順次投稿再開したいと思います。
神聖ミリシアル帝国
首都ルーンポリス
神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリス。大小さまざまなビル群が乱立する様はまるで、ウーキー達の故郷である惑星キャッシークの樹海のようにルーンポリスの大地を覆っていた。まさしく摩天楼とも形容される大都市は神聖ミリシアル帝国繁栄の象徴でもあった。
最も惑星全体が一つの都市であり、幾層もの構造物とビルで文字通り自然の造形物の殆どを埋め立ててしまった超高密度都市エキュメノポリスである旧銀河共和国、そして現銀河帝国の首都である旧コルサント、又の名をインペリアル・センターや惑星デノン、後の新共和国の首都となるホズニアン・プライムのような都市惑星を見ている銀河系に住まう人々から見れば多少は発展した地方都市程度でしかない。
ルーンポリス郊外
ズダン地区 ズダン高原
ルーンポリス中心部から外れた外側に位置する、外縁部とも言えるこのズダン地区は広々とした高原が広がり、ビル群の喧騒から離れた牧歌的な風景が広がっていた。そこにはルーンポリスへと伸びた高速道路と、そこから大河の支流のように伸びた小さな道路の脇に農園や牧場が点在していた。とは言え高原と言っても平野部は少なく起伏のある丘や、木々が密集する林や小規模な森もあり、農園や牧場はその合間合間に作られていた。
「……漸く少しは様にはなったな……」
小高い丘陵からそう呟くミリシアル軍将校の一団がいた。彼らの視線の先には現在のズダン平原の様相がよく見えた。そこには牧歌的な平原の様子は無く、網目状に掘り返された地面……よく見れば血管のように張り巡らせた、それらは所々にコンクリート製の小ぶりな小屋のような建造物や、土嚢が積まれた陣地はさしづめ、生物を構成する細胞や臓器のようであり、通路を慌ただしく行き交う、土嚢を担ぎ小銃や機関銃を構える兵士達は赤血球や白血球のようであった。
それは塹壕と呼ばれる防御陣地であり、コンクリート製の建造物はトーチカ、土嚢が積まれた陣地には機関銃や野戦砲、対空砲が設置され、これらの防御線には無数の兵士達が貼り付き、鉄条網で遮られた塹壕の向こう側、ちょうどゼノスグラム国際空港の方向を睨みつけていた。更にその兵士達の視線の先……コンクリートで作られた台形の物体、竜の歯や鉄筋を組み合わせた、チェコの針鼠といった対戦車障害物が設置され、また、最前部には対戦車地雷も設置され万全の防衛態勢が敷かれていた。
「将軍、対戦車障害物の増設、間もなく完了します。」
将軍と呼ばれた猫耳に若干、白髪が混じった人物……ミリシアル陸軍中将、ライオネル・ラーテル中将は手元の地図に目を落とす。地図にはその地域、正確には彼等がいる要塞の名が記されていた。
《ズダン要塞》
ズダン要塞群、もしくはズダンの門とも通称されるこの要塞は首都ルーンポリスへの最後の関門として長年、鎮座してきた。
およそ全長25km、ズダン平原の全域をカバーするように構築された防衛線は4重の塹壕と地雷原と対戦車障害物を前面に設置し、そして5km間隔に建造された5つの主要塞と100基余りの大型要塞砲、2000基のトーチカや野砲陣地が塹壕や主要塞の間に隙間無く構築され、40万の兵士達が睨みをきかせていた。
「まさか、私が生きている間に、この要塞が日の目を見る事になるとは思いませんでした……」
「……そうだな……」
自身よりも年上のハーフエルフの副官が、そう嘆息した。ライオネルもそれに同意する。最列強の雄たる神聖ミリシアル帝国にとって首都への侵攻を受けるなどあり得ない話であり、このズダン要塞も首都へと向かう人々が高速道路からついでに見学する程度の観光地と化していた程だったからだ。
「……上層部からの命令は変わらずか?」
「ハッ、死守命令は変わらず、各州からの増援を待ちつつ、金床としての役目を果たせとの命令であります。」
「金床戦術か……上層部め。お使いみたいに簡単に言ってくれる……今のルーンポリスは首の皮一枚で繋がっているようなものだと言うのに……」
「どちらにせよ、ここを突破されるような事があれば我が神聖ミリシアル帝国は滅亡します。かつての旧ミリシアル王国のように……」
「分かってはおる……」
およそ一万数千年前、光の剣士達との戦いで大きく衰退した魔帝が未来へと逃亡した事で、それまでの抑圧と閉塞の時代は過去の出来事となり、人々は繁栄と平和に満ちた穏やかな日々を過ごしていた。だが、百年の安寧の日々は突如として未知の侵略者達の登場によって呆気なく破られた。
《魔王ノスグーラの侵攻》
不毛の地とも呼ばれるグラメウス大陸から現れた魔王を名乗るその存在は、瞬く間に周辺国を一掃、殲滅し、遂にミリシアル王国へとその牙を向けようとした。時の王たるミリシアル3世はこのズダン平原にて全戦力を結集、自らも前線に立ち、総力を挙げて魔王軍の侵攻を防ごうとした。
ミリシアル王国軍は一週間もの間、固く粘り強け、自軍の数倍の規模を誇る魔王軍を相手に臆せずに奮戦し、最終的には魔王軍の指揮官にして、司令官の一柱であったイエローオーガを撃破する等、いくつかの戦術的な勝利を収める事は出来た。だが、戦略的な勝利を収める事はついに出来なかった。
まるで地面を覆い尽くすが如く押し寄せる魔王軍の圧倒的物量の前に兵士達は一人、また一人と斃され、戦力差は開くばかりであった。そして開戦から一週間目にして、イエローオーガ撃破の報を聞いた魔王ノスグーラ自らが大軍を率いて来襲した事によりミリシアル軍の戦線は完全に崩壊、最期まで陣頭指揮を取っていたミリシアル3世も討ち死に、王国軍は戦力の殆どを喪失し、首都ルーンポリスへと敗走する事となった。
首都ルーンポリスへの魔王軍の総攻撃が迫る中、ミリシアル王国前王たるミリシアル2世は息子の死を嘆く間も無く非情な決断を迫られる事となった。
『遺憾ながらルーンポリスは放棄する。民と兵士を3方向に分けてルーンポリスから脱出させよ。余はルーンポリスを枕に没するとしよう。諸兄らに神々の幸運と光の剣士のご加護があらんことを』
ミリシアル2世は残存する国民と兵士をロデニウス大陸、フィルアデス大陸、まだ魔王軍の侵攻を受けていないミリシエント大陸の各地の3方向に分散させ避難させた。これは魔王軍がイエローオーガの戦死による指揮系統の混乱状態であり、この隙を利用して例えルーンポリスが陥落しようとも避難させた国民の大半は生き残る事が出来るという計画であった。更に避難作戦を勘づかれないようにミリシアル2世は魔信で光翼人、魔帝を徹底的に扱き下ろし、魔王ノスグーラを挑発。激昂したノスグーラは首都ルーンポリスを徹底的に焼き払う事を宣言し、魔王軍の全戦力を首都ルーンポリスへと向けた事で、避難したミリシアル人の大半が無事に脱出する事に成功した。
この時、ロデニウス大陸に脱出した者の一団が後の種族間連合に参加し、太陽神の使いの活躍もあり魔王軍を撃退。魔王ノスグーラは封印され、雪辱を果たす事が出来た。
しかし、魔王軍の撃退には成功したものの、生き残った彼等にとって苦難の時代は寧ろ戦後であった。首都攻防戦の末に首都ルーンポリスは灰燼と化し、ミリシアル2世は自身の魔力の全てを使った自爆魔法で玉砕し、首都にて徹底抗戦する事を選んだ王族や国民の大半はゲリラ的に抗戦し全滅していた。この戦闘でミリシアル軍は魔王軍に対して自軍の10倍近い損害を与え、ロデニウス大陸への侵攻を数年間遅らせる事に成功した。だが、この事は魔王ノスグーラを激怒させるには充分過ぎた。
『愚劣な劣等種の分際で畏れ多くも魔帝様を愚弄した罪』
『卑劣な騙し討ちで魔帝様の忠臣たるイエローオーガを殺害した罪』
『魔帝様の遺訓を無視した挙げ句愚かにも抵抗し大人しく滅びの道を受け入れなかった罪』
『魔帝様に反抗した罪は海よりも深く山よりも高い……全てのミリシアルの民を滅殺せよ。産まれたばかりの赤子も死にかけの老人であろうと等しく死を与えよ。』
ルーンポリス陥落後、魔王ノスグーラは以下の罪状を読み上げ、ミリシアルの民の鏖殺を宣言。ミリシエント大陸全土に苛烈な報復を行った。その第一段階として首都ルーンポリスを徹底的に焼き払い灰燼に変えた。
第二段階に捕らえた民を尽く虐殺し、バラバラにした死体を大陸全土にばら撒き伝染病を蔓延させた。また、耕作地に塩を撒き、水源に大量の魔素を流し込み土壌と水源を汚染する等、人間一人住めない土地に変えるという情け容赦の無いものであった。
魔王戦後、ミリシアル人の多くがミリシエント大陸に帰還したが、既に戦乱で魔導技術の継承者の多くを失い、作物すら育たなくなった荒廃しきった祖国の惨状に多くの者が飢えと病に倒れ、一部では食人すら行われる程、凄惨な末法の時代となった。なんとか、嘗てのミリシアル王国を再建しようとしたミリシアル4世も病に倒れ非業の死を遂げると彼の死を契機に再建ミリシアル王国は完全に瓦解。文明は大きく後退し、魔法技術の多くを失った彼等は石器時代からの再出発を余儀なくされる事となった。
以降、神聖ミリシアル帝国が建国されるまで数千年に渡る同族同士で血で血を洗い、同族同士の血肉を貪る戦乱の世となるのであった。
余談だが、魔王ノスグーラが当時のルーンポリスを徹底的に破壊した理由は報復も兼ねてであったが、その真の目的は当時のミリシアル王国が鹵獲していたラヴァーナル製兵器や魔導技術の資料やサンプル、これまでの文献や記録の破壊こそが真の目的であった。
魔王ノスグーラの正体……それは古の魔法帝国ことラヴァーナル帝国が生み出した生物兵器であった。ノスグーラの任務は魔帝が撤退した後もそれまで隷属させていた他種族が文明を築き、魔帝が帰還した後も自分達の脅威とならないように力を削ぐ事がノスグーラに与えられていた役目であった。
結果として見れば神聖ミリシアル帝国が本格的に魔帝の技術を習得し、文明を発展させる事が出来たのは近代に、ミリシアル8世の代になってからであり、魔王ノスグーラは戦いに負けはしたものの、他種族に力を付けさせないという目的を果たす事には成功していたのだ。
「魔王軍の侵攻さえ無ければ、我が国は今頃、宇宙への進出も夢ではないと言われていたというのに……まったくもって光翼人という存在は悪夢そのものですな……」
「あの悲劇を繰り返す訳にはいかん。奴らの存在そのものを夢物語にせねば我らに明日は無い……ん?」
彼の目線の先に、塹壕の野砲陣地の隣に作られた戦車用防御陣地にちょうど1台の戦車が入ろうとしていた。周辺の兵士達から誘導を受け、土嚢とコンクリート壁で囲まれた即席の防御陣地にピッタリと鎮座する。
長方形の車体に無限軌道を備え、その上部に2連装の砲身を備えた砲塔と機関銃を搭載した砲塔を2基も備えた、見るからに強そうな重戦車であった。
「新型の35式魔導重戦車です。まさしく、陸上戦艦ですな……」
「増援の魔導戦車隊か。しかし、37mm砲を2門も搭載するとは……化け物のような兵器だな……」
ライオネル達は素直に畏怖の念を込めて感想を言う。重戦車、陸上戦艦とも形容される35式であるが、その諸元は以下の通りであった。
全長10m、全幅3m
武装、主砲、2連装37mm砲、1門
副砲、2連装7.62mm機関銃砲塔、3問
正面装甲30mm、主砲塔正面装甲20mm
副砲塔5mm
側面・背面装甲10mm
上部5mm
最高速度、整地30km
不整地25km
その他、自動装填装置、
耐爆、耐炎術式3重結界
中央歴1635年に採用された35式魔導戦車はこれまでのミリシアル陸軍のドクトリンを体現したような兵器であった。2連装砲による圧倒的な火力と速射力。ワイバーンの火炎弾は疎か機関銃の弾丸をものともしない装甲と結界。此等の武装と防御力を兼ね備えながらも、25kmから30kmという金属の塊とは思えない程の高い走破性と足回りの速さ。まさに陸上戦艦とも言える強力な鉄牛であった。
「時間さえあればもっとマシな陣地を用意してやれたのだがな……」
「防御陣地への配置は完了しました。……陣地自体は急ごしらえですが、致し方ありません。」
「足らぬ足らぬは工夫が足らぬとは良く言うが、我々に一番足らぬのは時間だな……」
戦車隊やトラックの列から数両の車両が列から外れ、ライオネルらの側に停車する。内、その一両、戦闘指揮車から一人の将校、大佐の階級章を付けた大男が降りてくる。まるで丸太のような太い両足と両椀。佐官の制服をはちきらんばかりの分厚い胸板。岩石をノミで削ったような彫りの深い顔付きの偉丈夫と呼ぶにはピッタリの巨漢であった。弾薬運搬車を流用した指揮車はかなり大型の装甲車であるが、この大佐の前ではかなり手狭に見えた。
「お初にお目にかかります。近衛師団所属第一機甲師団、師団長ファング・アームストロング大佐であります!助太刀に参上致しました!」
「よく来てくれた、大佐。精鋭たる近衛師団が直々に兵を差し向けてくれるのは有り難い。応援に感謝する。」
「ハッ!」
ライオネルも身長190cmと長身であるがファングの身長は優に200cmを超えており、体格だけを見るならば銀河帝国の司令官たるダース・ベイダーと殆ど同じ身長であり、相対する者を圧倒する迫力があった。
「貴官は戦車乗りか?私も以前は騎兵隊に所属していたのだがな……何分、落馬で足を折ってな。貴官のように、自由に大地を駆け回れるのは正直、羨ましい。」
「心中、お察します。閣下。小官も戦車隊が創設されるまで騎兵でしたが、この図体では馬が可哀想だと上官に言われましてな……」
「ほう、貴官も元騎兵か。確かにその体格ではな……時代の流れとは言え、騎兵科が廃止されて久しいが、最近はあの頃が懐かしく思えるよ……」
「同感ですな。」
そう言ってファングは白い歯を見せて笑みを見せた。威圧的な外見に反して彼自身は豪胆な竹を割ったような性格であり、彼が浮かべる人好きのする笑顔は周囲の雰囲気を和らげるのに1役買っていた。そして同じ元騎兵隊出身という事もあり、二人が胸襟を開くのは早かった。
「……どれ、こんな所で立ち話する訳にもいかん。司令部へと案内しよう。」
「ハッ!お気遣い感謝致します!」
司令部へと向かう道中、要塞の各所から白磁の石柱のような物体がせり出してくる。6角柱の高さ凡そ20m程の白い石柱は全て外部に押し出された後、赤色の魔法陣や術式が浮かび上がり、次の瞬間、縦に真っ二つに石柱が割れ電気を帯びたように発光する。
垂直に立った石柱はそのまま根本から横倒しになり、展開を完了させる。その石柱はある惑星の住民が見れば驚愕したであろう。それはレールガンと呼ばれる兵器であったからだ。
「おぉ……!あれが噂に名高いダビデ砲ですか……美しい……!」
「魔導電磁加速砲……通称ダビデ砲。対カイザーゴーレム用に作られた決戦兵器だ。理論上、戦艦の装甲すら貫通する威力だ。魔王が10体現れたとしても、この要塞を越える事等、出来んよ。」
「ハハハ!それは心強いですな!」
エレベーターを降り、幾重もの通路を巡り、完全武装したミリシアル兵達の敬礼を返しつつ一行は司令部へと足を進める。まるで永遠にも続くようなコンクリートと耐爆扉の際限の無い光景にファングは内心、辟易した。
「……何と言うか息が詰まりますな……まるでモグラになった気分です」
「やむを得えんさ。何せ、上部を500トンのコンクリートで埋め立ててある。戦艦の艦砲ですらこの司令部を抜けんよ。」
司令部に到着した一行はファングら増援部隊の紹介を手早く済ませ、今後の作戦の打ち合わせを始めた。
魔導モニターに各主要塞の5人の指揮官達の顔が映し出される。ズダン要塞はズダン平原全域を線としてでは無く面として防衛する為にも司令部とは別に各エリアごとに主要塞を設けており、仮にも司令部が陥落しても各主要塞ごとに継戦できるように権限が与えられていた。
「では、諸君。一度、状況の整理と作戦の目的を確認するとしよう。」
中央に設置された魔導ディスプレイに周辺の地図が映し出された。ルーンポリス〜ゼノスグラム国際空港の中間にズダン要塞は存在する。係員が操作盤を操作し、要塞周辺のエリアを拡大する。
首都ルーンポリスとゼノスグラム国際空港のほぼ中間、首都から30km、空港からは40kmと目と鼻の先にあるのがズダン要塞群である。
画面には数十本からなる防衛線はまるで帯のように纏まり一本の線になる。およそ25km、これこそがルーンポリスを守る最後の関門だ。
「現在、ゼノスグラム国際空港にて集結中の敵の大部隊が、このズダン要塞……ひいては帝都ルーンポリスへと進撃しつつあるとの情報を得た。」
地図に敵を意味する赤い矢印がゼノスグラム国際空港からズダン平原に丸で蛸の触腕のように伸びていく。
「敵は本要塞に進撃しつつある……だが、同時に味方の増援も接近しつつある。しかも敵の背後からだ。」
マップが拡大され、ゼノスグラム国際空港から東の方角にフォーカスする。そこにはカン・ブリットからの援軍を表す青い点が映し出される。
「我々はこの状況を寧ろ、好機と見、本要塞と各州からの増援部隊によって敵を前後から挟撃、殲滅する。」
マップ上ではズダン要塞と増援部隊に挟まれる形になった敵部隊を示す赤い輝点は数を見る見る内に減らし、ついにマップ上から姿を消す。
これが彼等が今から行おうとする槌と金床作戦であった。
『なるほど。つまりは我々が如何に盾としての役割を全うできるかが肝となる訳ですな。』
『敵の攻撃をしのぎつつ、味方の増援を待つ……閣下、味方の増援の到着はいつ程になるのでしょうか?』
「最低でも8時間は掛かるとの事だ。何しろ主力以外は今から動員令を掛けている有り様だ。増援が来るだけマシであろう。他に質問、もしくは聞きたい事はあるか?」
実際の所、ルーンポリスへの増援の大半は正規軍と比べれば装備、練度ともに劣る州軍や国境警備隊の一部隊が主であり、こんな状況下で増援を出すなど、奇跡と言ってと良いだろう。
『……では、閣下。一つ、疑問があります。宜しいでしょうか?』
「うむ。疑問とは?」
『ハッ!……敵は本要塞を目指して進軍しつつあるとの事ですが……それは本当なのでしょうか?敵のブラフの可能性はありませんか?』
『ブラフ?どう言う意味だ?』
別の指揮官が問う。
『本ズダン要塞は無敵の無限要塞です。常識的に考えると敵とて真正面から要塞を攻略するとは思えません。要塞の外周を迂回し、無防備な背後から刺す……ここは背面からの奇襲を警戒すべきです。』
『確かに……ならば大佐らの部隊には外周部の防衛を任せるべきでは?背後から撃たれれば打つ手はないぞ。』
『いや、いっその事、敵は要塞自体を無視してルーンポリスへと向かうかも知れない。我々の機動力は皆無だからな。廻り込まれれば手の内用が無い。』
他の指揮官達も同じように懸念を示す。要塞は確かに強固な防御施設だ。彼等の常識からしてみれば例え世界中の軍隊を相手にしても追い返せる自信がある。だが、当然だが施設は施設。移動する事は出来ない。
敵が要塞を無視して迂回する戦術を取れば、機関銃の掃射に耐えうる鉄筋コンクリート製のトーチカも、敵戦車を一撃で屠れる要塞砲も無用の長物と化してしまう。そうなれば機動力皆無の彼等には為す術が無いのだ。
しかし、彼らの表情にはもっと別の不安があるようにファングに見えた。
(少し慎重過ぎはしないか?)
リスクヘッジを考えるのは軍の指揮官として当然の事であろうが、作戦の成功の為ならばある程度のリスク切り捨てるのも重要なのだ。だが、指揮官達の話は悪い方へ悪い方へと進んでいき、明らかに疑心暗鬼になっていた。
(敵の行動の予測がつかないからだ。銀河帝国とやらが何をやってもおかしくはないからだ。)
これまでの歴史を見ても神聖ミリシアル帝国をここまで追い詰めた敵は存在しなかった。故に想定を遥かに越える事態の数々にミリシアル軍上層部が考える以上にミリシアル軍将兵は精神的、肉体的にも疲弊していた。それは知らず知らずの間に心の中に恐怖という地雷が埋め込められていたのだ。
(だが、これも当然か。寧ろ俺ならば頭に血が昇って突撃を命じていたかもしれん。)
ここまでミリシアル軍は想定以上の損害を受けた。ならば疑心暗鬼になるのは普通の反応であり、寧ろ指揮官達は客観的な視野で敵の次の一手を探ろうとする様は冷静さを失っていない証拠だ。まだミリシアル軍の人材は枯渇していない。
そして、これらの意見に対し司令官たるライオネルは飽くまでも冷静に説明する。
「貴官の意見は尤もだ。だが、敵が迂回し、背後から奇襲を仕掛ける。もしくは直接首都へ進撃する……という策を取るのは考えられん。」
怪訝な表情を浮かべる指揮官達をよそにマップを操作し、平原全体を俯角する位置に設定する。
「この図を見れば分かると思うが偵察ポイントa、b、c、d、e、f、の内、bからeまでの通信が途絶えた。対してa、とf、からの通信が先程届いた……敵影は無しとな。」
マップがやや縮小され6つのエリアにフォーカスする。内、b、c、d、e、のエリアが『不明』と表示される。このエリアは丁度、要塞に対して正面から対峙するエリアであり内周に位置する比較的、平野部を占めるエリアであった。
対してa、f、と書かれたエリアは『安全』と表示された。このエリアは外周部に位置するエリアであり山岳地帯、もしくは水深の深い川が流れている地域であり、平野部と比べれば明らかに侵攻しづらい土地であった。
「ポイントaは地理的な理由から見ても大軍を動かす事には向かない土地だ。また、鉄橋や道路の類は全て、徹底的に破壊している。ポイントaからの侵攻は不可能と見てもいいだろう。」
『なるほど……しかし、このポイントfは無防備な上に川や山といった自然の障害物が少ないエリアです。』
「そうだ。だが、もう一つ理由がある……先程ポイントfからの報告ではパイプラインの爆破に成功したとの事だ。」
『パイプラインの爆破ですと!?まさか、あの噂は本当だったのですか!』
『まさか……本当に爆破するとは……』
神聖ミリシアル帝国に於いて魔力の安定的な供給は大国として重要な意味を持つ。その供給路としても地下にパイプラインを設置しており、本土に侵攻を受けた場合にはこれらのパイプライン内の魔力を意図的に暴走させ、爆破させる事で地面に深さ50メートルのクレーターを作り、敵の侵攻を遅らせる遅延作戦を実行したのだ。
無論、このようなある種の遅延作戦を取らねばならない程、神聖ミリシアル帝国は追い込まれた状況にあるのだ。
「……つまりだ。現状、我々が気にすべきなのは正面からぶつかるであろう敵の軍勢のみで良い。後方の憂いまでも諸君らが気にする必要はない。」
ライオネルの説明により、指揮官達のプレッシャーは大分和らいだように見えた。そんな中、彼等に新たな報告がもたらされる。
「司令。ポイントb-5からの魔進の解析が完了しました。」
「うむ。中央に投影してくれ。」
マップが縮小され、中央よりのポイントb地点にフォーカスされる。この場所は木々が立ち並ぶ森林地帯にあり、斥候を隠すにはもってこいの場所であった。
「先程、ポイントb-5……この位置からだな。強行偵察隊が暗号魔進を送付してきた。残念な事に部隊は全滅し、通信は途中で途絶した上に損傷が酷く、解析に時間が掛かった。」
『強行偵察隊……他のエリアはどうでしたか?』
「……連絡すらつかん。恐らくは魔進を送る時間すら無く全滅したのだろう。」
『全滅……せめて他の地点の情報もあれば良かったのですが……』
ディスプレイに幾つかの画像が表示される。画像自体はかなり粗く解像度は低かったが、それでも何が写されているかは一目で分かった。それは巨大な2本足の巨獣と、それに護衛される戦車のような物体であった。
『これが……ゼノスグラム国際空港守備隊の情報にあった二足歩行兵器……』
『手前の機体は……まさか無限軌道で走行しているのか?となると、これは戦車か!』
『側面に付いているのは砲塔か?……こんな形状、見た事がないぞ……』
画面には奇妙な車両が映し出された。一つは逆関節の脚部に箱型の胴体を持った機体。AT-AT、そしてもう一つ、無限軌道を備えた小柄な装甲車に注目する。
《オキュパイア武闘強襲用戦車》と呼ばれる帝国地上軍が誇る戦闘用ビーグル、いわゆる戦車であった。
「画像から確認されるだけで敵はこの戦車型を50両、二足型を25両を運用しているようです。また、他にも支援車両と見られる装輪装甲車を確認しました。」
「およそ一個師団並の戦力か……恐らくは他のエリアもこれと同等の戦力が配備されていると見ていいだろう。他の車両について何か情報は?」
「……残念ですが、解析出来た情報は以上です。あっ……後、もう一つ重要な情報とは思えませんが……」
「いや、構わん。報告したまえ。」
「報告の中で四足獣を20頭確認との記述があったのですが、この四足獣というのが一体、何なのか不明なのです。」
『大した意味は無いのでは無いか?きっと、そのままの意味なのだろう。』
『四足獣というと……何と言ったか、確かパーパルディア皇国で似たような魔獣を使役していると聞いたが……きっとそれなのだろう。』
『確かリントヴルムとかいう地竜だったな……どちらにせよあんなもの大した脅威にはならん』
『パーパルディアと同じか?案外、敵はそこまで大した戦力を持っていないのではないか?』
四足獣というワードに対して画面の向こうの指揮官達は無関心、または嘲りの表情を見せる。最も、パーパルディア皇国の軍備を見ればそれは仕方が無いだろう。ミリシアル軍将校たる彼等から見ればパーパルディア軍など、羽虫同然に吹き飛ばせる存在でしかないからだ。
「大佐、貴官はどう見る?」
ライオネルはファングに意見を求める。当の戦車兵からの視点を聞きたかったのだ。ファングはしばし、考えたのち意見する。
「現状、我々にとって1番脅威となるはこの二足歩行型であると考えられます。戦車型はその次点に、四足獣は論外と言えます。」
「第一に、この二足歩行型相手に対戦車障害物は通用しないでしょう。乗り越えられますからな。報告では対戦車砲を防いだという情報もある事から装甲も厚いのでしょう。」
「次に戦車型ですが、見る限り回転砲塔を持っていない事や何故、側面に砲塔を付けているか、謎ですが、位置や角度から見れば大口径の砲では無いのは明らかです。軽戦車の類でしょう。35式の敵ではありませぬ。」
「ふむ。」
「四足獣に関しては……接近されなければ問題は無いでしょう。所詮は生物、小官ならば弾除けにでも使いますが、逆に言えばその程度の使い道しかありませぬ。いずれにせよ砲と銃火器の前には無力です。」
基本的に現在の神聖ミリシアル帝国に於いて魔獣や生物由来の兵器の運用は忌避されている。これはかつての魔帝を連想させる事も大きいが、単純にある程度の魔導機関、魔導エンジンの類を作れる技術があれば幾らでも代用が効く上に、そもそも生物である以上、給餌や睡眠、排泄物の処理といった余計なコストが掛かる事から非効率的とみなされていた。
寧ろ、魔導機械を作れる技術を持っていない証拠とされ、文明の程度が低いとすら一般のミリシアル人は考えていた。
(機甲師団は厄介だが、魔獣を使役している辺り対処できない程の差ではないか?)
ここでライオネルやミリシアル軍守備隊は大きく読み間違えた。魔獣を使役している以上、敵の技術、戦力はそこまで高くはないのではないか?と希望的観測を共有する事になった。
後に明らかになるが、この時、彼等が一番警戒するべきだったのはこの《四足獣》であったからだ。
なお、余談ではあるが、遥か外銀河において、ある種族は純粋な生物工学のみで産み出した、銀河間を行き交う事も可能な生きた宇宙船や、極小のブラックホールを原動力にレーザーやプロトン魚雷すら無効化する生きたスターファイターを作り出せる文明が存在する事をこの惑星の住人はおろか、銀河帝国すらも知らなかった。
会議が佳境を迎える中、要塞全土に突然、サイレンが鳴り響く。慌てた様子で通信士官の一人が飛び込んで来る。
「司令!空襲です!ゼノスグラム国際空港より、敵数およそ250から300機!」
「何だとっ!一体、どこからそんな戦力を……!」
『バカな……空港施設や滑走路は破壊された筈……離陸など出来ない筈だ!』
『まさか奴らは魔法で兵士と天の浮舟を作っているのか!?』
「……なんて奴らだ……物量が違い過ぎる……」
一同は驚愕する。要塞司令部としてはまさか敵が天の浮舟、航空戦力を投入するとは思っていなかった。
理由は第一に先の戦闘で滑走路を含む空港施設の大半が戦闘で破壊され、使用不能になった事。こちらの制空権を奪う事も目的であろうが、同時に自分達が接収しても使い物にならない。離陸できなければ天の浮舟もワイバーンも地上では何の役にもたたないからだ。
第二にそもそも論として敵は航空戦力を配備できないと考えていたからだ。天の浮舟にしろ、魔導戦車にしろ、工業製品である以上、緻密な整備と膨大な数の補修部品が必要になる。飛行すれば飛行する程、ネジや魔導鋼版といった部品は摩耗するし、冷却オイルやラジエーターの洗浄も欠かせない。燃料・弾薬は言わずもがな。ミリシアル軍ですらエルペシオとジグラントのパーツの規格は異なるのだ。空港を接収した所で根拠地化しなければ補給も整備もおぼつかないのは明らかだ。
第三に道理に合わないからだ。短期決戦で挑む以上、後方要員の数は限られる筈。当然だが、その中には整備員も含まれる。通常、1機の機体を飛行させるのに一班5〜6人の整備士が必要となる。それらの人員も連れて来るすれば移動だけでもタンカー1隻分は必要となる事からとても現実的ではない。かと言って整備員の付いていない機体などに誰も乗らないであろう。もしも空中でエンジンが故障したり、キャノピーを固定するビスが抜け落ちれば、その時点でパイロットの命は無いのだから。
「物量が違いすぎる……本当に奴らはただの新興国なのか?」
ファングはそう思わず呟かざるをえなかった。明らかに用意されている戦力が多すぎる。
実際の所、ズダン要塞に接近するこの帝国軍機は首都ルーンポリスを襲撃した部隊とは別の部隊、帝国地上軍の所属機であった。彼等は空港を占拠した後、既にモジュール化済みの部品と組み立て機材を運び込み、それをドロイドを総動員させ稼働機を組み立てたのだった。宇宙軍と地上軍は互いにライバル視している。今回のルーンポリス侵攻の初動を担ったのは宇宙軍であり、地上軍は既に別働隊として展開を完了していたのだ。
(……甘かった……僅か数時間でここまでの戦力を揃えるとは……)
まるで天井知らずの物量にライオネルは歯噛みせざるをえなかった。銀河帝国の脅威とは何か。
皇帝パルパティーン、ダース・ベイダーを筆頭とした暗黒面の使い手か。
グランドモフ・ターキンを主とした冷酷非情な帝国軍将校の指揮か。
それとも惑星すら破壊しうるスーパーレーザー砲や、スター・デストロイヤーを超えるスター・デストロイヤーたるスーパー・スター・デストロイヤーと言った想像を絶する超兵器の数々か。
いずれも否である。帝国の真の脅威とは、その圧倒的な国力、工業力からもたらされる物量、数の暴力こそが銀河帝国という国家が恐れられる理由であった。
インペリアル級やタイ・ファイターといった帝国の主力兵器がその帝国の物量の象徴と言ってもいいだろう。無論、単純に数だけを揃えるのではない。帝国製の兵器の大半はユニット化され最小限の改良だけで大きく性能が変わる。タイ・ファイターをベースに戦闘爆撃機的な機体としてタイ・ボマーが生み出されたが、元々が量産性と整備性に優れた機体であるタイ・ファイターをベースにした事で初期段階における動作不良も殆ど無く、また、操作系統の規格を共用させている事からパイロットの転換も容易であった。帝国軍の主力のスターファイターの数々がタイ・シリーズの派生機であるが、こういった、そこそこの性能と高い信頼性、安定性が高い稼働率を維持するのに一役買っていたのは言うまでもない。
「くっ……!第1種戦闘配置!オールウェポンズフリーだ!各要塞は多重結界の展開も開始せよ!何としても要塞上空に近づけさせるな!」
「「ハッ!」」
「閣下!小官も部隊の指揮に戻ります!」
「うむ。外部は頼んだぞ!」
ディスプレイが要塞上部の映像を映し出す。出来ることなら先程の報告が間違いであってほしいと神に願ったが、そんなライオネルら司令部要員を嘲笑うように、徐々に青空に黒い黒点がポツリポツリと増えてくる。
「司令!ダビデ砲、魔力変換率、正常に活発中、電気エネルギー120%に到達!いつでも発射出来ます!」
「宜しい!目標、敵の天の浮舟!当てんでも良い!敵が引き返してくれれば御の字だ……」
殺到する敵機の群れが黒点から徐々にはっきりと形が見える位置まで近付いてきた。双胴の不気味なシルエットが写し出される。その姿はまるで全てを焼きつかさんとする、悪魔のようであった。
「もはや、もう誰にも止められん……」
銀河帝国は休む暇すら与えずミリシアルを追い詰める。
「全機最終航路に入れ。」
帝国地上所属のタイ・ボマー隊は帝国地上軍機甲師団の援護の為にズダン要塞への爆撃を行うべく飛行していた。その数、およそ300機。まさしく圧倒的な物量差であった。
抵抗する者は物量で圧し潰し殲滅する。帝国に反旗を翻した者達がどのような末路をたどるか。ささやかな希望を決して見させず、絶望的なまでの圧倒的な差を見せつけてから屈伏させる。ベイダーは叛乱が起きる前に叛乱の芽を潰す必要があると言ったがそれは帝国の論理に従っただけに過ぎない。
もしも共和国が軍隊を解体していなければクローン戦争は起きなかった筈だからだ。弱小の勢力でも束になれば大国すら打倒しうるという状況に共和国は幾度もなく追い込まれた。故に銀河帝国以外の勢力に力を持たせる訳にはいかない。ミリシアルに勝つ事はそもそも既定路線であり、そこまで重要ではない。寧ろ、戦後に銀河帝国に逆らう事が如何に無謀で愚かな選択か、帝国に勝利する事などあり得ず、最悪の結果を齎すという事を教える事こそが重要なのだ。
結局の所、ミリシアルとの戦闘も銀河帝国にとって、この惑星全土を掌握し管理する為の見せしめでしかなく、最列強たる神聖ミリシアル帝国でも敵わない相手だと理解させた上で同じように叛乱など夢にも思わせないようにする為のデモンストレーションでしかないのだ。
『第一次攻撃隊、間もなく予定ポイントに。全機爆弾倉を開け。』
『こちら22番機、眼下にデカイ武器を確認しました。高度を下げて調べます。』
爆撃隊は100機ごとに3部隊に分けて編成されていた。これは要塞全土を反撃も許さないまま波状攻撃し、地上部隊の脅威となり得る砲台やトーチカ群を一網打尽にする為だ。だが、ここで思いもよらない反撃を受ける。
『22番機、28番機、撃墜!』
『48番機が殺られた!隊長!敵の攻撃です!』
「全機、怯むな!隊列をこのままに!任務を優先させろ!」
要塞側からの砲撃で前衛の数機が撃墜される。レーザー砲やイオン砲の類では無く実体弾を使用した物のようだが初速はかなり速い。さらに弾道上の衝撃波はかなり強く、巻き込まれた機体はバラバラに残骸を撒き散らす。
「レールガンか?厄介な……」
『命中率はそこまで良くは無いようですが……』
「恐らくは火器管制システムが未熟なのだろう。レーダーとの連動も想定していないようだ。」
思わぬ初撃を受けたものの帝国地上軍爆撃隊の勢いは衰えない。前衛の部隊が要塞上空に到達する。
『投下!投下!』
『よーし、マッチ1本残らずブチ込んでやれっ!』
要塞上空を青紫の光の玉が舞う。投下された爆弾は陽子エネルギーを纏う事によって発光するからだ。それは兵器とは思えぬ幻想的な光景であった。無論、着弾するまでだ。
着弾と同時に破壊と殺戮の華が咲く。陽子エネルギーを纏った事でプロトン爆弾は通常の火薬のみの爆弾と比べて数倍から数十倍の威力を誇る。それが宇宙空間ではなく、地上、それこそ重力圏で使用されればどうなるか。
真っ先に直撃を受けたトーチカはあっさりと天井から貫通し内部で炸裂する。旧式艦艇から流用された砲塔も同様だ。破壊の奔流は容赦無く内部に詰めていた兵士達を融解させ、瞬時に原子レベルにまで分解し消滅させた。内側から外側に向けて解放されたエネルギーの奔流はトーチカや砲台程度の厚さで防げるものではなく欠片すら残さずクレーターと化した。
爆弾の雨あられは運悪く遮蔽物の外にいた兵士の大半を超高圧の空気の壁と化した衝撃波で血煙に変え、一瞬遅れて高熱の爆風が僅かに残された彼等の肉片を炭化した有機物に変える。直撃せずとも塹壕や機関銃座、掩体壕の一部を埋め立て、中に詰めていた兵士達の墓穴となった。
後に明らかになる事だが、この時点でズダン要塞守備隊の人員3割が戦死し、防御施設の4割を喪失した。
『爆撃成功。敵の被害、甚大。』
『待て!敵要塞を見ろ!シールドだ!あれでは爆弾が通らない!』
「シールドだと!?情報を送れ。」
タイ・ボマー隊の隊長機も確認する。ドーム状の膜のような物体が敵の本丸であろう、山状の主要塞を覆い、爆撃から守っていた。プロトン爆弾は直撃はするものの表面を波打つだけで膜状のドームはびくともしない。
『ナブー事変の記録映像で似たような物を見ました。確か現地の部族軍が使用していたと思われますが……』
「ナブーの戦いか……まさかあれが後のクローン戦争の呼び水になるとはな……どの道、空爆だけで片が付くとは思ってはおらん。我々の役目は地上部隊の支援であって制圧ではない。後は将軍に任せて帰投するぞ。」
『ハッ!』
どの時代、どれ程の技術が発展しようとも結局の所、歩兵が敵の陣地に旗を突き立てなければ本当の意味で戦闘は終わらない。スター・デストロイヤーもスターファイターも歩兵たるストームトルーパーをそこまで進ませる為に存在すると言ってもいい。これだけは変わりはしないのだ。
用語解説・補足
《35式魔導重戦車》
中央暦1635年にミリシアル陸軍に採用された魔導戦車。外見はソ連軍T-35の車体にガンダムに登場する61式戦車の砲塔を取り付けたような見ため。連装砲を採用しているがこれはあくまで陸上戦艦として強引に設計した為。
なお、性能は多砲塔戦車の悪い面を前取りしている。
《28式魔導中戦車》
中央暦1628年に採用された魔導戦車。こちらはオーソドックスな戦車であり補助的な役回り。外見はドイツ軍3号戦車。武装は50mm榴弾砲を装備。
登場するかは今の所不明。
《25式魔導軽戦車》
中央暦1625年に採用された魔導戦車。外見はA13。主に偵察・索敵を担当。武装は20m m機関砲。
こちらも登場するか不明。