ルーンポリス湾洋上
ルーンポリス港からおよそ30km程、離れた海上の空域に8機の飛行機が飛んでいた。それはこの世界で複葉機と呼ばれるタイプの飛行機であり、第二文明圏ムー国で実用化されたマリンと呼ばれる主力艦上戦闘機である。彼等の目線の先には燃え盛るルーンポリスの街並みの様子が見え始めていた。
彼等はムー国軍の海軍航空隊に所属するパイロット達であり急遽、観測された強力な魔力体への威力偵察を行うべくルーンポリスへと向かっていた。
ムー国海軍ラ・コスタ級航空母艦ラ・イーグル
同航空隊隊長ミゲル・ケイマン中尉〘コールサイン・ソード1〙
「各機へ、これより状況を説明する」
同隊隊長を務めるケイマン中尉は改めて自身の部隊を見る。ムー国軍主力艦上戦闘機マリンで構成された部隊だったが、尾翼に書かれた部隊章や番号はバラバラで、よく見れば編隊の間隔も遠かったり逆に近づき過ぎているなど、不慣れというよりも連携が取れていなかった。
(これが、あの栄光のムー国海軍航空隊の成れの果てとはな……)
ケイマン中尉は陰惨な気分で心の中でそう呟いた。元々、ケイマン中尉は別の部隊を指揮していたが、彼以外の小隊はルーンポリス上空で全滅し急遽、残存兵力……要は生き残りのマリン乗り達の指揮を任されたのだった。
「ボギーは1機、しかし、凄まじい魔力を放っているそうだ。少なくとも只者ではない。十二分に気をつけろ」
『敵は何者なのでしょうか?魔力を持っていないと思っていたら、いきなり戦艦並の魔力を持った奴が現れるなんて…』
『そんな事を言ったら何もかも訳が分からん!何なんだ!?あの飛行機は!?』
『時速1200キロで飛ぶバケモノなんて聞いていないぞ!』
堰を切ったように、これまで溜め込んできたであろう疑問や不満を言う兵士達。
「これ以上、敵に好き放題やらせる訳にはいかない。性能差が圧倒的なのは分かっているが、何度も言うようだが黙って見ている訳にはいかんのだ……」
『つまりは無駄死にしろって事さ!』
「スピア3、あまりそういう事は言うんじゃ無い……」
『事実だろうが!』
無線から怒鳴り声で返される。だが、それも仕方が無い。彼を含めて殆どのパイロット達は命からがら逃げ延びて、漸く母艦に帰投できたというのに再び、死ぬかもしれない戦地に戻れと言うのは余りにも酷な話であった。
『上の奴等は俺達を使い捨ての駒としか思ってねぇんだ!』
『畜生……死ぬなら、せめて故郷で死にたかったぜ…』
『帰りたい……生きてムーの土を踏みたい…』
『死にたくねぇ……』
(無理もない……あの中に再び戻れ、と言うのが無茶苦茶なんだから……)
敵の戦闘機は信じられない程の速度で飛行し、機銃弾はかすっただけでマリンやエルペシオの装甲を容易く撃ち抜く程の威力を持っている。そもそもが他国の地、飽くまでも政治家同士の駆け引きの末の尻拭いが原因でここにいるという意識も強かった。彼等からして見れば祖国ムーを守るなら兎も角、なんの思いれも無い外国人の為に命を捧げろというのが土台無理な話なのだ。
『はっ!一体、何機、生き残るやら……』
「おい……スピア3、いい加減に……」
ヤケクソ気味に暴言を吐くスピア3を諌めようとする。彼の気持ちも分かるがいい加減、鬱陶しくなってきた所だった。そもそも只でさえ士気の低い状況を悪化させる様な言動を取られる事にケイマンも苛立ち始めていたのも大きい。
無線機を切り替えた、その瞬間、遥か前方から緑色の光弾が彼の直ぐ側を通り抜けていった。
「!?」
ケイマンが気付いた時にはスピア3の乗る機体は火球と化し、バラバラになりながら墜落していく所だった。
『スピア3が殺られたっ!!』『敵はどこだっ!』『上か?!下か!?』
「全機、散開しろ!」
突然の攻撃、ケイマンは目を凝らし敵機を探すが何処にも敵は見当たら無い。
「くそっ!どこから……」
彼が視線を正面に戻した時、次の瞬間、高速で飛来する緑色の光弾が自機の20メートル程、斜め左を飛行していたマリン、コールサイン、シールド7の機体を直撃し爆散させる。
「くっ……!敵は正面だ!警戒し……!!」
そう言いかけた瞬間、再び光弾が別のマリンを撃ち抜いた。
「なっ……!!」
『敵機が見えない!!敵は透明人間か!?』
『奴は何処にいるんだ!?』
『地平線の向こうだっ!相当遠いぞ!』
「各機!ジグザグに飛べっ!!敵に照準を合わせるな!」
見えない敵に翻弄される中、編隊を崩してバラバラに回避運動しながら飛行する。だが……
『あぁっ!!また一機殺られたぞ!』
『どうなってるんだ!?何で当てられる!?』
『あれだけ離れているのに……なんて正確さだ……』
光弾はまるで意志を持っているかの様に恐ろしく正確にマリンを次々と撃ち落としていく。無論、光弾自体が自分から当たりに来る訳では無い。敵は恐ろしい程、超遠距離から正確に狙い撃つ能力を持っているのだ。
「こんな……こんな事が……」
だが何よりも恐ろしいのは敵のパイロットは自分達の回避した先を正確に予測した上で、それも目視で確認出来ない程の距離から狙撃する等、信じられない能力を持っている事にケイマンは底知れぬ恐怖を抱いた。
「お…俺達は何を敵に回したんだ……?」
その疑問に誰も応える事も無く次の瞬間、容赦の無い一撃が彼の機体を爆散させた。
「出力120%、仰角をコンマ12度に変更、位置はそのままだ。」
「!!…!!……!」
操縦桿を僅かに傾けトリガーに指を掛ける。ドロイドはベイダーにセンサーには何も表示されていないと指摘するが、それでも指示された事は命令通りに実行する。
「………」
一拍置き、ベイダーはトリガーを引く。反動と僅かな衝撃がスターファイターとしては小柄な方であるタイ・アドバンスドの機体を振動させ二条の緑色のレーザー光線が発射される。この時ベイダーは自機のレーザー砲をあえて連射せず、それこそ狙撃手が一発で獲物を仕留める様にレーザー弾を放った。数多のエースパイロットがそうであった様に、銀河最高峰のテクニックを持つとされるベイダーも無駄弾を嫌っていたからだ。
「………」
大気の影響、惑星上という事もあり発射されたレーザーはコックピットの中から直ぐに見えなくなった。数秒後、60キロ離れたケイマンらムー国軍のいる空域に到達したレーザー弾は大気で減衰していたとはいえ、マリンの装甲を溶かすには充分であった。レーザー弾はマリンを正確に撃ち抜き、超高温のプラズマ粒子が機体とパイロットを原子レベルにまで分解する。
ベイダーはフォースを介して敵のパイロットが苦痛と絶望と共にプラズマと一体化するのを感じ取った。航空機同士、それも超遠距離からの狙撃。それがケイマンらムー国海軍航空隊を襲った攻撃の正体であった。酷な話だが、ベイダーと相対した時点で彼等の運命は決まっていたのであろう。
「????」
ドロイドは何故ベイダーがこんな事をしているか理解出来なかった。それもそのはずであり、ドロイドのセンサーにもタイ・アドバンスドのレーダーにも敵の姿等、表示されなかったのだ。ベイダーは自身のフォースだけで敵の位置を予測出来たのだ。
無論、タイ・アドバンスドからの狙撃等、如何に強いフォースセンシティブを持っていたとしても並大抵の技量では不可能だ。それはベイダー自身がこの銀河系でもトップクラスの技量を持つパイロットだからこそ可能だった。
「……あの艦隊か…進路はそのままだ」
ベイダーはドロイドに指示を出しながらも自身の意識を集中させる。瞑想に似た感覚を彼は感じ自身の体内を流れるフォースと一体化する。
「………」
恐怖、怒り、憎しみ、痛み、苦しみ、絶望……濃厚な暗黒面、ダークサイドのフォースでこの空域は満ちていた。ベイダーは自身の暗黒面のフォースが更に研ぎ澄まされるのを感じた。そして同時に彼は一つの結論に達する。
(やはり、ジェダイは居ないようだ……フォースが弱すぎる)
既に多くが狩り出されたとは言えベイダーはジェダイが滅んだとは思っていない。フォースの光明面は必ず復讐するだろう。だが何よりもベイダーにとってジェダイは殲滅せねばならなかった。彼自身が過去を捨てて前に進む為に。
(今の私では皇帝には勝てん……)
惑星ムスタファーの敗北でベイダーは肉体の半分と、開花すれば皇帝すらも凌駕するとされたフォースの才能を永遠に失った。この20年余りベイダーは苛烈な修行を得て漸く、力の殆どを取り戻した。今のベイダーの実力は師である皇帝パルパティーン、ダース・シディアスの8割程の実力を持っている。
(奴を殺し、私が銀河を征する為にも、もっと力が必要だ……より強大な暗黒面の力が……)
ベイダーは熟考に耽るもドロイドの電子音声に呼び戻される。HUDに新たな情報が映し出された。
「…第零式魔導艦隊……あれがか…」
望遠スコープに水上艦隊が映し出される。《第零式魔導艦隊》神聖ミリシアル帝国が誇る、この惑星で最強の艦隊とされるとの情報だ。
「ドロイド、艦隊の通信量が多い艦艇を特定せよ。それが恐らくは敵の旗艦だ。」
「て……提督!!敵機から通信です!!」
「通信だと?一体何のつもりだ…?」
戦艦コールブランド艦橋内でバッティスタは困惑の表情を浮かべる。ムー軍のマリン部隊との交信が途絶えたと聞いて直ぐの事だった。
「……クロムウェル君、君はどう見る?」
「……皆目、検討が付きません。ですが、敵はマリン部隊を一蹴した手練れ……わざわざ通信を繋いできた以上、相当な自信を持っていると思われます。」
「敵の意図が読めん……だが……!」
バッティスタは決心した様に椅子から立ち上がる。
「通信を繋げたまえ」
「宜しいのですか?」
「我々は敵が何者かも分からん……だが奴等とコンタクトが取れれば……せめて敵の目的を知れれば戦争を止める事も出来るかもしれん……」
「閣下……」
クロムウェルは思わず、その可能性は低いと言おうとしたが咄嗟に言葉を呑み込んだ。確かにそれはバッティスタの淡い期待だったのかも知れない。だがクロムウェルもその可能性に賭けたかったのかもしれなかった。誰よりも平和を望んだからこそ彼等は軍人になったのだから