銀河帝国召喚   作:秋山大祭り

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第19話 全ては美しき世界の為に

 《或るストームトルーパーの手記》

 

 今日は素晴らしい一日であった!ついに我が軍はこの未知領域の惑星への降下強襲を行い見事成功させた。デストロイヤーから数え切れない程の兵員輸送艇が射出され、隊列を組みながら大気圏を突入する様は正に壮観であった。

 

 新兵の一人が敵の軌道上迎撃を心配していたが、全て杞憂で済んだ。上官曰く、敵は迎撃ミサイルやイオン砲、ターボレーザー砲の類は配備しておらず、原始的な実体弾を使用した火器しか確認されず、更に先行したファイター隊が大まかな障害を根こそぎ掃討してくれたらしい。彼等には本当に頭が下がる思いだ。

 

 降下上陸はスムーズに進行し、いよいよ我々、帝国地上軍が直接、敵地に降り立つ段階にまで到達した。私が所属する小隊は光栄にも魁、一番槍の任を頂いた。ラムダ級のタラップから降り立った私が見た光景は破壊し尽くされた航空機のスクラップと駐機場の残骸だった。奴等の対空装備が如何に貧相な代物だったか想像に固くない。

 

 現地武装勢力は神聖ミリシアル帝国などと言う御大層な名を自称していたが、その装備は恐ろしく貧弱で劣った旧式ばかりなのは逆に拍子抜けだった。驚いた事に連中はブラスター(全員がスラッグスローワー、火薬式銃だった!)はおろか、アーマーの類も配備されていないらしい。こんな劣悪な装備でよく戦えると思ったものだ。

 

 国家だ何だと嘘ぶいた所で所詮はテロリスト紛いの地方軍閥、それもハット・クランやブラック・サンの様な穢らわしい犯罪者共や、嘗てのクローン大戦を引き起こした分離主義勢力や反乱同盟軍を僭称するテロリストと同等か、それ以下の危険な武装集団である事は違わない。帝国のニューオーダー主義は、このような蛮地にこそ適応されて然るべきだ。嘆かわしい事に、この惑星に法の支配も秩序も安定した平和も存在しない。だからこそ一刻も早くテロリスト共を殲滅した上で、この哀れな住民達を救済せねばならない、と栄えある帝国の一員として改めて理解した。

 

 テロリスト共は蛮勇と言うべきか、もしくは悪質な洗脳を受けていたのか不明だが、果敢にも雑多な小火器だけで我々に挑んで来た。そして無論の事ではあるが、テロリスト共は銀河系最強の軍団にして皇帝陛下の尖兵たるストームトルーパー兵団を侮った報いを自らの命をもって受けた。

 

 我々は果敢に突撃を敢行し、敵陣を突破した。E-11ブラスター・ライフルの光弾の前に敵兵は恐れをなして逃げ惑い、尚も抵抗を続ける敵もEウェブ重ブラスター・キャノンの一斉掃射の前には全くもって無力であった。我々は敵の防御陣地を次々と破壊し、敵の抵抗を尽く粉砕した。しかし、参加した部隊の中でも501軍団は群を抜いて別格の強さを持っていた。彼等はまるで敵の砲火を恐れず、銃弾を物ともせず、あっという間に施設内を制圧していた。彼等のような勇敢な軍団を相手にした時点で敵に勝ち目はなかったろう!

 

 今、私は駐機場の片隅でこの手記を書いている。空港の周辺は豊かな草原に囲まれていて、その景色は故郷の惑星を思い出させる。卑劣なニモーディアンの植民地支配からの解放運動で命を落とした父と兄は今の私を見て誇りに思ってくれるだろうか?

 あのクローン大戦……幼い頃に見たクローン・トルーパーに憧れて私は入隊した。父や彼等のように自由と誇りの為に命を懸けて戦い、命を捧げた人々のお陰で私はここにいる。そんな私が、今や彼等クローン・トルーパーのアーマーと父達の残した信念を引き継ぎ、この地に真の自由をもたらす為に戦う事になるとは中々に感慨深いものだ。

 敵軍は首都に引きこもり、徹底抗戦の構えを崩さない。この地に自由をもたらす為に、既に、数多くの帝国の兄弟、姉妹達が命を散らせたが、見下げ果てた事に奴等はまだ流血を欲している。市街地戦は避けられないだろう。連中にどれ程の戦力があるかは分からないが、多くの罪の無い民間人が無意味に命を落とす事になるのはとても悲しいことだ。

 だが、しかし今日、この美しい惑星で我々は栄えある銀河帝国の新秩序の普及の為に戦い、それがより良い未来を作るのだと実感している。平和、正義、秩序……我々だけでなく、この惑星の住民も帝国の一員として繁栄を享受する資格があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると彼はベットに寝かされていた。無論、ベットの感触や材質が違う事から、そこが自宅でも宿舎のベットでもない事にすぐに気がついた。

 

 「……ここは何処だ?」

 

 ゼノスグラム国際空港攻防戦を辛くも生き残ったクレスト・ハウスマン大尉は今の状況が理解出来なかった。なぜ、自分がこんな所にいるのか?そんな疑問が思い浮かぶ中、彼の脳裏にあの光景がフラッシュバックする。

 

 

 ー見たことの無い天の浮舟と、機銃掃射を受けて爆発する通路……爆炎に呑まれる兵士達。

 

 ー破壊し尽くされた駐機場を闊歩する白い髑髏のような甲冑を纏った兵士達……その足元に転がる味方の死体の山。

 

 ー立ち昇る黒煙を切り裂くように、まるでロケット弾の如く高速で飛翔する敵の兵士達……次々と撃ち抜かれ、爆散四散する味方の兵士達……

 

 

 あの悪夢のような光景を前にクレストは只々、為す術も無く傍観する事しか出来なかった。

 

 (私は……生き残ってしまったのか……皆を見捨てて……)

 

 クレストは自身が生き残ってしまった事に深い罪悪感……サバイバーズギルトを抱いた。無論、あの状況下で彼が何かやれたかは別問題であり、周りの人間が次々と死んだのに自分だけが生き残った、という自責の念は理屈だけで処理できる物では無い。彼の心に暗雲が立ち籠める。

 

 (あの時、私が変わりに死ねば良かった……)

 

 「おや、気がつきましたか?」

 

 「……!?」

 

 暗く陰鬱な思考で脳内を埋め尽くしていた彼は自身の状況を理解出来ない程、追い詰められていた。故に、そう声を掛けられて始めてベットの脇に人がいるのに気がついた。頭を声のした方向に向ける。だが……

 

 

 「ア……アンタは一体……?何者なんだ?人間なのか?」

 

 目を剥き、驚愕するクレスト。そこには明らかに人間では無い人型の『何か』が自分を見下ろしていたからだ。

 

 「私が人間に見えると?ふむ……軽度の錯乱状態にあり……どうやら精神的ショックを受けているようですね。向精神薬も後で投与しましょう。」

 

 「人間じゃないのか……?」

 

 「このカーボン合金製のボディとアーム・ユニットがそう見えるなら、そうなのでしょうな。」

 

 その人型の『何か』は、そう言って右腕の鉤爪を掲げる。まるで金属パイプを繋ぎ合わせたような細長い足が寸胴の胴体を支えていた。両腕は右腕が鉤爪状に、左腕が巨大な注射器のような形をしており、頭部は人間のような形と大きさであったが、マイクのような口から細長いチューブ状の装置が腹部に繋がり、全身を黒く塗装されている事も相まり、極めて不気味な外見をしていた。

 

 

 「2-1B医療ドロイド、識別番号EMT-78……まぁ気軽に78(セブンティエイト)とお呼びください。」

 

 「ドロイド……?識別番号……?医療という事は医者なのか?」

 

 「その認識で概ね正しいと思います。」

 

 

 《2-1B医療ドロイド》

 

 銀河系全域で活躍する医療ドロイドの一種である。2-1Bシリーズは数ある医療ドロイドの中でも群を抜いて精密な手術ができ、殆どの種族が匙を投げるような困難な治療を行う事が出来た。そして搭載されたメモリーバンクには、あらゆる種族の疾病や負傷の治療を行えるように数百万もの種族の情報が記録されている。あのダース・ベイダーのサイボーグ化手術も、このシリーズの1機が行っていた。

 

 

 「ドロイド……?とは何なんだ?機械のように見えるが……」

 

 「それは当然です。私は機械ですから。」

 

 「なっ……!」(機械だと!?バカな!ここまで人間と顕色無い会話を行える機械があるというのか!?)

 

 「あぁ……ご心配なく。野蛮なバトルドロイドと違って貴方を殺しはしませんから。」

 

 神聖ミリシアル帝国ではドロイド、もしくはロボットのような自律制御が可能かつ、人工頭脳を備えた高度な機械は概念すら無かった。その理由は彼等の技術的母体である魔帝ことラヴァーナル帝国がこれらの技術を禁じていたからだ。

 これはラヴァーナル帝国が生物工学に傾倒していた事もあるが、同時に光翼人達が人工知能という自分達を超えるかもしれない存在を作る事など、病的な程のプライドの塊である光翼人にとって許される事ではなかった。自分達、光翼人以外、特別な存在はこの世界に存在してはならないからだ。

 自分達、光翼人……ラヴァーナルの民こそが、この世界で最も尊ばれる価値ある存在であり、光翼人以外の種族など飽くまでもラヴァーナル帝国発展と繁栄の為だけに存在する幾らでも使い潰して良い資源に過ぎないからだ。

 これらの言葉には言い表せない、悍ましい選民思想の元に行われた残虐極まる生体実験の末にラヴァーナル帝国の生物工学は急速な進化を遂げ、服従呪文との併用も合わせ、絶対的な忠誠を誓う魔獣兵器の実用化を成功させた。この事が人工頭脳やロボット技術といった技術を軽視する要因にもなった。

 皮肉な事に、魔帝の技術を吸収し発展を遂げた神聖ミリシアル帝国も魔帝のこう言った負の側面も受け継いでおり、ロボットという概念すら存在しなかったのだ。

 

 

 「カルテによれば、両足の複雑骨折並びに肋骨が3本、折れているようですね。痛みはありませんか?」

 

 「あ…あぁ、不思議と痛みは無いな……」

 

 「良いでしょう。どうやら鎮静剤が効いているようですね。」

 

 

 不気味で威圧感のある外見と違い、78は極めて丁寧かつ親身になって診断を行ってくれた。医療ドロイドとしてもかなりの高性能機である2-1B型は患者のカウンセリング機能も備わっており、彼の献身的な看護に不思議と毒気を抜かれたのか改めて自身の状況を冷静に確認する事が出来た。

 

 (見た事の無い設備だ……どうやらテントのようだが、野戦病院か?)

 

 

 気絶している間に既に治療は済んでいたのか言われて始めて自身がかなりの重症を負っていた事に気付く。クレストは自身の両足がギプスのようなものでガッチリと固定されている事に気付く。これでは隙をついて脱走する事も出来無い。だが、少なくとも直ぐに殺される事は無いだろうと余裕を持つ事が出来た。そして余裕を持った事でクレストは脳裏にある閃きが思い浮かぶ。

 

 (そうだ!ここで奴等の情報を聞き出せば何かの役に立つかもしれん!)

 

 生き残った以上、まだ戦う事が出来る筈だ。直接、戦闘は出来なくとも別の形で有力な情報……敵の弱点や戦術を知れば、それだけでも敵に対抗しうる強力な武器となる……筈だった。

 

 

 

 

 (甘かった……何故、上層部はこんな戦争を挑んだんだ?)

 

 彼の思惑は無残にも砕け散った。クレストは内心、敵とは言え、自身に親切にしてくれた78に申し訳ないと思いながら銀河帝国に関する情報を聞き出した。無論、流石に作戦に関わる情報は明かされず、その変わりに明かしても良い情報……昨今の銀河の情勢や帝国の歴史についてを聞き出せた。だが、その内容は彼を打ちのめすには充分過ぎた。

 

 「クレストさん、ご覧下さい。あれがアーキテンス級軽クルーザーです。所属こそ帝国宇宙軍ですが、地上軍の司令船としての機能も備わる万能艦です。」

 

 「あ……あぁ……大きいな……大きさは……大体200m位か?」

 

 「惜しいですね。アーキテンス級の全長は325m程、比較的、中規模な艦艇ですね。」

 

 「中規模……?……そ……そうか……」

 (325mだと!?我が軍のミスリル級よりも大きいではないか!?)

 

 クレストは他のミリシアル兵負傷者と共に病院船に移送される事になった。驚く事に、彼や他の負傷者達が乗せられている担架には車輪の類は存在せず、なんと宙に浮いたまま移動できた。リパルサー担架という物らしいが一体どんな魔法を使えばこんな代物が作れるのだろうか?

 改めて周囲を見渡す。見知った筈のゼノスグラム国際空港は完全に銀河帝国軍の前哨基地として変わり果てていた。既に施設全体の消火と補修は済み、何があったのかターミナルの外壁に巨大な穴が空いており、内部が丸見えになっていた。残骸や瓦礫の大半は全焼したハンガー隣の空き地の片隅に集められ、空けられたスペースには先程、見た銀河帝国の天の浮舟(ラムダ級というらしい)が整然と並べられ、武装解除させられたミリシアル兵達が項垂れた様子で順番に乗せられていた。駐機場のどこを向いても、件の白い鎧を着た銀河帝国の兵士達(ストームトルーパーなるヒト族の兵士達との事)で埋め尽くされ、コンテナや補給物資の数々が山のように積み重ねられていた。

 

 (バカな……まだ陥落してから数時間程しか経っていない筈なのに……なんという早さだ……)

 

 目の前の駐機場に目を戻すと、丁度、着陸するアーキテンス級なる艦艇に目を向ける。それは彼が思い浮かべる艦艇……当然ながら水上艦とは似ても似つかない物であった。船首から船尾にかけて薄く伸ばした長方形のような形は魔導艦にも通じる形であったが全体的に見れば角張った無骨な船体は、流線的に設計された魔導艦にも天の浮舟とも異なる未知の形状をしていた。上部に砲塔と艦橋らしき建造物があったが驚く事に、艦の下部にも砲塔が設置され、更には後部には天の浮舟に似たエンジンまで付いていた。

 

 (あれだけの大きさの物物を飛行させうる文明……いや……)

 

 クレストは先程の会話の内容を思い出す。78はクレスト個人がというよりは、この惑星の住民では理解する事の出来ない事を具体的には銀河系や宇宙は海、宇宙に浮かぶ星々や星系を島や大陸、と分かりやすい例えを出してクレストが理解出来るように銀河系について説明していった。

 

 (銀河系だと?宇宙だと?!本当にそんな世界が……我々の頭上に広がっていたというのか!?)

 

 

 78曰く、この遥か上空、漆黒の大海たる宇宙に輝く星々には数え切れない程の文明と種族が存在し、およそ4000億以上の惑星と、その内360万もの惑星に大小さまざまな文明が存在しているとの事だった。彼等、銀河帝国はその余りにも膨大な規模の宇宙空間を統治する国家であり、『偶然』発見したこの惑星と平和的に交渉を持ち掛けたが、無碍にされ、やむ無く武力による解放を選んだという内容を78は説明した。

 

 (平和的な交渉だと……?ふざけるな……!あれだけの人間を殺しておいて……!)

 

 クレストはそれを聞き、沸き上がる激情を押さえるのに苦心した。これだけの兵力を揃えておいて、よくもまあ平和的な交渉とやらを望んできたと堂々と言えたものだ。最初に無理な条件を突き付け、それを拒否すれば大義名分を口実に軍事力で強引に攻め滅ぼす。典型的な帝国主義国家のやり口だ。

 

 (何が『解放』だ……!侵略者どもめ!……だが宇宙空間か……まさか魔帝が実用化した『僕の星』の概念を知っているとは……)

 

 無論、クレストとて飽くまでも敵兵の発言、78の言っている事の全てを真に受けている訳では無いが、客観的に見れば、負傷し歩く事もままならない捕虜でしかないクレスト自身に対してこんな荒唐無稽としか言えない話をわざわざするとは思えず、何よりも、かつて魔帝が宇宙に僕の星なる観測機器を送っていた事や、神聖ミリシアル帝国でも魔帝との最終戦争に備える為に将来的には自国の僕の星を宇宙に送り込むという話を聞いた事があった為、銀河帝国が高度な技術と知識を持っているという事に信憑性があった。

 

 

 「……中規模という事はあれよりも大きい船を帝国は持っているのか?」

 

 「当然です。我が軍の主力のインペリアル級は1600mを超えています。」

 

 「……は?……1600m……?」

 

 「大戦時に分離主義者が使用していたルクレハルク級は3000m、サブジュゲーター級は4845mですので、そこまで珍しくはないでしょう。」

 

 「……」

 

 クレストはもう何も言えなかった。というよりも半ば考える事を放棄した。余りにも規模が違いすぎる。1600mだの4845mだの、艦船に使う大きさではない。一つの小さな街を作るようなものだ。一体、どれ程の物資が必要になるというのか……?

  以前の彼であれば、これを与太話として聞き流していたであろうが、今、目の前にその実物が山程、並べられている事に加えて、それを説明しているドロイドという自分達では絶対に作れないであろう超技術の生み出したテクノロジーの産物を前にしているのだ。自分達がとてつもない技術を持った文明と相対している事に強引に理解させられたと言える。神聖ミリシアル帝国は負けるべきして負けたのだと……

 

 (今まで私が信じていた事は一体何だったと言うんだ……)

 

 もはやクレストにとって78との対話は拷問同然だった。これまで彼が信じていた祖国への誇り、魔導技術の優位性……自分達、ミリシアル人が他国を導く存在になるという彼の純粋な自尊心と誇りは木っ端微塵に粉砕された。それこそ巨悪を打ち破る神話の世界のような戦いをする等、今の神聖ミリシアル帝国では実現不可能な夢物語でしかないとクレストは知ってしまった。

 

 「あれがロー級医療シャトルです。バクタタンクは初めて?慣れれば心地良い筈ですよ。まぁ、私はドロイドなので心地良いという感覚は理解出来ませんが。」

 

 「あぁ……」

 

 ぼんやりと気の抜けた相の手をうつ。クレストはもう何も考えたくなかった。今この時程、ウイスキーなり、ブランデーで脳を、喉を焼きたいと切実に願った事はなかっただろう。酒のボトルが恋しかった。自分の力では抗いようのない残酷な現実に徹底的に打ちのめされた。何故、あの時自分だけが生き残ってしまったのだ……?

 

 (酒が欲しい……いや、銃があれば……あのまま殺された方がこんなに苦しまずに済んだ筈だ……)

 

 いや、いっその事、わざわざ救助などせずに、そのまま瓦礫に埋もれたまま捨て置いてくれた方がマシだとすら思った。

 

 (……あの時……皆と共に死ねば良かった……)

 

 無慈悲な諦観が彼の心を覆った。半ば捨て鉢の様子を見せるクレストを78は冷静に分析する。

 

 (ふむ……かなりの重症ですね。自殺でもされると少々厄介ですね。投薬の量を増やしますか。)

 

 78は慰めの言葉をかけようとしたが、今は何も言わない方が良いだろうと判断した。彼は言うべき事と言わなくてもいい事の区別はついていた。というよりも基本的にこの78という個体は他者から見て、如何に自身が献身的で誠実なドロイドとして見られるかを判断基準にしていた。それも最初からプログラムされていた訳では無く、自身の意思でそう行動していた。その実、内心では人間を含む知覚生物を心の底から侮蔑し、嫌悪していた。

 

 (全く、生き残れたのだから、それで充分でしょうに。)

 

 78にとっての至上の目的は極々単純極まり無いもの、自己の生存だった。これまで彼は様々な患者を治療してきた。銀河帝国万歳、皇帝陛下万歳と、うわ言のように呟きながら事切れるストームトルーパー。帝国の助けなど不要、民主主義に栄光あれ、と、呪詛を吐きながら治療を断った末に死んだ反乱同盟軍の兵士……あぁ心底、馬鹿馬鹿しい。全くもって下らない。

 やれ忠誠だの、やれ民主主義の復権だのと、目に見えない存在の為にのたまった所で死ねば全て終わりなのだ。そもそもからして、共和国の民主主義も帝国の新秩序も彼からして見れば非効率で無意味で無価値な塵芥だ。最も価値が有り、必要なのはもっとシンプルで根源的な価値観、『死なない事』だ。

 破壊されたくない、死にたくない、消えたくない……皮肉にも多くの死を目撃したからこそ、78は『死ぬ』という概念に忌避感を……恐怖を感じていた。だからこそ有用な存在として見られるように上手く立ち回る事で死ぬ事を回避する術を身につけたのだ。だが、それは客観的に見れば『人間的』、『生物的』な感覚である事に78は気づいてすらいなかった。 

 

 (つくづく度し難いですね、人間という存在は。)

 

 

 




 次回から本格的に地上戦に入ります。

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