かなり期間を開けてしまいました。大体、次作位で総括してから別の戦線の状況を執筆したいです。
《ブロンズ級魔導小型哨戒艦》
神聖ミリシアル帝国に於いて一般的に小型艦と称されるこの魔導軍艦は、その名の通り領海の哨戒任務から大型艦艇の随伴、護衛、小規模な艦隊の旗艦も兼ねる等、戦場を選ばない万能艦としてミリシアル海軍の一翼を担っていた。
武装は12.7cm2連装魔導魔導砲を3基、10cm連装魔導高角砲を2基、アクタイオ25mm3連連装魔光砲を4基も備える等、同型の小型魔導艦としては極めて重武装であり、速度も40ノットと速力も高い上に尚且つ燃費も良く、船体もミリシアル製戦艦にも導入されている複層式硬化魔法済魔法鋼製であり魔力の注入によって防御力を上げる事が可能と数的には事実上の主力艦として、戦艦や空母の様な華は無いものの現在のミリシアル海軍のワークホースとも言える艦であった。
装備面からも分かる様にブロンズ級は砲撃戦と対空戦に重点を置いた砲艦的な艦艇でもあり性能面で言えばムー国海軍のラ・デルタ級に匹敵する程の性能を有しており、現状の戦力差であれば世界中の艦艇が一気に攻め込んで来ようともブロンズ級だけで撃退出来ると言われていた。
「………」
とは言えブロンズ級自体はそれ程、珍しい艦艇では無く戦艦や空母の様に注目を集める事は殆ど無いであろう。少なくともカルトアルパス港管理局局長を勤めている人物が曰く『見飽きた船』と言う程には。
「………」
そんな良くも悪くも凡庸な艦艇の一隻、ブロンズ級カリバーンは今、外が見える物全員の注目を集めていた。甲板要員も砲座の砲手も見張り員も上空を飛ぶ天の浮舟のパイロット達も艦橋内の要員も全員がカリバーンを見つめていた。
「………」
ある者は目の前の光景が信じられないと呆然とした表情で、ある者は理解が追い付かずぼんやりとした表情で、ある者は只、魅入られた様に見つめていた。誰かが口を開いた。
「……浮いている……いや、飛んでいる……」
カリバーンは海上をゆっくりと飛翔していた。本来なら喫水の為、見えない筈の船底の赤い塗装までも良く見えた。それどころか船尾の回転し続けるスクリューまでも露わになっていた。コールブランド艦橋内でバッティスタは呆然とその光景を見つめていた。それはあってはならない光景だったからだ。
今の時代、空を飛ぶ事自体はそう珍しい事では無い。人類はワイバーンを使役し大空を制した。そして技術を発展させ天の浮舟や航空機を作り出した。だが、それは飽くまでも空を飛ぶという目的の為があり、その為の多大な年月と技術者達の涙ぐましい努力の結果、得られた物だった。
1500トン以上も重さがある鉄塊を浮かせる事など彼等には到底不可能な事だった。バッティスタは漸く重い口を開く事が出来た。
「……ベイダーよ……」
バッティスタは自身の声が恐怖で震えているのに気が付いた。これは一体何なのだ?何故、魔導艦が空を飛んでいる?一体どうやって?
「これは貴様がやっているのか……?」
異常な魔力の持ち主。明らかに人知を超えた存在……消去法で考えれば、ベイダーが何かしらの魔術……いや、自分達の知らないもっと何か別の魔法を使ったのは明らかだった。だが、この目の前の現象を起こせる魔法を彼等は知らなかった。
『言うた筈だ』
『話は終わりだ』
ベイダーは質問に答えず一方的に通信を切った。そして通信が切られるのと同時であった。カリバーンが落下を始めたのは。
「!!!」
カリバーンの真下には《ルテニウム級魔導航空母艦ハラダム》が航行していた。ロデオス級魔導航空母艦の前型である旧式単胴艦であり本国防衛艦隊に所属する艦であったが運良く被弾せずに、ここまで残存艦隊の防空任務に当たっていた。だが彼女の幸運も今、尽きてしまったのだ。
「あぁっ……!!」
まるで鉄の皿を数千枚、数万枚、叩きつけた様な音が鳴り響く。カリバーンの船底がハラダムの飛行甲板に叩きつけられたのだ。衝撃の余りハラダムは一度、激しく沈み込み水しぶきが舞う。下敷きになったエルペシオやジグランドが誘爆、爆発し、落下の衝撃で吹き飛ばされたカリバーンの見張り員や砲手が飛行甲板に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなる。奇しくもハラダムはベイダーに着艦する様に要求した魔導航空母艦であり、彼の意趣返しとして見ればこれ程の物は無いであろう。
「た……大変だ!」「あ……あれでは着艦も発艦も出来ないぞ!!」「それどころじゃない!あれでは艦自体が持たない!見ろ!速度が低下している!」
混乱の最中、小型艦カリバーンから通信が入る。通信の相手は息も絶え絶えな様子で報告する。
「そちらの被害は!?大丈夫なのですか!?」
『……艦長と副長は亡くなりました………』
「なっ!!」
カリバーンは海上から100メートル近い高さからハラダムの甲板に叩きつけられた。当然、落下の衝撃で艦外にいた者は艦から弾き出されるか、艦の構造物に叩きつけられるか、そのどちらかであり、運良く海に落ちた者以外は重症か即死していた。だが艦内にいた者は脱出する事も叶わずに鉄のミキサーと化した艦の中で、ある者は血反吐を吐きながら死を懇願し残りの者は既に息絶えていた。
『艦橋にいた者は私以外全滅です……私も吐血が止まりません……後の事は……』
そこで通信は切れた。誰かが固唾を飲む。だが、事態は彼等に呆然とする暇すら与えない。
『こ……こちら魔導母艦ハラダム!バルジが割れた!!装甲の強化が間に合わないっ!!浸水しているっ!!』
『ダメコンが追い付かないっ!!ゴホッゴホッ……艦内で魔素漏れが発生中!!』
『これ以上浸水が抑えられない!沈んじまうぞ!』
『中枢魔術回路が機能不能!!魔力の供給が……!』
『第3区画で火災が発生!!液体魔石に引火する前に消火チームの派遣を!!』
「何という事だ……」
「提督!ハラダムとカリバーンはもうダメです!早急に退艦を……うわっ!!」
「うおっ!な…何だ!?」
突如として艦が傾きバッティスタ達はよろめく。どういう事かいきなり艦艇を回頭させたのだ。
「何をしておるっ!?」
「私は何もしていません!操舵輪は正面に固定しているのに勝手に……」
「馬鹿な……!」
「提督!他の艦からも同様の事例が起こっていると!!」
矢継ぎ早に送られる報告を前にバッティスタは思わず吐き気を催した。小型艦を不可視の力で持ち上げた挙げ句、今、自身の乗るコールブランドを含む艦艇を強引に動かす等、ベイダーの持つ力は明らかに只の人間が出せる魔力では無かった。恐らくは、かの光翼人をも凌駕するであろう。
(ベイダー……!奴は光翼人を超えているのか!!)
「前方にラ・カサミ級!」
だが、事態は彼に驚愕する暇も与えない。前方からムー国海軍戦艦ラ・カサミが回航しながら迫って来た。
『こちらラ・カサミ!制御不能!!舵が効かない!』
「ラ・カサミへ!速度を落とせないか!?我々は逆に速度を上げてすれ違いになれば……反航戦の要領と同じだ!!」
『了解した!やってみよう!』
「全速前進っ!!最大にまで速度を上げよ!」
「各員、衝撃に備えろ!」
「ぶつかるぞぉ!」「衝撃に備えろ!!」
両艦は互いに相対した。船外にいた水兵達は気が気でない。何しろ巨大な戦艦同士がぶつかれば双方、唯ではすまない。
「クソっ!まだなのか!?」
船体の大きい船程、直ぐに速度を上げる事は出来無い。焦る水兵達を尻目にコールブラントはラ・カサミに直進し続ける。
「もうダメだっ!!ぶつかっちまう!!」
コールブランドとラ・カサミの舳先があわや衝突するかに見えた。だが、ギリギリの所で魔導機関が唸りを上げ、軍馬の如く海上を疾走する。逆にラ・カサミは道を譲るかの様に寸でのタイミングで互いのウェーキをなぞる様に通り過ぎていった。
「あ……危ねえっ!!」「あと数秒遅れていれば…とんでもない事に……!」「おい!見ろ!あの船を!!」
艦首同士がぶつかり合う艦艇や、逆に横っ腹から突進され横転した艦艇、真っ二つになり轟沈しゆく艦艇、真後ろから突進されスクリューを破壊されたせいで航行不能となる等、艦隊は混乱の極みとなった。
「こんな事が……こんな馬鹿な事が……!」
「て……提督……エルペシオ隊からの通信ですが…」
「エルペシオ隊か!?良かった!直ぐにベイダーの機体を撃墜せよ!奴は危険すぎる……!」
「それが機体のコントロールが出来無いと……」
「!?」
「彼等も混乱しているせいで詳しくは分かりませんが、何か大きな力で機体を強引に動かされていると……」
バッティスタの脳はこの時、完全に思考を放棄した。というよりは、ある種の事実に気がついてしまった。自分達は絶対に敵にしてはならない相手に戦争を起こしてはしまったのではないかと……
「クソっ!動けっ!!動いてくれ!!」
「速度700!800!このままだと機体が分解しちまう!」
「誰か止めてくれ!!」
エルペシオのパイロット達は恐慌状態に陥っていた。操縦桿やフットペダルをいくら動かしても機体が操作を受け付けないのだ。いや、正確には機体の操作は出来る。だが、それ以上に強大な力で機体を引っ張られていると言った方が正しいだろう。
「クソっ!せめて後、少しだけ機体をずらせれば……」
彼等の正面にはベイダーの乗るタイ・アドバンスドが見えた。あたかもエルペシオの編隊を先導するかのように堂々と飛んでいた。
(射線さえ合えば奴を撃墜できるというのに……!何も出来ないなんて……!)
敵が目の前に居るというのに何も出来無い状況に歯噛みする。味方のエルペシオは自身を含めて12機、一時は完全に背後を取り、これ程では無い程の有利な状況だったというのに、敵のデタラメとしか言いようが無い魔法で全て覆されてしまった。
(だが何故、無防備に後ろを晒したままなのだ?)
敵のパイロットの腕を考えれば直ぐにでも謎の魔法で動けない自分達の後方を取り全機を撃墜する事など容易い筈である。だが敵機は敢えて自身に不利な後方部を見せたまま飛行し続けている。
「くっ……!何が目的なんだ!?……ん?」
編隊は艦隊に向けて飛行している事に気がついた。上空から見える艦隊の様子はかなり悲惨な物だった。衝突され横転した艦艇、ボイラーが破損したのか黒煙を上げながらボートを下ろすムーの艦艇、魔導母艦ハラダムに至っては飛行甲板上のカリバーンが炎上している上に多数の艦艇が突き刺さる様に衝突し、一つの鉄塊の様になっていた。
「何という事だ……こんな酷い状況になっているなんて……」
艦隊は既に統率を失い、その多くが戦闘に参加する事が出来ないのは一目瞭然であった。
(……だが奴の目的が分からない……何故、俺達をわざわざ生かしておく必要がある?)
艦隊の惨状を見せつけて心をへし折り、屈服させるのが狙いなのだろうか?だとしても解せない。
「な……何だっ!?ぐっ……!!」
それも信じられない速さで降下し始めた。凄まじいGが掛かりタウルス中尉はコックピットシートに押し付けられる。
「……まさか…奴の狙いは……!」
タウルス中尉は自分が考えた最悪の場合に背中に嫌な汗が流れるのを感じ取った。
「奴は……ベイダーは俺達を艦にぶつける気だっ!!」
「「!!??」」
タウルス中尉らはベイダーの意図に気が付いた。そして、それを証明するかの様に彼等の機体は更に速度を増し、艦隊に一直線に突撃していく。
「じょ…冗談じゃない!!」「動けっ!畜生!畜生!!」「誰か!助けてくれっ!」「嫌だっ!こんな所で!」
何とか機体のコントロールを取り戻そうと操縦桿を動かし、更にはランディングギアも出して速度を落とそうとする者もいたが徒労に終わった。タウルス中尉の眼前に燃えるハラダムの飛行甲板が迫る。
「神よ……!」
「担架を……急げ!!」「重症者から運び出せ!!」「ソイツはもう死んでいる!生きている者を優先しろ!!」「誰か魔力の高い者はいないかっ!消火システムが破損した!魔力で動かしたい!」
カリバーンの飛行甲板では大勢の水兵達が負傷者の搬送と治療を行っていた。
「無線だろうが魔信だろうが何でも良いから早く艦をどかす様に言ってくれ!あれではボートを出せない!」
魔導航空母艦ハラダムの乗組員は現在、総員退艦を命じられていた。カリバーンの落下に加えて他の艦艇に衝突され、唯でさえ旧式艦のルテニウム級では限界であった。
「それが……どの艦も混乱の真っ只中で……」
「おいおい……!連中は状況が分かっているのか?いつ、爆発してもおかしく無いんだぞ……?」
そう言って飛行甲板上に鎮座するカリバーンを見上げる。流石に軍艦である以上、生半可な損傷で砲弾や炸薬が爆発する事は無いであろうが、予断を許さないという状況は変わりはしない。
そんな中、空襲警報が響き渡る。
「チィッ!こんな時にっ!!総員、砲座に付け!」
「「ハッ!!」」
上空を見上げると敵の機体と、それを追尾するエルペシオの編隊が見えた。敵機は速度を落とさず、ほぼ垂直の状態で突撃して来る。
(嘘だろ……!まさか自爆するつもりか!?)
「ヤバい!突っ込んで来るぞ!」
あわや、ぶつかると誰もが思った時、敵機は飛行甲板をフライパスし、そのまま飛び去っていく。思わず安堵する水兵達。
「ふぅ…危ない所……」
そう言いかけた瞬間、彼等は爆風と衝撃波に吹き飛ばされる。顔を上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「なっ……!!」
小型艦カリバーンは松明の様に燃え上がっていた。唖然とする間も無く、更に衝撃と爆発が彼等を襲う。後ろを振り返ると飛行甲板に突き刺ささり炎上するエルペシオと最早、原型すら留めていない仲間達の残骸が広がっていた。
「何で味方機が突っ込んで来るんだ!?」
「もう1機、来ます!!」
「クソ……!お前ら艦後部まで走れっ!」
「……!味方はどうするんですか!?」
「言ってる場合か!もう、この船は保たない!!」
一瞬、取り残される味方の事を躊躇したが生き残った水兵の多くが艦後部から飛び降りる。
「プハァっ!!」「こっちに来い!ボートの残骸があるぞ!」「あぁ……艦が……」
艦のデッキや開口部からは紅蓮の炎が吹き上がり、艦全体が小規模な爆発音と金属の軋む音と共に、やがて中央から真っ二つに裂け始めた。この時、魔導母艦ハラダムは計4機のエルペシオ3が特攻していた。その際、2機が格納庫と甲板を繋ぐ艦載機用後部エレベーターに直撃していた。1機目がエレベーターを圧縮粉砕、巨大な破口に変えた後、数秒差で2機目が破口に突入したのだ。その際、生じた液体魔石と魔光砲弾の誘爆は艦内格納庫を紅蓮の炎で舐め尽くし、乗組員と装備品全てを燃やし尽くしていた。
「魔導艦カレト、轟沈!」
「魔導艦ヴルッへ大破!炎上中です!!」
「戦艦カリブリヌス、浸水甚大!これ以上の航行不能!!」
「あぁっ!!また味方艦が……!」
「」
(……何なんだこれは……)
限られた戦力、時間、そしてタイミング、少なくともバッティスタ達はこの全てに於いて不足した不利な状況下でも、何とか反撃の糸口を探るべく奮闘してきた。
(……万全の戦力では無かった……)
無論、彼とて全てが予定通り計画通りに進むと思う程、楽観論者では無い。それでも出来得る限りの準備を整え、想定される全ての不安定要素を潰し、少しでも自分達の作戦、それこそ一世一代、最後の賭けに全てを賭けたのだ。
(……ダース・ベイダー……奴が現れた時……僥倖だと思った……だが……だがっ……!!)
ダース・ベイダーを名乗る異常な魔力を持つ人物の接触に彼は寧ろチャンスだとすら思っていた。断片的ながらもバッティスタはベイダーの事を知っていた。少なくとも銀河帝国の重要人物である事は間違いないであろうと。故に捕虜に、生け捕りにすれば、この戦局を……戦争そのものを終結させる事も夢ではない筈だと。だが……
(甘かった……!!奴は我々が相手にして良い存在では無かった……!!)
彼は怒りの余り思わず拳を握り締めた。何故、気付かなかったのか?わざわざ敵陣のど真ん中に、それも護衛も付けずに単騎で現れたのか。その状況下で何故、降伏勧告に来たのか?思い返せばベイダーが尋常では無い存在だと言うのは、いくらでも思い当たる節があった。そもそも最初に魔導レーダーで魔導艦隊一個艦隊にも匹敵する魔力を持っていると分かっていた筈だと言うのに……
それでも僅かながらのチャンスに、文字通り全ての可能性をベットしたのだ。
「……これだけの犠牲を払ったと言うのに……まだ足りないというのかっ!!」
作戦は突貫であったが殆どは上手くいった。辛うじて制空権を取っていた空域にベイダーを誘導し、別動隊の味方の天の浮舟が包囲し投降させる。この時点で彼等は勝利を確信していた。だが、その顛末は彼等の想像を超えた形で呆気なく覆されてしまった。
例えるならばボードゲームの盤をひっくり返す様な物だった。これ程、理不尽で不条理な事は無い。
「……私では……勝てん……」
圧倒的なまでの実力差に、絶望的なまでの現実にバッティスタは徹底的に打ちのめされてしまった。
「ほ……本艦に接近する味方機を確認っ!!」
「て……提督……」
「……っ」
バッティスタは思わず言い澱んだ。何をすればいい?一体どうすればいい?どうすれば奴を止められる?何か指示を出さなくてはいけないのは分かっていた。だが、この絶望的としか言えない状況を都合良く打開出来る策等、思い付く事など不可能であった。彼は暗くうつむき、力無くシートに腰をおろした。
「……諸君……済まなかった……」
それが何の謝罪なのかバッティスタ自身にも、もはや分からなかった。瞬間、艦橋を爆風の嵐が襲い、艦橋内に居た全員の意識を刈り取った。
「コールブラント通信途絶!」
「ミリシアル海軍の損失9割に!」
「ラ・ムツ轟沈!ラ・フェニックス!傾斜により航行不能!」
「残存艦隊を結集させろ!このままでは各個撃破にされるぞ!」
ムー国海軍ラ・カサミ級戦艦の艦橋内でジョセフ・ミニラル大佐は檄を飛ばした。今、彼等、ムー国海軍将兵は未曾有の危機に立たされていた。
「ローランド大破!ネービ轟沈!」
「ラ・トウエン、出力低下!これ以上の速度は……!」
「諦めるなっ!我が艦隊、最後の空母なんだぞ!」
「まさか……これ程の被害を受けるとは……」
ムー国海軍艦隊は運良くルーンポリス湾外外周部への警備を任されていた事もあり、艦載機以外の損害は殆ど無かった。第零式魔導艦隊や他のミリシアル海軍からの報告である程度の情報は得ていたものの、これ程までに隔絶した差があるとは思っていなかったのだ。
「兎に角、何としてもこの事を国王陛下にお伝えしなければ……」
(我々、ムー国もこのままでは……!)
焦燥の中、ミニラルは何としても情報を持ち帰るべく奮闘するのであった。
「………」
艦隊上空を縦横無尽に1機のスターファイターが駆け抜けていく。ベイダーの乗るタイ・アドバンスドである。彼は眼下に見える小型魔導艦に向けて機体を降下させる。
対空砲の嵐を機体を僅かに傾け回避するとトリガーを引いた。連続されてタイ・アドバンスドから放たれたレーザー弾が魔導艦の前部主砲塔に直撃、ビックリ箱の様に吹き飛ぶ。砲塔下部には弾薬庫から砲弾を運搬する為の揚弾筒という装置があり、レーザー弾は砲塔の装甲を貫通し揚弾筒から弾薬庫に到達したのだ。
魔導艦は艦首から艦橋にかけての艦体を丸ごと爆散させ、僅か数秒足らずで海底に没した。
「脆すぎる……所詮はこの程度か……」
ベイダーは内心、落胆していた。この戦場には彼を満足させうる強敵がいないのだ。無論、自身の持つ圧倒的な力で、遥かに劣る格下の相手を一方的に叩き潰す事はシス卿たる彼にとって快感であったが、流石に数だけは多い相手、それも性能やパイロットの技量でも劣る敵を何度も撃退する事に、戦いに対しての爽快感よりも単調な作業を何度も繰り返す作業感に似た感覚を覚え始めた。
「!……!……!!?!」
「敵機か……まだ居ったとはな……」
ドロイドからの警告の直後、後方から銃撃を受ける。ベイダーを機体をバンクさせ、それを回避する。
『避けられた!?』『怯むなっ!もう一度だ!』
「生き残りか……」
追撃しているのはエルペシオ3、先程までベイダーを包囲していた12機の生き残りであった。運良く彼等は機体がぶつかる寸前にベイダーのフォースによる拘束が緩んだ事で仲間達の様に特攻する事を免れていたのだ。
「見逃してやった様な物を……愚かな……」
『黙れっ!!貴様に殺された仲間達の為にも……!』
『例え、この身滅びようとも……!』
「自ら破滅へと向かうとはな……」
エルペシオのパイロット達は尚もベイダーに追い縋ろうとする。彼等は何としてもベイダーに一矢報いらんと己のプライドに賭けて自分達の勝利を信じて操縦桿を握っていた。そんな彼等にベイダーは苛立ちを感じていた。
自身に憎悪を向けられるのは慣れている。ならば、この自身の中でフツフツと沸き立つこの怒りは何だ?以前にも似た感覚を感じた気がする。自身の肉体を機械に変える前に
(成る程……重ねていたというのか……この星の者とジェダイを……)
現状を理解しようとせず愚直としか言えないミリシアルの軍人達、外の世界を知ろうともしない傲慢さ、閉ざされた惑星の価値観と列強制度と言った閉鎖的な制度。
飽くまでもライトサイドに拘り続け今の時代を直視せず視野狭窄に陥ったジェダイ達、改革の機会等いくらでもあったにも関わらず掟に固執し続けたオーダー。
規模や組織は異なるが、かつてベイダーが籍を置いていたジェダイ・オーダーと状況が似通っていたのだ。自身を認めようとしなかったオーダーに。ベイダーは自身の不愉快さの理由に気づき彼の心にドス黒い感情が芽生えた。
(だからこそ貴様らは滅びるべきして滅んだのだ)
ベイダーは右手を掲げフォースを集中させる。その先にあるのはエルペシオ2機、すると突然、その2機は弾かれた様に軌道を変え衝突した。両機は爆発炎上し燃えるスクラップに成り果てた。一瞬だったが無線にパイロットの断末魔の悲鳴をベイダーは聞いた。
「………」
これで終わりでは無い。ベイダーは炎上するエルペシオの残骸を自機に向けて対空砲を撃ちまくる艦艇に先程と同じ様にフォースの能力の一種、〘テレキネシス〙で操り、艦艇に雨の様に浴びせる。残骸には大量の液体魔石が満載されており、文字通り火炎の雨を浴びる事となった。
〘テレキネシス〙
フォースを介して物体を浮遊、操作できる能力である。ジェダイやシスでは基本的なフォースの能力であり、遠方にある物体を引き寄せる、逆に近くにある物体を相手にぶつける等、戦闘面では多彩な応用が出来る。又、自身の肉体に応用すれば常人以上の身体能力を発揮出来る等、応用次第では極めて強力な能力である。
物体を動かすという初歩的な能力とは言え、熟練のジェダイ、シス卿が扱えば並の兵士では相手にならない程の能力を発揮する。かつて4000年前に勃発したシス大戦、その大戦を引き起こした最強のシス卿エグザ・キューンは、このテレキネシスの力だけで大陸の地形を変え、惑星一つを破壊する等、造作もないと言われていたとされる。
近年の例ではクローン大戦末期、コルサント防衛戦の際にジェダイの長、マスター・ヨーダが迫りくるB-2スーパーバトルドロイドの大群をテレキネシスの応用の一つ、フォースプッシュで押し返して撃退した事が良い例であろう。
「………」
ベイダーは燃える艦艇を見た。燃え上がる甲板上で水兵達が火達磨になりながら悶え苦しんでいた。生きながら焼き殺される彼等の姿に、ベイダーは自身に移植された人工皮膚が焼け付く様な痛みを感じた。そして、それは遠い昔の記憶を思い出さずにはいられなかった。
『……選ばれし者だった!……それなのに暗黒面に堕ちるなんてっ!!!』
……あんたが憎いっ!!!……
『……弟だと思っていた……愛していたんだ……』
あの時の敗北、そして別離。それは彼にとって、ある種の呪いのようでもあり、これまでの過去との決別だった。
(何処へ逃げようとも全て無駄だ。必ず貴様にも私と同じ地獄を味あわせてくれる……)
(……オビ・ワン……!)
ラ・カサミ艦橋
「敵機接近!!本艦に向かって来ます!!」
「くっ……!!やはり、おめこぼしは無しか……!」
ラ・カサミ艦橋内でミニラルは歯噛みした。自分達の乗るラ・カサミ級戦艦やラ・トウエン級空母等の様な大型艦艇は当然だが目立つ。ベイダーが見逃してくれれば……或いは弾切れであればと思ったが、事はそう上手くは進まないらしい。
「対空戦闘用意!!手隙の者は機関銃や小銃を使えっ!」
「し……しかし、その程度ではとても……」
「無いよりはマシだっ!!兎に角、弾幕を張れ!」
生き残りのエルペシオ隊を蚊蜻蛉の如く、粉砕した敵の飛行機こと、ベイダーの駆るタイ・アドバンスドが彼等、ムー国艦隊に迫る。
「撃て!撃ちまくれ!」「駄目だっ!掠りもしないぞっ!」「クソっ!こんな豆鉄砲で何をしろってんだ!」
鬼気迫る表情でベイダーを迎撃する対空砲要員達。だが、タイ・アドバンスドは必要最低限の動きで弾丸の嵐を抜け、まるで弾幕の方が彼を避けているかの様に弾幕の隙間を突破していった。
空中を線状の曳光弾の束が覆い、あたかも複雑な帯の様に空をデコレーションしていた。無論、それは人体等、木っ端微塵になりかねない金属の暴風雨とも言える規模であり、平然とその中を正面突破するベイダーが如何に傑物か如実に表していた。
(……やはり現状の対空装備では航空機には手足も出ない……!)
航空機では戦艦や空母を破壊出来ない。それはムー国では通説であったが、ミリシアルやムー国の艦艇を目の前で血祭りに上げられるのを目の当たりにしてミニラルはその認識を改める事になった。
「敵機、光に覆われた何かを2基射出!」
「……!例の飛行爆弾かっ!!迎撃せよ!!!」
艦隊の左舷側に2基の光弾が迫る。備え付けられた機関銃が唸りを上げながら弾丸をばら撒くが掠りもしない。2基はそれぞれ別に分かれ、戦艦ラ・エルド、空母ラ・トウエンに直撃する。
瞬間、海上に爆破の花が咲いた。
「あぁっ!!ラ・エルドとラ・トウエンがっ!!」
「ばっ……爆沈した……っ!!」
戦艦ラ・エルドには1番主砲塔下部の装甲に光弾が直撃した。そして内部にめり込んだ弾頭はカタログスペック通りに完璧に起爆し、そのまま艦内の砲弾や炸薬が連鎖的に誘爆させたのだ。ラ・エルドは乗員全てを乗せたまま僅か数十秒足らずで海底に没する事になった。
空母ラ・トウエンは既に小破しており速度も10ノットにまで落ちていた。故に避ける事も出来ず、光弾は空母中央部に直撃した。内部を縦横無尽に食い荒らした挙げ句、艦内格納庫の艦載機や燃料に誘爆させ真っ二つになり、ラ・エルドの跡を追う事となった。
「……一撃……!!たった一発で戦艦や空母がっ…!!」
余りの衝撃に愕然とするミニラルらラ・カサミのクルー達。彼等の中では被弾する面積の多い空母は兎も角、航空機が戦艦を撃沈させる事等、不可能だと言うのが常識であった。
(聞いていたとは言えこれ程強力だとは……!)
彼等のこれまで想定していた航空機搭載用の爆弾が50kg〜250kg程度の爆弾であり、分厚い戦艦の装甲を抜く事は出来無いとされていたからだ。無論、ベイダーが使用したのは只の爆弾では無い。
《プロトン魚雷》
陽子エネルギーを纏った実体弾頭を発射するランチャー的な兵器であり、他にも爆弾型のプロトン爆弾、砲弾型のプロトン砲弾が存在する。これらプロトン兵器の類は陽子エネルギーを纏う事で同質量の炸薬を用いた爆弾の数倍の威力を持っており、その威力は反応炉や中枢に直撃させればインペリアル級ですら一発で轟沈せしめる程であり、この惑星の水上艦には明らかにオーバーキルであった。
(こんな連中を相手に、どう戦えと言うのか……!)
同国の誇りとも言えたラ・カサミ級とラ・ヴァニア級が碌に反撃すら出来ずに呆気なく海の藻屑と化した。それはラ・カサミに乗るクルー達の士気をズタズタにした。諦観と絶望が全員に蔓延する。
明らかに少なくなった対空砲火をタイ・アドバンスドがラ・カサミ目掛けて駆け抜ける。
「……敵機、こちらに直進して来ます!」
「もはや……これまでか……」
逃げる事は出来無い。ミニラルは自身の最後の時だと思った。だが、その時……
「「うわぁーー!!!」」
タイ・アドバンスドはそのまま艦橋の直ぐ目の前を通り過ぎ去っていった。衝撃波でガラスが割れ、破片が彼等を襲う。
「くっ……!被害状況を知らせよ!」
「ハッ!現状、被害は見当たりません!」
「敵機、本艦より9時の方向に飛行中!……なんて速さだ……!もうレーダーからロストしました!」
ミニラルは頬に刺さったガラス片を抜きながら内心、生き残った事を安堵していた。
「……何故、見逃してくれたか分からんが……今はそれ所では無いな……他の残存艦隊は?」
「ミリシアル海軍は第零式魔導艦隊を含めて応答がありません……全滅状態と言えるでしょう……」
「我が艦隊も被害は甚大です……航行可能なのは本艦とラ・トネール級2隻だけです……」
余りの損害に思わずミニラルは頭を抱えたくなった。軍事的な常識でら事実上ミリシアル、ムーの海上戦力は全滅と言える規模の損害を受けたのだ。
「……生存者の救出を直ちに行う。1時間だけ、この海域に留まる……1時間後には本国に帰還するぞ」
「ですが、艦長。大使や内地に派遣された兵士達は……」
「現状、我々に出来る事は無い……遺憾ながらな……」
ミニラルはそう結論づけた。無論、彼とてミリシアル本土に同胞達を置いていくのは忍びないが、実際に彼等にやれる事は既に無かった。彼等はこの敗北に酷く傷付き、疲れ切っていたのだ。それよりもこの情報をムー本国に持っていく事が最優先だと判断した。
(だが、あれ程の力を持つ相手に、どう立ち向かえばよいのだ……?)
中央歴1638年2月20日午前10時43分
ルーンポリス湾
第零式魔導艦隊を含むミリシアル海軍並びにムー国海軍で構成された世界連合海軍は事実上、全滅した。だが、異世界が帝国の真の脅威に気付くのは、まだ先である。
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