海底軍艦南進す~Atoragon 2013~ 作:わいえす!
22:15 小笠原諸島から南西に50kmの洋上
星空の下、太平洋の一部であるここは民間船の航路として大小様々な船舶が行き交っていた。その中に自動車運搬船“でんこう”もあった。全長180m、全幅30mの大きさを持ち、車両数千台を1度に運べるその船は、航海の目的地である横浜港へ北上をしていた。
「船長。こちらへ来て下さい。」
その船橋にて、船長が見張りをしていた航海士に呼ばれる。一般の民間船は20人前後の少数で運用される。しかも、航海の間は24時間常に監視などをしなければならず、現在も入港直前の為に船長がいる以外は2、3人しか船橋にいなかった。
船長が窓際へ向かうと、“でんこう”の前方約2㎞で円形に輝く“何か”が見えた。
「…アレは?」
「分かりません。急に現れて…」
船長の問いに航海士が答える。航路を示すために発光する
「マーチスに航路上に漂流物があると通報。進路変更の要請も出せ。」
「機雷か!?」
船橋の乗員が咄嗟に両腕を前に掲げてフラッシュのような激しい光を防ぐ中、戦時下の中東での経験もあった船長は自らの経験に基づく仮説を立てたが、それらとは異なることも自身で理解できた。
「船長!何かが飛んでいきます!」
乗員がそう叫ぶ。見ると、先程まで妖しく輝いていた光は消え、変わりにそこから鳥のような白い物体が複数飛び出していく姿があった。鳥のような物体は音もなく飛行し、そのまま東京の方へと姿を消していった。
「一体何が起こってるんだ…」
先程までの光景が嘘のように、再び暗く静かになった海面を見て船長が呟く。その直後、水平線の向こう側で激しく点滅する光が見えた。恐らく、そこでも今目の前で見た光景が起こっているのであろう。彼らの理解を超えた状況が繰り広げられる中、“でんこう”の船体は淡々と港へ向かっていた……
1分後
「
「領空侵犯の恐れありと判断。
太平洋から現れた飛行物体は、東京近郊の防空を担う航空防衛隊のレーダーサイトにも捕捉された。その情報はADIZ(防空識別圏)に侵入した不明機として、空の監視情報を一元的に管理する防空指揮所(DC)に伝えられ、すぐさま
「こちらスラッガー01。当該機を視認。機種は“ピクシー”UAV。これより対領空侵犯措置を実施する。」
アンノウンを視認したスラッガー01――F-15JのパイロットはDCに報告を上げながら、自身が見たものを受け入れられずにいた。白く、鳥を思わせる巨大な主翼を持つ姿はかつてのムー帝国が使った飛行爆弾、コードネーム“ピクシー”であったからだ。大昔にUAV(無人機)と種別変更されたという遺物と併走する中、スラッガー01は“ピクシー”に無線による通告をする。人の気配の無い物体に呼びかける、と言うのも滑稽な話であるが、余程の無法者でもない限りは無闇に攻撃をしないのが平時における軍人の役割でもあった。
そして、“ピクシー”はムー帝国が滅んだ後も度々その姿が確認されることがあった。それらはムー帝国が埋設した物が誤作動したものとされ、殆どが何もない海上を飛びそのまま墜落するのが常であった。スラッガー01も誤作動したものと認識し、とっとと変針して人気の無いところで落ちて欲しいと思いながら通告を行っていた。
しかし、
『スラッガー01!こちらスラッガー02!低空に無数の航空目標!』
警戒をしていた僚機――スラッガー02から無線が届く。咄嗟にレーダーのモードを切り替え低空捜索を行う。するとコックピットのMFD(多目的ディスプレイ)に無数の光点が現れる。その全てが隣の“ピクシー”と同じ250ノットで北上を続けていた。その進路の先には東京湾、つまり横須賀、横浜、そして東京と言う軍民の重要拠点がひしめいている。
「こちらスラッガー01!低空に“ピクシー”UAVが多数!領空内へ向け北上中!射撃許可を求む!」
多数の“ピクシー”が地上のレーダーサイトに映りにくい低空をを飛行する状況に、スラッガー01は誤作動じゃない事を悟り、先程までの自分を内心で殴りつけた。
まもなく、領空を超えた40機の“ピクシー”に対し射撃が許可され、増援のスクランブル機と共にこれらを次々と撃ち落としていった。しかし、その群れの全てを落とすには、その時間はあまりにも遅すぎ、そして領土からも近すぎたのであった……
22:30 横須賀港
かつての首都、東京の玄関口である東京湾を守る軍港として整備された横須賀は休日の為、数隻の軍艦が停泊をしていた。乗員も半舷上陸として普段の半分しかおらず、周囲の索敵を行う強力なレーダーも港湾内が狭くそして電磁波の悪影響が懸念される事から起動させず、見張りとして当直がいるだけであった。
普段と同じ日常を送る横須賀港へ、スクランブル機から逃れた4機の“ピクシー”が突入する。最初に狙われたのは吉倉桟橋に接岸していた三隻の駆逐艦の中央、“もりゆき”であった。市街地から風切り音と共に滑空してきた“ピクシー”は“もりゆき”の中央部に直撃した。“ピクシー”の爆発は煙突を吹き飛ばし、両隣の2隻を巻きこんだ大炎上を引き起こした。
“もりゆき”の爆発に周囲が気を取られる中、2機目の“ピクシー”が米海軍のイージス駆逐艦“ニューコム”の中央部に直撃した。“ニューコム”は2基ある煙突の内、後部の第2煙突をひしゃげさせ、爆発の衝撃で垂直式のミサイル発射機の側面が丸見えになった。
“もりゆき”と“ニューコム”の被弾、そしてそれと同じタイミングで航空防衛隊から領空侵犯機の報告が来たことにより、海上防衛隊と米海軍はこれが事故ではなく攻撃であること理解した。停泊していた各艦が押っ取り刀で対応をし始める中、浦賀水道内の第二
最後の1機は洋上で停泊していた海上防衛隊のミサイル駆逐艦“いそかぜ”に突入を仕掛けた。しかし、“いそかぜ”はその動きを察知し、高性能20mm機関砲による迎撃を始める。俗にCIWSと呼ばれるそれは作動すると同時に自動的に目標を補足し射撃を始める。毎分3000発という速度で放たれた無数の20mm機関砲弾は“ピクシー”の白い機体を貫き、オレンジ色の爆炎に変えた。
“いそかぜ”を照らした爆炎が消えた後、横須賀に沈黙が戻る。しかし、被弾した“もりゆき”と“ニューコム”は依然として燃え続け、それが決して幻でなかった事を示していた……