ゼノスグラム国際空港
司令部地下 魔力制御室
金属パイプと湿ったコンクリートの壁 時節、思いだした様に不気味な轟音を上げる魔導タービン 蒸し暑くカビ臭い澱んだ空気 無機質で実用一辺倒の魔力灯がチカチカと時々ちらつきながら薄暗い制御室内を照らしていた。様々な魔導機械に囲まれた空間内に二人の兵士がいた。一人は落ち着かないのかキョロキョロと周囲を見渡し、もう一人はうんざりした表情で、軍服の袖で額の汗を拭った。この部屋は蒸し暑い上に騒音と悪臭で充満していた。この制御室に来て30分程になるが、外がどうなっているのか分からない事もあり、二人は憔悴しきっていた。
「ハァ……」
轟音、銃声、爆発音、遅れて振動が空気を揺らす。パラパラと肩に掛かった白い粉塵を払う。
「…今の爆発…近かったよな…」
「…あぁ…」
隣に立つ同僚のテスラが言う。普段は陽気なジョークを飛ばすお調子者だが、その声は震えていた。
「アプリ…俺…怖ぇよ…」
しばしの沈黙の後、ようやく答える事が出来た。
「…俺も怖えよ…」
何故こんな事になってしまったかと後悔と恐怖が入り交じった中、あれだけ嫌っていた故郷の光景が思い浮かんだ。
(何で、軍隊なんかに入隊したんだろう…)
アプリ・スディルマン二等兵は今年、入隊したばかりの新兵であった。彼の故郷はカン・ブリットから更に離れた山岳地帯、その盆地に作られた小さな村であり、金色の小麦畑と流麗な山脈に囲まれた美しい場所だった。彼の実家は代々、農家を営んでおり、採れた小麦や山の幸をカン・ブリットやルーンポリスといった都市に売却する事で安定した生活を送っていた。尤も、彼からして見れば何も無い田舎であり、思春期を迎える頃には年頃の青年らしく、冒険心から田舎から出て都会で暮らしたいと考えるのは寧ろ自然な事だった。
学校を卒業した後の進路について、家業を継がせたい両親と言い争いになり、着の身着のまま、ルーンポリスへと飛び出していったものの彼は直ぐに後悔する事になる。世界の首都とも言われるルーンポリスには、それこそ、その名の通り世界中から人が集まるのだ。知り合いも居らず、紹介状の類も持って無いテスラに都合良く仕事を与えてくれる者等おらず、ルーンポリスの片隅で途方に暮れる事になってしまったのだ。
それでも彼には幸運の女神が付いていたのか偶然、徴兵ポスターを見つけ、ダメ元で応募した所、見事合格し故郷に失意の中、帰る事にはならなかった。今となっては死神に魅入られていたとしか言えないが…
(確か、軍曹殿に叩き起こされて…)
昨夜、相方のテスラと共に夜間のパトロールを終えて駐機場の端にあるテントに入った事は、よく覚えている。シフトの都合上、昼間までグッスリと眠れるはずだった。しかし朝方、凄まじい爆音で目が覚めた。何事かと、寝袋の中でテスラと顔を見合わせていると彼等の上官である軍曹が殺気立った様子でテントに入って来て、装備を整え直ぐにテントを出るように言われ、それから…それから……
「なぁ魔帝が復活したのかな…?俺達はどうなっちまうだ…?」
「何だよ…いきなり藪から棒に。」
「だってっ!滑走路をあんな風に破壊できる奴等なんて魔帝以外にいないじゃないか!!!」
「お…おい…落ち着けよ…」
「ばあちゃんから聞いたんだ…あいつらはエルフや人間の生皮剥いで生きたまま食うって…!」
ヒートアップする彼を見てアプリは辟易とした気分になった。こんな状況で魔帝の話等したくも無いし、聞きたくも無い。
「魔帝の復活なんておとぎ話の世界じゃないか。光翼人達は光大戦の後の残党狩りで滅んだって、歴史の授業で習ったろ?」
「で…でもよぅ…」
「第一、おかしいじゃないか。一万年も昔に滅んだ文明がどうやって復活するんだ?そもそも未来への転移魔法なんて馬鹿げた魔法が使えるんだったら何で、光の剣士達に負けたんだ?道理に合わないだろう」
かつて、この世界は恐るべき巨大文明が支配していた。古の魔法帝国《ラヴァーナル帝国》通称、魔帝は圧倒的な魔力と軍事力をもって光翼人以外の全種族を奴隷、家畜とし、繁栄の謳歌を送っていた。彼らの飽くなき闘争心と増長しきった欲望は、ついに唯一、拮抗していたインフィドラグーンの国家をも滅ぼし、その絶頂期を迎える。もはや誰も魔帝を止める事は出来ない…筈だった
そんな虚飾に満ちた繁栄は呆気なく終焉を迎える事になった。虐げられる人々を哀れんだ神々は救世主を送り出した。それが《光の剣士》
曰く、光の剣士達は名前の由来となった光る剣を持ち、その剣はこの世界に存在するあらゆる物を切り裂く事が出来たとされる。
曰く、彼等は優れた剣士でありながら光翼人を遥かに超える魔力の持ち主であり、彼等の扱う魔法は天候を自在に変え、不可視の力で巨石を動かし、超常的な身体能力を持っていたとされる。
曰く、彼等の乗る天の浮舟は光の速さで飛ぶ事が出来、一つの都市程の大きさを誇っていたとされる。
曰く、自身に迫る誘導魔光弾を未知の古代魔法で跳ね返し、逆に魔帝の軍勢を壊滅させた。
曰く、津波を片手で念じるだけで止めて見せ、多くの民を救ったとされる。
曰く、軍船を沈める程の強力な魔力の嵐を起こして大艦隊を全滅させた。
曰く、コア魔法の直撃を受けても埃一つ付かなかったとされる。
曰く、単騎で魔帝軍の軍勢を圧倒する。その実力は一騎当千、いや一騎当万ともされる。
光翼人をも遥かに凌駕する魔力と技術を持つ光の剣士達の攻勢を前に、光翼人達率いるラヴァーナル帝国は完膚無きまでに敗北。後の時代《光大戦》と呼ばれる光翼人と光の剣士達の戦争は僅か一週間足らずで、魔帝は支配下に置いていた領土の9割を喪失。彼等の首都があったラティストア大陸にも攻撃が及び、世界の覇権は疎か、種としての存続すら危ぶまれる程、追い詰められる事になったとされる。
最終的には残された国土全体に結界を貼り、ラティストア大陸ごと転移する事によって、からくも逃走する事に成功したとされる。その跡地には《復活の刻来たりし時、世界は再び我らにひれ伏す》と記された不壊の石版を残して。
その後、光の剣士達は《諸君らもいずれ、星々の間を自由に駆け抜ける時代が来るだろう。それまでは我々が君達の星の盾になろう》と言い残し天上の世界へと帰っていたとされる。
奴隷の身分から解放され、自由の身になった人々は互いに協力しあい、荒れ果てた土地を何とか復興させ初期の共同体、文明を作り上げる事に成功する。しかし平和な時代は長くは続かなかった。光の剣士達が帰還してから数年後、潜伏していた魔帝軍残党が再び世界を支配しようと侵攻を開始したのだ。
当初は誰もが魔帝軍残党の圧倒的勝利になるだろうと思われていたが、誰も予想していなかった事態に発展する事になった。一人のエルフの男が全世界に向けて、以下の演説を行ったのだ。
《恐れていた事態が現実となった。魔帝の復活は事実である。既に、複数の居住地からの連絡は途絶えている。今、奴等の軍は確実に我等を抹殺しようと進軍を続けている。だからこそ諸君らに問いたい。
これで終わりなのだろうか?希望は失われたのか?我等を待ち受けるものは、あの地獄の様な日々か?違う!!!
我々は決して孤独ではない!この数年で我々は種族の枠をこえ団結し、強固な軍隊を作り上げた!過去の無力だった時代とは違う!我々は二度と奴隷には戻らない!!
だからこそ、どうか私達を信じてほしい。自由の為に、明日の為に我々の軍勢に一人でも多く加わって欲しい。光翼人は決して不死身の怪物では無い。
いつの日か、虐げられた者達が強力な敵を前に臆せずに自由の権利を勝ち取るべく武器を手にし抵抗し続けたと、二度と奴隷にならないと誓った者がいたと記録されるだろう!侵略者共よ!聞こえるか!?怒れる者達の歌が!》
男の名はシャルル・ド・ミリシアル 後の時代、神聖ミリシアル帝国において国父と崇められ、ミリシアル王朝並びに、非光翼人の国家の礎を築いた正真の英傑である。だが、彼の人生は壮絶そのものであった。
元々はある小国の貴族の出身であったが魔帝軍の侵攻により母国は滅亡。彼以外の一族郎党は族滅か、奴隷として売買され、彼自身も幼少期を奴隷として過ごしたとされる。この時の経験は彼自身の回顧録、又は側近達の証言によれば『思いだしたくもない。』と言わしめる程、過酷だったとされる。青年期になる頃、光翼人からの解放を目指す様になった彼は自身と同じ志しを持つ同志を集め脱走、反魔帝レジスタンスを結成。その後、人生の大半を対魔帝独立運動に捧げる事になる。魔帝軍との戦力差は圧倒的であり、正面からの戦闘はなるべく避け、ゲリラ戦を主とし魔帝の武器を鹵獲、解析しつつ彼等の戦略、戦術を学習し、自分達の戦力を少しでも強化し、雌伏の時を送っていた。いずれ来るであろう決起の時までに。
光大戦後、多くの地下抵抗組織が解散、縮小する中、ミリシアルは尚も魔帝軍の来寇に備えるべきだと主張を変えず、独自の勢力を保ち続けた。そして、その機会は直ぐに訪れた。魔帝軍残党の侵攻により、多くの入植地が破壊される中、指導者ミリシアルは逐次反撃、後退しながら避難する住民を保護しつつ、戦う意志を持った者には武器の扱い方や戦い方を教える等の支援を行い、反撃の機会を伺っていた。そして2ヶ月後、補給線が充分に伸びきった魔帝軍残党は進軍を停止、膠着状態となる。これを好機とみた指導者ミリシアルは、種族間反乱抵抗軍の結成を宣言。ついに魔帝軍残党への総攻撃を開始、《ミリシアル独立戦争》が勃発する。
当初は予想以上に現地民の抵抗が少なかった事もあり魔帝軍残党は完全に油断していた為、抵抗軍は次々と戦線を突破に成功、初戦を大勝利に収める。無論、これは兵力は各地に分散させていた事、抵抗軍側が正規戦の他にこれまで得意としていたゲリラ戦等で魔帝軍の後方基地や補給基地を襲撃し、兵站を圧迫していた事、魔帝軍残党が占領した土地で、これまでと変わらずに略奪と殺戮を行い、民心を得る事に何ら興味を抱かなかった事、何よりも彼等が本国を失った敗残兵だという事も大きいだろう。既に大型二足歩行兵器や天の浮舟といった兵器を製造はおろか、まともに整備できる状態では無い程、余力の無い状態だった事に加えて、これまでの統治の横暴さも相まって各地で暴動が発生。あっという間に抵抗軍に領地を奪還される事になった。
一年半にも及ぶ激闘の末に、遂に多種族反乱抵抗軍は魔帝軍残党の殲滅を達成。悲願であった独立を果たした。その後指導者ミリシアルを国王とするミリシアル王国の建国を宣言。以降、ミリシアル一族による統治が行われる事になる。
終戦から半年後ミリシアル一世死去 一説には魔帝との闘争に全エネルギーを費やした反動の為だとされる。以降は彼の子孫や側近達が国家の運営を引き継ぎ、後の時代、神聖ミリシアル帝国までの系譜となったとされる。
「じゃあ、何で魔帝の復活なんて話がまだあるんだ?奴等は全滅したんだろ?」
「この前、魔導ラジオで聞いたんだ。魔帝の復活なんて話に根拠は無いってさ。噂に尾ヒレが付いて勝手にそんな話になったんだって。」
「…それ、本当なのかよ?」
「よくある話さ。終末論と同じコジツケみたいな物だよ。第一、不壊の石版なんて、いくら探しても見つからなかったらしいじゃないか。」
「光の剣士達が破壊したんだろ?」
「《不壊》なのにか?そもそも、おかしいじゃないか。魔帝程の技術を持った文明を滅亡寸前に追い込む連中がいたなんて、それこそおとぎ話の世界だろ」
「おいおい…それじゃあ何で、魔帝は今、存在しないんだ?他に誰が、奴等を滅ぼしたって言うんだよ…」
「前に読んだ本で書いてあったんだ。魔帝は滅ぼされたんじゃなくて、もっと別の理由で滅んだってね。光の剣士なんて本当は存在しなかったんじゃないのか?」
魔帝の滅亡については太古から議論されていた。特に近年、魔法技術の発展が著しい神聖ミリシアル帝国では技術の発展と共に、ある疑問が浮かんできた。
《光の剣士達はどんな方法で光翼人達に勝利したか?》
《彼等の魔法は具体的にはどの様な系統の物を使ったか?》
《何故、光翼人と戦ったのか?》
《そもそも、彼等は何者なのか?本当に実在したのか?》
魔帝の技術が解析されるにつれ、その文明の強大さ、圧倒的な軍事力、国力を有していた事が判明するにつれ、その魔帝すら凌駕する光の剣士とは一体何者だったのかと、議論を呼ぶのは当然の事だった。特に近年の神聖ミリシアル帝国では復元不可能とすら言われていた天の浮舟や魔導戦艦等をリバースエンジニアリングに成功した事もあり、魔帝がいかに進んだ技術を持っていたか、改めて理解する事になった事も大きい。それこそ、どう戦えば勝てるのかと思う程に
何よりも、光の剣士達の存在を疑問視する大きな理由があった。それは彼等の情報が皆無なのだ。光大戦以降、彼等が歴史の表舞台に立った事は無い。更に、これまでいくら発掘調査をしても光の剣士に繋がる遺物やテクノロジーが見つからなかったのだ。それは、いくら何でも不可思議な事だった。光翼人をも凌駕し、魔帝を事実上の滅亡にすら追い込んだ神にも匹敵する謎の勢力 彼等はどこに消えていったのか?そもそも実在したのか?
「俺が思うには魔帝は伝染病にかかって滅んだんだと思うんだ。光翼人にしか感染しないウイルスが蔓延したんだ。」
「ウイルスだって?そんなはず無いだろ!」
アプリは内心、そうであって欲しいと半ば願望を混ぜて話した。
「もしくは光翼人同士で殺し合った末に文明が衰退したって説も聞いたぞ。多分、魔法が使えなくなる程、文明が衰退してボロボロになった時に、ご先祖様達が反乱を起こして一人残さず、根絶させたんだよ。だから、復活するはずなんかないんだ。」
光翼人が魔帝が何故滅んだか、近年は以下の様な説が上げられた。
《光翼人にしか感染しないウイルスが蔓延した》
《魔法技術を極めた結果、逆に魔力を失い文明そのものが衰退した》
《自分達に並ぶ者が居なくなった結果、同族同士で殺し合うようになり、コア魔法を撃ち合って文明が衰退した》
どちらにせよ、力こそ正義の、この世界では見返りも求めずに残虐な種族を討ち倒した謎の救世主の話等、子供向けの勧善懲悪な古臭い英雄譚でしかない。特にアプリを含む、若い世代はそう考えていた。
テスラが何か言おうと口を開いた瞬間、ズンッ!と重い衝撃と揺れが彼等を襲った。
「うわっ!!」「うおっ!」
魔力灯が激しく点滅し、タービンが一瞬、火花を上げて、断末魔の鈍い音を奏でた後に停止した。舞い上がった埃を吸い込み、アプリは激しく咳き込む
「ゲホッ!!ゲホッ!や…やばいぞ!」「し…侵入されたんじゃないのか!?」
魔力制御室は空港内の地下深くに作られていて、極めて頑丈に設計されている。生半可な爆撃では破壊される事はないと言われているが、先程の揺れは明らかに尋常ではない。
「…ちょっと様子を見て来る…」
「お…おい、警備はどうすんだよ…一人にしないでくれよ…」
「すぐ、戻って来るって…」
いくら頑丈だと言っても、外の様子が分からない状況に不安になったアプリは廊下へと続くドアに向かう
(こんな所で生き埋めなんて冗談じゃないぞ…)
ドアノブに手を掛けようとした、その瞬間…
「むぐっ…!?」
いきなり何者かに口元を押さえつけられた。一瞬、何が起きたのか理解出来ず、体が硬直する。
「…!!?」
何が起きたのか、誰が自身の後ろにいるのか、直ぐに彼は知ることになった。彼の目の前に、何か光沢のある鏡の様な金属製の板の様な物が差し出される。一瞬、その鏡の様な板に彼自身の背後の光景が映し出された。
薄暗い魔導灯に照らし出された黒い鎧とマスクと一体になったヘルメットを被った謎の侵入者が、彼を後ろから押さえ付けていた。更に奥まった場所、さっきまで彼がいた地点には数人の黒い侵入者がいて、力無く倒れているテスラが見えた。アプリには、まるでスローモーションの様にゆっくりとその光景が見えたが実際には1秒も経っていない。
(な…何が…!?ぐっ!)
抵抗しようと、体の筋肉が強張った瞬間、淡い魔導灯の明かりに照らされた鏡の様な板がギラリと不気味に輝いた。
「…!!!!」
それは肉厚で大ぶりなナイフだったのだ
「…ゴバっ!かはっ!!…」
一瞬であった。首元に鋭く熱い痛みが走ったのは。ドアに赤い鮮血が飛び散る。とっさに空いた左手で首元を押さえるが首元には熟したザクロの様にザックリと大きな切れ目が空いている事、ドクドクと溢れ出す鮮血を止める事を出来ないという事を再度、確認しただけであった。
「……ごほっ!!ゴポッ!……」
薄れゆく意識の中、最期に彼の脳裏に浮かんだのは故郷の両親の事だった。
(…父さん…母さん………)
「排除しました。」
そう言って振動ナイフに付いた血を拭い取る黒い兵士こと《デストルーパー》の一人。
「よし。全員、揃ったな。死体をどかせろ。邪魔だ」
エアダクトから最後の一人が出てくるのを確認した部隊の指揮官が全員を1箇所に集める。
「ここまでは予定通りだ。だが、これからは時間との勝負だ。最後のチェックをする。」
指揮官はホログラム投影装置を起動する。この地下施設のマップが立体的で三次元に投影される。
「現在の我々の位置がここだ。そして、敵の司令室はここだ。ここを最短距離で制圧する。」
先行していたヴァイパードロイドからの情報で、既にこの司令部は丸裸にされていた。施設外からデストルーパー本隊が敵を引き付け、その間に別働隊がエアダクトから魔力制御室に侵入し、施設内の魔力を遮断、無力化し、直接、敵の司令部を強襲制圧するというのが作戦であった。
「副隊長 爆薬の設置が完了しました。」
「分かった。誘爆はしないだろうな?」
「我々の技術とは、かなり異なる機構をしていますが問題ありません。供給設備自体はかなり原始的な物です。調査しましたが、トラップの類もありませんでした。」
指揮官こと副隊長のインコムに通信が入る。
『首尾はどうだ?』
通信の相手は総指揮官たるデストルーパーコマンダーであった。
「全て、順調です。いつでも行動に移せます。」
『了解した。これよりフェイズ2に移行する。』
「通信が繋がりませんっ!」「わが軍の損失、45パーセントに!」「西館に敵、侵入!」
「こんな…こんな事が…」
プラドは絶望に満ちた表情で魔導モニターに映される映像を見ていた。破壊され尽くした空港施設、散乱した兵器の残骸、そしてミリシアル兵の死体で覆われた駐機場
戦闘は蹂躙と言っても過言では無い程、一方的であり今では純白の甲冑を身に纏った敵の兵士達が闊歩し、空中では異形の天の浮舟が我が物顔で飛び回っていた。
(あり得んっ!!何故だ!?何故、こうも一方的な展開になるのだっ!?神は我々を見捨てたのかっ?!!何故だ!!!)
一瞬、自身の頭が正気を失い、ありもしない幻覚を見ているのでは無いかと本気で考えたが(寧ろそうであって欲しいと)現実は非情である
本来ならば首都近郊にある空港の防衛など、常識的に見ても攻めづらく、防衛側の自分達が有利な筈だ。だが敵は航空戦力による地上部隊の殲滅と同時に歩兵部隊による制圧を成功させており、この手並みの素早さは、まるで演習を見ているようであった。
(我々が敗北するのか!?いや、そんな事許されて良い筈が無いっ!!!正義が負けるなどと…)
正義が悪に屈してはならない。それは彼だけではなく全ての人間が持っている価値観であろう。無論、プラドにとっての正義とは、あくまで神聖ミリシアル帝国の勝利である。だが、プラドにとってはもっと別のそれ以上の意味を持っていた。
(こ…こんな物、認めん!認めてたまるかっ!)
神聖ミリシアル帝国が列強として君臨してこれたのは、とどのつまり全ての戦いに勝利してきた事が大きい。彼にとっては魔帝軍残党の殲滅から始まったミリシアル建国神話は絶対的な存在であり、敗北を認める事など絶対に出来ない事であった。ミリシアルは勝たねばならない。過去も現在も、そして未来も。
「認めん…こんな物、戦争だと認めてたまるか…!」
モニターを悪鬼の如く表情で睨みつけるプラド。だが突如としてモニターの画面がブラックアウトし、照明も消えてしまった。
「えぇい!またかっ!一体、何をしておるか!」
携帯型小型魔導灯(魔力で作動する懐中電灯の様な物)を持った兵士達がドタドタと慌ただしく彼の部屋に入ってきた
「将軍!報告します!当空港は敵部隊に完全に包囲されています!」
「ターミナル内にも敵が侵入したとの報告が…」
「これ以上の防衛は不可能です!どうか撤退を…」
「て…撤退だとっ!!ふざけるなっ!我等は最後の一兵まで…」「…おい!通せ!!将軍に報告せねば…!」
彼等の後ろから人波をくぐり抜ける様に一人の軍幹部が彼の前に息を切らせながら躍り出る。彼は先程、プラドが確認に向かわせた部下であった。
「ほ…報告します…ゼェ…敵部隊に侵入されました…ハァ…た…直ちに迎撃を…」
「…その報告はもう聞いておる。今からターミナルに増援を…」
「違いますっ!違うんです!!」
顔面に汗の粒を滴らせた彼は一気に言葉を吐き出した
「敵はこの司令部に侵入しているんですっ!」
プラドを含めその場にいた者は彼の言葉を一瞬、理解出来なかった。しかし、既に彼等に残された時間は殆ど残っていなかった
ゼノスグラム国際空港
空港内ターミナル
列強第一位、世界の首都とも称される神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリス その玄関口とも言われるゼノスグラム国際空港は当然ながら、同国の権威の高さを示す為にあらゆる最先端の技術を取り入れている。広く高い天井に、エレベーターやエスカレーターといった設備に、常に快適な温度と湿度を保つ事が出来る空調設備と、同程度の機能を持った空港はムー国にあるアイナンク空港ぐらいしか無いとされる。
ターミナル内は赤い絨毯が敷き詰められ、壁紙もそれに合う様な高級感ある柄の物が貼られ、高い天井には錬金術で作られた金と水晶製のシャンデリア状魔力灯、ソファーやテーブルといった家具も高級品が置かれ、空港というよりは高級ホテルの様な内装をしていた。
訪れた旅行者を退屈させない様にアメニティにも最大限のサービスが配れる様に配慮されており、ターミナル内には免税店や売店といった施設以外にもレストラン、ラウンジ、バー、映画館、床屋、ブティック、ホテルといった施設も設置されており、一つの都市といっても過言ではないだろう
ゼノスグラム国際空港の特徴で変わった事と言えば窓が無い事であろう。アイナンク国際空港が天井や壁にもガラス張りで採光を取り入れている構造と比べれば、かなり異端な設計であった。無論、これには理由があり採光に頼らずに、魔力灯だけで昼夜問わずに空港内を明るく照らす事が出来るというミリシアルの魔力技術の高さを誇示する狙いがあったからだ。変わりに駐機場に面した壁には大型の魔導モニターが直接埋め込まれ、この世界では唯一と言ってもいいカラー映像の企業CMが流されていた。
「癒やし手はいないか?!」「バリケードを作れ!絶対にここを通すな!」「バーから酒をありったけ持って来いっ!!火炎瓶を作るんだ!」「弾薬箱はそこに置け!」
本来ならば色彩豊かな民族衣装を着た異国の人々が談笑しあい物珍しげに歩き回るであろう場所に、単一の軍服を着た兵士達が慌ただしげに調度品であろう、ソファーやテーブルでバリケードを作り、負傷者を担ぎ出していた。彼等自身も煤と血にまみれ、頭部に包帯を巻いた者や仲間に担がれながら息も絶え絶えな様子で運ばれる者等、戦闘で負傷している者が大勢いた。
「急げ!急げ!敵は待ってくれんぞ!」「押せっ!引けっ!根性だ!」「気合いを見せろ!良いぞ!」
そんな中でも戦意を失わずに迎撃と為に準備する者達がいた。彼等は巨大な鉄の塊を四苦八苦しながらも二階のテラスまで丁度、駐機場からターミナル内への入口を見下ろせる場所まで強引に引きずっていた。
「もうすぐだ……あと少しで…」
「隊長!敵に侵入されます!」
「よし!!角度はいいな?駐退機が作動しなければコイツは役に立たないぞ!」
RPS-6ランチャーがバリケード代わりのソファーとテーブルを吹き飛ばし、その残骸がそこら中に飛び散る。爆煙が過ぎ去るのを見計らい、ストームトルーパー達がターミナル内に突入する。
「進め!一気に制圧するぞ!」
ストームトルーパーコマンダーがそう叫びながら、目の前にいたミリシアル兵にブラスター弾を撃ち込み射殺する。ターミナル内はかなり広く各所から銃弾が飛び交う。それでも勢いに任せて進み続ける。思えば油断していたのかもしれない。半ばまで進んだ所で後続のトルーパー達が突如として吹き飛ばされた。
「爆発だと?!伏せろっ!」
とっさに豪奢な絨毯の上に這いつくばると同時に、砲声が轟き彼等の上にコンクリート片が飛び散る。
「くそっ!敵の砲か!厄介な……」
「二門あります!まさか、室内で使用するとは……」
「くっ…侮っていた訳では無いが……」
残骸に隠れながら敵を観察するが、どうやら敵はターミナル内で本格的に迎撃戦を行う予定だったらしく、既に防御陣地を完成させていた。砲に加え、実体弾を使用する大型銃を各所に設置しており、まるで銃弾で地面を耕さんとする様にストームトルーパーに向けて銃弾をばら撒いていた。
「これでは動けん!ランチャーはどこだ?」
「さっきの爆発でやられました!」
「クソ!ここまで来て!」
敵の歩兵、一個小隊程が小銃を撃ちながら突撃して来た。対して、こちらはコマンダー含めて、一個分隊程しか居らず、後続の部隊も敵の砲撃と機銃掃射に押されて突破出来ないでいた。彼等は完全に分断されていたのである。
「くっ……ここまでか!」
「いいぞ!押し返せっ!」
「見たかっ!M1600ルベライト野戦砲の威力を!」
〘M1600ルベライトMk=3 37mm野戦魔導砲〙
魔導砲と言っても主に第三文明圏等で使用されている前装式で球状型砲弾を使う物と神聖ミリシアル帝国や技術体系は違うもののムー国で開発された後装式で尖頭弾状の砲弾を使用する物で分かれている。無論、前者よりも後者の方が要求される技術レベルはかなり高く、事実、その性能差は雲泥の差があった。パーパルディア興国で現在、配備されている魔導砲が、せいぜい1〜2km程の有効射程しか持っていない。それに対してミリシアル軍で採用されている魔導砲は有効射程距離が最大で7〜7.5kmと圧倒的な射程距離を持っていた。それに加え、砲弾自体にも高性能魔法炸薬と複合式高速化魔法術式回路を組み込んでおり、精度の面でも、それこそ百発撃って一発当たる程度の性能しかない前装式に比べれば7割から8割は命中弾を出せるのだ。現在、ミリシアル軍で採用されているM1600は採用から既に四十年近く経っているとはいえバージョンアップを重ねていて、実質的な性能ではムー国で採用されている砲よりも優れているだろう。
本来この魔導砲は空港守備隊に配備される予定は無く誤配送された物でありドロイドによる偵察をくぐり抜けていたのは彼等、ミリシアル兵にとって僥倖であった。
更にムー国製のラ・マキシ機関銃もその独特な発砲音を唸らせ、敵の突撃を次々と粉砕し、勢いを完全に抑え込んでいた。
「いけるぞ!撃ちまくれっ!!」「奴等は不死身じゃない!撃てば倒せるんだ!」「俺達だってやられっぱなしじゃないんだ!」
ミリシアル将兵達はこれまで圧倒されっぱなしだった事もあり、ようやく敵に打撃を与えた事で萎縮していた士気も回復しつつあった。
「やれる…やれるぞ!状況が同じだったら負けはしない!」
そう息巻くミリシアル軍士官の一人。これまで屈辱的な敗走を重ねてきた彼等にとって、小さいながらもようやく掴んだ戦いの決め手とも言える。敵は不死身でも無ければ超常的な能力を持つ怪物では無い。撃てば死ぬ、刺せば死ぬという事を理解できただけでも重要だった。
「よしっ!このまま一気に……」
やっと、希望の光が見えて来た。彼等がそう思った瞬間、凄まじい爆発音が響き渡る。
司令部地下通路
「これは…どういう事だ…」
「…全員、頭を撃ち抜かれています……恐らくは抵抗する間も無かったのでしょう…」
彼等の目の前には魔力供給室に向かった筈のミリシアル兵の死体が転がっていた。死体の状況から見て、ろくな反撃も出来ずに殺害されたのは明らかだった。
「信じられん…どうやって…いや、可能なのか…?」
「ま…まさか…不可能です…こんな暗闇で正確に額を撃ち抜くなんて…」
携帯型魔導灯で死体を照らす彼の声は震えていた。魔力灯が消えたせいで、彼等の視界を照らすのは手に持った携帯型魔導灯のか細い光しかない。それも、せいぜい3〜4メートル程しか照らせず、彼等の不安と焦燥を拭う事等、出来なかった。
「…とにかく、いったん、指令室に戻るぞ…敵の奇襲を…」
そこまで言った瞬間、暗闇から放たれた赤い光線がミリシアル兵の頭部を撃ち抜いた。その場に倒れ伏すミリシアル兵達。彼等の手から離れた携帯型魔導灯が暗闇から姿を表す漆黒の兵士達を照らす
「クリア」
「排除しました。」
暗闇から現れたのはデストルーパー達であった。重装備でありながらも音を立てずに動き、尚且つ無駄な動きを削いだ彼等をこの暗闇で視認するのはどだい無理だったのだ。
「よし。ご苦労」
暗闇と言っても、彼等デストルーパーにとっては何ら問題は無い。その特徴的なヘルメットには暗視装置が内蔵されており、彼等デストルーパーからして見れば暗闇でも昼間の様に明るく見えていたからだ。
「警備は殆どいませんね。」
「ここまで楽とはな。訓練にもならん」
そう彼は吐き捨てた。既に数十人のミリシアル兵を相手に気づかれずに処理したが、デストルーパー達からすれば、ほとんど棒立ち同然の敵をダミーボーイ代わりにしただけに過ぎず、自身らの戦闘技能を高めるという事に何も寄与しなかったからだ。
「…指令室はそこの角を曲がった先だ」
「…見張りは二人のみ…小銃タイプを持っています。」
「司令要員はどうでもいい。重要なのは司令部内の機材と資料だ。見つかれば焼却されかねん。注意せよ。」
指示を出し終えると自身の得物であるE-11dカスタムモデルのブラスターを見つめ一言ぼやいた
「まったく、こんな任務とっとと終わらしたいものだ…」
「お待ち下さい!まだ、空港内では味方の兵士達が戦っています!」「味方の応援が来る可能性もあります!ですから、まだ…」「ここまでやる必要があるのですか?!」
司令部内では血走った目で何かの機材を組み立てるプラドと引き攣った表情で直訴する司令要員が対峙していた。それに対しプラドは淡々と不気味な程、冷静な口調で吐き捨てた
「…先程、説明した通りだ。貴様等は何を聞いていたのだ?」
プラドは梱包された魔導成形爆薬に術式回路のコードを繋げる。それは一種の自爆装置であった。既に彼は自身の意図を説明していたが、余りにも矛盾と破綻したロジックを説明された所で理解等出来る筈もなかった。端的に言ってしまえばプラドは正気ではなくなっていたのだ。
彼にとっては余りにもゼノスグラム国際空港攻防戦はあってはならない事が起こり過ぎたのだ。もはや敗北は時間の問題であり、後の彼に待っているのは敗戦の戦争犯罪者、もしくは無能者として生涯、蔑まれるだけの人生……すなわち身の破滅であった。そして今では病的な程、肥大化したプライドの塊である彼にとって受け入れられるものではなかった。故に司令部諸共、自爆するという理論が働いた
「…我等、誇り高きミリシアルの民は侵略者に屈するよりも死を選ぶ……そして私は天界にて英雄達に招かれねばならんのだ…」
「考え直して下さい!まだ勝機はあります!ですから…」
士官の一人がそう説得する。無論、彼とて奇跡でも起きない限り勝てるとは思ってはいない。だが、とにかく最悪の事態を防ごうとしていた。
「黙れっ!貴様等は私の命令に従っていれば良いのだ!!そもそも貴様等が無能なせいで私の人生は滅茶苦茶だっ!!」
魔導拳銃を振り回しながらヒステリックに奇声じみた声で唾を飛ばしながら怒鳴り散らすプラド。既に彼には上官としての体面をとりつくる余裕すら存在しなかった。
「敵を司令部に誘い込み、油断している所を爆破する!敵は恐れをなし、撤退する筈だ!!この完璧な作戦のどこに!!不満があると言うんだ!!!」
「………」
司令要員達は今更ながら後悔していた。これまで、プラドに対して終始イエスマンとして振る舞っていた事を
部下の命や彼等個人の人生があるという事もプラド本人にとってはどうでも良かったのだ。彼等はプラドが聞こえない様に耳打ちし囁く様に話し合う。
「……もはや、時間が無い…やむを得ないが…」「……誰が撃つんだ?嫌な人だが、味方を撃つなんて……」「……責任はどうなる?後々、問題になったら…」
「………司令は自ら責任取り自決した事にする…私が撃つ…」
「副官殿…」
まとめ役の副官が加わる。最早、戦っても無駄死にするだけ。何よりもこのクレイジーでヒステリックな老人の自己満足でなんの意味も無く殺されるよりも敵の慈悲に縋った方がまだマシに思えたからだ。
「……それよりも、お前達は降伏後の事のみ考えていろ…我等にとって厳しい時代になるぞ…」
副官はプラドの目の前に立つ。プラドは頭を抱え、ブツブツと何かを呟いている。
「………司令、お話が……「理解できないな。何故、相手が都合良く自分達の思った通りに動くと思うのか。」
突如として割り込んで来たその声が聞こえた瞬間、プラドの背後に設置された天井の通風口の蓋が突然、地面に落ちてけたたましい音を上げる。全員の目が、落ちた蓋に集まった瞬間、通風口から漆黒の怪人物が音もなくプラドの背後に降り立つ。
「なっ…!!」
漆黒の怪人ことデストルーパーは驚愕の表情を見せるプラドの左腕を肩の関節を軸に捻り上げる様に締め上げる。悲鳴を上げるプラドをよそに起爆スイッチを指の関節をへし折り、強引に奪うと、ついでに彼の左肩の関節に力を込めて外した。
「がああああ!!痛っいい!!お…折れるぅ〜!」
「し…司令!!」「貴様!何者だ!」
司令要員達は咄嗟に拳銃を向けるもプラドが邪魔で撃てない。デストルーパーは悲鳴を上げるプラドの背中を蹴り飛ばし、司令要員達にぶつける。
「グェっ!」「うわっ!!」
「オマケだ。」
デストルーパーが倒れたプラドの背中にフラッシュグレネードを投げ込み、自身は先程まで、プラドが座っていた執務用デスクの裏に飛び込む。瞬間、凄まじい爆音と閃光が執務室内を覆った。
「制圧しました。軍事資料、放送設備、空港見取り図、全て、無傷です。」
「うむ。デヴァステイターに増援と回収班を要請せよ。直に戦闘は終わる。」
コマンダーは周囲を見回す。執務室内のミリシアル兵はフラッシュグレネードで目と耳を潰され、彼等は抵抗する間も無くE-11カスタムの餌食になった。当然ながら指揮系統を失った司令部の制圧がより簡単になった事など言うまでもない。そして地面に転がるミリシアル兵の死体に混じって将官らしき人物が息も絶え絶えな様子で呻いていた。
「それは?」
「敵の指揮官の様です。やはり、不要でしたか?」
「ふむ……」
プラドは血を吐きながらも生きながらえていた。とはいっても、既に彼は全身にブラスター弾を受けており、死に体同然であった。
「運が無かったな。ブラスターでは血は流れんから出血多量で死ねないのだ。今、楽にしてやろう。」
「だ……黙れ……!我等が先祖が受けた犠牲に比べればこの程度、比ではない……!!」
「ん?」
「あ……悪魔共め…!いずれ神が貴様等に天罰を与える!!かつて光翼人が滅んだ様に天空から炎の矢が降り注ぎ、貴様等は生きたまま焼かれるのだっ!!報いを受けろっ!」
プラドは苦痛に顔を歪ませながら、怨嗟のこもった目で睨みつけながら、そう呪詛の言葉を吐く。今の彼にとって、それが唯一できる抵抗だった。
「聞いたか?フッ…天罰が下るとな。」
「哀れですね。何も知らないのでしょう。」
コマンダーはいつもと変わらない落ち着いた、それこそ小さい子供を諭す様に話始めた。
「いい事を教えてやろう。よく聞け。原始人。我々はお前達の言う、天空の世界から来たのだ。言うなれば我々はお前達にとって神の様な存在なのだ。故に我等が罰を受けねばならん理由は無い。そして我々が新しき時代を作る。お前達の時代は終わったのだ。」
「なっ……う…嘘だッ!!!」
「嘘では無い。我々はこの地に正しき秩序と平和をもたらしに来たのだ。お前達、辺境の野蛮人の価値観など、この銀河系に存在する価値など無い。この銀河の掃き溜め同然の惑星に文明をもたらす事が皇帝陛下から我々に与えられた崇高な義務なのだ。そもそも、お前達の様な旧態依然の汚物共が銀河に蔓延っている事そのものが、それこそ歴史の汚点なのだ。それを理解できるか?」
「………っ!!!」
プラドはパクパクと口を開閉するが声が出ない。コマンダーは尚も続ける。
「いずれ、この地に住む全ての住民がパルパティーン皇帝陛下を称える事になる。何故ならば陛下の唱える新秩序主義によってこの惑星に住む全ての万民が、糞にも劣る蛮習から解放され栄えある銀河市民の一員として迎いれられるからだ。その過程でこの惑星に蔓延するお前達の様な既得権益を貪る病原菌どもを我等、銀河帝国、正義の御旗の下に破壊し根絶し尽くす。そこにはいかなる例外も存在し得ない。かつて存在したジェダイや共和主義者共の様な時代錯誤のゴミ共と同じ末路を辿り消滅するのだ。まぁ、お前達、原始人に言っても無意味だがな。」
「…………」
「我等が正しき道に啓蒙し、清く正しき銀河市民として、この地の住民を導いてやろう。十年後には誰もお前達、旧態の遺物の事等、覚えてはおらん。所詮、お前達の払った犠牲等、何ら意味など無かった訳だ。その事を理解し、安心して死んでいけ。」
プラドの目が絶望に染まりやがて何も写さなくなりガクリと首が垂れる。それを無感動に見つめると興味を失ったらしく新たな指示を出す
「上の連中はどうなっている?いつまで原始人と遊んでいるつもりだ?」
「たった今、増援部隊が到着したようです。」
「放送設備は奪ったのだろう。降伏を呼び掛けろ。」
ゼノスグラム国際空港
ターミナル内
「い……一体、何が……」
突如として鳴り響いた爆発音、駐機場に面した壁が崩れ粉塵が舞う。崩れた壁の向こうから朝日をバックに粉塵から何かが姿を表す。
「ゴホッ!!ゴホ!な…何が起きたんだ…」
「わ…分からん…」
「お……おい!壁の向こうに何かいるぞ!!」
彼等が最初に目にしたのは鋼鉄の一対の足だった。壁材と魔導モニターの残骸を踏み砕きながら、それはゆっくりと彼等の前に姿を表す。
それは逆関節の両足に箱型の胴体、腕は無く、くちばしを思わせる様な装置を付けた異形の怪物だった。だが、ミリシアル兵達を恐怖のドン底に落とすには充分だった。
「ば……ばかな…魔導ゴーレムだと!?」「いや、魔帝の二足歩行兵器じゃないのかっ!?」「お…恐れるなっ!撃て!撃ちまくれ!!」
ミリシアル軍で運用されている魔導ゴーレムが手足が付いている事から見ても人間の様な姿をしているのに対して、目の前に立つゴーレムらしき物体は、まるで大型の陸鳥を思わせる姿をしていた。それは明らかにミリシアルの技術では考えられない設計であった。ミリシアル兵達はそれに向けて次々と銃弾を放つ。しかし……
「ダメだっ!!!銃が効かない!跳ね返されるぞ!」
銃弾は金属製の装甲板に阻まれ、殆ど効果は無かった。瓦礫を踏み砕きながらターミナル内に侵入したそれは歩みを止めて、ミリシアル兵達に正面のくちばしを向ける。刹那、赤い光線が放たれ、地面に着弾したレーザーはミリシアル兵の小隊を丸ごと吹き飛ばした。
「グアッ!」「ギャアっ!」「あ……あぁ…腕が……俺の腕が……」
「畜生!畜生!!」「歩兵を下がらせろ!援護する!」「とにかく撃ちまくれ!奴の気をそらすんだ!」
マキシ機関銃にしがみつきながら大量の弾丸を撃ち込むミリシアル兵達。しかし、それも徒労に終わった。弾丸は全て弾かれ、返礼とばかりに胴体側面にある砲門が向けられた瞬間、機関銃座もろとも爆炎に包まれる。
「いいぞっ!やっつけろ!!」「吹っ飛ばせ!やっちまえ!」
一方、先程まで追い詰められていたストームトルーパー達は歓声を上げる。絶対絶命の危機から解放された事もあり、士気は高い。
「隊長!味方です!ウォーカーです!!」
「来たか……AT-ST……!」
〘AT-ST〙
広大な領土、それこそ数多くの有人、無人惑星を支配する銀河帝国にとって、スター・デストロイヤーの様な大型艦艇はとても重要な存在である。だが、惑星内の統治、制圧を行うのに向いているかと言われると決して万能な兵器でもない。単純にスター・デストロイヤーの持つ兵装では威力が高すぎるのだ。最大出力で都市区画を一撃で焦土に出来るターボレーザーの様な兵器では地上のストームトルーパーの援護などできない。地上を制圧するには地上戦に特化した別の兵器が必要だった。その一種がAT-STである。
スカウト・ウォーカーとも称されるAT-STは最大速度時速90キロ、武装は顎部に搭載されたツインヘビーブラスターキャノンと胴体側面に設置されたツインライトブラスターにグレネード発射装置かミサイル発射管で武装している。主に、帝国地上軍における警備、パトロールを主としているが、武装面からも分かる様に対歩兵戦において決して侮れない性能を持っている。
事実、これまで帝国地上軍と激戦を繰り広げてきた同盟地上軍の兵士達からは同盟軍の人材不足、資金不足も相まってAT-ATともども恐れられている。一説には同盟地上軍一個中隊がたった1機のAT-STに壊滅させられるという説もあり、歩兵にとって悪魔の様な存在だった。
そんなAT-STが突如として爆発音とともに爆煙に包まれる。二本の脚部がよろめくように後退し、倒れかける。
「やったか?!」
ルベライト野戦砲を操作していた士官がそう声を上げる。魔導ゴーレムの側面装甲をも撃ち抜く程の威力を持つルベライト野戦砲ならばかなりのダメージを与えた筈だ。だが……
「くっ……効いておらんだと?!!!」
敵の二足歩行兵器はよろめきはしたもののすぐに体勢を直し、のっぺら坊じみた顔をこちらに向けた。
「怯むなっ!もう一度やる!徹甲弾を……」
「た……隊長!て……敵が…」
兵士の一人が指差す方向を見ると、敵の二足歩行兵器の側面から何かが射出される所だった。彼等にとって何回目になるか再度、驚愕する事になる。
「誘導魔光弾!?」「マズいっ!逃げろ!!」
彼等が慄き、魔導砲から逃げ出そうと動き出した時には既に、誘導魔光弾こと振盪ミサイルがすぐ目の前に迫っていた。刹那、ミサイルが着弾し、ルベライト野戦魔導砲とミリシアル砲兵らを爆炎に包み込む。
「今だ!敵の抵抗が弱まった!全力をあげて殲滅せよ!」
魔導砲を破壊された事は既に限界を迎えつつあったミリシアル軍ゼノスグラム国際空港守備隊にとって最後の王手となった。バリケードはストームトルーパーに次々と突破され、生き残った機関銃座も、AT-STのレーザーで焼き払われるか、デュラスチール製の足で踏み潰されるかどちらかだった。この時点で彼等の敗北は決定的になった。
更に館内放送で司令部が陥落し制圧された事が伝えられ、同時に降伏勧告が呼び掛けられた事により守備隊は戦意を喪失、大半の兵士が降伏し始めた。中には空港内施設に立て籠もり徹底抗戦を仕掛ける者もいたが、明らかに少数であり戦況を挽回する事は出来なかった。
中央歴1638年2月20日午前9時54分
ゼノスグラム国際空港駐機場
駐機場に続々と降り立つシャトルと大型輸送艇。乱雑ながらも整列する煤にまみれたストームトルーパー達。彼等の視線の先には崩れかけた空港施設があった。途端に歓声が上がる。
「帝国万歳!!皇帝陛下万歳!!」「ベイダー卿万歳!!501大隊万歳!!」「偉大なる銀河帝国に栄光あれっ!新秩序主義に悠久の栄光あれ!「神聖不可侵なるパルパティーン皇帝陛下万歳!!卑劣な共和主義者に死を!民主主義に真の終焉を!」
彼等の視線の先にあるのは廃材で組み立てられたポール、あえて廃材で作ったのは彼等自身が勝利したという事への証明と自負の表れでもあった。そして、そこに掲げられた赤地に白と黒の紋章。それはこの銀河において2つの意味があった。ある者にとっては新たな秩序と平和、ある者にとっては支配と圧政、そして自由への簒奪者
この惑星に初めて銀河帝国の国旗が掲げられた瞬間であった。戦いはまだ始まったばかりだ
補足と蛇足的なもの
魔帝と光翼人について
明確に敗北し逃亡したとされる。よって上層部はともかく一般市民はそこまで恐れていない。
光の剣士達
魔帝を滅亡寸前に追い込んだ謎の集団。その正体は一万年前に存在した、旧共和国時代のジェダイ達
魔帝軍残党
後にアニュンリール皇国として再建される。
ミリシアル一世
ミリシアル八世のご先祖様。神聖ミリシアル帝国がどの様なして建国されたか不明なので生い立ちや経歴は完全に筆者の妄想
モデルはシャルル・ドゴールとアーレ・ハイネセン
M1600ルベライト野戦魔導砲
モデル、性能はM3対戦車砲
AT-ST
個人的にはBF2で敵に回すと一番厄介だった相手
現実で言う所、BT戦車か輸送機能を省いたBMPシリーズに近い?
次回からは銀河帝国サイドを主に上げたいと思います。
感想、ご意見待っています。