海底軍艦南進す~Atoragon 2013~   作:わいえす!

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今回からは本編となります。ちなみにですが舞台は逸見の辺りがイメージです。


2013/07/19 Part1

22:05 神奈川県横須賀市

 

夏の星空の下、閑静な住宅地を1人の少年は走っていた。

人生にはモテ期なる物が3回はあるという。周囲の異性(同性もか?)から声を掛けられ恋愛に発展する……と言う展開を大なり小なり期待するのは普通の事だろうと少年――神宮寺八広は思う。しかし、今起こってる出来事は何であろうかと記憶を辿る。

 

アルバイトであるコンビニのシフトが終わり、引き継ぎと同じ時間で働いていたチーフに別れを告げ家へ帰る途中、1人の少女から声を掛けられた。160㎝ほどの身長に、人形を思わせる幼さのまだ残る端整な顔立ち、そして燃えるような赤い髪。10人が見れば10人が美少女と言うであろう少女から「貴女、神宮寺?」と声を掛けられば怪しむよりも嬉しさが勝るのはきっと間違ってない。しかし、若干上ずった声でハイと答えた神宮寺に向けられたのは、言葉でなく刃渡り15㎝近いコンバットナイフであった。

 

「死ね!神宮寺!」

八広に追いついたのか、背後で少女の殺意のこもった叫びが聞こえる。赤い髪の少女がナイフを向けてくる。僅かに期待した恋愛はとうに霧散し、ホラー映画にて殺される被害者Aの気分を味わいながら、八広は市街地を駆け抜けて小高い山の方へ逃げる。助けが来る可能性は低くなるが、アップダウンが激しい山道なら振り切れるかもしれない、そう八広は考えていた。しかし、現実はそう甘くはなかった。

「やっべ…!」

八広は目の前が崖である事に気づき足を止める。慌てて引き返そうと振り返った瞬間、首元にコンバットナイフが突きつけられる。

「これで最期だ、神宮寺。私に殺されるか、このまま落ちて自決するか、どちらかを選ばせてやる。」

息1つ乱れていない少女を見て、自分の認識が甘かった事を痛感する。長距離を走った反動か、それとも自分が確実に死ぬ事を悟ったからか、下が道路である崖を背に八広の体から力が抜けその場にへたり込む。月を背景に冷たい目をした赤い髪の少女がナイフを振りかざす。これが最期の光景か…と八広が全てを諦めかけた時、

 

「神宮寺!そのまま動くなよ!」

「!?」

少女の向こう側から聞き馴染んだ声が聞こえ、八広はそちらへ視線を向ける。少女も予想外だったのか、振りかぶった姿勢を僅かに崩し、八広に向けていた視線を自身の背後に向けた。

その次の瞬間、風切り音と共に少女の姿勢が崩れ、八広へ崩れ落ちてくる。余りに予想外の出来事に、八広は少女を受け止めきれずに地面に倒れ込む。失神したらしい少女の体温を直に感じながら、声の主へ尋ねる。

「あ、天野チーフ、これは一体…?」

「色々と訳ありでね。」

少女の手からこぼれ落ちたナイフを蹴飛ばし、声の主――バイト先のチーフである筈の天野義三――は短く答えた。PDWと言うのであったか、天野は拳銃とサブマシンガンの中間位の銃を少女に向け続ける。

普通に生活ならまずあり得ない光景が八広の周囲に展開する。しかし、これは彼らにとって長い夜の始まりに過ぎなかった……


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