海底軍艦南進す~Atoragon 2013~ 作:わいえす!
始まりは3年前。太平洋を航行していた船舶の相次ぐ遭難であった。米ソがそれぞれ互いを非難する中、「ムー帝国」を名乗る武装集団が反抗を主張し地上国家への無差別攻撃を宣言した。宣言後、被害は爆発的に増加し、沿岸地域にも拡がった。これを受けて太平洋を挟む超大国である米ソは連携してムー帝国と戦うことを宣言。太平洋戦争以来の大部隊が投入されての反攻作戦が始まった。
ムー帝国はこれに黙ってはおらず、報復として世界の主要都市への大規模攻撃を予告。その標的の中にあったのはかつての首都、東京であった。
予告を受け、日本政府は東京防衛の為に陸上防衛隊1個師団、航空防衛隊1個航空団、そして海上防衛隊から空母2隻を軸とする1個機動艦隊の展開が決定した。しかし、陸海空に何重にも設けられた防御は予想外の形で破られる事になった。
『警らより本部…丸の内付近にて大規模な陥没……害は不明。至急……を求む。』
『……より司令部。展開してた部隊……絡が不能。……は不明。』
東京各地の警察、防衛隊、米軍の無線が入り乱れる。その混乱は彼らに何が起こったのか理解できなかった事を如実に現していた。
ムー帝国による予告から数日、陸海空からの攻撃に備えた防衛隊であったが、東京の経済拠点でもあった丸の内を中心とする半径300mが突如として陥没。その直上にいた陸上防衛隊の1個中隊はビルと共にその巨大な穴へと消えていった。
太平洋上 神奈川県沿岸から約100km
海から来るであろうムー帝国の攻撃を警戒していた海上防衛隊であったが、丸の内が壊滅したことを察知したのは皮肉にも1番最後であった。機動部隊の中核である2隻の空母、“しなの”と“かつらぎ”は偵察機を急きょ発艦させ、次に離陸させる機体が飛行甲板に並べられていた。
旧海軍からその“遺産”である艦艇群や航空機を引き継いだ海上防衛隊であったが、その艦載機が大型化高速化をしていくにつれて艦の限界に直面した。新たな空母の建造が難しい中で、海上防衛隊は既存の空母に斜め式飛行甲板を設けるアングルドデッキ化やジェット機を打ち出せるカタパルトの装備を行う事にした。
その決定受けて、かつての“信濃”、“葛城”としての就役時とは大きく異なる外見を持つに至った。
『内陸より本艦に近接するボギー(所属不明機)を探知。邀撃機は直ちに発艦されたし。』
その“しなの”の艦内にスクランブル(緊急発進)のアラームが鳴り響くと共に艦橋からパイロット達が飛び出してくる。彼等は飛び乗るように主力艦上戦闘機、“F3H デーモン”のコックピットに入ってエンジン始動を始める。まもなく、その心臓部であるJ71エンジンが高い吸気音と共に回転を始める。飛行が可能になった“F3H”は2基ある蒸気カタパルトから発艦する。
“F3H”は1960年代における海上防衛隊の主要な艦上戦闘機である。
連合国指揮下に入った後も旧海軍機を使っていた海上防衛隊であったが、1948年でのゴジラとの戦いにおいて航空戦力の殆どを喪失。戦力を再編すると共に米海軍式の装備と訓練を受けることになった。その為、以降の海上防衛隊はその装備の多くを米海軍に倣うことになり、“F3H”もその1つであった。
発艦していった“F3H”は2機編隊を組み、不明機の元へ向かっていく。
「こちらは海上防衛隊。貴機は警戒エリアに接近中である。直ちに進路を変針せよ。」
日本語と英語で不明機に警告を送る。だが、それへの応答は無く接近を続ける。パイロットが敵と判断して
『多数の不明機が本艦隊に接近中。方位120。高度10,000。速力250ノット。』
焦燥を帯びたその声に、パイロットは背筋が凍り付きそれが“ピクシー”だと確信する。
ピクシー、ムー帝国が使う滑空爆弾に付けられたあだ名であった。白い見た目に大きな翼を持ち、2、3m程度の大きさながら1発で大型輸送船を沈める強力な炸薬を有している。
速力は遅くとも当たれば、元が戦艦“しなの”と言えども大損害は免れない。左に大きく旋回し指示された方位に機首を向けたパイロットが見たのは、護衛を務めるミサイル巡洋艦やミサイル駆逐艦から放たれたらしい幾条ものミサイルのブースター煙、そしてそれを遙かに超える“ピクシー”の白く光る姿であった。
“F3H”は逃れようとする“ピクシー”を海上スレスレまで追い込むと、機首下面にあるMk12機関砲を放つ。4門からからなる20mm機関砲は、“ピクシー”を瞬く間にバラバラのスクラップへ変えて海へ叩き付ける。
守る彼らにとって幸運だったのは、攻撃を避けるなどして“ピクシー”が個々で動く為に、各個撃破が出来た事であった。しかし、主翼に4発あったスパローAAMは既に撃ちきり、Mk12も弾切れ寸前であった。おおよそ迎撃に上がった僚機もほぼ同じ状態であり、戦闘機による防空は限界に来ていた。
遂に防空網を突破した数機の“ピクシー”がもう一隻の空母である“かつらぎ”へ向かう。接近を察知した“かつらぎ”は随伴艦の対空射撃の援護を受けながら、自衛用の3インチ(76mm)連装速射砲放ちつつ回避運動を取る。1分間に一門あたり45発を放つ3インチ砲は1機また1機と“ピクシー”を落としていく。しかし、その弾幕を潜り抜けた1機が“かつらぎ”へ肉迫する。3インチ砲も射撃を続けるが、“ピクシー”を撃墜するには余りにも近すぎた。
“ピクシー”は“かつらぎ”の左舷艦首部に命中し巨大な爆炎を上げる。その爆発の膨大なエネルギーは右舷へ突き抜け、装甲板に守られていた飛行甲板もジェット機を打ち上げるカタパルトごとめくり上げた。致命的な被害受けた艦首部は海水が流入し始める。日頃からのダメージコントロールによって艦全体に被害が拡大解釈する事態は避けられたが、艦首はその負担に堪えきれずに切断されて漂流を始めた。
艦首を失った“かつらぎ”が速力を落として落伍した後、次の標的となったのは“しなの”であった。“かつらぎ”の時を上回る十数機の編隊で接近する“ピクシー”であったが、これを追撃する機体があった。スパローを撃ち尽くし機関砲の残弾も殆ど無い“F3H”である。“かつらぎ”の惨状は上空で戦っていた“F3H”からも見えていた。それ故に母艦を失う事を現実に感じたのであった。同士討ちされるのを覚悟で随伴艦から撃ち込まれる高角砲の雨を潜り抜け、“ピクシー”を撃墜していく。しかし、それでも全てを撃ち落とし切れず、数機が“しなの”へ突入していく。
もう間に合わない、そうパイロットが体当たりを覚悟した時、突如目の前の“ピクシー”達が水柱と共に砕けるのが見えた。スローモーションのように白い機体が海面に飲まれていく姿を見た後、直後に見えたのは“しなの”の巨大な船体であった。慌てて機首を上げて衝突を回避する。“F3H”は飛行甲板スレスレを越え、そのまま上昇する。帰ったら大目玉だな、とチラリと考えた後パイロットは周囲を見渡す。あの“ピクシー”達を蹴散らした物の正体を知りたかったからだ。
海上にそれらしい姿がない事を認識した彼が何気なく上空を見た瞬間、自身の目を疑った。赤く巨大な物体が宙に浮いていたのだ。全長は150m程であろうか、かつての飛行船のようにも見えるがそれにしては全体が硬質に過ぎる。パイロットが思案していると先端がドリルのように鋭くなっていることに気づき、それが南方で極秘に建造されたと言う轟天号であると理解した。よく観察をすると、赤い部分は下半分のみであり上は黒っぽい灰色で、“艦”の上部には潜水艦のセイルらしい部分と砲塔らしい構造物がセイルを挟むように前後に2基ずつ並ぶ。“ピクシー”を落としたのはあの砲塔らしき物だったのであろう。1基辺り3本ある砲身が白煙から上げているのが見てとれた。そしてその後部には
潜水艦や水上艦、そして飛行機の特徴が混ぜ合わさった異質なシルエットを持つ“轟天号”は、眼下の艦隊を一周するかのように大きく旋回し、その鋭い艦首を広い太平洋に向けた……
本編で書ききれませんでしたが、第1機動部隊は
“しなの”:旗艦兼防空役
“かつらぎ”:対潜役
SAM装備の旧海軍艦艇群:3~4隻?
対潜装備の護衛艦的な艦艇:4隻?
で構成されていた設定です。ちなみに、SAM装備艦はボストン級ミサイル巡洋艦みたいに艦尾に発射機があるイメージ。何故こう言う部分を詰めたがるのか…