銀河帝国召喚   作:秋山大祭り

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第11話 終焉の空

 「熱いっ!熱いっ!!機体に火が!!?」「大隊長騎がやられた!!」「そこのワイバーン!後ろに付かれているぞっ!」「ダメだっ!振り切れ無いっ!!うわぁーー!!」「誰か……!指示をくれっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ダメだ……」

 

 

 

 

 

 

 「………とても……敵わない……」

 

 

 

 

 

 コックピットの中でゴール・ドグマ中佐は絶望に満ちた表情で、そう呟いた。

 

 

 (……こんな筈ではなかった……)

 

 魔信と無線から聞こえてくるのは逃げ惑う味方機の悲鳴と断末魔の叫びのみとなって暫く経った。 そして、それすらも徐々に減りつつあった。ゴールはまるで自分達がペッパーミルで粉砕されるコショウの様な気分であった。そして、それはある意味当たっていた。今の彼等は戦争という巨大で冷酷な機械に巻き込まれ、抵抗する術も無く、ただ踏み砕かれ蹂躙されるのを待つだけしか無かったのだから

 

 「……今の我々では勝てない……」

 

 

 

 

 既に、敵の飛行機械はルーンポリス上空を覆い尽くす程の物量で、彼等、世界連合軍航空戦力を圧倒、今では殲滅戦に移行しつつあった。当初は、世界連合軍の増援部隊の到着もあり、数的には有利な状況であったが、敵側も直ぐに増援を出し、数的な優位を失った。更に敵の飛行機械はミリシアル側の最新鋭機たるエルペシオ3を軽く凌駕する性能を有しており、数と性能の差で圧倒された事により、世界連合軍部隊は完全に勝ち目を失い、元々、多国籍軍、悪く言えば烏合の衆でしかなかった世界連合軍の士気はガタ落ちし、今では連携すら取れず、敵の飛行機械から逃げ回る事しかできなかった。

 

 

 

 「……終わりだ……神聖ミリシアル帝国は……この世界は…」

 

 ゴールは絶望し、憔悴しきった様子でそう呟いた。既に彼は僚機を失っていた。ベータ2はドッグファイトの末に撃墜され、ベータ12も気が付いたらいなくなっていた。恐らくは彼も撃墜されたのだろう。帝都ルーンポリスは地獄の業火で焼かれていた。撃墜された天の浮舟やワイバーンが街のあちこちに墜ちて、ビルを人々を紅蓮の炎で包みこんでいた。本来ならばそんな人々を守る為に戦ったというのに、余りにも皮肉で非情な結果となってしまった。

 

 「…………」

 

 彼の機体は既にボロボロだった。敵の光線兵器を何とか回避してきたが、かすった光線の粒子が彼の乗るエルペシオ3の表面を溶かし、本来ならばミリシアルの国章が描かれている場所も今では何が描いてあるのか分からなくなっていた。無理な低空飛行と急上昇を繰り返した事で機体のフレームは歪み、時説、金属が軋む不気味な音が聞こえた。

 

 そんなコックピットから街の様子は手に取る様に見れた。轟音を立てながら根本から崩れ行くビル。一縷の望みに掛けてか、或いは焼死するよりかはマシと考えてか、もしくはそんな事を考える余裕も無いのか、業火に燃える高層ビルから身投げする人々。決死の表情で軍用魔導車に備え付けられた魔光砲で敵の飛行機械を撃ち続ける兵士。だが、敵の飛行機械に容易く回避しされた挙句、逆に数機掛かりで集中砲火を受けてスクラップに成り果てる。

 メインストリートでは更に凄惨な光景が繰り広げられていた。アスファルトの上に散乱する炭化した人型の物体に、赤い血だまりの中に転がった肉片の数々、そして安全な場所に避難しようとする人々。そこに燃える魔導車が人々の列の中に突っ込み爆発炎上する。はね飛ばされ、硬い地面に叩きつけられる者。車輪の下敷きになり、全身の骨を砕かれ、内蔵が破裂しても死ねずに殺してくれ、と叫ぶ者。炎に包まれた運転手が魔導車から飛び出し、火を消そうと地面のアスファルトの上を転げ回る……

 ありとあらゆる地獄が繰り広げられていた。

 

 街頭に親子連れの姿が見えた。もっとも、正確には親子連れだったものだったが。一人の少年が地面に倒れている両親らしき男女を必死に起こそうとしていた。だが、二人が起きて少年を抱きしめる事は永遠に無いだろう。何故なら、その二人の上半身を何トンもあろうコンクリート片が押し潰していたからだ。

 ゴールの乗るエルペシオの轟音に気付いたのか、少年は涙に濡れた顔をこちらに向ける。視線がぶつかった。

 

 「っ…!!」 

 

 思わず息を呑むゴール。一瞬、少年が見せた憧憬の目線も直ぐに消え失せ、憎悪と失望の目線に変わる。

 

 

 

 

 『どうして助けてくれないんだっ!!』

 

 

 言葉を交わさずとも、その少年が何を言いたいのかその激しい憎しみのこもった目線だけで理解出来た。 

 

 『守ると言ったじゃないか!』

 

 『何で何もしてくれないの……?』

 

 『お前達のせいで……!』

 

 他の場所にも目を向ける。たが、市民の目は先程、見た少年と同じ様なものだった。ある者は力無く失望した様な目を向け、ある者は明確に敵意と憎悪の目線をゴールに投げ掛ける。それがゴールの心を更にズタズタに引き裂いた。

 

 

 「すまない……すまない……!」

 

 ゴールの心は完全に折れてしまっていた。今では闘志すら湧かない。そんな彼にもゆっくりと死神は近づく。

 

 (フッ…俺も年貢の納め時か……)

 

 ゴールの乗るエルペシオ3の背後に敵の飛行機械が近付く。敵機は逃げようともしないゴールの機体を楽な獲物と思ったのか慎重に照準を合わせる。ゴールには逃げる術も無ければ、それを実行するだけの手段も無かった。既に彼の乗るエルペシオは半壊寸前、燃料も殆ど残っておらず、弾薬も底をついていた。何よりもゴールには抵抗する事も逃げる気力すらも既に無かったからだ。

 

 「これも……報いか……」

 

 守るべき民を救えなかった。仲間達と部下を見殺しにした。もはや自分が生きのびている意味も理由も分からなくなっていた。ならば、ここで死ぬのは寧ろ自身への報いだと彼は思った。ゴールは全てを諦め、操縦桿から手を離す。

 

 (いや……これでいいんだ……)

 

 ここで死ぬのも全て、初めから決まっていた運命に思えた。只々、虚しさのみが彼の心を満たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『隊長ーーーーー!!!』

 

 

 瞬間、彼の乗るエルペシオの後方から閃光と爆音が鳴り響く。

 

 「!?」

 

 何が起きたのか!?咄嗟に振り返るゴール。そこには爆炎に包まれる敵機がいた。だか、その爆炎の中に見慣れた物体も見えた。

 

 「……ベータ12………?」

 

 それはエルペシオ3の尾翼であった。そこには12の番号が刻印されていた。

 

 「な…何故だ……」

 

 ゴールは驚愕する。彼を救ったのは、とうに死んだと思っていたベータ12だったのだ。ゴールを救うべく、彼はタイファイターに特攻を仕掛けたのだ。

 

 (何故だっ!これ以上、俺に苦しめと言うのかっ!?)

 

 自分に一体、何が出来る?誰も救えなかった男が?寧ろ彼の様な勇敢な若者こそ生きるべきではないのか?!神よ!何故だっ!?

 

 (何故だっ!何故だっ!何故だっ!?)

 

 終わりの無い自問自答の叫びを投げ掛けながらも、彼の乗るエルペシオは飛び続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…何故だ……何故……」

 

 気が付いた時には彼はルーンポリスから離れた高原の上を滑空していた。機体の表示形の大半が使い物にならず、僅かに使える高度計の針はグングン下がり、燃料計はピクリとも再下降の位置から動かなかった。

 

 「………」

 

 朧気な意識の中、半ば、朦朧とした状態で不時着するべく、ギランディングアを降ろす。整地されていない地面が徐々に近づき、ついにランディングギアのタイヤと接触する。

 

 「……っ!!」

 

 激しい振動が彼を襲い、地面に二本のタイヤ痕を残す。だが、次の瞬間、先程とは比べ物にならない程の振動が彼を襲う。左翼側のランディングギアが根本からへし折れ、主翼が土を削りながら勢い良く滑る。

 

 「……くっ……!」

 

 舌を噛まない様に歯を食い縛りながらガタガタと揺れる操縦桿をしっかり掴む。その時、左翼側主翼がついに根本からもぎ取られ機体が横向きに地面を滑る。

 

 (ここまでか…)

 

 あわや、機体が横倒しになりかけるが、かろうじて持ち直し、数メートル程、土を抉った末に停止した。エンジン部分からは白煙こそ出ているものの爆発する事は無いだろう。燃料を全て、使い切っていたからだ。ゴールは痛む全身を解しながらコックピットから出る。

 

 

 

 

 「………」

 

 ゴールは近くにあった切り株に腰を掛ける。そして出撃前にもらった葉巻きを胸ポケットから取り出す。先端を歯で噛み切り、吸口を作り反対側に火を付ける。紫煙をゆっくりと、吸い込み吐き出す。数回、同じ動作をした後、葉巻きをその場に捨て、代わりに魔導拳銃を取り出す。しばらく見つめた後に、安全装備を解除し銃口をくわえる。

 

 「………」

 

 いざ、引き金を引こうとした時、目の前に転がる、まだ、火の付いた葉巻きが目に入った。ゴールは出撃前の事を思い出していた。

 

 

 

 (ゲホッ!ゲホッ!!うげぇ〜!よくこんなの吸えますね…)

 

 (はっ!坊主には、まだ早かったな。)

 

 (それの味が分かるようになればお前さんも立派なエルペシオ乗りさ。)

 

 (なっ!自分は上手く乗りこなせますよ!この前まで航空学校にいたんですから!)

 

 (ハハハ!技術がどうのって話じゃ無いんだよ。ルーキー)

 

 

 

 ベータ12は今年、入隊したばかりの新兵であった。年齢も二十歳を過ぎたばかりだった、純粋で素朴な性格ながらも若者らしい向上心に溢れた青年だった。隊員全員から可愛がられていた。

 

 (隊長からも何とか言ってくださいよ!)

 

 ((そこまでにしておけ。ベータ7。誰にでも初めてという物はあるんだ。あまり、新米をいじめてやるな。))

 

 (確かに!初めてというのは感慨深い物ですな。隊長!)

 

 (お前さんは少し控えた方が良いな。肺が持たんぞ?)

 

 (隊長。コイツが肺ガン程度で死ぬと思いますかい?)

 

 (ハハッ!確かに殺しても死なねぇ男だからな!)

 

 (てめぇ等!言いたい放題言うんじゃねぇ!)

 

 他愛のない話、いくらでも話せると思っていた。しかし、今となってはそれは叶わない夢となっていた。もう彼等には会えないのだから。

 

 「……っく……うぅっ…!!……」

 

 ゴールの手から拳銃が滑り落ちる。震える両の掌で顔を覆い、やがて堰を切ったように涙が溢れ出した。心の底から湧き上がる濁流の様な感情の波を抑えるには、只々、泣く事しかできなかった。彼の心に様々な光景が浮かんでは消えていった。既に他界した両親の事、幼き日の思い出、初めて出来た恋人、そして燃える街並み、最後に浮かんだのはベータ中隊のメンバーとの日々だった。

 誰もいない平原に男の慟哭のみが虚しく悲しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央歴1638年2月20日午前9時32分

 

 後世においてルーンポリス大空戦と呼ばれる戦闘は事実上、終結した。ミリシアル軍並びに、世界連合軍は天の浮舟、飛行機械、ワイバーンを戦闘に投入するも、銀河帝国軍側の圧倒的な戦力差には敵わず、敗北。ルーンポリス上空の制空権を完全に喪失する事となった。なお、世界連合軍側の生存者はゴール・ドグマ中佐を含めて、僅か、数名程しか存在しなかったとされる。

 

 

 




 今回は割と実験的なというか、かなり背伸びしながら書いた作品です。自身の文才の無さが憎らしい……
 
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