前作で前篇、後編に分けると書きましたが、色々と書き直しをしている内に、まとめきれなくなったので次回、後編とさせて頂きます。申し訳ありませんでした。
本編から登場するオリジナル兵器を紹介します。
〘M1632 ルビー〙
ミリシアル軍で配備されている魔導銃。中央暦1632年に採用された。外見、性能は劣化M14
〘M30小銃〙
ムー国軍で配備されている小銃。外見、性能はまんま30年式歩兵銃
〘ラ・マキシ機関銃〙
ムー国製の機関銃。外見、性能はマキシム機関銃
ゼノスグラム国際空港
ターミナル連絡通路
クレストらは司令部への通路を走っていた。司令部と言ってもターミナル内の中枢の一部施設を間借りしているだけであり、先程の攻撃を受ければ一溜まりも無い。
(魔光砲も魔信サイトも全滅だ…司令部も無事なら良いが…)
既に、防衛部隊は対空魔光砲やエルペシオ等の重火器を失っていた。この状態で司令部すらも失ってしまえば、もはや反撃はおろか組織的戦闘すらも困難になってしまう。
窓の外、丁度、駐機場の全景が見渡せた。先程まで4機の飛行機械が暴れ回り、空港の施設を徹底的に破壊し尽くした痕跡が未だに残っていた。
黒煙を上げる滑走路と管制塔を含む施設群に、未だに燃え続ける液体魔石のタンクと魔導車、あちこちに散らばった同国の誇りであるエルペシオやジグラント、ゲルニカ等の天の浮舟の、成れの果てが散らばっている。
毎分350発の高レートを誇る、ミリシアル軍の鉄壁の守護神ともされたイクシオン20mm対空魔光砲やアクタイオ25mm対空魔光砲は役目を果たせぬまま黒煙を燻ぶらせていた。
「あぁっ!!」
「つ…通路が!」
通路は瓦礫で埋まっていた。恐らくは先程の爆撃が原因であろう。ポケットから携帯魔信を取り出し応答を呼び掛けるも反応すら無い。
「クソっ!」
苛立ちのあまり、瓦礫に魔信を叩きつける。しかし、クレスト達は気づいていなかった。銀河帝国軍の攻勢は、これからが本番だと言うことを。
ゼノスグラム国際空港
ミリシアル軍守備隊司令部
「照明の復旧はまだかっ!」「管制塔からの連絡が通じません!」「誰でもいい!伝令を向かわせろ!」「俺の書類が無いっ!何処にやった!」
薄暗い室内の中、兵士と空港職員達が慌ただしく駆け回っていた。敵機来襲の報を受けて各所に指示を出していた所、突然照明が落ち、魔導通信の類も操作を受付けなくなっていた。司令部自体は空爆の被害は無かったが地下に設置されていて外部との通信のみが頼りという有様であった。
「一体全体、どうなっているんだっ!何故、何処とも連絡がつかんっ!」
テテニウス・ファン・プラド退役少将はテーブルに手を叩き付けた。外見は190cmを越える長身と尖った耳等、エルフの特徴を持った人物だが、それは彼がハーフエルフの血統を持って生まれた人物だからだ。とはいえ彼自身は既に、現役を退いて長く、もともとは精悍だったであろう顔にも二重あごができ、腹回りのベルトも彼が動くたびにギチギチと不穏な音を立てていた。
「被害状況と残存部隊の数と位置を早急に調べろ!」
「し…しかし…何故か、魔信が使用不能になっておりまして…」
「だったらなんだ!弁明する暇があるなら直接見てこい!走れっ!」
「は…ハッ!」
大慌てで司令室を飛び出す軍幹部の一人。蝋燭の灯りで書類に目を通し、眉を顰める。
「この報告書は正確なのか?桁が1つ違うのではないか?」
「は…はい…恐らくは…」
「恐らくはだと…不確かな報告書を寄こしたのかっ…!」
「い…いえ…その様な事は…」
「もういい……下がれ……!」
苛立ちを隠そうともせずに、手を払い幹部達を追い出す。
再び幹部達が持ってきた報告書に目を通す。
(対空魔光砲の8割から9割は使用不能…施設のほとんどは機能せず、死傷者多数あり…司令部の放棄も検討するべきだと……正気で言っているのかっ…!)
怒りの余り報告書を握り潰すプラド。混乱の最中、誤報告が出るのは仕方が無いであろう。しかし、この報告書の内容は度を越していた。
まず、対空魔光砲の損害が8割から9割と書いてあるが、この時点で眉唾ものだ。ゼノスグラム国際空港に配備されている魔光砲は最新型の第2世代イクシオン20mm対空魔光砲と第3世代アクタイオン25mm対空魔光砲であり、威力、精度、射程等、これまでの対空兵器とは比べ物にならない程の、性能を誇っているのだ。更に濃密な弾幕を展開できるように魔光砲自体が、互いにカバーできるように配置しており、例え陣地を1つ潰したとしても、理論上は別の砲座からの射撃で撃墜できるようにできている。逆に、どうすれば8割から9割の損害を出せるのかが疑問だった。
そもそも毎分600発の高レートに加えて、最大まで魔法障壁を上げたエルペシオの装甲を容易く撃ち抜く程の威力を持っているのだ。そして何よりも今回、攻撃を行ったのは飛行機械か天の浮舟の様な兵器だったが…
(ありえん……4機だとっ!たった4機に、30門もあった魔光砲を全滅させられたと言うのかっ!?)
これが、もし100機近くの爆撃機が空爆した結果なら彼も信じたであろう。だが、たった4機の小型機による被害だと到底、信じられる事等出来なかった。
(この報告書を書いた愚か者は酒にでも酔っていたのか?いや…危険な薬物にでも手を出しているのかもしれん…全く、弛んでおる!儂が現役だった頃は、ここまで軍規が緩む事など無かったはずだ!)
まともに数も数えられないのか、それとも碌に考えもせずに、この報告書もどきを書いたのか…どちらにせよ正常な神経でない事は明らかであろう。プラドはそう結論づけた。
尤も、常識的に考えれば彼でなくとも同じ様な感想を抱いたであろう。魔光砲30門に対して爆装したジグラント4機では、逆に集中砲火を受けて瞬殺されるだけだからだ。
あくまでも彼らの常識ならばの話であるが…
「全く…近頃の若い連中は…」
自身が現役だった頃と比べて今の世代の軍人達の体たらくに溜息をつく。つくづく軟弱で堕落しきった連中だと。覚悟も気合いも、まるで無い。かつて、この地に偉大なる祖国神聖ミリシアル帝国を築き上げた初代皇帝陛下に対して申し訳無いと思わんのだろうか?自分が現役だった時は些細なミスで鉄拳と罵声が飛んできたものだ。しかし、そんな状況を耐え忍んできたからこそ今のように豊かな暮らしを送っているのだ。士官学校を卒業し、以降は忠実に堅実に軍務に励んできた。その甲斐あって退役する2年前には将官に昇進し無事、兵役満了で除隊する事ができた。軍人時代を戦乱も無く、平和なまま退役できたのは彼にとって誇りであったが、同時に後ろめたさも感じていた。
彼の先祖はかつて、初代皇帝と共にミリシアル独立戦争を戦い、壮絶な最期を遂げたとされる。幼少期から祖父母からその英雄譚を聞かされてきた事が彼が軍人を志すきっかけとなった。自分も、いずれは祖国の為に戦い、そして英雄として死ぬだろうと、しかしその機会が訪れる事無く退役し、悶々とした日々を送っていた。そんな中、起こった新興国の宣戦布告という祖国の危機。
予備役将校であった彼にも招集が来た。数合わせだとは分かってはいたが、それでも彼にとっては祖国の為にできる最後の奉公だと思って再び軍服に袖を通したが…
(どいつもこいつも、下らん弁明ばかりしおって!為せば成るの精神で魔帝すらも滅ぼしたミリシアルの民ならば、この程度の攻撃等、鎧袖一触の如く粉砕できるはずだ!まるでプロ意識が足りん!)
現役の軍人達は役立たず。空港の職員に至っては右往左往するだけで煩わしくて仕様が無い。そもそも、これだけの状況に至っているというのに責任者たる空港局長が一向に姿を表さないというのは一体どういう事なのか?
「やはり儂が何とかせねば…」
祖国を救えるのは自分しかいない。そう確信を持つプラド自身が漸く英雄として歴史に名を刻む事が出来る時代になったと。
実際の所、彼が思っている様に彼の部下達はサボタージュに走っている訳でも無ければ、無能でも無い。寧ろ限られた状況の中、出来る事は全てやってきたと言えるだろう。
逆に下らないロマンチシズムに浸り、録に現場を見もせずに書類だけを見て、全てを理解したつもりになっているプラドこそが、典型的な無能な働き者と言えるだろう。
「むっ。照明が戻ったか。おい!メインのモニターを写せ!!」
「ハッ!ターミナルを投影します!」
「全く…ノロマ共めが…」
低い雷鳴の様な唸り声めいた声で部下達を扱き下ろすプラド。既に彼の頭の中では、国民から喝采を受け皇帝ミリシアル8世から直々に勲章を与えてもらう自分の姿が思い浮かんでいた所だった。しかし、モニターに映る光景が彼を否応なしに現実に引きずり出す。
「な…何なんだっ!!これは!!!」
根本から崩れ焼け落ちた管制塔、燃えるハンガー、スクラップと成り果てた天の浮舟達、そこには空港というよりもジャンクヤードかスクラップ置き場のような光景が広がっていた。
「こ…これは一体…何が起きたのだ…!」
目の前の光景が信じられず、たじろぐプラド。そこに新たな報告が飛ぶ。
「上空から未確認飛行物体を確認しました!機種は不明!本基地を目指して飛行しています!!」
黒煙と紅蓮の炎が立ち昇る中、鳴り響くサイレンの音をかき消すように、異形の巨鳥達が舞い降りる。
「て…敵襲〜!!敵襲〜!!!」「さっきの奴らが戻って来たのか?!」「違う!だが数が多いし、デカいぞ!!」「銃を構えろっ!来るぞ!」
上空の物体に向けて次々と銃弾を放つミリシアル兵。しかし、小気味よい金属音を奏でるだけで、ほとんどダメージは入らない。
「駄目だっ!7mmじゃビクともしないぞ!」
「く…せめて魔光砲があれば…」
ミリシアル軍で正式採用されている軍用魔導銃《M1632 ルビー》は中央歴1632年に採用、10発という装填数の多さと、7mmの威力の高い弾薬に加え、動作性と信頼性の優れた小銃である。元々、ミリシアル政府にとって現実的な敵になりうる国、仮想敵国はムー国のような列強諸国と文明圏外国家であり近年目覚ましい進歩を遂げる銃火器に対抗するためにも敵の射程外からロングレンジで、なおかつ鎧を装備した騎士を倒せる様に口径の高い銃弾を採用していた。
無論、只の小銃弾では装甲で覆われた車両や航空機を破壊する事は出来ない。まして彼らの上空を浮かぶセンチネル級上陸艇を破壊する事など、夢のまた夢であった。
「各隊、状況を知らせよ。」
『第2大隊異常ありません。』
『第3大隊異常ありません。』
「機長、ポイントまで、あと6分です。」
「周囲に敵影は無し。機長、全て予定通りです。」
何ら妨害を受ける事無くゼノスグラム国際空港へと飛行する帝国軍部隊。センチネル級上陸艇を中核にラムダ級、ゼータ級で構成された上陸部隊である。
「航空機と対空砲の類は無いな。流石はタイタン中隊だ。良い仕事をしてくれる。」
センチネル級のコックピット内で指揮官は感嘆する。地上制圧や降下強襲任務でストームトルーパーや重火器を戦場まで運ぶのが彼らの仕事だ。当然ながら完全武装のトルーパーを限界まで積み込んだシャトルは敵にとって極めて厄介で危険な存在である。その為、地上から空中からありとあらゆる攻撃を受けやすい。これまでの任務でも目の前で上官や部下、同期のパイロットやストームトルーパー達が、鉄の棺桶と化したシャトル諸共デュラスチールと焦げた有機物の塊と化すのを見てきたのだ。
「全機へ、進路はこのまま、予定通り突入する。上陸部隊へ、最終確認を済ませよ…ムッ!」
センチネル級のデュラスチール製装甲を叩く音が鳴り響く。敵の攻撃だ。しかし、レーザーやデブリが漂う宙域を駆け抜けるセンチネル級をたかだか数ミリ程度の金属片で破壊することなど出来るはずも無い。
「機長 敵より攻撃を受けています。指示を」
「よし。最後の仕上げだ。各機、砲門を開け!」
「お…大きいっ…!」
ターミナル内の通路、奇しくもクレストは先程、敵の飛行機械が蹂躙しつくした光景を見せつけられた場所で再度、信じられない物を見る事になった。
「3…いや40メートルはあるぞ…!一体あれは…?」
空中に浮かぶ飛行機械の様な物。先程、見た物と比べると鮫と鯨程の差があるであろう大きさだ。圧倒的な威圧感がある。
「お…おのれっ!侵略者共めっ!」
「撃ちまくれっ!」
兵士達が次々と発砲する。しかし、小銃弾程度では、まるでダメージが入らない。
「よせっ!止めろっ!そんな事をしても無意味だ!」
「し…しかし!」
「態勢を立て直すんだ!他の部隊と合流して…!?」
クレストは目を剥いた。敵の飛行機械から何かが展開されたのを見たからだ。それはクレストは初めて見る物だったが何処か既視感を覚える造形をしていた。
(何だアレは?まさか…!)
それは、まるで魔光砲か魔導砲の砲口に良く似ていた。そして、その内の一門が、黒い口をこちらに向けていた。
「伏せろっ!!!」
叫びながら地面に突っ伏す。彼の頭上を緑色の光線が通り抜け、一緒にいた連絡将校を一瞬で、跡形も無く消し飛ばし通路の柱に直撃する。爆音と粉塵が同時にクレストを包んだ。
「GO!GO!GO!!」
「Victory Over The Empire!!!」
「For The Vader!!!」
着陸したセンチネル級やゼータ級、ラムダ級のハッチから白いアーマーを身に纏った兵士達が飛び出す。そして、未だに混乱から抜け出せないミリシアル兵に自身の得物を構える。
「な…何だコイツらは…!」
全身、白一色で統一された奇妙な集団。ヘルメットのデュアルアイ状のバイザーと全身が白い事もあり、人間の白骨死体を連想させる印象をミリシアル兵は感じた。
《ストームトルーパー》
銀河帝国軍の中核を為す機動歩兵である。前身である共和国軍クローントルーパーと違い、各地の星系から集められた志願兵で構成されている。帝国の物量に物を言わせたマンパワーで敵を圧倒し、殲滅する事から帝国に敵対する者達にとっては恐怖の象徴でもある。彼らの特徴とも言える白いアーマーとヘルメットには簡易的なパワーアシストと体温調節機能、暗視装置とインコム(通信装置)が備わっており、広大な銀河系の各所でも活動できるように出来ていた。
「Open Fire!!!」
ストームトルーパー達の持つE-11ブラスターから赤い光線が放たれ、次々とミリシアル兵に着弾する。
「グワッ!」「ギャッ!!」「て…敵だ!」「撃ち返せっ!うわっ!」「司令部!司令部!!敵だ!敵が上陸して…がっ…!」
「総員突撃せよ!叛徒の手先共を蹴散らせっ!」
ポールドロンを付けたストームトルーパーコマンダーがミリシアル兵の死体を踏み付けながらブラスターを掲げ叫ぶ。
駐機場や滑走路にはシャトルから降り立ったトルーパーが激しい戦闘を繰り広げていた。E-11ブラスターのレーザー弾がミリシアル兵を撃ち抜き、バイポットをフォアグリップ代わりに腰だめでDLT-19ヘビーブラスターを突撃銃の如く掃射し、ミリシアル兵数人を薙ぎ倒す重装トルーパーや後方からDLT-20Aブラスター、通称[パルスキャノン]で、指揮官か将校であろう、やたら目立つ階級章や勲章を付けたミリシアル兵を狙撃するスナイパートルーパー等、各所で銀河帝国軍は圧倒していた。
上陸地点では橋頭堡が築かれ、センチネル級から分解された状態のEウェブ重連射式ブラスター砲が運び出され橋頭堡に設置されつつあった。スカウトトルーパーがスピーダーバイクを降ろし出撃に備え、その傍らではアストロメク・ドロイドが機材の調整を行っている。装備や兵員を降ろしたシャトルは空中で浮遊しながらレーザー弾を放ちトルーパーへの掩護射撃を行っていた。
「包囲されています!突破されますっ!」「敵が来るっ!」
「もうだめだ!後退しましょう!」「怯むな!後退は出来ん!押し返すぞっ!!」
次の瞬間、若い少尉の頭部を光弾が貫いた。ミリシアル兵の多くは防弾ヘルメットを着用していたがブラスターのレーザーの直撃には耐えられなかった。
「少尉がやられました!即死です!!!」
「バカ分隊長がっ!言わんこっちゃない!」
隊のまとめ役であるビスマス軍曹が思わず叫ぶ。守備隊の陣形は崩壊寸前。敵歩兵は火力に物を言わせて、防御陣地を突破しつつあった。彼らの部隊は敵の火中に取り残され、ジワリジワリとすり潰されつつあった。
「軍曹!新手ですっ!」
「っ!伏せろ!」
とっさにバリケードに身を隠す。瞬間、赤い光線が頭上を通り過ぎる。バリケードや魔導車の残骸にも着弾したらしく、小規模な爆発も起きている。
「畜生!何人殺られた?!」
「3人…いえ5人です!」
「当たらんでもいい!とにかく撃ち返せ!」
カバーリングしながら銃を撃ちまくる。しかし敵も残骸や砲弾孔に身を隠しながら発砲し、着実に前進し続ける。敵の方が武装、練度でも格上なのは明らかであった。だが何よりも決定的な差があった。
(クソっ!コイツら手強いぞ!!)
基本的にミリシアル陸軍は突撃する敵を射程外から一方的に狙い撃ちにするアウトレンジ戦法をドクトリンにしている。無論それは魔導銃、魔導砲と言った兵器でミリシアルが他の文明圏、国家を圧倒しているからこそ取れる戦術であり、更にこれに加えてジグラントや爆撃機型ゲルニカ等の航空戦力も支援に加わる為、敵部隊は碌な抵抗も出来ずに全滅するだろうと言われてきた。
しかし現実はどうか。敵はミリシアル側よりも先に航空機による空爆を成功させ制空権を取り、こちら側の反撃の芽を摘み、間髪入れずに歩兵部隊を突入させて、あっさりと浸透してみせたのだ。ミリシアル兵の多くは敵の白い兵士達の機動性についていけてない。装備面でもミリシアル側が長く重い取り回しの悪い魔導銃で、慣れない接近戦を強いられているのに対して敵は小型の銃で着実にダメージを与えてきた。
(クソっ!…コイツら戦い慣れしていやがる!)
ミリシアル軍が現在の近代的な戦術を構築するまでには、かなりの長い期間が必要だった。しかし、敵は当然のように、自分達と同等、いや、それ以上に戦術を理解し、実践してみせている。それは明らかに異常だった。
「残っている部隊は俺達だけか!?」
「分かりませんっ!通信が出来ません!」
魔信が使えなくなり、各部隊との連携が取れなくなった。将校といった前線指揮官が狙い撃ちにされ、反撃の手段を封じられつつあった。彼等の現状は目と耳を潰され、手足をもがれた状態にも等しい。
(こっちは先手を打たれている!この状況はマズい!)
「クソっ!このままじゃ全滅だ!後退するぞ!負傷者を担げ!急ぐぞ!」
「了解しました!!」
「デトネイター!!!」
バリケードから離れようとした丁度その時、敵陣から叫び声が聞こえ、何かが投げ込まれる。
「何だこれ?」
兵士の一人が手に取る。白い円筒状の金属製の物体だった。何らかの機械の部品だろうか?デトネイターというのは呪文の一種だろうかと?もしも彼等がそれが何なのかを知っていたら決して手には取らなかったであろう。
刹那、ビスマスを含む兵士達の視界が真っ白に染まり、二度と現世に戻る事は無かった。バリケードだった残骸を乗り越え、白い兵士達が突き進む。
「いいぞ!進め!」
「この星の奴等に我等〘501大隊〙の力を見せつけてやれ!」
《501大隊》
銀河帝国軍には数多くのストームトルーパー兵団が存在する。その中でも極めて名の知れた部隊が彼等501大隊である。ベイダーの拳とも言われる彼等は、その名の通り、ダース・ベイダーが司令官として指揮する部隊である。基本的にストームトルーパーは反乱同盟軍や星系独立連合軍残党等と言った武装勢力やギャングの討伐よりも星系内外の治安維持、警務を主任務に行っている。警察軍に近い組織なのだ。その為、実戦経験に乏しく、練度に至っては、かつての共和国グランドアーミーに劣っている。しかし501大隊は結成当初から対反帝国分子の掃討を目的に作られた部隊である。ベイダー自身の苛烈なまでの無慈悲さ、情け容赦の無さも相まって帝国に逆らう者達にとって恐怖の象徴であった。人員もアカデミーを優秀な成績で合格したエリートや、実戦経験豊かなベテランに、少数だがクローン兵を優先的に配属させている事からも、彼等がいかに帝国にとって重要な存在か分かるだろう。
「進め!空港まで、あと少しだ!」
「伏兵に気を付けろ!遮蔽物にはデトネイターを使え!」
「!?止まれっ!!隠れろ!!」
次の瞬間、弾幕がアスファルトを抉り、魔導車の残骸に当たり、激しい金属音を奏でる。
「くっ…タレットか…!」
視線の先ではゲルニカの機関銃座が激しく唸りを上げながら銃弾をばら撒く。
「厄介だな…どうするか…」
損害を覚悟で突撃する事も可能だ。だが、緒戦で無用な損失を出すわけにもいけない。どうするべきか?
「コマンダー!自分がコイツで吹き飛ばせます!!」
トルーパーの1人が手に持った筒状の物体をコンッと叩きながら進言する。
「頼めるか?良し!他の者は掩護するぞ!!敵がリロードするまで待つぞ。」
「急げっ!早く、弾を!」
光弾が機体の各所に当たる中、銃手が急かす。彼等が乗るゲルニカはタイタン中隊に破壊され、主翼が千切れていたが、幸いにも胴体部分は無事であり機体上部の銃座は無傷であった。
「クソっ!!そこら中からウヨウヨ出てきやがる!」
「マズイですよっ!俺達、包囲されてます!!逃げ場が…」
「うるせぇ!!逃げたけりゃ勝手に逃げろっ!」
苛立ちながら魔光砲を発射する。高速で放たれる弾丸に敵は近づく事は出来ない。何とか防いではいるが…
(クソっ!クソっ!クソっ!!!)
何度、撃っても敵は後退しない。寧ろ、近づいて来ている気がする。撃てば別の場所から光弾が放たれ、彼の精神を擦り切れさせる。
撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。ただひたすらに撃ちまくる。まるで終わらないモグラ叩きのようだ。
(後、いつまで俺は撃てばいい…?増援はいつ来るんだ…?)
目の前で戦友達が動かぬ屍になるのを見た。無敵と言われてきたエルペシオ3が呆気なく落とされた。
(こいつらは何なんだ…?何で俺達は殺し合ってるんだ?)
既に彼の脳内は限界を超えていた。飽和状態だ。
「!?」
視界の隅に白い物を見た。咄嗟に機銃を向けるだが…
ガチンッ!と甲高い音が鳴る。弾切れだ。
「し…しまった!」「ヒィ!!」
「ハァ…ハァ…」
匍匐前進で魔導車の残骸に到着したトルーパーは魔導車に背をもたれかけ一息付いた後、自身が持つRPS-6スマートロケットランチャーに弾頭を装填する。
「よし…後は…」
頭だけを出し、バイノキュラーで敵との距離を測る。
「へっ…これぐらいなら、目視でもいけるぜ…」
自身の腕ならランチャーをロックオンさせる必要も無い。
数回、呼吸し最後に深く息を吸うと、自身の体を軸に反転するようにランチャーを構えながら、身を乗り出す。
「喰らいなっ!」
弾頭はゲルニカの銃座のやや下方に直撃し、機体内部で爆発した。残っていた燃料に引火したのか、機銃座諸共、火柱を上げながら爆発炎上した。
「やった!ざまぁみろっ!!」「帝国万歳!!!皇帝陛下万歳!!!」「ベイダーの軍に栄光あれ!」
歓声を挙げるトルーパー達、彼等の士気は一様に高い。帝国に敵対的な物にとって彼等は恐怖の象徴であるが、別の面から見れば彼等の存在はギャングや宇宙海賊といった犯罪組織、無法者から銀河を守ってきた事も事実である。特に旧共和国時代、アウターリム、コアワールドから離れた地域では入植地やコロニーが絶えず海賊の襲撃に晒され、略奪と虐殺が日常茶飯事だった時代を知る人々にとっては、実情を知らない癖に浮世離れな平和主義を唱えるだけで何もしてくれないコアワールドの役人や、装備、経験でも劣る割にアウターリムに対して差別的な偏見を持っていたジュディシアルと比べれば、各惑星から徴募し、採用されたストームトルーパーは自分達の住む銀河系を守ろうとする気概が高い。トルーパー達も自分達こそが銀河の平和と秩序を守っているという自負がある事も大きいだろう。
「第2中隊、敵陣を突破に成功」
「グレブ中尉らの小隊が敵の足留めを受けています。応援を」
「第1大隊より報告 ポイントA-4を確保」
橋頭堡内の仮設司令部で帝国地上軍士官やトルーパー達が各隊からの報告を聞き指示を出す。
「全部隊へ、戦線を押し上げよ。」
「奪取した地点へスピーダーを送る。」
「空港施設は陥落間近だな。ゴザンティ級とインコムY-85を送ってくれ。」
「了解しました。」
そんな中、ストームトルーパーの1人がある物を持って来る。
「指揮官殿。敵の武器を鹵獲しました。」
「ん?ドロイドから情報のあった〘まどうじゅう〙とか言う実弾銃か?」
「スラッグスローワーの一種の様に見えますが…余り性能は良くない模様です。」
「辺境の蛮族らしいではないか。タトゥイーンに生息する野蛮人も、こういった武器を好んでいるらしいからな。」
銀河系において実弾を扱う小銃はブラスターに比べて、少数派である。まして組織、勢力で採用する事など、皆無に等しい。
「しかし、随分と敵の抵抗が激しいな。これだけの技術差があれば直ぐに降伏しそうな物だがな。」
幹部達が冷笑する。彼等の言う通り技術差は圧倒的であった。それも理解できずに必死に抗おうとするのは滑稽さを通り越してむしろ哀れでもあった。
「作戦は予定通りに進んではいるが、気は抜くなよ?敗北すれば我等とて只では済まん…」
「何故です?」
新任の将校が質問する。味方が有利な状況で、わざわざ念を押す様な言い方に不気味さを感じたからだ。
「貴官はあの方をよく知らん様だな…」
「え?」
一瞬、どことなく弛緩した雰囲気が張り詰めた物に変化する。
「あの方は決して失敗を許しはしない。以前、将校を絞め殺すのを何度も見た。」
「結局の所、負ければ後が無いのは我等も彼等も変わらんという事だ。それを忘れるな。」
「り…了解しました…」
「指揮官殿。前線の部隊が敵の最終防衛ラインに到着しました。ご指示を」
通信士官が後ろを振り向きながら報告する。それに深く頷いて応えると、目の前のディスプレイに向き直る。
「とっとと済ませるぞ。予備兵力を全て前線に送れ。」
「閣下、例の部隊はどうなさいますか?」
「むぅ…敵の司令部の位置は分かったのだろう。仕方ない…ジャンプトルーパーを露払いに向かわせろ」
「ぐっ…!ここは何処だ…?」
朦朧とする意識の中でクレストは目を覚ました。全身がズキズキと痛み、耳鳴りも酷い。自身が瓦礫の中にいるのは、直ぐに分かった。しかし、胴体をがっちりと挟まれていて抜け出せない。
「とにかく…ここから抜けださねば…グッ…!」
目の前の大きなコンクリート片を渾身の力で押す。ガラガラと瓦礫が崩れ、煤まみれの顔に冷たい空気が降りかかる。
「おーいっ!誰か、いないか……なっ!」
彼のいた場所からは破壊された空港の全体を見渡す事が出来た。先程と同様に破壊された天の浮舟や魔導車が散らばっているが、今はこれに加えて、爆炎と銃撃音が新たに混ざり極めてカオスな世界になっていた。
「…あれは…敵の兵士か…」
各所でミリシアル兵と白い鎧を纏った兵士達が銃撃戦を繰り広げていた。クレストは敵の姿を見て疑問に思う。
「甲冑にカービン銃だと?一体、どういう事なんだ…?」
今の時代、魔導銃を装備した軍隊で甲冑や鎧を着る事は無い。せいぜい1〜2mm程度の厚さしかない鎧では銃弾を止める事は出来ないからだ。
(全員が同じ格好をしているが…あれは髑髏のつもりか?…とすると相手を威圧する事が目的なのか?だが…)
文明圏外の地域では戦の際に、味方の士気高揚と敵の威圧の為に自身の顔や体に恐ろしい怪物のペイントを描く部族がいると以前、聞いた事があったが、彼等もそうなのだろうか?
(だが…解せない…何故、あんな小さく短い銃を使っているのだ?アレでは精度も期待出来ず、反動をもろに受けるはずだが…)
敵が持っている銃は見た所、ストックが短い上に、銃身自体も殆どグリップとさほど変わらない程短い為、クレストはカービン銃だと思った。無論、銃を小型、軽量化するのは兵士の負担を減らす事にもなるし、取り回しの良さからミリシアル軍でもM1632のカービンモデルを一部、特殊部隊や車両部隊向けに配備している。だが、デメリットも多いのがカービン銃の特徴でもある。そもそも、銃の機関部は小型化しづらく、結果として、ストックや銃身自体を削らなくてはならないのだ。当然ながら射程や命中率といった銃本来の利点といった物を犠牲にしなくてはいけないため、実の所、中途半端な代物だとクレストは思っていた。全ての部隊に配備する必要は無いはずだが…
「突撃だっ!殲滅せよ!」「敵勢力を撃破!」「ランチャーを!障害物ごと吹き飛ばしてやれっ!」
敵の兵士達が口々に叫びながらミリシアル兵が守る陣地に攻撃を仕掛ける。防衛側が有利な立ち位置ではあるが、明らかにミリシアル側が撃ち負けていた。ミリシアル兵がM1632を構え、一発撃つ前に、敵の兵士は既に数発の光弾をそのミリシアル兵に撃ち込んでいた。撃たれたミリシアル兵が次々と倒れ、地面が死体で覆われていき、その上を白い兵士達が乗り越えていく。
(反動が殆ど無いだと…!?威力も精度も高い!ん?あの兵士は何をしているのだ!?)
奪取したバリケードの裏で銃ではなく、何か大きな筒を持っている敵兵を見つける。
(アレは何だ…?何かの装置か?いや、まさか!?)
彼の予想は最悪の形で的中する事になった。その敵兵は手に持った筒をミリシアル軍の陣地に向けると一瞬、空気が抜けるような音と白煙を吹き出した。刹那、陣地が丸ごと吹き飛び、土嚢の残骸とミリシアル兵だったであろう代物がバラバラに飛び散る。
「携帯式の魔導砲だと…!?そ…そんな物まで…!」
ミリシアル軍でも歩兵が単独でも扱える魔導砲(どちらかと言えば迫撃砲に近い兵器)の開発に力を入れているが、未だ実証段階に過ぎない。
クレストにとって、悪夢の様な光景はまだまだ続く。ある敵兵は連射機能の付いた魔導銃でミリシアル兵を次々と薙ぎ払う。魔導砲の砲撃並みの威力を持つ手榴弾のような兵器。これらの兵器を駆使する敵兵に、ミリシアル軍はまるで歯が立たず一方的に蹂躙されるだけであった。
「こんな事が…こんな馬鹿げた事が……」
クレストは絶望に染まった表情で呆然と、その光景を見つめていた。敵は強い。それも、自分達、神聖ミリシアル帝国を遥かに上回るであろうと。何よりも最悪なのが、既に自分達、神聖ミリシアル帝国は彼等との全面戦争になっているという事実だ。
「こんな連中と一体、どう戦えばいいのだ…!」
圧倒的な技術差に絶望するクレスト。思わず伝説に聞く、魔帝が蘇ってくれればと、一瞬思い自嘲の笑みを浮かべる。
(魔帝に縋る様では我々も終わりだな……ん?)
思わず天を仰ぐクレスト。だが、彼の視界に奇妙な物が映り込む。空中を飛ぶ点の様な物はグングンと大きくなり、その全容が明らかになると再度、クレストは、絶望する事になった。
「バカな…何故…何故、人間が空を飛んでいるんだ!?…」
それは地上を闊歩する敵の兵士達と良く似ていた。問題は空中をまるで、エルペシオやジグラントの様に光の尾を引きながら飛んでいる事だろう。かの魔帝ですら生身の人間を天の浮舟の如く、飛ばせる技術などできなかったはずだ。
「我々は……一体、何を敵に回してしまったんだ……」
遠のく意識の中で彼が思ったのは今後の祖国の行末だった。
「敵だっ!敵が…グアッ!」「駄目です!突破される!」「畜生!!何で空を飛んでいるんだっ!?」
司令部周辺を警備していたミリシアル兵は見た事も聞いた事もない敵の奇襲を受けていた。何しろ空を飛んでいるのである。その衝撃もあるが、空という高所を取られた事もあり、守備隊の数は既に数人にまでうち減らされていた。
「ガッ!」「た…隊長!ウワっ!」
「クリア」「クリア、おっと」
まだ息のあったミリシアル兵の、頭部と心臓に2発づつブラスター弾を撃ち込む。これで彼は楽になれた。
「今ので、最後だったな」「オイオイ、気をつけろよブラザー」「腕が鈍ったんじゃないか?ハハッ」
軽口を叩き合う白い兵士達。尤も彼等は周辺への警戒は解いておらず怪しい者、生き残りがいれば瞬時にRT-97Cヘビーブラスターを放つだろう。
彼等はジャンプトルーパーと呼ばれるストームトルーパーの特殊部隊である。クローン大戦時に創設されたクローンジャンプトルーパーの後継として背部のジェットパックを使った機動戦を得意とする部隊でありストームトルーパー兵団の中でもエリートとも言える部隊であった。
「全員、静かにしろ。…来たぞ…」
一隻のラムダ級が降り立ち、全員の視線が集まる。
「流石はベイダー卿の部隊だ。仕事が早くて助かるよ。」
「プロですからね。これぐらいの事は…」
ジャンプトルーパーコマンダーはラムダ級から降りたトルーパーに答えると同時に疑問が浮かぶ。
(何故、情報部の連中がいるんだ?たかが、辺境の未知領域の惑星に何故コイツらが?)
帝国情報部といえば銀河帝国内でも極めて秘匿性が高い部署だ。帝国軍内部でも彼等の実態を把握している者は一握りしかいないとされる。それこそ、自前でストームトルーパーを揃える程。
(今回の遠征は、この惑星の征伐だけではないのか?そもそも、この程度の星にこれだけの戦力が必要なのか?)
インペリアル級スターデストロイヤーだけで6隻も、この名も無き星一つの為に派遣されている。しかも、指揮官はあのダース・ベイダーである。何か、別の目的があるのではないか?
「では、我々は地上軍の掩護があるので……」
「うむ。御苦労」
「しかし、不気味な連中でしたね…」
徐々に遠ざかっていく司令部の建物を尻目にジャンプトルーパーの一人が隣で飛ぶコマンダーに話しかける。
「あぁ…出来れば二度と関わりたくない奴等だったな…」
「連中と比べりゃ、まだドロイドの方が人間味がありますよ。」
「そこまでにしておけ、少尉。どこで奴等が聞いているか分からんからな。」
「も…申し訳ありません…」
コマンダーはそっと、後ろを振り返り、段々小さくなっていく黒いアーマーを着たトルーパーを見る。
「どちらにせよ、奴等には目を付けられたくは無いな。あのデストルーパーにはな…」
「作戦は以上だ。何か、質問がある者はいるか?」
デストルーパーコマンダーの問いに一人のデストルーパーが挙手する。
「何だ?言ってみろ。」
「隊長。捕虜はどうしますか?何人か確保しますか?」
「いや、いらん。ベイダー卿からの指令では邪魔になる者は全て、排除せよとの事だ。」
「なるほど、捕虜にはなるな、捕虜は取るなという事ですな。」
「そういう事だ。いつも通りだ。」
彼等はひとしきり乾いた笑いを上げる。朝焼けの日差しが彼等の黒いアーマーに反射し、より一層、威圧感を醸し出している。
「さぁ行くぞ。前線豚ども。戦争だ。」