舞踏会に彼岸花は咲く   作:春4号機

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【私の欲望は満たされず、他者はソレを満たすために存在する】

 

 

 

あの日以降、私はあの老女から奪い取った知識を理解することに全力を費やした。

いかに知識が膨大であろうと、それを理解して活用することが出来なければ宝の持ち腐れだ。

言語、算術、医療を含めた多岐に渡る知識を噛み砕いて嚥下するのには、多大なる時間を費やした。

加えて、私にはあの老女が持っていたような理解力はない。

あるのはただ無制限の時間と取捨選択の自由度だけだ。ならば、それを十善に利用しない選択肢はない。

 

そうやって私は、自身の物になった知識の掌握に時間を割いた。

あらゆる人間に成り代わり、少しずつ少しずつ知見を広げ、理解していく悦楽は何とも言い難いものがあった。

 

「神父様」

「……あぁ君か。どうかしたかい?」

 

そして今の私は、とある町で教会の神父という役割に収まっていた。

周囲からの信頼に厚い人物だった彼の人望に価値を見出し、夜中にひっそりと殺害してその地位と人格と人望の全てを拝借した。

実際に彼として行動を開始してからは、実に居心地の良い日々が続いている。なんとも気分が良い。

 

「先程、街の方からまた例の件についての相談がありました。」

「例の件……というと、外れの森に怪物が住み着いたという話のことかな?」

「はい。現状では住人や農作物に被害は出ていないようですが、真偽を確かめないことには不安の解消は難しいようです。」

 

私はこの教会で一番の働き者である少年の言葉に頷きを返すと、自身がどう行動するべきか思考を巡らせた。

正直な話、怪物が住み着いたなどという話は眉唾物だ。噂に尾ヒレがついた程度で、大方住人が動物か何かをそう見間違えただけというのがオチだろう。

そういった間違った認識が広まった場合、解消するのは非常に面倒だということを私は既に理解している。

 

「どうしますか?やはりボクが一度様子を見て来た方が」

「……。」

 

言葉を返さない私の態度をどう解釈したのか、少年はそんな言葉を投げかけてくる。

……私はその言葉で、今の身体情報と共に奪った神父の記憶を呼び起こした。

 

その記憶によれば、この少年には神から与えられた『異端を抑制する』力があるのだという。

……私となったこの人物は、そんな力を持つ少年を庇護するべく教会に住まわせていたようだった。

 

「いいや、何度も言うようにキミにはいずれこの教会を引き継いで貰うことになっている。危ないことは極力させたくはない。」

 

私は記憶にある様に……少年にとっていつもと変わらぬ私であるように、『優しい神父様』を演じて少年に言葉を返した。

 

「神父様……けどボクは」

「安心しなさい。キミが力を使うべきは今ではない。その力は、きっといつか誰かを助けるための力になるはずだ。」

 

……我ながらなんとも怖気の走る薄ら寒い発言だが、少年はそんな戯言に満足したのか嬉しそうに頷いて「わかりました」と返事をした。

私は努めて優しく微笑みながら、そんな少年の頭を軽く撫でた。

 

「あぁ、それから……眠る前にいつも通り祈りは捧げておくように」

「はい!」

 

私は思い出したようにそう付け足して、少年に祭儀用の短剣を渡す。私からそれを受け取った少年は、はにかむ様に笑顔を浮かべたのだった。

 

 

それから数日が経過したある日の夜明け、朝日が昇るよりも早く私は教会を出発した。少年が起きてこないうちに用事を済ませて戻る必要があるため、あまり時間は掛けていられない。

目的は明白で、森に住み着いたという怪物の様子を窺うためだ。

最初は放置しようかとも思ったが、住人たちが連日連夜相談に来るので行動せざるを得なくなった。

まだしばらくはこの街に留まるつもりなので、妙な不信感を持たれるのは都合が悪いのだ。

 

「ここか。……知性のある生き物が住み着くような場所とは思えんが」

 

私は億劫な内面を隠そうともせず、気休め程度に洗礼とやらが施されているらしい外套を身に纏って森の中へ踏み入った。

 

「……。」

 

森に踏み入ってしばらく直進するだけで、周囲はすっかり樹木に覆われてしまう。

時折どこからか野鳥の鳴き声やガサガサと草木が揺れる音が響いて来るが、それ以外は特筆することの無い極普通の‌森林だった。

 

「やはりというべきか、ただの戯言だったな。」

 

私は足を止めて思案すると、これ以上進む意味はどこにもないと判断を下した。

所詮は住民どもの間で蔓延している噂話だ。そんなものにこれ以上向き合ってやる必要はないだろう。

 

「……ぁ」

「!」

 

私が踵を返して来た道を引き返そうとした時、背後の木陰から何者かの声が聞こえたような気がした。

ともすれば草木の揺れる音だけで掻き消えてしまいそうな小さな声を確かに認識した私は、弾かれるようにそちらを振り返った。

 

「コンにチわ……」

 

振り返った先に居たのは、全身に獣のような体毛を纏った二足歩行の何者かだった。既知の生物で最も類似点が多いのは猿だが、この生き物が猿ではないことだけは私でも断言できる。

だらりと伸びた長い腕に、爪は発達して鉤爪のような形状になっている。しかしその爪をどこかに引っ掛けてしまうようなことはなく、極自然に操っている。

顔はどちらかというと人よりも犬に近い形状になっており、姿のその異様さを際立たせている。口元からは犬歯が覗いていて実におっかない。

 

「ぉお……こんにちは」

「はじめテ、へんじモラえタ!」

 

その異様な姿に面食らってしまったため、不安定な発音の言葉に馬鹿正直に挨拶を返してしまった。

というより、コイツ今人間の言葉を話したな?……少なくとも意思の疎通は可能かもしれない。

なにより、ただ返事を返したというだけで嬉し気なリアクションを返すあたり、どうにもコイツはコミュニケーションに飢えているらしい。

 

「少し君のことを教えてもらえないかな?お話をしよう」

「……こッチ」

 

彼……ひとまずは獣人とでも呼称しよう……は、私の言葉に嬉しそうに返事をした後、森林のさらに奥へと進んでいった。……どうやら、付いて来いということらしい。

話だけならば別に移動する必要もないだろうに……私はそう呆れ気味に溜息を吐きながらして、先行した獣人の後を追って森林の更に奥へと進んでいくのだった。

 

「これは……」

「ここダレもコない」

「驚いた、これは流石に予想外だよ」

 

獣人に連れられてやってきた場所には、倒木を組み合わせて作られた粗雑な木の台が数個並んでいた。

その形状と配置と数、さらに獣人がそれの一つに腰かけたことから見て、恐らくこれは家具なのだろう。より厳密に言うのであれば、椅子と机だと分かった。

他者との関りなど無かっただろうに彼は独自にそれらを知り、さらには作って使用している。これは驚くべきことだと思った。

 

「それで……率直に聞くが、キミはいったい何者なんだい?。」

 

私の問いに、獣人はどう答えるべきか悩むような雰囲気を滲ませながらゆっくりと口を開いた。

 

「ごめン、わからナい」

「……わからない?」

 

獣人は申し訳なさそうに頷き、粗雑なテーブルの横に放置されたままの倒木を指先で削りながら独り言のように言葉を続けた。

 

曰く、彼自身自分がどこからここに来たかはわからない。気が付いた時にはあの歪な姿でこの森の中にいたらしい。

彼は自身の感覚を頼りに森を抜け、我々の生活する町の近くまで出向き、そこで初めて人々の営みを目にして感動したのだという。

そして獣染みた姿の割に存外に聡い彼は、この姿の自分が出て行っても人間達の仲間には入れて貰えないだろうことを悟り、まずは最低限必要な知識を収集する選択を取ったようだった。

……なんとも哀れな怪物だと、個人的にはそう思う。いかに人間らしい所作を身に付けようとも、あのような化け物染みた造形をしている時点で、彼が人の輪に加わることなど未来永劫叶わない。

その無駄な努力があまりにも純粋で、同時に滑稽で酷く哀れだと素直に思った。

 

「そうか。人外の存在と実際に会うのは初めてだけれど、キミが人に対して害意を持っていないことは理解したよ。」

「アりがトウ。やっぱリ、アナタもおんなじだッタネ」

「ん?……同じとは?」

「ほかトちがウってこト」

 

……この瞬間、私は眼前の生き物に対する油断を完全に捨て去った。

そして同時に、やはり無知とは時に破滅的なまでの罪だと、私は改めてそう確信する。

 

「違うとは、どういう意味だい?」

「ほかのヒトは、においヒトツだケど、アナタはいろんナのまじってル。ヒトも、ヒトいがいモ、たくさン」

「混じっている、か。詳しく教えてもらっても良いかな」

「んっと」

 

彼は言葉を懸命に繋ぎ合せて、私にも分かりやすく自分の感じたことを伝えてきた。

 

彼が言うには、人間にはそれぞれに特有の匂いがあり、それは個人個人で全くの別物であるらしい。

彼はその匂いや彼が持つ鋭い感覚で、モノの良し悪しを判別することが出来ているのだという。

そして、彼が私に対して言った『混じっている』というのは……まぁ言葉通りの意味に捉えて差支えない。……私はこれまで多くの人間の情報を奪い、自分のモノにしてきた。その行為は確かに自身と他人を混ぜ合わせることと同義なのだろう。

恐らくあまりにも多くのモノが混ざった結果、彼の感覚でも私の良し悪しを判別することが出来ないのだろう。

 

彼の要領を得ない拙い説明を半ば聞き流しつつ、私は内心でそう結論付けた。

……これならば、まぁ……やりようはある。それになにより、その鋭敏な感覚は是非とも手中に収めておきたい。

 

しかし、その思惑とは別に1つだけ気になることがあった。

 

「私の中に人以外の何かがあると……キミは先程言ったね?」

「?、うン」

「キミから見て、ソレはどういうものだと思う?」

 

私の問いかけに彼は頭を悩ませるようにしばらく呻いてから、徐に立ち上がってその辺に転がっている倒木を掴み上げた。

彼は掴み上げた倒木を不揃いな木片に砕いて、台の上に並べていく。そして最後に、彼は自らの爪の先を1枚欠けさせて、先程並べた木片と共に並べた。

それらを並べ終えた獣人は、とても得意げな顔で私を見ていた。

 

「こうイウこと」

「……すまない。正直言って意味が解らない。」

 

私にはただ適当に並べられた木片の中に、1枚だけ爪の欠片が混じっているようにしか見えない。

これで何をどう理解しろというのか、心底から意味が分からなかった。

 

「これ、もとはゼンブいっしょ。」

「……ん?爪もかい?」

「ソレ!それ!」

 

いや、どれだよ。……と、口を突いて出そうになったのを私は寸でのところで飲み込んだ。

元は全部一緒などと言われたところで木片は木片、爪は爪だ。

決してイコールにはならないし、ハイそうですかと鵜呑みにすることは難しい。

木片や爪の欠片に加工する工程のどこかで何らかの異常な変化でも起きない限り、二つは材質からして全くの別物なのだ。コレを元は同じものだと主張することこそ、そもそも頭がどうかして……いや待て。

 

「まさか……どこかで偶然急激な変化が起こったから……?突然変異のようなものだとでも?」

「そう、いろいロまじってル」

 

獣人はそう言いながら台に並べた木片と爪の欠片をぐしゃりと一纏めにして押し潰した。

そして、何を思ったのか圧縮されたように物理的に小さく纏まったソレを口元に運んで、当たり前のように飲み込んだ。

その瞬間、さきほど彼が自分で欠けさせた爪の欠損部分が綺麗に治っていた。

……なるほど、混じっている。率直にそう思った。

 

「ありがとう、よく分かったよ。今日のところは、私は帰らせてもらうね。」

「ん」

 

私は努めて温厚に、誰にでも受け入れられる優しい神父様の仮面を被り続けたまま、獣人のテリトリーを脱出した。

 

 

……さて、あれだけの強力な再生力を持っているのだ。加減して殺せる相手ではない。

そうと決まれば準備をしよう。

私はさまざまな方法での殺害をを頭の中で試しながら、どれが一番効果的かをじっくりと考察する。

そうして考えが粗方まとまった時、私はちょうど教会に帰り着いた。

 

「あ!おかえりなさい神父様!」

「おや、起きてたんだね。すぐに朝食の準備をしよう」

「大丈夫です!代わりにボクがやっておきましたから!」

 

私は得意気に胸を張る少年の頭を優しく撫でながら、今日から数日にわたる自分の行動予定を確定させた。

 

 

 

「神父様!」

 

数日後の新月の夜、慌ただしく教会の扉を叩く来客の訪問からソレは始まった。

 

「おや、どうしました?そんな血相を変えて」

「た、大変なんです!!」

「……ふむ、まずは落ち着いて。何があったか」

「放火です!放火!誰かが例の森林に火を!このままでは燃え移って被害が」

「!、事情はわかりました。貴方は自警団に連絡を。それから万が一もあり得ます。住人の方々に避難を呼び掛けてください!私も別方向から呼びかけて回ります」

「わ、わかりました!」

 

私は思惑通りの展開に、内心気分が良かった。

この町の住人からの教会関係者への信頼は厚い。故に火事のような大ごとが起きれば真っ先に連絡が来ると踏んでいたが、予想通りだった。

 

言うまでもないことではあるが、今日このタイミングで森林火災が起きるように仕組んだのは私だ。

爪の先とはいえ身体の欠損を数秒で治すような怪物を相手に、正攻法で挑んで殺しきれるわけがない。

この手の手段は未だに試したことはないので賭けになってしまうが、自身の命と天秤にかけるくらいならば私は安全に殺せる方法を選ぶ。

そうして選択した殺害方法が森林火災であり、そのために住人たちの行動を誘導したのだ。

今のところは予定通り。後はこの火事で獣人が死に、その死に条件が適応されれば首尾よくあの獣人の力は私のモノになる。

 

「神父様……?なにかあったのですか?」

 

ふと、後ろから声を掛けられた。振り返ると、恐る恐るこちらを覗き見る少年の姿があった。

 

「……。火事だそうです。恐らくここまで火の手は回らないとは思いますが、キミもほかの方と一緒に避難しなさい。避難所の場所は解りますね?」

「はい……あの、神父様は?」

「私は務めを果たさねばなりません。……キミは安心して避難していなさい。」

 

それだけを端的に伝えてから、私は弾む心に突き動かされるようにして教会の外に出た。

漆黒の空に赤々とした火の色が滲んでいる。それが酷く美しく感じた。

 

「状況はどうなっています?」

「神父様!ダメです!火の勢いが強すぎます!」

 

声を張り上げながら火を消そうと奔走する人々を眺めながら、私はそれなりに状況を把握した。

火が消えそうにない?大変結構。是非にそのまま燃え続けてくれ。

私はそんな内心を隠しながら、自警団の団長と次の対策を協議しようと向かい合った。

 

その声が響いたのはそんな時だった。

 

「ギィイアアアアアア!」

「なんだ!?」

「わからん!何か出てくるぞ!」

 

まさに奇声と形容するに相応しい絶叫を辺りに響かせながら、彼は歪な身体を懸命に動かして森林から飛び出してきた。

それは体毛の影響で身体を炎に巻かれ、森林を抜け出した今もなお身体を焼かれ続けている。そうして身体に着いた火を消そうと必死にのたうち回る哀れな生き物こそ、私が今日殺そうと決めていた獣人だった。

 

「な、なんだコイツ!」

「に、人間じゃない、化け物だ!」

 

しかし驚いた。これだけ周囲を火に巻かれても生きているとは。

 

「ぅ……ぅぅぅ……ぁ」

 

私は未だ死にきれずに足掻き続ける哀れな生き物に近づき、全身焼け爛れたソレを見下ろした。

 

「久しぶりだね、苦しいかい?」

「う……あ」

 

獣人は一瞬何かに気が付いたようにこちらを見上げ、そして何かを言おうとした。

……火の中で叫んだだけでなく、煙も吸い込んでいるのだろう。当然喉は潰れて使い物にならないのだから、言葉なんて発せるわけもないのだけれど。

 

「大丈夫、怖くないよ?痛いのは一瞬さ。キミも仲間に入れてあげよう。だから、私達と一緒に行こうか」

「ヴゥゥ……」

「し、神父様?何を……」

 

私は周囲の困惑を無視して、獣のような低い唸り声をあげる獣人に短剣を突き立てる。

それは教会に住んでいる少年が、毎朝忘れることなく祈りを捧げている祭儀用の短剣だった。

そうして獣人は、思いの外呆気なく苦悶の声すら上げずに絶命した。

……なるほど、あの少年の『異端を抑制する』という力は本物らしい。と、私はなんともズレた感想を今更のように抱いたのだった。

 

「貴方はいったい何をしているのですか!?」

 

あぁ、それにしても煩わしい。

どの道今夜には町を出る予定だったが、こうまで騒ぎ立てられるとうっかり手を滑らせてしまいそうだ。

私は周囲に群がる自警団の連中を無視し、今確実に自らの手で命を奪った獣人に意識を集中した。

 

 

奪うものは彼の人並み外れた感覚だけで良い。あの身体と並外れた頑丈さにも興味あるが、だからと言ってあそこまで歪な体になるのは御免被る。

私は奪い去るモノを明確に定め、いつも通りに力を行使した。既に数えるのすら馬鹿らしくなるほどに繰り返した行為、慣れたものだ。

私は首尾良く獣人から欲しい物を貰い受け、未だに喚き散らす有象無象に向き直った。

 

「先程から聞いていれば……私は我々の教義に正しく従い、人に仇為す異端を排したまでの事です。」

「で、ですが」

 

……知っている。町の住民達の習性からして、彼らが教会に強く出られないことを私は既に知っている。

 

「そもそも、この怪物については町の方々からも度重なる相談がありました。……これ以上、何か説明の必要が?」

「もしや、これが噂の……?」

 

そう、これが噂の怪物だ。

人畜無害を通り越して、人の輪に加わろうと密かに努力をしていた哀れで愚かな怪物だ。

なんとも悲劇的な展開もあったものだと心底から他人事のように思う。

 

相手が件の怪物だったと知るや否や、周囲の態度は一気に軟化した。

剰えこちらに対して非礼を謝罪をし、火災への対応を進めようと提案してきた。

私としてもそれは望むところだ。たかが数ヶ月とは言え、滞在した場所が地図から消えたとあっては後味が悪い。

……無論必要であれば消えてもらうが、生憎と私は必要もないのにそこまでの非道を働くような人でなしではないのだ。

 

「グッ!?」

「神父様?……え?」

 

そんなことを考えていた私は、突如として自身の身体を襲った激痛に思わず蹲った。

私は痛みの元である自身の一部を見て愕然とした。

そうして火の光に照らされて目に映ったのは……獣のような体毛に覆われつつある両腕と、鋭く鋭利に変貌した獣のような爪。そして、まるで火傷のように焼け爛れた私自身の掌だった。

 

 

そんな馬鹿な!私はアレの感覚しか奪ってはいない!それになんだ!この尋常ではない痛みは!

 

 

そんなことを考えるも、思考ばかりで声にはならず……私は手に持っていた祭儀用の短剣を含む身に纏った神父としての全てをかなぐり捨てて、その場からの逃走を開始した。

 

後にして思うと、私の誤算は二つだった。

一つ、ただ感覚が混じったというだけで私の存在が塗りつぶされそうになるほど、あの獣人の存在としての格が違っていたこと。

一つ、教会に住まわせていた少年の力だけで、私の全てを弾圧し罰することが出来るなどと思ってもいなかったこと。

 

その二つの要因によって、私は自身が知覚する限り初めての敗走を喫することになった。

それから私は数十年に渡って取り込んだ獣人の力を掌握し、十善に扱うための術を探し求めることになった。

 

 

 

……そうして長い時を掛けた放浪と研鑽の末、私はあの街に……『霧の都』へと流れ着いたのだった。

 

 

【私の欲望は満たされず、他者はソレを満たすために存在する】

 

 

 





獣人について
名前:なし
備考:完全に人間とは別の存在
概要:
異能をもつ人間とは違い、完全に人間外の怪物。
何度か観察して人間の暮らしに憧れるようになった。
異常に鋭敏な感覚と、頑丈な身体を持っていた。
※獣人のセリフが読みづらいのは仕様です。
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