ズダン要塞
元第3防衛ライン
銀河帝国地上軍橋頭堡内
ジャガーノート車内にて
「損害が大きくなっている。まだ敵の抵抗を粉砕出来ないのか?」
帝国地上軍が築いた橋頭堡から、やや離れた後方に位置する地点に元々は資材置き場であったであろう、第3防衛ライン内の空き地にてジャガーノートやオキュパイア武闘強襲タンクといった車両群が待機していた。
ジャガーノート車内にて大尉の階級章を付けた地上軍士官が問う。最前線における戦闘指揮車も兼用している、このジャガーノート内では様々な報告と指令が行き交う。
「最深部内のメイン通路さえ押さえてしまえば要塞地下内の兵員と物資の輸送は完全に我らが掌握したも同然。後は容易に各個撃破出来る。そこまで後、一押しなのだぞ。」
「敵の抵抗は我々の予想以上に激しいようです。連中は妙なパワードスーツまで持ち出しています。歩兵だけではかなり厳しいかと」
地上での戦闘とは違い、地下における戦闘では銀河帝国地上軍は予想外の苦戦を強いられていた。ミリシアル軍守備隊は地下内部で巧妙に偽装された防衛陣地に加えて重火器を扱うパワードスーツで武装した兵士で防衛に当たっていた。
逆に帝国地上軍側はATーATやATーSTといった戦車は地下内部には持ち込めず、ストームトルーパーといった歩兵だけで攻略に当たっており、損害を増やすだけであった。
「隊長。ヴィアーズ閣下からドロイド部隊を投入せよ、との指令を受けました。如何なさいますか?」
「何?ヴィアーズ閣下がか?となると例の作戦が予定よりも上手く進んだようだな……よし。全機を起動させよ。」
大尉は即座にバトルドロイドの起動を命じる。内心、これ以上の損害を出す前にヴィアーズがドロイドを使う決定を出した事に感謝していた。突撃するしか能が無い部下が何人死んだか等、彼にとって些事に過ぎないが、余り無駄な損失を出すのも心証が悪い。単純に例の作戦が成功した以上、こんな所で時間を食う事自体、時間の無駄だからだ。
(クズ共が……全く手間だけは取らされる……いっその事、軌道爆撃で大陸ごと綺麗サッパリ、根絶やしにしてしまえば良いものを……まったくもって付き合いきれん……)
彼の脳裏に浮かんだのは妻と産まれたばかりの子供。本来ならば惑星バスティオンで家族と一緒に過ごせた筈だというのに、こんな名前すら無いチッポケな惑星の征伐に駆り立てられている……おまけに貧相な戦力とは言え、遮二無二な抵抗を続けられ無駄な戦闘を続けられるのはそれだけ無意味な労力を削がねばならず、幾ら仕事とは言え不快な事には違いない。
彼自身は飽くまでも職業軍人、家族を養う為に軍に籍を置いてきただけに過ぎず、政治的信条や主義、思想、戦闘そのものに対する美学など持ち合わせていない……寧ろ、過去の経験からか増悪すら抱いているノンポリ的で小市民的な人物だ。故に『仕事』を楽にする為なら戸惑いは無かった。
(ドゥークーのようなインテリ共の戯言を真に受けた馬鹿な兄貴達のせいで俺の故郷の星は軌道爆撃で焼き払われて、実家も両親も何もかも失った……力の無い者は力を持つ奴に服従するしか生き残る道は無いんだよ……)
「モードの設定を『殲滅戦』にしろ。下手に一々捕虜などとっていれば仕事が終わらんからな。手っ取り早く皆殺しにするとしよう。生存者などいらん。」
「宜しいのですか?無用な殺戮は禁止されている筈では……」
「どの道ドロイドに投降者と民間人の区別などつかん。降伏勧告は既に済ましたのだ。殺されても我々が文句を言われる筋合いは無い。上には抵抗を続けたから、やむを得ず殲滅戦モードにしたと報告すれば良い。」
彼にとって戦争と軍人としての仕事など、彼自身と自身の妻や子が安定した暮らしを送る為の手段に過ぎず、敵を撃破せよと、命じられたのなら謹んで実行するのみであり、そこに何ら感情を差し込む意思は微塵たりとも存在し得なかった。よりストレートに言ってしまえば、彼にとってはこの星の住人が死のうが生きようがどうでもいいからだ。
無論、好き好んで殺戮を行う訳では無い。ただ、さして関心の無い、それこそ今後の自身の人生プランに関わる事が未来永劫無いであろう辺境の野蛮人が幾ら死のうと興味も関心も沸かないだけだからだ。
(面倒で嫌な仕事は全部ドロイドに任せればいい。どの道、俺の責任では無いからな。精々、俺の手を掛けずにさっさと死んでくれ。)
そもそも自分は上官から命令を受けただけに過ぎず、もしも責任を問われるのであれば、それを命じたヴィアーズやベイダーに帰すべき問題だ。自分の責任では無いし、組織の道具でしか無い自分が何の責任を負わねばならないのか?
(どうせ、こんなゴミみたいな星など資源を取り尽くされて捨てられるか、どこぞの金持ち共のリゾートになるだけだ。多少ドロイド共が駆除した所で、ケッセル行きの奴隷の人足には不自由しないだろう。)
この大尉という人物は論理感が麻痺している事を除けば至って普通の凡人であり、戦争という殺戮と破壊の破滅的事象に対して人並みに強い忌避感を持っていた。しかし任務は任務。軍組織に於いての抗命など銃殺刑ものであり、やれと言われれば粛々とやらなくてはならないのだ。
誰も彼もがターキンのように他者に対して冷酷非情に振る舞える訳でも、ベイダーのように自身の野望の為に機械的な怪物のように振る舞える訳では無い。ただ自分は家族と共に慎ましかな手の届く範囲内の人並みの生活を送りたいだけなのだ。それに退役後の年金のゼロの数は多い方が良い。任務をまともに達成出来ない無能者とベイダーから評価される位ならば多少やり過ぎる位が丁度いい。御大層な理想など勝手にやっててくれ、と。故に自分達で手を汚すぐらいならばドロイドが代わりにやってくれれば全て丸く納まるとすら考え、僅かに燻った良心に蓋をした。
決して自身は責任を問われないと分かれば、彼のような小物は時として誰よりも他者に対して、合理的に冷酷になれるという証左であろう。大尉は自嘲めいた笑みを浮かべた。
(なぁに、人間なんて、どいつもこいつも何処かしか壊れてるんだ。今更、この俺がマトモな死に方など選べる立場ではないだろうに……こんな事を気にしてどうするんだ?)
「ハッチを開きます。ドロイド隊、発進!」
兵員輸送車から漆黒に塗装された球状の金属球が射出されていく。その数、およそ300機。わずか1個大隊に匹敵する数であるが要塞内部の閉鎖空間ならば掃討は容易であろう。哨戒に当たっていたトルーパーの一人がギョッとした動作を浮かべ、思わずブラスターを向けようとした。恐らくは元クローンか、クローン戦争への従事経験がある兵士なのだろう。
無理もない事だ。件のドロイドはかのジェダイですら手こずらせた相手なのだからと大尉は他人事のように考える。所詮、戦争など勝てば良い。勝者は全面的に肯定され、敗者は未来永劫、全面的に否定される。だからこそ、自身は勝者の側についたのだ。
(誰も良心を痛める事の無い理想的な兵器か……いや、口が裂けてもこんな事は口外できんな……)
球体達は無数に作られた轍と砲弾孔に溜まった血と泥水を撒き散らし乗り越え、軌道爆撃が作った巨大な大穴に飛び込んで行くプログラムの申し子達。『破壊者』の名を与えられた彼等の前ではいかなる抵抗も無意味だろう。
「さて、年越しまでにバスティオンに帰れれば良いんだがな……無理だろうな……」
ズダン要塞地下
中央トンネル内最深部
第6格納庫
ズダン要塞地下の奥底、中央トンネルに繋がるこの第6格納庫は主に戦車や整備車両の整備、修理を行う場所であり、その内部はまるで航空母艦の格納庫を思わせる設備であった。とは言え現状、戦車や装甲車といった車両ほ外部に出払い、やや広くなった格納庫内ではおよそ1個中隊規模の兵士達が軍用魔導車や建築資材でバリケードと防御陣地を作り迎撃に備えていた。
「生き残りは何人いる?俺達だけか?」
「こっちの区画で魔導アーマー隊は俺達以外、全滅したらしい。守備隊の連中も半分は殺られた。」
「くそっ!話が違うぞ!このアーマーならば敵の攻撃を無効化出来る筈ではなかったのか?!」
ズダン要塞地下、網目状に広がる地下トンネル内の各所では激しい銃撃戦が繰り広げられていた。トンネル内と言っても、その中枢に位置する中央トンネルは各主要塞への人員や物資の運搬用列車の線路が通っており、高さ、横幅ともに列車が2両通れる程、広く奥行きがある。言うなればズダン要塞にとって、このトンネルは要塞全土を支える大動脈とも言える部位であり、侵攻する銀河帝国地上軍にとっては何としても攻略すべき場所であった。
対するミリシアル軍守備隊もこれ以上の浸透を防ぐべく虎の子の魔導アーマー隊を展開させたが……
「何とか撃退したが……くそっ!あれではきりが無い!装備が段違いだ!」
「携帯式のハンドキャノンだと?盾ごと魔導アーマーの装甲を貫かれるとは……」
「設置式の重機関銃のような武器も厄介だ……歩兵の半数が薙ぎ払われた……」
魔導アーマー隊の面々は薄暗い通路の奥を睨みつける。彼等が身に着けている魔導アーマーとは一種のパワードスーツであり、外見は中世の甲冑のように金属製の外装で覆われた全高2m程の無骨な姿をしていた。無論、パワードスーツとあって正面に当たる胸部や腹部を守る装甲板は7.62mm口径の弾丸の直撃にも耐えられる程の強度を持ち、軽機関銃クラスであれば片手で撃てる程のパワーアシスト機能を持ち合わせている。
単純な戦闘能力で比べれば、魔導アーマーを纏った兵士で一般的な兵士で構成された1個小隊にも匹敵するとされている事からも強力な装備であった。
少なくとも彼等はそう聞かされていたのだが……
「くそっ……ヘルメットのディスプレイが死んだか……」
「そこに倒れている奴のを使え。もう、ソイツには必要ないからな。」
「マガジンとバッテリーパックも回収しておけ。えぇい、畜生。盾もズタボロだ……使える盾はまだあるか?」
「どうなってやがる?耐衝撃、耐弾付呪付きの盾だぞ?見ろ。まるでバターみたいに表面が融けてやがる……」
彼等、魔導アーマー隊が装備している《MMA機動装甲服》は元々は魔帝軍が開発したMGZ魔導アーマーをベースに、現状の神聖ミリシアル帝国の技術で再現した兵器である。
再現したと言っても、現状のミリシアルの技術ではオリジナルの性能の100%を再現出来る筈も無く、装甲はただの鉄鋼製になり、魔導ジェネレーターの出力はオリジナルの30%未満と、あらゆる面で性能は劣化していた。結果としてMGZ型と比べれば性能は格段に落ちる代物となっていた。
「止むを得えんだろう。魔帝との技術差が大き過ぎる……」
「寧ろ、ここまで再現出来た事自体驚きだよ。少なくとも生身で戦うよりは遥かにマシだ。」
「我々も被害は受けたが、敵はもっと被害を受けた。ある程度の時間稼ぎにはなった筈だ。」
とは言え、小銃弾程度の銃撃ならば物ともしない重装甲に加えて強化魔法礼装済みの盾を持ち、軽機関銃を突撃銃の如く振るう魔導アーマー隊は言わば現代に蘇った重装騎兵とも言える存在であり、事、地下トンネル内のようにATーAT等の戦闘車両を投入出来ない閉鎖空間では地の利を生かし、銀河帝国地上軍に少なからずの損害を与えていた。
(だが、一体いつまで持つか……弾薬や食料の問題もある。増援部隊が来なければ、先に日干しにされるのはコッチの方だ……)
魔導アーマー隊の一員であるモルト少尉は不安に駆られていた。何とか撃退に成功したとは言え、ミリシアル側が不利な状況に追い込まれている事には変わらない。補給が望めない以上、物資の枯渇は深刻な問題であるし、何よりも籠城戦ともなれば兵士達の士気も著しく下がる。そしてそれは周りにいる兵士達の様子を見れば明らかであった。
ふと周りを見渡すと隣にいる若い兵士、スピッツ一等兵がインジェクターを震える手で見つめていた。よく見れば小便を漏らしている。
「おい、そんなモン捨てちまえ。」
「で……ですが……」
「コイツは人間が打って良いもんじゃあ無い。アイツらを見ろ、ああなりたいのか?」
件の兵士達を見るように促す。周囲の兵士達の様子は明らかにマトモでは無かった。血走った目で中空の1点を見つめる者。ブツブツと何か不明瞭な独り言を呟く者。最も酷い者は完全に気が触れたのか失禁しながら奇妙な踊りを踊っていた。
「サイオキシンを使った奴の末路だ。二度と戻れなくなる」
「で……でも、俺怖くて……」
「ハァ……こいつを飲んどけ。少しキツいがな。」
首元から小さめの鎖で繋いだ小ぶりのスキットルを引き寄せて取り出す。(アーマーを着込んでいる為にそこから出すしかない)ついでに一口だけ中に入れたウイスキーを口に含む。口内でスモーキーな香りを堪能した後、名残惜しく飲み干す。熱い液体は喉元を滑り、やがて腹の中でズドンと爆発する。これぞウイスキーの醍醐味だ。
「カ〜〜!安酒だがな!効くぞ?」
「ちょっ……酒なんか持ち込んで大丈夫なんですか?」
「あんな廃人製造薬を打つより、よっぽど健康的だぜ?……ったく、こんな事になるんなら軍隊に入るんじゃなかった。」
「少尉殿は……」
「あ?」
「怖くないんですか……?あんな爆撃やら4足の化け物まで現れて、周りも皆んな皆、おかしくなって……」
「何言ってんだ。怖いに決まってるだろう。だからこそ飲め。少しは……いや、かなりマシになるぞ。」
モルトはスピッツと代わる代わるスキットルを回し飲みした。考えてみたら同じ部隊内とは言えモルトはスピッツとの交流は余り無かった事に気が付いた。二人は様々な話をした。主に宿舎のベットの寝心地の悪さや支給されるマズイ食事の事や嫌いな上官の話題などから次第に話は逸れ、スピッツの、のろけ話に移っていく。
「……んで、その娘がいつも俺が来るたびに……」
「あぁ、分かったよ。大方、お前さんが来る度にいつもサービスでパンを多めにくれるって事だろう?ったく無駄に長い話をしやがって。」
トロんとした目つきでスピッツは怪しい呂律で言った。少し飲ませ過ぎたようだ。スピッツはルーンポリスの下町にあるパン屋の看板娘に惚れ込んでいるらしく、自分が来る時だけイラッシャマセの掛け声が1オクターブ上がっているだの、パンや菓子を多くオマケにしてくれるだのと、まぁ大体の話の内容などこんな物だ。
「……んで、どこまで進んでんだ?」
「いや……彼女の前に立つと何も言えなくなっちゃって……」
「お前……女に対しての耐性が無さ過ぎるな……よし!ここは俺がアドバイスしてやるぜ。」
モルトはニヤニヤと笑みを浮かべながら何だかんだ聞き入っていた。他人の惚気話……それも若い部下の多少遅いアオハルなど茶化しながら聞くのが常であり、年長者として自身の持論も交えながら
「兎にも角にも、まずは攻撃。攻撃。攻撃だ。何でも良いから彼女に話し掛けろ。せめて顔と名前ぐらいは覚えてもらえ。」
「でも何の話をすれば……」
「んなもん、何でもあるだろう。天気の話なり、身に着けているアクセサリーのブランドなり、彼女の気を引くんだよ。お前の話を聞いている限り彼女からして見ればお前さんはタダの客で、それ以上でもそれ以下でもない存在だ。」
「な、なんてこと言うんすか!」
顔を耳まで紅潮させるスピッツを見てゲラゲラとモルトは笑う。幸いな事に他の兵士は薬のせいで此方に気付く様子は無く、MPを呼ばれる事は無いであろう。尤も半ば指揮系統が崩壊しかけている中でも多少の休息は必要であろう。
だが、そんな時間もすぐに過ぎ去ってしまう。
「対物センサーに反応あり!」
「ちっ!始まったか!銃を取れ!」
モルト達はバリケードに身を隠しながら連絡通路に銃を向ける。薄暗い連絡通路の向こう側から何やら金属が回転するような重厚な音が徐々に近づいて来る。
(何の音だ?奴ら今度は何を持ち出して来やがる?)
訝しむモルト達の前に轟音と地響きを立てながら《ソレ》は姿を現す。
「バカでかいタイヤだと!?」
モルトが驚くのも無理は無い。通路の奥からやって来たのは黒い球体状の金属の塊だったからだ。それも爆走するトラックから外れたタイヤのように自分達に向けて突進して来るのである。
「まさか爆弾の一種か!?」
戦慄するモルト達は思わず引き金を引きかけるが次に起きた現象に逆に呆気に取られる。漆黒の球体達はモルト達の居座るバリケードの手前、50メートルの地点で急停止した。いや、厳格に言えば急停止と同時に姿を変え始めた。
「バカな……ゴーレムだと!」
ゴーレムと称されたそれはまるで甲虫のようであった。甲虫と言っても半球形の下半身を3本の短い脚部で支え、後部に弓上に反った上半身から伸びる2本の腕部と、無機質で触角のような器官を生やした頭部は、飽くまでも彼等が知る中で甲虫に近いというだけで実際には虫らしくは無い。だがゴーレム同様生物を模倣して作られた無機質な、それこそ見る者に不気味な威圧感を与えるには充分すぎた。
「う……撃て……!」
一瞬の動揺から覚めた指揮官が銃を撃つように命じたその瞬間、件のゴーレム達の方が速かった。変形を終えた後に、自身の周囲に薄い光の膜を展開し、両腕の先端をコチラに向けた。その先端が不気味に赤黒く輝くのをモルトは見逃さなかった。
「うあっ!」「馬鹿野郎!頭を下げろ!!」
隣にいたスピッツの頭を強引にバリケードの死角に押し込む。刹那、二人の頭上を2本の光弾が通り過ぎる。外れた光弾は後方の貨物コンテナを撃ち抜き大穴を開ける。
「なんて威力だ……」
モルトは自身の背筋に冷たい汗が流れるのに気づいた。先程の白い鎧の兵士達(ストームトルーパー)の持っていた銃の威力とは桁違いの威力だ。例えるならばストームトルーパーの装備するブラスターの威力が5.56mmクラスの小銃弾ならば、このドロイドのブラスターの威力は50口径弾、対物ライフルか、重機関銃クラスの威力なのだ。まともに当たればアーマーを着込んでいたとしても即死する事は間違いないであろう。
事実、まともに直撃を喰らった兵士の頭部はヘルメットごと消失していた。
「反撃しろ!数ではこっちが上だ!!」
指揮官はそれでも反撃を命じる。何も無謀な死守という訳では無い。敵の数は僅か10機。それに対して自分達、守備隊の数は1個中隊200人の兵士で防衛に当たっている。更に敵の侵入して来た通路に対して三日月状にバリケードを構築していて、突撃して来た相手を半包囲出来る陣形だ。通常ならば突撃して来る者など一方的に殲滅出来る筈なのだ。
「撃て!!!」
雨あられの如く、甲虫達に弾丸が殺到する。まともに直撃すれば人体など欠片すら残らない程の鉄の雨だ。正体が分からないとは言え、ただでは済まないだろうと誰も考えていたが……
「なっ……!?」
「そんな!あれだけの銃弾を受けたのに!」
銃弾は呆気なく膜状の光の壁に阻まれ、明後日の方向へと向きを変えられた。当然だが、全くダメージは無い。そしてお返しとばかりに両腕の連装式ブラスターを乱射する。その連射性と威力で本来ならば防衛側という有利な立ち位置にいる筈の守備隊を圧倒する程だ。
だがそれはある意味当然の結果であろう。彼等が相手にしているのはクローン戦争時、かつては若く理想に燃えていたジェダイだった頃のベイダーですら苦戦した相手なのだから。
《ドロイディカ》
クローン戦争時、独立星系連合軍にて使用されていたバトル・ドロイドである。その特徴は全身を包み込むように展開出来るシールドと、両腕に搭載された連装式ブラスター・キャノンと、強力な砲と強固なシールド両方を備えた攻守ともにバランスの良い性能であった。
クローン戦争の緒戦から終戦までを戦い抜いた本機は戦後、連合軍の降伏と解体並びに、バトル・ドロイドの製造禁止令により、他のB1やB2バトル・ドロイドのように多く機体がスクラップとして処分された。しかし、高性能なドロイドである事は変わらない事から銀河帝国内でもモフ・ギデオンを筆頭とした一部の高官は本機の廃棄を惜しんだ事から、セキュリティ・ドロイドとしての新たな運用も行われる事となった。
セキュリティ・ドロイドと言ってもその実態はバトル・ドロイドと対して変わらない、寧ろ連合軍で使用されていた頃よりも強化されていた。機体自体はQ型をベースに、ミサイル・ポッドの増設、エネルギーユニットもより強力な物に換装され、ブラスター弾は勿論の事、砲弾の破片や実弾銃の弾丸すらも無効化できるのだ。
「くっ……!!ダメだ……!敵の弾幕が強すぎる!」
ドロイディカから連射されるレーザー弾に圧倒される守備隊。彼等から見ればブラスター・キャノンを連射するドロイディカ達は言うなれば重機関銃を備え付けた装甲車のようであり、対戦車火器を持たない彼等では対処は難しかった。
それでもバリケードを積み上げて強固な防衛拠点を築けていた事もあり、何とか拮抗出来る状態ではあったのだ。しかし、キリが無いと判断したドロイディカ達はブラスターでは無く、別の武装に切り替える。
「うわぁっ!!」
「ヒッ!!」
「な、何が起きた!?」
「少尉!大変です!バリケードが破られました!!」
「何だとっ!!」
モルトはバリケードの影から覗き見るがその光景に言葉を失う。バリケードと土嚢を積んで作られた防御陣地は跡形も無く爆砕され、そこに居たであろう兵士達諸共バラバラに砕かれていた。ドロイディカがミサイルを使用したからだ。
効果アリ。と判断したドロイディカ達の判断は早く、そして一切の情け容赦が無かった。更に周囲の陣地の最も厚い部分を分析し、即座にミサイルを発射する。ボシュン!とポッドから特徴的な音と共にミサイルが射出される度にバリケードの各所から爆煙と悲鳴が上がり、バリケードと兵士の残骸がばら撒かれる。魔導アーマー隊も流石にミサイルに耐えられる筈も無く、寧ろ鈍重なアーマーのせいで身動きが取れず次々と倒されていく。
ドロイディカ達は更に爆破され歯抜けとなった陣地の隙間から回転しながら突入し始めた。バリケードという防壁を崩された事でミリシアル軍守備隊は完全に地の利を失った。
「マズイぞ……!このままだと俺達まで包囲されちまう!」
ドロイディカ達は進行方向上で運悪く逃げ損なった兵士や負傷して自力で移動できない兵士をついでとばかりにローラーで踏み潰して轢殺し、そのまま勢いに任せてバリケードの内側に入り込んだ。
そして身を守る壁を失ってしまった以上、兵士達の身に降りかかる事は唯一つでしか無い。ドロイドによる一方的な虐殺が始まった。
「来るなっ!来るなっ来るなっーー!!」
「怯むなっ!撃て!撃ち返せ!ギャッ!!」
「隊長が殺られた!!もうダメだ!!ガッ!!」
抵抗する者、逃げようとする者、隠れてやり過ごそうとする者、いずれも同じ末路を辿る事となる。ドロイディカから見れば遮蔽物が無い以上撃てば必ず当たるのだ。その上、体温や呼吸といった生体反応でドロイディカは敵を探知している。センサーに表示されるこれらの目標が消えるまでブラスターを撃ち続けるのだ。
「撃つな!降参だっ!降伏する!!」
壁際に追い詰められた守備隊の兵士達が遂に降伏を宣言する。彼等は完全に恐怖に支配されていた。だが、それはある意味当然の反応であろう。彼等からして見れば両腕から連続的に光線を放ち、銃弾を物ともしないドロイディカは視覚的にも化け物と形容するに相応しいからだ。戦意を打ち砕かれた彼等は両手を挙げ、武器を地面に捨てる。通常ならば如何に帝国軍とは言え武装解除した彼等を殺すような真似をしなかったであろう。
だが、この時ばかりは相手が悪過ぎた。ドロイディカ達は構わずにブラスターを連射し、あたかも処刑のように兵士達を皆殺しにした。
「な、なぜだ……?」
傷口を押さえ、事切れる寸前のミリシアル兵は最後にそう疑問を残し死んでいった。これが殲滅戦モードの恐ろしい所である。元々が純粋なバトル・ドロイドとして設計されているドロイディカは最低限の戦闘用AIしか搭載されていない。敵を捕捉しブラスターを撃つ。逆に言えばそれ位しか求められていないのだ。
決して安っぽい論理感や感情に左右されず、与えられた任務に忠実に従い疑問すら抱かない完璧な兵士と言えるだろう。
(あいつら……こっちが降伏してんのに撃ちやがった……!)
あまりの光景にモルトは言葉を失う。反撃すら碌に許されず一方的に撃ちのめされていく。これではまるで害虫の駆除だ。勝敗は決したのも同然だ。スピッツの手にサイオキシン入りのインジェクターが握られているのに気付く。
「……嫌だ……いやだ…死にたくない……しにたくない……きっと夢だはやくめざめないと……」
「!?……バカっ!よせっ!!」
モルトの静止を聞かず、スピッツはインジェクターを首に押し当てる。スピッツは恐怖に耐え切れ無かった。周囲を悲鳴や絶叫が満たし、味方の銃声が次第に減る中、節足動物のようなカシャカシャと鳴る金属質の足音が近付く。それはまさしく死神の足音だ。焼け切れそうな精神を奮い起こし遂に彼は薬剤を注入した。
「俺は家に帰るんだっ!ママァーー!!」
「やめろっ!行くなっ!!」
スピッツはバリケードを乗り越えドロイディカに向けて銃を乱射しながら吶喊した。当然だがドロイディカのシールドに阻まれ逆に集中砲火を浴び、一瞬で蜂の巣にされた挙句、ちょうどミサイルの射線上に飛び出した為、直撃を受けて木っ端微塵に爆散した。呆然と立ち尽くすモルトの足元に焦げたスキットルが転がる。
「馬鹿野郎が……!女を知らずに行きやがって……!」
この日の戦闘だけで一体、何人の若者が女性を知らずに死んだのだろうか。何人の母親が永遠に帰らぬ息子の帰りを待ち続ける事になるのだろうか。彼等は自身が死ぬかもしれない覚悟を持っていたのは確かである。だが、こうも虫けらの如く踏み躙られて惨殺される筋合いは無い筈だ。モルトは大粒の涙を流しながら激昂し、最後の突撃を敢行する。
「テメェら!一匹残らず、ぶっ殺してやるっ!!」
よもや彼とて勝てるとは微塵たりとも考えてはいない。戦線は突破されるのは時間の問題であろう。だが、せめて一矢報いたかった。距離は10メートル程、この場合近くとも遠すぎた距離であった。感情を持たないプログラムの前には一個人の覚悟なぞ何ら意味など無い。
「がっ!!」
たちまち全身に雨あられと集中砲火を食らう。着弾する度に焼きごてを押し付けられるような激痛に、遂に両膝を地面に付けるモルト。最早、彼は歩く事すら出来ない。アーマーの魔力供給装置は破壊され、腕も足も関節部を物理的に破壊され機能を完全に停止した。
それでもモルトが生きていたのは比較的装甲が厚い胴体部に被弾が集中した事とドロイディカがミサイルを既に使い切っていたからだ。それが良いか悪いかは別としてモルトは生きていた。皮肉にも着用者を守る為の機能が苦痛を与える事となってはいたが。
(クソったれが……!)
彼の周囲をドロイディカ達が取り囲む。最早、銃声は聞こえない。それは格納庫を守っていた守備隊は彼一人を残して全滅したのだ。モルトは目の前に立つドロイディカを睨みつける。それが彼に残された最後の抵抗だったからだ。
「やれっ!!!」
モルトは最後に吠えた。彼を取り囲むドロイディカ達の砲口が赤く輝く……それがモルトが見た最期の光景であった。ドロイディカ達はモルトが即死するには充分過ぎるだけのブラスター弾を叩き込み、次の標的へと移動しようとするが、突如として停止した。
彼等は何の為に戦い、そして死んだのか。唯一つ正確に分かっている事は、彼等の死は戦略的、戦術的に全く意味の無い死であったのは確かだろう。要塞全土に放送が鳴り響く。
『此方はズダン要塞総司令部である。全ミリシアル軍将兵に告ぐ!直ちに武装を解除し、要塞内部から退去せよ!我が守備隊は現時点をもって銀河帝国に対し降伏を宣言した!!これ以上の抗戦は無意味である!!繰り返す……』
ドロイディカのモデルはマーベルコミック、ダース・ベイダーに登場した海賊仕様がモデルです。
今回はかなり露悪的に書きすぎました。実際、ロボット兵器が実用化されればターミネーターにおける未来戦争か、アニマトリックスのセカンド・ルネサンスよろしく、凄惨なんて言葉が生ぬるい戦闘になるだろう妄想した結果です。