「我が艦の被害は?」
「第6から第9対空砲座が大破 2番主砲塔ターレットリングが大破し、使用不可能 左舷4第ブロックと第9ブロックが破壊され魔導回路が一部、機能しません。」
「戦艦ガラティーン 巡洋艦ロンゴミアンゴが轟沈。戦艦クラレントも大破し、これ以上の航行は不可能。自沈処理並びに総員退艦を命じております。」
「その他にも魔導艦3隻 小型艦8隻が大破、中破し艦隊から離脱しました。」
「大破した艦艇は総員退艦した上で、自沈させました…」
「…壊滅……いや…これでは全滅ではないか……」
戦艦コールブランドで第零式魔導艦隊司令長官チェスター・バティスタは血の気の引いた顔でそう呟いた。
第零式魔導艦隊 神聖ミリシアル帝国が誇る精鋭部隊であり文字通り、世界最強の艦隊である。母港のカルトアルパスからルーンポリス防衛の為に派遣され、周辺海域をパトロールしている最中に銀河帝国の侵攻を受ける。上空を我が物顔で飛行する謎の飛行物体を迎撃すべくルーンポリス港に向かうが、その結果は無残なものであった。
「シェキナー返答せず!通信に応答がありません!」
「シェキナーは…恐らくダメでしょう。既に空母としての機能を失っています。」
「まさか、航空機ごときにロデオス級がやられるとは…」
バティスタ達は艦橋から洋上に目を向ける。洋上ではロデオス級航空魔導母艦シェキナーが海上のキャンプファイアーと化していた。
続々とルーンポリス上空に集結する世界連合軍に合流する為に当然、シェキナーも艦載機を発進させようとしたが、一歩遅かった。艦載機が発進する前に敵の航空部隊が空襲をしかけてきたのだ。
連合軍の天の浮舟や航空機、ワイバーンを鎧袖一触のごとく粉砕、突破した一部の部隊は、軍事拠点であるルーンポリス港を爆撃するのは、むしろ当然の帰結であった。ゴールド級戦艦ガラティーンが真っ先に、その洗礼を受けた。
タイファイターの1機が投下したプロトン爆弾が船体後部に直撃、装甲を強化していなかった事もあり、呆気なく貫通し船体内部で爆発。そのまま轟沈することになった。
最新型のミスリル級である戦艦クラレントは装甲強化が間に合った事もあり轟沈こそしなかったがプロトン魚雷が艦橋下部に直撃。艦橋そのものを吹き飛ばし、艦としての機能を全て奪われる事になった。ロデオス級航空魔導母艦シェキナーはこの状況下でも艦載機を発進させようとしたが結局の所、全て無駄であった。
シェキナーとその僚艦は接近するタイファイターに対空砲火を浴びせるが、たやすく回避された挙げ句、機銃掃射を許す事になった。甲板上にはエルペシオ3とジグラント3が満載されており、しかもジグラントは爆装が施されていた。タイファイターに搭載されているL-s1レーザー砲は、呆気なくエルペシオとジグラントの装甲を溶かし、内蔵されていた液体魔石に引火、炎上し、魔導砲弾と航空爆弾が誘爆するのに時間はかからなかった。更に不運は重なり、バティスタ達は知らなかったが、爆発し、吹き飛ばされたエルペシオの魔導エンジンが艦橋に飛び込み、艦橋内部で爆発、艦長を含むシェキナーの主要幹部全員が戦死していた。
魔導艦と小型艦に至っては装甲を強化していたのにも関わらずレーザー砲の掃射だけで装甲をズタズタにされ、浸水し沈没する艦や、運悪く弾薬庫か、タービン室に直撃を受けて爆発、轟沈する艦が相次いだ。
この時点で零式魔導艦隊は艦隊の7割から8割を喪失し本来ルーンポリス港の防衛を担っていた本国防衛艦隊も小型の哨戒艇を残して全滅し、ルーンポリス港はなんの妨害を受ける事も無く帝国軍の爆撃に晒される事になった。液体魔石の精製施設や倉庫、空港が爆撃を受けて炎上し、停泊中のタンカーや旅客船が次々と沈められるのを彼らは見ている事しか出来なかったのだ。
「認識を改めるべきです。敵は魔帝、いや、それ以上の技術力を持っているという事を。今までの我々の常識が通じないという事を」
戦艦コールブランド艦長オスカー・クロムウェル大佐はそう言った。敵の航空機はわずかな数で世界最強とも言われた零式魔導艦隊を事実上の壊滅にまで追い込んだのだ。認めざるを得なかったのだ。そして何より…
「クロムウェル君…だが、これは本当なのかね…?」
「はい…味方の航空部隊からも報告は…ありません…ただの1機もです。」
「これだけの…損害が…犠牲があったというに…敵機を1機も撃墜できていないという事なのかっ!!」
バティスタはテーブルに拳を叩きつける。衝撃で資料が散らばるが、その内容はバティスタやクロムウェル達にとって目を覆いたくなるような内容だった。
無線を傍受した限り、敵機の撃墜、撃破の報告は全く無く。逆に墜落した味方機の残骸で市内が地獄と化しており、混乱と絶望が事細かく書かれていた。
「何か打つ手は無いのか…このまま帝都と友軍が燃やされていくのを只、黙ってみていろというのか…」
バティスタは嘆く。すでに空母は無く、艦隊の主力たる戦艦も自分の乗るコールブランドも小破。そもそも戦艦では上空を我が物顔で飛び回る敵機を撃墜できないのだ。
「……方法はあります。〘アレ〙を使いましょう。」
「まさか…〘アレ〙を使うというのか…だがしかし…もしも失敗して、街に落ちれば大惨事になりかねん…」
もともと零式魔導艦隊は魔帝こと、ラヴァーナル帝国の技術を解析して、得た技術で作った艦を集めて結成された艦隊であり、そのため最新型の艦艇や装備を優先的に配備されていた。彼らが話している〘アレ〙もその一つであった。
「今は帝国存亡の危機…迷っている暇はありませんっ!司令官殿!ご許可を!」
「分かった…許可しよう。各班に命令を 目標は敵、巨大飛行物体に設定せよ。母艦を破壊すれば奴らも迂闊には攻撃できんはずだ。」
「ハッ!」
「了解しました!」
「味方残存兵力を立て直す。本国艦隊と第4から第7艦隊に魔信を繋げ、合流する。ムー艦隊を含む他国艦隊にも連絡を。時間は無いぞ。早急にかかってくれ」
バティスタは腹をくくる。失敗すれば軍法会議は間違いない。いや、無許可で対魔帝用の装備を使用する以上、成功しても責任の追求は受けるだろう。
(それでも祖国が滅びるよりかはマシだ。)
「ガンマ5!機首を上げろ!ガンマ5!」
『ダメだ!操縦桿がおかしい!操作出来ないっ!』
直後、ガンマ5のエルペシオ3がビルに突っ込むのをガンマ3ことハンス・ヴィッカース少尉は見る事になる。
「クソっ!」
『ガンマ3!前方11時の方向に味方の部隊が!追われているみたいだぞ!』
『ジグラント2だ!例の一つ目が3機!』
ルーンポリス上空で繰り広げられた空中戦。しかし、諸国連合軍は苦戦を強いられていた。当初は数の差もあり、有利に戦いを進められると思われたが、敵艦からの増援が到着してからは戦線を次々と突破され、今では戦力の7割から8割を喪失。敵部隊も制空権の確保から、地上の対空陣地や、重要施設の破壊にシフトしつつあり、数の差もあり彼らには為す術がなかった。
(巨大艦に突撃していった奴らは全滅…おまけに、あの飛行機械…なんて性能なんだ…)
彼らが相手にしていた飛行機械、正確にはTIE/LN制宙スターファイター 通称❲タイファイター❳は彼ら、ミリシアル軍が配備しているエルペシオシリーズやジグラントシリーズを遥かに超える性能を有していた。
まずは速度の面から見れば、ミリシアル軍の最新型エルペシオ3の最高速度が530キロで、巡航速度が440キロを出せる。
一方、銀河帝国が採用しているタイファイターは大気圏内では最高速度1200キロ、巡航速度1100キロであり、エルペシオ3が最高速度を出してもタイファイターには、まず追いつけないのだ。戦闘機どうしの空中戦、つまりドッグファイトにおいて相手よりも速度が速ければ有利になる。この時点でエルペシオ3はタイファイターに対して、かなり厳しい差があった。
武装の面から見ればエルペシオ3はアクタイオン20mm砲を装備しており、フレームの接合部分を狙えばタイファイターを撃破する事ができる。しかし、有利な位置を取る前にタイファイターには逃られてしまう。先述したように速度が遅すぎるのだ。例え、強力な武器を搭載していても当たらなければ何の意味も無い。タイファイターのL-s1レーザー砲はスターファイターとしては一般的な性能だったが、パイロットの任意で威力を上げる事ができ、総合的な性能で上回る反乱同盟軍のXウイングや防御力が高いYウイングを撃墜した例もあるなど、決して侮れない性能を持っていた。
それに加えて小型軽量な機体は格闘戦に強く、格闘戦に向いていないエルペシオでは勝ち目など無きに等しかった。
「ん?1機が反転してくるぞ。こっちに気づいたみたいだ。」
ジグラント2を追跡していた敵の一つ目(タイファイター)の内、1機が反転しハンスらの編隊に向かってくる。
「気をつけろ…奴らの方が射程が長い。」
『ヘッドオンか…舐めやがって…』
明らかに自分達を侮る敵に憤るパイロット達。とはいえ唯我の戦力が圧倒的に違っている事を理解できない程、彼らは無能ではない。
「3機で囲む!同時に仕掛けるぞ!」
『分かってる!』
『隊長達の仇を取ってやるっ!』
徐々に近づく敵の機体。ハンスは武装の安全装備を外し、いつでも撃てるようにした。
(さあ、何処から仕掛ける?隙を見せた時がお前の最期だ!)
敵の機体は直進し続ける。相対的に見ても既に敵の射程内に入った筈だ。だが……
「…何故、撃たない?」
『お…おい…どうなっているんだ?』『罠じゃないのか?!』
敵機は未だに動きを見せず自分達に向けて直進し続ける。
(うっ……なんだ…?この嫌なプレッシャーは……?)
ハンスは自身の手が震えている事に気づいた。心臓の鼓動が激しくなり、狭いコックピットの中が急速に冷えていく様な感覚に襲われた。猛烈な息苦しさと深い孤独感が彼の心を満たし、不安と恐怖が彼の脳内に、濃霧の様に充満し始めた。
(い……嫌だ…!この感覚……!こ…怖い……!お…恐ろしい…!?)
それは、余りにも唐突で、何故、恐ろしいと思ったのか彼自身も理解出来ない物だった。彼の脳裏に、幼い頃、両親に動物園に連れて行ってもらった事を思い出した。珍しい見た事の無い動物達を目を輝して見ていた時、ふと、端にある檻に興味を引かれた。檻の中にはルアキューレがいた。3つの顔と6つの目がじっと幼い彼を見据えていた。
(……そうだ…あの時と同じだ……)
父は檻に入っているから心配無いよと、言ったらしいが当時の彼の耳には入らなかった。全身が金縛りにあった様に動けなくなった。あの黄色い瞳に、剥き出しの野生に、純粋で冷酷なそれこそ、感情の存在しない漆黒の殺意をまともに受けて体が竦んだ。生まれて初めて本能的な恐怖そのものを知ったのだ。
「……う……うおおぉーーー!!!」
『お…おい!どうした!?』『予定と違うぞ!』
気が付いた時には機関砲のトリガーを思い切り引いていた。
(撃たなければ殺られる!)
『えぇいっ!クソっ!!』『もうどうにでもなれっ!!』
放たれた20mmはこちらに向けて突進する敵機に殺到する。直撃すれば人間など一瞬で血煙に化し、軍用魔導車やエルペシオの装甲すらもズタズタにする程の威力だ。だが……
(ま…まさかぶつける気か!?)
敵機は最小限の動きで射線を回避し、そのままハンスの乗るエルペシオに直進する。
(くっ……!)
あわや激突する寸前、敵機は機体を回転させてハンスの頭上スレスレを飛び去って行く。衝撃がコックピットを震わせ、機体のフレームを揺らす。
「嘘だろ……」
『見たか……?なんて腕だ……』
『信じられん……奴は死ぬのが怖くないのか…?』
思わず呆然とするハンスと僚機達。
(だが…何故、あんな曲芸飛行じみた真似を…?)
だが、ハンスは直ぐに敵機の意図を知る事になる。
『ガッ……!!』
「なっ…!」『ガンマ3!気をつけろっ!うわっ!!』
「み……みんな!!どっ…何処からだ!?まさか……!」
ハンスは咄嗟に、操縦桿を倒し機体をバンクさせようとしたが……
「グワッ!!」
後方から突き上げる様な衝撃と振動が轟き、小規模な爆発音と共に紅蓮の炎が彼を包む。
「あァァァ!!あっ、熱い!!!…ひ…火がっ!熱い!!あぁ!!!も…燃える!!だ…誰かっ!!助け……!うぁ!」
悲鳴を上げながら衣服に燃え広がりつつある炎を叩いて消そうとするが、コックピット内で気化しつつある液体魔石が充満した状態では無意味であった。
気管支と肺を焼かれ、呼吸すら出来なくなったハンスは朦朧とした意識の中で自分達を攻撃したであろう敵機を見た。
「な……何で……後ろ向きで……飛んで……」
「………」
ベイダーは自機である〘タイ・アドバンスト×1〙のコックピット内で火球と化した3機のエルペシオを眺める。最後の1機が空中で爆発、四散するのを確認すると操縦桿を倒し、機体を反転させ、前方に戻した。視界が反転し、凄まじいGがかかるが今の彼には問題無い。惑星ムスタファーでの屈辱的な敗北の結果、彼の肉体の大半はサイバネティックスで補われている。
「!!……!!………!」
「問題無い。イオンエンジンの出力を30から50%に変更せよ。」
自機に搭載された黒い帝国軍仕様のR2ユニットに指示を出しながら、自身も計器の操作を行う。
「レーザー砲の照準システムと反応速度が合わん。先程の戦闘データとリンクさせ修正せよ。」
ベイダーが乗るタイ・アドバンストは元々はタイ・シリーズの次世代新型機の試作機であり、更に彼用にチューンナップ(半分はベイダーの趣味)された事により、扱いづらく操作性が悪い反面、ノーマル型のタイファイター以上の武装と火力、ハイパードライブシステムにシールド発生装置を搭載するという両極端な機体に仕上がっていた。実際に飛ばして見たが、重力下という状況もあり、システム上の不具合もかなり有り、それらを洗い出し、修正しながら戦闘を行っていた。
「ドロイド。リミッターを外せ。これでは本来の性能を発揮出来ん。」
「?!………!……」
「機体に負荷が掛かりすぎるだと?案ずるな。あの程度でこの機体は墜落せん」
ベイダーが先程のハンスらのエルペシオ隊を撃墜した戦法は、既に以前使った事がある方法に改良を加えた物だった。
ロザル包囲戦でベイダーは、当時、反乱軍最大勢力であったフェニックス戦隊を単騎で壊滅させた。その際、自機を追撃するAウイング・インターセプターを自機のエンジンを切り、反転させて後ろ向きに飛行し、逆に返り討ちにするという戦法を編み出していた。今回、使った戦法はそれのアレンジとも言える。
「機体のバランス性が悪いだと?馬鹿を言え。だからこそ改造する意味がある。」
「?????」
「面白味の無い奴だ」
杓子定規の反応しか示せないドロイドに思わず呟くベイダー。
ふと、彼の脳裏に青と白のドロイドの姿が思い浮かんだ。かつて、彼にとって一番の相棒で、幾多の危機を共に乗り越えた戦友の姿が。
「………」
「…!??…?」
「詮索するで無い。任務に集中せよ」
「???」
そして、二度と会う事が無いであろう親友の姿が
「過ぎた事だ」
マスクのせいで彼の表情は分からなかった。だが、その声は、どこか寂しげであった。
設定集とか作った方が良いのでしょうか?
感想待ってます。