海底軍艦南進す~Atoragon 2013~   作:わいえす!

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プロローグ~2013~

2013年 7月

呉に近い瀬戸内海

 

呉という名前は周囲が九つの峰、九嶺(きゅうれい)に囲まれていることに由来するという。黒いセイルに立ち見張りに立つ初老の男は、自らの四方を囲む山々を見渡ししながら狭いな、と呟いた。

「ここは潮流も速いですし、内航船も多い。」

早く外海へ出たいものです、と苦笑気味に言う航海長兼任の副長の言葉に、彼は内心に違和感を感じながらそうだな、と静かに答えた。

その時、大きな警笛が周囲に鳴り響く。自分達の船ではないとすぐに判断した彼等は周囲を見渡し、その音の源を見つけた。

 

練習艦“やましろ”

かつての戦艦を改修し、主砲の殆どを撤去しそのかわりにミサイル発射機と講堂が取り付けられたその船は、5年おきの定期修理を終え今の“母港”たる江田島へ向かってるようだった。艦齢100年を目前に控え、自走の出来なくなった“やましろ”がタグボートに曳航される姿を見て、彼――神宮寺史郎――はふと先程感じた違和感の正体に気づく。(オカ)と異なり、海に自らを縛るものはなく自由に行きたい所へ行ける。特に海の中ならなおさら…

「…そうだな。ここは狭いな。」

そう言って神宮寺は自身の目を“轟天号”艦長のそれへと変えて辺りを見渡す。

全長150m、水中排水量1万トン以上の巨大な船体はゆっくりと太平洋へ向かっていった…… 

 

 

 

神奈川県、観音埼

 

今日も鬱陶しい暑さだな…

乗ってきたワゴン車のドアを開けた瞬間、少女は思わず顔をしかめた。観音埼は東京湾の出入口である三浦半島に位置し、観光地としても有名な場所である。今日は平日であった為か人は疎らであるが、少女にとっては好都合であった。

少女は額から噴き出る汗をハンカチで拭うと、意を決して外へ出る。そもそも海が見たい、出来れば外海が見れる所が良いとワガママを言ったのは私なのだ。ここで出なくてどうする。照りつける太陽の光を一身に浴びながら彼女はそう思った。

海岸に面したその駐車場を柵のギリギリまで進むと一面の海が眼前に拡がる。正確には海だけでなく行き交う船や反対に位置する房総半島が見えているのだが、少女にとってはこれで十分だった。

少女は目を瞑ると鼻で大きく空気を吸う。潮風の匂いが鼻腔をくすぐり、胸の内が少し温かくなるのを感じた。お母様もこんな感じだったのかな、と少女は思いを馳せる。少女は母を周囲による伝聞の中でしか知らなかった。母は海に生き、海で育ち、海で死んだ人という。

だからこそ、彼女にとって海は母を感じられる唯一の場所であった。海が見られる機会はこれで最後かもしれないと考えると、その思いもひとしおであった。

(お母様、私は立派に使命を果たして見せます。)

そう思った刹那、遠雷のような音がいくつも周囲に鳴り響く。少女はその小さな肩をビクリと震わせ、辺りを見渡す。音の正体は北の方から聞こえてくるようだった。ふと、少女は“家来”から聞いた言葉を思い出す。この辺りには礼砲台と言うのがあって、そこでは度々空砲を撃つことがあるという。少女が海の方を顧みると、灰色とも白とも言えぬ船が湾内に入っていくのが見えた。マストの上部にある球状のレーダーがクルクルと回る姿は明らかに軍艦のそれであった。今回の礼砲の相手はアレだろう。

地上人め、無粋な真似を…

少女の口が静かに動く。先程までの口調とは打って変わって、目もいっそう冷たく軍艦を睨みつける。

 

「王女様、そろそろ…」

背後で控えていた男が言葉を掛ける。ここまでのドライバーも行っていた男だが、少女は彼の名前を知らず、その必要も無いと感じていた。

「分かった。もう行く。」

少女――ムー帝国王女、アネット=ムー=アブトゥーは短く言葉を返すと、氷のように冷たい瞳でワゴン車へ戻っていった……

 

 

 

神奈川県、横須賀市

 

「…えー、生徒諸君は知らないでしょうが、ちょうど今から50年前、我が国やアメリカに、ムー帝国と名乗る輩が戦争を仕掛け…」

 

夏も真っ盛りな中、窓が全開に開かれ業務用扇風機が首を回す中、高校の体育館に校長の話だけが流れる。何度聞いてもマウント取りにしか聞こえない演説を聴く生徒達の中に神宮寺八広はいた。風は全く入ってこないのに反比例するかのようにマウント取りだけは八広達にしっかりと耳に入ってきた。

前の始業式は何故自分がバブル崩壊を乗り越えたかだったか…ん?よくよく考えてみればムー帝国との戦いの時点では校長は子供の年齢でなかったか?だったら、何故あそこまで冷線砲が必要だったかを語っているんだ?頼むから冷線砲よりもクーラーを付けて欲しい。そろそろ熱中症で誰か倒れるのではないか…

そんなどうでも良い考えだけがグルグルと回る。周りを見渡しても、誰も彼もがウンザリと言うか半ば諦めたような表情をしている。教師陣も教師陣で式後のホームルームで校長の言葉を弄って笑いをとるのが恒例な辺り、苦痛なのは皆同じらしい。

 

そんなこんなでホームルームも無事に終え、帰宅の途に就く少年に後ろから声をかけられる。

「よっ未来の轟天号艦長。」

「…茶化さないで下さいよ。神宮寺先輩。」

八広の抗議に、つれないなーの一言で受け流す彼女は神宮寺麻里、現在高校2年生の八広の1つ先輩で親戚に当たる。家系的には八広の家が本家なのだが、彼が高校進学を期に家を出ようとした所、その彼を預かったのが真里の家であった。

実の所、八広は自分の家、そして神宮寺八広という名前も好きではなかった。神宮寺と言えばムー帝国との戦いでの英雄、ある種“軍神”として扱われていた。その為か歴史やら軍事を囓った同級生から度々話を聞かれたものだった。幸いにして、歴史の教科書や資料集に顔が出なかったお陰で知ってるのはそこまで多くないのだが…

いずれにせよ、八広にしてみれば家の名前が鎖となってるのは間違いなく、そこから早く解放されたいというのが思春期真っ盛りだった彼の願望であった。最も、外へ出てもそれが大して変わらなかったのは彼の最大の誤算だったのだが…

「…で、八広君は今日アルバイト?」

高校生になっても周囲が変わることは無かったが、八広は高校生となってからコンビニでアルバイトを始めていた。世話になっている麻里達に恩返し半分、自分が将来自立するための積み立て半分と言った具合だった。麻里には真面目ねと笑われたが、八広にしてみれば彼なりの社会への小さな反抗でもあったのだ。

「うん。麻里さんはいつも通り?」

その麻里へ言葉を返すと、マネージャーねと彼女は付け加えた後、ハッとした顔になる。

「いけない、大会の準備があるんだった。じゃあ後よろしく!」

そう言い残して駆けていく彼女を見て、八広は大学受験は大丈夫なのだろうかと一瞬不安になった。少なくとも勉学はトップクラスで、推薦入試でも問題ないと言われるレベルなのだが…

 

 

八広のバイト先は移動費と時間を節約するために最寄り駅近くの通学路にある。駅の階段を降りた彼はシフト表を確認する。

「今日は天野チーフか…」

相方の名前を確認して、八広は内心ガッツポーズをする。バイト先のコンビニでチーフを務める天野は気さくな人柄で話しやすく、八広としても組みやすい相手だった。

その時、八広は何者かの視線を感じ足を止める。思わず辺りを見渡したが、それらしい人物は見えない。気のせいかと視線を戻した時、八広の目は“それ”に奪われた。

(赤い…髪…)

身長は160㎝くらいであろうか、女子としては平均的な身長に、人形を思わせる幼さのまだ残る端整な顔立ち、そして燃えるような赤い髪。そんな少女が道路を挟んだ歩道に立ち、八広を見つめていたのだ。しかし、その目は氷のように冷たく、まるで八広を敵視するかのようであった。

その対峙はどれ程続いたであろうか、八広が声をかけようとした瞬間にトラックに間を塞がれ、それが居なくなった後には彼女の姿は消え、周囲に赤い髪をした少女の姿は見えなくなっていた。

「何だったんだ今の…」

何とも言えない感情を抱きつつ、天野への土産話にするかと考える八広であった……




今回登場した架空艦

ふそう型練習艦(TVG)

1番艦/ふそう(TVG-3701)
2番艦/やましろ(TVG-3702)

スペック(ミサイル艦改装後)

全長:212.75m
全幅:33.64m
速力:25ノット
武装:四一式35.6㎝連装砲×2基
Mk.33 3インチ(7.62㎝)連装高角砲×2基(艦橋基部)
Mk 1 Mod.1 テリアミサイル(RIM-2E)発射機×1基(旧5番砲塔、砲術訓練艦ミシシッピ搭載機を改修したもの)
Mk 11 ターターミサイル(RIM-24A)発射機×1基(旧6番砲塔)

レーダー:AN/SPS-12 対空捜索用(艦橋頂点)
AN/SPS-8B 高角測定用(後部マスト)
AN/SPG-55 テリア管制用×1基(後部マストよりの艦後部)
AN/SPG-51 ターター管制用×1基(旧5番砲塔よりの艦後部)
OPS-5 対水上用(艦橋上部)

射撃指揮装置:九四式射撃指揮装置 35.6㎝砲用
Mk.76 テリア用
Mk.74 ターター用
Mk.63 3インチ砲用

電子戦装備:AN/BLR-1 電波探知装置(後部マスト)

日本海軍が建造した扶桑型戦艦を海上防衛隊(海上自衛隊相当)が引き継いだもの。
マリアナ海戦後に発生したゴジラ襲来により1944年で日本が降伏。結果として多くの戦艦や巡洋艦が残された。この中でも一際旧式な扶桑型は解体か標的艦のいずれかであったが、降伏直後に起こった日本の南北分裂とそれに伴う戦争で急きょ現役に復帰。戦争終結まで生き延びた2隻は数年以内に退役となるはずであったが、北日本のカミカゼ対策として艦対空ミサイルの導入が決定すると、早期の戦力化と艦隊スケジュールの維持を両立するためとして同型を装備艦とする事になった。
5年近く行われた改修の結果、テリアミサイルとターターミサイルという2種類の艦対空ミサイルが運用可能になった。一方で、空母機動部隊に追随出来ない足の遅さが問題視され、実験艦若しくは次代を担う人材を育成するための練習艦としての活動が主になった。
独特な艦歴を持つ扶桑型であったが、艦の老朽化にはかなわず1960年代後半には退役し、その後は記念艦及び訓練施設として余生を送っている。



何かしらに使おうと思って設定だけ詰めた扶桑型改装ifです。伊勢型はそのままヘリ母艦とかが良いのかなと思ったり
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