感情が動くままに書き始めましたので多少わかりにくいところがあると思われますが、お楽しみいただければ幸いです。
「それ」に出会ったときの感覚はとても不思議な感覚で、ただそこにいるだけでなにか特別なことをしているわけではない。なのに、「それ」が特別な空間を作り出しているような感じがした。少し癖があり、ふわふわした長い髪の毛、ややだぼついた制服、校舎裏のベンチで横になっているその姿はまるで…
(犬…)
大型犬の様だった。
俺の名前は天王寺 瑠和(るな)。虹ヶ咲学園二年生普通科の人間だ。妹である天王寺璃奈が今年一年生として虹ヶ咲に入ってきた。
そして今、俺の目の前にいるのは三年生の先輩だ。その先輩はベンチですやすやと眠っている。いうほど友達が多くない俺は、放課後にどこか落ち着ける場所はないかと校内をうろついていたところ、この現場に遭遇した。
「…んぅ?」
少しすると目の前の先輩が目を覚ました。
「!」
「…ん~?……………」
起き上がった先輩と目が合う。目があって約10秒、しばらく二人で見つめ合っていた。
「あぁ、ここ使う?」
俺がそこに座りたいと思ったのか、敷いていたクッションを退かす。別にそういうわけではなかったがせっかくの好意を無駄にするわけにもいかないと思った俺は隣に腰かけた。
「…どうも」
「あ、もうこんな時間かぁ~。じゃあ私はこれで~」
時計を確認した先輩は手をひらひらと振ってこの場を去っていった。
「ん?」
先輩が去ったベンチの隙間になにかが挟まってるのが見えた。引っ張り出してみるとそれは手帳だった。
◆◆◆◆◆
家に帰ると、家の鍵はすでに開いていた。妹の璃奈がもうかえってきているのだろう。
「ただいま…」
部屋に入り、ただいまと言っても返事はない。璃奈は基本部屋にずっといる。今もヘッドホンをしていて声が聞こえないのだろうと考え、俺は台所に向かった。
台所で夕飯の準備をしていると、璃奈が部屋から出てきた。
「おかえり、お兄ちゃん」
「ただいま。学校はどうだった?」
「……楽しかったよ」
「そうか…」
璃奈は表情を表に出すことが苦手だ。そのせいで友達もほぼいない。元々の性格に加え、小さい頃から親や俺と触れ合って表情を変えることが少なかったからだと思われる。
親はあまり家にいない。親に構ってもらえなかった反動からか俺はよく友達と外で遊んでいた。まだ小さい璃奈を家に一人にして。今ではもっと一緒にいるべきだったと思ったがもう遅い。せめて璃奈が楽を出来るように家事などはすべて俺がやっていた。
「…お兄ちゃん、これは?」
璃奈がテーブルの上に置いてある手帳に気づく。先輩が落としたものだ。俺が持つとは思えないような女の子用の手帳だ。気になったのだろう。
「ああ、学校で拾ったんだよ。明日落とし物として届けるさ」
「…」
璃奈はなんの気もなしに手帳を開く。そこにはドレスがデザインされていた。
「綺麗…」
「…」
―翌日―
俺は教室で手帳を眺めていた。そこに書かれたドレスには細かく設定というか作りの指示のようなものが書いてある。妄想で書いたのではなく、作ろうとして書いたというのが伝わってくる。
「あれ、何見てんの?」
そこに、クラスメイトの女子が現れた。彼女の名前は高咲侑。一見普通の女子高生だがたまにテンションが上がることのある少しばかり変わった子だ。
「わぁ!なにこれ可愛い!!天王寺君が書いたの!?」
見られたし食いつかれた。面倒くさい。
「なわけないだろ。拾っただけだ」
「そうなんだ!でもこれすごいよ!すごい可愛い!ときめいちゃうぅ~!」
「…」
変なスイッチが入った。すると俺の困惑を見かねたのか侑の幼馴染である歩夢が侑のところに来た。
「侑ちゃん、瑠和君困ってるよ」
「あ、ごめんごめん。でもそれどうするの?落とし物なら届けた方がいいんじゃ」
「ああ。そのつもり。でも、その前に…」
放課後、俺は再び校舎裏に来ていた。まだ手帳は落とし物として出していない。ここに来れば、もう一度彼女に会えると思っていた。
「あれぇ?君は昨日の………」
横から聞き覚えのある声がした。そちらを見ると昨日の先輩がそこにはいた。
「あ、どうも」
「今日はどうしたの~?」
眠たげな声だ。普段からこういう声なのだろうかと思う。
「実はこれを昨日拾って…ここに来たらまた会えるかなって」
手帳を手渡した。
「わぁ!ここに落としてたのかぁ~。ありがとうねぇ~。なにかお礼してあげたいところだけど…」
「そんな、大丈夫です」
手帳をすぐに落とし物として提出していればよかったのにそれをしなかった俺に礼をもらう権利はない。だから断った。
「そう?でも…」
「大丈夫です。お気になさらず」
「そっか………とりあえずありがとうね」
どうやらここには探し物に来ただけのようで先輩はそのままその場を去ろうとした。
「あ、ちょっと待ってください!」
「?」
「たまたま見ちゃったんですけど……あ、悪気はないんです!本当にたまたま……その、そこに描いてあった衣装…裁縫とか、そういう関連の部活とかに所属しているんですか?」
「え?ああ、見られちゃったのかぁ~ちょっと恥ずかしいなぁ」
そう言って彼女は少し頬を赤らめる。
「すいません…」
「いいよいいよ。いつかは日の目を見るものだし。少し恥ずかしいけどお礼代わりに答えてあげよう。彼方ちゃんは、今年からスクールアイドルを始めるので、ここに描いたのはそのステージ衣装なのです」
「スクール…アイドル?」
◆◆◆◆◆
「スクールアイドルとは、部活動としてアイドル活動をしている女子高校生のこと。芸能事務所に所属するメジャーアイドルや地下アイドル、自治体やその委託業者が主導するローカルアイドルとも違う…か」
家に帰った瑠和はさっそくスクールアイドルについて調べていた。そして、様々な動画を見て、その輝きに目を奪われ、胸をときめかせた。
「これが、スクールアイドル…」
「お兄ちゃん?」
そこに、璃奈が訪ねてきた。
「おお、璃奈。どうした?」
「お夕飯の時間…でも、台所いないから…。だいじょうぶ?体調とか悪いなら私がご飯、作ろうか?」
いつの間にかそんな時間になっていたようだ。瑠和は時間も忘れてスクールアイドルについて調べていたようだ。
「いや、大丈夫。ちょっと調べ事しててな」
瑠和はすぐに席を立って台所に向かった。そして食事の準備をしながらちらりと璃奈を見る。璃奈は居間でノートPCをいじっている。近くにスマートフォンもあるがそれには触れようとしない。
「璃奈、もしよかったらなんだけど…」
「?」
「………いや、何でもない。ごめんな」
「?」
璃奈にスクールアイドルを進めようとしたがやめた。璃奈がこんな性格になってしまったことに、瑠和は少なからず責任を感じていた。璃奈が友達と遊んだり、家に友達を連れてきた場面も見たことがない。
だから人とのつながりを持って明るく笑えるきっかけになればいいと思ったのだが、スクールアイドルをやるのは璃奈本人であり、結局は璃奈にすべてをゆだねてしまっている。それに、いろいろな面で璃奈は人前に立つのが向いてないと感じた。
(綺麗…)
だが、瑠和はああいうものに興味を持つ璃奈をこれまで見たことがなかった。
(そうだ、まだ直接勧める前にやるべきことがある)
「璃奈は、さっきの手帳に描いてあった服、好きか?」
「………好きといえば好き」
なぜそんなことを聞くのかというような疑問は持ちつつも璃奈は答えた。
「着てみたいか」
「…着たい。でも、きっと私には似合わない」
「え?」
「私は表情が表に出ないから……私なんかが着たら、ドレスに失礼」
これまでの失敗があったせいか璃奈は自己評価も低い。傷つくことを恐れて前に出ることを恐れているんだと瑠和は思った。
「…っ!そんなことはない!璃奈は充分…いや、銀河一可愛いんだ!きっと似合う!」
「…」
必死に肯定するが璃奈は乗り気では無さそうだった。だが瑠和の中でひとつだけはっきりする。璃奈は少なくとも可愛い衣装が好きなんだと。それによりあと確認するべきことも明確になった。
―翌日―
「ふぁ~…」
近江彼方はその日、いつも以上に眠そうにしていた。これまで夜のアルバイトや勉強、家事等でただでさえ眠かった彼女は最近始めたスクールアイドル活動でより睡眠時間を削っていた。彼女のポテンシャルであればいずれ慣れ、そしてそれらの総合的な妥協点を見つけてうまくやっていくだろうがまだそれが見えてない時期だった。
その時だった。彼方は階段を下りようとしたとき足を躓かせる。
(あ、マズっ…)
そのまま転べばそれなりの怪我は避けられないのが簡単に予想できた。しかしそれが分かったからと言ってどうこうできる状況ではなかった。
そんなとき、彼女の腕を誰かがつかんだ。
「危ないっ…!」
掴んだのは偶然その場に居合わせた瑠和だった。しかし、瑠和も勢いに引っ張られてそのまま一緒に落ちかける。
「っ!」
そこにさらに誰かが瑠和の手をつかんだ。
「大丈夫ですか!?」
長い黒髪の少女だった。その後、先頭の彼方がバランスを取り戻したことにより下に落ちる勢いは止まり、三人とも階段の上へ戻る。
「いやぁ~助かったよぉ。ありがとうねぇせつ菜ちゃん……」
「ご無事でよかったです…」
「それから…あ、この間の」
「ども…」
「あなたは、普通科二年の天王寺瑠和さんですか?」
「え、はい…」
初対面のはずの生徒にいきなり名前を言い当てられ、瑠和は少し驚いた。
「あなたはどこの部活にも所属してなかった気がいたしましたが、どうして部活棟に?」
―虹ヶ咲スクールアイドル同好会部室―
「じゃあ、スクールアイドルを知りたくて態々部室まで?」
特に部活に所属していない瑠和が部活棟に来たのはこの学校のスクールアイドルについてさらに深く知るためだった。
「では、瑠和さんはスクールアイドルになりたい……ということですか?」
ちょっと引かれた様子で聞かれる。男のスクールアイドルは存在しないからだ。
「いや、俺は別に…ただ、妹が少し社交性というかコミュニケーション下手で……おせっかいだっていうのはわかってるが、でも将来のこととかも考えると人前や誰かと関わることに慣れておくべきだって思ったんだ。それで、ここがどんな感じか見に来た…………のかな」
スクールアイドル同好会の内情把握、そして把握したうえで璃奈がスクールアイドルをやるとき、瑠和に手伝えることがあるかどうかの確認だ。
「そうですか。妹想いなんですね」
その逆だ、そう言いたかったが瑠和は口を紡いだ。
「ですが、いきなり人前にでるスクールアイドルっていうのは少し難しいのでは?」
「そんな急じゃなくていい。まずは友達作りとかそんなところからって思ったんだ。それに、璃奈は機械に強いからPV作りとかステージ設営とか、裏方で役に立つと思う」
「彼方ちゃんわかるよぉ。妹はいくつになってもかわいいからねぇ。気にかけちゃうよねぇ」
彼方が微笑みかける。その笑顔から瑠和は目を反らす。
「そんなんじゃない…」
そして、小さくつぶやいた。
「ん?」
「いや、まぁそんな感じで、ここがどんな空気か確認に来ただけなんだ」
「そうですか。わかりました。私たちもまだ始めたばかりでそこまで方向性が決まってるわけじゃありませんが、お好きなだけ見てください!」
「ああ。ありがとう」
「…」
それから、続々と部員がやってきた。一年生の中須かすみ、桜坂しずく、三年生のエマ・ヴェルデ。そして優木せつ菜と近江彼方が現在の虹ヶ咲スクールアイドル同好会のメンバーらしい。事情を聴いたメンバーは快く瑠和を迎え入れてくれた。
「それでは今日はいつも通りの練習メニューをやるのと、現在までで決まっている歌詞の更新と振り付け練習を行います」
同好会の部長兼リーダーはどうやらせつ菜らしく、二年生ながらもカリスマ性を持っていた。
(別に引き継いだわけでない現役の三年生もいる部活で二年生がしっかりとリーダーをやっている…これを見れば璃奈も少しは自分に自信が持てるかな…)
「では軽い準備運動を終えたらさっそく学校周りのランニングからです!あ、瑠和さんは西棟の屋上で待っててください。ランニングの最終到達地点はそこなので」
「ん、ああ」
五人はそのままランニングに行ってしまった。一人取り残された瑠和は少し部室の中を見た。まだ始まったばかりの部活だ。唯一資料らしきものがまとめられているブックスタンド以外は特に何もない。
「…」
スタンドに入っているノートに気が付き、軽く開いてみる。
「これは………これが…」
―西棟屋上―
「はぁぁぁぁ!」
ランニングを終えた五人が西棟屋上に来た。結構走ったのかかなり息が荒く、大体皆座り込んでいる。
「慣れるまではまだ時間がかかりそうですね…」
「そうですね」
そこまで疲れていないのはせつ菜としずくだけだった。せつ菜は万能であり、しずくは演劇部で鍛えていて体力には自信があった。
「これ…いりますか?」
「へ?」
彼方に水の入ったペットボトルが差し出される。差し出したのは瑠和だった。
「あ、ありがとぉ~」
「皆さんもよろしかったら」
彼方以外にも水を差しだす。
「あ、ありがとうございます。すいません、いま代金を…」
「いやいいです。見学させてもらってる礼代わりになればって思っただけなんで」
「ぷは、いやぁ~気が利くねぇ~」
「皆さん水筒とか持っていなかったので…春とはいえ水分補給は大事ですよ」
「そういえば、水筒の準備を怠っていたかもしれません…まだ始めたばかりとは言え、ぬかっていました…」
「よく見てますね。昔何かしてたんですか?」
しずくに尋ねられた。
「ああ、中学時代にサッカーをちょっと…」
「そうなんですか、高校になってからはやられていないんですか?」
「………まぁちょっといろいろあって」
サッカーをやっていたのは家から目をそらすためでしかない。高校に入り、いろいろあって妹のためにいろいろやるようになったのは最近の話だ。
「では、次は…」
それから、彼女たちは曲の振付と歌詞の模索をしていた。しかし、瑠和はその中でその部室内にあるわだかまりというか、どこかまとまり切れてない空気をわずかながら感じていた。
(そりゃ、全員が全員同じ方向向くことなんて難しいだろうけど………)
軽い休憩時間に瑠和は休んでいるせつ菜のところに来た。
「ちょっといいか」
「はい?」
「ちょっと聞きたいことがあってな…スクールアイドル同好会ってなにするんだ?」
彼女たちが今目指している目標を聞いた。これから璃奈を連れてくる場所にしたいとは思っているが目標が分からなければ元も子もない。それに学校でアイドルをやるのはいいのだがそれで何をしたいのかが難しかったのだ。
「それはもちろん!ラブライブ優勝です!」
せつ菜は急に瞳を輝かして言った。
「ラブライブ?」
「スクールアイドルの大会です。全国から五千を超えるスクールアイドルが集まり、ナンバーワンのスクールアイドルを決定するスクールアイドルの甲子園!それがラブライブです!」
「そりゃたいそうな目標だな」
今のままでそれができるのかという若干の不安は口にすることなく、瑠和は適当に対応した。
「ですが、それ以上に自分の想いをファンに届け、自分の大好きを表現するのがスクールアイドルの本懐だと考えています」
「大好き?」
「はい。自分の大好きをみんなに伝えたい…思いを繋げたい……どのスクールアイドルも、この気持ちは一緒だと、私は考えています」
「へぇ………歌とかはどうしてるんだ?」
「歌詞や曲は自分たちで作ります。普通のアイドルの方々の曲を使う人もいますが、ラブライブはオリジナルのみなんです」
「そうか…」
曲の編集なんかは璃奈が得意そうだなと瑠和は思った。そして、普段の練習に加え、曲作りや振付まで自分たちでやらなければならいことを聞き、それはそれで瑠和がサポートできる部分は多そうに思えた。
(ダンスの得意な知り合いはいる、編曲も…これなら…)
璃奈を一人家に残し、友人と遊んでいた瑠和だがそれ故か顔は広かった。それを利用し、サポートに回ることができると考えたのだ。
それから、しばらく活動を続けて夕方に解散となった。瑠和は帰り際にせつ菜に尋ねられる。
「いかがでしたか?スクールアイドル同好会は。参考になったでしょうか?」
「まぁ、大体わかった。でも少し考えてから妹に進めてみるよ」
「そうですか。では妹さんによろしくお伝えください」
「ありがとう」
そして帰り道、瑠和はたまたまタイミングが重なって彼方と一緒に少し歩いた。話す話題が見つからず少し焦った瑠和だったがさっきせつ菜と話したことを思い出す。
「彼方さん」
「?」
「彼方さんもラブライブを目指してるんですか?」
せつ菜はともかく彼方はどうなのだろうと思ったのだ。
「ん~、彼方ちゃんは別にそうでもないなぁ。彼方ちゃんは、ただ単にスクールアイドルが好きだから始めただけで。もちろん、みんながそこを目指すっていうなら一緒にやりたいなとも思ってるし協力もするよ」
「そうでしたか…」
続く