もしも『水鏡』で飛ばされたのがマシュでなく藤丸立香だったら 作:妖精A
気がついたら、体が勝手に動いていた。
心配と信頼は別物と言われても、必ず無事だと確信していたとしても、やっぱり再会はどうしようもなく嬉しいもので。そんな中でまた彼女と離れ離れになるかも知れない状況に陥れば、別れに対する恐怖が芽生えてしまうのも仕方がないものだったのだと思う。
その恐怖からか、それともただ守りたかっただけなのかは分からないけど、気が付いた時には体は動いていた。動いてしまっていた。
ノリッジで厄災を祓った後、天から降ってきた何かから皆を守ろうとするマシュを、更に庇うように体が跳ねた。
これでマシュも無事だ。
目の前が光に包まれた瞬間、何よりも先にそんな考えが頭に広がっていった。
そうして、ノリッジから藤丸立香は消失……否、女王歴から藤丸立香は消失した。
これは、IFの物語。
もしも、『水鏡』により飛ばされたのが盾の少女ではなく、人類最後のマスターだったらという、存在しないお話だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
潮の香りがする。
「う、くぁ」
波打つ音も。そんな中で、数度身をよじってから、ゆっくりとまぶたを開けた。まだ視界がぼやけているので、瞬きも数回。そうしてやっとピントが合って……俺をのぞき込んでいた妖精と目が合った。
「うわっ!うわー!目を覚ました!目を覚ましたぞ!トネリコー!」
ピンクの被り物をした妖精が、小さな体でぴょんぴょんと跳びはね距離をとりながら大きな声で叫んでいる。こちらを警戒しているのかこっちに近づいてくる様子はないけど、目を外すまいとじっと俺のことを見ていた。
そんな彼女に若干困惑しつつ、みんなは?と辺りを見回してみるが周りには誰も―――何もなかった。あるのは水平線まで続く海、果ての見えない砂浜。ノリッジの街どころか、誰かが作ったような建造物でさえ一つとしてなかった。
「あの……」
「なんだ!お前、人間だよな?体大丈夫か?なんでこんなところで寝てたんだ?」
「え?ああ、人間だよ。こんなところというか、さっきまでノリッジに……あの、ここってどこかわかる?」
「のりっじ?そういう
「あ、ありがとう」
すごい矢継ぎ早にまくし立ててくるので、思わず圧倒されてしまう。どうしよう、と困っていると丁度そんな時、後ろの方から砂浜を歩く音とともに
「トトロット、そんなに一気に話して相手を困らせてはいけませんよ?」
よかった、アルトリアは無事だった、そう安堵して声がした方に顔を向ける。やはりというべきか、目を向けた先にあったのは豪華な服を着て砂浜を歩くアルトリアの姿だった。……だったのだが、なんだか雰囲気が違うような気が
「こんにちは、初めまして。私はトネリコ」
「え?」
思わず声が出てしまった。
「? 何か問題でもありましたか?」
「あっ、いや、なんでも」
見た目は服を変えたアルトリアだけど、近くで見るとより一層雰囲気が違う。本人もアルトリアという名前に少し戸惑っているようだし、もしかして見た目が似てるだけの別人なのかもしれない。
「では、続けますね。先ほど貴方と話していたのがトトロットです。ここは妖精たちの島、ブリテン。貴方の名前を教えてくれますか?ここで会ったのも何かの縁、私たちでよければ力をお貸しします」
「えっと、俺は藤丸立香、です」
それしても、と思わずまじまじと見てしまう。見れば見るほどに、トネリコと名乗った彼女はアルトリアに似ていた。なんとなく雰囲気が違う、といった点以外違いがないほどまでに、似ている。
「こいつな、のりっじって森のやつらしいんだけど、多分この辺にないから迷子だぞ!」
「ノリッジ……なるほど、『合わせ鏡』と同系列の大魔術を察知してきたのですが、正解だったようですね。どこか遠くからの転移に失敗してこんな何もないところにはじき出されてしまった感じでしょうか」
「へー、大変だなー。じゃあ早く送ってやらなきゃ!」
「ええ、そうですね。ですがここで立ったまま話すのもなんですし、とりあえず場所を変えましょうリツカ。あちらの森に私たちのキャンプがあるので、続きはあちらで」