銀河帝国召喚   作:秋山大祭り

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 皆様、お久しぶりです。秋山です。
 予想以上に長丁場になりそうなので、とりあえず上げます。


第15話 暗黒卿と燃える海④

 戦艦コールブランド艦橋内

 

 『貴様らに聞きたい事がある』

 

 通信機器から開口一番に聞いたのがそれであった。恐らくは壮年の男性なのであろう、聞く者に威圧感と圧力を与える低く重い声が艦内に響き渡る。

 

 「貴様は一体…」

 

 『質問しているのは私だ。質問を質問で返すでない』

 

 「っ…!」

 

 声の主は飽くまでも高圧的な態度を崩さない。意図的なのかは分からないが相手の声質には有無を言わさない不気味な迫力があった。それは単純に相手を見下しているというよりは、まるでゴーレムか機械が人間のふりをしている様な無機質で人間性の一切を捨てた様な異質な気配を纏っていた。クロムウェルは思わず圧倒され気負わせられる。クロムウェルに変わり、バッティスタが引き継ぐ。

 

 「コホン……何者かは知らんが、いきなり通信を繋いでおいて質問に答えろと?我々は互いの名も知らぬのだがな……」

 

 バッティスタは皮肉を込めて返す。相手の意図が読めない以上、下手な事を言えば通信を切られかねない。とにかく少しでも情報を聞き出さなければ意味がないからだ。だが……

 

 『私は貴様の名を知っているぞ?バッティスタ提督』

 

 「なっ!!」

 

 『先程の相手はクロムウェル大佐であろう』

 

 「何故、我々の事を……」

 

 『諜報戦は戦の基本だ。協力すれば見返りは用意しよう』

 

 バッティスタとクロムウェルは驚愕の表情を浮かべる。敵は自分達の事を調べあげている。同時に全ての合点がいった感覚もした。敵の異常な強さの正体は、技術力云々以前に自分達の情報が丸見えになっていたのも大きかったのだ。

 

 (連中はどこまでの情報を知っているのだ?だが自分から情報を傍受していると話すとは……これだけの自信、恐らくは今更、話した所で何ら影響は無いという事か……?)

 

 敵の持つ力に背筋が凍る様な感覚を覚える。だが同時にこれはチャンスではないかともバッティスタは考えた。

 

 (……少なくとも奴は油断している……上手くやれば有益な情報を聞き出せるかもしれん)

 「……なる程…それで質問とは何だ?答えたら何か見返りでもあるのかね?」

 

 『降伏する権利を与える。我が慈悲だ』

 

 「……っ!!!」

 

 余りにも屈辱的な提案をまるで当然のように話す相手に憤りを覚えるクロムウェル。だが、当のバッティスタは慣れているのか涼しい顔で接する。

 

 「なる程……実に魅力的な提案だな」

 

 バッティスタは軽く聞き流す。今まで底意地の悪い政治家や官僚、何かにつけて予算を減らそうとする財務省と散々やり合ってきたのだ。それに比べれば、この程度軽いジャブでしか無い。

 

 「ところで此方からも提案があるのだが……」

 

 『何だ』

 

 「貴官の姓名と所属を教えて貰えないだろうか?何分、此方は貴官の事を知らぬのでな。我々としても腹を割って話そうにも互いの名を知っていても損ではないと思うのだが……」

 

 相手の出方を伺うべく名前を聞く。素直に応えるとは思えないが会話の取っ掛かりになればと思ったが…

 

 

 『シスの暗黒卿ダース・ベイダー、皇帝の命を受け銀河帝国遠征軍司令官として、この星に赴いて来た』

 

 「!!!」

 

 彼等の予想を裏切り、通信の相手《ダース・ベイダー》は自身の正体を明かした。驚愕のあまりバッティスタとクロムウェルは思わず顔を見合わせた。通信の相手の放った言葉《銀河帝国》《ダース・ベイダー》このワードを以前見ていたからだ。それこそ彼等、零式魔導艦隊が首都ルーンポリスに派遣された理由でもある。

 一週間前にルーンポリスで行われた第一第二文明圏会議にて突如として乱入してきた奇妙な闖入者の起こした騒動。 銀河帝国の使者を名乗るその人物は一方的に同国への服従、即ち属国化を要求したのだ。

 

 (銀河帝国……!そしてダース・ベイダー!あの写しに書いてあった名か……!)

 

 バッティスタは事前にその要求書の写しを渡されており、本人も目を通していた。尤も、その内容は見るに堪えない様な代物であり、怒りよりも呆れ、失笑するレベルだった。愚かな指導者に率いられた国民程、不幸な者はいないとクロムウェルと話したものだ。その時の記憶を思いだしながら写しに書かれたある一文が頭に浮かぶ。

 《惑星の統治者として皇帝陛下の代理人たるベイダー卿が臨時として勤る》

 皇帝の代理人!それが意味する事は唯一つ。このベイダーという人物は銀河帝国内で相当な地位に属する人物だという事なのだ。もしかしたら位の高い貴族、はたまた皇族の一人なのかもしれないとバッティスタは考えた。

 

 (……まさかそれ程の人物を前線に送り込むとは……技術力は高そうだが妙な所で前時代的なのか?む…!)

 

 クロムウェルがバッティスタの目の前にメモ用紙を静かに置く。用紙にはこう書かれていた。

 《できるだけ時間を稼いで下さい。後もう少しで布陣が完成します!》

 「ふむ……」

 

 バッティスタは静かに頷き、クロムウェルに了解したとアイコンタクトを送る。無線機に向き直り

 

 「ダースというのが貴官の名なのか?」

 

 『……ダースとはDark Lord of the Sith……シスの暗黒卿の称号である。私の事はベイダー卿と呼ぶが良い……』

 

 「そ…そうか……して質問とは?」

 

 バッティスタの問いにベイダーは若干ならがも不快げに答えた。あまり触れてはいけない質問だったのだろう。それにしてもシスの暗黒卿とは随分と仰々しいと言うべきか、それとも彼等の国では別の意味があるのか?と、バッティスタは思った。

 

 『分離主義勢力を知っているか?』

 

 「?……昔、ムー国で内戦を起こした連中か?生憎、詳しい事は分からん」

 

 『……そうか……では…』

 

 

 その後もベイダーは質問を続けた。ドロイド軍、ジオノーシスの戦い、ヌート・ガンレイ、銀河共和国、反乱同盟……バッティスタはいずれの質問も否定した。彼には全て聞き覚えの無いワードばかりだった。

 

 『これで最後だ。ジェダイ……について、知っている事はあるか?』

 

 「……いや、知らんな……」

 

 『………』

 

 「ベイダーよ……私からも質問したい事があるのだが……」

 

 『何だ?』

 

 「……貴官は光翼人なのか?」

 

 一瞬、艦橋内の空気が摂氏零度まで下がった感覚をクルーは感じた。それはこの場にいる者、全てが知りたくも有り、同時に知りたく無いと思っていた事であった。もしも相手がイエスと答えたら、自分達はこの世界で最も恐れられている神話の怪物と戦っているのと同義だからだ。

 

 『……記録にあった古代の種族かだと?……くだらん』

 

 ベイダーは忌々しげに、そう吐き捨てた。

 

 『フォースの暗黒面を理解できん輩に滅ぼされた、くだらぬ種族だ……語るまでも無い。そして私は奴等では無い……あまり私を侮辱せん事だ…』

 

 ベイダーの発言にバッティスタは驚きを隠せなかった。この世界に住む住民であれば魔帝に何にかしらの恐れと畏怖を持っている。かつての一万年前にその悪業と、他種族を玩具の様に弄び虐殺する悪辣さから、ミリシアル人にとって光翼人は滅ぼすべき怨敵でもある。だが同時に、高度な魔法文明を極めた彼等の技術力の高さは自分達が超えるべき、明確な壁でもあり多くのミリシアル人は畏怖の念も同時に抱いていた。

 だが、このベイダーにはそういった恐れも畏怖の念も微塵も存在しなかった。寧ろ、ベイダーの口振りからは嫌悪感、それこそ雑菌や害虫に対しての物と同じ感情しか抱いていない事にバッティスタは気づいた。

 

 (魔帝も光翼人も恐れていない?一体、何者なのだ!?このベイダーとは?!)

 

 もしも状況が違えば頼もしい存在であったであろう。だが彼等は敵として今、この場にいる。

 

 

 「……そもそも何故、我が国に攻め入ったのだ?最初から国交を樹立しておけば貴国の列強入りは確実であったろうに」

 

 『この広い銀河に於いて、高々一惑星の列強の名など何の意味も無い。そもそも列強国だからこそ、この国に攻め入ったのだ』

 

 「どういう意味だ?」

 

 『ミリシアル国がこの星で最も影響力が強い国家だからだ。最上位の国家を屈服させれば下位の国家は自ずと銀河帝国に服従する道を選ぶであろう。列強諸国で最も力を持つ国が偶然、神聖ミリシアル帝国だった……それだけの話だ』

 

 「バカなっ!そんな単純に事が進むと本気で思っているのか?!」

 「そうだっ!他の列強諸国や諸外国が黙っていない!全面戦争が起こるぞ!」

 

 幕僚達が口々に叫ぶ。最早、事は銀河帝国と神聖ミリシアル帝国の二国間の問題では無い筈だ。大陸間、文明圏全てを巻き込んだ戦いになるのは明白だった。だが、ベイダーは一切、動揺を見せない。

 

 『ならば全て滅ぼすまでだ』

 

 「くっ!貴様らの目的は何なのだ!この世界を地獄に変えるつもりか!」

 

 『逆だ。全てはこの星に秩序を齎す為の救済だ。』

 

 「き…救済だと?」

 

 思わず聞き返した幕僚の一人。ベイダーが何を言っているのか理解出来なかった。この場に及んで救済とは一体、何なのか?

 

 

 『この星は野蛮で無知すぎる。それは銀河の法すら知らぬ列強とやらが支配しているからだ。故に一度それらの枠組みを解体し、全ての国家を帝国の恐怖という力で管理統制する。ミリシアル国は銀河帝国に逆らい滅びた愚かな国家としてこの惑星の歴史に残るだろう。帝国に逆らう事への愚かさを理解すれば戦争は起こらん。それが今後、無益な戦いを防ぐ唯一の方法だからだ』

 

 ベイダーは底冷えする様な口調で自身の目的を告げた。恐怖による統治。俗に言われるターキン・ドクトリンの本質でもあった。平和の実現の為に少数の犠牲はやむを得ない、謂わば、ミリシアル人はその為の見せしめ、生贄なのだ。

 

 『自分達の星を救いたければ大人しく降伏すれば良い。それが出来ぬなら、せめて死して滅びゆく祖国の為に殉教せよ。それが最も犠牲が出ない方法だ』

 

 死のうが生きようが、どちらでも好きに選択すれば良い。どちらを選んだとしても結果は変わりはしないとベイダーは暗に言った。

 

 『どちらにせよ、貴様らには決定する権利も無ければ、それを覆す事が出来る力も無い。精々、抗い人柱として役に立つ事だ。抵抗した所で結果は何も変わらん』

 

 「ふざけるなっ!!!救済だとっ!?犠牲が出ない方法だとっ!?我々を何だと思っている!?」

 

 クロムウェルは激昂した。ベイダーの言い分は余りにも一方的で理不尽な物だった。何よりも死者を愚弄するかのような発言に彼は我慢ならなかった。

 

 「貴様が殺した兵士達には皆、帰りを待っている家族がいたんだ!貴様が焼いた街には大勢の人々が暮らしていたんだ!」

 

 クロムウェルの脳裏に艦隊の面々の顔が思い浮かんだ。かつて同期だった水兵……彼自身は昇進には恵まれなかったがクロムウェルの昇進をまるで、自分自身の事の様に喜び、祝ってくれた。

 あるパイロットは結婚を控えていた。ある兵士は子供が産まれたばかりだった。彼等には皆、それぞれの人生があった。為さねばならない事があったのだ。迎えるべき明日を日常があったはずなのだ。

 

 (こんな理不尽な形で……終わっていい訳があるかっ!)

 

 だが、彼等にそんな日常も明日も最早、訪れる事は永久に無い。皆、爆炎の中に消えてしまったのだ。

 

 「それをこうも簡単に消し去り!奪っておいて秩序だと!?救済だと!?ふざけるのも大概にしろっ!」

 

 

 

 『……全ての生命体の細胞にはミディ=クロリアンという細胞小器官が存在している。これは命の源でもありフォースとの繋がりを可能としている。全ての生命体はフォースによって生まれ導かれ死んでいく……それがどれだけ人々から愛された者であろうとも……他者から生きて欲しいと願われた者であろうとも……理不尽に不条理に死ぬ事がある……死だけは避けられんのだ』

 

 「何が言いたい……?」

 

 『貴様らに理解出来るように説明すれば、人の生き死はフォースを介して運命で決まっている。今日、この戦で死んだ者達は死すべき時に死んだ……唯それだけの事だ』

 

 「!!」

 

 『無論、戦端を開いたのはこの私である。血の復讐を遂げたいのであれば如何なる相手であれ受けて立とう……全力で叩き潰すのみだ』

 

 「貴様っ……!!」

 

 「よせっ!もういい!クロムウェル君!」

 

 「て……提督!しかし!」

 

 「命令だ……!作業に戻りたまえ!」

 

 バッティスタは魔導レーダーに目配せし、クロムウェルに戻る様に指示を出す。クロムウェルはハッと気づいた様に直ぐに戻って行く。

 

 「……ベイダーよ……貴様の言っている事は間違いではない……だが正しいとは思えん!」

 

 『………』

 

 「恐怖による支配と言ったな?そんなやり方は絶対に上手くはいかん!大きな反発を招き失敗する!」

 

 恐怖による統治、それは有効な手段の一つである事は間違い無いだろう。だが、行き過ぎた恐怖はいずれにしろ大きな歪みを産み、より大きな戦の原因にもなり得るのだ。現にこの星では魔帝は終焉を迎え、遥か銀河の彼方ではラカタやシスの帝国が自ら生み出した恐怖という暗黒面に呑まれ滅亡した様に恐怖による力は自らも滅ぼす諸刃の剣でもあるのだ。

 

 「断言する!必ずや貴様ら銀河帝国に抵抗する者達が現れる!」

 

 バッティスタは断言する。敵が如何に強大であろうとも必ずや反抗し続ける者達が現れると。嘗ての自分達の先祖の様に抵抗する者達がいた様に。そしてそれは当たっていた。現に銀河帝国に抵抗する反乱同盟軍が着々と力を付け、反抗の機会を伺っているのだ。

 

 『我々の試算では例え反乱する者が現れようとも犠牲は少数で済む。銀河の秩序の為なら高が少数の犠牲を切り捨てるのはやむを得ない……』

 

 「なる程!高が少数の犠牲か!ならば問おう!その切り捨てるべき少数に、もしも貴様の家族や友人、愛する者が居ても同じ判断を貴様は下せるのかっ!?運命だったと忘れる事が出来るのか!?」

 

 『…………』

 

 バッティスタの問いにベイダーはしばし沈黙した。やがて押し殺した様な口調で話し始めた。だが……

 

 『……シスの暗黒卿に家族は存在しない……フォースの暗黒面に情愛など無用だ……くだらぬ感情はとうに捨てた』

 

 

 「……なる程…貴様に良心は無いようだな……」

 

 それは僅かな差であったがベイダーに動揺の色が見えた。しかしそれは飽くまでも本当に僅かな物でしか無く、彼からは人間性の欠片も見出だせなかった。バッティスタは嘆息しこれ以上の会話は無意味だと悟った。決して分かり会えないという見えない壁を感じたからだ。

 

 『話は終わりだ。答えを聞こう』

 

 

 

 

 「提督!布陣が完成しました!」

 

 「分かった……漸くか……」

 

 クロムウェルの報告に力強く頷いた。

 

 「降伏するかと?それはこちらの台詞だ!貴様の機体の斜め後ろを見よ!ベイダー!」

 

 レーダーにはベイダーの乗る機体を表す光点を包囲する様に光点が点滅していた。事前に発進させていた艦載機達だ。クロムウェルは偵察に出していた部隊を密かに呼び戻した上でベイダーの乗る機体を包囲出来る様に配置したのだ。

 

 「総勢12機の天の浮舟が貴様を包囲している!最早、逃げられぬぞ!」

 

 「チェックメイト……詰みだ。ベイダーよ……確かに貴様は強い……だからこそ驕ったのだ……!こんな策に引っ掛かるとはな……」

 

 ボードゲームで例えれば既にベイダーは詰んでいたのだろう。天の浮舟達は後方という極めて有利な位置でベイダーの乗る機体を包囲していた。何とか彼の気を引き、警戒されない様にベイダーを包囲する様に調整するのは苦難の技であったが作戦勝ちとも言える結果だった。

 

 「降伏するのだベイダー!空母に着艦して貰おうか……この馬鹿げた戦いを終わらせる為にも交渉の席に座って頂こうベイダー卿?」

 

 全ての決着が着いた。この包囲網からは何人たりとも抜け出す事は出来ない。バッティスタは勝利を確信していた。ベイダーが銀河帝国に於いてかなりの地位に属する人物だとは分かっている。ならば彼を捕虜にすれば他の部隊も迂闊に攻撃出来ない筈だ。

 

 (これで失った命に報いる事が出来たか……)

 

 バッティスタは既にそれなりの戦略的構想を考えていた。ベイダーの身柄と引き換えに銀河帝国政府に講話を持掛ける。無論、ベイダーの話を聞く限り素直に応じるとは思えないが、敵の兵器や戦術等の解析にある程度の時間は稼げる筈だと

 

 

 

 『……勘違いするでない……』

 

 通信機からベイダーの声が聞こえた。だが先程、一瞬見せた動揺は既に無かった。

 

 『言うた筈だ……滅ぼさなかったのは我が慈悲だとな……』

 

 まるで地獄から響く様な声でベイダーは静かに告げる。

 

 『……貴様らに我が暗黒面の力を見せてやろう……』

 

 地獄の釜の蓋が開こうとしていた

 




 何だかベイダーが恐ろしくセンチメンタルな性格になっている様な気が……

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