいないのかもはっきりとしない気は、梁山泊がいる大木付近から発せられているようにも思える。
「………?誰かいるのか……いや、気のせいか」
「はてさて、梁山泊の弟子とうちの弟子。勝つのは一体どちらかな?」と、明らかに楽しみながら見物する緒方。
彼が気のせいだと思った気の持ち主───その正体を知り、驚愕と共に猛烈な感情を掻き立てられるのは、この後すぐの事となる。
新白連合とラグナレクの決戦にてバーサーカーは敗れ、兼一とオーディーンこと龍斗の戦いが始まってから暫くのこと───。
長老である風林寺 隼人の修行を受けた兼一の実力は、以前より飛躍的に上昇していた。だがそれでも、龍斗の実力は兼一のはるか上を行く。
常に兼一を凌駕し続ける龍斗だったが、ジークフリートから龍斗の持つリズムを読む能力を教えられた兼一の、梁山泊の師匠になりきるという荒業により自らの攻撃のリズムを狂わせられる。幾度となくリズムが変貌する兼一に、予知能力が使えなくなった龍斗は初めて劣勢に立たされる。だが───
「まだ、だッ!!───コ ォ ォ ォ ォ オ オ オ オ オ ッ゛ !!!」
瞬間───長老たちは龍斗の纏う気が急激に膨張するのを感じ取った。霊夢はその姿を見て不快げに眉を顰め、すっと音もなく立ち上がった。だが、そんな霊夢の前に秋雨が無言で左手を出し、止まるよう制した。彼の表情もまた、霊夢のように険しく、そして誰かに向けて怒りを放っていた。
「あやつ…動の者の気と静の者の気を同時に発動しよった……ッ」
「動と静、相容れぬ二つの気を発動するなど……言ってしまえば、密閉した瓶の中で火薬を爆発させ続けるようなモノね。確かに一時的には強力で正確無比な攻撃が可能かもしれんがね……」
「良くても肉体……最悪精神が崩壊して廃人になりかねねぇぜ!!」
「許せぬ……己の弟子を実験に使うなど……ッ───霊夢ッ!?」
突如───自身を制していた秋雨の一瞬の隙を突き、疾風の如く駆け抜けていった霊夢。その尋常ではない速さは水面を駆けても尚健在であり、既に川の中間にまで到達していた。それに逸早く反応したしぐれを始めとし、順に長老、アパチャイ、逆鬼、剣星、最後に秋雨の順で霊夢を追いかけた。
一方その頃、静と動の気を同時に発動した龍斗に兼一は手も足も出ず、とうとう止めを刺されてしまうという場面に来ていた。それを見た緒方は兼一をこのまま潰してしまうには惜しい人材と思ったのか、二人とも連れて帰ることにしたようだ。屋根と屋根を飛び越えていくその様は、自身の弟子であり、弟子級上位に位置している龍斗でさえ未だ不可能な達人技と言う他ない。
───そんな緒方へ、
「何────クッ!!!!?」
投げ飛ばされたという実感を得て、瞬時に身体を空中でひねることで体勢を立て直す。しかし投げられた勢いを殺しきれていなかったのか、平面の屋根が直角に曲がってしまう程の衝撃で降り立った緒方は、すぐさま自身の気を開放し、己を投げた張本人を探し出す。
「一体何者だ……?」
「私は兼一さんの師匠じゃないけれど……まあ、言うべきことは変わらないからいいわよね」
「───ッ(思いのほか若い声だ……それに女か?)」
誰かもわからず、何処で会ったかもわからない声の主に当たりをつけ、その声のするところへと視線を向けた。すると─────
「弟子の喧嘩に…師匠が出てんじゃないわよ」
其処には、自身の弟子と梁山泊の弟子……双方とそう変わらないくらいの年齢の、しかしその二人を足したとしても決して届くことのない、何故今まで近くにいたことに気付けなかったのかと思う程の気を持った、特徴的な赤いリボンと巫女服が似合う美しい少女が凛として佇んでいた。
己の弟子と同じくらいの齢の少女が達人級である自身を投げ飛ばしたのかと、緒方は呆然とする。───そしてそれが運の尽き。
「やれやれ………言いたいことは言われてしまったが、まあそういうことだよ。緒方一神斎」
霊夢の隣に降り立った秋雨を始めとした梁山泊の達人たち全員が、緒方を取り囲んでいた。
「まあ取り敢えず、黙って見とけっちゅうことじゃ、
「……………ッ!!」
歯を食いしばって苛立ちを抑える緒方に、長老は不敵な笑みを浮かべて返すのみ。緒方は梁山泊の者共を一瞥した後、先程己を投げ飛ばした巫女服姿の少女───霊夢へと視線を戻す。
その頃にはもう苛立ち以上に彼女への興味が勝っており、ニィと口元を釣り上げて不気味な笑みを浮かべていた。
「知らなかったなぁ……梁山泊がもう一人弟子を取ってたなんて。それに、白浜兼一君とは別格も別格、次元違いの弟子じゃないか」
「違うわよ」
「霊夢、やめなさい」
否定の意を告げる霊夢に対し、言葉によって制しようとする秋雨。それにワザとらしく反応する緒方は、少女から更に情報を引き出さんと声を張り上げる。
「違う!?ならば君は梁山泊の何なのだね!!」
「梁山泊の弟子って言うよりも、梁山泊が私の後見人なのよ」
「霊夢ッ!!」
「どうせいつかはバレることよ。隠してもしょうがないわ」
諫める秋雨にごく自然に返す霊夢。確かにその通りだと思ったのか、秋雨は黙ってしまう。それは長老らも同じらしく、その様を見た緒方はもう我慢できないと嗤いながら霊夢へ問う。
「ならばッ!!!ズバリ問いかけよう!!君は一体何者だッ!!」
達人級の本気の気当たりを放ちながら、緒方は両の手を広げて構えをとる。格下であったのならばこの気当たり一つで十分。だが、そうではないと確信しているが故に、だからこそ本気の本気で放つのだ。観の目で見ても尚、底が知れない彼女の全てを見通すために。
「霊夢───博麗 霊夢よ」
呼吸が止まるのが分かった。
余りに無防備。余りに自然体。けれどどこにも隙は無く、攻めれば全てを返される。
彼女の実力は数々の弟子たちを見てきた緒方の経験から言えば、大雑把に見たとしても未だ達人級には及んでいない。しかし、その評価を覆して有り余るほどの絶大な気の波動。
彼女が内包しているであろうモノは、果たして如何ほどか。──────
更には、彼女の顔には微塵も恐怖が浮かんでいない。それどころか、警戒さえしてないのだ。この己が放つ気に対して───微塵も。
そして、彼女が名乗った“博麗”の姓。
「ハ…ハハ……ハハハ…ハハハハハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ッ !!!!!」
狂ったように嗤う緒方。その興奮につられてか、放たれる気もまた絶大なモノへと膨れ上がる。されど暖簾に腕押しと言わんばかりに、何一つとして心を乱すことなく佇む霊夢。 やがて落ち着きを取り戻したのか、気の収束を始めた緒方は、人差し指を霊夢へ突きつけて言い放つ。
「そうかッ、君が
納得したとも取れる発言をしながら、緒方は次第に物欲しそうな眼を霊夢へ向ける。
「いいなぁ…梁山泊。今代の博麗の少女を獲得するなんて。でも、君を見る限り、まだ思想的には
その言葉を告げた途端、全方位から途轍もない気当たりが緒方に向けられる。
「怖い怖い。でも図星だろ?彼女は全く否定してないよ」
達人級の敵意を全方位から向けられながら、緒方は片時も目線を霊夢から逸らしていない。そんな緒方に霊夢は訝し気にしながらも、どうでもいいと言いたげに言葉を吐き捨てる。
「当たり前でしょ。活人だの殺人だの……鬱陶しいにもほどがあるわ」
「っハハハ!!……なら
「そっちに行ったとして、私が得るものは何もないわ。だから勧誘なんてしないでね」
「……………」
はっきりと拒絶の意を告げる霊夢に、緒方は二の句を継げない。その様に長老は心底ざまぁみろと無言で告げた。無論、他の師匠達も同様に。
その返答を聞いて、緒方はひどくがっかりしていた。どうせならば自らの意思でこちら側へ来て貰いたかったと。
「まあ……今は
今は諦める。言葉の裏にそんな念を隠しながらも諦めきれていない緒方は、一先ず自身の弟子と梁山泊の弟子との決着を見届けることにしたのだった。
そして、苛烈を極める幼馴染同士の喧嘩は、とうとう最終局面へと至った。
ラグナレク最強の第一拳豪・オーディーンこと
こうして、ラグナレクと新白連合の抗争は終結に導かれた。だが、これで終わりではない。寧ろこれからが始まりなのだと、時を置かずして兼一たちは知ることになる。
それは兼一だけではない。美羽も、梁山泊も、新白連合も、霊夢も、果てには世界までも巻き込むほどの大戦へと発展していくのだが………今回は此処まで。
今は、兼一個人の因縁に終止符を打てたことを純粋に喜ぶとしよう。
そう、霊夢は彼女らしくない笑みで帰ってきた兼一と迎えに来た美羽を見つめるのだった。
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