ズダン要塞
地下司令部
「増援が来れない!?一体どういう事だ!?」
幕僚の一人がそう声を荒げる。司令部内は混乱の真っ只中であった。だが、その反応も当然であろう。本来来る筈であった味方の増援、それら増援部隊と共に敵を挟み撃ちにする手筈だったのだ。
「既に敵は最終防衛ラインに到達しているというのに、今さら来れませんでしたなど、通用するか!」
既に塹壕を中心とした味方の防衛ラインは尽く突破され、敵は歩兵と二足歩行兵器を中心とした部隊を展開させ、第一から第三防衛ライン内に強固な橋頭堡を築き始めていた。無論、守備隊もただ黙って見ていた訳では無い。何とかこれ以上の浸透を阻止しようと兵士達は奮戦するが、これも件の四足獣の鉄壁の防壁の前に蹴散らされる。
「報告によればカン・ブリットからの増援部隊は移動途中に上空から緑色の光線が降り注ぎ、巨大なクレーターのみが残された、との報告です……」
「何なんだ、その緑色の光とは……っ!?」
刹那、要塞全土を振動が襲う。机上の書類が床に落ち、マグカップが割れ、中のコーヒーが書類の上にぶち撒けられ真っ黒に汚す。悲鳴と怒号で紛糾する中、ライオネルは事態の収拾を図る。
「状況を報告せよ!一体何が起きたっ!?」
「要塞直上より緑色の光線が飛来!先程の爆発は着弾した影響のようです!」
「今、モニターに出します!」
中央モニターに着弾地点が映し出される。映像はしばし砂嵐で荒れ、画質はかなり悪くなっていた。操作員が設定を変更し、ピントを合わせ漸く鮮明な映像を映し出す。だが、そのあまりの光景に一同は絶句する。
「なんだ……これは……」
かつては大地を覆うが如く敷設されていた塹壕線や砲塁、野砲や要塞砲、増員された戦車も歩兵も、もうそこには文字通り何も存在しなくなっていた。残っているのは巨大な穴、そうクレーターだけだった。
「い……一体、何が行なわれたのだ!?」
「まさか、これが伝説に聞くコア魔法か!?」
「馬鹿な事を言うなっ!あんな物はタダのおとぎ話だっ!」
「ならば、これをどう説明するっ!?こんな真似を出来るのは魔帝しかいない筈だぞっ!?」
幕僚達は不毛な言い争いを始める。彼等は明らかにこの状況に、恐怖に呑まれていた。敵は未知の兵器を使い自分達を滅ぼそうとしている。かつて恐怖で全世界を支配していた魔帝のように。遠い大昔に彼等の祖先が味わった恐怖と絶望を彼等は今、現実のものとして味わっていた。
(こんな……こんな馬鹿げた事が起きていいのか?いや、待て……何故、このタイミングで?これ程、強力な攻撃なら最初に使う筈だ……何故だ……?)
ライオネルも暫し唖然とした表情でモニターを見つめていた。何故、この段階でこの攻撃を行ったのか?これ程の威力であれば最初から使っていた筈だと。敵を殲滅する以上に何か別の目的があるのではないか?と。
そしてハッと何かに気づくと矢継ぎ早に指示を出す。
「い…いかん!直ちに要塞内部に兵力を集中させよ!最終防衛ラインは放棄しても構わん!このままでは内部から食い荒らされるぞ!」
ライオネルは新たな指示を出す。だが、後一歩遅かった。
「第78番通路にて敵部隊が侵入!およそ1個中隊!」
「第445歩兵師団より通達です!『第3格納庫にて敵歩兵1個小隊が侵入!現在戦闘中につき大至急応援を求む!』との事です!」
「第11魔力制御室にて戦闘発生!!また、84通路にて正体不明の大型ゴーレムらしき物体と敵兵1個小隊を確認!至急、応援を!!」
(やられた……!敵の目的は地下通路か!)
地面に広がるクレーターは要塞内に繋がる坑道状の地下通路の真上に当たる地面を塹壕とトーチカごと根こそぎ刮げ取っていた。そして敵部隊は何の抵抗も受けること無くクレーターが作り出した破砕部から地下通路に侵入し始めていた。
(迂闊だった……!真に脅威なのは敵の指揮官!ここまで抜かり無いとは……!)
敵の攻撃は最終防衛ラインを塹壕ごと消し飛ばした。明らかにミリシアル側が圧迫に押され態勢を立て直すべく部隊を後退させるように、なおかつ一カ所に戦力が集中する瞬間を狙っていたのだろう。この時点で要塞守備隊は数と地の利を失っていた。敵の戦術はシンプルな正攻法、圧倒的な力でぶん殴る王道とも言える戦術だ。だがシンプルな王道であるが故に下手な小細工は通用しないと言っていい。それこそ一度嵌ると抜け出せなくなる。まるでコーナーに追い詰められ反撃も許されずに一方的にパンチを受け続けるボクサーのように。
(このままでは何れはすり潰される……止むを得えん)
ライオネルは腹を括った。今これから執る作戦は外道の道だからだ。
「……各部隊に通達せよ。各主要ゲートは爆破、中枢通路以外の全ての通路も破壊しろ。また、魔導アーマー隊を重要防衛拠点に配置しろ……そして、全兵士に戦意高揚剤を配布せよ。」
「戦意高揚剤を……!?」
「……」
「……承知致しました……」
幕僚達は無言で応えるライオネルに了承するしかなかった。ここで言う戦意高揚剤とは名前の通り兵士の戦闘効率を高めるべく開発された魔法薬である。基本的に人間は殺人に対して抵抗感を持っており、戦闘中であっても直接相手を殺害しようする行為を避ける傾向がある。その為、躊躇無く敵を殺せるように、こういった薬品もある意味必要と言えるだろう。
この薬品は投与した兵士を異常興奮させて理性のタガを外し、内に秘めた凶暴性と暴力性を前面に押し出して一種の狂戦士と化す凶悪な代物だ。当たり前の事だが中毒性と依存性も酷く、使い続ければ幻覚や幻聴に悩まされ、最悪の場合ショック死の可能性もあった。幕僚達が驚愕するのも無理のない話であった。
この薬品のベースは元々、魔帝由来の技術であり魔帝との全面戦争に備えて開発された経緯を持っているが、魔帝に対抗する為にも此等の中毒性等の問題は無視されているが仕方がないであろう。
「とにかく1分1秒でも長く、この要塞を死守するのだ……もしかしたら敵への反撃に成功し、こちらへ増援に向かっている部隊もいるかもしれん。我々が籠城戦を選ぶとなれば敵とて撤退する可能性もある筈だ……」
それは余りにも希望的観測に則った考えであった。最早、守備側は数的有利も地の利も失いつつあり、悪化する戦況に何ら対処の術を持っていない。だが、例え、どれ程不利な状況でも彼等に撤退の二文字は無い。増援が来るという希望を捨てきれない以上、味方の屍を積み重ねるだけの消耗戦を続けるしかないのだ。
退くも地獄、進むも地獄……ライオネルは外道にならざるを得なかった。
(神よ……何故、このような試練をお与え申したのですか……!)
中央ミリシエントハイウェイ68号線
時は少し遡り、帝国地上軍ATーAT隊がズダン要塞宛に降伏勧告を告げた同じ時刻、カン・ブリットとズダン要塞のちょうど中間の位置にあるハイウェイ上を増援部隊ことカン・ブリット駐屯兵団はズダン要塞へと足を進めていた。
その総数は戦車100両、装甲車両150両、対戦車砲を含む牽引式野砲を400門に歩兵10000万人とおよそ一個師団に匹敵する戦力だ。
「……まさかこんな形でルーンポリスに赴く事になるとはな。」
ハイウェイの周囲は一面草原の大地が広がっていた。この辺りで人口の建造物は1時間ほど前に通り過ぎたダイナーレストラン位しか存在しない辺鄙な場所だがドライブを楽しむ分には充分であろう。しかし一行の最後尾で前進する部隊を見る部隊の司令官の表情は複雑だ。
「できる事ならドライブでここを通りたかったな。」
「相手は所詮新興国でしょう。それにこれだけの増援がいるんです。早めに終わらせましょう。」
(呑気なことを……首都が陥落しかけているのだぞ……)
司令官の内憂を余所に副官はのほほんとしていた。それは他の部下、兵士達も同様というより殆どの兵士達もどこか現実離れした旅行気分といった様子で今回の件も話半分にしか聞いていなかった。そもそも彼等の所属は州軍、正規軍からはパートタイマーとも揶揄される兵士達だ。練度も士気も格段に低い。
彼等の大半はただの思い出作りで戦場に向かおうというのだ。一行を指揮する者として胃がキリキリと痛んだ。
(全く、先が思いやられる……ん?)
ふと、空を見上げると奇妙な物を見た。空は明るくまだ晴天だというのに緑色の尾を引く流れ星を見たのだ。
「こんなに明るいのに流れ星だと?しかもあんな一度に落ちるものなのか?」
一本、また一本と連続して流れ星は地上に降り注ぐように空を駆けていく。それは幻想的でとても美しい光景であった。その内の一本が要塞へと向かう高速道路の数km先にある小山の向こう側に消えて行く。
次の瞬間、その小山が消し飛んだ。
「なっ!!」
激しい衝撃波が彼等を襲い、遅れて地響きと爆音が轟き上空に悍ましいキノコ雲が立ち昇る。バランスを崩した魔導トラックが何台か路側帯に横転し、車外に投げ出された兵士達を押し潰す。それを見た兵士達はパニックを起こして右往左往する。
「何なんだ……あれは一体、何なんだ!?はっ……!?まさか!!」
その時、彼は全てを理解した。これが件の新興国とやらの攻撃だという事に。そして全てが遅すぎたと。頭上から緑色の流れ星が迫って来たのだから。
惑星衛星軌道上
「ポイント5着弾を確認。戦果を分析……敵目標の99%を撃破完了。次の目標に照準をセット。」
「ポイント11が移動を確認。如何なさいますか?」
「第6ターボレーザー砲に通達、出力25%に設定、誤差修正の後にポイント11への砲撃を開始せよ。」
「ハッ!」
惑星の衛星軌道上、地表から数万メートル離れた超空すら越えた漆黒の世界にインペリアル級を中心とした銀河帝国軍宇宙艦隊が鎮座していた。インペリアル級を中央に周囲をヴィクトリー級が取り囲むように輪形陣を敷き、インペリアル級の軌道爆撃を護衛していた。
第6砲塔……その型式はXXー9重ターボレーザー砲が設定された目標に砲口を向ける。コンピューター制御された砲のシステムは半ば自動化されており、後は砲術士が発射のスイッチを押すだけだ。
「こちら第6砲塔、砲撃を開始。3、2、1……発射。」
砲塔から極太の緑色の光弾が地表に向けて放たれる。大気圏を突入する際に一瞬、減衰したレーザーの粒子が流星のように尾を引いた。無論、地表への着弾までのタイムラグはレーザーである以上、無いといっても良い。そして此等の緑色の光弾は地上からも多くのミリシアル軍兵士やミリシアル市民からも緑色の流星群として、真っ昼間の奇妙な空のイリュージョンとして見られていた。
「弾着、今。」
瞬間、地表にまた一つ破壊の華が咲く。摂氏数万度のプラズマと化したエネルギーの奔流が半径数km以内の全てを焼き融かした。そう文字通り全てである。
中心部を進行していたミリシアル軍部隊1個師団は自分達に何が起きたのか分からないまま一瞬で消滅した。少なくとも何の苦痛も無く死ねたのは要塞守備隊の一部の兵士達が臓物と泥濘にまみれ、絶望に塗り潰されながら死んでいった事に比べれば極めて幸運な方であっただろう。
《軌道爆撃》
惑星軌道上、宇宙空間から惑星地表に向けてスターシップの主砲、それも大口径のターボレーザーによる攻撃方法である。軌道爆撃はシンプルながらも極めて強力な攻撃手段であり、主に地表の基地や都市、密集した地上部隊を殲滅するのに用いられていた。空すらも超えた遥か宇宙からの狙撃とも言える軌道爆撃は目標を一撃でクレーターに変え、尚且つ放射能と言った汚染を出さない事からも核兵器よりも強力無比かつクリーンな兵器と言えよう。
「第6砲塔より、報告。全ターゲットの撃滅を確認。次の射撃目標の指定を求む。」
「艦長、観測班より確認された敵増援部隊の約80%を掃討したとの事です。残りの20%もスターファイター隊が捕捉しました。」
「うむ……敵がまとまって移動してくれたおかげでターボレーザーで一度に殲滅出来たようだな。直ちに残存戦力の掃討に当たるようにスターファイター隊に伝えてくれ。」
「ハッ!」
艦隊の旗艦にしてベイダーの乗艦であるインペリアル級スター・デストロイヤー、《デヴァステイター》はその与えられた艦名の通りミリシエント大陸全土に点在する基地を都市に破壊と荒廃をもたらした。
インペリアル級に搭載されたXXー9重ターボレーザー砲は対艦用に設計された艦砲であり、最大出力で発射されたレーザー弾は一撃で小惑星を粉砕し都市区画を一瞬で消滅させる程の威力であり、下手な核兵器……この惑星基準で言えばコア魔法が爆竹程度に見える程の絶大な破壊力をもたらすのだ。
しかし、威力と射程に優れる反面、命令精度は遥かに劣る。それこそ高速で飛び回るスターファイター等の迎撃には向いていない。
いずれにせよ、この時点でルーンポリスへと向かっていた各州からの増援部隊は全滅し、ミリシアル側は反撃の手段を完全に失った。
(出来る事ならこの手は使いたくは無かったがな……)
デヴァステイター艦長ザミュエル・レノックス大佐は苦々しい思いで眼下に咲くキノコ雲の列を見つめた。本来ならば軌道爆撃などせずに神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリスを制圧、そのまま降伏させ、早期に戦争を終結させる手筈だったのだ。
(まさか、ここまで激しい抵抗を受けるとは……)
神聖ミリシアル帝国とやらの抵抗は苛烈さを極めた。無論、抵抗と言えど端から結果の見えた戦闘である。客観的に見ればミリシアルの保有する兵器など、言ってしまえば出来の悪い砂糖菓子か飴細工のような代物だ。単純な武器の性能で比べればブラスター、即ちレーザー銃全盛の時代で、火薬式の金属製弾丸を使用する旧式銃のような博物館の骨董品を現役で使っているのである。ハットクランのようなギャングにすら対抗できないレベルでしかない。
「……先方からの回答はまだか?」
「ハッ!降伏勧告は続けていますが、敵首都からの返答はありません。」
「いい加減にして欲しいものだ。これ以上、戦闘が長引けば彼等の首都そのものを海底に沈める事になるのだぞ……」
にも関わらず抵抗は激しさを増すばかりで何か切り札でも持っているのかと思われた。それこそ同盟軍や分離主義勢力のような惑星外部の勢力が裏で支援していると思われたが、現段階までに敵にそのような様子は見えない。首都からの脱出は疎か、寧ろ首都へと立て籠もり、自ら袋のネズミと化すのは理解し難い判断だ。
まぁ例え脱出しようとした所で制空権、制宙権を完全に抑えている時点で不可能なのだが。
(地上の戦線を拡大させた所で制宙権は我が方にある……言うなれば何処に部隊を配置した所で情報は筒抜けだと言うのに)
レノックス自身、若かりし頃にクローン戦争への従軍経験を持つ軍人であるが、勝算も無く、惑星外からの増援も期待できない状況でここまで激しい抵抗を続ける勢力を見た事が無かった。
(勝敗など戦う前から分かっているだろうに、何故無意味な犠牲を出そう言うのか?)
一体全体、何が彼等をここまで突き動かしているのか?とレノックスにはもう分からなかった。単なる意地とプライドの為なのか、それとも広い銀河系で塵芥程の価値しかない最列強とやらの称号の為なのだろうか?これだけの目に遭って何故とっとと降伏しないのか、飽くまで軍事行動を政治のオプションの一つとして見ている一軍人として理解する事はできなかった。
無論、ミリシアル側からの視点で見ればまた違った見方がある。単純な話だが神聖ミリシアル帝国という国家は負け方を知らない国家なのだ。長い歴史を見れば魔王によって一度は国を滅ぼされたものの、それ以降は魔帝の技術をいち早く解析し、国力を発展させ列強の盟主として長年君臨し続けてきた。だが、それは言うなれば神聖ミリシアル帝国という国家は格上の相手と戦った事が無いという事でもあり、そもそも魔王戦の記憶自体が一万数千年前の歴史でしか無いのだ。
レノックスは知らないがミリシアル側が勝つつもりで戦っていると知れば、彼等に呆れよりも憐れみの感情を抱いただろう。
(彼等には現実が見えていないのか?味方の犠牲は少ない方が良い筈だと思うのだが……)
無論、それはあくまでも銀河帝国という超巨大国家に属する一軍人であるレノックスの、ある種の無自覚な傲慢さを表している理屈かもしれない。基本的に一般的な帝国軍人は帝国のみが武力を持つべきと考えているし、銀河帝国の国是、ニュー・オーダー主義以外の思想を無意味な物としか見ていないからだ。それも、こんな名も無き惑星の自称列強国の価値観など端から眼中に無い。
しかし、それは単純な傲慢さ以上に、同時に否定も出来ない論理でもあるのだ。
(クローン戦争の悲劇を繰り返す訳にはいかない……あの暗黒時代を繰り返さない為にも、反乱軍のような分離主義者共を一刻も早く叩き潰さなければ、この先、第二、第三の分離主義勢力が生み出される……そうなれば未来永劫、銀河に平和な時代は訪れなくなる……)
銀河共和国、独立星系連合双方で繰り広げられたクローン戦争は、終戦から数十年という月日が経っても銀河系に大きな傷を残した。戦死者数は数十兆人にも及び、軌道爆撃で居住できなくなる程、環境を破壊された惑星は数知れず、復興すらされず放棄された。そして結果として生まれた戦争難民の救済処置は未だに終わりが見えない。それが今の時代なのだ。
(国家間の戦争となれば犠牲者の数に際限など無くなる……しかもその大半は本来、戦争には無関係の筈の民間人だ……だが、飽くまでも単一国家内の小さな戦いにのみ終始していれば、そのような事態には陥らない筈だ……かつて先祖達は銀河全土のさまざまな種族間闘争を乗り越えて漸く銀河共和国を建国したのだ。その系譜たる銀河帝国を破壊するなど許される事ではない。)
今から25000年前、銀河系に住まう人間、エイリアンと言ったあらゆる種族は互いに協力しあい、当時、銀河系を恐怖で支配していたラカタン無限帝国を打倒し、統一銀河憲法の発布、即ち無限帝国に代わる新たな銀河間統一政府たる銀河共和国を建国したのだ。そして、それは単なる国家の建国という出来事以上の意味を持っている。
種族間の諍いを越え、不安だが希望に満ちた未来への想いを込め、苦難の末に漸く統一された単一国家としての銀河共和国は銀河系に住まう人々にとって宝と言って良い存在なのだ。
そして統一政府として銀河共和国から正統な統治を継承した銀河帝国を否定し破壊するなど、嘗ての先人達の悲願を無視した最も愚かで野蛮な行為とレノックスは考えていた。
(共和国も帝国も同じ問題を抱えているのは間違いない。だが、それは時間を掛けてゆっくりと改革していけば良いだけの話だ。暴力……それもテロリズムで強引に変えようなど論外極まりない。)
レノックスら帝国軍将校から見れば、どれ程大層な理想を掲げようとも暴力革命というテロで共和国を破壊しようとしたドゥークー伯爵も、帝国への反旗を翻したモン・モスマ率いる反乱同盟軍も、所詮は銀河系という一つの枠組みを破壊し、いたずらに混乱を巻き散らそうとしているテロリストに過ぎないと考えていた。帝国のやり方に不平不満があるならば選挙なり、なんなりと他の手段に訴える方法があった筈だ。少なくとも帝国元老院が存在する以上、テロという手段を取った時点で反乱同盟軍の主張に耳を傾ける価値は無いとすら思っていた。
(無論、この惑星の住民達も正しく帝国の恩恵を受けるべきだ。少なくとも反乱軍の件は一度置いておいても良いだろう。ここまで巻き込んでしまった以上、我々が主導して文明の発展を手助けする必要がある。確かに住民達の反発は激しいが、昨今の銀河の情勢は不安定だ……同盟軍の思想に毒されればとんでもない事になる。多少の犠牲は出るだろうが、力づくでも平和を維持するのが優先であろう。)
基本的に比較論ではあるがレノックスは、この星の住民達に同情的で尚且つ良心的な精神性を持つ軍人であったが、飽くまでも惑星自体の主権、自治権は認めず、銀河帝国によって管理運営されるべきという認識に留まっている。そう言った意味では銀河帝国、並びにニュー・オーダー主義を妄信し、自分達の主義主張を押し付け、反対する者を容赦無く蹂躙し、その結果、起きた流血を顧みない様は一般的な帝国軍将校と大差が無かった。
結局の所、反乱を起こされる前にその因子を排除するか、起きた後に排除するか、の違いでしか無い。
「ふぅん……思った以上につまらないな、ブラザー。」
「確かにねぇ……こうも一方的だとね。何か面白い反応がほしいね、シスター。」
「……これはイレヴンス卿にトゥエルヴス卿……もう訓練は宜しいのですか?」
背後からの声にレノックスは振り向いて答えた。(その際、思わず顔に出しかけた不快感を消すのに意識を集中せざるを得なかった。)レノックスの視線の先に二人の男女がいた。
二人とも共通の黒ずくめのボディスーツとマントを身に着け、胸部と肩部を保護する、プラストイド合金製のアーマーとヘルメットを装着していた。スーツとアーマーにはご丁寧にも帝国の国章がエンブレムされていた。
「お邪魔だったかな?大佐、戦況はどうだい?」
片割れの一人である背の高い若い男……いや、まだ10代後半の青年と言ってもいいであろう。彼は軽薄な様子でそう聞く。
《イレヴンス・ブラザー》それが彼のコードネームであった。フルフェイスタイプのヘルメットのせいで表情は見えないがニヤニヤとした笑みを浮かべているのだろう。
「作戦は順調です。今日中に敵首都を制圧する作戦自体に変更はありません。」
「当然だろう。こんなゴミのような星の虫けら共に軍は一体、何を手こずっているんだ?」
「……返す言葉もありません。トゥエルヴス卿。」
もう一人の人物、こちらはイレヴンス・ブラザーと違い、背の低い女……というよりもまだ10代前半の少女と言っても過言では無い年齢であろう。
《トゥエルヴス・シスター》と彼女は呼ばれていた。こちらもヘルメットのせいで表情は見えないが、かなり機嫌が悪い。
《尋問官》
クローン戦争の終結、そして銀河帝国の成立後、帝国は全銀河をその支配下に置いた。分離主義勢力、そして戦争末期にオーダー66の発令で壊滅したジェダイ・オーダーは過去の歴史の遺物となり歴史から完全に抹殺された。
しかし、それはあくまでも表向きの話であり、実際にはかなりの数のジェダイの生き残りは存在した。そして生き残ったジェダイの中には潜伏し、帝国への反逆を行う者も大勢いた。並みの兵士では太刀打ち出来ない力を持つジェダイに対して、帝国はジェダイと同じフォースを扱える暗黒面の戦士を作り出した。それが尋問官である。
「訓練などつまらん!そもそも訓練などせずとも私達の調整は完璧だっ!!なのに何故ベイダー卿は出撃を認めてくれないのだ!?」
トゥエルヴスは激昂した。手を振り回し、過剰な程のオーバーリアクションを取るその姿は遊びに行けない事に駄々をこねる幼児そのものだ。事実、彼女にとって戦場は遊び場そのものだからこの反応も当然であろう。外見の年齢以上に彼女の内面は幼く残忍で善意というブレーキの存在しない幼児……それがトゥエルヴ・シスターだ。
「我がシスター、あまり大佐を困らせるものでは無いよ。第一、君が3日前に捕虜を勝手に殺してしまったからだろう?」
「私が殺した訳ではないっ!ちょっと甚振ったら勝手に死んだだけだ!この星の連中が脆すぎるのが悪いっ!」
「ベイダー卿からもお叱りを受けただろう?僕があらかじめ情報を吐かせていたから良いものを……取るに足らない現地民とは言え、勝手にオモチャを壊したのは良くないよ。シスター」
イレヴンスは穏やかな様子で彼女を諌める。それは我儘な妹を宥める兄のように。癇癪持ちのトゥエルヴスを大人しくさせる事が出来るのはベイダーとイレヴンス、そして二人のお付のナニー・ドロイド位だ。最も表面上、好青年を装っているものの実際の所、トゥエルヴスと同様に他者に対しての思いやり等、彼は微塵たりとも持ち合わせてはいない。彼にとって重要なのはトゥエルヴスだけであり、それ以外の人間など選ばれた存在である自分達に劣る劣等種に過ぎないというのが彼の本音であった。
余談だが二人が待機命令を言い渡された原因となった事件であるが、一週間前に情報収集で拉致して来たミリシアル人にベイダーはマインドトリックで情報を抜き出す事をイレヴンスに命じたが、結果として情勢は聞き出せたものの廃人となってしまった。本来ならば、これで終わりなのだがトゥエルヴスは隠している情報がある筈だと、捕虜を拷問したが、既に廃人になっていた事もあり反応らしい反応はもう無かった。思っていた反応を示さない捕虜に逆上し、癇癪を爆発させた彼女はその場で捕虜の首を絞め上げてへし折ったのだ。既に捕虜自体に価値は無く、ダストシュートに放り込まれる予定でなければ、とっくにトゥエルヴスはベイダーに粛清されていたであろう。
「ぐぬぬ……ブラザーまでそんな事を……!」
(イカれた人斬り共が……心底反吐が出る……)
レノックスは心に沸き上がる嫌悪感を抑えるのに苦心した。この二人は殺戮と破壊を心の底から楽しんでる。無論、レノックスとて国家の為に軍人として手を汚すのは止むを得ないと考えているが、この二人は違う。殺人が手段ではなく目的なのだ。
無論、そんな事はおくびにも出せない。尋問官は階級は存在しないものの、銀河帝国皇帝たるパルパティーンが直々に任命した私兵と言っても良い存在だ。それこそ兵士や兵器を徴発できる特権すら与えられているのだ。
「そもそもベイダー卿も手緩い!たかがクソ虫を一匹捻った位で待機命令など納得出来る筈がないだろう!?」
「……まぁ、シスターが少しばかりやり過ぎたのは確かだけどね。手緩いのは同感だねぇ……いっその事、最初に軌道爆撃なり、隕石を落とすなりして国民の半分を見せしめに処分していた方が彼等もここまで混乱しなかったんじゃないかな?」
イレヴンズは顎下に手をあて考え込む仕草をする。結果論であるが、その指摘は正しかった。銀河帝国側は反乱軍の存在を気にするが余りミリシアル側の抵抗を甘く見ていたし、ミリシアル側は銀河帝国との国力差をまるで理解していなかった。
結果として戦火は拡大してしまった。本当ならば数時間で終わる戦闘が丸一日も掛かってしまった。
「下手な手心を加えたせいで、こんな面倒な事になっているんだろう?この惑星の住民に一番必要なのは躾だよ。そもそも僕たちと対等に話せる立場だと思っているのかな?」
「わざわざ足元まで屈んで位置を合わして交渉してやって、この体たらくだ。まぁ……」
トゥエルヴスはマスクの中でクツクツと不気味な笑い声を立てる。
「そのおかげで我々も好きなだけ殺しを楽しめるというものだがな……ブラザー!クソ虫をどれだけブチ殺せるか勝負だ!!」
「おいおい……任務を忘れてはいけないよ、シスター。この惑星にはジェダイの残党と反乱軍がいるらしいからね。」
「ふんっ!ジェダイの負け犬共など手足を切り落とした後、頭をねじ切って案山子に改造してくれる!」
(何故、こんな連中の相手もせねばならんのだ?いつから帝国軍は精神病院になったのだ?)
そう息巻くトゥエルヴスを尻目にレノックスは絶望的な気分で嘆息した。有能な敵以上に無能な味方に苦しめられるとは、この事かと。
そんな中、艦橋にもう一人、いや、もう一体、闖入者が現れる。
「御探ししましたよ、お二方。さぁ、ライトニングへお戻り下さい。修行のメニューがまだ残っておられますよ?」
「B-2ON!何故、お前がここにいる!?」
現れたのは3POシリーズ・プロトコル・ドロイドであった。B-2ONと呼ばれたそのドロイドは外見上は普通の3POシリーズと大差無かったが外装は漆黒に塗装され、人間でいう所の目にあたる光センサーも赤く発光しており、極めて威圧感のある外見をしていた。
(まさか、これが噂に聞く3POタイプの暗殺用ドロイドか?)
「私はお二人の行動パターンを記録済みです。何処へ行かれようとお仕え致します。では基礎メニューのおさらいから始めましょうか?」
「やられたね、我がシスター。さぁ訓練に戻ろうか。」
「お…おい!待て!訓練はウンザリなんだ!離せ〜!!」
「それでは僕らも失礼させて頂くよ、大佐。お仕事がんばってね。」
そう言ってイレヴンスは喚き散らすトゥエルヴスを引きずるB-2ONの後ろを付いて行く。二人と一体が出ていった後、レノックスは大きく溜息をつく。
(相変わらず何を考えているか分からない男だ……)
「厄介な連中ですな。ベイダー卿も何故、あのような連中を野放しにしているのでしょうか?」
「ベイダー卿にも何か、お考えがあるのだろう……それに中佐、あの二人には余り良くない噂を聞いている。」
「噂……でありますか?」
「貴官はシス・エターナルを知っているか?」
「まさか……いや、成る程……だからあれ程の戦力を……」
レノックスとコーシン中佐は艦橋の外を眺める。そこにはヴィクトリー級スター・デストロイヤーを2隻結合した奇妙な艦艇があった。ツイン・スター・デストロイヤーと呼ばれる実験艦、その名を《ライトニング》と名付けられたイレヴンスとトゥエルヴス両名に与えられた専用艦である。
「尋問官と言えど、あれ程の戦力を揃えられるとは思えん。恐らくは皇帝陛下から与えられた物だろう……」
銀河帝国皇帝パルパティーンがシスの信奉者である事は噂レベルではあるが、真しやかに囁かれていた。現に、シスの暗黒卿たるベイダーを自身の右腕として重宝している事からも明らかであろう。
実際の所、もっと悍ましい事実を皇帝は隠しているが、あくまでも帝国と銀河系の為と信じて戦っている彼等が知ればどう思うだろうか?
「どちらにせよ、あの二人に関してはベイダー卿が一任なさっておられる。極力関わらん事だ。」
ATーATコックピット内部
「閣下、突入部隊より報告です。メイン通路の制圧率33%に達しました。ここを基点に橋頭堡を確保、要塞司令部及び、シールドジェネレーターの制圧、要塞全土の攻略を開始します。」
「宜しい。しかし、敵の抵抗は予想以上に激しいようだな……未だに士気を保っているとは……」
通信士からの報告にヴィアーズは敵要塞守備隊の抵抗に内心、舌を巻く。地上の施設のほとんどはクレーターと死体で溢れかえっている。報告では敵兵は何らかの戦意高揚剤を使い、何とか戦線を維持しているとあったが、それでも大した事だ。ヤク中のジャンキーなど碌な戦力にならないからだ。
「別動隊からの報告はあるか?進捗を聞きたい。」
「目標まで後30kmとの事です。閣下、このままでは我が隊は間に合いません。」
「うむ……予想以上に時間が掛かったな……」
「宇宙軍に支援を要請しますか?ターボレーザーによる軌道爆撃ならば敵のシールドも破れる筈です。」
「いや、先程、弾かれたのを見ただろう。大元自体を叩かねばならん。それに余り宇宙軍に借りを作りたくない。」
シールドは確かに頑強だが、シールド発生装置なり、ジェネレーターのようなエネルギー炉を破壊すれば無効化できる。奇しくも要塞を守る魔導結界も同じ原理で動いていた。
「宇宙軍にしては、レノックス大佐は敬意に値する軍人だが、おんぶにだっこでは我々、帝国地上軍の沽券に関わる。これ以上の支援は求められん。」
帝国宇宙軍と帝国地上軍は良く言えばライバル関係、悪く言えば互いに蹴落とし合う敵でもある。こういった軍種対立はどこの時代、どこの国でも見られる光景であり、帝国もその例外では無い。
「……ドロイドを出そう。20年前の骨董品だが役には立つだろう。」
「クローン達がいい顔をしませんね……」
「止むを得えんさ。これ以上、部下を失いたくは無い。」