銀河帝国召喚   作:秋山大祭り

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第18話 ミスリード

 神聖ミリシアル帝国

 首都ルーンポリス アルビオン城

 

 

 神聖ミリシアル帝国に於ける中枢であるアルビオン城。雄大に聳え立つ白亜の巨城はミリシアル王家と神聖ミリシアル帝国繁栄の象徴であった。しかし、そのアルビオン城も今では物々しい雰囲気に包まれていた。

 無数の兵士達や装甲魔導車、魔導アーマーを装着した特殊歩兵が周辺を警備し、更にはアルビオン城を包み込むようにドーム状の多重結界が覆っていた。この結界はコア魔法クラスならば兎も角、艦砲や爆撃程度ならばビクともしない頑強さを誇っているが、この結界を発動させた時点でミリシアル政府が如何に追い込まれているか分かるであろう。

 そして、その地下にその地下空間は広がっていた。

 

 

 アルビオン城地下特別防空壕

 

 地下およそ250メートル、その構造もコア魔法の直撃にすら耐えられるように5重の複層型対衝撃魔礼済みの装甲と強化魔導コンクリートで覆われており極めて頑強に設計されていた。更に数千人が生活できるだけの居住空間と各機独立した魔力供給炉に地下農場を備えた上に、政府機関を丸ごと移設できるように完璧に整備されていて一種の地下都市として機能できた。

 

 無論これ程、頑強かつ堅牢に作られているのも理由がある。いずれ復活するであろう古の魔法帝国《ラヴァーナル帝国》との最終決戦に備えて作られたのだ。何しろ相手は一つの都市を一撃で焦土に変えるコア魔法を持っている。魔帝が復活し、その毒牙を再びミリシアルの民に向ける事は確実であり、数あるミリシアル政府の対魔帝対策の一つとしては最後の砦とも言える要塞であった。

 

 

 防空壕内最高司令部

 大会議室

 

 時は少しほど遡り、午前10時25分

 会議室自体は簡素とは言わないまでも地上の宮殿のように豪奢な一切装飾は無く、合理性と実利的に則ったオフィスビル内の一室といった趣きであった。だが室内の空気は非常に重苦しい物であった。

 

 

 

 

 「……報告は以上となります……」

 

 広い会議室は静寂に包まれていた。先程までこれまでの戦闘の推移が報告されていたのだが……

 

 「シュミールパオよ……この報告は真なのか……?」

 

 「残念ながら最も確実な報告かと……」

 

 皇帝ミリシアル8世からの問いに軍務大臣シュミールパオは言いにくそうに答えた。ルーンポリス市内の各所からの報告が集まり始め、先程ようやく集計が終わり報告として神聖ミリシアル帝国の重鎮達に届けらたのだが……

 

 ○首都防衛隊並びに世界連合軍は壊滅。首都ルーンポリスの制空権は完全に喪失。その結果ルーンポリス市内の2割から3割が焦土と化す。

 

 ○現段階でエルペシオやジグラント等の航空戦力の損失が9割を超える。また地上戦力、主に対空砲の損失も6割を超える等、事実上、迎撃作戦は全て失敗。

 

 ○ゼノスグラム国際空港、対魔帝戦勝記念ドーム、ミリシアル独立記念会館が敵の奇襲を受け陥落。更に同地において敵の地上戦力が続々と運びこまれている模様。

 

 ○首都の魔力供給の要たる南ルーンポリス発魔所が敵の爆撃を受け焼失。また、送魔塔や魔力変換施設も被害を受け首都への魔力供給が途絶える。

 

 ○市民の避難誘導も大幅に遅れており、大多数の市民が取り残され死傷者の数は既に数万から数十万人と想定されている。

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国首都にして世界の首都とも人々から憧憬を集めていたルーンポリスは今や墓場と化していた。銀河帝国軍が誇る主力艦インペリアル級スター・デストロイヤーやタイ・ボマー等の攻撃は正確無比かつ一切の情け容赦無くビルを粉砕し、帝国地上軍の侵攻の障害になる存在を次々と屠っていた。

 スター・デストロイヤーに搭載されたXX-9重ターボレーザー砲は建ち並ぶ高層ビルを摂氏数万度のエネルギーの奔流でまるで熱したナイフでバターを切り取るが如く溶解させ次々とコンクリートの残骸へと変えていった。一方、タイ・ボマー隊は必死の覚悟で迎撃を行う対空砲陣地や地上部隊を根こそぎプロトン爆弾と振盪ミサイルで焼き払った。

 無論、これらの攻撃自体は飽くまでも政府庁舎や軍関係に関連する施設への攻撃であり、レーザー自体も出力を最小に設定してから砲撃する、核兵器の使用は禁止し、プロトン爆弾やプロトン魚雷に限定する等、民間人への被害を最小限に留めようという銀河帝国側の取り計らいがあったが逃げ遅れた市民の犠牲者だけで相当な数になっている以上、気休めにもならないであろう。

 

 

 

 

 

 「なんという……なんという事だ……」

 

 僅か数時間足らずで既にルーンポリス市内は末期戦の様相を呈していた。はっきりと言って酷い悪夢としか言いようがない状況に然しものミリシアル8世も文字通り頭を抱えた。

 

 「軍務大臣!!一体どう責任を取るつもりか!?」

 

 「情報局は何をやっていた!?」

 

 「ペクラス大臣!!貴方の責任でもあるのだぞ!!」

 

 室内に怒号が響く。

 

 「ペクラス大臣!!今回の防衛作戦を強硬に主導したのは貴方とアグラ長官だと聞いた!この体たらく、どう弁明するおつもりか聞きたい!」

 

 

 全員の視線がペクラスとアグラに注目する。アグラは顔を真っ赤にし屈辱と怒りに身を震わせ、ペクラスはいつもの赤ら顔を青ざめさせて狼狽し只でさえ小柄な身体を余計縮めて萎縮した。

 

 「そ……想定外だったとしか言えません……よもやこれ程の戦力を持っているとは……」

 

 「そんな事を聞いているんじゃないんだよっ!!」「外務省の怠慢が原因ではないのかね!?」「謝罪だ!謝罪が先だ!!」

 

 (くっ……!好き放題言いおって……!私とて出来る事は全てやったのだ……!)

 

 ペクラスは内心そう吐き捨てた。無論、彼とて責任を感じてはいるし罵声を受けるのは当然だという事も重々理解はしている。しかし本当に想定外……というより彼の予想の上をいっているのは本当の事だ。どちらかと言えばこんな状況になって、まごつく事しか出来ない自身への苛つきもあった。

 

 (そもそも誰が予想できたものか……!情報が少なすぎるというのに……!)

 

 外務省としても何とか情報を得ようと銀河帝国なる国家・勢力について探ってはいたが、これまでの外務省のデータベース上に該当する国家、組織は全くと言っても良い程ヒットせず、ならばと情報局にも協力を仰いだが情報局の情報網をもってしても彼の国に関して一切の情報が手に入らなかったのだ。

 

 (何故こんな事に!?私の見立ては間違ってなかった筈だ!?)

 

 銀河帝国に関する情報が手に入らなかったとは言え、外務省並びに情報局はそこまで重要だとは考えていなかった。情報が全く無いという事はすなわち新興国、もしくは情報網にひっかからない程の小国か、もしくはそのどちらとも言える程度の低い文明圏外国家であろうと判断していた。

 ミリシアルの外交上、文明圏外国家、俗に4級から5級にランクされる最低ランクの文明圏外国家が何らかの方法でミリシアル政府が入手していない魔帝の遺産を偶然、入手したのであろうと予想し、実質的にはせいぜい2.5等級程度の国家を相手にしていると外務省は想定していたのだ。

 

 (相手は2.5等級だぞ!?例え私でなくとも同じ判断を下した筈だ……!)

 

 これまで過去の歴史から運良く魔帝の遺産を発掘し隆盛を極め驕り、身の程知らずにも神聖ミリシアル帝国に戦争を挑み滅亡への道を進んだ小国の前例があった。故に今回の銀河帝国とやらも同じような小国だとペクラスは考えていたのだ。現代の皇帝たるミリシアル8世の治世になってからはそのような馬鹿な国家は無くなったが……

 

 (どうすれば……!)

 

 

 怒号と罵声が響く中、見かねた内務大臣が立ち上がり一喝する。

 

 「皆様!!ご静粛に!皇帝陛下の御前ですぞっ!!」

 

 全員がハッとした様に上座に目を向ける。皇帝ミリシアル8世は資料から、目を離しティーカップに入った紅茶を一気に喉に流し込む。

 香りが完全に飛び、只々、苦いだけのぬるい液体。通常ならば直ぐに淹れ直させる代物だが、今の彼には香りと味を楽しむ余裕など微塵も無かった。眉間にシワを寄せ、咳払いをした後、全員に視線を向ける。

 

 「……陛下……」

 

 「……皆の者、まずは落ち着くのだ。皆も知っての通り我が国は建国から最大の危機に直面しておる。状況を打開する為にも皆の力が必要だ。身分や役職は問わぬ。どうか奇譚のない意見を求める。」

 

 「「ハッ!!!」」」 

 

 (状況は悪い……だが、皇帝たる私が折れる訳にはいかぬ……)

 

 はっきりと言ってミリシアル8世自身も相当、追いつめられていたが皇帝としての使命感と責任感で何とか持ち堪えていた。内心、この場に居る全員に今まで何をやっていたのかと怒鳴りつけ、然るべき処罰を言い渡したかったが、今はそんな事をしている場合では無いと、為政者たる彼はよく理解していた。この状況下で自分までも激情に駆られる様子を見せれば最早、会議は成り立たなくなるのは明白だ。沸き上がる激情を理性で押し殺し、列席する全員の意思が固まった所でミリシアル8世は早速、本題に切り出す。

 

 「シュミールパオよ、正直に申せ。現状の戦力で銀河帝国に対抗できるか?」

 

 シュミールパオは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて席から立ち上がり質問に答える。

 

 「現状の戦力では極めて難しいと思われます……」

 

 「何故だ?」

 

 「その件に関しまして今一度これまでの戦況を交えて報告させて頂いても宜しいでしょうか?」

 

 「宜しい。説明せよ。」

 

 

 シュミールパオは魔導プロジェクターを起動させ、これまでの戦闘の経緯を映像を交えて説明した。当初は懐疑的に見ていた大臣や官僚達も見る見ると顔色が青くなる。それ程までに銀河帝国との戦闘は一方的で圧倒的なまでの差があった。

 

 「何という事だ……ここまで一方的だとは……」

 

 「敵は何者なのだ!?この銀河帝国とは!?」

 

 

 動揺する面々を尻目にミリシアル8世は疑問を口にする。

 

 「しかし、解せぬ……我が方では最大限の戦力を配備していた筈ではなかったのか?」

 

 「陛下の仰る通りです。今回の防衛戦で我が軍は持てる限りの戦力をこのルーンポリスに配備しました。ですが……」

 

 映像が切り替わり球体の胴体と板状の翼を持つ異形の天の浮舟が映し出される。どうやら地上からミリシアル兵が撮影したのであろう編隊を組みながら飛行する敵の機体群が映し出される。

 

 「しかし、本当にこんな機体に我が軍のエルペシオは負けたのか?信じられん……」

 

 「確かに……まるで子供がガラクタで作ったような形だ」

 

 「左様、まるで優雅さも気品も無い。」

 

 それぞれの感想を述べる大臣達、その言葉には明らかな侮りがあった。確かに銀河帝国の天の浮舟ことタイ・ファイターは強そうには見えない。

 

 「外見は兎も角もこの天の浮舟は恐るべき性能をもっています。これがそのスペックと情報です。」

 

 

 ○速度は推定、時速1000km から1200km程。これは我が軍のエルペシオ3の倍近い。

 

 ○武装は機首から光弾を発射する事から魔光砲を実用化している可能性あり。また、その威力はエルペシオ3や装甲車クラスの装甲ならば撃破できる程の威力を持つ。

 

 ○旋回性、機動性も我が軍の天の浮舟を上回っており、こと格闘戦、ドッグファイトでの対抗は不可能に近い。

 

 

 報告書の内容にその場に居た全員が絶句する中、スクリーンには絶望的としか言えない光景が映し出される。

 数機に追われ魔光砲らしき光弾の集中砲火を受けて爆散する爆撃機型ゲルニカ、エルペシオ3では不可能な旋回性で翻弄され火球と化すエルペシオ3に、数機掛かりで一機を追撃したにも関わらず、上昇する敵機に追いつけず逆に失速した所を纏めて撃墜されるジグラント3。

 素人目に見ても機体の性能、パイロットの練度の差は明らかであり絶望的なまでの差を如実に示していた。

 

 無論、これはまだ序の口でしか無い。映像が切り替わり巨大な逆三角形の超大型飛行物体が移される。

 

 「……次にこの超大型飛行物体ですが……」 

 

 ○大きさは推定1000mから1500m と極めて巨大。反重力魔導エンジンを備えているのか常に滞空している。

 

 ○武装は艦砲と対空砲のような兵器を搭載、艦砲の威力はビルを破壊する程の威力を持ち、対空砲クラスはエルペシオ3や爆撃機型ゲルニカを迎撃、殲滅する等、極めて高い精度と威力を持つ。これにより天の浮舟による迎撃は不可能に近い。

 

 ○更には天の浮舟や多数の兵士、魔導艦と同等の大きさの輸送艇を搬出する等、戦艦と航空母艦の特徴を持つ上に揚陸艦としての運用も可能だと思われる。

 

 

 まさに圧倒的。規格外の怪物……報告の内容に最早、その場にいた全員に侮りも驕りの感情も沸かなかった。

 

 「これでは……まるで相手にすらならないではないか……」

 

 誰かがそうポツリと言ったが誰も何も言えなかった。それはこの場にいる全員の本心を代弁していたからだ。大臣の一人が縋るような目でミリシアル8世に問う。

 

 「へ……陛下、どうすれば……?」

 

 「……分かっておる……今、考えておる所だ……」

 

 「こ…このままでは我が国は……!」

 

 「分かっておると言った筈だ!黙っておれ!!」

 

 

 拳をテーブルに叩きつけ、怒号を放つミリシアル8世。絶望的な報告の前にミリシアル8世も焦燥を募らせていく。事態は明らかに悪くなっている中、有効な案は一つも思い浮かず、焦りと苛立ちから自然と口調は荒くなるが仕方が無いであろう。為政者として理性の仮面を被り続けるには余りにも周囲の重圧がのしかかっていた。

 お通夜のような重苦しい空気を破るように会議室のドアが勢い良く開かれ通信兵が飛び込んで来る。

 

 「な……何事だっ!?」

 

 「また悪い知らせか……?」

 

 「ほ……報告致します!敵の大型飛行物体が突如、上昇を開始!ルーンポリス上空から撤退しました!!」

 

 「「!!??」」

 

 「一体、どういう事なのだ?」

 

 「敵の目的は一体何なんだ?!」

 

 「映像を!早く!」

 

 

 スクリーンに外の光景が映し出される。そこには破壊されたルーンポリス市内の光景が映される。半壊した高層ビルの更に上空に威圧的で巨大な逆三角形の飛行物体が見えた。既に上空には味方のミリシアル軍機の姿は見えず、敵の飛行機械も母艦に収容されたのか、先程までの空中戦が嘘のように静かであった。あたかも支配者の如くルーンポリス上空に鎮座する様に全員が苦々しく顔を歪める。

 

 「おのれ……よくも我が国を……」

 

 「!?、見ろ!!上昇していくぞ!」

 

 「あっという間に見えなくなってしまった……」

 

 上昇していく敵の大型飛行物体、とは言え、その理由を彼等は直ぐに知る事になる。第零式魔導艦隊が試製ウルティマ0型誘導魔光弾を使用した事が分かったのだ。

 現状、唯一と言っても良い戦果に喜ぶ者、安堵する者、警戒心を解かない者、様々であった。その中で対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部の部長を務めるヒルカネ・パルペは無断で誘導魔光弾を使い潰された事と、自分達の研究成果が唯一まともな戦果を上げた事に怒っていいのか喜べば良いのか複雑な表情を見せていた。

 

 「……ん?うむ……」

 

 スクリーンに映される超大型飛行物体を見ていたヒルカネであったが、そこで何かに気付く。

 

 「……ふぅむ」

 

 「ヒルカネ殿、何か意見が?」

 

 「いや……敵の大型飛行物体だが、あれだけ大きければ相当な燃料を使うと思ってな。」

 

 その場の全員がヒルカネに注目する。

 

 「諸君らも知っての通り我々が保有するパル・キマイラは通常の魔石から魔素を抽出し精製、濃縮した高濃度魔石カートリッジを使用している。この魔石カートリッジは魔導戦艦の燃料としても採用してある。ここまでは理解できるな?」

 

 「そんな事は皆知っている。何を言いたいのだ?話しの要領を得てないぞ。」

 

 「ここは講堂では無いのだ。講義なら他所でやってくれ。」

 

 「話は最後まで聞きたまえ……パル・キマイラは一回の飛行でどれ程のカートリッジを使用すると思う……?

 およそ一機あたりで魔導戦艦5隻分だ……」

 

 「そんなに使うのか!」

 

 「そう!あれは燃費がすこぶる悪いのだ!しかもだ!!高純度の赤色魔石カートリッジを山ほど使用しているのだ!金が幾らあっても足りんよ!」

 

 ヒルカネは芝居がかった大袈裟な手振りで説明した。基本的に彼は運用部内でも技術者というより、暴走しがちな部下を抑える監視役と言える立場であり、特に研究の為ならば躊躇無く湯水の如く資材と資金を使い果たす部下達にホトホト頭を悩ましていた。しかし、そんな中で漸く目に見える成果をこの場で示せた事もあり、余裕と安堵から洗いざらい不満をぶちまけたのであった。だが、そこでシュミールパオは何かに気づく。

 

 「待てよ……もしかしたら、それが理由かも知れんぞ!」

 

 「シュミールパオよ……如何した?」

 

 「ハッ!陛下、敵の大型飛行物体……いや、銀河帝国は大きな弱点を抱えていると思われます!」

 

 「弱点?どういう意味だ?」

 

 銀河帝国の弱点……その言葉にミリシアル8世を含む全員がはっきりと言って、これ程の戦力差がある相手にどんな弱点があると言うのか?と……

 

 「我が国ですらパル・キマイラの運用に苦慮しています。ですが相手はそのパル・キマイラ以上に大型なのです。使用する魔石の量だけで中小国の国家予算並みの金額になる筈です。たかが新興国ふぜいにそれだけの量の資金や資源があると思いますか?」

 

 シュミールパオの発言にその場に居た全員がハッとしたように彼に注目する。ミリシアル8世も合点がいったとシュミールパオを見据える。

 

 「……なるほど……即ち兵站か……」

 

 「仰る通りです。陛下!兵站に問題があるとすれば敵の行動にも理由が付きます……ずばり奴等の目的は短期決戦による首都制圧による講和です。」

 

 

 銀河帝国の目的は短期決戦?……その理由をシュミールパオは説明する。それは以下の通りだった。

 

 ○銀河帝国は真っ先に帝都ルーンポリスの攻略を優先しており、カルトアルパスやゴースウィーヴスといった侵攻の橋頭堡となり得る都市を全て無視しており長期戦を想定しているとは思えない。

 

 ○そもそも彼の国は交渉の段階で露骨で挑発的な対応に終始しており、我が国の威信を傷つけた上で首都制圧による短期決戦で降した後、他の文明圏の取り込みも狙っているのではないか?

 

 ○想定される魔石の使用量を顧みるに一回の戦闘で国家予算並みの量を使用すると想定されるので連戦は不可能。故に短期決戦による講話が目的なのでは?

 

 

 

 ヒルカネは挙手し自身の意見を述べる。

 

 「……軍務大臣の説ですが、極めて信憑性があると思われます。補足するのであれば単純に魔石の量云々だけで魔帝の古代兵器は動かす事すらできませぬ。それに、あれ程の大きさとなればパル・キマイラと同様に液体魔石や魔石カートリッジとして魔素を精製・加工した特殊な魔石燃料が必要不可欠です。」

 

 更に続ける。

 

 「付け加えるならば、これらの高純度の魔石燃料を製造するにはそれに見合う国力と国内のインフラを確立する必要があります。それがどれ程困難な事だったか我が国の歴史が証明しているでしょう。」

 

 魔石燃料を製造する事自体は少量であれば魔石とフラスコと正しい詠唱を唱える事が出来れば精製可能と、そこまで難しい事では無いが、大規模かつ合理的、かつ低コストで大量生産するとなれば話は別だ。

 精製施設……魔石コンビナートやパイプライン、貯蔵用タンク、魔石運搬用のクレーンやタンカー等、多様な施設とそれらを支える魔導技術者の存在があってこそ安価に大量に生産する事が可能なのだ。そしてそれは近年特にモータリゼーション化が著しい神聖ミリシアル帝国でやっとの事、到達したレベルであり、新興国がおいそれと手を出せる分野では無いのだ。

 逆に言ってしまえば現在のミリシアル基準で金食い虫のパル・キマイラを量産・運用していたであろう絶頂期の魔帝は神聖ミリシアル帝国を含む中央世界はおろか、全文明圏を合わせても比較にならない程の国力と軍事力を持っていたという事であり、神聖ミリシアル帝国でも到達できていない事から見てもたかが新興国にそこまでの力は無いだろうと、共通の認識があった。

 

 

 

 「つまり……敵は相当な無理をして我が国に攻め込んだと?」

 

 「というより、おかしいではないか?これだけの戦力を持ちながら連中は自分達の情報を一切、明かしていない。我々に知られたくないようだ。」

 

 「よほど自信があるか、もしくは我が国と比較して国力が劣る故に情報を秘匿していると見るか……恐らくは後者でしょうな。」

 

 「寧ろ、そう考えた方が自然であろう。だが、奴らはどうやってこれだけの戦力を入手したのだ?」

 

 「恐らくは我が国がかつてバネタ地区でパル・キマイラを発見したのと同じように、施設ごと発見したのではないだろうか?生産設備や弾薬、燃料も貯蔵されていたのであろう。」

 

  

 軍官僚達も意見を述べるが飽くまでも銀河帝国が魔帝の遺産を運良く入手した新興国家という認識で話は纏まりつつあった。会議の様子を冷静に見ていたミリシアル8世はここで発言する。

 

 

 「つまり……決して勝てない相手では無いという事ではないか。ヒルカネよ、貴官の見立てでは銀河帝国は、あの超大型飛行物体をあと何回、投入すると思われるか?」

 

 「ハッ!恐らくはパル・キマイラの数十倍のコストがかかる筈です。更に我々が誘導魔光弾を実用化している事も連中にとっては正に青天の霹靂!最早、銀河帝国に攻勢を仕掛ける余裕など無いでしょう!」

 

 「うむ……」

 

 ミリシアル8世は思案に耽る。そもそも常識的に考えて、たかが新興国が一朝一夕で強大な文明を築く事など不可能だ。それも魔帝の遺産抜きでは尚更だ。

 飽くまでも『この惑星の住民』にとっての常識であるが…

 

 「撤退したという事は魔力が切れる寸前という事か?……うむ……制空権は何とかなるか……だが、敵の地上軍にはどう対処するか?我が方の残存戦力で持つのか?」

 

 「現在2個機甲連隊と3個歩兵師団がルーンポリス防衛に当たっておりますが半数近くが予備役です。その上、我が方の航空戦力は既に払底している上に、敵の空爆でかなりの損害を受けている状態でして、どこまで通用するか……」 

 

 「くっ……せめて増援があれば……」

 

 軍の高官が悔しげに唇を噛む。兵力は幾らあっても足りない。何しろルーンポリス市内は目下、無法地帯と化していたのだ。警察機構の多くが市民の避難誘導や治安維持に当たっていた為に空爆の巻き添えに合いその多くが犠牲になっていた。そしてこの非常事態に便乗した暴徒が略奪や放火を行い、更に混乱を招いていた。これらへの対処も含めて避難民の救助も早急に行わければならないのだ。

 

 

 「し……失礼致します!」

 

 会議が暗礁に乗り上げる中、その時仮面を被った人物が勢い良く飛び込んで来る。対魔帝対策庁の職員だ。彼はヒルカネの側まで来ると彼に耳打ちする。報告にヒルカネは思わず立ち上がった。

 

 「なんと!それは真か!?」

 

 「ハッ!秘匿回線を傍受致しました。流石は魔帝製、しっかりと機能しました。」

 

 「うむ!でかしたぞ!!」

 

 ヒルカネはそのままミリシアル8世に向き直り上機嫌な様子で報告した。

 

 「陛下!僥倖です!!我々が管理する空中戦艦パル・キマイラが援軍として現在、ルーンポリスへと向かってるとの事であります!」

 

 一瞬、怒号の様な歓声が会議室内に響き渡る。神聖ミリシアル帝国が保有する魔帝の遺産の中でも最も強力とされる、それこそ神聖ミリシアル帝国最後の切り札とも言える兵器の援軍に列席する面々は沸き立つ。

 

 「あの無敵と言われた魔帝の遺産が……」

 

 「魔帝の遺産には魔帝の遺産をぶつければ良い!銀河帝国とて我らも魔帝の遺産を保有しているとは思っていない筈だ!」

 

 ミリシアル8世も漸く安堵した表情を見せヒルカネに労いの言葉をかける。

 

 「大義であったな、ヒルカネよ。あのパル・キマイラをよく一週間で仕上げてくれたな。」

 

 「いえいえ……これも全て陛下のご慧眼の賜物にございます……まさか全てお見通しだったとは、このヒルカネ感服致しました。」

 

 ヒルカネは満面の笑みを浮かべ、ゴマをする。彼は今や、幸福の絶頂だった。直接、皇帝から称賛された。これだけで自身の功績は不動の物となるであろう。内心、ヒルカネはこの事態に感謝していた。

 

 (大臣……いや、貴族になるのも夢では無いぞ)

 

 苦節十余年、一介の末端官僚として専門外の対策庁で冷や飯を食ってきた自身の苦労が漸く報われる。ヒルカネが薔薇色の未来を夢想する中、詰めていた魔導通信士が新たな情報を報告する。

 

 「報告します!カン・ブリット、ゴースウィーヴス、カルトアルパス、アルバリオス各方面軍、並びに州軍がルーンポリスへの増援を派遣したとの報告を受けました!既に増援の第一陣が到達寸前との事です。」

 

 「「「おおおおお!!!」」」

 

 「これぞ、正に神の思し召しだ!」

 

 「そうだっ!神が勝てと仰っているに違いない!」

 

 

 最早、先程まで会議室を覆っていた暗雲は完全に晴れ、全員の顔に光が戻った。これまでの絶望的とも言える状況から心理的に解放された事も大きいが自分達が決して陸の孤島に閉じ込められている訳では無いという事に気付いた事も大きいだろう。

 次々と好戦的な意見が飛び交うが、ミリシアル8世はその光景に何か引っ掛ける物を感じた。味方の増援が間もなくやって来る……しかし、この不安は何なのだろうか?何かを見落としているのでは無いかと……

 

 (状況は我が方の有利なった筈だ……だが、この違和感はなんだ?)

 

 「陛下!宜しいでしょうか?」

 

 「む……済まないな、何だ?」

 

 シュミールパオに呼び掛けられ、ミリシアル8世は思案に耽るのを中断した。何より彼等に一番足りないのは考える時間であり、矢継早に次々と報告される内容に対してミリシアル8世は冷静に考える暇すら与えられないのだ。早急に事態を収拾させたいという内心の焦りもあり、ミリシアル8世自身もその事に気が付く事は無かった。

 

 「現状のルーンポリス防衛の戦力と増援部隊の戦力があれば敵の地上軍を前後から包囲し、挟撃する事が出来ます!どうかご命令を!」

 

 「挟撃……即ち、挟み撃ちか……それがベストであろうな。」

 

 ミリシアル8世は一瞬、少し性急過ぎはしないか?と考えたが目の前の報告書に目が移る。既に死傷者が数万から数十万人にも達するという内容にミリシアル8世は心を深く抉られるような感覚を受ける。4000年という長い年月を生き、長らく皇帝として神聖ミリシアル帝国を治めてきた彼にとって国民は皆、自身の子供のような存在だ。犠牲を一人でも少なくさせる為にも決断を急がせた。

 

 (……っ!最早、考えている暇は無いな……この狂気を一刻も早く終わらせねば……!)

 

 「……分かった、これ程の戦力差があれば、よもや負ける事は無いだろう。シュミールパオ、そしてアグラよ……」

 

 「ハッ!」

 

 「此方に、陛下……」

 

 ミリシアル8世は何か引っ掛ける物を感じながらもそう結論づけた。そしてシュミールパオ、アグラ両名を見据える。その表情は険しい。

 

 「貴官らに名誉挽回の機会を与える。直ちに銀河帝国の軍勢を撃退し、自ら汚名を返上せして見せよ。よいな?」

 

 「ハッ!必ずや陛下の御期待に応えて見せましょう!」

 

 「挽回の機会を与えて頂けるとは有難き幸せ……!例え、この身に変えても全う致します……!」

 

 「宜しい、早急に行動に移せ」

 

 暗に次は無いと二人に告げるミリシアル8世。その事を理解したのか一瞬、顔を強張らせた二人は敬礼し足早に退室していくシュミールパオとアグラ、そして軍関係者達。

 ミリシアル8世は次に外務省の関係者達に目を向ける。

 

 「ペクラス」

 

 「は……ハっ……!」

 

 「各国大使館に大至急、安否確認と支援の有無を確認せよ。それと今回の戦闘に関して各国大使に本国になるべく口外させるな。その為なら多少の鼻薬を嗅がせても構わん……」

 

 「お……お待ち下さい!そ、それでは我が国のメンツが……!」

 

 ペクラスを含めて列席する全員が驚愕する。鼻薬……つまりは賄賂を掴ませて大使を懐柔する。それはこれまで列強首位として君臨してきた神聖ミリシアル帝国では考えられない事であった。あらゆる分野において常に頂点を行き、他の文明圏に隔絶した発展を遂げた国家が神聖ミリシアル帝国であると多くのミリシアル国民が自負しており、賄賂を送って便宜を図るなど自分達より劣った劣等国の苦肉の手段であり自分達誇り高きミリシアル人ならば決して取らない手段であった。

 そもそも例え賄賂で黙らせた所で人の口に戸は建てられない。それが大使が相手ならば尚更であり所詮は一時的、限定的な効果しか見込めないのだ。逆にそんな手段を取らざるをえない段階まで落ちたと、神聖ミリシアル帝国が新興国相手に禄に反撃も出来ずに敗北を喫したという事を自ら喧伝するような物だからだ。はっきりと言って悪手としか言いようがない。

 

 「既にメンツなど無きも同然……現に帝都の半数が焼け野原なのだ。最早隠しようも無い」

 

 「で…ですが……」

 

 「我が国への対応次第で等級を変える事も伝えよ。今は僅かな時間でも味方が欲しい。このままでは他の文明圏は銀河帝国に靡きかねない。」

 

 「ば…バカな……魔帝の技術を悪用するような輩に与するなど……世界を敵に回すようなものです!流石にそこまで愚かでは……」

 

 「ペクラスよ……大国の論理で小国は動かん。大抵の国にとって、魔帝の脅威など、どうでもよいのだ。」

 

 歴史的な背景もあり、神聖ミリシアル帝国にとって魔帝ことラヴァーナル帝国の殲滅と光翼人の根絶は国家としての使命として捉えている。光翼人はおしなべて邪悪な悪魔そのもの、ラヴァーナル帝国の存在がある限り自分達に真の安寧と繁栄は訪れないと。共存共栄はおろか存在そのものを認められないのだ。

 故に魔帝に対抗できるだけの国力と軍事力を持つのは必然であり、同国がここまで発展してきた一番の理由であった。しかし、他の文明圏・国家から見ればかつて存在した伝説上の国家に過ぎず、神聖ミリシアル帝国のように打倒する事が必須の脅威とは考えていないのが現実だ。

 

 「な……ならば魔帝の脅威を喧伝し……いや、いっその事銀河帝国が魔帝の後継国家と喧伝すれば……!」

 

 「連中が重視しておるのは飽くまでも自国の繁栄のみだ。本気で魔帝の脅威に立ち向かおうとする者など、我が神聖ミリシアル帝国以外おらぬだろう。繁栄を保証してくれるのであれば悪魔の靴ぐらい簡単に舐める。相手が光翼人であろうとな。」

 

 「………」

 

 「一度、流されば止める術など、我等に無い。我が国を見限り銀河帝国に服従する事を選ぶ国家も現れる筈だ。そんな状況で魔帝を打倒するなど夢のまた夢だ。」

 

 

 4000年もの長い年月を生き、魑魅魍魎うずまく世界情勢の中で神聖ミリシアル帝国を導き、賢王と称されるミリシアル8世。一方で政治家としてはシビアで現実主義な一面もある。全ての国家が神聖ミリシアル帝国と同様の大義を抱いているとは思っていない。大義よりも目先の繁栄の為ならばミリシアルを簡単に裏切るだろうと。

 

 「只でさえ国土を蹂躙されておるのだ。いずれ復興の為にも資金も資源も必要となる。貴官ら外務省には信用出来る国の選別と調査も行って貰いたい。」

 

 「国交のある国家も全てでありますか……?」

 

 「余が恐れておるのは背後からの一突きだ。信用のならない国家は最悪、手を切れ。他に質問はあるか?」

 

 「いえ!ありません!では直ちに……!」

 

 そう言ってペクラスら外務省の職員達は退室していく。

 

 

 

 

 

 「ふぅ……」

 

 文字通り漸く一息つけたミリシアル8世は自身の手元のティーカップが空になっているのに気が付いた。同時に一緒にテーブルに置かれていた資料に目がいき、思わず顔を曇らせる

。避難民の収容、治安の回復と破壊されたインフラの代替案と決定しなければならない案件は山積みなのだ。

 

 「茶の代わりを、それと厚生大臣。避難民の収容と保護は如何程進んでいるか?」

 

 「ハッ!報告によれば敵の空爆が止んだ事で、漸く避難誘導を行えるようになったとの事ですが、一つ問題が……」

 

 「問題とは?」

 

 「これまで避難場所の一つとしてルーンポリス記念スタジアムが指定されていましたが、敵の攻撃を受けてスタジアムは破壊されました。爆撃に耐えうる大規模なシェルターの様な施設を新たに選定しなければなりません。」

 

 神聖ミリシアル帝国では首都という事もあり、ルーンポリスが戦場になるとは想定していなかった。その為これまでの災害対策マニュアルとでは齟齬が起きてしまっているのだ。大臣や閣僚らが意見を述べる。

 

 「個人所有のシェルターでは駄目なのか?」

 

 「個人でシェルター等持っている家庭なぞ、そうそう無いぞ。それにある程度の持久戦を想定するならば出来る限りまとまって避難してもらわねば……」

 

 「そうなると食料や飲料水、医療機関との連携も必要となるな。」

 

 「待て、長期の滞在となれば相応の設備も……」

 

 議論は白熱すれど当初のような罵詈雑言を言い合うような混沌とした非生産的な意見は無く、現状の齟齬を着々と埋める事に会議らしい会議となった。とは言え、この異常事態の連続で冷静に話し合えというのが又、無理な話でもあったが。いずれにせよ会議は滞り無く進められ、ひとまずミリシアル8世はこの議論の顛末を見守る事にした。

 

 (少なくとも嵐は過ぎ去ったと見るべきか……)

 

 「失礼致します。陛下、お茶をお持ち致しました。」

 

 「うむ、御苦労。」

 

 ミリシアル8世はティーカップを持ち上げ濃厚な香りを楽しみ、いざカップのふちに口をつけようとする。

 

 (……しかし、銀河帝国とやらは一体何処からやって来たのだ?中央世界では無い筈だが……)

 

 紅茶を飲もうとした直前にミリシアル8世の脳裏にある疑問が浮かぶ。

 

 (……いや……本当に彼の国は只の新興国なのか……?)

 

 それは今まで思案の外野に置いていた疑問であった。そもそも自分達は銀河帝国と呼ばれる国家について何も知らない。飽くまでも魔帝の遺産を運良く入手した新興国という答えありきで通して来たが、果たしてそれは正しい認識なのだろうか?と……

 ふと脳裏に以前、ムー国を訪れた際に聞いた伝承を思い出した。

 

 『我が国は別の星から転移して来た転移国家なのです。』

 

 (……まさかとは思うが、彼の国はムー国の伝承であった転移国家では……?)

 

 ムー国で代々、語り継がれるこの伝承をミリシアル8世を含めてミリシアル国民は信じていない。ミリシアル8世や大半の理性的な国民は飽くまでも他国の伝説・おとぎ話の類程度の認識でしか無いのだ。

 しかし、この伝承がもしも本当だとしたら?ミリシアル8世は自身の背中にゾワリと冷たい何かが走った感覚を覚えた。

 

 もしも何らかの方法で別世界、もしくは異世界から悪意を持ち、強力な軍事力を持つ文明・国家が侵略に来ているとしたら?

 もし、そうだとしたら銀河帝国について一切の情報が入らなかったのも首都への攻撃を許したのも当然の結果ではないか?

 

 自分達は今とてつもない事態に陥っているのではないか?

 

 

 「……下……陛……陛下……」

 

 「陛下!」

 

 「……あ、あぁ……すまぬな、何だ?」

 

 「顔色が優れぬようですが……御休みになられますか?」

 

 「いや、大丈夫だ。それよりも避難先の目処はついたか?」

 

 (流石に考えすぎだろう。どうやら疲れておるな……)

 

 

 ミリシアル8世はそう結論づけた。それは余りにも突拍子も無い想像だったからだ。それならば、まだ魔帝の遺産を入手した新興国というのが現実的にあり得る話だからだ。

 

 だが、ミリシアル8世を含む神聖ミリシアル帝国の面々は大きく勘違いをしていた。彼等は銀河帝国を新興国として扱っているが、帝国としての歴史は20年に満たないものの古代・旧銀河共和国の系譜上では25000年もの歴史を誇る国家であり、神聖ミリシアル帝国はおろか、ラヴァーナル帝国以上の歴史を持つ国家なのだ。

 

 更には銀河帝国の国力、軍事力は神聖ミリシアル帝国とは比較にならない程の絶対的な差があった。具体的にはミリシアルの面々が対抗する事は不可能と認めたインペリアル級スター・デストロイヤーを銀河帝国は現時点で25000隻も保有する、帝国の主力であり機動歩兵であるストームトルーパーの総数が100億人と言えば、如何に銀河帝国が強大な国家という事が分かるであろう。

 

 そもそも数千光年、数万光年という気の遠くなるような距離を一瞬で移動するハイパードライブのような技術を持つ等、文明のレベルが違いすぎるのだ。そしてそれこそが彼等、神聖ミリシアル帝国にとって一番の不幸だったのだろう。

 

 ミリシアル8世は決して暗愚でも蒙昧な皇帝では無い。彼の側近達も全員エリートとして高い能力を持っている。だからこそ彼等は気付く事ができなかった。常識的に考えれば自分達の住む惑星の外側に星系間国家が発展しているなど彼等の想像の範囲外であり、これを予測しろと言うのは余りにも酷であろう。

 

 はっきりと言ってしまえば帝国の基準からして見て、この名も無き惑星のたかが一大陸を実効支配する自称国家、それも反乱同盟軍のようなテロリストと関係があり得る勢力に自分達の情報を懇切丁寧に教える事等、疑わしきは罰せよ、を地で行く銀河帝国のやり方を抜きにしても常識的に考えてもあり得ないのだ。

 

 もしも銀河帝国が自分達の正体と目的、そして銀河の情勢を説明する機会があったのならば、聡明なミリシアル8世ならばその危機を理解し、どれ程屈辱的な内容であろうと銀河帝国の要求を全て受け入れ、決して戦火を交える等、許さなかったであろう。だが現実はそうはならなかった。余りにも双方の価値観がズレていたのだ。

 

 とは言え、こう言った危機感や想像力を持ち合わせていたのは実の所ミリシアル8世だけであり、外務省や国防省の見通しの甘さや列強首位としての驕りもあった事から見ても傲慢さの塊のような銀河帝国と良好な関係を結べたかは分からない。ミリシアル8世だけでは国家の運営は出来無いからだ。どれ程の力の差があったとしても、理解する事が出来無い者には何を言っても無駄でしかなく、ならば最初から力付くで捻じ伏せて強制的に理解させるしか無い……と、こういった認識のズレはベイダーが当初予測した通りとなった。

 

 重ねて言うがミリシアル8世は有能かつ稀代の為政者であるのは間違い無いだろう。その能力は銀河帝国皇帝シーヴ・パルパティーン、共和国再建の為の同盟、通称反乱同盟元首モン・モスマにも匹敵するであろう。だが、彼は有能であっても万能の超人では無い。結局の所、個人の力だけでは限界があったのだ。

 

 

 「施設自体は古いですがルーンポリス・メトロであれば全市民を収容できます。元々、魔帝が建設した物ですので耐久性の面も問題ありません。」

 

 「物持ちが良い事を感謝せねばな……早急に手配を行うように。ふむ……もう、こんな時間か……次の議題を」

 

 「承りました。次の議題ですが……」

 

 

 ミリシアル8世は懐から懐中時計を取り出し時間を確認し予想よりも会議が長引いてしまった事に気付く。時刻は10時45分、会議を始めてから既に20分近く経っていた。

 だが彼等は知らなかった。丁度その頃、ルーンポリス湾では頼みの綱の一つである第零式魔導艦隊がダース・ベイダーによって全滅に追い込まれていた事に。

 

 神聖ミリシアル帝国の崩壊はまだ始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

 




 新年明けましておめでとうございます。
 秋山です。今年はできるだけ投稿頻度を上げていきたいと思っています。
 今年も宜しくお願い申し上げます。
 
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