銀河帝国召喚   作:秋山大祭り

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第21話 破滅の足音

 ズダン要塞第一防衛ライン

 第一塹壕線

 第86防御陣地

 

 ズダン要塞最前線に位置する、この塹壕は元々は魔帝軍の古戦場跡地を元に忠実に再現した物だ。塹壕内はコンクリートで補強され雨や地下水が溜まらないように排水用の側溝も設けられており、鉄条網と土嚢で囲まれた防御線の合間合間に防御陣地や掩体壕が点在していた。

 

 「ったくついてねぇぜ。本当だったら今日から休暇だってのによ。」

 

 「まぁ、そうボヤくなよ。」

 

 「誰かタバコ持ってねぇか?」

 

 「俺にもくれ。」

 

 その塹壕の中でも最前線に位置するこの第86防御陣地では詰めているミリシアル兵達が各々、呑気に談笑していた。全部隊に警戒態勢が発令こそされてはいたが、彼等のように末端レベルの兵士達の多くは気にせずに互いに談笑したり、タバコをふかしていたりと呑気に構えていた。

 

 「しかしバカな奴等だ。本気でこのズダン要塞を落とせると思ってんのかね?」

 

 「あぁ。今の時代ミリシアルに敵う国なんかいねぇよ。」

 

 「だよな。」

 

 「首都が攻撃を受けた、って聞いたがデマなのか?」

 

 「デマに決まってるだろ。ったく。どこの馬鹿だ、そんな噂を流したのは……ん?」

 

 獣人族の兵士の一人が何かに気づき空を見る。何やら女性の悲鳴のような音がゼノスグラム国際空港の方角から迫って来る。するとどうだろうか。青い空に不気味な黒点が徐々に数を増やしその姿をハッキリと現した。樽型の胴体を2つ並行に並べたような異形の天の浮舟。銀河帝国が誇る戦闘爆撃機タイ・ボマーである。

 

 「お……おい!何だありゃあ!」

 

 「敵機だ!20……30!ダメだ数えられん!もっと来るぞ!」

 

 「なんで空襲警報が鳴らないんだ!?」

 

 遅れて要塞全土に空襲警報が鳴り響き、慌ただしく対空砲座に取り付く兵士達。そんな中、雷鳴のような轟音と共に上空を青白い軌跡が駆け抜け、敵機が数機纏めて爆散する。魔導レールガン、ダビデ砲の砲撃だ。

 

 「いいぞ!やっちまえ!」

 

 ミリシアル兵達は喝采を挙げるがそれも僅かな間だけであった。すぐにダビデ砲は撃ち止めになってしまう。遅れて対空砲が弾幕を張るが、素人目に見ても明らかに命中精度が低い。

 

 「おい!何で撃たないんだ!?」

 

 「チャージに時間がかかるんだ!」

 

 

 ダビデ砲は高威力、長射程の対地対空両用として設計され、オールラウンダーに戦場で活躍できるという画期的な性能を有し、期待されていたが如何せん魔力の電気への変換とチャージを同時に行わねばならないという複雑かつ緻密なシステムに加え、膨大な熱を発する為に冷却魔法で完全に冷却しなければならず再装填に3分から5分は必要になる。無論、これだけの時間があれば敵機が爆撃ポイントに到達するのに然程時間は掛からない。また、砲の照準自体は目視による旧式の光学照準装置を使用しており、砲手の技量に左右されるのだ。

 そうこうしている内に敵の天の浮舟がついに上空を通過する。

 

 「な…何だアレは……?」

 

 双胴の片割れから青白く光り輝く物体が連続して投下される。発光する球状の物体が舞い降りる様は何処となく神秘的で幻想的であった。

 

 「なんだか綺麗ですね。」

 

 「おい……」

 

 新兵の一人が塹壕から首を出し呑気にそう洩らした。咎めようと顔を向けた瞬間、ピカッと閃光と共にその新兵の頭部が消失した。衝撃波が首から上をもぎ取ったからだ。

 

 「なっ……!」

 

 ただの屍と化した新兵はドシャリと無機質な塹壕のコンクリートに崩れ落ちる。一瞬遅れて爆音が連続して響き渡る。音よりも速く衝撃波が通過したためだ。

 

 「伏せろ!」

 

 鉄条網の先、地雷原が連続して爆発した。埋設された地雷が次々と誘爆し、無事だった地雷も大量の土砂が覆いかぶさり無力化される。

 

 「なんだ!?なにが起きている!?」

 

 塹壕内にいた兵士達はパニックに陥る。だが、それは当然の反応であろう。演習の際に見た爆発とは明らかに威力が違い過ぎる。

 

 「畜生!まだ来るぞ!」

 

 無論、彼等が疑問に思考を割く時間やゆとり等ある筈も無い。爆撃隊にとって地雷原を吹き飛ばす事など前哨戦にすらなっていないのだ。何百もの爆弾の雨はトーチカ群、機関銃座、対空砲座や野戦砲を所狭しと並べた塹壕に向かって落下しつつあるのだから。

 

 「撃てーっ!撃ちまくれっ!くそっ!全く当たらんではないか!?」

 

 「退避ー!退避せよ!ここはもうダメだっ!」

 

 「いかんっ!魔導榴弾が誘爆を……グワーッ!」

 

 うなりを上げて対空砲弾を吐き出していた対空機銃が炸裂音と共に地面諸共、爆発四散し、野戦砲陣地やトーチカ、旧式艦船の砲塔を流用した砲座に至ってはタダの一発も撃つ事も無くスクラップと化した。野外に設置されていた弾薬集積所や液体魔石タンクが作業員諸共爆炎に包み込み、盛大なキノコ雲を上げる。

 

 

 「そこら中、火の海だ!」

 

 「どこへ逃げりゃあいいんだっ!」

 

 主要塞を含む一部の要塞施設には結界が張られ、ほとんどが爆撃を無効化する事には成功したが、中にはキャパシティを超えたせいで結界を破られ爆発炎上する主要塞もあった。唯一果敢に砲撃を続けていたダビデ砲であったが巨大で一際目立つせいで半数近くを破壊される事になった。

 そして運悪く塹壕内に落下した時には衝撃波で直線上の通路にあった全ての兵士、構造物をなぎ倒し、粉砕し、撹拌し、何もかも破壊し尽くした。

 

 

 「誰か助けてくれっ!!」

 

 「死にたくねぇっ!!」

 

 「神様!」

 

 戦闘の騒音と身も震わす地響きの最中、塹壕内で兵士達は皆、怯えきっていた。彼等の頭上には土くれや木片、コンクリート片のような要塞の構成物や装備の残骸であろう金属片やかつての戦友達であった肉片がバラバラと降ってくる。彼等は自分の入っている塹壕に爆弾が落ちないように、と神に祈ることしかできない。

 

 「……終わったのか?」

 

 「くそ……耳が痛ぇ……」

 

 敵機の悲鳴のようなエンジン音も爆弾の炸裂音も漸く聞こえなくなった。タイ・ボマー隊は僅か数分で搭載されていたプロトン爆弾を使いきっていたが、当の要塞守備隊からして見ればまるで数時間、数日間にも思えた。恐る恐ると顔を出す兵士達。頭から土砂を被ったせいで全身土気色だ。だが、それも絶望の表情で上塗りされる。

 

 「あぁ……神よ……」

 

 目の前に広がる光景は正しく地獄であった。地面はそこかしこにクレーターが出来、塹壕内の通路の一部は埋め立てられていた。爆発炎上する車両や野砲のドス黒い炎に照らし出された夥しい数の屍の数々。

 ちぎれた有刺鉄線や擱座した対空砲の砲身にボロ雑巾のように引っ掛かった死体や、完全に炭化した黒焦げの死体。だがそれはまだマシな部類であった。大半の死体は原形すら残らず土砂と臓器と血ににまみれバラバラに四散していたからだ。

 耳鳴りから回復した彼等がまず最初に聞いたのは死にきれずに、ただ死を待つだけになった無数の兵士達のうめき声であった。

 

 

 「メディック!メディーック!!」「腕がっ!俺の腕が無い!?」「ゴホっ!ゴボぽ……」「死ぬなっ!相棒!畜生!誰か、コイツの足を見つけてくれ!どこにも無いんだ!」

 

 

 ある者は血反吐を吐きながら必死に腹部から溢れるハラワタを戻そうと同じ動作を繰り返していた。ある者は超高速で飛散した破片をまともに受け全身を穴だらけにされ、激痛の余り発狂し獣のような悲鳴を上げながらのたうち回っていた。ある者は恐怖と絶望の余り自ら銃で顎下を撃ち抜き自決する者まで現れた。

 だが、それよりも戦場全体をこだましたのは生きたまま四肢をもがれ、喉を焼かれ、目を潰された兵士達の断末魔の喘ぎ声であった。彼等は塹壕やクレーターの底でズタズタに引き千切られた胴体や手足や飛び出した臓物、四散した脳漿や体液に全身まみれ、蛆虫の如く這いずり回っていた。

 

 (ここは……地獄だ……)

 

 見渡す限り屍が山のように積み重なり側溝には血が流れていた。屍山血河。地獄絵図。正しくこの場はこの世の終わりをまざまざと表していた。

 

 「おい!86の!お前ら無事か!?」

 

 「あぁ……何とかな……そっちはどうだ?」

 

 「そこら中死体だらけだ……!小隊長と中隊長が詰め所ごと殺られた。分隊長もどこへ行ったのやら……!」

 

 漸く彼等は半ば麻痺した嗅覚を回復させる事が出来たが土と水を多く含んだ泥の香り、死臭と硝煙で周囲は満ちた空気を吸った事で余計、気分が落ち込んだ。

 

 「おい、お前……大丈夫か?酷い顔色だぞ。」

 

 「大丈夫なわけ無いだろう……クソ、まだ耳鳴りがしやがる……」

 

 獣人族の兵士は血の気の引いた青白い表情でそう言った。獣人族は身体能力に優れた種族だ。柔軟ながらも強靭な身体に加えて視力、聴覚ともに人間族やエルフを超えている。しかし、逆を言えば強すぎる爆音の影響をもろに受けてしまうのだ。

 

 「肩を貸そうか?」

 

 「いや、大丈夫だ……だが、少し休ませてくれ。もう一回吐いてくる……」

 

 改めて塹壕内を見渡すと辛うじて爆撃を生き残った兵士達の姿が見えた。全員が土と血に塗れ、ある者は怯えたように周囲を見渡し、ある者は焦点の合わない目でニタニタと不気味な笑みを文字通り貼り付け、ある者は虚ろな目で銃を持っていないにも関わらずコッキングの動作を繰り返していた。

 例え、この戦場を生き延びたとしても彼等の心は元には戻れないだろう。

 

 

 「さっきまで目の前にいたんだ……閃光が走ったと思ったら目の前が真っ赤になってて……お……俺の体も服も赤くなってて……みんな、どこに行っちまったんだ!?」

 

 「俺は探したんだ……探したんだよ……でも、どこにもないんだよ!アイツの足が!腕が!」

 

 「誰か……俺をここから連れ出してくれ……もうたくさんだ……」

 

 塹壕内に兵士達の慟哭が虚しく響く。肉体は無事でも彼等の心は完全に破壊されていた。例え生き延びたとしても彼等の脳裏にこの光景は永遠に残り続けるだろう。生き延びられればの話だが……

 

 「司令部からの魔信です!第一防衛ラインは放棄!即座に第二防衛ラインに移動せよ、とのことです!」

 

 「……今更か!そこら中死体だらけだってのに……!」 

 

 「動けない奴等に手を貸してやれ!死体は放っておけ!生きている奴を最優先だ!」

 

 兵士達は塹壕内から慌ただしく負傷者や備品を運び出す。戦死者の遺体は可能な限り、一箇所に纏められ防水シートを掛けられその場に放置される。残念だが遺体を回収する余力は彼等に無いからだ。

 

 「おい。動けるか?」

 

 「あぁ……もう大丈夫だ。クソ……酷い匂いだ……」

 

 件の獣人族の兵士が顔をしかめながら立ちあがろうとする。だが……

 

 ……ズン_ズン……ミシ_メリ……

 

 ピクリと彼の犬耳が動く。

 

 「おい……今の何だ?」

 

 「何って……何だよ?」

 

 「いや、何かの足音が……」

 

 …ズン……ズン……ズン……バキメシャ……

 

 「まただ!足音が近づいて来る!聞こえたろ!?」

 

 「い…いや、分かんねぇて……」

 

 ズン……バキバキ……メシャリ……ズン……バサ……ズズン……

 

 足音と呼ぶにはそれは余りにも大きすぎた。それは腹に響くような大地を揺らす地響きを伴っていたからだ。一体、どれ程の巨体を有しているというのか?

 

 「!?ほらっ!聞こえただろうっ!?足音だ!空港の方角からだ!あの森の中からだ!」

 

 「そ……双眼鏡を持って来る!」

 

 慌てて側にあった双眼鏡で森の方角を見る。既に敵の爆撃隊は引き返していたのか上空は不気味な程、静かであった。

 しかし、その眼下に位置する森林地帯に信じられない光景を見る事になる。

 

 「何だあれは……」

 

 鬱蒼と茂る森の木々をまるで草原の草をかき分けて進むように何か巨大な『ナニか』がいた。正確には木々を押し退けながら要塞に進む何かのシルエットだけが見えた。ズシリズシリと重い足音が聞こえる度に地面が揺れ、木々からざわめきと共に鳥が空中に逃げ出す。無論、森林の木々は15mから20mも高さがある。そんな物を押し退けながら進む者とは一体、何なのか?

 

 「何かが近づいて来ている……」

 

 そう呟いた瞬間、その答えを知る事となった。

 

 「何だアレは……?」

 

 バキバキと木々を押し倒し踏み潰しながらそれは姿を現した。それは異様な姿をしていた。

 細長い2対の4本足に支えられた長方形の胴体、頭部にあたる部位には目や口らしい物は無くバイザー状のスリットと顎下とこめかみ辺りに映えた4本の突起物が見えた。

 そして何よりも歩行する姿はゾウやラクダを思わせるような生物的な外見でありながらも金属的な光沢を持った体表は何処となく無機質で機械じみていて威圧的であった。

 だが、そんな事がどうでもよくなる程、その四足の鉄獣は巨大であった。全高22.2mと、6から7階建てのビル程の大きさに匹敵し、全長は25.9mとおよそ10mと通常の戦車の3倍近い長さを有していた。

 

 「ば…化け物……!」

 

 陸棲生物としても陸上兵器としても余りにも規格外の大きさを持つ謎の巨大物体を前にその兵士は戦慄する。それと同時に要塞全土にサイレンが鳴り響く。この第86陣地以外からも、あの巨獣が確認されたのだろう。獣人族の兵士の腕を掴み、強引に立たせて陣地から逃げ出す。

 

 「おい!早く行くぞっ!グズグズするなっ!」

 

 「お…おい、何が見えたんだ!?あの足音は何なんだ!?」

 

 「説明は後だ!」

 

 (畜生!死んでたまるか!)

 

 名も無き兵士達は只々翻弄されるしかない。しかし、それは戦争という無慈悲で個人の感情など一切無視される一種のシステムに組み込まれた以上、仕方の無い事なのだ。彼等の悲哀は決して誰かに語られる事も振り返られる事も無い。後世の人間にとって関心の無い名も無き兵士の物語など誰も興味ないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四足獣?の体内

 

 

 『作戦は順調か?准将』

  

 「全て予定通りです。ベイダー卿」

 

 准将と呼ばれた壮年の帝国地上軍将校はホログラムに映し出されたベイダーのマスクに応えた。

 

 「既に敵首都への包囲網は完成しつつあり、別働隊も配置に着きました。ご命令があれば我々もいつでも要塞への進撃が可能です。」

 

 『地上軍は卿に任せる。私が言うべき事は無い。好きに進めるが良い。』

 

 「了解致しました。閣下。」

 

 ホログラムによる通信はそこで切られた。通信の内容からも分かるようにベイダーは全ての指揮をその准将に委任していた。これはある意味、破格の待遇であった。基本的に他者に心を開かず人間不信の気があり、無能な者や失態を犯した者を容赦無く粛清処刑を行うベイダーが全ての指揮を任せていたからだ。如何にベイダーが彼を信頼しているか如実に表していた。

 

 

 「各セクションリーダーへ、状況を報告せよ。」

 

 『第01問題ありません。』

 

 『第02同じく問題無し。いつでも動けます。』

 

 『第03、問題無し。』

 

 『第04問題ありません。ご命令を』

 

 「宜しい。これより作戦を開始する。ブリザード・フォース発進用意。」

 

 轟音を上げ巨獣達はは前脚を踏み出す。その姿に准将こと《マクシミリアン・ヴィアーズ准将》は奇妙な満足感を感じた。圧倒的な力の象徴として彼は巨獣こと、この《ATーAT》に信頼を寄せているのと同じようにベイダーは自身を信頼してくれている事は軍人として本懐であった。

 

 (とは言え、慢心は禁物だ。帝国軍人としての責務を着実に実行するのみ。)

 

 慢心故に身を滅ぼした者は多い。若き日のベイダーとて例外ではなかったのだから。

 

 

 「全ATーAT、前進せよ」

 

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